教祖様爆発!

    作者:霧柄頼道

     町外れに佇む、うち捨てられた廃教会。
     壁の塗装もはがれ落ち、ところどころ崩れたがれきの積み重なる教会内には、複数の人間が静かに立ち尽くし、角の欠けた教壇へ視線を注いでいた。
     彼らの見つめる先には一人の少女の姿がある。
     闇に堕ち、黒魔道師服に身を包んだソロモンの悪魔――船勝宮・静と名乗る教祖は、もの思いにふけるように教壇へ置かれた書き置きを眺めていた。
    「ほんと、何、この『教祖様爆発』……って」
     どうやら以前所属していた組織の合言葉らしきものなのだろうが、いくらその意味を考えてもわけがわからない。
    「ま、いいわ……とにかく爆発させればいいって事よね」
     肩をすくめ、赤と黒の教団服を揺らして振り返った。
     静の目前には爆発を生業とする教えの元に、灼滅者の目を盗んでひそかにかき集めた強化一般人達が雁首をそろえている。
     これだけの兵力が整えば、いよいよ灼滅者と事を構える時分。
     後々にイフリート勢力と接触するためにも、ここで力を示しておく必要がある。静はそう考え、信者達へと号令をかけた。
    「時は来ました。今こそ完堕ちサバトを実行に移します」
     腕を伸ばして宣言した矢先、ちらりと視界の隅で何かが動く。
     教壇の傍らにぽつんと置かれたそれは頑丈に閉ざされた鋼鉄の檻。中にはかつての人格の相棒、烈光さんがうずくまっている。
    「……せいぜい役に立ってもらうわ」
     静の冷たい目線になで回された烈光さんはがくぶると怯えきり、顔を伏せてしまうのだった。
    「さあ、始めましょうか。私達の教義を今一度、唱えましょう」
     信者達とともに発する、その言葉。
     そう――教祖様爆発、と。
     
    「南アルプスの戦いで闇堕ちした船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)から果たし状が届いたぜ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が、なんとも言えない表情で灼滅者達に一枚の紙切れを見せる。
    「内容は潜伏場所の位置と、なんでか『教祖様爆発』の一文が添えられてる。意味はよく分からんが居所が判明したのなら放ってはおけねぇな」
     闇堕ちし、今は船勝宮・静として放置された教会で強化一般人達と待ち受けているのだ。放っておけば完堕ちサバトなるものを行い、二度と救う事ができなくなってしまうだろう。「時刻は逢魔が時の夕暮れ。静はこっちに気取られないよう身を潜めていたから、近くに一般人はいない。静と信者どものみに注力して問題ないだろう」
     ダークネスとなった静は以前のぽやぽや口調から一転してやや高飛車、人を見下す女王様気質へと変貌している。
    「だがその本質は冷徹であり狡猾。策謀に長け、必勝の戦略を綿密に練るようだ。一見しての性格は相手の反応を観察し心の隙を伺い、突くための行為の一環だぜ。ソロモンの悪魔らしい話術に惑わされ、ペースを乱されないようにな」
     挑戦状を叩きつけて正面対決を望むような真似をしておきながら、実際の戦場では当然の如く無数の罠を張り巡らせている事だろう。油断ならない相手である。
    「まぁ、その割に亜綾最期の言葉「教祖様爆発」を具現化しようとする義理堅い一面もあるようだな。言葉巧みにこの世に不満を持つ一般人を強化し傘下に引き入れ、リア充を爆発させる宗派を創設してるのがその証拠だ。頭が良いんだか悪いんだか分からねぇな」
     静は大の犬嫌いで、霊犬の烈光さんを鋼鉄の檻に入れて隔離している。しかも、亜綾の意識等を封じ込める媒体として利用されているらしい。
     そのせいか烈光さん自身は奇跡的に闇堕ちしていないものの、静とはいまだ主従関係にあるので、抵抗はあるが静の指示には逆らえないだろう。
    「つまり、亜綾さん救出のカギは烈光さんが握っていると言っても過言じゃないわけですね」
     月曇・菊千代(高校生神薙使い・dn0192)の呟きに、ヤマトも頷く。
    「だな。もちろん静への説得も有効だが、烈光さんが消滅すればその時点で完堕ちしちまう」
     その上、静は最終的に烈光さんを爆弾と称してこちらへ投げつけ、双方を消滅させながら自らの完堕ちも完了させるという作戦すらも用意しているようだ。
     逆に、どうにかして烈光さんを助け出し静にぶつけてやれば意識のフィードバックが起き、救出へ向けて大きく前進できるかもしれない。
    「烈光さんの檻の鍵は静が持ってるだろうが、直接ぶっ壊した方が早いかもな。静の使用サイキックはルーツに属した魔法、魔導書系……特に氷、炎系を好んで使うようだぜ」
     更に予言者の瞳にて各自の行動を予測、信者を連携させた組織的攻撃も多用する。
     自軍が敗れるとは考えてはいず、されどいざとなれば烈光さんを撃ち抜いた上に信者を盾に逃走する可能性もある。そうなったが最後、亜綾の救出は絶望的であろう。
     また密かにイフリート勢と接触する機会を伺い、大悪魔復活の儀式に信者のみならずガイオウガの力をも利用しようと画策しているという。
    「逃亡を許し、完全なる闇へと堕ちてしまえばさらなる被害が拡大する事は確定だ。そうなればもはや、お前達の手で灼滅を――始末をつけなければならねぇ」
     そうした覚悟を胸に、灼滅者達はヤマトに見送られて歩き出すのだった。


