パティシエールカンナの和菓子展示会~後編ロビー戦

    ●金沢・某施設、大会議室にて
     北陸新幹線の開通で、ますます注目度アップの古都・金沢。
     武家文化に育まれてきたこの街では伝統的に茶道が盛んであり、それに付随し和菓子も発展し、老舗の菓子店がたくさんある。
     その日も、市内の公共施設において、熱心な和菓子職人や茶道家、百貨店の担当者など業界の人々が集まり、新作和菓子の展示と勉強会を兼ねた会合を開く予定となっているのだが……。

     展示会開催の朝、今回の会合の役員10名が、某公共施設の大会議室で会場の設営をしていた。
     開始時刻まで1時間余り。そろそろ雑用係の学生バイトの集合時間だし、新作を発表する職人たちも菓子を運び込んでくるだろう。作業を急がねば。
     そこへ。
     開け放っていたドアから、コック服の長身の女性がツカツカと大股に会場に入ってきた。手には、泡立て器とパティスリーナイフを持っている。
     和菓子展示会にパティシエ? いや、女性だからパティシエールか?
     どちらにしても和菓子職人とは似て非なる存在に、会場内の人々は一瞬ポカンとしたが。
    「えっと、どちらさんですか? 会場をお間違えでは」
     慌てて今日の会合の責任者を務める、大手和菓子店の社長が駆け寄っていくと……。
     ザシュッ。
     光のようにパティスリーナイフが一閃し。
     社長の首がぱっくりと裂け、次の瞬間、夥しい血が噴き上がった。
     凍り付く人々。
     鮮血に染まる白い床。
     首を切られた社長は棒のように倒れ、悲鳴を上げることもできず、断末魔の苦しみの中、痙攣するだけ。
     パティシエールは、無表情のままで白衣と白皙に血飛沫を浴び。
    「新作和菓子の展示会……? ふん、笑わせるんじゃないわよ。私が、誰も見たことのない斬新な菓子を創ってあげるわ……人間の肉と血でね!」
     言い放ち、次の犠牲者へと飛びかかった。

    ●武蔵坂学園
    「六六六人衆に対して、サイキック・リベレイターを使用した事で、五二〇位、パティシエール・カンナが起こす殺人事件を予知する事ができました。彼女が和菓子屋に現れるのではないかと、網を張ってくれていた式夜さんのおかげでもあります」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は、2チームの灼滅者たちと共に座る、両角・式夜(絞首台上の当主様・d00319)の方に頭を下げた。
    「さて、六六六人衆が強敵なことは、皆さんご存じの通りですが、サイキック・リベレイターの使用により、更に強化されている為、通常の方法で灼滅するのは難しくなっています」
     しかし一方、サイキック・リベレイターの予知により『六六六人衆の撤退』の場所や様子を割り出す事ができたため、二段構えの作戦を行う事が可能となった。
     最初に戦うチームは、殺戮現場で被害者を救出しつつ六六六人衆と戦闘する。そして、敵を撃退するか、或いは、頃合を見て撤退し油断させる。
     その上で、次のチームは、戦闘後に逃げ出してきた六六六人衆を急襲し、止めを刺す。
    「カンナは逃げ足が速く、ここまで何度も惜しいところで取り逃がしています。しかし今回の場合、現場の和菓子展示会場は、窓が無い上、出入り口が2ヶ所しかありません」
     典は会場の図面を開いた。出入り口はカンナが入ってくるロビーに面した正面の広い扉と、部屋の一番奥、非常口を兼ねた廊下に出るもののみである。
    「最初のチームは、会場内でカンナに出来るだけダメージを与えた上で、ロビーに押し出してください。そして、2番目のチームはロビーに隠れ潜んでおき、逃げようとするカンナを急襲するという作戦です」

