密室ホテルの黒い客

    ●ホテルロビーにて
     男は夢を見ていた。
     どこまでも続くトンネル、そして彼を何者かが追いかけてくる。このトンネルを抜ければ、追いかけてくるモノは消えるとわかっているのに、走っても走っても闇は果てしなく続き、出口はちっとも見えてこない。
     その悪夢は人ならぬ存在である男にも、かなりのストレスのようで、寝顔は苦しげに歪んでいる。
     男が眠っているのは、古びたホテルロビーの長いすの上であった。人気はない。
     男はチャコールグレイのスーツに地味な色味のネクタイを締め、胸には小さな名札をつけていた。男の出で立ちからすると、夜更けのホテルロビーで、ホテルマンがうたた寝してしているように見えないこともない……。
     突然、男の傍ら、何もなかった空間に黒い靄のようなものが沸きだした。靄はみるみるうちにトンネルを形作った。男の悪夢の中のトンネルだ。
     そしてそこから、のそり、と男とは別の人影が現れた。
     全身黒ずくめの、まるで影のようなライダーだ。
     黒いライダーは、何の変哲もないホテルロビーを珍しげに見回してから、眠っている男を見下ろした。
     それを待っていたかのように、男はパチリと目を覚まし、スッと起き上がった。同時に靄のトンネルも消える。
     男は、ライダーの前に立つと、
    「ようこそ我が密室へ。私が当館の支配人でございます。ご滞在中、精一杯おもてなしさせて頂きます」
     慇懃に頭を下げた。
    「おう、しばらくやっかいになるぜ」
     黒いライダーはヘルメットも取らぬまま答えた。
    「しかし、せっかく現実に出てきたのによう、ホテルにカンヅメじゃたまらんぜ。ソウルボードに入れないんじゃ、バイクにも乗れねえし。何か鬱憤晴らしになるようなものはないのかい?」
    「はい、上階の部屋に一般人を何名か飼っております。生かすも殺すも、お好きなようになさって結構でございます」
    「へえ、じゃあ退屈で仕方なくなったら行ってみるよ」
     ライダーの胸のダイヤマークが微かに明滅した。ヘルメットの中でライダーが笑ったようだ。
    「ひとつお気を付けいただきたいのは」
     支配人は整った顔を引き締めて。
    「ご滞在中はホテルの外には、夢を通じてでも決してお出にならないでください。灼滅者に気づかれる恐れがございます。この密室ホテルの中でしたら、何をしても大丈夫ですが……」

    ●武蔵坂学園
    「……ところがどっこい、今なら、サイキック・リベレイター照射のおかげで、シャドウの動きは密室内でも予知できるんですよ」

     先日の、コルネリウスとオルフェウスとの会談で、
    『大将軍アガメムノンが、シャドウが現実世界で活動できるという状況を確認できれば、協力関係にある六六六人衆と接触するだろう』
     という予測が語られた。
     この情報の通り、シャドウと六六六人衆の接触が予知された。
     大将軍アガメムノンは、友好関係にある六六六人衆の一人、エンドレス・ノットと連絡を取り、実体化したシャドウを、エンドレス・ノット配下の密室殺人鬼の密室の中に匿ってもらい、地上での戦力の増強を秘匿する作戦に出たらしい。
     密室の内部については、エクスブレインも予知できないと六六六人衆側は考え、この作戦を実行したようだが、前述したように今はシャドウの動きだけは高レベルで予知できるのだ。

    「というわけで、密室ホテルにシャドウが現れるタイミングを、予知することができました」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)はガサガサと地図を開いた。件の密室ホテルは名古屋郊外に用意されたらしい。
    「支配人の密室殺人鬼は、最初の1人としてライダーシャドウを受け入れるようですが、最終的には数十体のシャドウを受け入れる予定にしているようです」
     灼滅者たちは呻いた。数十体のシャドウが実体化してうろうろしているホテルとか、想像したくもない。