    参加者
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167)
    小沢・真理(ソウルボードガール・d11301)
    雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)
    天城・理緒(黄金補正・d13652)
    九条・御調(宝石のように煌く奇跡・d20996)
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)

    ■リプレイ


     斜光差す廃教会。邪教の徒らが集う固く閉ざされた建物の門扉が、一気に開け放たれた。
    「亜綾殿、迎えに来たぞ!」
     薄明かりを背負うように立つのはワルゼー・マシュヴァンテ(松芝悪子は夢を見ている・d11167)と、ビハインドのなつくんを伴った天城・理緒(黄金補正・d13652)。
     教壇の前で待ち受けていた赤黒い装束の教祖――船勝宮・静が、見下したような流し目を送る。
    「その割にはずいぶんと人数が少ないですね。恐怖にかられて逃げ出しでもしたのかしら」
     そうではない。後続の仲間のため、二人は先んじて罠の解除に名乗り出たのだ。
     慎重に目を配りながら歩を進めると、床に何やら奇妙な出っ張りがあった。
    「カモフラージュされていますが、これは……」
    「トラップか、くらえィ神薙刃!」
     すかさずワルゼーが強烈な風の刃を浴びせる。斬り裂かれて巻き上がったのはロープ。
     迂闊に進んでいれば足を取られ、無防備な状態をさらしてしまっただろう。
    「どうやらただの無策ではないようね……」
     そう漏らした静が大仰に腕を振ると、壁際やがれきの後ろから一斉に信者達が現れたではないか。
    「伏兵……下手に全員で乗り込んでいたら危険でしたね」
    「こちらも本隊を呼ぼうぞ」
     連絡を受け、正面口から雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)達残りのメンバーが突入。
    「さてさて、まぁまぁやっと尻尾を出してくれましたねぇ。教祖様爆発の真の意味を教えて、ダークネスさんには眠っていただきましょうか」
    「敵は私達を包囲する陣形……静は教壇側から動いてない。烈光さんも近くにいるわ」
     予言者の瞳を用い、ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)がSNSで仲間達に情報を通達。
    「船勝宮さん、必ずみんなで連れて帰るよ!」
     赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)が、襲い来る信者へレイザースラストを撃ち込みながら静と目を合わせる。
    「船勝宮さんとはもうずっとチームメイトやってきたし、いないと寂しいからね。あとれっこーさんも!」
    「何か思い違いをしていますね。今の私はただ、教祖様爆発を探求し、具現する者」
    「教祖様爆発……なぜ、そんなに悩むのです!」
     肩をすくめる静へ、罠がないか注視を続けながら菖蒲が声を響かせる。
    「貴女の奥底に眠り、身体に染み付いた教祖様爆発……いまから思い出させてあげます」
     対価は亜綾さんで如何ですかぁ? 微笑んだ菖蒲が思い切り信者達めがけ巨杭を打ち込み、超振動を引き起こす。
    「亜綾ちゃん、烈光さん、迎えにきたよ」
     闇纏いで電子機器を利用した罠に対抗しつつ、小沢・真理(ソウルボードガール・d11301)が弓を構える。
    「私は宇宙部四天王、爆発プリンセスの真理。……静、亜綾ちゃんと烈光さんは返してもらうんだからね!」
     そうして放たれた矢が彗星の軌跡を描き、静を穿つ。
     教祖を守ろうと武器をかざす信者達へは、ライドキャリバーのヘル君が機銃を掃射。真理へ寄せ付けない。
    「亜綾ちゃん……」
     教団の白き衣装に身を包んだ九条・御調(宝石のように煌く奇跡・d20996)が、澄んだ瞳で静を見据える。
    「私が堕ちた時に、迎えに来てくれたわよね……だから、来たわ」
    「あなた達の求める人格は戻りません……この霊犬と運命を共にしてもらいます」
     烈光さんの檻を示し、冷たく口の端を歪める静。
     その嘲笑へ狙い定め、御調が特大オーラキャノンを叩き込んだ。
    「――亜綾ちゃんに戻って貰いたいのは私たちの都合。あなたの、ダークネスの予定は関係ないのよ!」


