アッシュ・ランチャーの軍勢を追い払った直後の沖縄で、灼滅者たちは学園より届けられた、最新の依頼が収録されたディスクを手にしていた。
画面の向こうで春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)が、頭を下げた。
「お疲れ様です。多数の敵を相手に、素晴らしい戦いぶりでした。この勝利により、アッシュ・ランチャーを灼滅するチャンスを得る事ができました」
統合元老院クリスタル・ミラビリスの元老であるアッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、謎に包まれたノーライフキングの本拠地への侵攻も可能となるかもしれない。
「しかし、敵軍の戦力は未だ強大であり、生半可な覚悟で反攻作戦を行う事はできません。しかも」
典は端正な眉をしかめて。
「ノーライフキングと協力体制にあるご当地怪人の移動拠点、ご当地戦艦『スイミングコンドル2世』が、アッシュの艦隊に合流したようなんです」
アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇は擬似的に迷宮化され、アッシュ・ランチャーを灼滅しない限り破壊する事は出来ず、内部にはノーライフキングをはじめとした強力な戦力がある為、攻略は非常に難しいと予想される。
「更に、スイミングコンドル2世には、闇堕ち後、行方不明になっていた、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)が囚われていることも予知されています。彼女は闇堕ち時に特殊な力を得たようで、エクスブレインとは違う予知能力を獲得しており、その能力がノーライフキングにより悪用されている可能性があります」
未来予知能力を敵が得る事は非常な脅威なので、この作戦中に、可能ならば彼女を救出、或いは灼滅しなければならない。
「アッシュ・ランチャー艦隊は、艦隊を再編して撤退しようとしています。しかし、これだけの大規模な艦隊ですから、動きは鈍く、今すぐ行動すれば追いつくことができ、艦隊に大規模な襲撃をかける事が可能です」
こちらから攻撃をしなければ、相手は戦わずして撤退していくが、アッシュ・ランチャーと艦隊が健在である限り、似たような軍事行動が再び行われるのは間違いない。それを防ぐためにも、ぜひここで灼滅しておきたい。
また、ノーライフキングの首魁『統合元老院クリスタル・ミラビリス』の一体であるアッシュ・ランチャーを灼滅する事ができれば、ノーライフキングの本拠地の情報を得る事ができるかもしれない。
現況について説明した典は、次に作戦の具体的な内容を語りはじめた。
「艦隊までの移動には漁船やボートなども徴用していますが、最終的には灼滅者の肉体をフル活用し、強行突破していただかなければなりません」
戦艦の砲撃でも灼滅者はダメージを受ける事はないが、漁船やボートが耐えられる筈はない。
漁船やボートの操縦方法のマニュアルは用意しているので、可能な限り漁船やボートで接近し、撃沈された後は、灼滅者のみで敵艦に潜入するしかない。
最初から泳いで近づく事もできるが、漁船やボートを上手く利用すればより迅速に敵艦に接近する事ができるだろう。
「そうやって何とか敵艦に取りついた後、内部を制圧する作戦に移って頂くわけですが」
アッシュ・ランチャーは『撤退可能となった艦艇』に移乗し、いち早く戦域から撤退しようとしている。
この撤退を阻止する為、艦隊の外側に配置された、行動準備の整った艦艇を優先して制圧していく必要がある。
「各艦艇には、人甲兵やアンデッド兵だけでなく多くの一般兵が乗船しています。それを利用し、人甲兵とアンデッドを殲滅した後、ESPなどで一般兵に言う事を聞かせ、他艦艇の退避を邪魔するように移動させれば、アッシュ・ランチャーの撤退を妨害する事ができるでしょう」
妨害により撤退が不可能となれば、アッシュ・ランチャーは艦隊の人甲兵やアンデッドを自船に呼び集め、自分を守らせると考えられる。
アンデッドや人甲兵は、救命ボートのようなもので移動したり、或いは、海中を泳いだり歩いたりして、アッシュ・ランチャーのいる艦に集結してくる。
「集結する戦力は、アンデッド1000体弱に、人甲兵が300体程度と予想されます。この戦力が集結すれば、打ち破るのは困難です。なので、親玉を撃破する為には、この増援を阻止する事も重要となります」
ここまで首尾良く作戦が進めば、アッシュ・ランチャーが座乗する艦艇に乗り込み、決戦を挑む事ができる。
「アッシュ・ランチャーは、ノーライフキングの首魁の一員ですので、非常に強力で、親衛隊ともいえる強力な人甲兵の護衛もいるため、撃破するには相応の戦力が必要となります」
さらに、後方から増援の人甲兵やアンデッドが押し寄せれば、撃破は非情に困難になる。
「撤退を阻止する、増援を阻止する、アッシュ・ランチャー及び護衛と戦うという3つの作戦を同時に成功させなければ、灼滅は不可能でしょう」