     典は、2チーム目、ロビーで逃げるカンナを急襲する役割の灼滅者達の方を見た。
     ロビーは駐車場からすぐの施設の正面玄関を入ったところの空間で、そこを通り抜けた奥が件の会場の入り口である。施設の玄関は、丈夫なガラスの自動ドア。また、ベンチや観葉植物などが置いてあり、トイレの入り口もあるので、さりげなく身を隠しておくのは容易であろう。
    「イベント前なので、ロビーに人は少ないとは思いますが、タイミング的に参加者がやってきてしまう可能性がありますので、人払いの準備はしておいた方がいいでしょうね」
     ESPはもちろんだが、施設の玄関に何らかの看板等を出しておくと穏便に立ち入り禁止にできそうだ。
    「施設の玄関は、カンナの出現が確かめられたら、逃走予防に締め切っておく方がいいでしょう……作戦が上手くいけば、皆さんが急襲した時点で、既に敵は手負いです。逃がしさえしなければカンナの灼滅は難しくないと思います」

     典は改めて集った灼滅者たちを見回して。
    「単独では灼滅が難しい敵ですが、連携すればそれが可能になります。どうか、しっかりとそれぞれの役割を果たしてください!」


    参加者
    両角・式夜(絞首台上の当主様・d00319)
    神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)
    獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    槌屋・透流(ミョルニール・d06177)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)

    ■リプレイ


     その白衣の女は、会場入り口に、どこからともなく忽然と現れたように見えた。
     ロビーで会合関係者のふりなどをして待機していた灼滅者たちは、驚きの表情を抑え、準備中の和菓子展示会場へと大股で歩んでいく女……六六六人衆五二〇位、パティシエール・カンナを見送るのが精一杯だった。会場内の仲間に、一言連絡を入れる暇もない。
     目の前を通り過ぎる敵をみすみす見逃したのは悔しい気持ちもあるが、女がこちらの存在に全く気づいていない様子だったのは幸いである。サイキック・アブソーバーが照射されるまで、カンナのような単独で好き勝手に行動している六六六人衆の動向はしばらく掴めなかったので、ここのところの彼女は灼滅者との接触はなかったはずである。また、一匹狼ゆえに情報弱者でもあろうから、再び武蔵坂が六六六人衆の予知ができるようになったとは思い至ってないのだろう、灼滅者が潜んでいるなど、思いも寄らない様子であった。
     女が会場に入ったロビーから、じきに悲鳴や戦闘音が聞こえ、すぐに扉が閉ざされた。
     この後、会場内の様子を知るには、あらかじめ仕込んだ通信機器に頼るしかない。
     それに、ロビーでもまだやらなければならないことがある。
     カンナが通過した時には、幸いにしてロビーに一般人はいなかったが、これからやってこないとも限らない。会場内では友軍の仲間が、人払いのためのESPををかけてくれるだろうが、こちらも会場内での戦いが終わるまでに、準備万端にしておかなければ。
     何人かが施設の玄関に向かうと、案の定、お茶の師匠っぽい着物姿の初老のご婦人2人が、タクシーから降り立つところであった。
     エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)はプラチナチケット、両角・式夜(絞首台上の当主様・d00319)はラブフェロモンを発動し、ご婦人方に駆け寄った。
     エウロペアは展示会の役員であると自称し、
    「ロビーはこちらのすごく偉い職人さんが仕事のために使うことになったので、暫く立ち入り禁止にさせてもらいます」
     そんなの聞いてないわとご婦人方は顔を見合わせたが、
