「グラン・ギニョール戦争後、何故か群馬県の山中の一部が密林化しておりまして」
春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は集った灼滅者に、不可思議な事態について語りはじめた。
「その密林化している地域では、気温や湿度が上昇中で、アガルタの口の戦場に近い環境となっており、密林内部に多数の六六六人衆の存在が予測されています」
この密林の調査と、密林内の六六六人衆の灼滅が、今回の依頼の目的だ。
「密林内のどこに六六六人衆が居るか、どのような六六六人衆がいるかはわかっていませんので、探索は慎重に行う必要があるでしょう」
探索がうまくいけば、単独行動中の六六六人衆に、先制攻撃を仕掛けることができるかもしれない。
逆に、不用意に行動すれば、六六六人衆の奇襲を受ける可能性もあるということにもなるが。
もし、複数の六六六人衆に襲われてしまったりしたら大変なので、今のところは密林の奥深くに足を踏み入れるのはやめておこう。
密林の奥深くで敵に囲まれて壊滅……という悲惨な事態だけは避けなければならない。
「根気よく密林の調査を行い、外縁部の六六六人衆を撃破していけば、密林全体の戦力が落ち、奥地への探索の成功率も上昇していくと思われます。なので、今回は深入りしすぎないようお願いします」
密林化した山中にはどのような危険があるかわからないので、慎重に行動しよう。
なお、密林内では携帯電話などで連絡する事はできないようである。
「今回は、手分けして探索するなどの別行動はしない方がいいでしょうね。密林内では連絡もとれませんし、別行動中に六六六人衆と遭遇すれば勝ち目はありません。必ず全員が揃って探索を行うようにしていってくださいね」
参加者 | |
---|---|
鏡・剣(喧嘩上等・d00006) |
今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605) |
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085) |
紫乃崎・謡(紫鬼・d02208) |
佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
ヘイズ・フォルク(夜鷹の夢・d31821) |
オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448) |
●にわか熱帯密林にて
「こうも堂々と密林化していると、潜伏する気はないという意志表示にも思えるね」
件の密林を目の当たりにし、紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)が少々呆れたように呟いた。
「敵地での狩りではあるが、その油断を突くとしようか」
彼女は群馬の地図を開き、現在地に印をつけてはみたが『とりあえずこのあたり』程度の精度でしかないのが残念である。なぜなら、密林はこうして入り口に佇んでいる間にも、じわじわと群馬の地を浸食し、様子を変えていっているのだ。
他のメンバーも、マッピングのためにESPやGPS、コンパスなどのグッズを用意してきてはいるが、電波も届かないようだし、この状態では正確な地図を作るのは無理であろう。
とはいえ、ざっくりとでも地形や植生など、記録を取っておくことは無駄ではないだろう。後日じっくり調べれば、何らかの発見があるかもしれない。
「それにしてもずいぶん鬱蒼としているね」
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)が大木の間から森をのぞき込む。
「群馬で密林探検が出来るとは思っていなかったよ。どうして急に……とにかく、気を付けて進もう……さて、何が出るのかな」
あら? とオリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)は首を傾げ。
「グンマー……日本有数の秘境であると聞いたことがありますが?」
ネット上でのネタとしてね、と、今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)は笑ってから、ぎゅっと顔をしかめ、