    「一般人も囚われているようですし、今のうちにこの密室ホテルと、支配人を始末する必要があります。もちろんライダーシャドウも灼滅するにこしたことはありません」
     シャドウと六六六人衆が同盟を組むという事態は、憂慮すべき深刻な事態だが、逆に、現実世界に現れたシャドウと密室殺人鬼を灼滅するチャンスでもあるのだ。
    「しかし、実体化したシャドウは、ご存じの通り手強い相手です。支配人の方は戦闘力的には大したことはありませんが、2体相手にして勝てるかは微妙なところでしょう」
     今回の事件では、可能ならばシャドウと六六六人衆の両方、それが不可能ならば『補足が困難で厄介な存在である密室殺人鬼の灼滅』を狙うべきであろう。
     灼滅者のひとりが心配そうに挙手した。
    「ホテルの部屋には一般人が囚われているのでしょう? その人たちはどうすれば」
    「ライダーと支配人がロビーにいるうちに急襲し、戦闘に持ち込めば上階には影響がでないと思われます」
     密室殺人鬼を灼滅すれば、密室も解除になる。
     典は集った灼滅者たちを見回して。
    「現実世界に出てきたシャドウは強敵で油断はできません。ただ、密室殺人鬼の戦闘力は高くは無いので、その力の差を考えて作戦を練れば……なんとか2体を灼滅することもできるかもしれません。どうか頑張ってください!」


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823)
    芥川・真琴(日向の微睡・d03339)
    神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)
    鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)
    三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)
     

    ■リプレイ


     廃業した建物を利用されたのか、それとも殺人鬼に占拠されてしまったのか……現場のホテルは寂れて薄汚れ、陰惨な雰囲気を漂わせていた。とても人がいるようには見えない。
     ぴたりと閉じられた入り口のガラスの自動ドアも汚れで曇ってしまっており、透明にはほど遠く、もちろん動かない。だが、中のロビーには薄暗いながらも照明が灯っており、2人の人影の存在だけはぼんやりと見てとれる。
    「いかにも悪者が何かをたくらんでいそうなホテルだよな」
     三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)がそっと建物の中を覗き込みながら呟いた。
    「六六六人衆とシャドウの企み、なんとしても阻止しよう」
    「面倒なヤツらが手を組んで更に面倒な事態にスルってか。類友とは言ったモンだな」
     神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)は腕組みして苦笑を浮かべ。
    「取りあえず、これ以上面倒な事にならないよーに働くとしましょーか。」
     鴻上・巧(氷焔相剋のフェネクス・d02823)は厳しい表情で。
    「幸い、今回は場所も時間も判明しています。ここまできたら、ロビーにいるうちに急襲をかけるまでです」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は、やはり熱心にロビーをのぞき込んでいる狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)にそっと囁く。
    「あきら、久々に一緒っすね。せっかくの機会っす、うまくいったらこのホテルで楽しんで帰りやしょうか」
     だが、目前に迫る戦いにすでに没頭しているあきらに囁きは届かず、
    「六六六人衆め……余計な事を……まっ、ぶっ潰しちゃうんデスケドね! ボク達が! ははは!」
     彼女はギラギラした目で乾いた笑いを上げたのみ。
     ハイハイ、とギィは見事なスルーにちょっと残念そうに肩をすくめ、
    「じゃ、いくっすよ……殲具解放!!」
     ガシャーン!
