DIY六六六人衆掃討作戦~われらDIYレディース!

    ●とあるホストクラブにて
     ミラーボールの光が照らすキンキラした内装の店内に、女たちの嬌声が響いていた。広い店であるが、10名の女性たちで貸し切りである。
    「姑をこのバールでぶんなぐってやったわけよ。壁に打ってあった古い釘を抜けっていうから。偉そうに。自分でやれっての」
    「わたくしは幼稚園のボスママをドライバーでグサリと一突きしてやりましたの。子供の発表会の大道具作りの最中にもめまして」
    「あたしは~、彼氏を盗った女を~、荷造り紐で絞め殺したの~。バイトのゴミ出しのどさくさに~」
    「殺った後は、スッキリしたわよねえ」
    「したした。サイコーの気分だったよ」
    「やっぱ女の敵は女ってか。ねえ、乾杯しよっか!」
    「しよしよ~」
    「カンパーイ!」
     シャンパンで満たされた10客のグラスが触れ合う。
    「ああ、こうして話してると、また一般人の女をぶっ殺したくなるわね」
    「殺っちゃおうよ。なんたって私たちは選ばれしDIY六六六人衆レディースなんだしさぁ」
    「殺っちゃお、殺っちゃお……というわけで、あんたたち2,3人連れてきてよ」
     そう言って振り返った女達の周りには、怯えた様子のホストたちがやはり10名ほど待機していた。
    「お願いね。ホストなんだから、女捕まえるのは得意でしょ?」
    「適当に憎たらしい女見繕ってきてね~、よろしく~……あ、捕まえそこなったり、バッくれたりしたら、当然、お・し・お・き、よ~ん!」
     キャハハハ、と、また女たちの自堕落な笑いが響いた。

    ●武蔵坂学園
    「グラン・ギニョール戦争で逃走したジョン・スミスが、ナミダ姫の陣営に加わった事が判明しました」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は、集った灼滅者たちの前を、腕組みしてうろうろと歩き回る。
    「ご存じのように、ジョン・スミスは、DIY殺人事件により多くの六六六人衆を生み出しました。しかし、その六六六人衆たちがちっとも殺し合わない事に業を煮やして、合流に踏み切ったようです」
     六六六人衆は序列をめぐって殺し合う習性があり、生み出された六六六人衆達も多数の殺し合いを経て、一人前に成長する筈……と、ジョン・スミスは目論んでいたのだろう。
     しかし、ランキングマンが灼滅された今、六六六人衆同士で殺し合うシステムそのものが崩壊、新たに生まれた六六六人衆達は同じ境遇の仲間としてチームを組み、自堕落に暮らし始めてしまったのだ。
     10人程度のチームを組んだ六六六人衆達は、一昔前の暴走族や不良グループのように、一般人を支配下において命令、金銭を調達したり、殺しても良さそうな人間を連れてこさせて、戯れに殺してしまうといった行動を行っている。
    「不幸中の幸いというかなんというか……ジョン・スミスがスサノオ勢力に加わった事で、末端であるDIY六六六人衆もスサノオ勢力となった為、予知によって彼らの活動拠点及び状況が判明したわけです」
     彼らは、六六六人衆以外のダークネスの存在も、灼滅者の存在も知らず、自分達は特別な力を与えられた特別な存在なのだと思い込んでいる。
     辛うじて、自分達と同じ立場の六六六人衆が他にもいる事は理解しており、目立ちすぎる行動は避けているが、既に何人もの人間が殺害されるなどの被害が出ている。
    「DIY六六六人衆は、自分たちのおかれた状況がわかっていませんし、油断もしています。灼滅者の存在すら知りません。この隙をつき、彼らのチームを壊滅させてください」
     この班が担当するのは、都内某所のホストクラブをアジトとする『DIY六六六人衆レディース』と名乗っている、10体の女六六六人衆ばかりのチームである。
     彼女らはホストたちを恐怖支配し、ホストクラブで自堕落に過ごしており、時々一般人を攫ってこさせ殺したりもしている。
    「彼女らは、人数は多いですが、ダークネスとしての戦闘力は低く、敵1体につき灼滅者2人で戦えば勝利可能な程度の戦闘力です。ですので、作戦を上手く運べばチームを全滅させることも不可能ではありません」
     六六六人衆たちが油断しているところを不意打ちできるよう、アジトへの侵入方法などが肝心になるだろう。
    「そういうわけですので、彼女らに使役されている状態のホストを利用させてもらうというのはどうでしょうか。レディースに言いつけられ一般女性を拉致するために、ホストたちが店の外に出たところに接触するとか」
     ホストたちにある程度事情を話し、助けてやるから店内への潜入に協力して欲しい、更に戦闘が始まったら素早く逃げて欲しいと予め頼むことができれば、作戦がスムーズに進みそうである。
     ホストたちはレディースに操られているわけではなく、恐怖支配で使われているだけなので、助けてやると言えば喜んで協力してくれるだろう。
    「ホストたちに頼めば、裏口からこっそり入れてもらう等という侵入はもちろん、殺戮用の一般女性のふりをするとか、ホスト仲間として表からも店に入ることができるでしょう。また、レディースたちは灼滅者の存在を知りませんので、弱いダークネスであると偽って店を訪問し、彼女らの仲間にして欲しいと言ってみたりする手も使えそうです」
     他にも色々考えられそうなので、出来るだけレディースたちを油断させ、ふいをつけるように工夫してみよう。
    「ジョン・スミスは、DIY六六六人衆のこの状況を、六六六人衆の尊厳にかかわると憂いているようですね。いっそ『灼滅者に襲わせる』事によって数を減らし、強い個体だけ残ればよいということなのでしょう」
     典は足を止め、渋面を灼滅者たちの方に向けた。
    「ヤツの不遜な目論み通りにさせるわけにはいきません。どうかここは、DIY六六六人衆を全滅させる勢いで、頑張ってください!」


