闇の書がもたらす病、それは厨ニ病

    ●とある古書店前
    「ふあっはっはっはっ!」
     古書の町、東京神保町のある小さな古書店から飛び出してきた中年男性が、唐突に高笑いを響かせた。
    「とうとう私の灰色の脳細胞が目覚める時が来た! 魔界からの波動が私を揺り動かし、悪魔的な読解力を発揮させようとしている!!」
     続けて彼は、大仰な身振り付きで語り出した。鼻ひげとツイードのジャケットが似合うダンディな紳士なのだが、語る言葉はなんだかとっても厨ニ風。
    「この力は、私が前世に魔王より与えられた特別な才能である! 漱石でも川端でも三島でも村上でもどんと来い! どんな名文・美文でも隅々まで分析しまくり評価し尽くしてくれるわー!!」
     男性はわけのわからないことを言い放つと、高笑いをしながら走り去った。
     後にはぽかーんと彼の背中を見送る通行人と……それから。
     若者のグループが、店の中から出てきた。
     その中の1人、夢幻・天魔(千の設定を持つ男・d27392)が苦々しげに口を開く。
    「見たか、今の紳士の厨ニっぷりを」
     集った灼滅者たちは頷いた。
    「彼はこの店の常連で、某大学の国文学の教授だ。もちろん元々は全く厨ニ病患者なんかではない、ダンディなナイスミドルだ」
     それが何故、急に厨ニ病を発症してしまったかというと……。
    「この店には、表紙を開いた者に厨ニ病をもたらす『闇の書』という魔書が存在する……という都市伝説があるのだ」
     都市伝説が広まるにつれ闇の書はパワーアップし、最近は3日に1人くらいの頻度で患者を出すようになってしまった。
     つまり先ほどの紳士も、魔書の哀れな被害者であるということだ。
    「この都市伝説は俺こそが解決すべきものだと天啓を受け、この店に10日ほど前からバイトとしてもぐりこんだ……ちょうど前のバイトが件の厨ニ病にかかり、辞めたところだったしな」
     厨ニ病自体は数日で収まるようだが、そんな恥ずかしい本のある店でバイトを続ける気にはならなかったのだろう。
     先ほどの紳士も病が癒えるまでの数日は、大学での講義にも学生の指導にも、研究にもいたく差し支えることであろう。
     集った灼滅者のひとりが首を傾げ。
    「バイトの間に、天魔くんはその闇の書とやらを探してみなかったの?」
    「もちろん探したさ。だが小さな店とはいえ、蔵書数は膨大だし、交代で入るバイト以外には、店主のじいさんがひとりでやってる店だから、お世辞にもキッチリ整理されてるとは言い難いのだ」
     ちなみに店主の頑固ジーサンは、闇の書の都市伝説自体に洟も引っかけてないので、大々的な探索は行えない。
    「それにだな! お前たちも見ただろう、先ほどの紳士は闇の書を手にとったから発症したはずなのに、店から飛び出した時にはすでに持っていなかった!」
     確かにそうだ。彼は怪しい本など持っていなかった。
    「つまり、闇の書は動くのだ。おそらく先ほども紳士が店から出る直前に、自ら棚に戻ったのだろう。俺が推理するに、姿形も変えていると思われる」
     つまり、闇の書は店内のどこにあるかも分からないし、どんな外見をしているのかも不明ということだ。
    「というわけで、片っ端から手にとって開いてみるしか発見する方法はないのだよ。わかったかね、諸君」
     仲間たちのじとーんとした視線が天魔に集まった。
    「……私たち、人海戦術のために呼ばれたのね」
    「しかも発見した人は、漏れなく厨ニ病になるというオマケつきか」
    「ふっ、俺たちにはヒールサイキックがあるじゃないか。それに、俺が完璧にお膳立てをしておいたから、思う存分探索できるぞ」
     お膳立てというのは、今夜は店主が古書店街の会合に出席するので、夜の閉店作業は天魔1人に任せられる。天魔はそのまま店内に居残って、灼滅者たちを店内に呼び込み、心おきなく本を探そうというのだ。
    「今は賑やかだが、ここらはビジネス街だからな、夜中になれば人気はなくなる。魔書を見つけたら店外に放りだし、成敗してしまおうじゃないか」
     店の前は広い通りであるから、ESPで人払いをすれば戦場として充分使えるだろう。
    「わかった、それでいこう」
    「体よく本の整理をさせられるカンジもしないでもないけど……放っておくわけにはいかないわね」
     微妙にしぶしぶ頷いた仲間たちに、天魔はえらそーに頷いて。
    「我らの力を会わせれば、闇の書など恐れるに足らず。よろしく頼んだぞ!」


