戦神アポリアの提案~荒野の狩りガール

    ●戦神アポリアの申し出
    「闇堕ちした狐雅原・あきら(戦神アポリア・d00502)さんが……今は、六六六人衆第七一位『戦神アポリア』を名乗っているようですが……六六六人衆と武蔵坂学園との共闘を申し出てきました」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)が、白くのっぺりとした表情のまま、固い声で語り出した。
     今回の申し出は、ミスター宍戸及び六六六人衆の上層部の意向に従っており、灼滅者が共闘を決断しさえすれば、同盟が締結される可能性が高いという。
    「六六六人衆と武蔵坂の全面戦争を防ぐ提案だというのですが……」
      戦神アポリアは、以下のように語った。
    「彼は、六六六人衆は人間と共存可能だというのですよ。序列を争って殺し合うため、人数が大変少ないですし、人間社会の支配には興味はないのだから、と」
     確かに、ミスター宍戸は『人間』だ。
    「しかし、六六六人衆は一般人を殺戮せずにはおられないダークネスです」
     彼らにとっては、殺戮は肉食動物が草食動物を狩るような自然の摂理なのだ。
    「ですが、ある程度歩み寄ってもいいと言っており……」
     いつになく色の悪い典の唇がぴくりと震えた。
    「一定の人数を確保できるのならば、殺戮する人間については、武蔵坂学園側で指定した範囲で行うようにするそうです」
     犯罪者に限る、老人に限る、外国人に限る、無職者に限る……など、武蔵坂学園が受け入れられる条件の人間だけに殺戮範囲を限ってもよいというのだ。
    「……もし、武蔵坂が共存を望む場合、こちらが指定する場所に『六六六人衆が殺戮しても良い人間のサンプル』を連れてきて欲しいそうです。それをもって、同盟締結とすると」
     ざわり。
     集った灼滅者の間に、声にならないざわめきが走った。
    「戦神アポリアは、一般人の受け取り場所に『六六六人衆が殺戮しても良い人間を10名連れて来る』よう言ってきました。受け取り場所は多数用意されており、それぞれに10名の一般人を連れて来るようにと」
     1ヶ所だけでは、そのチームの独断にすぎず、武蔵坂の総意では無い可能性が高いと考えたようで、
    「それら引渡し場所の過半数において、10名の一般人が受け渡されたら、武蔵坂に同盟の意思があると解釈し、次の交渉に入るそうです」
     逆に、過半数の場所で引渡しが行われず、戦闘になった場合は、今回の同盟提案は取り下げになる。
     つまり、一般人の生け贄を差し出して同盟提案を受け入れるか、或いは、受け入れずに宣戦布告するか、という決断をしなければならないということだ。
    「この提案を受け入れるのは、情緒的に……というか、人として難しいことです。しかし、一定の真実を含んでいることは確かです」
     武蔵坂と六六六人衆の全面戦争ということになれば、人間社会に甚大な被害が及ぶ可能性は大だ。
    「この同盟提案をどう扱うかは、皆さんにお任せします。受け入れるならば、10名の一般人を連れて引き渡し場所に。受け入れないのならば、戦争は不可避となるので、敵戦力を削る為にも、引渡し場所で待つ六六六人衆の撃破をお願いします」

    ●狩りガール
    「このチームに行って頂く引き渡し場所は、福島、会津の山中です」
     典が地図上に指したのは、中山間地の小さな集落であった。
    「この集落外れの山際にある耕作放棄地の荒れ野に、狩りガール・鹿野子(かのこ)と名乗る六六六人衆が待っています」
     狩りガールとは、狩猟に必要な様々な資格を取った上で猟友会などに入り、男性たちと共に本格的なハンティングを行う若い女性のことである。高齢化が進む各地の猟友会の貴重な戦力にもなっているようだ。
    「狩りガールは普通、自然や農業、食などへの興味が高じて、または害獣に悩み必要にかられて銃を手に取った、という方が多いんですが、鹿野子は違います。彼女は、命を奪うこと、血を見ることのために、ハンターになったようです」
     銃を撃ち、動物たちの命を奪い、血を流す。彼女の中の闇は、到底それだけでは満足せず、人を撃ち、闇に堕すのに大した時間はいらなかった。
    「彼女はまだ堕ちてから間が無く、序列も得ていません。ミスター宍戸としても、半ば捨て駒として送り込んできた人材なのでしょう。とはいえ、六六六人衆なので腕が立つことは間違いないですし、何よりこの場所は彼女のフィールドです」
