●戦の陰で
「まずは第三次新宿防衛戦、お疲れ様でした」
春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は集った灼滅者たちに深く頭を下げた。
「ゆっくり休んでほしいところなのですが、六六六人衆に不穏な動きが見えまして、その暇はないようです」
暗殺武闘大会の予選を通過したダークネス達が、各地に集結を始めているという情報が入ったのだ。
ダークネスが集結する地域は15ヶ所まで判明している。だが、彼らがその場で殺し合いを始めるのか、ルールを設けて試合を始めるのか、或いは、全く別の作戦を遂行するのかは、現時点では判明していない。
「サイキックアブソーバーによる予知ができない今、詳しいところまではわかりませんが、なにか良からぬ行動を企んでいることは、間違いありません。お疲れのところ大変申し訳ありませんが、集結したダークネスの動きを偵察した後、状況を確認し、適切な対応を行えるよう、現場に向かってください」
●幽霊屋敷の松
「このチームに担当してもらうのは、山の中にある洋館です。とは言っても、もちろん廃墟なのですが」
東京都の西の端、山梨県境に近い山中にその洋館はある。バブル時代に物好きな成金が建てたものだが、今は誰も住んでおらず荒れ果てたままだ。
地元では幽霊屋敷として気味悪がられ、時折肝試しの若者や子供達が侵入するくらいのもので、管理している不動産業者からも見捨てられているような廃墟である。
「ただ、この洋館の庭には1本の松の大木がありましてね」
臥龍松と呼びたくなるような、不気味なほどうねりくねった樹齢200年とも言われる古木である。
「松は、もともとこの山のこの場所に自生していた木でした。洋館を建てた成金は、この松を気に入ってこの土地を選んだようでして、松の傍らには立派なガラス温室を建てたりもして……もちろん今は骨組みしか残ってませんけど」
灼滅者たちは現場の光景を想像する。山に飲み込まれそうなほどに茫茫と荒れ果てた洋館と、その広い庭。不気味に横たわる龍のような松の古木。傍らの温室のわずかに残った割れガラスが冬の陽光に陰鬱に光る。そしていずこからともなく集まってくる、異形の強者共……。
「今回のダークネスは、どうやら館そのものというよりは、その松あたりに集まっています」
その数は5~8体程度だが、正確にはわかっていない。
「集結するダークネスは、それぞれが予選を勝ち抜いている強者なので、複数を一度に相手取るのは危険でしょう。暗殺武闘大会が続いているならば、彼らは必ず戦い始める筈なので、戦闘に介入するか、あるいは、勝敗が決定した後に勝ち残ったダークネスを灼滅するか……その判断は現場で状況を見て判断してください」
と、そこまで言った典はふと顔を上げ、
「とはいえ、情報不足の折ですので、ただ単に彼ら同士で戦うために集まったと決めつけることはできませんよね」
そのあたりも気をつけて観察し、状況判断すべきであろう。
典は、ぎゅっと渋面を作り、
「情報不足で申し訳ないのですが、現状お伝えできるのは以上です。わからないことだらけですので、まず現場でしっかり状況を確認して行動を決めるようにしてください……場合によっては、戦闘を仕掛けずに撤退する勇気も必要でしょう」
典はもう一度、深々と頭を下げて。
「難しい判断を迫られることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
●7人のダークネスが待つものは
「……アイツらは何を待っているんだ」
準備万端で屋敷内に忍び込み、庭の監視を始めてからしばしの時間が経ったが、集まったダークネスたちに動きはない。
ちなみに、屋敷や敷地内に他のダークネスが潜んでいるようなことはなく、館内と山の方から庭を見下ろせる斜面の二手に分かれ、良い監視場所を確保することができた……つまり、今回は灼滅者を誘き寄せるようなたくらみではないということだ。
件の松の木を7体のダークネスが取り囲んでいる。彼らは装備や武器を整え、戦闘準備は整えていたが、一向に戦い始める様子はない。その得物はナイフや斧など様々であるが、多くが六六六人衆であるようだ。
2チームの灼滅者たちは、インカムで会話をやりとりしながら、じりじりと監視を続けている。
「何らかの共同作業を行おうとしているのかしら?」
「それはどうでしょう、なにせダークネスですからねえ」
動物変身で接近して彼らの会話を盗み聞きしてきた仲間によると、ダークネスたちは信頼しあっている感じは全くなく、互いに互いを利用しようとしている様子だったという。
そしてしきりと時間を気にしているようだった。
山の日暮れは早い。月の光は明るいが、念のため暗視双眼鏡を取り出した……その時。
ぐらり、と地面が揺れた。
「地震か?」
「いや、違う。松の木を見て!」
龍のようにうねり這う松の古木が、根元から倒れようとしている、いや、地下から巨大な力が加えられ、巨木を倒したのだ!
