修学旅行2016~最果てのうるま 星に一番近い場所

    作者:西東西


     4月下旬の、黒翼卿メイヨールの襲撃。
     5月初旬の、サイキックリベレイター使用。
     5月中旬の、大淫魔サイレーンとの決戦。
     たび重なる大事件によって延期されていた修学旅行の日程が、ようやく決定した。

     2016年の修学旅行は、9月13日から9月16日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒たちが、一斉に旅立つことになる。
     また、大学1年生が同じ学部の仲間などと親睦を深めるための親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われる。
     修学旅行の行き先は『沖縄』。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載だ。
     ――さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
     

     修学旅行1日目、2日目に沖縄本島を巡り尽くせば、3日目は自由行動。
     マリンスポーツ体験はもちろん、石垣島、与那国島、宮古島など、それぞれに魅力のある各離島の観光を楽しむことができる。
     昼の沖縄で遊ぶ楽しみも尽きないが、せっかく訪れた沖縄の土地。
     星空に一番近い島で、『天体観測』はいかがだろうか?

     日本最南端の有人島・波照間島(はてるまじま)は、日本で一番星が良く見える場所として名高い。
     水平線を一望できる海岸線には、島内唯一といえる観光施設『星空観測タワー』が建っている。
     屋上には200m屈折式望遠鏡が設置され、月のクレーターを観測することも可能だ。
     3階屋上では満天の星空のもと、星座解説や天体の話を解説してくれるので、星について知識がない者も楽しく過ごすことができるだろう。

     島は小さく、あたりに民家・街灯が少ないため、夜は浜辺からでもこころゆくまで満天の星空を堪能することができる。
     なかでも、島の北側に位置する『ニシ浜』はその美しさを讃えて「ハテルマブルー」と呼ばれるほど。
     潮騒を聞きながら静かに星空を見あげるだけでも、充実した時間を過ごすことができるはずだ。
     

    「波照間島。そら、きれいだって」
     修学旅行のしおりを手にしていらい、七湖都・さかな(終の境界・dn0116)は自由行動の波照間島案内のページばかり眺めていた。
     特に、この島にある『観測タワー』では、沖縄本島よりも南でなければなかなか観測できない南十字星が見られることで有名だった――のだが。
     南十字星が日本で見える時期は、12月前半~6月末。
     修学旅行の時期が9月へ変更となったため、残念ながら今回の旅行で南十字星を拝むことはできない。
     とはいえ。
     東京ではプラネタリウムでしか見ることのできないような満天の星空を、自分自身の眼で堪能することができるのだ。
    「いっぱい。ほし、見えるよ」
     「おすすめ」と言いながら、さかなは出会った学生たちに波照間島の写真を見せてまわる。
     
     一夜限りの情景で、なにひとつカタチには残らないけれど。
     あなたも、星に一番近い場所に、いってみませんか?


    ■リプレイ


     水平線に沈む太陽を見おくれば、宙はあっという間に満天の星に満ちた。
     観測タワーで天体望遠鏡を覗いていたシルヴァンは、手が届きそうなほど間近に見える月景に大歓声。
    「クレーターまで見えるなんてロマンチックだ!」
    「時季外れで南十字星が見られないのは残念ですが、裸眼でも十分綺麗なのです」
     榛名も煌めく星々を見あげ、スタッフの解説に熱心に耳を傾ける。
     先人達が点と点を結び、壮大な伝説を描いた星空のキャンバス。
    「できればずっと堪能したいケド。この光景はぜひ、お土産にしないとな」
    「家族やお友達に、この素敵さを伝えなくては!」
     東京では体験できない空。
     その傍で、先輩に頼まれたと携帯電話を空へ向けるのは紅緋。
    「ここからなら、カノープスやフォーマルハウトが見えるんでしたっけ?」
     晴れて良かったですと、傍にいたさかなへ声をかければ、
    「星。すきなの?」
     「はじめまして」と挨拶が続いた。
     一誠は語らう学生たちをよそに建物を出て、ひとり海へと向かった。
     浜辺に浮かぶほのかな灯りは、まるで地上に堕ちた星々のように美しくて――。


