雪女と、お花見ぱーりぃ!

    作者:芦原クロ

     昼間、桜の木々が並ぶ河川敷は、花見客でにぎわっていた。
     灼滅者たちを連れ、白石・作楽(櫻帰葬・d21566)がその場に訪れた矢先に、一般人の悲鳴が聞こえる。
    「お、おお、お化け……!」
     急いで向かった先には、すれ違いに逃げてゆく一般人たちと、取り残された女が1人。
     白く長い髪に、桜色の着物をまとった美しい女の姿は、うっすらと透けている。
    『羨ましいわ……私だって、わいわいお花見したいのに。まぜて欲しいのに、いつも逃げられてしまう……あら? 貴方たちは、逃げないのかしら?』
     女は灼滅者たちに気づき、不思議そうに首をかしげた。

    「花見会場に花見をしたい雪女が現れる……既に都市伝説化していたようだね?」
     作楽は雪女を目で示し、灼滅者たちに伝える。
    『そうよ、お花見がしたいの。ねえ、貴方たち……その、もし良かったら、一緒にお花見をしてくれないかしら? 美味しいものを食べたり、色んなお話をしたいの。……恋バナとかも聞きたいわ』
     恋バナと口にする際は、ちょっと恥ずかしそうにもじもじする、雪女。
     さいわい、周囲の一般人は全員逃げてしまったので、人目を気にせず貸し切り状態で花見が出来るだろう。
    「せめて人払いはしておこうか。一緒に楽しい時間を過ごせれば、満足するかな」


    参加者
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    神凪・陽和(天照・d02848)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    セラフ・ジェヴィーチ(ヴァローナ・d10048)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    吉津屋・顕人(春宵雪華・d33440)

    ■リプレイ


    「雪女さんは咲き誇る桜に憧れたのでしょうか?」
    「雪女さんがいると周りが物凄く寒くなっちゃうから、一緒にいられる人も少ないんだろうね」
     神凪・陽和(天照・d02848)の疑問に、神凪・朔夜(月読・d02935)が言葉を返す。
    (「雪女と……お花見ね……季節的には……違ってるけど……都市伝説も……お花見を……楽しみたいのかな……?」)
     他の一般人が来ないよう、サウンドシャッターを展開しつつ思案する、皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)。
    「奇特な雪女もいたものだな……気持ちは、わからぬでもない」
     吉津屋・顕人(春宵雪華・d33440)は感心したように呟き、怪談を話して人払いを済ませた。
    「変わり者の都市伝説もいるのですわね」
     顕人の言葉に深々と頷いて同意を示す、セラフ・ジェヴィーチ(ヴァローナ・d10048)。
    「お腹が減ったら眺めが良い場所に座って、各々持ち寄ったお弁当を広げて皆で楽しむわよ」
    「ブランケットやクッション等の快適花見グッズを持って来たんだ」
     神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)が楽しそうに言い、白石・作楽(櫻帰葬・d21566)が早速シートを敷く。
    (「雪女に、お花見とはミスマッチですが楽しみたい気持ちは分かります」)
     鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)は胸中で考えてから、仲間たちへ顔を向ける。
    「折角ですし、わいわい楽しみたいですよね♪」
     蒼香の言葉に、灼滅者たちは頷いた。


