アッシュ・ランチャーの野望～美ら島を護るために

■リプレイ

●ビーチの救出劇
　ズガガガガガ！
「ひっ！？」
　一斉に鳴り響いた銃声に、状況を全く理解していなくとも、宴会帰りの若者２人は反射的に悲鳴を上、身をすくめた。
　だが、嵐のような銃弾を受け止めたのは大柄な青年だった。
　灼滅者であるゆえダメージは受けないが、青年……神虎・闇沙耶（鬼と獣の狭間にいる虎・d01766）の精悍な身体にも幾ばくかの銃弾がめり込み、血が流れている。
　その様子に若者２人は驚いて、
「だっ、大丈夫っすか！？」
「今の音、なんなんです？」
　硬直しつつも問いを発するが、
「激しい鉛の雨か……速く逃げるが良い」
　闇沙耶は頓着なく２人を促し、また彼らの腕を背後から神虎・華夜（天覇絶葬・d06026）がぐいと引っ張り、
「さ、乗りなさい」
　待機していた百合ヶ丘・リィザ（水面の月に手を伸ばし・d27789）のライドキャリバー・ブレスにまずは１人を騎乗させる。
「頼むぞ、ブレス」
「え、え、あの俺、バイクの免許……うわっ、ひええ～」
「しっかり掴まってなさい」
　戸惑う若者におかまいなしに、ブレスは上陸した兵士の射程外へと一直線に若者を運ぶ。
「貴様もすぐに運んでやるからな」
　闇沙耶は残った若者を死守すべく、鉛の雨の中、彼を背に庇い、上陸軍の方に視線を向けた。

●王者の風
　若者２名の避難を始めると同時に、上陸した一般兵士を退けるための、ESP王者の風による作戦も開始されていた。
　もちろんこちらにも銃弾が降り注いでいる。
「返回船！」
　箒に騎乗し、上空から拡声器で中国語で指示を出しているのは各務・樹（カンパニュラ・d02313）。
　樹は、王者の風と、そして中国語に反応する兵士たちを見下ろしながら、
「日本でしか戦ってこなかったけど、こうなるとダークネスに支配されてきた世界であったことを実感するわね……できる限り一般兵は傷つけたくないわ」
　煌・朔眞（秘密の眠り姫・d05509）とリィザは、
「戦は数ではありませんよ……思い知らせてあげましょう。朔眞たちの戦いを」
　波打ち際から、なるべく樹を含めた３人でESP範囲をかぶらせないよう調整しつつ、王者の風で兵士たちを次々とひるませている。
「全くゾロゾロご苦労様ですね……返回船！」
「こんな大掛かりな事も出来るんだねー。なんかすごくヤバい橋渡らされるような気がしてるけど超えちゃえば問題なし！　何事もなかった、そう言えるように頑張らないとね……返回船！」
　猪坂・仁恵（贖罪の羊・d10512）と、饗庭・樹斉（沈黙の黄雪晃・d28385）も、声かけでフォローし、銃弾の雨が降り注ぐビーチを駆け回る。
「Hide in the ship！」
　但し、リィザは中国語の発音に自信がもてず、英語で命令しているが。
　どうやら中国軍の１隊は５０～６０人程度で構成されているようで、王者の風１回の発動により、１隊ずつくらい影響を及ぼせているようだ。
　１～２分の後には灼滅者の到着より先に上陸していた隊と、波打ち際に迫っていた隊にはおおよそESPが行き渡り、銃撃の雨の勢いが弱まってきた……と、その時。
『没有退路。白遂行説明！』
　ある隊の後方から力強く命令が発せられた。その命令に、一般兵士たちはハッと我に帰ったように再び銃を構えた。
「退却するな。命令を遂行せよ、って言ってるよ！　しまった、指揮官を倒さなきゃ僕たちの言うことを聞いてくれないよ」
　ハイパーリンガルを搭載している樹斉は、敵の指揮官の命令の意味を聞き取っていた。その命令を発したものを隊列の中に探すと……。
「やっぱり、アンデッド兵士だ！」
　土気色の骸骨のような兵士が、王者の風の影響を全く受けない様子で叫んでいる。
「なるほど、各隊の指揮官としてアンデッド兵士が配置されているというわけですわね」
　いつでも斬りこめるよう、予言者の瞳で精度を高めていた、黒岩・りんご（凛と咲く姫神・d13538）が、
「まさか戦争まで起こすとは、バベルの鎖があっても、こんな大規模な作戦、誤魔化し効かないんじゃないかしら……？　ともあれ今は上陸させないよう全力を尽くしましょう！」
　樹斉が指したアンデッド兵士めがけ、愛刀・美女桜を抜刀し、小袖と袴をひらめかせつっこんでいく。
「わたくしはわたくしの日常を守るために戦うので、戦争起されるなんてまっぴらごめんなのです！」
『ぎあぁぁっ！』
　りんごの刃は深々とアンデッド兵士の肩を斬りつけた。更に樹斉が、紫紺の楔から放った制約の弾丸でフォローし、追いついてきた仁恵が魔力を込めた摩天楼で殴りつける。
　指揮官を攻撃され、周辺を固めていた部下の一般兵士たちは色めき立ったが、
「返回船！」
「Hide in the ship！」
　すかさず王者の風組が命令を発しなおし、一般兵士たちの動きを止める。
　そこに、
「神命、素早くいくわよ」
「貴様らの相手、この殻炎の獣が務めよう！」
　霊犬を伴った華夜と闇沙耶が飛び込んできた。
　闇沙耶の無【価値】が胴をざっくりと斬りつけ、華夜の十字架が腐りかけた頭を砕く。
「返回船！」
　指揮官を失った一般兵士たちは、今度こそじりじりと乗ってきたボートへと退がっていく。
「避難は済んだです？」
　仁恵の問いに華夜は頷いて。
「今頃ブレスが、２人目も弾の届かない場所まで送り届けているわ」
　それを聞き、灼滅者たちは少しだけ安堵する。一般人を無事に避難させるという目標はこれで達成できた。
　お次はこの大量の一般兵士たちの行動を封じ、アンデッドや人甲兵と引き離さなければならない。そしてそれには、王者の風をかけつつ船に戻るよう命じ、それと平行して隊の中から隊長アンデッドを探して倒さなければ。
　――楽な仕事ではないが、やるしかない！
　灼滅者たちはそれぞれの役割を果たすべく、迷彩服の兵士たちのただ中へと、銃弾の降り注ぐただ中へと駆け込んでいく。