    参加者
    色射・緋頼(生者を護る者・d01617)
    メリーベル・ケルン(プディングメドヒェン・d01925)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    星野・未来(虹の彼方の空の星・d26796)
    夢幻・天魔(千の設定を持つ男・d27392)
    日輪・日暈(汝は人狼なりや・d27431)
    神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)

    ■リプレイ

    ●魔書の住処へ
    「ククク……よく来たな戦士達よ! 刻は満ちた! 存分に探索するがいい!」
     夜更けの古書店を再訪した仲間たちを、夢幻・天魔(千の設定を持つ男・d27392)が、今夜に相応しい台詞で出迎えた。
    「あら厨ニ、楽しそう。折角ですし、わたしも最初から演じましょう」
     色射・緋頼(生者を護る者・d01617)は早速乗っかって、スッと表情と声色を変え、
    「ふむ、我等が全ての本を手に取れば、いずれ誰かが闇の書を手にしよう」
     と、雰囲気充分で応じた。
     神崎・榛香(小さき都市伝説・d37500)は、微妙に不安げに店に首を突っ込んで、
    「……思春期になるとできると言う例の……黒歴史ができてしまう前にどうにかしたいね」
     立ち並ぶ書架を見回している。
    「とにかく、件の本を探し出さなければ始まるまい」
     御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)が励ますように小さな背中を押した。
     殿の聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)は、店の前の人気が無くなった大通りを振り返り、
    「では、見つけ次第この地で集うということで」
     半ば開けられていた店のシャッターを、件の本を放り出しやすいよう、ガシャンと思い切りよく上げた。
     メンバーは打ち合わせしておいた通り、各々担当の書架へと散っていく。

    「本を隠すならば本の中……か」
     天魔は国文学専門書の棚の前に立ち、
    「力ある古き書への擬態よりも、新たなる書に化けていると見るべきか……?」
     まずは背表紙を眺め回したが、
    「おっと、その前に」
     もったいぶって片腕を上げると、
    「俺の『キラーワールドオーダー』の前に、弱者は近づくことなどできん!フハハハハハ!!!」
     妙なポーズで高笑いを響かせ、殺界形成を発動した。

    「海外の書物なら、外人の私が適任!」
     メリーベル・ケルン(プディングメドヒェン・d01925)は張り切って探索にとりかかった。
    「まずは『闇』『血』『死』とか、その手の人間を惹き付ける語句が表題に含まれる本をピックアップしてみようっと」
     怪しいタイトルの本を片っ端から抜き出していく。とはいえ古書なので、現代の本のようにキレイな装丁のものばかりではない。
     タイトルが剥げかけている布装の本をしげしげと眺め、
    「うーん、表紙でタイトルがわからない本も怪しいかしら……?」

     その隣の英米文学の専門書の棚を担当する白焔も、背表紙をざっと眺めながら怪しい本を抜き出していた……が、やはり外見だけでわかるものではなく。
    「あからさまに浮いている本が怪しいとも限らないか……」
     仕方ない、とばかりに上の棚から虱潰しに手にとりはじめた。

    「――闇の書の波長とわたしの魂が共鳴すれば自ずと至れるはず」
     緋頼は厨ニノリのままに、辞典・事典の書架の前で目を閉じた。深呼吸して精神統一し、指先で本の背に触れ、闇の波長を探ろうとしている。
    「最も力の源を感じる本が闇の書<アカシックレコード>後はこれを月の下で解放すればよい……」
     ひととおり触れたところで、ぱちりと目を開き。
    「……やっぱりノリだけじゃ無理かしら」
     肩をすくめ、結局地道に1冊ずつ調べ始める。

