甲冑の騎士が爪弾く音色は

    ●甲冑の館
     ガシャン!
     金属がぶつかりあう音と共に、若者は暗い洋館の一室に放り込まれた。若者は、長目の茶髪にヘアピンとギャル男風のファッションではあるが、なかなかのイケメンである。
    『ここがお前の新しい仕事場だ』
     彼を拉致し、ここまで運んできたのは、美々しい西洋鎧を着けた、これまた美形の偉丈夫であった。見事な象嵌が施されたルネサンス様式の兜を取ると、菫色の瞳が怪しく光り、艶やかな銀髪が肩に流れた。
    「し……仕事場って……?」
     突然攫われた若者が、わけのわからないなりに暗い部屋を見回すと、鎧の男は部屋の灯りを着けた。
    「……!?」
     部屋にはずらりと西洋甲冑が並んでいた。ローマ時代のようなシンプルなものから、ゴシック、マクシミリアン、ルネサンスの各様式、鎖帷子まである。多くはレプリカであろうが、見事なコレクションである。
    『板金工であるお前は、今夜よりこの屋敷に住み込み、私のためにこれらの鎧の手入れをするのだ』
    「そ、そんな……住み込みとか、いきなり言われても困るっすよ! 大体板金工っても俺まだ見習いだし、鎧なんて触ったこともないのに」
    『五月蠅い』
     鎧の男がスッと目を細め、手にはいずこからともなく古風なギターが現れた。
    『人間ごときが、上位の存在である私に逆らうか?』
     そしてジャランとひとつ、不快な響きのコードを奏でると。
    「う……うああっ!?」
     若者は頭を抱えてのたうち回った。
    「頭が……頭が割れるうッ!」
     鎧の男はギラリと大きな犬歯を光らせて嗤った。
    『わかったか? お前なぞこのギターの1フレーズで殺してしまうことができるのだ。わかったらさっさと仕事にかかれ……人間風情が、高貴なる私の下僕になれることを感謝しながらな』

    ●武蔵坂学園
    「軽井沢のあたりで、行方不明事件が連続していましてね」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)が深刻な顔で、集った灼滅者たちに語り出した。その隣には、雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)も堅い表情で控えている。
    「しかしそれらの事件は、何故か表ざたになっていないんですよね……そう、バベルの鎖の影響と思われます。つまりダークネスの仕業です……で、そこに憂奈さんからタイミングよく、別口の情報がもたらされまして」
     典に目配せされ、今度は憂奈が語り出す。
    「軽井沢に、有名な西洋鎧コレクターが住んでいるの……ううん、もう多分過去形……住んでいたのよ」
     軽井沢の別荘地にある洋館に、その道では有名な西洋鎧のコレクターの館があるという。
    「そのコレクターさんはかなり老齢のおじいさんだけど独身で、普段は数人の使用人と隠者のようにその館で暮らしていたの。それでも年に1度だけ夏に、館のコレクションを公開する会を催してたのね」
     同好の士だけを招待する、こぢんまりとした会だったようだが、
    「私も1度でいいからその会に潜り込みたいなって思ってて……ってそれはいいんだけど、その会がこの夏は開かれなかったの」
     館の主は老齢であることだし、心配になった憂奈が見に行ってみると……。
    「館がどうにもおかしかったのよ」
     館は荒れ果て、陰惨な雰囲気となっていた。しかし何者かが住んでいる気配はあるという。
    「でもね、ご近所に話を聞いてみると、その鎧コレクターのおじいさん、偏屈なりに3日に1回くらいは散歩や買い物に出かけてたらしいんだけど、ここんとこ全然見てないっていうのよ」
     同時に使用人も見かけることがなくなったし、病気で寝込んでいるとしたら、通院したり医師が往診したりするだろうが、その様子もないという。
    「しかも」
     憂奈はぎゅっと眉根を寄せて。
    「毎日のように館から若い男女の悲鳴が聞こえるんですって……」
     ううむ、と唸って考え込む憂奈と灼滅者たちに、典が、重々しく告げた。
    「どうやらなんらかのダークネスが、その館を乗っ取ったようですね。しかも複数の一般人が囚われている様子ときては、放っておくわけにはいかないでしょう」
     館に潜入して、ダークネスを討伐し、一般人の救出を行わねばなるまい……生きているのならば。
    「豪邸を拠点とするダークネスが何者かは現時点ではわかっていません。本当にダークネスの仕業だとすると、ご当地怪人・ソロモンの悪魔・スサノオといった可能性もありますが、状況的にヴァンパイアである可能性が高いのではないでしょうか」
     もし、ヴァンパイアであるのならば、非常に強力なダークネスであるので、十分に注意が必要だろう。
     典と憂奈は揃って仲間達に頭を下げ。
    「不確定要素が多くて申し訳ありませんが、どうか重々用心して、事に当たってくださるようお願いします」