     【サーカス小屋】の5人は、日没とともに浜辺へ向かい早くも天体観測。
    「本物は、全然違う、ね…!」
    「これてよかったな修学旅行!」
     とても綺麗と絶句する雨に、薫も圧倒されながら頷く。
    「満点の星空を独り占めできるなんて、この上ない贅沢。エリカは星空は初めて?」
     問いかける雛に、エリカは小さく首を振る。
    「イギリスにいた頃も星空は綺麗でした。ですが、星が降ってくるような、これほどの美しさはありませんでした」
     東京では決して見ることのない情景と4人が一心に空を仰ぐなか、
    「波音が心地いいのです~…す~。…ぅ…はっ。まだ寝たらだめなのー」
     エステルは波音を子守唄に、プルプルと頭を揺らして。
     ふと腰を下ろした雛の横顔に、気付く。
    「ひなちゃん、なんだか悲しそうな顔をしてるのです?」
     胸に去来するのは、ここに居ない『彼』のこと。
    「…大丈夫よ。待つ恋も、嫌いではありませんわ」
    「むー、なかーまーなのですー…。一緒に星を見るのですー」
     むぎゅむぎゅと身を寄せるエステルの髪を、優しく撫でて。
     薫はちくりと痛む胸を押さえ、そっと雨を抱き寄せた。
    「オレは…雨の傍にいる。何があっても傍にいたい」
    「私も、ずっと、傍にいる、よ。傍に、いたい」
     「だから、大丈夫」と寄り添い、互いに微笑み交わすも。
    「って! に、ニヤニヤすんなよ! そこの二人!」
     先ほどまでの憂いはどこへやら。
    「見ている方が楽しい恋もありますものね?」
     雛とエステルの視線に気づき、雨が顔を真っ赤に染めて。
     エリカは、いつもの事と見守りながら。
     ひとり、星々へと想いを馳せる。

     さくさくと砂を鳴らし進むのは、茨。
    「オレと羽衣ももう大学生だし、3人一緒の修学旅行もこれが最初で最後かな」
     感慨深くぽそり呟けば、
    「茨センパイでもしんみりするコトあるんだ?」
     結奈と羽衣(d20543)が顔を見あわせ、クスクスと笑う。
    「でもいつだって、今この瞬間は、一度きりのものよ」
    「でもってこれからも、そういう一瞬を3人で…でしょ?」
     答える代わりに茨はにっと微笑んで、携帯式オペラグラスをさし出す。
     3人で回して見ようと、まず最初に結奈に手渡して。
    「すごーい! 肉眼よりもっと細かいのまで見えるッ」
     大はしゃぎする様子を優しく見守りながら、宙を仰ぐ。
    「やっぱ、2人と見る星が一番綺麗に見えるな」
    「ええ。わたしも…です」
     嬉しい言葉に、結奈が茨の腕をぎゅっと抱いた。
    「ボクも3人で見る星空が、一番ココロと想い出に刻まれるよ」
     ――この時間が、どうか少しでも長く続きますように。

     鈴音は長く伸びた髪をかきあげ、空を見あげた。
    「ね、覚えてる娑婆蔵? 3年前の夏にも一緒に星を見たわよね」
     三年前の旧七夕。
     あの時は流星群だったわねと、顔を向けて。
    「これからも、そしてできれば末永く、よろしくね、娑婆蔵」
     微笑み返し、かつての記憶を想い起こす。
    「あの時に比べると、鈴音の髪も伸びやしたねえ。……触ってみてもよござんすか?」
    「ええ。頑張って伸ばしたんだから」
     髪に指先に絡め、優しく肩を抱き寄せて。
    「何ぞ、思う所あっての仕儀だったんでござんすか?」
    「あら、それを聞く?」
     長い髪好きでしょと、肩を寄せる。

     ひと気のない場所を探しやって来たのは、アルレットと実。
     少女姿に見えても、恋する男女。
     互いに本当の自分を見せることができる、唯一の相手だから。
    「わぁ…すごい! すごい星空だよ、みのりっ♪」
    「ふふ、そうですね。すごく綺麗です」
     はしゃぎ腕に寄り添えば、互いの胸の高鳴りまで伝わる気がして。
    「大好きだよ、みのり」
     一緒に来れて良かったと、頬を染めながら黒の瞳を見つめる。
    「私も大好きですよ、アルル。いつまでも、一緒です」
     頬を寄せ、唇を重ねる。
     身体を寄せあい想いを確かめあえば、もう、それ以上の言葉は要らなくて――。