    「ソロモンの悪魔は頭がいいのか悪いのかよくわかりませんよね」
     眼を細める静を、予言者の瞳を使った牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)が眼鏡越しに見返す。
    「いえ、こう、教義の方向性が……私も眼鏡教だったりしましたし。そもそも教祖様爆発の意味って何ですか……?」
    「それは……」
    「説明しよう!」
     華麗な槍裁きで信者を打ち払ったワルゼーが、言い淀む静に代わって朗々と応じる。
    「教祖様爆発とは! 何故か我を爆発することで願いが叶うという、祈りの言葉である! 思い出せ亜綾殿、教祖様爆発という言葉の、本当の意味を!」
     諦めないで下さい、と理緖も応戦しながら懸命に叫ぶ。
    「人生を謳歌せよ。また教団の皆で教祖様爆発と唱える日々に戻りましょう!」
    「こんだけ多くの人が来てくれたんだ。いつまでも寝てるんじゃねーよ」
     その叫びをより深く、亜綾の心にまで伝わせるようにファルケがギターをかき鳴らす。
    「起きるまでエンドレスで聴かせてやるぜ、俺の必殺目覚ましソングってやつを!」
     ただし、死ぬほど音痴である。
    「うっ……うるさいわね、この歌声!」
     たまらず耳をふさぐ静が、苛立って杖を振り上げる。
     大気を凍てつかせる冷気があふれ、灼滅者達へ押し寄せた。けれどなつくん、ビハインドの知識の鎧が身を挺して抑え込む。
    「罠の先の隠れた罠が本命、ならば貴方達と粗方のフェイクごと衝撃で吹き飛ばしますよ」
     吹雪の嵐を冷静にウロボロスシールドで耐え抜き、バベルブレイカーを構え直す菖蒲。
    「この知恵比べ……絶対に勝ってみせる。散々私に代行を押付けた借り、きっちり返してもらうわ」
     宣言通りヴィントミューレは信者達を引きつけ、怪しい箇所ごとバスタービームで薙ぎ払って見せた。
    「船勝宮さんそろそろ祈りの言葉が言えない禁断症状が出てるんじゃないかな」
     静と烈光さんの双方へ届くように緋色が語りかける。
    「それに祈りの場はこんな教会じゃなくて武蔵野市の郊外で鮫っぽい銅像があるところだから……早く戻って補給しないと、ね」
     なので信者の人達にはどいてもらおう。飛び交う魔法の光をすいすいと身軽に回避し、壁を蹴って飛び上がりながら眼下の敵へ妖冷弾を次々と見舞っていく。
    「何を教祖様爆発とするかは私が決めます。あなた達の干渉は必要ありませんね」
    「それは違うわ! 部長の希紗ちゃんやみんなで真の爆発っていうのを教えてあげる」
     真理の射出した光線と静のマジックミサイルが中空でかち合い、瞬いて対消滅する。
    「さあ、一緒に帰りましょ? 食卓を囲む顔が足りないのは寂しいの」
     御調は後方から全体を見渡し、蓄積する仲間のダメージを清めの風で癒す。
    「亜綾ちゃんのためにクッキーを作って来たから、一緒に食べましょう?」
     吹き抜ける癒しの風の中、共に帰ろうと訴えかける。
    「教祖様がどんな愉快な人かは分かりました。その人や仲間達も亜綾さんを迎えに来てるんですよ。帰ってきてあげて下さい」
     みんとも落ち着いて声をかけた。まさにその教祖様が「ぬおおー!」と信者達に吹っ飛ばされているが気にしない。
     互いに練りに練った隙のない布陣、戦術。罠の脅威もあるが灼滅者達は連携し、信者を確実に撃破していった。
    「隊列を立て直しなさい。態勢を整えるのです」
     指揮を執る静だが、ポーカーフェイスが僅かに険しくなっているのを月曇・菊千代(高校生神薙使い・dn0192)は見逃さない。
    「チャンスです、教祖様!」
    「うむ、いざ教祖様爆発!」
    「今こそこの言葉の意味を教えてあげるわ、教祖様爆発よ」
     タイミングを合わせ、灼滅者達は秘策発動の合言葉を続々唱えたのである。


