切符を失くしたこどもの国

    作者:西東西


    「『ラジオウェーブ』のラジオ放送によって、新たな都市伝説が発生している」
     一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が口の端をもたげ、どこか愉快そうに集まった灼滅者たちを見渡す。
    「さすがはタタリガミの首魁といったところか。ラジオ放送で流した通りの事件が、次々と現実に発生しているらしい」
     そんな中、一夜が掴んだ放送は、次のような内容だという。

     ある夜、塾帰りの女子中学生が電車に乗っている。
     くたびれた大人たちにまぎれて、くたびれた少女がひとり。
     駅を出れば、家まではもうすぐ。
     最寄り駅到着のアナウンスを聞き、勇んで扉から飛びだして。
     カバンに付けていた定期入れを手探り、改札に通そうとするも、
    「――あれっ」
     カバンと定期入れを繋いでいたチェーンの先はぷつりと切れ、跡形もなくなっている。
     ぞろぞろと改札を出ていく大人たちを横目に、少女は懸命に定期入れを探す。
     けれど、ない。
     どこにも見つからない。
     夜の闇。
     そぞろ歩く大人たち。
     不機嫌そうな駅員。
     脳裏に響く母親の怒声。
     のしかかるそれらから逃れるべく改札に背を向ければ、小中学生と思しき子どもたちが数人、駅のホームに立っていた。
    「切符をなくしたやつは、二度と駅から出られないんだぜ」
    「一生ここで暮らすしかないんだ」
    「さあ、一緒に行きましょう」
     幼い少女に手を引かれ、女子中学生がたじろぐ。
    「い、行くってどこへよ!」
     振り返った子どもたちは、呆れたように答えた。
    「決まってるだろ。『切符を失くしたこどもの国』さ」
     

    「――そうして女子中学生は、夜の駅からこつぜんと姿を消してしまうという」
     数日後には、この話が現実になる。
     それを阻止するためにも、君たちの力を借りたいと一夜は続ける。
    「都市伝説は、『夜』『駅のホーム』『乗車券を失くし、駅から出られない子ども』が揃った時に出現する」
     乗車券は、切符でも定期券でも、なんでも構わない。
     『子ども』という条件について具体的な年齢は不明だが、乗車券を失っても冷静に駅員に相談しに行けるような者のもとには現れないはずだと、エクスブレインは告げる。
    「なにしろ、現れる子どもたちこそが『切符を失くしたこどもの国』の住人だからな」
     自分たちの手を取りそうもない『大人』は、相手にするまい。
     
     都市伝説の出現場所は『駅のホーム』となる。
     たどたどしい口調の幼い少年が本体で、『怪談蝋燭』を手にしている。
     『縛霊手』と『影業』に似た力を使う子どもたちは配下で、各2名ずつ。
     合計5体が、新しい王国の住人を連れにくる。
    「ラジオ放送の情報をもとに現れる都市伝説だ。きちんと準備をして挑めば手を焼く相手ではないとは思うが……。逆に言えば、放送内容以外については詳細不明ということでもある。予測を上回る能力を持っている可能性もあるので、任務完了までくれぐれも注意を怠らぬように」
     
     『ラジオウェーブ』については、これまでほとんど情報がなかった。
     だが、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)が『都市伝説を発生させるラジオ放送』の存在を突きとめたおかげで、事件発生前の情報収集が可能となったのだ。
    「見過ごしていた事件も、多くあったろう。しかし、今後はできうる限り、被害を食い止めていかなければ」
     事の大小に関わらず。
     怪異にまみえる一般人たちにとっては、すべてがおぞましい事件に違いないのだから。
    「君たちの無事の帰還と朗報を待っている。――では、頼んだぞ」
     いつも通りの涼し気な表情に、確かな信頼を寄せて。
     エクスブレインは灼滅者たちを送りだした。


    参加者
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    倫道・有無(サイキックハーツ・d03721)
    霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)
    鳥辺野・祝(架空線・d23681)
    水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)
    十全・了(赤と黒の夢・d37421)

