武蔵坂防衛戦~跋扈するもの

    作者:長谷部兼光

    ●経緯・まとめ
     来るデスギガス勢力との決戦を前に、武蔵坂が朱雀門に共闘出来ないかと話を持ちかけたのが去年末の話だ。
     その交渉の際中、爵位級ヴァンパイアがシャドウとの決戦に合わせて大軍を率い、武蔵坂に攻め込む計画があると朱雀門生徒会長はリークする。
     黒翼卿の例もある。ヴァンパイア達がこちらの決戦を見計らって襲撃を仕掛けてくる事は予測していたが、今回の交渉でウラが取れたと言ったところだろう。
     そして交渉の結末として、この計画を逆手に取って爵位級を奇襲しないか……と、朱雀門生徒会長――ルイス・フロイスは武蔵坂に提案してきたのだ。
     曰く、朱雀門が『武蔵坂学園がソウルボードで決戦を行う』という偽情報を流し、『朱雀門の軍勢が武蔵坂の奥まで侵攻する』危機を装えば、爵位級の軍勢が怒涛の如く攻め寄せてくるだろうと。
     この提案に対し、武蔵坂の取る選択肢は三つ。
     第一に拒否。即ち、朱雀門の撃退。
     第二に承諾。内応した朱雀門と共闘し、爵位級の撃破を目指す。
     第三に陥穽。朱雀門勢を引き入れた後にだまし討ち、その後、侵攻してくる爵位級ヴァンパイアをも撃滅する。

     いずれの選択肢にもメリット・デメリットは存在するだろう。
     故に意見を交わす場を設け、年末年始を跨いで討論を重ねた灼滅者達が出した答えは……。

    ●コウモリ
    「承諾、ですね。朱雀門と協働し、爵位級ヴァンパイアを誘き出して撃退及び灼滅を目指すものです」
     この戦いで、数多くの爵位級を灼滅する事が出来れば、ヴァンパイアとの決戦でかなり優位に立つ事になるでしょう、と、そう説明する見嘉神・鏡司朗(高校生エクスブレイン・dn0239)の表情は何処か険しい。
     シャドウとの決戦時に爵位級から襲撃を受ければ、恐らく対応は難しい。
     それを考えれば、この選択は安牌と言えなくもないのだが……。
    「問題は、朱雀門が信用に足る相手かと問われれば、『否』と答えるしかない点です。彼らは同種・同族を陥れようとしているのですから、そんな相手に隙を見せたなら、驚く程あっさりと裏切ってくるかもしれません」
     アブソーバー・リベレイター・エクスブレイン・ラグナロク。
     仮に朱雀門が裏切った場合、その時点で既に学園内への侵入は完了しているのだ。
     言うまでもなく被害は甚大なものになるだろう。
     そうさせない為にも、決して警戒は怠れない。
    「……ですが、今回の共闘はあくまで爵位級ヴァンパイアを討つためのものだと言う事をお忘れなきよう」
     朱雀門を警戒しすぎるあまり、思うように身動きが取れない結果に終わってしまっては、それこそ骨折り損だ。

     爵位級ヴァンパイアの有力敵は、
    『バーバ・ヤーガ』
    『殺竜卿ヴラド』
    『無限婦人エリザベート』
    『黒の王・朱雀門継人』
     そして彼らに従う取り巻きの吸血鬼や眷属達。
     爵位級ヴァンパイアを撃退するには、三から五班以上のチームが力を合わせる必要が有り、更に灼滅を視野に入れるなら、倍以上の戦力が必要になる。
    「作戦次第ではより少ない人数で灼滅に追い込む事も可能でしょう」
     爵位級ヴァンパイアと配下の吸血鬼戦力を分断できるか否かが成否のポイントだ。
     ただし、一部の灼滅者が見た予兆から察するに、黒の王は朱雀門からの情報を疑っている様子なので、彼を撃破するためには相応の工夫が必要になるだろう。
     ……身中の虫を暴れないように抑えつけながら、やるべきことは多くある。
    「努々、油断はなされぬよう……ですがどうか、無理はなさらず」