     動かないガラス扉を無敵斬艦刀『剥守割砕』で、景気付けとばかりに大きく叩き割った。
    「――誰だ!?」
     ガラスの割れる音に、ロビーにいた2体のダークネス……ホテルマン然としたスーツ姿の六六六人衆と、黒ずくめのライダースーツ姿の影のようなシャドウ……が、誰何して振り向いた時には、武装した灼滅者たちがすでにロビーへと突入していた。
    「毎度どうも、お馴染みの灼滅者っす」
     ギィが飄々と答え、
    「何だとッ、密室の中は灼滅者には探知できないはず……!?」
     芥川・真琴(日向の微睡・d03339)は得意げに蝋燭を掲げた。
    「まことさんたちの目を欺くことなど不可能なのだー……ってのはともあれ、ホテルに入ったら遊んでないで早く寝るといいと思うなー……」
     律は、ダークネスたちの驚愕にニヤリとし。
    「悪巧みの相談かい? お二人さん。俺にも一口乗らせてくれや。礼はきっちり払うさ。ほら、遠慮なく――食らいな!」
     白光を放つ聖剣をふりかぶって支配人に飛びかかった。それを皮切りに、仲間たちも、予め決めておいたターゲットへと次々と初撃を放つ。
     まずは支配人に向けて、
    「琥珀、使わせてもらうわ……フォルティッシモでいくわよ!」
     鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)がかき鳴らす激しいバイオレンスギターのメロディをバックに、ギィは巨刀に黒い炎を載せて斬りかかった。真琴は蝋燭からもくもくと黒い煙を立ち上らせて前衛を包み隠し、紅葉はその影に紛れるようにして影をしゅるりと放る……が。
     殺人鬼はその影をひらりと避けると、ライダーシャドウを庇うような位置に素早く入った。
    「おい、支配人よ」
     ライダーはどこかのんきな口調で。
    「ちゃんと客を守ってくれるんだろうな?」
    「はい、もちろんでございます。この命に代えましても」
     一方の支配人は堅い口調で早口に答えた。
    「しかしながらひとつ不都合がございまして、私が消滅しますと、この密室も解除されてしまいますので、お客様にもご協力頂けますと、大変ありがたく存じます」
     ちっ、とライダーが舌打ちした。
    「そっか、そいつぁマジィな。このホテルに予約入れてる仲間は俺だけじゃねぇかんな。面倒っちーが、仕方ねえ……ま、退屈しのぎにもならぁな」
     ライダーの手に、無数の釘が植えられた巨大なバットが現れ、じりじりと迫っていた2人の灼滅者たちに向けて振りかぶられたが、
    「勝負といきましょう、黒いライダー!」
     凶悪な武器の下をかいくぐって巧がシールドで殴りつけ、あきらは槍を振り回して突っ込み、
    「さぁ、こっちを見ろ。自分らを打ち倒す灼滅者の姿をね!」
     2体のダークネスを共に穂先と石突きで打ち据えた。
     しかし打たれながらもライダーは、
    「何しやがんでェ!」 
     釘バットをホテルのロビーに叩きつけた。
     ドウォン!!
    「うわっ!」
     ホテルの床が……というか建物全体が衝撃で大きく揺れ、前衛は足をとられて手ひどく硬い床にたたき付けられてしまった。
    「お見事でございます」
     そこにすかさず支配人が、全身から息苦しくなるくらいに毒々しく黒々とした殺気を放った。
    「ここは私が!」
     すぐに後方から朱香のリバイブメロディが響いてきたが、ライダーの攻撃力は聞いていた通りに強力であるし、支配人のきめ細やかな行動も侮れない。
    「大震撃に鏖殺領域……ヤバい組み合わせっすね。本領を発揮される前に仕留めるっすよ!」
     ギィは斬艦刀を頭の上まで振りかぶって殺人鬼に斬りかかり、続けて真琴が炎を載せた矢を撃ち込んだ。紅葉は緋色のオーラを宿した刀でドレインを試みる。
     一方ライダーの方には、律が強敵の攻撃を引きつけるためにシールドで殴りかかり、巧が、
    「エキゾースト、燃え上がれ、我が闘志!」
     激しい炎を蹴り込んだ。あきらは狙い澄まして氷弾を撃ち込み……と。
    「お気を付けください」
     支配人がすばやく身を入れ、賓客の盾となった。
     パリパリとスーツの表面を氷らせた支配人は、あきらに怒りを覚えたようで、
    「この女は早々に始末した方がよろしゅうございましょう」
    「うあっ!?」
     死角から伸びてきた蛇剣があきらの背中に血の花を咲かせた。続いてシャドウも、