ドォン、と地響きを上げて松は倒れ……もうもうと砂埃が立ち、しかしそれを透かして、根が抜けた後の抉れるよう地面に空いた黒々とした穴から、何者かが勢い良く飛びだしたのが見えた。
『出たな!』
『封印が解けた!』
『待ちかねたぞ、ハンドレッドナンバー、庭師!』
ダークネスたちのそんな叫びが聞こえる。
彼らが待っていたのは、この者の出現だったのだ!
松の下から出現した者は、長身やせぎすの男のようだった。泥に汚れたツナギを着て、頭にはてぬぐい。弓手には大ぶりの刈り込み鋏が月光に禍々しく光っている。
「……庭師だって?」
「ハンドレッドナンバーとも言ってたよね?」
「つまり超強力な六六六人衆ということか?」
情報を咀嚼する間もなく、ダークネスたちは庭師に一斉に飛びかかった。
庭師はいわば封印が解かれたばかりの寝起きである。7体ものダークネスに攻撃されたらひとたまりもないのでは……。
と思ったが。
庭師の全身から、棘だらけの植物の蔓……ただし真っ黒な殺気で造られた……が何十本も伸び、ダークネスたちを包み込んだ。
『……ぐっ』
ダークネスたちの勢いが鈍る。それでも彼らの刃の幾つかはターゲットに届いたが、庭師はそれをものともせず。
ジャキン!
『ぐああっ!』
接近してきていた逞しい女戦士の利き腕を、鋏で刈り取った。
迸る深紅の花。
月明かりの下、荒く彫り込まれた松の木のような顔が、歪んだ笑いをニヤリと浮かべる。
「凄い……庭師は相当強いようだ。さすがはハンドレットナンバー。それも中位か上位だろうな」
「どうやらダークネスたちの目的は、封印から解かれた庭師を倒すことだったようですね」
動物変身を用意してきたメンバーが、少しでも接近して庭師を観察すべく再び出かけていく。
「気をつけて! 離れすぎないようにね」
「危ないと思ったら、すぐに逃げて」
残ったメンバーも月明かりと暗視双眼鏡で、強敵へと目を凝らす。ゴーストスケッチでダークネスたちと庭師の絵を描き始めた者もいる。
そして観察を続けながら、必死に考える。
「我らは、この状況にどう介入すべきなのであろうか?」
「えっと……このまま戦闘を最後まで行わせて、勝ち残った側が消耗しているうちに撃破する?」
「この暗殺武闘大会の目的が、ハンドレッドナンバーを始末することならば、それを邪魔すればいいんじゃないの?」
「いや、あのハンドレッドナンバーは危険すぎる。やつが勝ち残ったらどうする? 俺達の力で対処は難しいだろうよ。ならば、ダークネスらに助力して、とりあえずハンドレッドナンバーを撃破し、その後の事はその後に考えるしかないだろ」
「うーん、でも下手に戦闘に介入すれば、ダークネスたちと庭師が一時協力して僕達を先に攻撃してくる可能性もありますよ。加勢する場合は、そうならないような方法を考えなくちゃ……」
話し合っている間にも、ダークネス同士の激しい戦いは続いている。
集ったダークネスも強者たちのはずなのに、庭師の鋏はみるみる血に染まり、切れ味を増し、毒の花を咲かせていく。このままでは7人のダークネスが目的を果たす前に、庭師が彼らを全滅させてしまう可能性もありそうだ。
「どうする……どうすればいい、俺たちは……?」
参加者 | |
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今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605) |
水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532) |