●アンデッド兵士
「えーいっ！」
　箒から思い切りよく飛び降りた樹の月閃月虹が、隊長アンデッド兵士の脳天を貫き、またこれで１つの隊を船へと帰らせることができるようになった。
　戦闘開始から10分も経つ頃には、上陸してきたほぼ全ての兵士に王者の風が行き渡り、隊長アンデッドの灼滅にチーム全員が参加できるようになっていた。
　とはいえ、せっかく船に帰りかけたのに、隊長アンデッドの命令で戻ってきてしまう一般兵士もいるので……。
「アンデッドになられたら困りますので、殺しはいたしませんけどねっ！」
　ボグッ！
　リィザがしつこく銃撃してくる一般兵士をバトルリミッターで殴り倒し、昏倒させた。
　大分減ったとはいえ、ビーチにはまだ相当数の一般兵士が残っており、巻き込まないようにするには気を遣う。
　しかも。
「……数だけは揃えているようだな」
　闇沙耶が呟いた。敵方も思いがけない迎撃に業を煮やしたのか、アンデッド兵士が３体もが揃って灼滅者に向かってきたのだ。
　一般兵がいるうちはなるべく列攻撃を使いたくはなかったが、
「仕方ないです……っ」
　朔眞が素早く詠唱を唱えLiddell's dreamから光線を乱射し、目映いそれを目くらましに背負いながら、
「3000人と戦えると聞きましたのに――残念。100分の１じゃありませんの。ブレス、突っ込みますわよ！」
　避難を終えて戻ってきた愛機と共に、リィザが手近な一体に雷を宿した拳でアッパーカットを見舞う。
　しかし苦し紛れに発射されたアンデッドの銃の光線が、
「うっ！」
　リィザの腹部に命中してしまった。
「リオ、回復お願いします！」
　朔眞の声に、ウィングキャットがすぐさま応じ、うずくまるリィザの元へと飛んでいく。
　そして、
「華夜、支援を頼む」
「言われなくても、やるわよッ」
　華夜が放った影に紛れるようにして踏み込んだ闇沙耶の重たい刃が、３体のうちの１体にトドメを刺した。
「よっしゃ、どんどん行くですよ！」
　しかしそれに一息吐くこともなく、仁恵が、
「自分が死んでるからって人を殺して良い訳無いでしょうて。２度目ぶっ殺しますよ！」
　砂浜を蹴って身軽に飛び上がり十字架で２体目を殴りつけ、りんごが同時に刀で敵の銃を払い落とした。
　……と、その時。
　ビシッ。
　押し殺したような発射音に振り向くと、樹斉が何故か海の方に向かって指輪から弾丸を放っていた。
「来たよッ、人甲兵が！」
　半獣人の目が、戦いはじめより幾分明るくなってきた海原に、新たにビーチに近づいてくる５隻の上陸艇を見いだしたのだ。順に近づいてくる５隻の上陸艇には、３ｍもあるかと見える、レトロなロボットのような、パワードスーツのような、どちらにしても不気味な金属の異形が乗っている。
　不幸中の幸いか、それぞれのボートに乗っているのは人甲兵らしき異形が１体と、操縦する一般兵士が２～３名のみのようである。
　だが、満を持したかのように上陸してくる人甲兵は、アンデッド兵士よりかなり強いと聞いているので……。
「何とか足止めして上陸を遅らせるから、早くそっちを片づけちゃって！」
　海に向かって指輪を構えた樹斉の叫びに、仲間たちは頷き、残りわずかとなったアンデッド兵士に一斉に飛びかかっていく。