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)
    果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)
    雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)

    ■リプレイ

    ●息を潜めて
     チームで定めた目標は、護衛が必要な人員の一括警護。
     避難準備を整えるにしろ、二チーム含む計十六名の灼滅者だけでは少しばかり骨が折れよう。 
     しかし、然したる混乱もアクシデントも無く、あらかじめ告知していた避難場所への移動を終えると、その甲斐もあったと文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は一時安堵した。
     避難場所――防衛拠点として灼滅者達が選択したのは、敵の侵攻開始場所から離れており、アブソーバーに至る道からも外れており、瑠架がいる場所からも遠い地点にある地下教室。
     神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)は初め、ラグナロク以外の教師・エクスブレインを学園外へ退避させる案を考えた。が、爵位級の動きに乗じ、予知されていない範囲で他勢力が何かしらの動きを見せる可能性は捨てきれない。
     学園外の退避では彼らの安全は保障出来ないかもしれない。
     なら、非戦闘員は学園外に散らばるよりも学園内の一所に集めた方が良いだろう。発想の転換だ。
     だが、そうなると必然的に大所帯。全員収容するには二部屋に分ける必要が出てくる。
     地下階の壁を除き、二室を一室に繋げようとも考えたが、建物の耐久性の問題からそれは避け、それぞれ一室を一班で担当する……と言う形を取る事になった。
     いずれにせよひとかたまりには違いなく、間取りが灼滅者の機動力を阻害する結果には至らない。
     ……地上では、そろそろ戦闘が開始されている頃合いだろう。
    「さて、飲み込んだ毒がどっちに効く事になるか、だな。油断せずに行こうぜ?」
     そう言って、天方・矜人(疾走する魂・d01499)はマテリアルロッド・タクティカル・スパインで教室の壁を軽く叩く。地下階の壁面は固く、冷たい。
     自らの命を守る為に身を潜め、息を殺す。
     それもまた、一つの戦いに相違あるまい。
    「誘いこんで丸ごと叩く、リスクはでかいがその位は狙っていくつもりじゃなきゃな!」
    「ああ。そのためにもコッチが全てを死守する。成果は仲間が得てくれる筈だ。しかし……朱雀門も大きく出たモンだな」
     熱意漲る淳・周(赤き暴風・d05550)に、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)も強く頷いた。
     非戦闘員を守り、憂いを断つ。
     それが、最前線で戦う仲間たちへの最大の援護となるはずだ。
    「まぁ……こんなもんだろう」
     室外にて、果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)達は協力し、調達しておいた土嚢と、スクラップと、そして地下階にあった備品を拝借し、地上へとつながる通路を塞ぐ。 
     ぎっちりと積み上がったバリケードを音も無く突破するのは、ダークネスと言えど至難だろう。
     姿を隠すESPはお互い通用しない。
     上階から天井を破壊して強引に侵入する事もダークネスなら可能だろうが、異音があればまず気づく。
     襲撃があるにせよ、この場に灼滅者がいる限り、無策のまま奇襲を受ける事はありえない。
    「雲無、そっちはどうだ?」
     視界が狭まり、何処か見えぬところに敵が潜んでいるかもしれない。奈落は『ハナ』の利く雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)に尋ねた。
    「んー、今のところは何も。近くに敵はいないみたいだ」
     半径三十メートル以内に業の匂いは無い。
     同時に夜々は無線機も確認するが、現状、どこのチームにも大きな動きは無いらしい。
    「討伐は他はお任せして守りを頑張りますか」
     御影・ユキト(幻想語り・d15528)は、警戒も兼ねて周囲をぐるりと目視する。
     この通路と地下教室は、敷地面積の問題から地下に作られたモノに過ぎない。
     特殊な防御設備無く、秘匿もされず、武蔵坂に通う生徒なら誰でも知っている。
     換言すれば、武蔵坂出身の闇堕ち灼滅者達も当然知っている事になるのだが。
    「……そうなると、学園がバトルフィールドでも気は抜けませんね」
     ユキトが何気なく火災報知機に目を移した直後、もう一班が守っている教室から、俄かにざわめき声が漏れ始める。
     襲撃の類ではないだろう。そうだとするなら、静かすぎる。
     とすると、室内で何かしらの口論が起こったのか。
     しばらくするとざわめき声が収まって、おもむろに教室の戸が開くと、そこに立っていたのは……。
    「校長……?」
     誰ともなく、その名を口にした。