    『私が怖くないの……?』
    「僕らならその点は全く平気。お花見を楽しみたいのが君の望みなら、喜んで協力するよ」
     イケメンなセリフをさらりと紡ぐ朔夜に、雪女はキュン……となっている。
    (「貴女が悔いなく旅立てるように、協力は惜しみませんとも」)
     朔夜の言葉の意味を、それとなく胸の中だけにしまう、陽和。
    「雪女さんは花見をしたいご様子。実に可愛らしい方で好感が持てますね」
     陽和が雪女を褒めると、またもや雪女はキュン……となった。
    「雪女と伺ってるが、その白い髪と相まって儚くも美しい桜の精のように見えるぞ」
     座り心地のいいクッションを全員に配り終えた作楽が、雪女を褒めると、やはり雪女はキュン……となる。
    「桜色の着物は花見の為に新調したのか? とてもお似合いだ」
    『そ、そうなの……桜が好きで、お花見がしたくて……』
     無自覚に畳みかける作楽の言動に、雪女は褒められるのに慣れていない様子で赤面する。
     褒め返したいと思ったのか、作楽を見つめる、雪女。
    『貴方の髪も、素敵ね? 黒くて長い髪は、色々な服が似合いそう……貴方は、凛として気高い雰囲気だわ。瞳の色も、とてもキレイ』
     雪女は作楽に喜んで貰いたいのか、一生懸命、作楽の良いところを心の底から褒めている。
    「ありがとう。褒められるとは思っていなかったから、少し驚いてしまった」
     基本的に感情が表情に出ない作楽だが、その分、言葉に気持ちを込め、きちんと礼を言う。
     ビハインドの琥界は、作楽の態度から雪女は大丈夫だと察したようだ。
     しかし、警戒は崩さない。俺の作楽に触れるなといった態度で、作楽へのセクハラを警戒し、なにか起ころうものなら即ブロックする勢いだ。
     不可抗力なラッキーすけべ体質の零桜奈も、この鉄壁の守りを抜けることは出来ないだろう。
    「人が居ないから騒ぎ放題ですわ!! 生憎カラオケセットは持ち合わせていませんが!!」
     セラフはクッションの感覚を存分に堪能してから、持って来たデザートを出す。
    「これはシャルロット! ロシアのデザートですわ!」
     帽子に見立てた洋菓子が全員に配られ、珍しそうに見たり、写真に撮ったり、美味しそうに味わったりと、それぞれ反応が異なっている。
    「お花見なので、お弁当を作ってきました。各種おにぎりに鶏のから揚げ、海老フライ。卵焼き。どうぞ召し上がれ」
    「僕もお弁当を作ってきたよ。ハムレタス、タマゴ、ツナ、カツの各種サンドイッチにスモークチキンにゆで卵」
     陽和と朔夜が弁当を広げ、どれも美味しそうに輝いて見える。
    「良ければ一緒にいかがですか? 私が作ったお弁当の中身は、各種おにぎりに煮物や肉じゃがなど和風の3段重です」
     蒼香は重箱を並べ、雪女に声を掛ける。
     作楽に導かれ、クッションの感触を楽しんでいた雪女が、はっと我に返った。
    『あ……いつの間にか、美味しそうなものがたくさん……』
    「僕は饅頭と茶ぐらいだな。巷で流行りのアイスクリームも持参した。こちらは、雪女殿と酔狂な者へ」
     持参した物を取り出す、顕人。
    「雪女さん、私は華夜よ。よろしくね? お弁当はシンプルに、卵焼きや焼き鮭が入った普通のお弁当を作ってきたわ」
     華夜が自己紹介し、手作りのお弁当を雪女に渡す。
     雪女は頭を下げて挨拶を交わしたのち、嬉しそうに華夜の作ったお弁当を食べ……固まった。
     動かない雪女を見て、なにが有ったのかと、作楽と顕人がそれぞれ、華夜の手作り弁当を一口食べてみる。
     見た目は普通の焼き鮭と卵焼きだが、とんでもない甘党の華夜が作ったものなので、甘すぎる。
     甘い調味料で仕上げたのだろう。強烈なほどに、激甘だ。
    「す、すごいな」
     色んな意味で、といった言葉はあえて言わず、雪女に飲み物を配る作楽。
    「変わった味付けが流行っているのだろうか」
     顕人は茶をすすり、一息ついている。
    「ごはんが! ごはんが!! おいしいですわーっ!!」
     他の仲間たちが持って来た弁当を、幸せそうに食べまくっている、セラフ。
    「いやー、いいものですわね! 天気もいいですし、久々にまったり出来ますわ!」
    「そうだな……僕も、ゆるりと楽しませてもらおうか」
     温かな日差しを浴び、のんびりと花見を楽しんでいるセラフの言葉に、同意をする顕人。
    「本当にお花見日和ですし桜も綺麗ですね」
     蒼香が満開の桜を見上げてから、零桜奈に顔を向ける。
    「零桜奈くんが好きな肉じゃがもたっぷり入れてきましたよ、味は自信があるのでどうぞ♪」
    「ん……なら……頂こうかな……」
     以前の依頼でなにかが有ったらしく、零桜奈は蒼香に対し、ドキドキしている。
     蒼香を意識して真っ直ぐ見れないまま、肉じゃがを食べ、お返しにサンドイッチを渡す、零桜奈。
    「零桜奈くんのサンドイッチも美味しいですね♪」
     喜ぶ蒼香に、またもやドキドキしてしまう、零桜奈。
     零桜奈が意識していることに気づいていないのか、蒼香は膝枕を提案した。
     蒼香の案を無下には出来ず、甘える零桜奈。
     膝枕をして貰っている零桜奈の目の前で、蒼香の爆乳が揺れている。
    『二人とも、カップルじゃないのかしら? そんなにくっついているのに?』
    「長い付き合いの……仲の良い……友人だよ……んんっ!?」
     雪女からの問いに零桜奈が答えていると、飲み物を取ろうとした蒼香が半身を曲げ、爆乳と膝の間に零桜奈の顔を挟む状態になる。
    「あ、すいません! 息苦しくなかったですか」
     気づいた蒼香は謝り、零桜奈を心配する。
     なにが起きたのか分からなかった零桜奈は、目の前で弾み揺れている爆乳を見て、ようやく理解した。
    「だ……大丈夫……」
     顔を真っ赤にさせ、零桜奈はそう返すだけで、やっとだった。