ジュラル・ニート(光の中から現れた短期決戦の鬼・d02576) |
蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965) |
森沢・心太(二代目天魁星・d10363) |
木元・明莉(楽天日和・d14267) |
白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044) |
ニアラ・ラヴクラフト(無聊膨張後宇宙的恐怖崇拝物・d35780) |
●
二手に分かれていた灼滅者達は、方針が定まるとすぐに庭の隅に集合した。
集まったのは、こちらからはダークネスと庭師の戦いが観察できる場所ではあるが、ヤツらからは見えにくいと思われる、崩れかけた物置小屋の陰だ。予め現場の見取り図を手に入れておいたのが、ここでも役立った。
とはいえ、ヤツらは戦いに没頭しており、灼滅者に気づく様子はない。
戦況は、相変わらず庭師が優勢のようだ。ダークネス達ももっと連携すれば、いかに強力とはいえ庭師は単体、それなりに対抗できそうに思えるのだが、ハンドレッドナンバーを倒し名前と序列を上げたい一心なのだろう、あくまでも我こそは、という独善的な様子である。
灼滅者達は手早く打ち合わせを終えると、息を潜めて庭を移動しはじめた。庭師を囲むダークネス、その外側を更に包囲する位置に陣取りたい。
それぞれポジションに相応しい位置を目指すメンバー達の耳に、インカム越しにニアラ・ラヴクラフト(無聊膨張後宇宙的恐怖崇拝物・d35780))の陰鬱な呟きが聞こえてきた。
「影の戯れは破滅の彼方に消えた。されど暗殺武闘の決戦が在った。故に我は更なる愉悦と冒涜を求め、血塗れの貌を舐るべき。我が存在は未知を崇拝するが為」
森沢・心太(二代目天魁星・d10363)は、仲間の難解な台詞を理解すべく少し考えてから、
「ダークネスとの共闘にハンドレットナンバーの出現。色々難しい状況ですが、上位の六六六人衆と戦えるなんて、僕も武芸者としては心が踊ります」
と応じた。
「うん、間飛び越していきなり上位だからなあ」
続いて木元・明莉(楽天日和・d14267)も。
「可能な限り灼滅しておきたいけど……闇堕ち者出してまでってのはな。そういう勝利の後味の悪さは経験済みだから、もうあんな思いはしたくない。もちろん、誰かが命を落とすよりは俄然マシだけど」
仲間の会話をインカムで聞きながらジュラル・ニート(光の中から現れた短期決戦の鬼・d02576)はナノナノに語りかける。
「ふむ。軍師殿や、このバグった強さの敵を倒せるチート的なアイテムとか嵌め戦法とか裏技とかは……ないよね、うん」
水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は、ギシギシと何かによじ上っているような音を立てながら、
「思うんだけど、ここで庭師倒すのも大変だけど、宍戸の陰謀潰すのも、別の意味で難しそうじゃない? あのオッサン何考えてるかわからないし」
確かに色々企んでいそうだ。
白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)はポジションに着くと、再びダークネス同士の戦いを観察しはじめたが、脳裏には引きずっている悩みが過ぎる。
「(たんじゅんにダークネスをころすことが、正しいとは、今は思えないけれど、放っておいたら、ころされてしまうから、ころさせない為に、ころすわ)……あっ!」
庭師の背後から、半月刀を振りかぶった男が斬りかかった。それは確実に庭師の背を捕らえたかに見えたが。
ガキン!