    ●本質
     夜々達に付き添われ、校長――緒形・時雄は此方の教室にやってきた。
     思えば、こんな少人数で校長と対面するのは初めてだろうか。
     校長は灼滅者達に深々と頭を下げると、こう切り出した。
    「我々の安全の為の配慮、本当に有難く思う。ここなら、襲撃の心配は無いでしょう。私達は大丈夫ですので、皆さんは、爵位級ヴァンパイアの迎撃に向かってください」
     まるで急かすような校長の発言に、それはおかしな話だろうと異を唱えたのは矜人だった。
    「外から攻めて来てるのは爵位級、中に居るのは朱雀門。そしてココはバリケード張っただけの単なる地下教室だ。どう贔屓目に見積もったって、安全だとは言い切れないぜ?」
     矜人の主張は正論であり、この場に集った灼滅者達の総意でもあった。
     しかし校長はそういう問題ではないのです、と首を横に振る。
    「今こそ、黒の王を討てる千載一遇の好機なのです……繰り返しになりますが、私達の事は気にしなくて構いません、地上で爵位級と戦っている彼らの援護に向かってください」 
    「『安全』と『気にしなくて良い』はまるっきり別の意味合いだろう。矛盾して……いや、違うな。後者の方があんたの『本音』なのか」
     奈落のそれは直感だった。だが真実である確信する。確信した理由は簡単だ。
     緒形・時雄。恐らく全体で見れば彼と奈落とは似ても似つかぬほどかけ離れているのだろうが、それでもある一部分だけ、奈落と共通しているモノがある。
     それはダークネスへの……。
    「仮に私達が此処を離れたとしよう。その結果敵と遭遇した場合、エクスブレインたちはどうなる?」
     摩耶の問いに対し校長は、
    「エクスブレインはサイキックアブソーバーの近くにいなければ予知はできません。従って拉致されても脅威にはならないでしょう。それに、警護に二班は多すぎる。最低でも一班は地上の援護へ回った方が良い」
     そんな訳は無い。防衛と監視、要人警護に回ったのは計七班だが、朱雀門がこちらを全力で裏切った場合、戦力的にどうしようもなくなる。
     なおかつ、前線も人手が足りてるとは言い難い。
     皮肉な話だが、ある程度朱雀門の『良識』に期待しなければ現状は維持できない。
     それに灼滅者がどういう仕組みでダークネス達の予知を無効化して動いているか、とうに知れているだろう。
     拉致されずともエクスブレインを根絶やしにされれば身動きが取れなくなるし、何より『主任さん』であるところの天野川・カノンの死はそのまま人造灼滅者の死を意味する。やはりここから動くわけにはいかない。
    「それ以前に、ラグナロクが拉致されて、闇堕ちにさせられるかもしれない。そうなったら目も当てられない事になるだろうし」
     と、周はそう抗弁するが、校長は明瞭と、
    「その可能性はゼロでは無いですが、その前に、私を含め、ラグナロク自ら命を絶てば問題は無いでしょう」
    「な――!」
     そう、断言し、咲哉はその未来無き言刃に絶句する。
     刹那、隣に居た納薙・真珠を見ると、彼女は作戦前に咲哉が渡したお守りを強く握りしめ、小さく震えながら、それでも意を決したように大丈夫です、と儚く笑んで見せた。
    「(覚悟は出来ている、と言う事か……。だが……!)」
     避難した皆に状況を説明し、会話等で不安を取り除こうとしていたのに、校長がこの態度では、元の木阿弥だ。
     夜々がラグナロク達の様子を伺うと、凄まじい眼力で無言のヘルプサイン送ってくるラブリンスター以外は皆、大なり小なり真珠同様の覚悟を決めているらしい。
     無論、気持ちのいい光景ではない。
     隣の教室がざわついていたのもこの問答のせいだろう。
     守ると言っているのに、助けると言っているのに、何故、校長は拒絶するのだろうか。
     何故、何故、なぜ――。
    「(――ああ、そうか。この人は……)」
     人の感情の機微に聡いユキトは、これまでの校長の言動から、ふと彼の本質を理解する。