    ■リプレイ


     夜の駅。
     ホームに停車した電車の扉がひらき、くたびれた大人たちが次々と吐きだされていく。
     十全・了(赤と黒の夢・d37421)はホームの壁際に立ち、手にした本に視線をはしらせるようにしながら、その時を待っていた。
     目線の先には、囮役として動きはじめた水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)の姿。
     ふと、コートの内ポケットを押さえ、預かった切符を確認する。
     元来、了は物をなくすのが得意だ。
     さらに、これから物を落としかねない戦闘が控えている。
     もしもなくせば、紗夜に何を言われることかと不安が胸をよぎるも、今は任務に集中すべしと、後輩の背中を見送る。

     電車を降りたひとの流れは、ホームを出て3分ほど歩いた先の改札へと向かった。
     平日の夜とはいえ、帰宅ラッシュの過ぎた遅い時刻。
     会社員然とした大人たちに比べ、制服を着た学生の姿はまばらだった。
     待機していた灼滅者たちは、すぐにそれらしき一般人の女子生徒を補足。
    「あれっ」
     改札前で声をあげ、懸命にカバンを探る様子に、
     ――間違いない。
     確信した莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)が近づき、声をかけた。
    「どうしたの?」
     振り返り、少女はびくんと肩を震わせて。
     後からやってきた片倉・純也(ソウク・d16862)が、良く通る声で続ける。
    「後がつかえている。一旦、ここから離れよう」
     少女2人へ先に移動するよう促し、自分は後に並んでいた大人たちへ頭をさげる。
     駅員や大人たちの眼を逃れ、落ち着いたらしい。
    「定期券がなくて……。どうしよう。絶対なくしちゃだめって、お母さんに言われてたのに」
     乗車券をなくしても、お金を払えば駅を出られることは知っている。
     けれど、高額な定期券をなくしたまま帰れば叱られてしまうと、今にも泣きそうな様子だ。
    「大丈夫。親切なひとが、きっと拾って届けてくれるよ。今日はもう遅いし、あとは駅員さんにお願いしよ、ね」

     一般人をなだめる2人のそばで、紗夜は女子中学生の動きをなぞるように、改札機の前に立っていた。
     制服のポケットに手を入れ。
     そこで、はたと気づく。――気付いたフリをする。
     あわてて、反対のポケット、カバンを探り。
     来た道を振り返ったところで、
    「大丈夫です、大丈夫です」
     心配そうに見つめる大人たちを振りきり、足早にホームへと駆けていく。

     想々と純也が付き添い駅員に一部始終を伝えれば、少女はすんなり外へ出られることになった。
     それでも不安げな様子で駅から離れない少女へ、純也が静かに告げる。
    「俺たちもこれから電車で帰るところだ。時間の許すかぎり、ホームを見ておこう」
     中学生の少女にとって、口数の少ない、けれど泰然とした純也は頼もしく映った。
    「明日の朝、窓口で確認してみます。あの、いろいろと、嬉しかったです。ありがとうございました……!」
     たどたどしくも懸命に礼を告げる少女を、2人はそれぞれに見送って。
     ――一般人、改札外へ誘導完了。
     ほかの地点で待つ仲間たちへ、連絡を送った。