咄嗟に振り向いた庭師の鋏が重たい刃を受け止め、それを払う勢いで、半月刀使いの腹を深々と突き刺した。
しかしその隙を逃さず、くノ一風の黒装束の女が庭師の足下に滑り込み、足首を苦無で強く払いよろめかせた。この一撃は、さしもの庭師にも利いたようだ。
半月刀使いはこの深手で戦闘不能になってしまったようだ。戦闘開始直後に利き腕を刈り取られた女戦士も早々にリタイアしている。これでダークネス側は5体になった。
短時間に2体倒されたことで、おそらくダークネス達は庭師の攻撃力に怯み、そして焦り始めている頃であろう。
しかし一方、致命傷ではなかろうが、庭師は多少なりとも足にダメージを受けている。
今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)が、インカムに囁く。
「いいタイミングじゃないかしら?」
「うん、今だよ」
「行こう」
8人は言葉少なに決意を確認し合い。
「不謹慎とは思うが、ハンドレッドナンバー相手に今のわしらでどこまで通用するか、一つ腕試しと参ろうかの」
蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)の不敵な台詞を号砲に、一斉に戦場へと飛び出した。
●
「蒼穹を舞え、『十八翅軍蜂帝』!」
解除コードの声と気配に気づいたのか、
『新手か!?』
ダークネス達は即座に灼滅者の方を振り向いた。
『灼滅者か!』
『また我らの邪魔をするか!?』
ダークネスは殺気立つが、
「待ってくれ、今回はそうじゃないんだ」
明莉がすっと弓を引き、最も深手を負っていそうな侍風六六六人衆に癒しの矢を射込み、静かに言葉をかける。
「俺達も庭師を灼滅したいんだ。手を貸したい」
違う方向からニアラとジュラルも。
「厄介者を屠るには手を組むべき。この戦いに、混ぜよ」
「目的は同じだ。せめて庭師を倒すまでは、殴り合わないようにしようじゃないか」
明莉が仲間達の言葉を引き取るように。
「決勝まで勝ち抜いたアンタらの個々の能力の高さは認めてる。それに灼滅者の連携行動が噛み合えば、必ず勝てる」
不信を露わに灼滅者達を見回しながら、くノ一が口を開く。
『そもそもお前らは、どうしてここで庭師が目覚めることを知ったのさ?』
明莉は首を振り、
「ハンドレッドナンバーの封印が解けるなんて、俺らは知らなかったよ。嫌な気配を感じて調査にきたらこんな大事で、戦闘への介入を決めただけのこと」
緊迫した睨み合いの中。
ケケケケケ……。
怖気をふるうような高笑いが響いた。
庭師が嗤っている。
『全員まとめてかかってくるがいい、そんな半端者共が何人増えようと、俺は負けない』
カサカサした声で言い放った庭師は、ダークネスと灼滅者のやりとりを面白そうに眺めている。封印から解き放たれ、戦えることが嬉しくて仕方ないといった様子だ。
ちっ、とリーダー格らしき……おそらく生き残っているダークネスの中で最も上位……侍風六六六人衆が舌打ちした。
『もし背後から襲うようなことがあれば、すぐに狙いを変えるぞ!』
「大丈夫、『今は』味方です。回復は任せてください」
心太が、祖母のお守り「金剛不壊・真」参式を高々と翳して、油断なくナイフを構えているピエロ風のダークネスに癒しを施した。
『ふんっ』
ダークネス達は礼も言わないが、背に腹は変えられないのだろう、再び庭師へと向き直った。
これで何とか共闘は成った。
しかし紅葉は最後方から、警戒を緩めることなくダークネスの背中を睨み付けている。
「ダークネスも庭師も仲間じゃないことは忘れないわよ」
ただ、庭師が灼滅者を完全に舐めている様子なのは、チャンスかもしれない。武蔵坂の灼滅者の活躍と成長を、長く封じられていた庭師は知らないのだ。
何にしろ、今は最大限にダークネスを利用して、庭師に迫るだけだ。
「――いくぞ!」
ダークネス達の攻撃の隙間を埋めるように、灼滅者も戦いへと突入していく。