「それにしても、温帯に密林なんてあり得ないわ! 暑いのは苦手だから、見てるだけでも眩暈が起きるの! ……でも、群馬なら、何故か納得してしまうのよね……」
「本当にジメジメムシムシしてるよな……森で敵を倒したり、警戒したり……こういう戦争はベトナムでしたっけ?」
ヘイズ・フォルク(夜鷹の夢・d31821)もじわりと滲む額の汗を拭った。
「ジャングルクルーズにようこそ、ってとこですかね」
灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は、蒸し暑さにもめげず熱心に装備の点検をしている……すると。
「まったく……なんでまた群馬に密林なんか……」
とか何とかぶつくさ言いながら、侵入すると決めた地点の周囲を見回っていた、佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)が。
「おい……これ見てくれ」
小声で仲間たちを呼んだ。
すわ、もう野生の六六六人衆を発見か、と集まってみると。
「何だこりゃ?」
鏡・剣(喧嘩上等・d00006)が思わず驚きの声を上げる。
矢印の描かれた標識が、これ見よがしに密林のキワキワに立っているのだ。
登山道に立てられているようなタイプのものである。
「にわか密林にこんな標識がなんで……」
「だよな」
仁貴が肩をすくめた。
「馬鹿馬鹿し……露骨な罠だな。でも、手がかりになるかもしれないから……ちょっとだけ乗ってみる……待っててくれ」
ボクも行こう、と謡が付き添い、2人は標識の指し示す左側へと用心深く歩を進める……と。
「待って」
謡が先を行っていた仁貴の肩を掴んだ。
「そこ、罠じゃないか?」
見れば、足下に枯れ草や落ち葉が妙に綺麗に敷かれている部分がある。
「怪しいな」
仲間たちも集まってきて、落ち葉や枯れ草をそっと除けてみると、落とし穴が現れた。大した深さではないが、底には尖った石や枝などが植えてあって、落ちたら怪我は免れないであろう。
「なるほど……そういうヤツか」
つまり、標識でおびき寄せ、罠にはめようとするタイプの六六六人衆がこのあたりにいるかもしれないということだ。
「わかった。用心深くいこう」
灼滅者たちは装備を整え、いよいよ密林へと足を踏み入れた。
ディフェンダー3人を外側にした三角形の隊形で、目を凝らし、耳を澄まし、特に標識と罠には注意しつつ、感覚を尖らせて森をじわじわと進んでいく。
装備もきっちり用意してきたし、ESP隠された森の小路も使っているので、探索に不自由はない。
エアンは、秋にも関わらず鬱蒼と日の光を遮る濃緑の木々を見上げた。
「(こうなった原因を探りたいけど……まずは、やる事をやらないとね)」
仁貴も三角形の一端を担いながら、思いを巡らせる。
「(残存している六六六人衆を集めることで、何かを企んでいるんだろうか……)」
この怪奇現象の元凶であろう大物ダークネスの正体については、皆それぞれ見当はつけているが、まずは密林に潜む六六六人衆の残党を減らし、奥まで踏み込めるようにしなければならない。
そうして深みに入りすぎないように、しばし探索を続けていると。
『ァ……ァアア~アア~~~!』
突然遠くから素っ頓狂な声が響いてきた。声は木々を渡るように近づいてくる。
そして。
咄嗟に藪や下草に紛れるように地面に伏せた灼滅者たちの頭上を。
ザザザザザザッ。
『ア~アア~~!』
木の葉を盛大に揺らし、ツタや枝を伝って飛ぶように何者かが通りすぎていき。
「……こ、Contact?」
それが灼滅者たちに気づかず充分遠ざかっていってから、先頭を行っていたフォルケが、目をパチパチさせながら振り返り、仲間たちにハンドサインを送った。
「へんなのが通っていきましたね……」
オリヴィアはメガネをふきふき、
「えっと……動きは映画のあの野生児っぽかったですよね?」
「んでもって、見た目は迷彩服着た猿みたいなカンジじゃなかったか?」
剣も半信半疑っぽい。さらに仁貴が。
「そんで……標識、背負ってなかったか?」
「そんな気がします。しかも2、3本担いでませんでした?」
どうやら、森の入り口に標識と罠を仕掛けた六六六人衆らしい。