     ホーム各所で待機する灼滅者たちに、連絡が届くころ。
     改札に背を向けた紗夜が、先ほど降り立ったホームへと戻ってきていた。
    「切符をなくしたやつは、二度と駅から出られないんだぜ」
    「一生ここで暮らすしかないんだ」
     ふと見やれば、真正面に小中学生と思しき子どもたちが数人。
     幼い少女が、ぐいと紗夜の手首をつかむ。
    「さあ、一緒に行きましょう」
     灼滅者の身体能力をもってしても、振り払うことができない驚異的な握力。
     紗夜が眉根を寄せた、瞬間。
    「――つれていっては、いけないよ」
     ホームで警戒していた鳥辺野・祝(架空線・d23681)が割って入り、幼女の手を引きはがす。
    「じゃましちゃだめえ!!」
     くってかかったのは、たどたどしい口調の幼い少年だった。
     エクスブレインの言っていた『都市伝説の本体』だろう。
    「望んでねえ奴を連れて行くのは、いかんだろ」
     祝とともに仲間をかばい立ち、森田・供助(月桂杖・d03292)も『サウンドシャッター』を展開。
     続く霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)が、瞬時に道路標識を顕現させる。
     『こどもの国』に興味はあるものの、だからといって、ついて行くことはできない。
     ――もう誰も、そこへいかないように。
    「ここで、通行止めでござるよ!」
     『閉じた踏切』を描いた黄標識を高らかに掲げ、仲間たちの能力を強化する。
    「ここは危険です、改札まで逃げてください!」
     了は足取りのおぼつかないサラリーマンに肩を貸し、安全な場所まで移動させると、通りがかった駅員に後を託した。
     改札側からは、倫道・有無(サイキックハーツ・d03721)の『百物語』も聞こえくる。
    「切符を無くして国まで作ったと? 悪い子だ。悪い子は、――地獄行きだよ」
     ホーム側には戻らないようにと周囲に言い含め、誘導がてら、仲間たちのもとへと移動を開始。
     想々は駆け、純也も逃げる一般人の状況を見極めながら、足早にホームへと向かう。

    「いっしょにいくの!!」
     少年の声を合図に、配下4体が紗夜めがけ一斉に手を伸べ、影をはしらせる。
     ――どんな手を使っても『仲間』をつれていく。
     それが、『都市伝説』である彼らのルールなのだろう。
    「まー、全部嘘なのだがね!」
     ゴムの如く伸び迫る腕ひとつを、跳躍して回避。
     紗夜はさらに距離をとろうとしたが、死角から迫った影手への対応が遅れた。
     捕まるまいと前のめりに倒れこめば、視界の端に、赤い糸がひるがえる。
    (「自分よりも年少の相手ってのは、どうにもやりづらいけれど」)
     攻撃線上に飛びこんだのは、祝だ。
     影の手が幾重にも身体を絡めとるなか、
    「もう暮れたから。きみたちも、おうちにかえろう」
     赤糸からむ縛霊手を構え、霊力の網を解きはなつ。
     一方、別の手を阻みに入った供助も捕縛を受けていた。
     身動きの取れぬ状態にあろうとも、少年少女を見つめる赤の眼は、静かで。
     攻撃も、連れ行こうとする手も、あるがままに受けとめる。
    (「行き場も切符もなくしゃ、そりゃ怖い。が」)
    「道連れは、駄目だ」
     戒める腕をつたい、一足飛びに配下へ迫り。
     WOKシールドで殴り掛かれば、1体の眼が執拗に供助を追いはじめた。
     その時だ。
    「三年前までの私なら、こどもの国に連れていってくれた?」
     駆けつけた想々がガトリングガンを携え、銃口を子どもたちへと向けて立つ。
     想い出すのは、故郷を出たばかりの頃。
     切符の買い方ひとつわからず、ずっと、緊張していた。
    「もしそうでも。――お断りやけど」
     引鉄を引けば、雨あられの如く銃弾が降りそそぎ、穴だらけになった1体が消滅。
     都市伝説『本体』の力量はいまだ測りかねるものの、配下はそれほど強い存在ではないらしい。
     で、あれば。
     ここは回復に専念して長期戦に持ちこむより、機を見て攻撃を重ねる方が良さそうだ。
    「それでは遠慮なく、拙者も参るでござるよ!」
     射出した帯が3体の配下を貫き、追い撃ちとばかりに紗夜も和蝋燭を掲げる。
     赤く揺らめく炎が、緋牡丹の花弁の如くひらひらと舞って。
     炎を受けてなお、子どもたちは『仲間』を連れゆこうと追い、迫った。
    「紗夜後輩!」
     一般人の避難を見届けた了が戦列に加わり、横合いからダイダロスベルトを射出。
     串刺しにするものの、灼滅には至らない。
    「迷ひ子帰らず、待ち人来ず。人を悲しませる悪い子誰だ?」
     避難誘導を終えた有無が、私刑の目星がついたかと、影を手繰り戦列に加わって。
    「賽の河原にご招待――!」
     圧し潰すように影をはなてば、もう1体の配下が消滅。
     残る影使いの子どもたちが反撃に移ろうとしたが、同じく駆けつけた純也の『DESアシッド』を浴び、さらに1体が溶けるようにして消えていく。
    「残りは配下1、本体1となるか」
     対する灼滅者たちは、ようやく8人がそろったところだ。
     負ける気はしないとはいえ、想定外のできごとが起こるとも限らない。
     灼滅者たちは気を引き締め、さらなる攻撃にかかった。