次に典は、スイミングコンドル2世号の動きについて説明をはじめた。
「アッシュ・ランチャーが、初っ端からスイミングコンドルに避難することはないと予想されています。何故なら……」
『紗里亜』がその予知能力で『最初から、スイミングコンドル2世にアッシュ・ランチャーを避難させた場合、灼滅者がコンドル号に押し寄せ制圧されてしまうだろう』と告げたからである。
それを受けてアメリカンコンドルは『アッシュ・ランチャー艦隊と灼滅者が戦って混乱した所』に介入しようと目論んでいる。
「つまり、アメリカンコンドルの介入を防ぐために、スイミングコンドル号への攻撃も同時に行わなければならないということです」
スイミングコンドル2世の戦いでは、条件さえ整えば、アメリカンコンドルの灼滅の可能性もある。
そしてスイミングコンドル2世を担当するチームは、艦のスーパーコンピューターに接続され、予知装置として利用されている『椎那・紗里亜』の救出あるいは灼滅も担うことになる。
「敵は強力ですし、難しい作戦になりますが、この状況はチャンスでもあります。うまくいけば、ノーライフキングを追い詰める事ができるでしょう……健闘をお祈りしております」
もう一度典が頭を下げたところで、ディスクは終わった。
参加者 | |
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神虎・華夜(天覇絶葬・d06026) |
聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863) |
黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538) |
七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825) |
白石・作楽(櫻帰葬・d21566) |
饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385) |
ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(白と黒のはざまに揺蕩うもの・d33129) |
篠崎・零花(白の魔法使い・d37155) |
●
「まずいぞ、見ろ、撤退を始めた艦がある!」
大艦隊の外側にいる数隻の敵艦がゆっくりと舵を切り、戦場を離脱しようとしている。
8人の乗ったフィッシングボートは、敵艦隊全体を見渡せる位置で一旦停船していた。
すでに先鋒の5チームは前線の艦を奪い取り、撤退を妨害しようと行動しているはずなのだが……。
「やはり5チームだけでは、戦力が足りなかったのか……?」
もちろん先鋒チームは役目を果たすべく必死に戦っており、次々と艦船を制圧し、撤退を邪魔しようとしているのだが、いかんせん物量的に追いついていない状況だ。
「動き出した艦のどれかに、アッシュ・ランチャーが乗っていたらどうしよう!?」
「このままでは足止めしきれないかも」
「もっと戦力をそそぎ込んでいれば……!」
歯噛みして戦況を見つめる8人の役割は、アッシュ・ランチャーへの増援阻止。しかし、先鋒隊がアッシュの艦を足止めし、それにヤツを倒すチームが乗り込むことが出来なければ、彼らの出番はない。このままでは作戦の序盤で躓いてしまう……と、焦りの気持ちが高まった、その時。
ドムッ、ドムッ……ドムッ!
信じられない光景が発生した。
「……え」
先鋒チームが奪取したとおぼしき艦から激しい砲撃が行われ、撤退しようとしていた1隻が轟沈させられたのだ!
「し、沈めちゃったわ……一般人も乗っている艦なのに!?」
敵艦の乗組員は、ダークネスに操られているとはいえ、中国軍の一般兵士が大部分である。
仲間の過激な行動に、8人に戦慄が走る。
だが、
「……このままでは撤退阻止することができないだろうと判断し、最低限の戦力でもやれるギリギリの戦法を取ったのだろうな」
敵の一般兵にも犠牲を出さないような、穏便な手段を選んでいる暇は無かったのだろう、ということは理解できる。
仲間の悲壮な覚悟を慮っている間にも、砲撃は続く。撤退しようとしていた艦のうち、何隻かが沈み、あるいは傷つき……そして。
「あ……」
「うそっ!」
何故か無傷で残った艦に、砲撃していた艦がものすごい勢いで体当たりし……自沈した。
「し、沈んじゃったよ!?」
「灼滅者はこんなことで溺れたりしない……けど」
物理的な体当たりによる自沈であるから、灼滅者はダメージを受けないだろう。しかし、同艦に乗っていた一般兵はその限りではない……しかも。
「……当たられた方の艦が、平気なのはどうして?」
体当たりされた方の艦は、無傷で海上にある。自沈艦により進路を妨害され立ち往生しているが、それだけだ。
「……あっ!」
「そうか!」
8人は同時に気づいた。あの艦にアッシュが乗っているのだ。ヤツの強大なサイキックで護られているので、砲撃や体当たりといった物理攻撃のダメージを受けないのだ!