    「一体何のつもり……」
     投げつけられた煙玉を余裕で撃ち落とした静だが、直後に顔色が変わった。
     教会内へ突然、多数の犬がなだれ込んできたのである。
     正しくは、烈光さん風の変装をした上で犬変身した灼滅者達。
     ゆうに十は超えるだろう数の犬が現れ、突撃を敢行。統率された動きで信者達の足下をかいくぐり混乱を起こしているのだ。
     さらには静へまでも遠慮なく殺到し、うろちょろしたり顔面へ飛びついたりとやりたい放題である。
     中には七波扮するニホンオオカミも紛れ込んでいたが、そこら中犬と吠え声でびびってる静には気づかれてはいない。ちょっとでかい烈光さんみたいな感じである。
    「ちょ、やめ、やめなさい!」
     犬嫌いの静にとってはたまったものではない。髪を振り乱し、ろくに狙いをつけず周りを爆破し始める。
    「今だよ、れっこーさんを!」
    「作戦の邪魔はさせませんよ?」
     静を援護に向かおうとする信者達を緋色が薙ぎ倒し、菖蒲も前に出て攻撃を受け止めていく。
     隙は十分に作られた。すでに箒へまたがっていたヴィントミューレが飛び立つ。
    「烈光さん、今助けるわ!」
     上空からぐるりと旋回し、静の斜め上から一息に滑空。
     ロープ付きフックを垂らし、烈光さんの閉じ込められた檻を一発で吊り上げてのけた。
     まとわりつく犬達を振り払い、静が慌てて檻のあった場所を覗き込むものの、代わりに置かれた等身大烈光さん人形の不敵な糸目が見つめてくるだけである。
     その頃には援軍の灼滅者達も変身を解き、役目を果たすべく各所へと散っていた。
    「全然姿を見せないと思ったらこんなところに引きこもっていたとはな」
     傷ついた仲間を回復し、明日香が鋭い視線を静へと送る。
    「お前は『教祖様爆発!』の意味を勘違いしているぞ! だからこそ、その布教の役目は亜綾に返上してもらう」
    「まぁ色々と間違ってるけど、闇堕ちしても布教を続けていたとは亜綾さんはホント教団幹部の鑑ですわ」
     同じく味方を支援していたジュラルも、にやりと静に笑いかけた。
    「なんつーか、そんな君にかける説得の言葉なんて一つしかない――そう、教祖様爆発」
    「先輩が居ないと私としては寂しいし教団の皆も一緒だ。先輩がいなくなって悲しい顔をする皆なんて見たくないし其れは先輩だってそうだろ? ……教団の人達は笑ってないと、さ?」
     烈光さんに似せる為のコスチュームをつけたまま、窓前に立つヴァーリが頷きかける。
    「教祖様爆発……教団で最も言っていたのが亜綾さんでしたわね。ふふ、先日の戦争では情報局がこの言葉で埋まりましたよ」
     鶉も逃走経路をふさぐ位置取りをしながら、ゆっくりと思い起こすように口を開く。
    「亜綾さんがいて、ワルゼーさんを弄ってくれている教団がやはり一番楽しいのです。悲劇は私達には似合わない、そうでしょう?」
     かと思えばルイセが、戦線の一助に徹しながらも静へ発破をかけた。
    「去年、雑伎団で「堕ちたがる人の思考は私には理解しがたいのですぅ」と言ってたのは嘘なのかな? 悔しいなら……戻ってきてみるんだね!」
     眉をひそめる静に、油断なく罠の探索を続行しながら銀静がささやきかける。
     心の内まで響くように静かに、重く。
    「どうしました? 正々堂々来たなら最後まで正々堂々と往くといいですよ。……若しかして貴方……「弱ってる」んですか?」
     静の爆破魔法が乱れ飛ぶ。衝撃で崩れた壁が崩落し、御調を下敷きにしようと降り注ぐ。
     あわやという間隙にユーリーが割って入り、突き飛ばす事で助けて見せたのである。
    「私が行えるのはここまで。後は御調や教祖殿、皆さんの言葉を彼女に届けるのみ。……武運を祈る」
     ふっ、と笑みを覗かせてがれきの中に消えるユーリー。別に無事である。
    「船勝宮さんは、一緒の依頼に行った時に闇落ちさせちゃったから俺も責任を感じてるんだ」
     久良が真摯に言う。だからこそできる事は精一杯やりたい。クラブの仲間達と協力し、積極的に静の退路を断つよう動く。
    「心配するな。必ず助かる。その為にみんないるんだ」
     流希も言葉少なに告げ、いまだ点在する罠の解除に取り組んだ。
     直接の知り合いではなくても、悲しむ人がいるなら全力を尽くしたいから。