     彼の本質は『狂信』だ。
    『灼滅者が世界を救う存在であると、狂おしいまでに信じている』

     だからこそそれを阻む強大なダークネスは憎悪すべき敵であり、そして自分達の存在が灼滅者の足枷になってしまうのなら、同様に、そうなのだろう。
     それは閾値を越えた究極の自己犠牲だ。灼滅者に殉じる、と言っていい。
     通りで自身の命をリベレイターの弾丸とする事に、何の抵抗も無い筈だ。
     ……支配された世界に気付き、抗い、結託し、喪い、遺され、しかし絶望に沈まず。
     この男はきっと、その心を、灼滅者と言う一筋の『希望』で埋めつくしてしまったのだろう。

    ●理想
     だからこそ、灼滅者達は示さなければならない。
     校長の言は、ある種の諦観であると。
    「何度言われたって、無理なもんは無理さ。優貴先生も死地から戻って来たトコだ。ソウルボードにはコルネリウスとオルフェウスも抱えてる。これ以上危険な目にゃ合わせられねぇ」
     故に、布都乃の言葉は校長に対する最後通牒だった。
     皆、こんなところでお陀仏は悔しいだろうと、そう発破をかけたのだ。
    「その通り。上の奴らが勝つ為に戦うなら、私達は負けない為に戦う。それに、私は悪党だからな。校長がそんなに守るなっていうなら……俄然守りたくなってきた」
     夜々はにんまりと、意地の悪い笑みを浮かべる。
    「おっと、悪党に先を越されたか。だが、ヒーロー的にも賛成だ。ここで誰かかを死なせちまったんじゃ、どんな顔してバレンタインや卒業式に顔を出せばいいのかわかったもんじゃねぇ……それに、『救う為に切り捨てる』ってのは、どうにも、な」
     夜々に同意しつつ、矜人は何かへ思いを馳せるように、そう語った。
    「なんてこった。これじゃあ悪党とヒーローの談合だ! ……けど、まあ、アタシがそうしたいから救けようとするだけの話だし、ここで引いたらきっと大切な人達が居なくなる」
     ならば不退転。どこにでもいる正義のヒーローがもう一票と、周も矜人達の企みに加担する。
    「そういう事だ。私達は灼滅者(わたしたち)の力だけで今まで戦って来たんじゃない。この先、灼滅者だけが居たって仕様がないんだ。『ここであなた方を失うと、誰かの心が痛む』。感情論に過ぎないのかもしれないが、それだけでは皆を守る理由としては不足だろうか?」
     摩耶は凛と、校長の瞳を見据え、言い放つ。
     ……そう。『感情』だ。
     咲哉は考える。
     校長の言い分はある種正しい。人間的な感情を排して機械的に目的を達成するなら、最善最速であろう。
     だから、引けない。
     ここで真珠達ラグナロクを一瞬でも見捨てれば、『灼滅者の足枷となりうるラグナロクは見つけ次第鏖殺するのが最善だった』と追認することになる。
     それは絶対に違う。
     灼滅者は人間だ。
     ラグナロクも人間だ。
     彼女達と共に育んだ数々の思い出は、死出の旅路の餞では無い。
     自死する結末を迎えさせるために、彼女達を救出したのでは決して無い!
    「真珠を護る為に、真珠が笑顔で居られる世界を護る為に、俺は戦う!」
    『必ず護る』。咲哉のその決意は、真珠が握るお守りに込められた『想い』同様、決して揺らぎはしない。
     ……ありがとうと、傍らから小さくそう聞こえたのは、きっと聞き間違いではないだろう。
    「エクスブレイン・教師・ラグナロク、そして灼滅者……。なぁ、校長。皆が今ここにいるって事実は、あんたが創った武蔵坂学園の『あゆみ』そのものでもあるんだ」
     ウイングキャット・サヤを肩に乗せ、布都乃が校長を諭す。
    「だから。その足跡を易々と消してしまうような事は……しないで下さい」
     そしてユキトが布都乃に続いてそう言うと、校長は灼滅者達の言葉をゆっくり咀嚼するように、暫し、沈黙する。
     ……これで良い。
     悪夢のような現実を灼き払うのは何時だって……若者たちの、燃えるような理想(ゆめ)なのだから。