待機中の他チームも同じことに気づいたのだろう、アッシュ・ランチャーと対決するチームのボートが、今こそとばかりに、一斉に件の艦を目指して動き出した。
「必ず勝ってくれ。そして……!!」
「頼むわよ……!」
一抹の不安を抱えつつも、聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)と神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)が仲間のボートに呼びかけ、
「私たちが増援を阻止するから……頑張ってきてほしいわ」
篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)も心の中エールを送る。
「さあ、私たちも行動開始しましょう」
ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(白と黒のはざまに揺蕩うもの・d33129)の言葉に仲間たちは頷き、コンパスで分担海域の方向を確認し、装備を整える。
「ディープブルー・インヴェイジョン!」
「一期は夢よ、ただ狂え」
解除コードを唱えた七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)の全身が甲冑に包まれ、白石・作楽(櫻帰葬・d21566)は蒼薔薇の刺繍が美しい白いドレス姿になった。
武装した灼滅者を乗せて動き出したボートは、敵艦や、時々浴びせかけられるサイキック攻撃をすりぬけながら、分担海域を全速力で目指す。
「ちょっと予定より大変なカンジになっちゃったけど、大艦隊の制圧とか、わくわくするよねっ!」
半獣姿の饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)が、毛並みを海風にたなびかせ、空元気も元気のうち、とばかりに明るく笑う。
「ってか、そう思って弱気にならないようにしないとだよね。灼滅者が力を合わせて頑張れば、きっと何とかなるよ!」
●
「あの哨戒艇をいただこう」
8人の乗ったボートは、幾隻もの敵艦をすりぬけ、前線近くまで達していた。逃げだしかけていた前線のアッシュ・ランチャー艦と、後方のまだ動き始めていない敵艦隊の大部分を分断する位置だ。
とはいえ、彼らの乗ってきたボート……かなり性能のよいフィッシングボートではあったのだが、ここまで受けた攻撃で随分浸水してしまっており、沈没は時間の問題だ。このあたりでまだ痛みの少ない敵艦をいただいて、援軍を阻止する足としたい。
彼らがターゲットに選んだのは、彼らとアッシュ艦との間に残されていた艦艇のうちの一隻だった。大きな船ではないが、小回りが効きそうだし、小さな船の方がアンデッドや人甲兵が乗っていたとしても少数であろう。
「先に上空から近づいてみるわ」
華夜が箒でボートを飛び立った。目標艦上空からラブフェロモンをかけ、一般兵士だけでも籠絡し、乗り移るのを楽にしようという試みである。
しかし、サイキックの一斉狙撃を受けてしまい、船上空まで行けずに戻ってくるしかなかった。やはり少数とはいえ、アンデッドや人甲兵が乗り込んでいるようだ。
そうとなれば、ボートで出来るだけ接近するしかない。
「行けるだけいこう!」
接近するボートにビシバシとサイキック攻撃が当てられる。しかし灼滅者たちも遠距離サイキックをお返しとばかりに撃ちまくりながら、一直線にターゲットを目指していく。
「――乗り移りますわよ!」
目標はすぐに間近に迫り、沈没しかけのボートから、灼滅者たちは大胆に敵艦に跳び移る。
「船を飛び移るなんて、牛若丸にでもなった気分ですね、壇ノ浦の八艘跳びみたいですわ!」
小袖と袴をなびかせて真っ先に飛び移った黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)は、鬼と化した左腕で、まずは甲板にいたアンデッドを殴り倒し、続いた忍魔が、
「ふふっ、海賊みたいでもあるな!」
【鋸引鬼】斬魔で頭蓋骨をかちわった。
作楽は縛霊手を掲げて、集まってきたアンデッド3体ほどに向けて結界を張り、樹斉は、