    参加者
    月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)
    刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)
    泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)
    雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)
    七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)
    カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)

    ■リプレイ

    ●西洋甲冑の館へ
     狼姿のヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)が、仲間の元へと戻ってきて、屋敷の外観を一回りしての印象を報告した。
    「外観にはこれといった異常はないが、庭の様子からすると、夏の終わり頃以降、突然放置されたような感じだ」
     その頃に何らかのダークネスが館を乗っ取ったと考えられる。
    「なるほど……じゃ、いきますか」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が館の図面を開き、言った。
     8人は2階建の陰気な館の玄関へと向かう。
    「一般人の皆さんが無事だといいのですけれど……」
     雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)が呟いた。状況から言って難しいだろうが、それでも願わずにはおれない。
     うっそうと茂った庭木の下を重厚な玄関へと歩んでいく……と。
     その玄関の扉が、静かに開いた。
    「!」
     いきなりターゲットの出現かと灼滅者たちは身構え、先頭にいた朔耶の霊犬・リキはグルルと唸ったが、屋敷内から現れたのは、お仕着せの黒服の美青年であった。
    「主とお約束でしょうか」
     青年は今にも倒れそうなほどやつれているが、それでも礼儀正しく尋いた。
    「彼は一般人だよね?」
     油断なく警戒していた泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)がDSKノーズを使っている七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)に小声で訊いた。
    「うん、業は匂わない。執事として使われているのかな」
     麗治が囁き返すと、
    「あなたたちを助けに来たんだ。ここから逃げよう」
     月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)が優しく手を取ったが、青年は怯えて振り払い、
    「あ、主の許しがなければ、この館から出られません」
     激しく首を振った。
     ダークネスの恐ろしさに呪縛されているのか。ならばと王者の風を発動すると、
    「……おっと」
     体力気力とも限界だったのだろう、青年はくたりと座り込んでしまった。
     カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)がそれを支えてやり、
    「落ち着いて、深呼吸してごらんよ」
     刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)は玄関から暗い屋敷の中を覗き。
    「そこの部屋にいてもらおう」
     玄関脇の小部屋を指した。
     ここで大人しく待っているようにと言い聞かせ、灼滅者たちはいよいよ屋敷の内部へと足を踏み入れた。囚われているのは彼だけではないはず。
    「……むう」
     DSKノーズを使っている麗治がうなった。
    「業の気配はするが、まだ距離があるのだろう、ハッキリしない。というか、それとは別に……」
     みなまで言わずとも、仲間たちも気づいた。
     微かに腐臭がする。
     これはおそらく……死臭。