    「申し訳ありません、しばしロビーから出ていて頂けませんか」
     式夜が優しく葛衣で包み込むように微笑みかけると、ご婦人方は頬を染め、仕方ないですわね、ではお待ちします、と引き下がった。
     更に『準備中』の看板を羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)と立てていた黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)が、
    「裏手の非常口の外あたりに、素敵な木陰がありますよ。ベンチもありますし、そちらでお待ちになったら」
     と、施設の裏手に回る遊歩道を指し示す。
    「……行ったな」
     そしてご婦人方が行ってしまったのを確認してから、自動ドアのスイッチを切り、鍵をかけて封鎖した。
     一方、ロビーに残っていたメンバーは。
    「和菓子か洋菓子か……いや、人間の肉と血で、なんてどっちにしろ遠慮したいところだ」
     槌屋・透流(ミョルニール・d06177)は、先ほど通り過ぎていった敵の姿を思いだしながら、戦場の広さと構造を頭に叩き込み、きゅっと帽子を被り直した。
     立花・環(グリーンティアーズ・d34526)は、ベンチの陰に隠れて、やはりロビーを観察しつつも、つい扉の向こうをしきりに気にしてしまう。
    「二段構え作戦ですか。先発組がちょーナイスファイトで敵倒してくれたら楽チンなんですが」
     神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)は静かな隅っこで、大きなゴミ箱の陰にしゃがみこみ、ヘッドセットから聞こえてくる『妹』真珠の声……今現在会場内で戦っている……に耳をこらしていた。万が一にもカンナにロビー班の存在がバレてはいけないから、聞こえてくるのは独り言めいた断片的な囁きばかりではあるが、一般人の避難誘導は上手くいったことはわかった。
     玄関に出ていたメンバーも、ロビーに戻ってきてそれぞれ目をつけておいた場所急いで隠れた。
     エウロペアと獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)は女子トイレ、式夜は男子トイレの入り口からそれぞれロビーを覗き、透流は太い柱の陰に身を伏せた。
     陽桜は観葉植物の鉢の後ろにもぐり込み、
    「三度目のカンナ戦……一度目の犠牲も、二度目の逃亡も忘れてません。あたしも、あの時よりもずっと強くなりました。だから三度目の今、ここで決着をつけてみせます」
     決意を新たにする。
     璃羽は会場準備のどさくさに、入り口付近に通話状態にした携帯を置いてきたのだが、それからは大勢が入り交じる激しい戦闘音しか聞こえてこない。ただ、戦闘が佳境に入っていることはビシビシと伝わってくる。
    「カンナには縁も思い入れもありませんが、今倒しておかないと面倒そうです。全力で挑まなければ」
     カンナはいつ出てくるか……どのくらいダメージを与えてくれているのか……会場班の皆は無事だろうか……?
     時々戦況を知らせる結月の静かな声が響くだけで、ロビーは深閑としたまま、じりじりと神経をすり減らすばかりの時間が過ぎていく。
     10分近く経った頃、カンナの自己回復を仲間たちが妨げたようだ、と結月が報告した。
     ということは、カンナは大分弱ってきているということで……ぼちぼち逃亡を計る可能性も高いということでもあり。
     そろそろ、だ。
     8人が覚悟を決め、スレイヤーカードに触れ、身構えた、その時。
     バアン!
     会場のドアがぶち破られるように暴力的に開き、同時に、
    「お待ちなさい、カンナ!」
     扉越しに、そして携帯から、真珠の合図叫びが響き、結月がサッと手を振った。
     灼滅者たちが隠れ場所から飛びだしたその瞬間、会場から血に塗れた白衣の女が飛び出してきた。


