夕陽の決闘! ナマハゲとアマハゲ

    ●とある日本海北部の海岸にて
    「おめーなんぞ全国的には全く知られてねえべ!」
    「何を言う、オレだって重要無形文化財だし、最近は体験コースが人気だした!」
     短い海水浴シーンを迎えた山形と秋田の県境付近の海岸で、2人の鬼が赤々と夕陽を浴びて戦っている。
     2人共鬼の面と簑をまとっているが、その造作は微妙に違う……そう、何を隠そうこの2人『男鹿ナマハゲ怪人』と『遊佐アマハゲ怪人』なのだ。

     秋田の男鹿半島のナマハゲは大晦日の行事として有名であるが、実は同様の、鬼神が山から下りてきて怠け者を諫める風習は、東北から北陸の日本海側を中心に幾つもの土地で行われている。
     これらの風習のルーツは全て同一と考えられている。冬だからとぐだぐだと囲炉裏に当たってばかりいるような怠け者には低温火傷ができ、その痕をナモミといいう。そのナモミをひっぺがしてこらしめる鬼=ナモミハギが元々の意味であり、それが訛りながら広域に伝わったようだ。
     アマハゲもそのひとつであり、山形県庄内地方・遊佐の小正月の行事である。

     ルーツを同じくする鬼たちの戦いは激しさを増していく。
    「くらえ、寒風山ダイナミックウウウ!」
    「オレの方が標高が高いぞ、鳥海山ダイナミックー!」
    「いでっ、くっそう、ならば石焼きビームだ!」
    「あぢぢぢっ、ならこっちは口細カレイビーム!」
     激しくもローカルな戦いが続き……ついに砂浜に膝をついたのは、遊佐アマハゲ怪人の方だった。
    「ま……負けた……やっぱり全国区の知名度には敵わねんだべか……」
     倒れたアマハゲ怪人の肩を、ナマハゲ怪人が優しく抱きしめた。勝ったナマハゲも、激しい戦いに傷だらけである。
    「オレは確かに有名だ。んだども、あくまでオレたちのルーツはひとつだ」
    「んだ……んだな……」
     アマハゲ怪人は、ナマハゲ怪人に吸収されるようにして消えていこうとしている。
    「ナマハゲよ、オレのご当地パワーを使ってけろ……そして全国に羽ばたく怪人に……」
    「おうよ、アマハゲ、任せてけれ。お前の力、しっかり使わせてもらうだ!」
     ――こうして『日本海ナァマハゲ怪人』が誕生したのであった。

    ●武蔵坂学園
     サイキック・リベレイターの影響で、ガイオウガの力が高まり、各方面ややこしい事態になっているというあたりは、もう説明不要であろう。
     その影響はご当地怪人にも現れている。
     潜伏中のご当地幹部・アフリカンパンサーは、ガイオウガボーンロッドというガイオウガの身体の一部を所持している。それによりガイオウガの力を横取りし、合体ダブルご当地怪人を生み出せるようになった。ライバル関係のご当地怪人を戦わせ、勝った側に2体分のガイアパワーを集中させ強化しようというのだ。

    「ナマハゲとアマハゲがなぁ……」
    「どっちも素敵な風習なのに、いたましいことだす」
     夏休みの教室の隅っこで、東海林・朱毘(機甲庄女ランキ・d07844)と春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)が語り合っている。東北人同士なので訛りまくりである。東北人は2名以上集まると途端に訛りだすのだ。
    「何にしろ放っておくわけにはいがね」
     典は地図を開いた。
    「鬼たちが戦うのはここいらの砂浜」
     示したのは山形秋田県境あたりの海岸である。地元民の朱毘は顔をしかめた。
    「このあたりは海水浴場や漁場がいっぺある……」
     ただ、戦いは夕刻なので、ESPなどで人払いをすれば一般人が近づかないようにできるだろう。
    「戦いを仕掛けるのは、今回も合体した直後がいいだすか?」
    「それが無難だすな。なすてかというと……」
     タイミング的には、ライバル決闘中に乱入することもできるが、その場合、ライバル同士が手を組んで立ち向かってくるだろう。ライバルが手を結んで共通の敵と戦うという燃える状況なので、実力以上の戦いっぷりで向かってくる恐れがある。
     加えて、先に倒された方は『オレの力を使ってくれ……っ』ということになり、結局ご当地パワーは生き残った方に集中し、合体怪人が生まれてしまう……というわけで、決闘中乱入のメリットはあまりない。双方の怪人をほぼ同時に倒せれば、合体怪人が誕生しなくて済むことになるが、そもそも2体を同時に倒すのは困難であろう。
    「合体怪人は戦闘力が2倍になるけんど、決闘のダメージが残ってるから、やっぱ合体直後のタイミングが戦いやすいと思うんだども……」
     厳しい表情だった典が、ふと朱毘に笑いかけ。
    「無事に解決したら、みんなで海水浴とか花火をしたらどうだす?」
    「ああ、そんだばいいですね……」
     朱毘も懐かしげな笑みを返した。