     しかも指定された時刻は夜である。それほど強敵というわけではないが、戦うならば油断はできない。
    「あちらには、ハンドレッドナンバーとして合流した闇堕ち灼滅者がいますから、こちらの情報がかなり漏れていると考えざるを得ません」
     必死に無表情を保っている風の典は、最後まで青ざめた顔で。
    「このえぐい同盟提案もまた、ミスター宍戸のプロデュースなのでしょうね。あまりに酷すぎますが、筋が通っていることも否めません。とにかく、どの道を選ぶかは、皆さん次第……」


    参加者
    花檻・伊織(蒼瞑・d01455)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    神凪・陽和(天照・d02848)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ


     灯りの見える窓もないわけではなかったので、人は住んでいるのだろう。
     だが、夜更けの過疎集落はあまりにも暗く、静かだった。
     結構な大荷物を背負った灼滅者たちは、手が空くように体に装着した照明だけを最低限点灯し、極力足音を殺し、静まりかえった集落を足早に通り過ぎる。
     指定された耕作放棄地……六六六人衆の待ち受ける戦場はもうすぐそこだ。
    「狐雅原・あきら、いや戦神アポリアの提案か。考慮には値しないね」
     合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)が小さな声で言った。
    「ええ」
     神凪・陽和(天照・d02848)が頷いて囁き返す。
    「譲歩しようという姿勢だけは認めますがね」
     双子の弟、神凪・朔夜(月読・d02935)も。
    「僕らに一般人の命を選別する資格なんてないもの。論外だよ」
     ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(花束を・d36355)は苦笑して。
    「同盟とは名ばかりの阿呆な考えに乗るわけがないだろうにな。呆れるね」
    「本気で同盟したがってるんじゃなくて、時間稼ぎって気がするっす」
     押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)が首を捻る。
    「ここまでのやり口をからしても、アイツら約束なんて守りそうもないし、本気で同盟締結できるなんて考えてない気がするけど……他に何か目的あるとするなら何なんすかね……っと、ここっすかね」
     どうやら目的地に着いたらしい。
     闇の中、絞った照明では照らしきれないくらいに、そこは広い。
     山中をこれだけの規模で開墾するのはさぞかし大変であったろうに、放棄されてしまえばあっという間に自然に還ってしまう。元は田圃だったのだろうが、今は雑草が夜空に黒々と浮かび上がる里山を背景に、丈高く生い茂っているだけだ。
     8名は茫々たる荒れ野を目の前にし、五感を研ぎ澄ませて気配を探る。
     ……と。
     ザザッ。
     荒れ地の奥の山を、何者かが降りてくる音がした。藪の下を身軽に走り抜けてくるような音で、普段なら野生動物かと思うところだが、今夜は――。
     灼滅者たちはここまで、極力照明を絞ってきた。敵に人数を知られ、生け贄をつれてきていないことを悟られて不意打ちされたりしないようにという用心だ。その腰のランプやヘッドランプを少しだけ明るくし、音の聞こえてきた方を照らす。
     ……ガサリ。
     無造作に藪がかき分けられ、スポットライトのように一点に集中した照明の中、1人の女性が現れた。
     華奢で可愛らしい……そう言ってもいいような体格と顔立ちの持ち主だった。赤い癖っ毛のショートヘア。迷彩服に、ポケットがたくさんついたグリーンのベスト。赤の山靴。
     だが、その手にはごついライフルが握られ、腰には大きなナイフが下がっている。赤金色の瞳は闇の中、猫のように光る。
     そしてその顔には、嬉しそうな……そして残忍そうな。耳まで口が裂けてしまいそうな笑みが浮かんでいる。
    『あれぇ、手ぶらなんだぁ?』
     女性……六六六人衆、狩りガール・鹿野子はわざとらしく言った。