    「第一話、封を切ると祟られるという巻物のはなし……」
     榛香は百物語をぶつぶつと語りながら、古典の棚から、それっぽい本をどんどん取り出し、積み重ねていた。
     一通りピックアップし終えると、中身を確認しつつ書架に戻していく……と。
    「あ、これ興味ある」
     彼女の作業の手を止めたのは、『日本霊異記』を子供用に易しくまとめた本だ。
    「へえ、面白い話がいっぱい……」
     この手の本につい読みふけってしまうのは、七不思議使いとしては、致し方のないことか。

    「本を読むのは好きだけどね、闇の書、か。ふ、馬鹿馬鹿しい……」
     日輪・日暈(汝は人狼なりや・d27431)は前髪をふぁさっとかきあげると、和本の棚に背中を預けた。白い指でそれらしき本をパラパラとめくり、ふ、とため息を吐く。
     視線が本から逸れ、開け放たれたシャッター越しの夜の風景に投げかけられる。
    「どんな闇よりもこの夜の方が怖い……あまりに静かで飲み込まれてしまいそうだ」
     呟いてから軽く首を振り、古びた巻物に手を伸ばす。

    「くっ……奴のステルス能力も侮れんな」
     凛凛虎は文庫棚の前で呻いている。一通り背表紙を眺め終えたところだが、これと言って怪しい本が見あたらなかったのだ。
    「仕方ねぇ、一冊ずつ見ていくか」
     下の棚から数冊引き抜き、片っ端から開いてみるが、
    「……うっ、頭が割れそうな時の羅列が……っ」
     すぐに頭を抱えてしまった。文庫は冊数も多いし字も細かいから大変かも。

     近現代文学担当の、星野・未来(虹の彼方の空の星・d26796)は、芝居がかった仕草で1冊の本を取り出した。本来それほど厨ニキャラではない彼女だが、一生懸命なりきって探索に臨んでいる。
     彼女が何十冊目かに手に取ったのは『現代詩集』という味も素っ気もないタイトルの、大学の参考図書っぽい古びたアンソロジー詩集だ。だが、詩集であることは書いてあるのに、編者も出版社名も見当たらない。
     手に取ると、重さといい、カバーの手触りといい妙に手にしっとりと馴染むのに、表紙のタイトルも著者名も出版元も薄ぼけていて良く読めない。未来は目をこらしながら表紙を開いた。
    「変な痛み方してる本だね……うっ!?」
     ブワッ。
     本の中から強力な闇のエネルギーが吹き上がって彼女を包みこみ――未来は、ふふふふ、とらしくない笑いを漏らしながら顔を上げた。
    「――どうやら、匣猫幻像(シュレディンガー・ヴィジョン)は私の元に確定したようですね。なるほど、これが読者を狂気の渦に叩き込む『闇の書』……」