    「似非職人が居ては本職の人が可哀想です。偽物は早々に倒しましょうか」
     女が会場を飛び出した途端、白衣の背中に深々と突き立ったのは、璃羽の八咫烏 ー断斬鋏ーの刃。間髪入れず、トイレから飛び出したエウロペアとくるりが、鬼の拳で殴りかかり、オーラキヤノンを見舞う。更においついてきた2匹のウイングキャット、エウロペアのエイジアとくるりのクインが、
    「くーちゃんっ、やっちまうのだっ!」
     猫魔法を浴びせかける。正面からは結月が黒々と膨れ上がった蝶の影を喰らいつかせ、ナノナノのソレイユがシャボン玉を吹き付ける。環は脇に回り込みながら、ハイパー・マグロランチャーの照準を調整し、攻撃の精度を高めている。
     背後からは、陽桜が愛犬・あまおとに射撃をさせながら自らはサウンドシャッター、同時に透流も殺界形成を発動していた。
    『……まだいたのかッ!』
     奇襲を受けたカンナは踏鞴を踏み、その目は逃げ道を探す……が。
    「ふっふーん、此処で逃げるって事は、洋菓子に和菓子が勝ったって事だな! まぁ、アンタは俺の事覚えてないだろうし、俺も割と気にして無かったんだが、縁があったとあっちゃ殺り合うしかないよなぁ」
     唯一の明確な出口である正面玄関の自動ドアはがっちりと施錠されているし、その前には式夜が愛犬・お藤と共に陣取り、玉鋼水芙蓉を振り上げてシールドを張り、仲間の防御を高めている。
     もちろん8人と5体はカンナを完全に包囲しているし、会場内へと戻る扉も、友軍のメンバーによって素早く封鎖されている。
     逃げ道はなく、カンナは立ちすくんだ。
     完璧な奇襲。
     そして、血塗れで傷だらけ、コック帽も失ったカンナの姿から見るに、会場班の仲間はずいぶん頑張ってくれたようだ。
    「何度でも言います」
     陽桜が逃げ道を求めて泳ぐカンナの目を捕らえ、じっと睨み返した。
    「お菓子は、ひとを幸せにするためのものです。あなたが手にしている道具は幸せを作る道具です。人を殺すためのものじゃないッ!」
     怒りを込めた鋼の帯がザクザクと白衣を纏った痩身に突き刺さる。璃羽は、
    「あなたのトラウマには興味がありますね」
     拳に纏ったトラウマを叩き込み、式夜は封じ鉄仙を力を込めてぶちこんだ。
    「逃げられると思ったか? ……残念だったな。貴様を狩る。確実に」
     透流は十字架から氷弾を撃ち込み、エウロペアは、
    「そなた、人の血肉で菓子を作るそうじゃのう? ならば、恋する男のおるわらわや心の友からは、さぞかし甘ァーい菓子が出来上がるに違いあるまいよ! のーう式夜? 蕩ける程に愛しておるぞぉー?」
     恋する乙女にあるまじき、当の式夜が怯むほどの邪悪な笑みを浮かべながら注射器の針をぶっすりと根本まで突き刺す。まあ邪悪さは、照れ隠しでもあるのだが。
    「洋菓子なんて乳脂肪まみれのもので、小豆に対抗しようなど……小豆&抹茶連合軍でギッタンギッタンにしてやるとです!」
     環は鋭い刃の生えたハモボロスブレイドを絡みつかせて切り裂き、くるりは、
    「因縁ある者や、会場の中で頑張ってくれた仲間のためにも、ここでケリつけさせてもらうのだ!」
     果敢に六六六人衆の懐に飛び込んでオーラを宿した拳で連打した。
     カンナの神経を逆撫でする台詞の連発も作戦のうち。怒らせて、この戦場に最期まで引きつけ続けるための。
     挑発が功を奏したか、奇襲にうろたえていたカンナの瞳に、怒りの光が再燃した。
    『……ほんっとに、灼滅者ってムカツク!』
    「うわっ!?」
     カンナの全身から発されたどす黒い殺気が後衛を襲った。
     だが、それを感知したくるりは、
    「ゆっきー、危ないっ!」
     メディックの結月を素早く庇う。
    「あっ……ありがとっ! ソレイユはくるりちゃんの回復ねっ」
     庇われた結月は、いち早くナノナノに指示をだし、自らは交通標識を黄色に光らせ、サーヴァントたちにも補助させて、殺気を払っていく。
     弱っているとはいえ、六六六人衆の攻撃力はまだまだ強烈だ。
     けれど。
    「絶対に逃がしません!」
     灼滅者たちは全く怯むことなく、強敵へと殺到していく。
     陽桜は槍を捻り込み、璃羽のナイフがパティシエ服の袖を斬り落とす。式夜はお藤に斬り込ませながら、自らも足止めを狙って刃を構える……と。
    『下がれ、半端者共!』
     パティスリーナイフがギラリと光り、どす黒い強風が巻き起こった。
    「……うッ」
     式夜は猛烈な毒竜巻に押されて思わず後退ってしまったが、
    「捕まえてやるよ!」
     凜々しい声と共に透流が影を放ち、縛り上げた。
    「グッジョブじゃ! 注射の間は動いてはいかんぞ!!」
     エウロペアが巨大な注射器を抱えて体当たりし、環は酸液を、くるりは掌に収束したオーラを撃ち込んだ。
     その間に、結月がサーヴァントたちに手伝わせて前衛に回復を施すと。
    「ありがとうございますっ、次、行きますよっ!」
     攻撃陣はひとときも休むことなく、次の一手を打ちにいく。