    参加者
    各務・樹(カンパニュラ・d02313)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    東海林・朱毘(機甲庄女ランキ・d07844)
    新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    羽刈・サナ(アアルの天秤・d32059)
    栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)

    ■リプレイ

    ●夕日の決闘
    「ナマハゲさんのことは知っていましたが、アマハゲさんは知りませんでした……というあたりは、ご本人たちの前では言わない方がいいでしょうね?」
     血のような真っ赤な夕日を受けて鬼神たちが激しく戦っているのを、護岸の陰から覗きながら栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)が仲間たちに囁いた。
     神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が頷いて。
    「……ボクも、アマハゲ、とか、初めて、聞きました」
    「母が山形出身の私も、アマハゲは知らなかったよ」
     水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)も囁き返す。とはいえ、彼女の母は山形でも村山地方出身、ここ庄内とは文化圏が違うので無理もない。
    「アマハゲって、ナマハゲの間違いかと思ったなのよ」
     うにゅ、と首を傾げたのは羽刈・サナ(アアルの天秤・d32059)。
    「ちゃんと別物だったのよう」
    「……とはいえ、こいつらの違いが俺にはさっぱりわからんぞ」
     熱心に決闘を観察しつつも平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)は当惑の表情が隠せない。
     確かに、ナマハゲは青、アマハゲは赤の鬼面の造作は、少々の違いはあれど同系統の怖い系だし、蓑もナマハゲの方が多少スッキリ洗練さているような気はするが、どっちも暑苦しいのは変わりない。ただ、頭はナマハゲは獣毛のような髪がついているが、アマハゲは手ぬぐいをかぶっているのが違いといえば違いか。
     アマハゲは散々な言われっぷりだが、地元出身の東海林・朱毘(機甲庄女ランキ・d07844))は否定することもなく、ただ少し哀しそうに。
    「まあ山形県民でさえ、ナマハゲは知っていてもアマハゲは知らないっていう人が多いですからね……」
     郷土の大切な伝統行事としてアマハゲそのものは盛り立てていきたいと彼女とて思っているが、アマハゲの怪人となると認めるわけにはいかない。
     こうして噂している間にも、鬼神たちは激しく戦い続けている。

    『いでっ、くっそう、ならば石焼きビームだ!』
    『あぢぢぢっ、ならこっちは口細カレイビーム!』

    「そろそろ決着がつきそうだよ」
     決闘の邪魔をするのも悪いと、静かに観戦していた新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)が緊張した声で囁いた。戦闘中に濡れるであろうことを想定し、彼女はすでにチューブトップ+ホットパンツの海水浴仕様である。
     そしていよいよ、アマハゲ怪人が倒れて。

