●決断
「ご当地怪人との同盟交渉は、とりあえず双方様子見と言う結果に落ち着きました」
義理を重んじるスサノオ達に比べて、ご当地怪人は無駄に発想が突飛な所がありますから、妥当な判断でしょう、と見嘉神・鏡司朗(大学生エクスブレイン・dn0239)は続けた。
「ただ……ご当地怪人の援軍が見込めない現状、リベレイターを浴びたアンブレイカブルと六六六人衆、そしてその同盟相手であるヴァンパイア勢力を真正面から全て相手するとなると、終わりです。劣勢を覆すのは至難と言えるでしょう」
だからこそ彼らの連携を乱さなければなりませんと、それまでずっと思いあぐねていた様子の鏡司朗は意を決し――宣告する。
「同盟の要である『目と耳』……今我々に最も必要なものは、彼の死です」
銀夜目・右九兵衛。
爵位級の目と耳であり、武蔵坂の内情にも明るい彼が暗躍を続ける限り……。
灼滅者に未来はない。
●謀議の極北
「ヴァンパイア勢力に与する彼の行動が予測出来たのは、リベレイターの影響下にある六六六人衆・アンブレイカブルと接触したから、ですね。以前にもノーライフキングとご当地怪人で同様の事例がありました」
現在、銀夜目・右九兵衛は、六六六人衆との同盟を進める為に、彼らの拠点の一つに身を寄せている。
「場所は田子の浦沖に沈んだ元『軍艦島』。それに改造・改修を施し、六六六人衆の拠点として機能を復活させたようですね」
軍艦島には、戦神アポリアを筆頭とした複数のハンドレッドナンバーらが護衛として配置されている。
アポリアは、爵位級ヴァンパイアとの交渉を担当しつつ、右九兵衛の護衛及び監視も行なう立場にあるようだ。
また、田子の浦周辺にはロードローラーが控えており、いつでも援軍を出せる状態にある。
旧軍艦島の海底拠点は、かなり規模が大きく、一定以上の戦力を投入しなければ純粋な攻略は難しい。
が、拠点を制圧可能な大部隊を派遣すれば、敵側にこちらの動きを察知されてしまう為、右九兵衛を初め、有力な敵は楽々と撤退してしまうだろう。
旧軍艦島拠点を攻略し、『目と耳』銀夜目・右九兵衛を撃破する為には、緻密な作戦と連携を駆使した精鋭部隊による特殊な策が要求される。
ロードローラーが軍艦島に布陣していないのは『軍艦島に攻め寄せた灼滅者を挟撃して撃破』する為だ。
「ロードローラーの存在に気づき、充分な戦力で進軍すれば、全軍、軍艦島を放棄して撤退します。逆にロードローラーの存在を無視し、少数の精鋭部隊での拠点強襲を目論んだ場合は、分体を多数生み出し、数にものを言わせて灼滅者を押しつぶすでしょう」
第一段階として、この作戦を逆手に取り、
まずは少数の精鋭部隊で軍艦島へ侵入し陽動作戦を行い、意図的にロードローラーの増援を発生させた上で、
第二段階に別動隊がロードローラーを強襲し、分体・本体の全消滅を狙う。
本班の役割はロードローラーの灼滅後。すなわち第三段階。軍艦島を正面から強襲する侵攻部隊だ。
右九兵衛は、旧ミスター宍戸ルームにいる。
軍艦島侵入後は速やかにそこまで駆け抜ける。寄り道は厳禁だ。
旧ミスター宍戸ルームには、アポリアを筆頭とする複数のハンドレッドナンバーの他、ヴァンパイア眷属、アンブレイカブル、ハンドレッド以下の六六六人衆らが護衛として控えており、劣勢は免れないだろう。
なので、戦闘開始後は、勝利では無く『銀夜目・右九兵衛』の灼滅を執拗に狙い、戦神アポリアに『安全の為、護衛をつけて右九兵衛を撤退させる』判断をするよう仕向けさせる。
「今回の作戦のキーとなるのはこの部分です」
右九兵衛に対する攻勢が手緩ければアポリアは彼の撤退を考えない。
極論――あくまで極論だが、軍艦島に潜入した灼滅者が全滅したとしても『銀夜目・右九兵衛だけは絶対殺す』と言うレベルの気迫で相対する必要があるだろう。
撤退路の先には、右九兵衛と決戦を行うチームが伏せている。本班を含む強襲班が右九兵衛を撤退に追い込む事ができれば、チームとして役割を果たした事になる。