     まだ熱を持つ砂浜に座り、慧樹と羽衣(d03814)は二人寄り添う。
     宇宙の如き広大な星空に心細さを覚え、羽衣は慧樹の腕を強く抱きしめる。
    「中学んときの修学旅行はさ、一緒に花火したよな」
    「うん、いっぱい遊んだ」
     だから星を見るためにふたりっきりは、なんだか大人っぽく感じられて。
     ふいに、慧樹が見つめる。
    「また羽衣と沖縄来れて嬉しいよ。一緒で嬉しい」
     重ねた手指。
     伝う熱に意識を向けている間に、そっと、唇が重なって。
    「2年後も俺と一緒で予約、なっ!」
    「もーー! 二年後は覚えてろだわ!」
     真っ赤になりながらも、宣戦布告。
     この先も、ともに在ることができるよう。
     確かな約束になれと、願う。

     波間に座り語らうタージとくるみの眼前を、ナノナノのクルルンがふわり飛んでいく。
    「あは。星空を泳いでるみたいだね」
    「ここにも星空がありますね♪」
     微笑んだくるみが星空の映る海を示せば、
    「僕たちも、泳いでみようか。夜の海に浮かんで星を見れば、きっと、星の海を漂ってる気分になれるよ」
     服を着たまま泳ぐことに、一瞬、戸惑うけれど。
    (「今日くらいはいいかな…♪」)
     差し伸べられた手を繋ぎ、つま先から海に浸していく。
     寄せる波に身を任せ漂えば、空と海と。
     繋いだ手の先までも、ひとつになっているように、思えた。

     錬と陽菜。
     砂の上に座り空を見あげていると、まるで二人だけの世界になったよう。
    「付き合って一年半とちょっと。あっという間だね」
     あの時は、手を引かれていたけれど。
    「今は横に並んで、見れるんだよ」
     告げた瞬間、急に恥ずかしくなって陽菜が顔を覆う。
     暗くてはっきりとは、解らないけれど。
     ずっと見てきた仕草と表情だから、錬には何となく想像がついて。
     優しく、肩を抱き寄せる。
    「『海が綺麗ですね』…って言い回しもあるらしい、よ」
     ――あなたに溺れています。
     今までも。
     これからも。
     いつまでも。
    「これからも、いろんなものを二人で見ようね」
     手を伸ばしたら届きそうと、伸べた指先が、月に触れた。

     星空の下に座り語らうのは、水那と颯月。
    「時間って、あっという間…ですね」
     成長を経て追い越した背に微笑みかけ、どちらともなく、手を繋ぐ。
    「これから、もっともっと大きくなるから。体も大人の狼になれたら…その、家族になれたら嬉しいなって」
     気が早いかと問いかける颯月に、水那は首を振る。
    「私も、同じこと言おうと思ってました。こんなにロマンチックな夜だから…かも、しれませんね」
    「早く、大人になれるように頑張るね?」
    「颯月さんが、大人の狼になれるまで。家族になれるまで。ずっと、ずっと、待ってます」
     ――家族になったら。また一緒に、この星空を見に来よう。


     ウィングキャットの甘夏が遊ぶ傍では、赤縁メガネ姿の花火が星座の知識を得意げに披露。
    「さすが花火先輩!」
     都会では見えない星々を眺めるのも面白いと素直に感心する航を見やり、重々しく頷く。
    「観測タワーも、いつか行けたらいいですね」
     その言葉に、金の眼を瞬かせ、告げる。
    「今から行ったら間にあうかもよ!」
    「え! 島の正反対ですよ!?」
    「競争しよう! 負けた方はダジャレを一つ!」
     「なぜダジャレ!?」と追いすがる後輩をおいて、花火は「よーいどん!」と力強く地を蹴り、駆けていく。

     砂浜に仲良く並ぶのは、三つの背中。
    「アタシの好きな遊び、星座遊びをしよう」
    「…星座遊び…です?」
     首を傾げるリヴィアの傍で、くまーはわーいと両手をあげる。
    「星をじーっと眺めていると、何かに見えてくるだろ? その星の標を指でなぞるんだ」
     「ほら、リヴィアの好きなくまーだ」と、夜空のキャンパスを示して。
    「…すごい…です」
     何が見える、と問われくまーが描いたのは、
    「…ふーりん…です」
     今年の倶楽部の出し物。
     儚く綺麗な音色まで、聞こえてくるよう。
     璃依は続いて食べ物の星座を描き。
     リヴィアも想い出を綴るよう、次々と星空をなぞる。