    ●闇の書
    「……しかし、この程度で灼滅者(スレイヤー)を惑わすなど笑止千万。さぁ――終焉を告げる演劇の開幕なり……イッツ、ショータ……あ」
     闇の書の影響と即座にわかる台詞を聞きつけ、仲間たちは慌てて未来の元へと駆け寄った。そしてその台詞に乗っかるように、
    「ここにいたのか、闇の書! 我が『予言者の瞳』ビジョンは正しかった!」
     メリーベルが『闇の書』を未来の手からもぎとると、パンと勢いよく表紙を閉じ、
    「えいや!」
     思いっきり外にぶんなげた。
     メンバーも本を追って店から飛び出す。
     すでに殺界形成と百物語が効いているのだろう、外の通りに人影は無かった。ただ、道路の真ん中に放り出された本から、むくむくと夜闇を切り取ったような影法師がわき出していた。
     灼滅者たちはその様子を観察しながら、戦闘態勢を整えていく。
    「術者無くとも自らの意思で動き、力を行使出来るとは……これ程の力ある書を焼かねばならないのは少し惜しいわね」
     と、メリーベルが言うと、
    「読まれずに消え行く悲しき本、か……文学的では有るけどね」
     日暈が応じ、天魔は、まずは闇の契約を自らに施し。
    「ククク……血が騒ぐな。この『闇の黙示録』も血に飢えているようだ……」
     厨ニ対応も万全のようだ。
     凛凛虎が握りしめた拳にエナジーをこめながら、魔書を手にふらふらと立ち上がった影法師を睨みつけ、
    「貴様の道標を絶って殺ろう。行くぞ! 雷神よ俺の拳に宿れ! 雷神撃!(ゴッドサンダー)!」
     飛びかかったのを皮切りに、灼滅者たちは闇の書との戦いへと突入していく。
     白焔も雷を宿した蹴りで下から穿ち、華麗に魔女衣装に変身した緋頼は、
    「光の矢を食らうがよい!」
     魔力の矢を狙い澄まして撃ち込み、
    「俺の子供達も……君という闇を喰らいたがってる」
     日暈は影の狼を解き放った。メリーベルも闇より黒い影を放って縛り上げ、そして榛香が流星群のように矢を降らせると。
     戸惑ったようにやられっぱなしで突っ立っていた影法師が魔書を開いた。
     ボウヮッ!
    「うわっ!?」
     開かれた本から炎が強烈な勢いで噴き出した。
     劫火は前衛を生き物のように包み込む……しかし、その炎の中から、
    「ククク……これしきの炎に滅ぼされる我々ではないわ……地獄の獣が封印されたという伝説に謳われし『黙示録砲』を受けてみよ!」
     天魔が十字架から光の砲弾を放ち、
    「その程度では俺を殺しきれんぞ……暴君の拳(タイラント・ハンター)!」
     飛びだした凛凛虎が鋼鉄の拳を見舞う。皮肉げな笑みを浮かべた白焔は、
    「参ったね、そんなに挑発されたらやりかえすしかない……噂なら、雑音に戻るがいいさ」
     ポケット片手に逆手のナイフを一閃し、日暈は、
    「残酷だね、出会わなければ、終わらなかったのに」
     縛霊手を構えて飛びかかっていく。
     日暈の愛犬・美影のヒールで、書発見のダメージから立ち直った未来は、
    「使命を背負う同士たちよ、聖なる癒しの風を授けよう!」
     厨ニ台詞&ターンしながら聖剣を抜き、前衛に向けて癒しの風を吹かせたが、つい首を傾げてしまう。
    「(前衛のみんな、副作用が出ているのかな……?)」
     厨ニっぽいのは間違いないが、いつも通りとも言える。
     厨ニパワーは炎をもしのぐのか。
     まあとりあえずそのあたりはおいといて、回復の間にも、縛霊手で抑え込まれている影帽子を緋頼が、
    「赤き刃を受けてみよ!」
     緋色のオーラを宿した刃で殴りつけていた。続いてメリーベルが槍を捻り込み、榛香がメスを振りかぶる……と。
     影が再び本を開いた。すると邪悪な龍の紋章が放たれて、
    「きゃあっ!」
     中衛の2人の華奢な胸へと刻み込まれてしまった。
    「大丈夫か!?」
     仲間たちは倒れ込んだ2人に思わず駆け寄るが、
    「――ハハハハハ!」
     メリーベルは胸を痛そうに押さえながら立ち上がり、高笑いを響かせた。
    「これしきの攻撃、私の偉大な闇の力を増幅させるにすぎぬわ。闇の書を追って、世界中を旅し、この地にたどり着いた異国の魔女たる私のな!」
     大げさな動作で指輪を掲げて弾丸を打ち込み、榛香も、
    「ふふふふ……この闇は愉快だ。まさかの書とでも呼びたいくらいだな」
     少女に似合わぬ含み笑いを漏らしながら、
    「僕は万人の恐れる闇を従えし者……その名は神崎榛香だ!」
     やたらリアクションの大きな炎のキックを蹴り込んだ。
     未来は、2人に向けてヒールサイキックを発動しながら呟いた。
    「……厨ニがもたらす闇の力、恐るべし」
     