標識に罠、迷彩服に野生児ごっこと、にわか密林を存分に楽しんでいるようだ。
「よし、追いかけましょう。あっちですね」
フォルケがまた先頭に立った。盛大に木々の葉を揺らしながら移動していったので、コンバット・トラッキングの技術を使えば、追跡はたやすい。
先ほどまでよりスピードを上げて密林を進みながら、剣は、
「テレビだと『グンマ―の密林にて遭遇したダーゲットを、我々は更に追跡した』とか言うナレーションとかでるとこだよな」
張り切って草むらをかき分け、一方、
「こんなところに住む野生児って、カニバリズ……いや、何が出ても倒さなきゃね!」
紅葉は思わずホラーな発想に走りかけたが、六六六人衆が密林に浮かれ、単独行動している今を逃すわけにはいかない。
●野生の六六六人衆
その六六六人衆を再び発見したのは、先の場所とは別方向の森のキワに近いところだった。またインチキ標識を地面に立てている。
後ろ姿ではあるが、灼滅者たちは、まずは敵を観察した。
毛深くて猿顔ではあるが一応人間型の男性のようだ。小柄だが筋肉質で手足が長く、いかにもすばしっこそう。迷彩服を着込んでいるのは、擬装しようとしているのかもしれない。武器はおそらく標識と、腰にさした大ぶりのサバイバルナイフであろう。
標識や罠の稚拙さや、こうして周囲に注意することもなく楽しげに仕掛けを作っている様子からすると、あんまりお利口さんではなさそうだが、先ほどの野生児っぷりからして機動力とスピードはあなどれまい。
「さて、お仕事開始と行きますかね?」
ヘイズが仲間だけに聞こえる小声で囁くと、ナイフを抜き、夜霧隠れを立ちこめさせた。
8人は力強く頷き交わすと、森を飛び出し、一斉にターゲットへと飛びかかった。
「ヘーイ、ジョージ、ジョージ!」
剣は拳に雷を宿して殴りかかり、紅葉は指輪に口づけして、鋼と化したダイダロスベルトを鋭く放った。
「まずは足止めしなきゃね!」
エアンとフォルケ、そして仁貴は、三方向から足下に転がり込んで刃を突き立て、謡は黒々とトラウマを宿した拳をぶちこんだ。
更に、オリヴィアが果敢に裏拳をぶちかましにいくと。
『ウキーーーーッ、いきなり何すんだよ!』
六六六人衆は猿っぽい悲鳴を上げ、傍らに吊り下がっていた蔓に機敏に飛びついて、するするするっと登ってしまった。
『あっ、お前ら、灼滅者だなっ、ちょうどいい、こないだの戦争の仕返しだっ』
そして担いでいた標識を赤く光らせ、
「あっ!」
真下にいたオリヴィアをガキンと殴った。怒りのこもった打撃は結構な威力で、彼女は湿った地面に足を取られたのもあり、倒れ込んでしまう。
「やりゃあがったな!」
だが、剣が傍らの木を駆け上がるようにして炎を宿した拳を見舞い、紅葉はすぐさまオリヴィアを助けおこし、回復を施す。
この敵、見た目もアレだし、頭の方はおめでたくとも、やはり六六六人衆、戦闘力はそこそこ高そうだ。油断は禁物と、灼滅者たちは気合いを入れ直し、蔦にぶらぶらとぶら下がるターゲットを囲んだ。
●密林の戦い
発見時に抱いた印象通り、六六六人衆はやたらすばしっこく、戦いながら木に上り下りして翻弄してきた。迷彩服もチラチラと木々に溶け込んで見えづらく、更に灼滅者たちをイライラさせ、じわじわと消耗させていく。
今も器用に片手だけでぴょんぴょんと高い枝へと乗り移ろうとしており……。
「逃がしません!」
フォルケは影を伸ばして、これ以上登られないよう縛り付け、その間に、謡が敵に負けじと獣のように素早く木に登り、六六六人衆がぶら下がっている枝を切り落とした。
『ぎゃっ』
地べたにみっともなく落ちた敵にエアンのレイザースラストがザクザクと突き刺さるが、いきなり禍々しい殺気が立ち上った。
「……ぶわっ!?」
さらなる足止めを狙おうとブラック・ナイヴスを構えて忍び寄っていたヘイズは、転んだままの六六六人衆の発した黒い気に巻かれそうになり……が、そこに、
「……俺が防ぐ」
仁貴が邪を喰らう悪食の天蛇を振り回しながら飛び込んで、殺気を遮ってくれた。ヘイズは、
「サンクス……横から失礼ってね!」
回り込むようにして刃を振るう。
そしてオリヴィアが、
「たあーーっ!」
決して逃すまいと、何度目かの裏拳を叩き込む。
『ムキーッ!』
しかしバネのように飛び起きた六六六人衆は、今度はピョンとジャンプして、傍らの太い木の枝に上がってしまった。