●人甲兵
「これが人甲兵ね？　姿はアレだけど、やる様ね？」
　華夜が呟いた。
　灼滅者たちは、はじめに上陸してきた人甲兵と対峙していた。
　アンデッドの始末は何とか間に合い、人甲兵と共に船に乗ってきた兵士は、下船前にりんごが魂鎮めの風で眠らせた。
　状況は悪くない……２体目の人甲兵が上陸する前に、こいつを倒す！
　人甲兵が銃を上げる前に、闇沙耶が黒々と無【視】を延ばして縛り上げ、仁恵がタイミングよく十字架で背中から殴りつける。樹は槍から氷弾を撃ち込み、りんごは抜刀しながら果敢に切り込んでいく……が。
　ズガガガガ！
「きゃあっ！」
　先制攻撃を振り払うように前を向いた銃口から発射された炎弾が、りんごを貫いた。
「回復しますわよ！」
　リィザがブラスには突撃させながら、自らは素早く回復に切り替え、りんごに駆け寄り集気法を施す。
「よくもやりましたね！」
　朔眞は十字架から動きを妨げる光線を放ち、リオは回復のフォローに飛んでいく。そこに樹斉が流星のような跳び蹴りを見舞うと、人甲兵はさすがにバランスを崩してよろめき膝をついた。
　足止めや行動を阻害する攻撃を連続させて、敵の攻撃力を封じていく作戦である。
　すかさず華夜が、
「激しいのがお好きのようね、でも、沖縄の海にそんなのは要らないわ！」
　荒火神命に援護させながらバールのような者でずっぽりとくるみこむ……その時。
「あっ！　次のが上がってきます！　こちらを早く始末しなければ！」
　海の方に注意を向けていた朔眞が声を上げた。見れば確かに２隻目の人甲兵を乗せたボートが、波打ち際までやってきている。
「よし……」
　闇沙耶が斬艦刀に囂々と炎を燃え上がらせ。
「人甲兵、貴様らも燃やし尽くしてくれる！」
　ガシュッ！
　金属の首を刃と熱で斬り落とした。
　これではさしもの人甲兵ももう動けない――大丈夫だ、８人と３体の力を合わせれば、人甲兵もさほど怖い敵ではない。
「次いこう！」
　灼滅者たちは、倒した敵の骸を一顧だにせず、次ターゲットの上陸地点へと駆けていく。