「無論、その場死んでしまってはいけませんよ。全滅したとしても、と言うのはあくまで極論の例え話です。重要なのは、アポリアがどれだけ強く『目と耳』灼滅の危機感を抱くか、です。彼は敵側にとっても重要人物ですから。懸念がアポリアの胸中で大きくなれば大きくなるほど作戦の成功率は上がるでしょう」
アポリアは、攻撃を仕掛けてきたこちら側を、余裕をもって撃退できる戦力を残し、後の戦力を右九兵衛の護衛にまわすと想定される。
強襲班の脅威度が高い――つまり撃退するに一筋縄ではいかないとアポリアに思わせる事が出来れば、右九兵衛に帯同させる護衛の数が減り、決戦チームが勝利しやすくなるだろう。
アポリアが撤退路の先にも伏せているチームがいる事をこの時点では知りえないというアドバンテージを最大限生かす。
伏兵の存在を気取らせてはいけない。右九兵衛撤退後も、十分から十五分はその場で持ち堪え、撤退した右九兵衛を追撃する為に戦闘を続けるよう振る舞い、あくまでも右九兵衛暗殺班は自分たちしかいない、と敵に誤認させるのだ。
万一、アポリアが強襲班の目的に勘づいて、『撤退した彼を狙うチーム』が別に居ると知ってしまえば、右九兵衛側に増援を派遣するだろう。
作戦次第では、右九兵衛の撤退を許さずその場で撃破する事も、アポリアを討ち取る事も不可能ではない。
ただし、強襲班の最大の目的は、先で潜んでいる決戦班の負担軽減にある点を忘れてはならない。
「最後に、闇堕ちに関してですが……」
可能な限り、切り札は使わないでおくべきでしょう、と鏡司朗は断じた。
ガイオウガの尾に関する情報は、十中八九闇堕ち灼滅者の言質をソースとして離間計に使われ、スサノオへと伝わったものだ。このラインでしか漏洩経路は考えられない。
そうなると、今後闇堕ち者が出た場合、先の戦争で得た胎蔵界の情報もあっさりと流出する恐れがある。
右九兵衛が朱雀門・継人に『そう』したように、闇堕ち灼滅者が情報と引き換えに相応の地位をいずれかの組織に要求するシチュエーションは十二分にありうるし、多くの組織が武蔵坂学園を脅威と感じ、戦力強化に勤しんでいる現状、ダークネスがこれを拒む理由はない。
右九兵衛やアポリア、そしてロードローラーが居なくなったとしても、第二第三の彼らがその座に就くだろう。
それでは終わりの無い蟲毒だ。
以前より重要な情報を知り、過日より強くなった今。
それでも昔と変わりなく、一度闇の人格が目覚めれば、制御する術は無いのだ。
以後、闇堕ちの扱いには細心の注意を払った方が良いだろう。
「戦神アポリアの提案。ロードローラーの選別殺人。慈眼城のスサノオ。ご当地怪人たちからの招待状。そして、闇堕ち灼滅者達の行動。それらすべての選択が一つの結果として収束しようとしています」
最早後戻りは出来ない。しかし、彼を除かなければ前に進むこともまた叶わないのだ。
「どうか、ご無事の帰還を……!」
参加者 | |
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聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654) |
レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162) |
淳・周(赤き暴風・d05550) |
リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305) |
聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863) |
久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363) |
葦原・統弥(黒曜の刃・d21438) |