    『ナマハゲよ、オレのご当地パワーを使ってけろ……そして全国に羽ばたく怪人に……』
    『おうよ、アマハゲ、任せてけれ。お前の力、しっかり使わせてもらうだ!』

     ある意味感動的な光景を覗き見ながら、蒼が感慨深げに、
    「怪人じゃ、なければ、美しい、友情が築けた、んでしょうか……」
     一方各務・樹(カンパニュラ・d02313)は眉をひそめた。
    「この合体も突き詰めればリベレイターの影響ってことになるのかしら……でも、今は考えこんでいる暇はないわね。目の前の敵を倒すだけよ」
     目の前の敵――日本海ナァマハゲ怪人は、合体変身を終えようとしていた。その全身は一回り大きく精悍になり、鬼面は2色が合わさって高貴な紫色に変わり、心なしかシュッと男前になったようである。長い髪の毛は職人風に手ぬぐいでまとめ、もっさりしていた蓑は軽やかなマントのように潮風になびいている。その蓑マントの下に見える、作務衣のような衣装をまとった分厚い胸板には『鬼』の一文字。でもやっぱり足下は夏の海辺には全くそぐわない、わらぐつだけど。
     合体変身を果たし、ちょっとだけダークヒーローっぽくカッコヨクなった怪人は、
    「我こそは、日本海ナァマハゲ怪人なりーッ!」
     海の方に向いてソレっぽいポーズを取って名乗りを上げた。ギャラリーもいないのに(灼滅者たちには全然気づいてない)本人はご満悦のようである。
     赤々と夕日を浴びて無意味にカッコつけている怪人に、灼滅者たちは一瞬呆れたが、
    「ハッ、時間が時間なので、あまり暗くならないうちに決着をつけなければなりませんよ」
     茉莉が我に返ってESPサウンドシャッターを発動した。樹もそれに続き、和守と蒼は殺界形成をかけた。
    「宣誓ッ!」
     和守の解除コードに続き、仲間たちも次々と装備を整え、
    「――では、参りましょう」
     朱毘が決心したように言い、8人と3体は隠れ場所を一斉に飛び出した。

    ●鬼神の苦悩
    「――決着はついたようだな。ならば、連戦で悪いが次は俺たちの相手をしてもらおうか」
     和守が蓑を纏った広い背中に声をかけた。
    「なななっ何者ッ!」
     怪人は驚いた様子で振り向いた。誰もいないと思っていたのだろう、先ほどのヒーローポーズと名乗りが恥ずかしいのか、あたふたしている。
     桃子はターゲットをしげしげと観察した。問答無用で襲いかかるのも何であるし、一応コミュニケーションを取ってみる。
    「ふむ……秋田のナマハゲは有名だけど、アマハゲはあんまり聞かないよね。合体してPRしても、結局ナマハゲが全面的に喰っちゃうんじゃないの? 名前も見た目もあんまり代わり映えしないし……あ、もしかしてそれ狙いだったり?」
     怪人は微妙にぎょっとしたようにびくりと肩を震わせ、
    「なななな何を言うだ、そげなセコいことはしねぇ! オレはまがりなりにも鬼神だで!」
     慌てて言い返した。
     もしかしたらちょっと図星なのかも。怪人は怖い顔をますます怖くして、灼滅者たちに詰め寄ってくる。
    「そげな酷いことしゃべるなんて、わかった、お前ら悪ィ子だなー!?」
     この剣幕からして、やっぱり微妙にイタイところを突いたらしい。
    「うにゃ、サナは悪い子じゃないなのよ、ななな、ナマハゲさんッ!」
     鬼の迫力にサナは怯えて縮こまった。しかも紛らわしいのと怯えて舌が回らなかったので、ナマハゲと言ってしまったりして。
    「ごるぁ、ナマハゲでねえ! 合体したんだからナァマハゲだっつってるべ!」
    「きゃあ!」
     ますます怒った怪人は、砂浜にうずくまるサナにつかみかかろうとする……が、
    「させないよ!」
     桃子が果敢に割り込んで、代わりに捕まえられ、
    「日本海ダイナミックだべ!」
    「うわあ」
     ざっぷーん!
     海に放り込まれてしまった。
    「どんなもんだ! 鬼神を侮辱する奴はこうだ!」
     怪人は鼻の穴を膨らませた……が。
    「私たちヒーローの大先輩に、ナマハゲの力を授かった方がいましてね……」
     愛車・イチマルとともに、夕陽に装甲を輝かせた朱毘が海を背にして怪人と対峙した。海では箒に乗った樹と、茉莉の愛猫・ケーキが桃子を救助している。
     ところで大先輩とは、あの秋田の有名ヒーローのことである。
    「その方の名を貶めることを許すわけにはいきません!」
     朱毘の台詞が終わらないうちに、怪人の背後から蒼の鋼の帯が延び、ぐさぐさと怪人に突き刺さった。すかさず和守がHMG-M2C【ExCaliber】から炎弾を放ち、それをかいくぐるようにして茉莉が槍を捻り込む。瑞樹は無慈悲の刃に炎を載せて斬りつけ、
    「麦きりキーック!」
     朱毘は、さっそくご当地技を炸裂させた。海から上がってきた桃子も、素早く箒から降り立った樹の交通標識から発せられる黄色い光を浴びて、
    「これでもくらえ!」
     お返しとばかりに鋼鉄の拳で殴りかかり、怯えていたサナもスペードマークを出現させて技の威力を高めている。
    「やっぱりお前ら、悪ィ子だべ!」
     いきなりの集中攻撃に防御一方だった怪人は、灼滅者たちを振り払うように叫ぶと、前屈みになってバサリと蓑を広げた。すると、
    「うわああっ!?」
     蓑が巨大な翼のように四方八方に延び、後衛の4人と1匹を捕らまえた。
    「……くっ!」
     しかし樹は自らも藁に絡まれながら必死に交通標識を突き出し、素早く黄光を発する。
    「ありがとう! ……ところでナァマハゲ怪人よ」
     和守は呪縛から逃れると、愛車・ヒトマルに護衛させながら油断なく銃を構え、
    「似たもの同士で、親和性が強かったからこその合体なんだろうが、パワーと引き替えに、個々の持ち味を殺すことになりはしないかね?」
    「やかましい、合体してパワーアップせねば、アフリカンパンサー様のお役に立てねぇべ……それに」
     怒りの表情が露わだった鬼面が、微妙に悲しげに歪んだ。
    「オレだづは、合体でもなんでもして、力を合わせて早急にイメージアップもせねばならんのだず!」
    「イメージアップ?」
     灼滅者たちは首を傾げた。
    「お前ら、知らんか? 何年か前、ナマハゲが酔っぱらって不始末をしでかしたのを……」
    「……ああ~、そんなことあったね~」
     ナマハゲ(の中の人)が酔っぱらって女湯に乱入したという事件を何人かが思いだし、知らなかった仲間に教えてやる。
    「……あれのお陰で、ナマハゲとその仲間の鬼たちの神性は地に落ちてしまっただ」
     決して怪人のせいではない。たまたまケシカラぬ輩が中の人をやっていたというだけの話なのだが。
     しかしこれは、行事の本質をきちんと理解しておらぬ者に、ただイベントとして参加するのを許していた結果であるとも言える。伝統行事の形骸化とでも言おうか。有名になったらなったで、伝統を守っていくのも大変なのだ。
    「だから、オレはパワーアップして、ナモミハギ鬼の神性をなんとしても取り戻さねばならんのだず!」
    「なるほど……苦労してるのですね」
     茉莉が気の毒そーに言い、灼滅者たちはしみじみと頷いた。
     でもしかし。
    「……でも、それとこれとは、話が別、なのです……!」
    「ぐわあ!」
     怪人の苦悩はさておいて、蒼が鬼の拳を握りしめて殴りかかったのを皮切りに、灼滅者たちは再び鬼神(風怪人)に殺到していく。