    「だよなァ、この女ムカツク!」
     バットを振り回しながら突っ込んでくる。
    「……止める!」
     釘バットの一撃は律が何とか防いだが、ディフェンダーといえど、シャドウの単体攻撃は相当痛い。律はよろめいて膝をついてしまった。
    「離れるっす!」
     更に攻撃に出ようとする殺人鬼に、ギィが愛刀に黒いオーラを宿して飛びかかり、紅葉が死角に忍び寄って刃を突き立てた。シャドウには巧が、どうにか自分に引きつけようと2度目のシールドバッシュを見舞う。
    「まだ倒れるには早いですわよ!」
     朱香が皆を元気づけるように叫んであきらにラビリンスアーマーを伸ばし、真琴が律に癒しの矢を撃ち込んだ。
     これで何とか2体のダークネスを傷ついた仲間から引き離し、回復を行うことができた。
     難しい戦いを選択しただけに、メディックによるきちんとした回復は必須だ。だが、その分手数も与えられるダメージも減ってしまうというのが現実である。
     やはり2体のダークネスを同時に相手にするのは……なかなかキツい。
     

     ホテルマンとしての責任感もあるのか、密室殺人鬼は大層粘り強かった。守りに徹し、回復と庇いを繰り返すので、なかなか致命傷を与えることができない……しかし、戦闘開始からじきに10分ほど経とうとかという頃には、さすがに。
    「随分草臥れた支配人だな、アンタ。面倒な客の相手でもしてたのかい」
     忍び寄った律が、
    「ああ……今は俺らがそうか。安心しな。すぐにそんなこと思わなくてもいいようにしてやるよ。アンタの灼滅、でな」
     おぼつかなくなっている足下に刃を突き立て、よろけたところを紅葉が十字架で力一杯殴りつけた。倒れ込んだ敵の胸に、
    「これで……終わりっす!」
     忽然とロビーに顕現したギィの黒十字が切り裂いた。
    「……も……申し訳ございませ……」
     客へ詫びながら、ホテルマンは逝き……ホテルのどこかで。
     ――ガチャリ。
     鍵の外れる音が響いた。
     これで、残るは。
     仕切り直しとばかりに、7人はライダーシャドウを包囲しなおした。
     とはいえ、支配人を倒すまでに結構かかってしまったので、シャドウを怒りで引きつけ続けていた3人の消耗は、かなりのものになってしまっている。
    「ひと休みですね」 
     巧が荒い息を吐きながら盾を振り上げ、回復がてらシールドを張り直す。
     対するシャドウの方は、それなりの攻撃は受けているはずだが、元々の体力もさることながら、支配人に何度も庇われているおかげもあろう、それほど疲労している様子ではない。
     やはり現実世界に現出してしまったシャドウは強敵であることを、灼滅者たちは思い知る。
     支配人殺人鬼を倒し、密室ホテルを解放することはできた――ここで退いても大目標は達成できたことになる。
     だが、敵が目の前にいる限り。
     それに、ここからは全員揃って攻撃できるのだから……!
    「お疲れ様っしたね」
     ギィがシャドウを抑えていた仲間たちに礼を言いながら、炎を載せた大刀を水平に構えた。
    「さて、黒影の乗り手、あんたの番っすよ!」
     そのまま突きこんでいく。あきらがすかさず、
    「僕らは逃げないし、逃がさないヨー!」
     柱を伝って高く飛び上がりキックを見舞い、律は聖剣で切り込んだ。紅音は威勢良くギターをかき鳴らし、真琴は、
    「ねー、こないだのフクミミーのイベントとか参加しなかったのー……?」
     蝋燭から炎の花を飛ばし、
    「フクミミー? なんだそりゃ……ぐっ」
     問いかけに一瞬気を取られた敵に、紅葉の影が絡みついた。
    「くそっ!」
     ライダーは毒づきながら影を振り払い、
    「せっかく確保した現実世界の隠れ家を、よくもぶっつぶしてくれたな! お前ら許さねえ!」
     釘バットを振り上げて床に思いっきり振り下ろした。また大きくホテルが揺れ、前衛は床に叩きつけられたが、
    「同じ手をくらうかよ!」
     紅葉が咄嗟に身を入れ、
    「ありがとうっ……いいでしょう、白水剣も使いましょう」
     おかげで体勢を崩すことなく済んだ巧は、
    「キミはわかっているのですか? ダレを相手にしているのか?」
     すらりと白水剣【クラウ・ソラス】聖剣を抜き、ダイヤマークが明滅するシャドウの胸に深々と突き立て、