空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198) |
●渡された光明
戦域から、ロードローラーの気配が消える。
重機が失せ、静かになった海中を見渡せば、夥しい量の血液と敵の残骸があちらこちらに漂っていた。
僅か生残していた敵も最早死に体で、此方が放った様子見程度の攻撃すら耐え切れず、あっけないほど容易くほどけ消滅する。
――陽動に回った仲間達は、後に繋げるため相当の無茶をしたのだろう。
軍艦島に侵入を果たした強襲チーム6班48人が一斉に内部へと駆け抜けて、終点・旧宍戸ルームに到達すると、そこに待ち構えていたのは多数のダークネス。
「決死の陽動で妾がライバルロードローラーを灼滅とは、流石はその手に未来を求めし灼滅者達じゃのう。じゃが……」
並み居るダークネス達を僕の如く従えて、アポリアは嗤う。
「その程度の戦力で此処に集った妾達を殲滅するのは不可能じゃ。お主たち自身の無力と浅慮に絶望しながら死ぬが良い!」
戦場は怒号と轟音に支配され、縦横無尽に剣がぶつかり火線が交差する。
「大した口上だね。けれども的が外れてる。何せ、僕達の目的はただ一つ……」
フードの下で軽薄な笑みを浮かべ、空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)は天井付近まで大きく跳躍すると、標的に狙いを定めて急降下した。
陽太の顔を隠していたフードが降下中の風圧でめくれ、エアシューズ・Hresvelgrは右九兵衛の屍体の如き半身を抉る。
右九兵衛を襲うのは陽太の蹴撃のみならず。全ての灼滅者のあらゆる攻撃が彼目掛け殺到し、収束する。
皆同じだ。獲物は右九兵衛、ただ一人。
「銀夜目ぇ、お前の首を置いて逝けぇ!」
右九兵衛の周囲を有象無象が蠢くが、それでもこれは『暴婦』の手が届く位置だ。
聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)が真紅の十字架を『目と耳』へ力任せにぶちかまし、
「いくよ、ねこさん! あわせて!」
久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)は右九兵衛の水晶で出来たもう半身を蹴り抜くと、彼女のサーヴァント・ねこさんは猫語で魔法を唱え彼を縛る。
「ここで年貢の納め時、うくべーを返して貰いに来たぞ!」
淳・周(赤き暴風・d05550)がそう叫び、右九兵衛に差し伸べたダイダロスベルトはしかし、彼の取り巻きに阻まれてしまう。
灼滅者達の集中砲火を受けながら、それでも飄々とした態度を崩さない目と耳。
その様子を一瞥した葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)に、躊躇の情は無い。
周の攻撃を遮った取り巻きを軽く飛び越え、統弥は中空で黒き刀身・フレイムクラウンを思い切り振りかぶり、右九兵衛に超弩級の斬撃を見舞う。
「やはり、彼の良心――淳さんの知る灼滅者・銀夜目・右九兵衛は、とうの昔に消え失せているのでしょう。残念ながら、あそこにいるのは最早只の悪辣なノーライフキングでしかありません」
陽太同様、統弥も素早く陣形を整えて、周の前方、仲間の盾となるような位置に立つ。
「どうにもならねえか………救いたかったんだがな……それができないなら、ここで止める……!」
周は誓う。自ら闇堕ちし、仲間の窮地を救った灼滅者がいた。せめてその事実だけは……決して忘れまいと。
二人の会話を聞いたリリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)は気合を入れ直すように、自らの頬を強か叩く。
右九兵衛の事、知らなくて良かったと安堵した自分がいた。
元武蔵坂を相手する今回の作戦。悲しくないと言えば嘘になるが、今は、全力で。