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    リディア・キャメロット(贖罪の刃・d12851)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)

    ■リプレイ

    ●潜
     ドアの向こうから、派手なBGMと女たちの自堕落な嬌声が漏れてくる。
    「全く……」
     明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)はだるそうに。
    「アレね、要は六六六人衆の下っ端も下っ端の雑魚が徒党組んで調子ぶっこいてる、ってカンジねぇ。メンドくさいわねぇ、もう」
     頷くジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)はメガネを外してゴージャスモードを発動し、
    「序列が消滅したいま、秩序無い集団は最早野犬の群れですが、湧いて出るならば叩くまでです」
    「ホントにやっつけてくれるんでしょうね?」
     両手を胸の前で握りしめながら、この店のホストの一人が口を挟む。
    「逃げたはいいけど、後で追い込みかけられたら……」
    「そうならないために、あなた方の協力が必要なのよ」
     城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)がホスト達を安心させるように微笑む。
    「打ち合わせたように、合図が出たらとにかく店から逃げてね」
    「あなた方も被害者ではあるけれど」
     武月・叶流(夜藍に浮かぶ孤月・d04454)が申し訳なさそうに。
    「これ以上の犠牲を出すわけにはいかないからね。よろしく頼むよ」
    「わ、わかりました。殺すために客を誘うなんて、俺らだってイヤっすからッ」
     震えつつも勇気を奮い立たせようとするホスト達。
    「六六六人衆……私の因縁の相手でもあるし、人を簡単に殺そうだなんて許さない。必ず灼滅してあげるわ」
     リディア・キャメロット(贖罪の刃・d12851)が、力強く宣言した。
    「さてと、皆さんの覚悟も整ったようですしー」
     北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)が、ぽんっと手を叩き、
    「こわーいお姉さんたちにお仕置きしますか」
     DIY六六六人衆レディースのアジトの扉を大きく開いた。
    「こんにちはぁ」
     先ず入店したのは、本物のホスト数名と、偽ダークネス役の羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)と叶流である。
     店中央の円形席を占領しているレディースたちが、一斉にこちらをみた。下は大学生くらいから、上は白髪の老婆まで、年齢も境遇も様々な女達だが、共通しているのは殺伐とした気配と、血の臭い。
    「おやぁ?」
     陽桜は女達に臆することなく、
    「ホストのお兄さん達がかっこよかったんで誘われてみたんですけどぉ、お姉様達、もしかしてあたし達と同じなんですぅ?」
     そう言って彼女はドリルを、叶流は金槌を出してみせる。
    「あたしー、つい先日、このドリルでぇ、生意気な後輩殺しちゃったのですぅ」
    「いつも突っ掛かってくるクラスメイト達を、思いっきりこれで殴ったらすぐに静かになりました」
     彼女らの武器と台詞に、レディースは相好を崩し、
    「あらぁ、仲間だったのね。あたくし達より弱そうだけど、子分にしてやらないこともなくてよ」
    「こっちきなよ、座んな」
    「はぁい」
     2人は足取りを弾ませ女達の中に入っていく……と、その時。