    「油断大敵ですわよ!」
     同時に後方から朱香のレイザースラストが放たれた。
     その間に真琴が、
    「フクミミーってのはミスター宍戸のことだよう……あの福耳をもちもちするまでまことさんネバーギブアップなのだー……」
     怪奇煙で前衛を立ち直らせる。
     素早く立ち上がった律は背後に回り込んで足下に刃を突き立て、ギィが愛刀の重たい一撃で押し込み、あきらが断罪ノ磔柱を捻りこむ。
     威力の強い攻撃を連続で受け、さすがのシャドウもわずかによろめいた。そして相変わらずヘルメットで隠れて顔は見えないのだが、目線の動きや武器の構えなどから、幾ばくかの焦りが見える。ここへ来て、全員揃った灼滅者たちの攻撃の威力を思い知ったのかもしれない。また積み重ねてきたバッドステータスも効いてきたのだろう。
    「ちょっと疲れてきたな……」
     紅葉がため息混じりに呟いた。彼も支配人側のディフェンダーとして、列攻撃などを何度か防いできたので、体力の消耗は少なくない。
    「……いただくぜ」
     ドレインを狙って切り込んでいく。
    「そうはいくか……ッ」
     シャドウは紅葉の鋭い踏み込みを躱そうとしたがわずかに及ばず、太腿から血が噴き出した。
     しかしライダーは傷に怯むことなく、
    「――お前は弱ってるはずだ!」
     まっしぐらにあきらに突っ込んでいき。
    「!!」
     黒々とトラウマを宿した拳が鳩尾をえぐりこんだ。
    「……うっ」
     あきらは数メートルもふっとび、ソファとテーブルをガシャガシャとひっくり返しながら落下した。
    「大変!」
     慌ててメディックが2人共駆け寄っていく。
    「あきらっ、無事っすか!?」
     シャドウから目を離さぬまま叫んだギィの声に、あきらが、
    「……大丈夫ダヨー、死んじゃうかもしれないケドね! ハハハハ……」
     細い声で答えた。死ぬことはなさそうだが、すぐには立ち上がれそうにもない。彼女はもともと体力はある方だが、数ターン以上もまともにシャドウとやりあったダメージは少なくなかった。
     残った4人は唇を噛みしめ、強敵と対峙する。
    「やるしかない!」
     4人は気力と体力を振り絞り、一斉にシャドウに飛びかかった。
     巧は足に炎を載せて滑り込み、律はシールドに載せた炎を叩きつける。ギィは黒いオーラをまとった刃を突き刺し、紅葉は死角に忍び寄って足下を狙う。
     手応えはあった……だが、ライダーは4人を振り払うようにバットを高々と振り上げ。
    「うりゃあああああ!」
     ズウゥ……ン!
     崩れるかと思うばかりに、激しくホテルが揺れた。
    「うわっ!」
     足をとられ、体勢を崩した灼滅者たちの包囲を、シャドウは強引に突破し……。
     ガシャーン!
     玄関のドアガラスの割れ目を、更に押し破る勢いでホテルから脱出した。
    「あっ……逃がさないヨー!」
     あきらがおいすがろうとしたが、残念ながら体が言うことをきかない。彼女はもとより、メンバーの大部分も、追いかけるほどの体力は残っていない。
     朱香が、冷静に提案する。
    「皆さん、今は深追いより、囚われている一般人を確実に助ける方が重要ではないでしょうか」
     そうですね、と巧が、
    「殺人鬼を倒して、シャドウ駐在所を潰したのですから、まあよしとしましょうか」
     仕方ない、と紅葉が渋面ながら。
    「一般人の解放もだが、ホテルを探索して、六六六人衆につながる手がかりも探しておきたいしな」
    「あ、まことさんも行くよー……」
     真琴が珍しく積極的に手を挙げた。彼女の場合は、コレクションしているアメニティを失敬したいというのもあるのだが。
     紅葉がため息と共に、小さな声で呟いた。
    「……逃げたシャドウ……イタチごっこになりそうだな……」
     それを聞きつけた律は小さく頷いて、荒れ果てたロビーを見回し。
    「ああ。Sweet dreams……とは、なかなかいかないようだぜ」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月16日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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