    「空へ逃げたって……落としてしまえば問題ないわ」
     静が箒を取りだし、急上昇。ヴィントミューレを撃墜すべく照準をつける。
    「ヴィントミューレさん、狙われています、避けて!」
     警告を発したのは制空権を任された紗里亜だ。
     上空から戦況を伝達する役割を担っていたが、猛スピードで飛行する静には声をかけるのが限界。
    「亜綾さんと烈光さんには色々お世話になりっぱなしで……こんな時くらい助けになりたいです。帰って来て下さい!」
     かすかにぐらつく静。でも止まらず、容赦ない魔力光線が発射される。
    「爆発といえばリア充ですよ」
     みんとのマイペースな声がした。
    「そしてそれは妬みも籠っていますが、幸せを祈る言葉です。教祖様に幸あれ? さあ静さん、実際の所はどうなのですか」
    「なっ……」
     寸前で現れた知識の鎧が攻撃を防ぎ、空飛ぶ箒で追いついたみんとが轟雷を呼び起こして静を打ち据えたのだ。
    「あ、それと紗里亜さん、さっき天井に大量の爆薬が仕掛けられているのを見つけたので警戒の呼びかけをお願いできますか」
     さらりと静の最大トラップも見破っていたりする。
     一方、床にべちゃっと落下する静。
     けれども即座に身を起こし、地上からフリージングデスを見舞う。
    「おっと、盾としての仕事はこなさせてもらうぜ」
    「……攻撃は……通さない……」
     刹那、機会を窺っていた空と椿が飛び出し、揃って氷結魔法を食い止めて見せた。
    「烈光さんに彼女自身の意識が残ってるなんて信じられないですけれど……それも愛のなせるわざかもしれませんね」
     えりなが天使の声で歌い上げる。亜綾の愛を受けているだろう烈光さんを守り、癒すために。
     そして自分自身も、亜綾への恩返しをする思いを込めて。
    「言葉はきっと届いているから……もう一踏ん張りです!」
     転々、刻々と変わる戦況。御調は最良のタイミングでヒールを使い、サポートの仲間達と力を合わせて前線を支えている。
     静は後退を始めていた。教壇を押し、前方へずらす。
     その下からはなんと隠し階段が出現。地下通路を通って逃亡しようというのである。
    「逃がしませんよ!」
     そうはさせじと理緖が静の元までたどり着く。階段を駆け上がる蹴速をつけ、炎を纏った蹴りを繰り出した。
    「くっ……」
     その蹴撃は静のゲシュタルトバスターをぶち抜いてしたたかに退かせ、睨み合う両者。
    「烈光さんを置いたまま逃げる気ですか?」
    「背に腹は代えられませんので」
     理緖が踏み込もうとすると、生き残った二人の信者が切迫して来る。
     なつくんが攻撃をガードしてくれたが、これでは静に集中できない。
    「てーい!」
     その矢先、死角から伸びた帯が信者を貫く。壇上へ飛び移った緋色が、びしっと静を指差した。
    「戻る場所があって、待っている人がいて……! でもそれはダークネスじゃなくて亜綾さんの方。絶対連れて帰るからあきらめないで頑張って!」
     ですねぇ、とこれまたのんびりした声音とともにもう一人の信者をご当地ビームで消し飛ばし、反対側から菖蒲が距離を詰めていく。