    ●探索
     死臭の源は、地下であった。ワインセラーに5体の遺体が折り重なっていた。どれも初老から高齢の男女で、衣服などからこの館の主と使用人たちと見られる。
     冷涼な軽井沢の秋で、そして涼しいワインセラーでよかった……と灼滅者でも思わずにはいられない痛んだ遺体ばかりで、ここ最近亡くなったとは考えられない。おそらく、ダークネスがこの館を占拠する過程で殺されたのだろう。
     気の毒だが彼らの対処は後回しだ。まずは生きた人間が優先だ。
     地下に辿り着くまでにも、キッチンでメイド服姿の若い女性を発見していた。彼女もやはりひどくやつれ、ダークネスによる恐怖支配に怯えきっていたが、渡里がラブフェロモンをかけ、執事がいる部屋に一緒にと言い聞かせると、素直に従ってくれた。
     更に一般人を探すべく、灼滅者たちは地下室から階上へと向かう。殿を務める星流が静かにワインセラーの扉を閉めた。
     探索の過程で、麗治のDSKノーズは深い業を嗅ぎ当てていた。屋敷の1階奥から漂ってきており、図面と照合すると、おそらく最奥にある広い部屋……鎧の展示室として使われているのではと見当をつけた広間からのようであった。
     だが、そこに突入するのは屋敷を一通り見回ってからだ。まだ生きている人間がいるようだし、もしかしたら遺体も……。
     まだ見ていない2階へと、屋敷の中央にある階段を上がっていくと。
    「いたぞ」
     階段を機械的な動作で磨く、うつろな目でのメイドがいた。やはり若くて美形である。渡里が素早くラブフェロモンをかけ、話しかける。
    「誘拐犯を倒しにきたから、もうしばらく我慢してほしい。玄関脇の小部屋で、静かに待っていてもらえるかな」
     女性は暗闇のような瞳に、かすかな光を灯して渡里を見上げ、頷いた。
     この女性は、先の2人より衰えが少ないと見て、ギィがそっけないながらも、腕を支えてやりながら尋ねてみた。
    「あなたと執事とキッチンメイドの他にも攫われてきた人はいるっすか?」
    「か……甲冑の手入れをする板金工さんが」
    「その人は、主人と一緒?」
     こくり、と女性は頷き、憂奈がすかさず訊く。
    「主人は、どんな人なのです?」
    「ご主人様は、お、恐ろしい方。ギターをお持ちで……」
     女性はそこまで言うと、急に恐怖にかられたか、両手で顔を覆って泣き出してしまった。
     これ以上尋問するのは酷であろうと、女性は他の2人と同様避難させた。
     そして、灼滅者たちはいよいよ館を乗っ取ったダークネスの元へと向かう。

    ●探索
     ミシッ。
     きしみ音を立て、禍々しい業の漂い出す広間の扉が開いた。
     広い部屋であった。
     しかし窓は小さく、しかも半分ほどはカーテンが締め切ってあり、薄暗い。
     真っ先に目に入ったのは、部屋の壁沿いにぐるりと並べられた西洋甲冑と、右手奥の窓辺で、灼滅者たちの出現にも気づかない様子で背を丸め必死に鎧を磨く男性の姿だった。
    「!!」
     思わず男性に駆け寄ろうとした8人に。
    『――灼滅者か』
     左側の至近からよく響く男性の声がかけられた。
     咄嗟に身構えて振り向くと、そこには長椅子にゆったりと腰掛けた、煌びやかな甲冑姿の偉丈夫が。
    「ダークネス!」
     確かめ合わずとも、灼滅者には男が人外の存在であることがわかった。圧倒的な邪気と殺気。そして漲る力。バベルの鎖がチリチリと逆立つようだ。
     男は、部屋中の甲冑を見渡せる長椅子から、兜を小脇に抱えて立ち上がり、
    『私の下僕となりにきたのか。まぁ人間よりは使えそうか』
     大きな体で灼滅者たちを見下ろした。
     しかし怯むことなく、カーリーが果敢に問いかける。
    「君の目的は何なの!」
    『下位の存在である灼滅者なんぞに、答える筋合いはない』
     このやり口に、この態度、そしてこの容姿……。
     ギィは険悪に目を細め。
    「あんた、ヴァンプっすね?」
    『ヴァンパイア、ときちんと呼んで欲しいものだな』
     やはり館を乗っ取ったのはヴァンパイアであった。
    「都市伝説を探していたのに、強力なダークネスを見つけてしまうなんて」
     事件発見者の憂奈は、美々しい敵を見つめる。着用している鎧は、やたら煌びやかなルネサンス風の儀式用で、実戦にはかなり重いはずだが、全く苦にしている様子はない。
     だが、朔耶は敢えて挑発的に。
    「へえ、やっぱりそうなんだ。何処の貴族吸血鬼様の下僕だい?」
     そういえば、と渡里も、
    「黒の王にバレても平気なのかい?」
    『無礼者!』
     ギラリと菫色の瞳が2人を睨みつけた。
    『ヴァンパイアの誇りを忘れた日和見共と一緒にするでない!』
     この反応からすると、コイツは主流派のやり方に何らかの反発を覚え、独自の行動を取っているのか?
     だが、今は悠長に推理している暇はない。
     まずやらなければならないことは……。
     麗治は、部屋の奥で一心不乱に……というより機械的に作業し続けている男性に素早く駆け寄り。
    「この男は、我が家に仕える僕だ。返してもらおう。まだ若いが、筋がいい職人でな」
     この部屋から男性を出したいが、扉近くにヴァンパイアがいることで、今のところ庇うことしかできない。
    『ハッ、よく言う』
     ヴァンパイアは嘲笑いながら麗治の方を見た。
    『その男、見目良いゆえ連れてきてはみたが、まるで使えん。もう少し見て、モノにならなかったら始末しようと――ふむ』
     ヴァンパイアはおもむろに兜を被り、そして手には古風なギターを取り。
    『今始末しておくか』
     ジャラン。
     ひとつ、爪弾いた。