    ●日本海に散る
     合体でパワーアップし、更にイメージアップをも計るという悲願を持ったナァマハゲの攻撃は、なるほど真摯で強力なものであった。だが、アマハゲとの決闘のダメージが残っているにも関わらず、イメージアップを意識するあまりか、あくまで真っ向勝負にこだわり、回復をしようとしない。効率よく役割分担をし、根気よく仕掛け続けていく灼滅者たちの攻撃に、ダメージは積み重なっていくばかり。
     和守のAR-Type89の銃弾が狙い違わず怪人の肩を貫くと、
    「いっくよー! せーのっ! その格好、いかにも燃え易そうだよねっ」
     桃子が炎のキックを蹴り込み、茉莉は槍から氷弾を撃ち込んだ。瑞樹が放った円錐・角錐が先端についた影の鎖はぎりりと絡みつき、一瞬の恐慌を怪人に引き起こす。
    「瑞樹さんグッジョブ! くらえ、むきそばダイナミック!」
     チャンスと見て、朱毘が砂浜を殴りつけて爆発をおこし、投げに入ろうとしたが。
    「ぐおっ、こしゃくな奴だべ!」
     影をふりほどき、爆発をいなした怪人が、鉈を電光石火で抜き、斬りかかってくる……と、その時。
     ギュルン!
     イチマルが急旋回して主の前に入り、盾となった。
     ガリリリ……。
     キャリバーの車体は鉈に深くえぐられてしまったが、
    「イチマル、よくやった!」
     朱毘は愛車を飛び越えると体勢を崩した怪人につかみかかり、投げを打った。
     バシャン!
     波打ち際にたたきつけられた怪人に、
    「うにゅ、今なの!」
     サナがすかさず影を伸ばして再度の捕縛を計り、ここまで回復に徹していた樹も勝負処とみて、イチマルの回復をケーキに任せると、ロッドを振り上げ殴りかかった。込められた魔力が夕日に負けじと目映く輝く。
    「く……くそ……やむを得ねぇだ」
     すでに起きあがることすらままならない怪人は、蓑をかき寄せて回復を計ろうとするが、
    「……させ、ません!」
     ガスッ!
     それを蒼がジャンプ一発、跳び蹴りで阻止する。のけぞる怪人に、和守は愛車と共に掃射を浴びせかけて釘付けにし、更に桃子が跳び蹴りを畳みかける。茉莉が炎のキックで簑を激しく燃え上がらせると、
    「ああああ熱いでねえか!」
     怪人は波打ち際を転がって炎を消そうとするが、朱毘が愛車に突撃させつつ、
    「どんがらビーム!」
     ビームを放って引きつけ、サナが影でどっぷりと喰らい込む……すると。
    「……お、お前ら、やめれ、やめれ、なして皆して女湯に……!?」
     唐突に、怪人は弱り切った身体で灼滅者たちには見えぬ何者かを追って、沖へとよろよろと向かいだした。例の件がよっぽど強力なトラウマになっているらしい。
     瑞樹がわずかに哀しげな表情を浮かべ、聖剣を光と化して。
    「……あなたのおかげで、私はアマハゲを知ることが出来たよ」
     簑を纏った背中に深々と突き刺す。
     怪人の魂を貫く刃は、今日最後の陽を受け、橙色に照り映えて――。
     