     次々と『仲間』を撃破され、『本体』の少年は今にも泣きそうな顔をしていた。
    「ねえ、いこうよ!」
     叫ぶように声を張りあげると、足元の影から子どもと思しき骸骨がいくつも、いくつも這いずり現れ、灼滅者たちの足にからみつく。
     ――これが、王国の住人、か。
     ふと脳裏によぎるも、純也は表情を変えることなく、淡々と痩せた骨を振り払った。
     視線の先には、残る配下1体。
     純也の影刃がはしりだすのと、サーニャが奇譚『車掌猫の影』を語り始めたのは同時だった。
    「爛々と眼だけが光る黒い影。切符を求めて迫る巨大なケットシー」
     切符をなくした子どもには酷な物語かもしれないが、時には、心を鬼にすることも必要だから。
    「カチリカチリと切符を切る音、聞こえてこない? ――ほら、君のすぐ後ろから!」
     気づいた子どもが防御すべく身構えるも、間に合わない。
     怨念をはらむ猫の声に身をすくませたところを、影刃が幾重にも切り裂いていく。
     ――かりそめの子どもでも、『恐怖』を感じるのだろうか。
    「そうして、こどもの国にはある日女王が現れました。その名を母と謂いまして――」
     膝をつき、おびえた目で見つめる配下の子どもへ向け、有無が、畳みかけるように怪談『恋慕婦人』を披露する。
    「愛といふ毒に、子は沈むのです」
     ふいに、配下の子の首に、白くあたたかな腕がからまって。
    「おかあ、おかあさん……!」
     大人を求めた瞬間、子どもは王国に住まう権利をうしない、泡と消える。
     たとえそれが、怪奇の魅せた母の腕(かいな)であったとしても。
    「あはははッ! 子供は大人に逆らわないものだ!」
     さも愉快といった様子で、有無は残る『本体』を嗤う。
    「いっしょにいこうよぉ!!」
     悲痛な叫びからにじむのは、焦り、哀しみ、孤独。
     そして、「もう二度と駅から出ることができない」という、果てのない絶望。
     ――囚われていたのは、彼らか。それとも、彼だったのか。
     ネジの外れたカラクリが崩れゆくように、少年のよびだした骸骨たちは、次々と少年自身に組み付きはじめていた。
     彼は、『都市伝説』だ。
     感情などなく、条件反射的に現れるモノだということは、理解している。
     それでも。
    「きみだって、本当は帰りたかったのではないの!?」
     気付いた時には、祝は少年の腕を掴んでいた。
     小さな身体を呑みこもうとする骸骨たちを、懸命に引きはがす。
     少年少女たちの在り様を「紐解きたい」と思っていた供助も、とっさにもう一方の手を繋いだ。
    「帰れねえなら手を伸ばせ。連れてく縁も、あるだろうさ」
    「ほかの子たちだけやない。きみ自身だって。むりやり連れてくのは、間違いやよ!」
     想々も手伝い、少年が自滅せぬようにと、沸きつづける骸骨を砕く。
    「下がって。一気に、引き剥がしてみる」
     仲間たちへ声をかけ、紗夜が鋼糸を閃かせた。
     絡糸は違うことなく骸骨のみを砕いたが、少年は脱力したように、どっとその場に膝をついた。
    「みんな、いなくなった」
     民もたぬ王など、ただのひとに過ぎない。
     一切を失くした国王へ、了がそっと手を伸ばす。
    「どうすれば落とし物を減らせるか。一緒に、話しあおうか」
     了自身、物を失くすことが多く、それに対する恐怖感は理解できる。
     ――大切な物をなくして。やっと見つけたそれが、無残に壊されていた。
     そんな夢を、最近も視たところだったから。
    「いますぐ国を捨てろなんて、言わないからさ。僕のところにも、遊びにおいでよ」
     切符も、チケットも、約束もいらない。
     いつでも相手になるよと再度手を伸べれば、少年はせきを切ったように、大声で泣きはじめた。
     了の腕のなかで、拠り所を得た『都市伝説』は燐光となり、消えていく。
    (「語るものの果てが、『喰い騙るもの』とは」)
     ――いや、だからこそ。そう成るのか。
     紗夜そう、胸中でひとりごちて。
     「おつかれさま」と、了をねぎらった。