     戦いが始まり、数分の後。
    「大丈夫、ゆきが支えるよっ、もうすこし、頑張ってっ!」
     大事なペンダントを握りしめた結月は、交通標識を高々と揚げ、何度目かの前衛への列攻撃を祓った。
     できるだけ攻撃の手数を増やして一気に倒してしまいたいところだが、敵が多彩な列攻撃をまんべんなく仕掛けてくるため、結月ばかりでなくサーヴァントやディフェンダーにも回復を頼る場面も多く、なかなか集中攻撃というわけにはいかないのだ。ディフェンダーたちは、毎回のように攻撃陣やメディックを庇い続けているが、全てを庇いきれるわけではないし、彼ら自身の体力も危なくなってきている。
     だが、ここは焦らず着実に攻め続けるしかない。カンナとて反撃一方で回復する暇はないのだから、弱ってきているのは確かだ。
     陽桜が槍を構えて襲いかかり、璃羽は八咫烏 ー解体ナイフーで敵の傷口を情け容赦なく抉った。
     疲れた体にむち打ち、灼滅者たちは間断なく攻撃を続けていく。
     式夜が杭を撃ち込み体勢を崩させると、
    「ぶっ壊す!」
     すかさず透流が影を延ばして縛り上げた。
    「ナイスですよ!」
     環が酸で白衣をどろりと溶かし、エウロペアが毒を注ぎ込もうと注射器を構えて踏み込んだ……その時。
    『うああああっ!』
     カンナが雄叫びを上げて回転し、影を振り払った。その勢いを借り、サイドの死角から突き出された利き手には、血糊のついたパティスリーナイフがギラリと光っていて、エウロペアを狙う……!
    「心の友よ、この父にどーんと任せておけ!」
     しかし、くるりが友人の前に素早く体をいれた。ナイフはざっくりと彼女の太腿を切り裂いたが、
    「くっ……」
     同時に力一杯シールドを突き出し、カンナを吹っ飛ばした。
     カンナはもんどりうって倒れたが、くるりの脚からも血が勢いよく噴き出す。
     友人の深手に、結月が血相を変えて駆け寄った。くるりはここまでも献身的に仲間たちを庇ってきていたので、ここでこれほどの深手は痛い。
     倒れたカンナはバネ仕掛けのように飛び起きたが、
    「毒をくらえ!」
     庇われたエウロペアが毒注射を注ぎ込み、背後から忍び寄っていた璃羽がナイフで白衣と皮膚を切り裂く。
     回復中の2人を、クィンが心配そうにカバーしている。足の傷は、くるりの自己回復をも必要とするくらいの深手で……と。
     ゴオオオオォォォ!
    「!?」
     カンナの泡立て器から禍々しい魔力が存分に込められた、黒い竜巻が発せられた。竜巻は、メンバーの怪我で生じた包囲の穴を広げるかのように前衛に襲いかかる……!
    「よくも父を……逃がさねぇよ!」
     式夜が歯を食いしばって竜巻を突破して敵の前に飛び出し、メンバー全員を護ろうとするように、仁王立ちになった。
    「ぶち抜く!」
     透流がカンナの足下に杭を撃ち込んで立ち往生させると、サーヴァントたちが手負いの熊に群がる猟犬のように殺到して、カンナは身動きが取れなくなった。
     そして環が、
    「所詮乳脂肪では、小豆の粒あんの奥深さには適わないとですよ!」
      蒼い腕に飲み込ませた武器から、毒光線を狙い澄まして撃ち込むと。
    『ぎゃあああああぁぁぁ!』
     光線は顔に命中し、冷たい美貌が焼けただれていく。
     陽桜が、今こそ、とばかりにガッと床を蹴った。
    「――やっぱりあなたに、お菓子を作る資格なんてありません!」
     ぐしゃり。
     焼けただれた顔ごと、頭が打ち砕かれた。少女の鬼の拳で。
    『ぁぁぁ……』
     おぞましい悲鳴が途切れ、白衣をきた長身が、力を失いへたへたと崩れ落ち――六六六人衆は、血も肉も残さずに、消滅した。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月30日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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