     ――こうして鬼神は、日本海に還ったのであった。

    ●花火
     ――戦い済んで、日が暮れて。
    「夏、ですね……」
     砂浜に並べられた赤、緑、黄色。様々な色の噴き出し花火の列に、蒼が感嘆の溜息を漏らした。夜空に火花がきらきらと映える。
    「ねー、綺麗ですね、皆さんいっぱい持ってきたからどんどんいきましょう!」
     茉莉が張り切って次に点火する花火を並べ、桃子はバケツを差し出しながら、
    「終わったのはちゃんと水につけて片付けておこうね」
     戦闘の痕も、花火も、きちんと片付けるための準備も万端である。
     サナもうきうきと花火を選んでいる。
    「うにゅ、みんなで楽しむなの!」
     一方和守は、花火を横目にヒトマルに騎乗して、波打ち際で網を振るっている。何をしているかというと、女子たちが海に入れるようクラゲの駆除をしているのだ。
     おかげで、
    「ああ気持ちいいー、すみませんねえー、和守さん」
     以前水中で踏みつけててしまってからクラゲがとっても苦手な瑞樹も、脛まで海に浸かって嬉しそうに涼んでいる。
    「まあ、もうお盆だし、今回は男が俺だけだからね……」
     そんな働き者の黒一点を片眼で、もう片眼で花火にはしゃぐ後輩達を眺めながら朱毘が呟いた、
    「今回女子率高いですけど……和守さんは役得なんですかね?」
     水着女子に囲まれたある意味オイシイオシゴトなわけだが、和守には彼女がいるし、却って気苦労の方が大きいかもしれない。
    「そういえば」
     と、一緒に花火を見ていた樹が。
    「朱毘ちゃんは彼氏さんとは最近どうなの?」
    「えっ」
     朱毘は急に問われてあたふたとし。
    「そ、そういう樹さんこそどうなんです?」
    「わたしたち?」
     聞き返された樹は微笑んで。
    「ふふ、仲良くやっているわよ」
     大人っぽく答えた、その時。
    「……あの、よければ、これ、どうぞ」
     蒼が差しだしたのは、持参のスイカゼリー。
    「まあ、ありがとう」
    「美味しそうですね、いただきます」
     花火の光を受けて、赤いゼリーがキラキラと光り――これもまた、ゆく夏の色。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