紅葉は指輪にキスして制約の弾丸を打ち込み、明莉に癒やしの矢を施された敬厳は影を放つ。心太は雷を拳に宿して果敢に飛び込んでいく。そんな攻撃陣を追いかけるように、夜奈はビハインドのジェードゥシカに霊撃を命じると、自らはシールドを展開して防御を高める。
「この男、庭師なだけに序列は204位とか……言わないか。しかしまあ、終わった後の事も考えると面倒極まりないやね」
「全く面倒で在る」
ジェラルと、彼の軽口に言葉少なに応えたニアラは、十字架を突き出して庭師の足を狙う。傍らではビハインドの隣人が、霊撃を放つ。
灼滅者の攻撃は、上位の六六六人衆である庭師にはそう簡単には当たらない。だが、それは折り込み済みだ。序盤はバッドステータスを積み重ねてダークネス達の援護をし、少しでも庭師にダメージを与え、動きを鈍らせられればそれでいい。
「ガンガンいかないと、獲物は私達がもらっちゃうよ!」
温室の屋根からの瑞樹の跳び蹴りも、髪の毛一筋ほどの差で躱されてしまった。
しかし庭師が避けた所には、侍の刃が待っていた。
『……う』
庭師の脇腹に深々と刃がめりこみ、侍は瑞樹にニヤリとし。
「よい空振りだ、小娘。戦力にならずとも手数が増えたのはよいことだ」
瑞樹は小さく肩をすくめただけで、ダークネス達の包囲の後ろへと素早く退がる。
空振りも小娘扱いも悔しくないわけではないが、言わせておけ。今はこれでいい。手数を増やし援護することによって、ダークネス達が庭師を弱らせてくれれば、いつか自分達がトドメを指す機会も巡ってくるだろう。
そう思った瞬間。
「わっ!」
前衛を、黒々とした殺気が包んだ。おぞましい殺気は、熱帯植物の蔓のように灼滅者とダークネスに絡みつく。
「すぐに祓うわ!」
紅葉が即座に聖剣を抜いて癒やしの風で殺気を吹き払ったが、それだけではクラッシャーのダメージは癒やしきれず、軍師殿とディフェンダー陣がフォローした。
庭師の攻撃力に改めてぞっとする……だが、怯んでいる場合ではない。
やるしかないのだ。こんな危険な殺戮者を野に放つわけにはいかない!
怖じる気持ちを奮い起こし、灼滅者達は強敵へと向かっていく。
●
「……くるわ」
「はいっ!」
夜奈と心太は、何度目かの庭師の列攻撃からクラッシャーを守った。
「ありがとうっ!」
「何度もすまぬな!」
仲間の壁の後ろから、敬厳はサイキックエナジーの光輪を、瑞樹は掌からオーラの弾丸を放った。
灼滅者が介入して数分が経ち、つい先程ダークネス1体がまた戦闘不能になって撤退していった。
「ダークネスも庇いたいところだけど、どうも無理のようですね」
心太はダークネスも庇って誠意を見せるつもりでいたのだが、スピードと戦法が違うし、それになによりチームメイトではない者を庇うのは難しいようだ。
今のところ、庭師の単体攻撃は専らダークネスに向けられており、灼滅者のダメージは列攻撃の巻き添えに留まっているので、何とかなっている。だが、ダークネスが減ってくるにつれて、灼滅者にも単体攻撃が向けられるだろう。
今程のクラッシャーの遠距離砲は2発共命中し、序盤よりはよほど攻撃が届くようになってはきている。だが、なかなか大ダメージとはいかない。
自分達は最後まで庇いきれるのか……?
ディフェンダー陣はメディックからの回復を受け、また自分達でもフォローしあいながらも不安になってくる。
「(でも……)」
夜奈は立ち上がる。
「(まよいつつも戦うのは、こんな自分をみとめ助けてくれた、大好きな人たちといっしょにいたいから。道にまよえど、守るために手さぐりでも進むよ)」
回復を受ける間にも、攻撃陣は果敢に強敵に仕掛け続けている。
明莉とニアラの漆黒の二枚貝形の影が庭師の両腕に絡みついたところに、
「庭師倒すまでに、ダークネスも全滅してくれればいいんだけどな」
つい本音を呟きながら、ジュラルが大男のダークネスの背後に隠れながら、十字架を構え……撃ち込まれた氷弾は、見事に庭師の肩を撃ち抜いた。
『ぐぁお!』
さすがに悲鳴を上げた庭師は、怒りを漲らせると影の捕縛を振り解き、ジュラルの方に一跳びで飛びかかってきた。
「危ない!」
その手には、禍々しく光る刈り込み鋏……!