    「さてさて、次はどんな策略を見せてくれるのでしょうかぁ?」
    「爆発、それはロケットのように真っ直ぐに突き抜ける想いが一緒じゃなきゃ本物じゃないんだよ!」
     ヘル君と一緒に突進し、光線をぶっ放す真理。
    「亜綾ちゃん思い出して、爆発させるくらいの想いを!」
    「早く帰って来なさい! どれだけ心配したと……っ」
     同時、希紗がペットボトルロケットを発射して。
    『これが私達の爆発だよ!』
     二人の声が重なり、見事な弧を描いたロケットは花火のように爆散していった。
     気を取られ、静の注意が逸れる。
     瞬間、ヴィントミューレは檻から取り出した烈光さんをふん掴み急降下。
    「これは貴方の十八番ね。必殺、烈光さんミサイル、ナックルインパクトよっ」
     握り込んだ烈光さんごと、これでもかと満身の勢いで静の鼻っ柱へ叩き込む。
    「ぉぶっ!?」
     静が傾ぎ、顔を手で覆いうめく。恐らく烈光さんを通じてフィードバックした亜綾としての意識が覚醒しようとしているのだろう。
     教祖様、と構えを取るヴィントミューレと、その声に応えるワルゼー。
     ワルゼーは教祖である。「教祖様爆発」が何故亜綾の教義に至ってしまったのか、彼女ですら知らない。
     だがそんな事はどうでもいい。
     今は仲間として、共に活動してきた亜綾を取り戻すのみ。
    「思い出せ亜綾殿、烈光さんと過ごした日々、思い出! それを全て無にするというのか!」
    「今こそ裁きの時、あなたの心が善か悪かきっちり白黒つけるといいわ……! 受けなさい、これがあなたに対する洗礼の光よっ」
     輝ける裁きの光条と教祖の魔弾が尾を引いて静の胸へと命中し、弾ける。
     静はがくりと膝を突き、顔にくっついていた烈光さんがはがれ落ちたのだった。

     と、うなだれていた少女から、寝息らしきものが聞こえて来る。
    「……ふに……後四十八時間……」
     寝てる!?
     衝撃を受ける一同。
     するとまぶたを開け、ぼんやりした眼差しで見上げて来たものである。
    「皆さん、おそろいで……あれ、烈光さんも」
     なんかもうぐったりしている烈光さんを抱き上げる亜綾。何事もなかったみたいな姿に安心し、緋色や真理も良かった、と抱きついた。
    「お腹すいたでしょう? 早く教団に帰って、美味しいご馳走一杯作りますからね♪」
    「あ、これは生き返りますぅ」
     御調にクッキーを渡され、はむはむとかじる。
    「さぁ戻るぞ亜綾殿。教団だけじゃない、宇宙部、星空芸能館……幾多の組織を越えて本当にたくさんの人々がそなたの帰りを待ちわびておるのだ」
     ワルゼーが手を伸ばす。亜綾は薄く笑んだ。
    「そうですねぇ……助けてくれた事、何度も呼びかけてくれた事……皆さんにお礼を言わないとです」
     そう、自分達をつなぐ、魔法の言葉。
    「教祖様爆発、ですぅ」

    作者:霧柄頼道 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 8
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