●掃討
　そしてまた10分ほどの後。
「とおーっ、ですよ！」
　仁恵の跳び蹴りで横様に倒れた人甲兵のこめかみに、
「これで決めるわ！」
　樹の槍が深々と突き刺さり、これでまた１体が動かなくなった。
「さあ、最後の１体だ！」
　振り返ったそこでは、最後に上陸した人甲兵を、樹斉が小さな身体で必死に足止めしていた。
「樹斉様、お疲れさまですわ。私の後ろにいてくださいな」
　リィザに回復を施されつつ庇われ、樹斉は、
「ありがとー」
　肩で息をしつつもホッと愛らしい笑顔を見せたが、長期戦になり、疲れているのは彼だけではない。全員が多かれ少なかれ、ダメージを受けているし、疲労も蓄積している。
　だが、気の遠くなりそうな大軍勢との戦いも、あと１体のみだ――やりきるしかない！
「俺は貴様らを葬りこの先を征く！」
　闇沙耶がオーラを宿した拳の連打を鋼鉄の胸板に見舞い、朔眞が鋼の帯をザクザクと突き刺す。
「虎の一閃、馳走するッ！」
　華夜の黒影刀が銃を構える利き腕を斬り落とし、樹斉も残り少ない力を振り絞り、制約の弾丸を命中させた。
　サーヴァントたちも、ここが勝負処と、一般兵のいるうちは封印していた列攻撃も駆使して攻撃に出る。
「虐殺も、人死にも嫌いなんですよ！」
　仁恵が十字架をつきだして足を掬うと、人甲兵は砂の上にドゥと仰向けに倒れた。
「今よ！」
　樹の風の刃が渦を巻いて襲いかかる中、左腕を小袖から抜いて露わにしたりんごが、渾身の力を込めて殴りかかる！
　ぐしゃり。
　鬼の拳が、金属の頭部を叩き潰し……。

　――長い戦いの、一幕目が終わった。

●二幕目はすぐそこに
　人甲兵が全滅した途端、王者の風によってボートに戻っていた一般兵士たちは、後も見ずに逃げ去ろうとしたが、母船に戻られてはやっかいと、もう一度王者の風と、魂鎮めの風を駆使して引き留め、ある程度の数をビーチへと再上陸させることができた。
　ボートにも戻れず砂浜にへたりこんでいた兵士たちも幾らかいたので、それらにもESPをかけ直し、まとめて後ろ手に縛り上げ、片っ端から拘束する。
「お仕事でもしちゃいけねー事があるですよ」
　仁恵は呆然とする兵士たちを縛り上げながら説教し、一方りんごは、こちらもせっせと魂鎮めの風をかけまくりつつも、
「……でも本当に、この後の後始末大丈夫なのかしら。他国の軍を動かして、何もなく終わるとは思えないのですけれど……」
　この事件が国際問題に発展してしまうのではないかと、ハラハラしている。
　やはり忙しく立ち働いていた朔眞は、ふと立ち止まり、
「……大丈夫、次はいい夢を見られるわ」
　風化し消えていこうとしているアンデッド兵士の骸に、花のように、けれど寂しそうにほほえみかけた。
　樹斉は、残された人甲兵の装甲の破片を一生懸命観察している。
「……案外この装甲自体がダークネスだったりしないかなー。タロットみたいなのだっていたしさ」
　何らかの手がかりが得られないかと思ったのだが、次の戦いまで時間がないので学園に持ち帰る暇もなく、精査することができないのが悔しい。
　皆で疲れた身体にむち打ち、忙しく後始末をしているうちに、夜明けがやってきた。亜熱帯の海が、朝日に美しくきらめく。
　華夜は、目映い海に目を細めながら、すぐさま戦うことになるだろう大いなる敵へと思いを馳せる。
「……私の怒りはそう安くないわよ。元老院さん」
　隣で闇沙耶も頷き、低く呟く。
「待っていろ、アッシュ……！」

作者：小鳥遊ちどり	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年5月2日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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