    ●強敵
    「――これ以上、殺させません!」
     男性の耳を塞ぎ庇ったのは憂奈だった。
     彼女は強烈な音波にぐらぐらしながらも、ぐっと踏ん張って耐える。
     同時に仲間たちは攻撃に出ていた。
    「殲具解放!」
     ギィが斬艦刀『剥守割砕』を大きく振り上げて斬りかかり、
    「……随分と派手に動いている奴が多いけど……バベルの鎖の効果を利用して好き勝手したくなったのかい?」
     星流も挑発しながらマジックミサイルを撃ち込んだ。また彼は敵を観察しながら、その行動について思索を巡らす。
    「(バベルの鎖の力を超え、ヴァンパイア勢力が自分達の存在を、公にしようとしている? あるいはそれによって何かを企んでいる……?)」
     ヴォルフは少しでも板金工から敵を遠ざけるべく、角度をつけてオーラキヤノンをぶち込み、朔耶は、
    「リキ、あっちを手助けするんだ」
     愛犬を板金工の守りに行かせると、自らは影の刃を鋭く伸ばした。
     渡里も愛犬・サフィアを伴って板金工の元にかけつけ、ラブフェロモンを発動した。気力・体力共に弱り切っているこの男性に、何とか動いてもらわなければならない。とはいえ、相当ひどく折檻されたのだろう、全身傷だらけであるし、やせ細っている。
    「さあ、立って。壁際を回り込むしかないけど……」
     カーリーも壁歩きを使って、何とか彼を助けようとやってきた。
    「そうだ、甲冑の後ろを通っていけば?」
     なるほど、ヴァンパイアはコレクションほしさにこの館を占拠したのであろうから、甲冑の破壊は望むまい。壁際にずらりと並ぶ甲冑の後ろを通って出口近くに到達すれば、何とか部屋から出してやれるかもしれない。
     板金工は渡里になだめられ、甲冑の後ろを這って出口へと向かいだした。のろいが仕方あるまい。戦場を突っ切る危険は犯せない。
    「ディープブルー・インヴェイジョン!」
     青い甲冑に身を包んだ麗治が十字架型の長銃で殴りかかると、
     ギン!
     ヴァンパイアは甲冑の小手でそれを止めた。
     元々は人間用である甲冑が、ヴァンパイアのエナジーが作用しサイキックにも通用する防具となっているようだ。
     そして敵は、ギターを緋色に輝かせ、麗治を殴りかえそうと――。
    「……っ」
     それをまた庇ったのは憂奈であった。
     ディフェンダーゆえ、ダメージは軽減されているはずであるが、それでも彼女は、床に叩きつけられた。
     ヴァンパイアの戦闘力の高さを改めて思い知る灼滅者たちであったが、
    「ヴァンプは叩き潰すのみ。自分がきっちり引導を渡してやるよ! 他人のコレクションを奪うとか、まともに美術品を取引する伝手もない社会不適合者だしな?」
     ギィは怯むことなく刀に炎を宿らせてつっこんでいく。
     ――やるしかないのだ。