    ●厨ニパワー全開
     攻撃力はともかく、闇の書の攻撃による副作用は色々とやっかいではあったが、それでも戦闘開始から数分も経つと、ダメージが蓄積してきた影法師は街頭の灯りが透けるほどに薄くなってきていた。
     それでも灼滅者たちは間断なく仕掛け続けていく。
     白焔は脚に炎を宿して滑り込み、
    「ふははは! 今、世界は俺の物となった!!」
     凛凛虎はオーラを宿した拳で連打を見舞う。
    「どちらの闇が深いと思う? 俺に寄り添い続けた……この影の闇と」
     日暈は影の狼をけしかけ、
    「禁呪の力を凝縮せし矢を受けるがよい!」
     天魔はマジックミサイルを撃ち込む。
     仲間たちの厨ニ絶好調! な台詞と動作に、メディックの未来は、
    「(もしかして副作用が治ってないのかな……?)」
     と心配しているが、ほとんど地であろう。
     緋頼もマジックミサイルを撃ち込んだが、生意気にも魔書の使い手はそれをぐにゃりと体を歪ませて避け、武器を高々と掲げた。表紙に五芒星が現れ、そこから放たれた光線が、
    「あっ!」
    「緋頼!」
     思わず白焔が振り向いたが、
    「――導かれし仲間と連携し、敵を一手ずつチェックメイトへ追い込む……仲間が創造する射線(みち)に従い確実に打ち抜くのみ……」
     緋頼は傷をものともせず、不敵な笑みを浮かべてゆらりと立ち上がり、
    「魂の伴侶との連携を見るがよい!」
     再びマジックミサイルを放った。連続だったのでまた影法師は魔弾を避けたが、避けたところには咄嗟にパートナーの意を汲んだ白焔が待っていた。
     すかさず叩き込まれた白焔の拳の連打に、ゆらりと影が薄れ揺らいだ。
     ――今だ!
     灼滅者たちは明らかに弱っている敵に殺到していく。
    「闇の書は、聞いていた以上に恐ろしい力を持っていた」
     メリーベルが大げさに首を振りながら影を放つ。
    「深淵を識る我らとて正気でいられぬとは……!」
    「だが終わりの時間だ。彼に終焉を上げよう」
     日暈の狼が牙を剥くと、天魔がフ、と笑いを漏らして、
    「この俺に見つかったことが、貴様の敗因だ……至高の絶技を見るがよい!」
     十字架を振り上げて飛びかかる。
     影法師は苦し紛れのように本を開き、また前衛に炎を放った……が。
    「ここが我等の運命を決める、闇の定めし分岐点であろう!」
     勝負処と見た未来は回復を美影に任せ、漆黒の毒弾を撃ち込んだ。
     榛香が影法師の懐に入って腕の腱にメスを突き立て、緋頼が目くらましのように派手に脚を振り上げて炎のキックを見舞うと、影法師はぽろり、と魔書を取り落とした。
     その炎をかいくぐるように白焔が一気に間合いを詰め、
    「……元より壊れ易いもの。月明かりに千切れて消えろ」
     影ではなく、魔書本体の装丁を切り裂いた。そこに凛凛虎が、
    「貴様をあの世に送ってやる。ヘルデストロイヤー!!」
     満身の力をこめてTyrantを振り下ろし、魔書を一刀両断!
     ボウッ!
     煙のように薄らいでいた影法師は霧散し、闇の書は赤々と燃え上がった。
     まるで焚書のように――。
     アスファルトの上には焦げ痕さえも残らなかった。

     炎が燃え尽きるに従い、皆のテンションも落ち着いていき、消えた頃には、
    「ふう、これで妙な事件も無事解決ですね……白焔、今夜のわたしどうだった? 可愛い、綺麗、かっこいい?」
    「いつもと違う緋頼も新鮮だった。魔女な衣装も含めて、かわいかった。が一番近いかな」
     緋頼と白焔は通常モードで仲良くしていたが、
    「――うわああああぁぁぁぁぁぁ」
     未来が突然顔を手で覆ってしゃがみこんだ。
    「厨二病にされるなら最初から厨二病で挑めばいいじゃないって思って演劇のノリで頑張ったけどもう無理ぃ……恥ずかしすぎるぅ……」
     榛香が自分も顔を赤くしながら未来を慰める。
    「……と、とにかく忘れよう。何もなかったんだと」
     凛凛虎はふと気づいて、
    「なあ天魔、こんなにはしゃいじゃって、バイト大丈夫か?」
     問われた天魔は一瞬ギクリとし、
    「お、俺のような千年にひとりの逸材がクビになるわけなかろう。はは、はははは」
     一応言い返したものの、なんか笑いが乾いている。
     そういえば人払いのESPは念入りにかけたが、サウンドシャッターは使わなかった……もしかしたら音が漏れていたかも……戦いっぷりもやたら派手だったし!? 
    「ま、とにかく」
     メリーベルがぽん、と天魔の背中を叩いた。
    「閉店作業はしっかりやって、何事もなかったかのように始末してから帰るわよ!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年12月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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