    「雪を降らせる事が出来るのよね?」
     華夜が興味津々に問うと、雪女はその場に雪を降らせて見せた。
     桜の花びらと雪とが、ゆらゆらと舞い、儚くも美しい光景になる。
     あまりの美しさに、作楽は言葉をなくし、魅入っている。
    「僕は……春に舞う雪に、物思う所があるよ。その景色を、懐かしいと……感じる。何故だろうか……」
     顕人がぽつりと、言葉を零す。
    「雪と桜の二つを同時になんて滅多に見れない光景ね」
     華夜が微笑み、作楽はただただ頷くばかりだ。
     しばらく美しい光景を眺めていた華夜は、ふと、あることを思い出す。
    「恋バナを聞きたいって言ってたけど、聞いてくれるの? 話が長くなるけど平気?」
     華夜の言葉に、雪女の表情は明るく輝きだす。
    「好きな子が小さくて可愛いの。それにお菓子をくれたりと優しいのよ」
    『どの人かしら?』
     灼滅者たちに視線を送り、見つけ出そうとする雪女に、華夜はクスクスと笑う。
    「紹介してあげたかったけど、今日は来てないのよ。ごめんなさいね?」
    『は、恥ずかしいわ……』
     見つけ出そうとしていた己を恥じ、赤くなった顔を両手で隠す、雪女。
    「色恋話を、恋バナと言うのだな……そのような話をしたがるのは、いつの時代も変わらぬものだろうか」
     ひとの話に興味を持つ顕人は、新たな発見が出来、興味津々だ。
    「小さくて可愛いというのは、身長だろうか? 年齢だろうか?」
    「両方ね。年齢は、彼の歳は今年で13歳になるわよ。私は22歳にね。ふふっ、愛に歳の差も身長の差も関係無いわよ」
     作楽が問いを投げると、華夜が艶っぽく微笑みながら答える。
    「……僕も、話を聴きたい方だな。話好きとは……雪女殿と、気が合うのかも知れぬな」
    『……貴方の恋バナは?』
     雪女を見て呟く顕人に、恥ずかしさがおさまった雪女が恋バナを求める。
    「……僕か……浮いた話は、思い当たらんが……一緒にいて、落ち着く人というのは居るよ」
     表情が柔らかくなった顕人を見て、雪女は満足そうに微笑む。
     そして残りの灼滅者たちにも、恋バナを求める、雪女。
    「恋の話とは縁遠くてな……」
     作楽は思い出す間、他の仲間にあとを任せた。
    「恋バナですか……私と朔夜には、義姉と義兄がいます。愛に破れて傷心の義姉が僅か一カ月後に出会ったのが、どん底に落ちていた義兄で。どん底から救ったのが義姉でした。まるで物語のような奇跡的な出会いだと思いませんか?」
     陽和は珍しく力説し、瞳を輝かせる。
     運命的な縁で結ばれた2人に憧れていることが、伝わって来る。
    「義姉と義兄は、置かれた境遇も趣味も余りにも似通っていてね。恋人になるのは早かったよ。運命の出会いで、運命の相手。そういうのを実際に見るとは、思わなかったなあ」
     ノリノリで話していた陽和とは対照的に、朔夜は控えめに、陽和の恋バナに補足説明をする。
     言葉を聞く限り、朔夜も2人に純粋な憧れを抱いているのだろう。
     雪女は力が抜けたように、ほんわりと表情をゆるめていた。
     実は恋バナが大好きな朔夜は、他の仲間はどうなのかと視線を送る。
    「……恋バナ! 専門外ですわ!!」
     目をカッと見開き、一刀両断する、セラフ。