「さあ、ここで右九兵衛を討つよ。覚悟してよね!」
リリアナの掛け声が轟音に負けず戦場に響き渡る。
それと同時、リリアナは自身の内より現出した炎を脚部に纏わせ、閃光の如き鋭利な膝蹴りを右九兵衛に放つ。
「何時かはこうなるんじゃないかと思っていたが……」
閃光が爆ぜた一点を目指し、レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)の操る帯はあらゆる間隙を縫い、最小限の挙動で正確に右九兵衛を貫く。
……この戦いは、外ならぬ右九兵衛自身が招いたもの。
ともすれば、元凶である彼の消失以外に、止める術は無い。
右九兵衛への集中攻撃からこちらの意図に気付いたアポリアが、彼に撤退するよう促すと、右九兵衛はほな、そうさせて貰いましょ、と、隠し通路への道を開く。
「待て!銀夜目!!」
聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)は虎杖を片手に、逃げる右九兵衛の背を追いかけて魔力を叩き込もうとするが、彼の護衛らしきダークネスが進路をふさぐ壁となって邪魔をする。
そいじゃあまたな、と、何が待ち受けてるとも知らず、右九兵衛は悠々と撤退を開始する。
右九兵衛をこの場で討つことは出来なかったが、作戦通りだ。
防戦を展開しながら各々の役割を果たすために動き出す6班。
そして自班の前に立ちふさがるのは、……無数の敵だ。
●決意
右九兵衛の後を追うように隠し通路へ飛び込んだのが2班。アポリアを主体に立ち回るのが2班。そして、それ以外を相手に、遊撃を仕掛けているのが自チームを含む2班だ。
「ヴァンパイア・アンブレイカブル、デモノイドに六六六人衆。選り取り見取りだね。さて、どんな感情(かお)を浮かべてやるのが効果的だろう」
陽太が鋼糸を狙撃銃の形に編み上げトリガーを引くと、銃口が睨めつけた複数のダークネス達は急速に体温を奪われ凍りつく。
一体のヴァンパイアが射線の邪魔とばかりに、物言わぬ氷像と化したデモノイドを砕き陽太を狙撃するが、寸前、統弥が庇い盾になる。
「いずれにせよ厳しい戦いですが、出来る限りの事をやるのみです!」
真紅に煌くバトルオーラを両掌へ収斂させ、統弥は返礼として吸血鬼を撃つ。
紅の気弾を受け、たじろいだ相手の隙を逃さず、レイは足下より伸ばした影に吸血鬼を丸ごと捕食させ、
「淳……後は任せる」
影ごと周の間合いへ放り投げた。
「ここで逃がしたら本当に帰れなくなるじゃねえか、邪魔するんじゃねえ!」
周はギターを激しくかき鳴らす。
その言葉はあくまで狙いは右九兵衛と、そう敵に錯誤させる為の物だが、爪弾くギターの旋律は、それは本心でもあると奏でていた。
諦めはしないが目的は胸に。
音の波は嵐の如く渦を巻き、吸血鬼を解体した。
リリアナは『怒る』アンブレイカブルの拳をシールドで受け止め、ぎりりと歯を食いしばる。
「ここで終わらせる……!」
後退はしない。攻撃を受け止めたまま一歩、二歩と前進し、三歩目を力の限り大きく踏み込んで拳を弾き、アンブレイカブルの構えを崩す。
「押し通らせてもらう!」
忍魔はそこへ容赦なく斬艦刀・斬魔を圧し当てると、そのまま鋸挽いて蒼の刀身は血に染まり、終には武人の身を真二つに分ける。
「凛凛虎、雑魚を通すな!」
「言われなくてもそのつもりだ。来る敵は全員叩き伏せるぜ?」
出血か、返り血か。眼前の六六六人衆を見据えながら姉に応えた凛凛虎の姿は全身血塗れで、杏子はそんな彼へ歌を送り、天使を思わせる声音は、彼の負った物理的なダメージをも快癒させた。
「ザコの敵は、あたしたちが全部引き受けるよっ! 他の班の人達は、うくべえさんを絶対に逃がさないでっ!」
ねこさんがパンチで敵を牽制中、杏子は戦場をぐるりと見る。
現状、主だった動きはない。それでも強いて挙げるなら、もう一つの遊撃班と交戦を続けるハンドレッドナンバーの存在が気にかかるが……。