「そういえば、サイレーンと戦ったのもこの海だっけ……惑わせ、狂わせるのはサウンドソルジャーの得意分野なんだから!」
高らかに歌声を響かせる。麗治が力強い回し蹴りの勢いで船から落ちたアンデッドは、フローターで海面に残ったウィルヘルミーナの制約の弾丸で海の藻屑と化す。
華夜と零花は、
「私は影の女王。貴方の足元に存在する恐怖……素早くいくわよ!」
影を放って、アンデッドたちの後ろに重々しい音をたててやってきた人甲兵を捕縛する。
予想通り、この船に乗っていたアンデッドと人甲兵は少数で、まずはスムーズに掃討することができた。
残った一般兵士は、
「それじゃ、艦をいただきましょ……私とお友達を一緒に乗せてほしいの。いいわよね?」
まずラブフェロモンで籠絡し、更に艦の操縦に最低限必要な兵士だけを残して、魂鎮めの風で眠らせ、救命ボートに押し込んでおく。
そして操縦士には、彼らが予定していた位置と向き……アッシュ艦から見て11時の方向で、アッシュ艦を背に、援軍が続々と出動してくるであろう敵艦隊本体に、自艦を相対するよう命じた。
その頃には、同じ役割を担う他チームも、彼らと同じく、アッシュ艦と艦隊本体を分断するような位置を確保しつつあった。
樹斉は用意してきた旗を艦に揚げた。はためく武蔵坂の校章旗を、忍魔が、
「なるほど、この旗なら味方にはわかるな」
感心して見上げる。
甲板で作業をしていたりんごが、海上の気配に気づいて顔を上げる。
「きましたね……」
艦隊本体の方から、ボートで、または泳いでアッシュ艦を目指すアンデッドたちが押し寄せてくるのが見えてきた。
「あれだけのことをしでかしてくれたのです。ここでキッチリと終らせたいものですね。決戦は譲りますが、この場はわたくし達が預かります。通しはしませんよ……!」
●
艦の脇をすり抜けようとした救命ボートに、りんごが放った風の刃がかまいたちのように襲いかかる。操縦士のアンデッドの片腕がスパリと切断され、方向感覚とスピードを失ったボートに、すかさず作楽が、
「琥界、霊障波を!」
ビハインドに攻撃を命じつつ、自らも操縦士アンデッドに影を喰らいつかせる。
2体のアンデッドと1体の人甲兵が乗り込んでいるボートは、灼滅者たちが占拠した艦の脇に完全に停船した。
樹斉の踏む情熱的なステップのエネルギーがボートを激しく揺らし、華夜のマジックミサイルが立ち上がって狙撃しようとしたアンデッド1体を海にたたき落とす。更に愛犬・荒火神命が六文銭を嵐のように射ちまくる中、ウィルヘルミーナが海面を滑るように近づいて、輝くイージェ・パッションで操縦士の首を落とした。すると残った人甲兵が操縦席に着こうとしたが、大きく重たい人甲兵は狭い救助ボートの中では素早く動けない。零花はソラに猫魔法で補助させながら、影でずっぽりと喰らいこむ。そこへ忍魔が虎杖で呼び出した、
「お前たちの思い通りにはさせない!」
怒りの雷が、金属の装甲をビリビリと帯電させる。今こそ、とばかりに仲間たちの攻撃が殺到し、人甲兵もバラバラの金属片となり、海へと消えた。
よし、お次は……と、再び海へと皆が視線を向けた瞬間、
ギュン。
「……!!」
予想していなかった方向から銃声が響き、りんごの肩を銃弾が貫通した。
舷側からずぶぬれのアンデッド兵士が艦によじ上りつつ狙撃したのだった。この船を奪って、あくまでアッシュ鑑にたどり着こうとでもいうのか。
「さっき海に落ちたヤツか……しぶといな!」
しかしすぐさまりんごには麗治がラビリンスアーマーを延ばして回復を施し、アンデッドは作楽が茨と月の装飾が施された槍で再び海に突き落とす。そして海面で待ち受けていたウィルヘルミーナが絡む白蛇のリングから狙い違わず弾丸を撃ち込んで、今度こそ永遠に海へと沈めた。
押し寄せてくる援軍の1体1体は強いわけではない……だが油断はできない。
無線や携帯などの通信機器は妨害されているのか一切通じないので、他チームの戦況はわからない。だが、背後の艦にはアッシュ・ランチャー担当のチームがたどり着いてくれているはずだ。
決死の思いで道を開いてくれた先鋒チームの思いに報いるためにも――ここは絶対通さない!