     持参したシートを広げ、レイは張りきって天体観測。
     隣には、寝転びながら空を見あげる翔。
     温かい飲み物も用意して準備万端。
    「何か賑やかな日が続いてるし、こういう静かなのもいいなー」
    「たまには、のんびり夜空を見上げるのもいいな」
     そうして星座の本を取り出したレイが、目についた星々の説明を添えていって。
    「いつも見てる星と違うんだなー…」
    「って翔、寝かけてないか?!」
     「起きろ!」と呼ぶ声も、波音とあいまって子守唄のよう。
    「今はこの時間を楽しもうか…」
     まどろむ翔の傍に本を置き、レイも瞬く星に想いを馳せるべく、空を仰ぐ。
     同じように、白い砂浜に寝転がるのは狭霧とイコ。
     子守唄のような波音が心地よく、伸びをして。
    「ところで狭霧くん、ステキなあのひととの恋のお話はお聴かせ願えないのかしら?」
    「そっちの話も沢山聞いちゃうから覚悟してよ」
    「あら、いっぱい惚気てしまいますよ」
     見ているのは夜空の星々だけ。
     だから何を話しても大丈夫と、他愛ない話に花を咲かせる。
    「星と同じね、わたしたち。逢えなくても消えた訳じゃないわ」
     こんな風に、いつだって話ができるのだから。
     憶えていてね、と続く言葉。
    「俺ってばホント幸せ者っすね」
     和らぐ笑顔に、イコも柔かに微笑む。
     波照間島の星は、以前から見たいと思っていた。
    「井瀬さん、一緒に来てくれてありがと」
     ここに座ってとレジャーシートを広げ、砂浜に寝転ぶ。
     満天の空は、今にも落ちてこんばかりに輝いていて。
     奈那は思わず手を伸ばした後で我に返り、隣のイチに笑みを向けた。
    「なんだか手が届きそうで」
    「…ん、わかる」
     イチも同じように手を伸べ、「なんか嬉しい」と頷く。
    「くろ丸さんも星は好きですか?」
     伺うように霊犬の顔をのぞき、じゃれつく頭を優しく撫でる。
    (「…この二人、天使だ」)
     穏やかに笑む少女と一匹を見守れば、特別な時間はあっという間に過ぎていく。

     長身の大輔は、柚香の歩幅にあわせゆっくりと砂浜を歩く。
     星を見あげながら歩く姿に、「少し座ろうか」と提案して。
     並び座れば、静かな波の音にも風情を感じる。
    「こんなにはっきり見えるんだな」
    「感動的な星空見れて、とっても良かったのです」
     明るい星、小さい星。
     様々な星で空を覆ってるみたいだと、飽きずに空を仰いでいる。
    「学園だと、きっとこうはいかないよな。来てよかった」
    「戻ると見れないって思うと、離れるのが寂しくなりますねー」
     心底残念そうに告げる様子を、微笑ましく見やりながら。
     せめて今だけでも穏やかな時間をと、大輔も眼前の情景を記憶に焼きつける。

     水着姿で波打ち際を行くのは遥と織姫。
     足元で波が行き来するのを感じながら、並び歩く。
     夜の海は黒曜石の如く黒々として、天上の星を水面に写している。
    「まるで、宇宙がどこまでも広がっているみたいだね…」
    「ええ。とってもくらぁいせいかしら。星も月も、手が届きそう」
     水平線を眺めながら進めば、まるで天の川を歩いているようで。
     地上に降りたビキニ姿の織姫は、ふいに立ち止った遥めがけ、海水をぱしゃり。
    「やったわね?」
     クスリと笑んだ遥が、負けじと反撃にかかる。
     二人、ずぶ濡れになりながら。
     童心に帰って、声をあげて笑いあった。