    ●戦闘
     敵が列攻撃を持っていないのは幸いであったが、それでも単体攻撃の一撃はどれも強力で、数分後にはディフェンダーたちはかなり追い込まれていた。もちろん庇いきれるものではないので、攻撃陣も無傷ではない。
     しかしヴァンパイアの方も、根気よく積み重ねたバッドステータスが効いているようで、兜は脱げ、戦闘開始時ほどの鋭さも無い。
     そして、亀のように甲冑の後ろを進んでいた板金工が、いよいよ出口近くまでやってきている。
    「ボクがドアを開けるから、頑張って外に出てね。タイミングはヤツが攻撃した直後だよ」
     ここまで最後方にいて、板金工を励まし続けていたカーリーが囁き、タイミングをはかる……ヴァンパイアが挑発を続ける仲間の方を向き、ギターのフレットに手をかけた……。
    「今だよ!」
     しかし、突然ヴァンパイアは角度を変え、凶悪な音波を板金工めがけ放った。
    「――ダメっ!」
     飛び込んできたのは憂奈。板金工に覆い被さり、音波攻撃を肩代わりする。
    「憂奈さんっ!」
     カーリーが悲鳴を上げた。メディックの彼女は、彼女の体力が限界に近いことを把握していた。
     憂奈は苦しそうに呻いてうずくまったままだ。
     だが、彼女が身を挺して作ったチャンスを逃がすことはできない。
    「やりやがったな!」
     攻撃陣もヴァンパイアを遠ざけようと、一斉に飛びかかっていっている。
    「さあ、今だよ!」
     素早くフォローについた星流とカーリーは板金工の両腕を支え、とうとう廊下に出した。
    「玄関の部屋で大人しく待ってるんだよ!」
     もう一度言い聞かせると、疲労と恐怖とで呆然としながらも、灼滅者が自分を必死に救おうとしているのは分かるのだろう、板金工は何度も頷きよろよろと玄関の方に向かっていった。
     その間にも、攻撃陣は間断なく攻撃を続けていた。
     ビシビシッ。
     金属が裂ける音がした。見れば、朔耶の影により鎧の背に大きく亀裂が入っていた。
    「グッジョブ、だ」
     相棒のヴォルフは、すかさず銀の爪をその隙間に深々と突き立てる。
    『グアッ』
     ヴァンパイアはさすがに苦悶の悲鳴を上げた。だが忍び寄っていた渡里は容赦せず、その破れ目を鋭い刃で更に広げ、
    「どうせあんたは一匹狼なんだろう。組織に属していれば、このご時世にこんな事する訳ない。情報不足だからこそできる『おままごと』だもんな」
    『な……何を生意気な、下賤な生物が……ギャアッ!』
     ギュルルルルッ!
     挑発に乗った隙に、麗治がチェンソーで更に鎧を破壊し、
     ガシャン!
     とうとう鎧部分が完全に壊れ、床に落ちた。
     無防備になった上半身を狙い、灼滅者たちは更なる攻撃に出るが、敵は怒りに紫の瞳を血走らせ、
    『思い知れ!』
     天井に緋色の逆十字が現れた。その光が貫こうとしているのは、憂奈を必死に介抱しているカーリー!
    「リキ!」
     主の声に霊犬が走り……大事なメディックを庇い、邪悪な光に撃たれて消えた。
    「知ってるか? 室内戦では、下手に人質をとる方が不利になるんだぜ!」
     朔耶はギリリと歯を食いしばって指輪から弾丸を撃ち込み、星流が十字架からの氷弾で続く。麗治は腕と同化した十字架から、紫色の毒光線を発射し、憂奈は最後の力を振り絞り、ここまでの恨みを精一杯こめて、敵につかみかかって投げ飛ばした。倒れ込んだ敵の足を、渡里がナイフで床に縫い止め、カーリーも、ここは勝負どころと、フォローをサフィアに任せ、オーラを宿した小さな拳で連打を見舞う。
     ヴァンパイアは、ギターを支えに体勢を立て直そうとしているが、起きあがれない。
     ヴォルフが武器を構え、無様に床に転がるヴァンパイアを見下ろし、ギィが続く。
    「終わりの時間だ、蝙蝠野郎」
     斬艦刀と、ガンナイフの刃が、杭のように胸を貫き。
    『……ば、ばかな……私が負けるはずは……』
     ヴァンパイアは、信じられないという目をしたまま、消え。

     ――後には、壊れた甲冑とギターが残った。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年10月3日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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