8人は、次のターゲットを鋭い眼差しで探しはじめる。
●
援軍の迎撃を始めてから10数分ほどが経った。
担当地域を移動しつつ多くの敵を倒してきたが、敵はまだ尽きない。
「……12時方向、アンデッド発見。3体ね」
零花が目敏く海面を泳ぐターゲットを発見し、早速マジックミサイルを発射した。
すぐさまラブフェロモンの影響下にある操縦士に命令し、艦を移動させる。
艦はターゲットに近づいていき、射程に入るやいなや、りんごが弓を引き絞り、流星群のような矢を放った。続けて作楽が桜帰葬から影の刃を放とうとした時。
ダムッ!
「!」
アンデッドの1体が器用に立ち泳ぎしながらライフルを発射した。弾丸は作楽に向かって飛んでくる……が。
「琥界!」
ビハインドが盾となり、愛しい主を護った。
「とりゃー!」
樹斉が果敢に海に飛びこみ、その勢いを借りて1体の喉笛をメスで切り裂き、華夜が【圖影戲】からの光線で追い打ちをかける。忍魔の風の刃が、腐った肉体をズタズタに裂くと、海面に降りていたウィルヘルミーナが、
「人甲兵が通ろうとしています!」
海中をのぞき込みながら仲間に知らせた。
「なにっ!?」
ひょっとして泳いできたアンデッドは、灼滅者の網を人甲兵にすり抜けさせるための囮……いや人甲兵がたまたま状況を利用しただけかもしれないが。
どちらにしても、みすみす人甲兵を通すことはできない。
麗治はくんくん、と鼻をうごめかし、DSKノーズで人甲兵の位置を確かめると、
「俺が行く。アオ、回復は任せたぜ!」
仲間に後を託すと、水中呼吸を発動して思い切りよく海に飛び込んだ。
人甲兵は昔風の潜水服のように、海中を重たげに沈んだり浮いたりしながらアッシュ艦の方向に進んでいた。
幸い、ここまでくるのに結構なダメージを受けているようで傷だらけだ。友軍のチームにやられたのかもしれない。
「灼滅しなくとも、動けないようにさえすれば……」
気配を殺して泳ぎ近づいていった麗治は、
「くらえ!」
DESアシッドを勢いよく噴出した。強酸性の液体は装甲の肩に付着し、どろりと金属を溶かした。
人甲兵はゆるりと振り向いて銃口をこちらに向けたが、海面の方から鋭い弾丸が飛んできて、ビシリと兜に突き刺さり、反撃を封じた。ウィルヘルミーナの援護だ。
腕の装甲と兜を破壊された人甲兵は、ブクブクと激しく気泡を放出しながら深い海へと沈んでいく。
麗治とウィルヘルミーナが船に戻ると、アンデッドの方も仲間たちが首尾よく片づけ終えており、皆で甲板から敵艦隊の本体側を怪訝そうに見つめていた。
「どうした?」
訊くと、零花が首を傾げて。
「……援軍が、退いていってるみたいなの」
見れば確かに、こちらに向かってきていた援軍のボートが慌てた様子で母船の方に引き上げているようだ。
「他のエリアでも、敵は一斉に引き上げてるみたいだよ!」
双眼鏡で他チーム担当の海域も観察しながら樹斉が知らせる。
「……あ、わかった」
作楽がぽん、と手を叩き。
「成功したのだろう。アッシュ・ランチャーの灼滅に」
「ああ、そうか! やったかぁ」
「作戦開始時はどうなることかと思ったが、何とかなったようですね」
りんごが左腕の肩脱ぎを直しながら笑みを見せた。
仲間たちもホッと息を吐き、激戦だったであろう、アッシュ・ランチャー鑑を振り返った……が、ドッと疲れも覚え、思わず座り込んでしまう。
戦闘中は夢中で自覚がなかったが、神経を使う長い戦いに心身共に疲れきっている。奪った艦もいつの間にかボロボロだ。
だが、これで作戦完了、というわけにはいかない。
「やれやれ、引き上げてったアンデッドも、なるべく倒しておいた方がいいだろうな」
「そうね。それに一般兵士もどうにかしなきゃ」
もうひと仕事頑張ろう、と、灼滅者たちは仲間同士支え合いながら再び立ち上がるのだった。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年5月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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