    ●跋扈するもの
     校長が沈黙し、しんと静まり返った室内で、夜々は無線を受け取った。
     相手は朱雀門監視班、ではなく、監視班を通じて朱雀門が交渉を持ちかけてきたと言うべきか。
     曰く、内応がばれるため、爵位級との戦闘の前面に朱雀門が立つことは出来ない。
     だが、サイキックアブソーバーや要人警護について、こちらから戦力を融通すれば、爵位級に対する武蔵坂の戦力を増やすことができる。
     融通する戦力は武蔵坂の部隊の半数以下で、必ず武蔵坂から来ている闇堕ち灼滅者を部隊に入れるがどうだろう。
    「だって。どうする?」
    「……灼滅者に賭けるその意志は買うがねぇ」
     布都乃が嘆息し、
    「参考までに、校長。あんたならどう答える?」
     奈落が校長に訊くと、アブソーバーはともかく、此方に関しては引き受けるべきだと答えた。
    「それでもし朱雀門が裏切ったら?」
    「勿論、自……」
    「ああ、わかった。堂々巡りだな。俺もダークネスを殺って殺りたいのは山々だが、却下だ」
     もう一つの警護班が前線に回っていないから、結果として校長は短時間で二度論破されたことになる、が、その思考はで全くぶれていない。
     校長は隣にも朱雀門の交渉を伝えると言って移動したが、結果は見えているだろう。
    「奈落ってさ、意外と面倒見良いよな」
    「ああ……いや。うん? ちょっと待て。お前に言われるのは妙に釈然としない気がするぞ。天方」
     骸骨の仮面は呵々と笑う。 
     その後、再び無線機が鳴り、爵位級が撤退したとの報が入る。
     大方の危険は去った。地上では掃討戦が始まっているが……。
     咲哉が事前に行った聞き取りで、ラグナロク達は往時の力を出せ無いと判明している。
     即ち雑魚一匹紛れ込めば、致命傷になる。
     爵位級を討つ機会を逸したからか、校長もこれ以上は何も言って来ない。
     警戒を解く理由は一つとしてなかった。

     結末として、警護班は一切戦わずに作戦を終える。
    「襲撃を仕掛けてくるなら闇堕ち灼滅者だと思ったが……取り越し苦労だったか」
     些か拍子抜けではあるなと摩耶は正直な感想を口にする。
    「でも、誰も怪我していないのですから、最高の成果ですよ」
     と、ユキトは皆の安堵する様子を見て顔を綻ばせた。
    「そうだな。もし銀夜目部長が居たら……」

     瞬間。
     ぞくりと周の背に言いしれぬ悪寒が走る。
    「……え? 裏切り? 朱雀門『を』!? 誰が……えっ」
     不意に、裏切りの報を受け取った夜々と周の視線が交わる。
     跋扈するものの暗躍は、今まさに、始まったばかりだったのだ。
     

    作者:長谷部兼光 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年1月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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