    「……あ、懐かしい話となるが、この学園に来る前は、春になったら琥界と花見に必ず行っていたんだ。あの頃は私も幼くて、琥界が本当に光の君に思えていたっけな、ふふ」
     琥界に向かって、微笑む作楽。
     いつもは凛々しい侍系女子の作楽だが、琥界に対しては、普通の女子らしい口調と表情になる。
    『可愛らしい……素敵だわ』
     そんな作楽を見て、雪女は癒された様子で満足げに呟く。
     元から透けていた雪女の体が、更に透け始めたのを、灼滅者たちは見逃さなかった。
     零桜奈が真っ先に動き、少し積もった雪で足を滑らせる。
     倒れまいと踏ん張っている零桜奈の後ろで、蒼香が滑ってしまい、零桜奈を押し倒す状態になる。
     もみくちゃになり、気づけば蒼香の胸に顔が埋まり、更には揉んでしまっている、零桜奈。
     赤面し、慌てて立ち上がり、攻撃態勢に入る零桜奈。
     雪女を苦しませないようにと、零桜奈は全力で攻撃する。
     それに合わせるように、蒼香が射出した帯で雪女を貫き、手早く倒そうと試みる。
    「こんなお別れをしたくないけど、しょうがない」
     異形巨大化した片腕で、朔夜は思いっきり敵を殴る。
    「気晴らしになるならば……手合わせの相手を務めさせて頂こう」
     連携した顕人が、回復を中心に立ち回る。
    「さて、そろそろ食後の運動のお時間としましょうか」
    「雪の姫よ、願わくばまた桜の下で巡り合おう」
     セラフが漆黒の弾丸を撃ち込み、更に続く作楽が桜吹雪の影、桜帰葬を鋭い刃に変えて音も無く斬る。
    「乱暴な手段を取りたくないのですが、必要なのですね。せめて苦しみが一瞬で済むように」
     会話をしていた時とは打って変わり、凛とした陽和が片腕を半獣化させ、銀の爪で切り裂く。
    「綺麗な思い出を胸に、お休みなさい」
     影で創られた巨大十字架型の【圖影戲】を用い、ダメージを与えながら、霊犬の荒火神命に指示をする華夜。
    「奇特な者同士……気が向くならば、僕の住処で続きは如何かな」
     消滅し掛けている雪女に、顕人が手帖の白紙のページを開いて誘う。
     都市伝説の雪女は抵抗せず、顕人に吸収された。


    「花を愛で、楽しくお喋りが出来ただろうか」
     桜を見上げ、作楽がぽつりと言葉を紡ぐ。
    「雪女さんも白い雪の風景ばっかりでとても寂しい気持ちだったのでしょうか?」
    「真っ白い雪景色は見続けると憂鬱になっちゃうよね」
     陽和の疑問に、朔夜が頷き返す。
    「雪女も……楽しめてたのなら……良いのだけど……」
    「楽しめましたし雪女さんも良かったでしょう」
     零桜奈と後片づけを始めながら、蒼香が楽しそうに言う。
    「これで、お花見はお開きですわ。……ちょっと食べ過ぎちゃった?」
     満腹感に息を吐いてから、セラフは少し、気になってしまう。
    「まだ語り尽くせぬ話もあろう。雪女殿にも、語りたき話があるかも知れぬな」
     顕人は和綴じの手帖をしまい、満開の桜をあおぐ。
    「貴女の思い出はこれからも生き続けるわ」
     華夜がそっと、優しい声を響かせた。
     風に舞い散る桜吹雪が、思い出をより美しく、彩るだろう。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年4月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