「もっとだ。もっと殺してやるよ」
傷の癒えた凛凛虎が帯雷する拳で六六六人衆を殴れば、拳は容易く胴を破り、末期の言葉すら残せずに、男は息絶えた。さては序列600位台後半か、それとも序列外だったろうか。
「死にたい奴は前に出な。死にたくない奴は後ろで震えて死ぬ順が来ない事を祈れ!」
凛凛虎がそう挑発するも、しかし敵の足並みは乱れず、気炎を上げるダークネス達は怒涛の如く押し寄せて、途切れない。
元より戦力的な劣勢は承知の上だが、このままでは暗殺成功まで持ち堪える事が出来るかどうか――そんな思考が遊撃班の脳裏をよぎった、その時。
「……待って」
一声。信じられないことに、少女のたった一声で、敵の攻勢はぴたりと凪ぐ。
この隙に二つの遊撃班は合流すると同時、敵の波が二つに割れ、その最奥より現れたのは声の主――天童・あざみだ。
何かしらの意図の元、彼女が助けてくれたのか。
「確かに、強い。今を生きる六六六人衆(どうぞく)が脅威に思うのも頷ける……でも」
……否。
あざみは大太刀の切っ先を遊撃班に向ける。
「『出来損ない』のあなた達がそこまでの力を得る過程で、どれだけの同族を斃して来たの?」
善悪・正誤の区別無く。彼女を動かすものは即ち、仇。
光すら映さないはずの真黒の瞳に、しかし刹那決意が閃き……。
……『今』を生きるあざみの答えがそれならば、此方も覚悟を決めるしかない。
波が再び騒ぎ出す。彼女の援護に回るつもりだろう。
「復讐の業は永久の怨恨なり……怨羅……万象」
そして黒風を纏う大太刀が、二つの遊撃班、その前衛を薙ぎ払った。
●窮地か好機か
あざみと戦闘を続けていた班の傷は相応に深く、態勢を立て直すには攻撃の機会を捨て、此方の援護を含め、全て回復に費やす時間が必要と見る。
苦しいが、一分……一分だけでも自班が彼女を足止めできれば、『光明』も見えてくるだろう。
あざみの纏う黒色の着物の右袖は肩ぐりから破れ、露わになった白く細い腕は血の紅や死、穢れを想起させるには程遠く。だからこそ、そこに装着された武骨な手甲が、アンバランスに際立って見えた。
外見から察するに、ダメージは確実に蓄積しているのだ。
彼女との交戦は想定外だが、彼女を除かない限り退路の確保は至難だろう。
「些か腑に落ちないな。君は宍戸に無理やり目覚めさせられ、そして命を狙われた。進んで彼に加担する理由はないように思えるが……」
過日の情景がレイの脳裏を掠める。あの時蘇ったハンドレッドナンバーは皆宍戸とは相容れなかった筈だ、と。そう問いかけると同時に帯を放つが、あざみは帯を切り払い、
「例えば……あなたが死刑囚で、死刑失効の日に異星人の襲撃があってどさくさに紛れて助かったとして……社会に戻って今の世の中の話を聞けば、異星人達は自分達人間を皆殺しにするつもりのようだと解った……」
ねぇ、あなたならどうする? と、あざみは問い返す。どちらにも最終的には命を狙われる可能性があるなら、まずは話が通じそうな方を――同族を選ぶでしょ、と。
「宇宙人扱いか。けどそっちだって同じだろう? そっくりそのまま返してやる。二桁の序列を得るまでに、一体どれだけ復讐代行を成したんだ?」
凛凛虎は暴婦を振り回すが、婦人の彫像は空を切り、復讐に瞬く黒死の大太刀が凛凛虎の身を切り裂いた。
「やはりハンドレッドは厳しいか……だが!」
だとしても、凛凛虎の攻撃を無駄にはしない。忍魔が間髪入れずに小太刀を振り終えたあざみに迫ると、虎杖で殴打し、瞬刻魔力を流し込む。
「アポリアもロードローラーも目と耳も、元の人格を消して好き勝手。だから君もきっと『そう』なんだろう。復讐という大義名分を掲げるのなら、僕らは人として、どうあれ君が『一番最初』に殺したであろう、名も無きひとの仇を討とう。的外れの、お節介かもしれないけどね」
陽太は淡々とそう告げて、十字架を構えた。
もう一方の班の前衛に、僅か焦りの色が浮かぶ。