     彼女は、灼滅者たちが荒れ地に到着した途端に、山から降りてきた。つまり到着すればわかる位置で見張っていたということでもあり、おそらく夜目も利くのだろう。一般人をつれてきていなかったことも、降りてくる前からお見通しだったに違いない。
     ニヤニヤと笑い続ける六六六人衆に、居木・久良(ロケットハート・d18214)が、正々堂々と。
    「はい、一般人は連れてきてません。同盟には応じられないということです」
     敵相手であっても、まっすぐに、丁寧に、チームの総意を告げた。
     神凪姉弟も踏み出して。
    「私達に人の命の選別をする資格はないゆえ、条件を満たせませんので、同盟は拒否させて頂きます」
    「何より、貴女方六六六人衆の所業で、僕のお友達が沢山悲しんだ。今更手を組むなんで出来ない。それに僕は、ダークネスより一般人を護ってきた神凪家の一員。同盟を容認する事は神凪家の誇りを捨てることにもなる」
     提案を断る旨を伝えている間に、灼滅者たちは持参したLEDランタンなどの照明器具を取り出して点灯すると、どんどん荒れ野にばらまき始めた。大荷物の正体は照明器具であった。敵が夜目が利くならば、少しでも不利にならぬよう戦場を明るくしなければ。
     更に鏡花が殺界形成を、花檻・伊織(蒼瞑・d01455)がサウンドシャッターを発動する。
     身につけていたライトの明度も上げ、戦場が明るくなっていく中、ロードゼンヘンドが肩をすくめて、一応聞いておくけどさ、と、
    「君は、今回のことどう聞かされてるの?」
     全く期待していない口調で問うた。
     天方・矜人(疾走する魂・d01499)も、骸骨仮面越しでもわかるくらい呆れた様子で、
    「大方断られるの前提だろ、この交渉。何がしたいんだ、お前んとこの大将は?」
     鹿野子はとぼけた仕草で頭を掻き。
    『えー、あたしはぁ、あんたらがちゃんと人間持ってきたら、連れて帰れってこととぉ……持ってこなかったら』
     ジャキリ。
     銃が耳障りな音を立て。
    『好きにしていいよー、ってことだけしか言われてないしッ!』
     ガーン!
     荒れ野に銃声が鳴り響いた。


    「――早速きたかっ!」
     矜人に向けて放たれた銃弾を受け止めたのは、注意深く鹿野子の様子を窺っていたハリマだった。
     そしてそれと同時に、鹿野子の後ろにさりげなく回り込んでいた伊織が、
    「狩りを愉しむのは悪いことではない。けど、自分もまた獲物に成り下がる事があるとは思い知って貰う」
     一気に踏み込んで足下にナイフを突き立て、庇われた矜人も、
    「悪ィなハリマ!」
     盾となってくれた仲間を軽快なサイドステップで回り込み、ターンの勢いを借りて雷を宿した拳でアッパーカットを見舞った。
    「血を見たいってんなら、手前ので我慢しやがれ!」
     陽和は高々とジャンプして飛びかかって、銀の爪を体重を載せて思いっきり振り下ろし、
    「お断りする以上、一般人を殺す可能性のある六六六人衆である貴方をそのまま帰らせる訳には行きませんので、ここで討伐させて貰います」
    「貴方は捨て駒とは言え、六六六人衆。そのままにしておけば、多くの一般人を殺すだろう。悪いけど、討伐させて貰うよ」
     朔夜は前衛にケリュケイオンの道標の黄色い光を浴びせかけて防御を高める。
     久良は、
    「交渉って言うなら一旦筋を通すべきだろうに、決裂したらそのまま戦えってのは、話が捻れてる」
     曲がったことが嫌いな彼は、今回の作戦の全体のやり方自体に納得していないのだが、
    「でも、もうここは相手の土俵だし、先に仕掛けてきたのは相手の方だから……真っ直ぐに相対するしかない」
     複雑な思いを振り切るようにモーニング・グロウを振り下ろす。
    「とりあえず、こいつを逃がさないことだ」
     ロードゼンヘンドと鏡花も、左右から挟み撃ちにするように足を狙いに行き、
    「ありがとうっす!」
     鏡花の霊犬・モラルに重ねて回復を受けたハリマが果敢に飛び込んで喉輪をくらわせ、その傍らでは、霊犬・円が援護射撃をする。
    『なかなかやるね! そうでなくっちゃ!!』
     鹿野子は集中攻撃を受けつつも、サディスティックな笑みを崩さず。
    『どーせ狩るんなら、獲物は大物じゃなくっちゃ、面白くないもんねっ! あんたたち、熊しとめた時の快感なんて知らないでしょお?』
     ズアァツ!