そして今度は標識を青色に光らせて、
『喰らえ!』
後衛へとその光を浴びせかけた。
「やばい!」
青い光は怒りを伴う。案の定、メディックの紅葉の目の色が変わり。
「……よくも」
回復そっちのけで指輪から石化の呪いを撃ち込んでしまった。
密林の暑さでストレスがたまっていたせいもあるかも。
だが、一瞬石化で固まった敵は、
「ったく、めんどくせー猿野郎だぜ!」
『うぎゃっ』
力業で木によじ登った剣に、鋼鉄の拳で殴り落とされた。すかさずフォルケと仁貴が飛びかかって迷彩服を切り裂く。
「本来の得物じゃないが……今回はそういうポジションなんでね! 封縛!」
ヘイズが鋼糸を張り巡らせて動きを封じると、オリヴィアはジャンプ一発、サマエルの力を借りた膝蹴りを腹部にぶちかました。
その間に、
「紅葉さん、落ち着くんだ」
「キュアをお願い!」
ラビリンスアーマーを施しながらの謡と、バベルブレイカーを構えたエアンの呼びかけで、紅葉は理性を取り戻し、
「あ……危なかったのよ」
聖剣を抜いて清らかな風を吹かせた。
『ムキーーーッ』
六六六人衆は殺到する灼滅者たちを振り払うように立ち上がると、また傍らの大木に上り始めた。とはいえ、積み重ねてきたダメージとバッドステータスが効いてきているのだろう、最初ほどの素早さはない。
「上らせるかッ!」
剣が追いかけて引きずり落とそうとしたが、
「おっと!」
敵が腰からギラリと凶悪そうに光るナイフを抜いたので、あわてて木から離れて身構えると。
もわっとナイフから黒い煙が吹き出してきて、樹上の六六六人衆を包み込みはじめた。
「……あっ、回復じゃないかしら!?」
紅葉が気づいて叫ぶと、
「あっ、そーかっ。させるかあっ!」
剣が咄嗟に六六六人衆のいる木を拳で殴りつけて揺らし、
「落っことせ!」
謡とエアンも枝を狙って杭を撃ち込んだ。足場が揺らいだところに、仁貴の蛇剣が伸び、
『ぎゃあっ!』
ビシリと敵をたたき落とす。
回復を試みたということは、敵はかなり弱っているということ――ここで攻撃を緩めてはいけない。
地べたに敵が落ちた瞬間、フォルケのナイフの刃がひらめき、オリヴィアは炎を蹴り込んだ。
「草木に隠れた鋼糸の包囲、お前はもう逃げられない」
更にヘイズが糸の結界を更に堅固に張りなおして……敵には相当なダメージが加えられているはず……なのだが。
六六六人衆はよろりと立ち上がり。
『……くっそう、ジャングル・パワーを見せてやる!』
「!!」
低い姿勢でナイフを構え忍び寄っていたエアンに、赤く光る標識を振りかぶった……!
ガシッ。
それを十字に組んだ腕で力強く受け止めたのは、謡。
「……行って」
「ごめんねっ、ありがとう!」
エアンは機敏に下草をかき分けて敵に迫り。
ザクリ。
『うぎゃああっ』
ナイフで足を地面に縫い止めた!
「チャンス!」
勝負処とみて、メディックの紅葉も裁きの光を見舞い、ヘイズはナイフで傷口を容赦なく広げる。仁貴もナイフで足の腱を切り裂き、オリヴィアは光のオーラをまとった手刀を首筋に叩き込んだ。
敵はしぶとく木に上って逃げようと試みるが、もう体が言うことをきかず、枝に向かって手を伸ばしたままばったりと倒れ。
「いくぜェ……ヒャッハーーー!」
「はいっ!」
傷だらけだが満面の笑みの剣と、生真面目な姿勢を崩さないフォルケが、拳を握り、ナイフを振りかぶって飛びかかり……。
ウガアアァァァァ……。
野生の六六六人衆は、獣じみた断末魔を残し灼滅されたのだった。
ふう……。
誰ともなく、大きな吐息が漏れ。
「増援がくる前に離脱しますか、こんなジメジメしたところからは……」
ヘイズが武器をしまいながら言うと、
「うんっ、早く家に帰ってシャワー浴びたいね」
エアンが即座に同意した。
ふとみれば、戦いの傷だけではなく、皆漏れなく汗だくだし、密林の植物にひっかけた傷や虫さされ、泥汚れだらけである。
さすが熱帯密林探検といったところか。
8人はお互いの姿を眺めまわして、疲れた笑いを漏らしたのであった。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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