「落ち着いて、まずは呼吸を整えましょう。窮地ですが、敵が我々に注力していると言う事は、此方の目論見通りに作戦が進行している証でもあります」
それを認めた統弥は彼らの焦燥を鎮める様に柔らかく諭し、風真・和弥(風牙・d03497)達チームの前衛をシールドで覆う。
「俺達を回復する暇があるなら、仲間の援護をした方が良いんじゃないか?」
「うんっ! だから援護するよ、じんき先輩!」
杏子は、傷つきながらも弱音一つ零さない佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)へ治癒と盾の効果のある小光輪を付与し、
「感謝するわ……でもいいの、アレ、相当強いわよ?」
「分かってる……8人で勝てないなら16人全員で、120%の全力をぶつけるよっ!!」
リリアナが鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)に癒しのオーラを渡して全員を鼓舞すると、周が最後にリバイブメロディを弾く。
その演奏が心に染み込み喚呼するのは、即ち再び奮い立つ気力だ。
「ああ。諦めが悪いのもヒーローさ!」
一分。
此方が和弥達チームの前衛を支援している間に、彼らの中衛と後衛も回復を終え、改めてあざみと相対する。
未だ窮地には相違無いが、光明は、確かに。
●瞬間
それでも尚劣勢は続く。
周囲のダークネスの『援護』もいやらしく、無論二班を同時に相手取るあざみ自身も相当に手強い。
しかしダメージを受けるなら、あざみとて無敵ではないはずだ。
だから何か――と、冷静に戦闘を観察していた陽太は気づく。
先程忍魔が攻撃を命中させた状況を見るに、大太刀を身体の一部の様に扱うとは言え、その刀身は長大に過ぎる。故に、体のバランスを大きく崩す外的要因があれば……。
また彼女は2班共闘に入ってから回復しておらず、一気に攻め立てさえすれば勝機も見えてくる筈。
陽太がそうレイに目で合図を送ると、意図を理解したレイは静かに頷き、あざみの攻撃の虚をついて大震撃を引き起こす。
衝撃波が彼女の足を止めると、それはあざみにとって致命的な隙となり……すかさず忍魔と凛凛虎が距離を詰める。
「鬼の姉弟、お前を食い潰す!!」
姉弟の声が重なる。凛凛虎の鋼拳が手甲ごとあざみの右腕を砕き、続く忍魔の爪撃は、仇討刀の左足、膝から下を深く斬り取った。
あざみが砕けた右腕を強引に動かそうとした刹那。陽太が放った黙示録の光弾が彼女のそれを宙へ弾き飛ばすと、周が隻腕隻脚のあざみを影縛る。
「いっけえええぇぇぇぇっ!」
そしてもう一つの遊撃班は、あざみの生命に肉薄し――。
遊撃を再開した杏子は、隠し通路から顔を出した琶咲・輝乃達の姿を見つける。
無事で良かった、と安堵すると同時に、杏子は笛を鳴らす。彼女ら追撃班の帰還は即ち、撤退可能の限界点が来たと言う事だ。
殿に回ったリリアナは、仲間達の背を狙う攻撃をブロックし、遮る。
「闇に頼らず、自力でやり遂げるんだっ……」
迫る吸血鬼に乱打乱撃を浴びせ灼滅すると、撤退する仲間たちを見る。重・軽症者はあれど闇堕ち者は居ない。上々の戦果と言えるだろう。
追撃を諦めない武人を蹴り滅し、統弥は隠し通路を見やる。
あの通路の深奥で、自分にとってかけがえの無い人が戦っている。
すぐにでも駆け付けたい衝動を抑え、殿を務める統弥はゆっくりと隠し通路から距離を取った。
――今はただ、この場から脱出する事が再会への近道と信じて。
作者:長谷部兼光 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年8月31日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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