ジャキリ!
だが、その鋏が刈り取ったのは、大男のダークネスの脛であった。
ジュラルは男の背後に小さくなって隠れている。
大男は苦悶の声を上げて倒れ込んだ。
すかさず紅葉の裁きの光が落ちてきたが、
「……この男も、もうダメね」
紅葉は仲間だけに聞こえるように、インカムに囁いた。
●
残るダークネスは3人だけになってしまったが、灼滅者達は本領を発揮し始めた。積み重ねた効果が効き始め、庭師の動きが目に見えて鈍ってきているのだ。おそらく序盤は虫に刺された程にしか感じていなかった灼滅者の攻撃に、じわじわとダメージを与えられていることに焦っているのか、狙いも甘くなっている。
とはいえ、ダークネス達も弱り、人数も少なくなってしまっているので……。
「……守るよ!」
敬厳に迫っていた庭師の刃を、夜奈が代わって受けた。胸に紅薔薇が咲く。
「すぐ手当するわ!」
倒れ込んだ夜奈に、すかさず紅葉のラビリンスアーマーが飛んできたが……。
「すまんな、我を庇って……」
申し訳なさそうに屈み込む敬厳に、夜奈は横たわったまま小さく首を振った。
「……これがヤナの、やくめ」
そうか、と敬厳は応え、
「帰りはわしが背負ってやるから、とりあえず下がって回復せい」
夜奈は微妙に悔しそうに顔を歪めたが、頷いた。
「そうね、きちんと回復しましょう」
駆け寄ってきた紅葉が支えてつれていく。ジェードゥシカも心配そうに寄り添っている。
けが人が待避するその間にも、ダークネスと灼滅者は弱った庭師に絶え間なく攻撃を浴びせかける。夜奈だけではない、ディフェンダーはもとより、他のポジションもダークネス達も体力はギリギリだ。躊躇っている暇はない。
くノ一の手裏剣が庭師を釘付けにしたところに、ピエロのナイフ投げが命中し、侍が背後から日本刀で袈裟懸けにする。
そこに心太が、残り少ない体力を振り絞り、
「足止め、助かります!」
炎のキックを見舞い、明莉が鬼の拳で殴りつけ、庭師の攻撃力を削ぐ。最後方から紅葉の鋼の帯が襲いかかり、脇から忍び寄ったジュラルはナイフで傷口を広げ、ニアラがバベルブレイカーを構えて接近すると。
『お……おのれ、半端者どもめ……っ』
苦し紛れに突き出された鋏を、
「封じよ」
黒髪ロングの女子高生ビハインドが封じ。
ドゥン!
満身の力で撃ち込まれた杭が、庭師の足首を砕いた。
凄まじい悲鳴を上げて、倒れた庭師に。
『もらった!』
侍が抜刀しながら斬りかかったが、それより速く。
瑞樹の槍からの氷弾と、敬厳の、夜奈の分までもとばかりに限界までエナジーを込めた光砲が、庭師の頭を吹き飛ばした。
『……こ、こんな半端者共に……まさか』
頭を半分吹き飛ばされても、庭師は血走った目を見開いて呻いたが、すぐにその体は枯れ枝のように茶色く干からびて……消えた。
『……まさか本当にもっていかれるとはな』
侍が、パチリ、と刀を鞘に戻した。
『で、どうする。俺達とも戦うつもりか?』
剣呑な眼差しと台詞に、灼滅者達は思わず後退った。
ダークネスは弱りきった3体だけだが、自分達も1人は戦闘不能だし、現在立っているメンバーも皆体力はギリギリだ。
「今日のところは、止めておくわ」
紅葉がまだ立ち上がれない夜奈をジェードゥシカと共に庇いつつ言った。いきなりかかってくる様子はないが、警戒は解けない。
『ふん、それがよいだろうな』
他の2体も依存はないようである。
『次会う時には、容赦せんぞ』
聴き様によっては負け惜しみっぽい台詞を残してダークネス達は去り――灼滅者達は茫漠たる荒庭にひとかたまりになって、それを見送った。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年2月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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