    「うあっ!」
     鹿野子の全身から赤黒い殺気が吹き出して、後衛を襲った。
     だが、
    「……朔夜ッ!」
     陽和が飛び込み、メディックである弟を庇う。
    「陽和……」
     朔夜は歯を食いしばって交通標識を掲げ、傷ついた後衛の仲間を黄光で照らした。陽和にはモラルが駆け寄って瞳を光らせる。
     回復の間にも、
    「違う出会い方をしていれば、別の意味でハントするのも吝かでないのに、残念だよ」
     伊織が赤く点滅する交通標識で殴りつけ、
    「狩っていいのは狩られる覚悟が……とか、んな事はどーだっていい。オレはお前をぶっ倒して灼滅するだけだ!」
     矜人は聖鎧剣ゴルドクルセイダーを、魂まで届けとばかりに深々と突き刺した。久良は火を噴くムーントリッパーで滑り込み、ハリマは鋼鉄の拳で殴りつける。
     回復成った鏡花とロードゼンヘンドは。
    「ふう……序列外でもこの強さか、まったく強化されすぎじゃないかな。ちょっと前までは、この程度の序列ならば、私たち8人で、3人ぐらいなら纏めて相手しても余裕があったのに」
    「ああ、サイキック・アブソーバー照射の影響大だな。だからこそ、余計にこいつを逃がすわけにはいかないよ」
    「それは当然だ……いこうか!」
     怯むことなく仲間の後に続き、次の攻撃を果敢に仕掛けていく。


     荒れ野での戦いが始まって、数分の後。
     ダーン!
    「……クッ」
     足に炎を宿して滑り込んでいった伊織の腹を、銃弾が貫いた。
    「すぐ回復するよ!」
     朔夜の五色幣帛が即座に傷に巻き付いてきたが、それでも結構な深手である。
     彼だけではない、チーム全員が多かれ少なかれダメージを負わされている。
     されど、鹿野子の顔にも、戦いはじめの頃のようなサディスティックな笑みはもうない。数度刃を交わしていくうちに、灼滅者が侮れない獲物であることを、やっと思い知ったのだろう。
     カツン!
     矜人がタクティカル・スパインを回転させて銃口を弾き、その勢いのまま魔力をターゲットの胸で炸裂させ、陽和は掌に収束した紅焔のパワーを撃ち込んだ。久良は、治り切らぬ傷を気にする様子もなく454ウィスラーをしっかりと保持して連射し、ハリマが、
    「どすこぉいっ!」
     幾度目かの喉輪を叩き込んだ。
    『うぐっ……』
     喉を押さえてよろめいた鹿野子は、ちらりと山の方に視線をやった。そして包囲する灼滅者たちを見回した……どこか突破できそうな処はないかというように。
    「……む」
     その様子に、回復中の伊織に付き添っていた朔夜が気づいて。
    「逃げるのか? 所詮捨て駒の雑魚ってか?」
     すかさず牽制する。陽和も素早く合わせ、
    「所詮下っ端ということですね」
     ロードゼンヘンドも挑発的に吐き捨てる。
    「そうそう、所詮捨て駒だもんな」
    『……誰が捨て駒だ! 逃げたりなんかするもんか、お前らを山に引きずりこめないかと思っただけだよ!』
     鹿野子がギリリと歯を食いしばって、銃を構えた。
    『あたしはもっと強くなって、序列をあげて、いっぱいいっぱい殺すんだからッ……!』
     ダーン!