     野郎2人で星見は虚し過ぎ、と話し歩くのは浩志。
     声を持たないサーヴァントは、軽い身振り手振りで応えるのみで。
    「まあ、偶には親友とのんびりしたいしねー。…あとさ」
     ふいに足を止め、改めてヨシと向き直る。
    「まだヨシと一緒にいたいから。俺の事、置いていかないでね」
     確かめるように呟く声が、潮騒に紛れて。
     翡翠に誘われ、さかなも浜辺に寝転び星をみる。
    「あかるい」
    「海も綺麗で、反射した星明りが凄いです!」
     季節外れの南十字星が見られないのは、残念だけれど。
    「でも、いつか見てみたいですね」
     空も海も、自然の光に満ちあふれていて。
     しばし言葉を失い、絶景に見入る。
     見れば、小型ライトを手に歩くサーニャの姿。
    「あのまま海に落ちて、朝には浜辺に流れ着いたりして」
     北極星が少しだけ海に近いと、冗談ひとつ。
     続けて天の川を示し、問いかける。
    「ねえ、さかな殿は星を見て何を思う?」
     言葉を探した後、少女は言った。
    「『境界』をこえ、てらすもの」
     それは、あまねく降りそそぐ光だ、と。
     途中で見かけたさかなと挨拶を交わした後。
     陽桜と瞳は霊犬『庵胡』を伴ない、寄せては返す波に足を浸しながら、水面に映る夜空を眺める。
    「確か私達の星座って水系の生き物よね?」
     蟹は海に浸り、内に水を抱くもの。
     魚は海を介し、境界を越えるもの。
    「どちらも母なる海に還ったみたいで、よりキラキラ活き活きして見えたりして…ね」
    「湛える水も泳ぎ渡る水も、星の海のような綺麗なものだといいのですけど」
     ふと見やれば、庵胡が得意げに貝殻を掘り返している。
    「庵胡ちゃん、大発見なのです!」
     あたしも綺麗なの見つけましたと、次々に綺麗な貝を探しだす。
    「今日の想い出の一欠けらの、贈り物ね♪」
     またひとつ、心重ねて。
     ――これからも、どうぞよろしく!

     砂浜に座り、柚羽はまっすぐに夜空を見据える。
     ――明るくなったことで、見えなくなったものもある。
     光も多いと考えものなのだろう。
     人工光が多い場所では見えにくい天の川も、此処なら良く見える。
    「ほんとうのさいわいとは、何なのでしょう」
     語らないから、気付くしかない。
     ぽつり零した言葉が、波音に溶けて。
     別の場所で。
     同様に、人影のない砂浜にひとり座りこむのは想々。
     指の間をすり抜ける砂。
     優しい潮騒と、風に薫る海のにおい。
     天を仰げば、満天の星が輝いて。
    (「この星の数だけ、すきな人達に幸せがあってほしい」)
     想いを胸に、戦い続けると誓う。
     だから。
     ――おやすみ。私の恋。
     一筋の涙が。
     流星の如くこぼれ落ちて、消えた。

     空と海が融けあう場所。
     見あげるでもなく、真っ直ぐ、空と海が融けあう場所。
    「シグマ」
     砂音に顔を向ければ、天と地の境界にさかなが佇んでいて。
    「さっき、流れ落ちてきたの集めた」
     いつかの礼にと、シグマがコンペイトウの小袋を手渡す。
     白く細い指がそっと包みこみ、そっぽを向く紫の瞳を、追いかける。
     バトンを受け、巡り繋がったあの日から。
     抱く想いは『感謝の五文字』がほとんどで。
     けれど。
     いつか届いた、『遠慮しらず』の手紙を想い出す。
     ――どうか消えないでくれ。
     まどい、ふるえる、はかないこころ。
     それはシグマにもどこか似ていると、感じていて。
     二人、距離をおきながら、星を見送る。

     【MaYa's room】の4人も仲良くシートに寝転がり、のんびりと星空を眺める。
    「はー…」
    「数えるのが馬鹿らしく思えるほどの、満天の星ねェ」
    「五感で色々と感じていると、言葉が出なくなっちゃうよ」
    「私もです」
     万感の想いで息を零した銀河に、夜桜が続けて。
     結衣奈の隣で紗里亜も息をのみ、ただただ夜空を見つめ続ける。
     穏やかな潮風。
     静かな潮騒。
    「いいね、こういうの」
     星の光を全身に受け止め、銀河はゆったりと流れる時に意識を委ねる。
     ――今、この瞬間邂逅している光は、いったいどれほどの旅をしてきたのだろう。
    「あたしらの一生なんて、宇宙単位で見たら本当に一瞬なのねェ」
    「ちっぽけな存在だけど…。私たちは、ここにいるんですね」
     感慨深げに零した夜桜を見やり、紗里亜がくすっと微笑む。
     先の世界がどうなるかなんて、わからないけれど。
     ――自分と友人たちが、今、ここに存在する。
     その幸せは、確かだと思えるから。
    「皆と一緒に見れて良かった」
     夜桜の想いに、結衣奈、銀河も頷く。
     世界には、独りでは見られないもの、感じられない事が、まだまだたくさんある。
     だから。
    「これからも一緒に、いろいろな事楽しもうね!」
    「…これからも、よろしくね」

     どうかこの穏やかな時が。
     すこしでも長く、続きますように。
     ――星に、願いを。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月15日
    難度:簡単
    参加:50人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
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