     戦闘終了後。
     静まりかえった駅のホームには、当然のことながら、どの薄暗がりにも子どもの姿など見えやしない。
     現れた彼らが『帰りたかった者』なのか、『帰れなかった者』なのか。
     そのどちらもだったのかは、わからないが。
    「此処は、行き交う場。留まる場じゃない」
     供助が、誰にともなくつぶやく。
    「子供の国なんて、何処にも有りはし無いのさ。誰かが手厚く守ってでもやらん限りね」
     有無の言葉に、紗夜が目線を夜空へと向ける。
    「無くても在ると思いこませるのが、勝ちなのだろうよ」
     ありもしない概念的なものに振り回されるのが、言葉を持つ自分たちなのだ。
    「でも、もしも本当に、こどもの国が在ったなら。私は、連れていかれた気がするの」
     だってその方が、きっと――。
     続く想々言葉は、最後まで音にはならず。
     そっと眼を伏せ、ひやり、通りすぎていく夜風に身をまかせる。
    「あ、あったでござるーー!!」
     熱心に駅のホームを見回っていたサーニャが、急に大きな声をあげた。
     なにごとかと問えば、赤い定期入れを拾ったという。
     駅員への報告に立ちあった想々と純也が確かめると、定期券に記載されているのは、女子中学生の名前で間違いないという。
     乗車券をなくした少女も。
     王国の彼らも。
     そして、この場に立つ灼滅者たちも。
    「これで、みんな安心して帰れるでござるね!」
     一件落着と喜んだのもつかの間、ホームに電車到着のアナウンスが響いた。
    「先達各位に、早々の撤収を提案する」
     『バベルの鎖』によって情報の拡散は抑えられるとはいえ、無用な騒ぎの種になるわけにはいかない。
     一足早くその場を後にする純也に続き、
    「帰ろ帰ろ。――ところで君、切符は無くしちゃいないね?」
     急に有無から水を向けられ、了がコートの内ポケットに手を入れる。
    「大丈夫。かな? ……あれ」
    「りょーちゃん先輩。本当に、なくしてないよね?」
     紗夜の念押しに、有無がやれやれと肩をすくめて。
    「私が立て替えよう」
    「いえ、これは僕の責任ですから!」
     お断りしますと告げれば、サーニャがまた「あったでござるー!」と、切符を手に大きく手を振っていた。

     仲間たちを見おくり、最後までホームに留まって。
     祝はひとり、少年に投げかけた言葉を繰りかえしていた。
    「本当は、帰りたかったのではないの」
     ホームへ滑りこむ電車の明かりが眩しく、眼をそばめる。
    「わたしは帰りたかったよ」
     ――かえるために、おとなになったんだ。
     けたたましい電車のブレーキ音にかき消された、その声は。
     彼らのもとに、届いただろうか。

     停車した電車の扉がひらき、くたびれた大人たちが次々と吐きだされていく。
     そぞろ歩く大人たち。
     疲れた顔の駅員。
     夜の駅。
     そうして、ひとの『日常』は。
     今宵もまた、連綿と続いていく――。

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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