     ロードゼンヘンドに向けて放たれた銃弾は、
    「……させません!」
     陽和が受け止めた。
    「ごめんよ!」
     ロードゼンヘンドは荒れ地に立ちはだかる仲間を飛び越えて敵に肉薄し、迷彩服を切り裂く。そこにすかさず鏡花が蛇剣を絡みつけた。割れたガラス片のような刃が、ぎりりと華奢な肢体を縛り上げ、血濡れて光る破片を食い込ませる。
    「ナイスだよ!」
     深手から立ち直った伊織が、絶対逃がすまいとばかりにナイフを振り上げてふくらはぎを抉った……と。
    『くっそーっ、野山は、あたしの方が絶対なれてるんだからー!』
    「……うっ?」
     鹿野子が力付くでウロボロスブレイドをふりほどくと、スッと消えた。
     いや、消えたのではない。草むらの濃いところに素早く身を伏せたのを見失ってしまっただけだ。照明をまんべんなくばらまいたとはいえ、明暗はまだらで、茂みが深くなれば見えにくい部分もあるし、土地の微妙な高低や、植生などを把握している鹿野子ならば、身を隠す場所を咄嗟に見極めることもできるだろう。
    「(やはり、ここは彼女のフィールド……)」
     わかっていたことだが、やはり地の利には鹿野子にあるのか。
     8人は草むらの中に敵の姿を探す。メンバーの多くが、足止めや動きを妨げることを狙って攻撃してきたし、先ほどの挑発にも乗ったところからみて、逃げたとは考えられない。ふいをついて、思いもよらないところから飛びだしてくるつもりか……と、慎重に草の間を灯りで照らし、目を凝らしていると。
     ワンワン、ワンッ!
     2頭の霊犬が深い下草をものともせず、同じ茂みを目指して駆けて行った。
    「あそこか!」
     視線が低いせいか、はたまた嗅覚のおかげか、霊犬たちには鹿野子の居場所がいち早くわかったようだ。
    『くそっ、この犬ころ共!』
     ザシュ!
     草の中からナイフが突き出され、
     キャウン!
     円から血が飛沫いたが、
    「円、モラル、偉いぞ!」
     怒濤の寄りで一気に距離を詰めたハリマが、炎のキックで草むらから鹿野子の細い体を蹴り出し、陽和が無明宗國『太陽牙』を上段に構えて襲いかかる。ロードゼンヘンドが輝く剣の一振りでエナジーを削ぎ、鏡花も蹴りで炎を畳みかけた。ここが勝負どころと、回復をモラルに任せた朔夜も、風の刃を巻き起こし……だが。
    『絶対負けない……獲物を仕留めるのはハンターである、あたしの方なんだから……』
     それでも鹿野子は血塗れの姿でゆらり、と立ち上がった。
    「しぶといね……でも、終わりにしよう」
     伊織がナイフを抜いて、素早く背後に回り込んだ。鹿野子もそちらに銃口を向けたが、今こそ、という集中力がスピードを生み、照準を定める間もなく、執拗に痛めつけてきた足の傷をざっくりとナイフが切り広げた。
    『ぎゃあっ!』
     鹿野子はさすがに耐えきれず倒れて、そこへすかさず。
    「さあ、ここから先はヒーロータイムだ!」
    「ああ、いくよ!」
     ザッ。
     クラッシャーの2人が夏草を蹴散らし、同時に飛びかかった。
    「スカル・ブランディング!」
     矜人が魔力で蒼い火花を散らす背骨型のロッドを、久良が赤い文様が入った真鍮のハンマーを、フルパワーで叩きつけ……。
     断末魔の悲鳴は山に谺し。
     荒れ地に、狩りガールは滅したのだった。

     戦いが終わり。
    「……こういうのは好きじゃないよ」
     まき散らした照明を拾い集めながら、久良がぽつりと言った。
     彼は、交渉決裂、即戦闘という方針が、まだ容認し難いようだ。
    「まあなぁ……でも俺は、六六六とは仲良くはしたくないなぁ」
     伊織が溜息を吐く。
    「ここはこういう結果になったけど、他はどうなった事か」
     もしかしたら、提案を呑んだチームもあるもしれない――。
     ハリマが重々しく頷いた。
    「色々不安っすよね。アンブレイカブルが加わってるから、そっちが持ってる技術も使えるようになってるかもしれないし……」
     標高の高い山里の夜更けは、梅雨時とはいえ暑くはない。しかし不快に湿った風がびょうびょうと荒れ野と山を鳴らしている。
     照明を回収すると、荒れ野は闇の中にひっそりと沈んでいき、灼滅者たちもまたひっそりと戦場を後にしたのだった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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