    「ちょりーっす……あっれ、なんだ、こんなにお客さん居ンだ」
     裏口から金髪のチャラ男が2人入ってきた。
    「ヘルプのハヅキとジンザでーす。ヨロシクお願いします」
     2人は笑顔をふりまきながら頭を下げる。
    「ちょうどいいわ。この店の子たちお使いで出払ってるの」
    「そう聞いて来たんっすよ」
    「あ、もしかしてお姉さん方VIP? マッジ、超ラッキー! 座っていいっすかー?」
     金髪男子2人も首尾よくレディースの輪に入ることができた。
     葉月は女達に手当たり次第に酒を勧めながら、
    「お姉さん方の武勇伝、スゴいんですってね。俺らにも聞かせてほしいなぁ」
    「いいわよ。アタシはファミレスでバイトしてたんだけど、モンスター常連客をカトラリーで切り刻んで」
    「わたくしは家政婦ですけど、横暴な女主人を庭箒で」
    「ヒモな上に浮気性の亭主の愛人をチェーンでしばき殺してやったのさ」
     女たちの恐ろしい武勇伝に灼滅者達は怖気を震ったが、嫌悪感は表に出さず、
    「まあ素敵。姉さんと呼ばせていただいてもいいですか?」
    「ヒトゴロシとかカッケー! 激熱じゃねっスか!」
     無邪気に賞賛して更に酒を注ぎまくる。そしてジンザはさりげなく、
    「皆さんは、どうやってその力を手に入れたんです?」
     探りを入れてみる。
     どうやってって、と女たちは顔を見合わせ。
    「うーんと、内なる声に導かれたカンジ?」
    「そうそう、ドゥイットユアセルフ、自ら動けってね」
    「あんた達もそうじゃなかった?」
     急に話題を振られて、叶流と陽桜は慌てて。
    「そ、そうでした」
    「あたしたちも同じカンジでー」
    「へぇー、なんにしろすげっスー。もう1杯どうぞー」
     直接ジョン・スミスにつながる情報は、こいつらのようなザコは持っていないようだ、と少し落胆しつつも、ジンザは更に強い酒を勧める。
     場は盛り上がり、レディースと偽ホストと偽ダークネスがバカ騒ぎに興じていると。
     玄関のドアが開き、残りの本物のホストと、4名の灼滅者女子が入ってきた。白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)と千波耶、リディアと瑞穂である。
     引かれて入った客のふりをしている女子たちは、物珍しそうに店の中を見回して……実は戦場の観察……いたが。
    「いいカンジの女たちつれてきたじゃないの」
    「全員美人とか、ムカついて殺しがいがあるわあ」
     女達の剣呑な目つきと、露骨な台詞、そして何より全身から漂う殺気に、たちまち怯え。
    「こっち連れてきなさいよ」
     ホストは女子たちを引きずるようにして、レディースの席へとつれてくる。
    『大人しそうで弱そうな無害な幸薄びしょうじょ』演技中の夜奈が、きゃっと小さく悲鳴を上げた。
    「なにが始まるんスか?」
     葉月がそう尋ねながら、接触テレパスで席についていた真ホストにさりげなく触れ、逃げる準備をするよう促す。真ホストは微かにビクリとしたが、グラスを片づける風で席を離れた。
    「これからこの女共を、皆でなぶり殺しにして楽しむのよう」
     レディースは欲望を露わにした視線で、生け贄の4人を舐め回す。
    「いやっ」
     千波耶が逃げ出したが、ホスト達が追いかけて出口を塞ぎ……実はこれも打ち合わせ通りの演技で、真ホスト達を出口の近場に移動させるためだ。
     席の周りにいた真ホストも、殺戮のためにテーブルを片付けるふりをして、席から離れていく。
    「わぁ殺していいんですか!」
     陽桜と叶流がはしゃいで手をたたく。
    「お願いしますぅ、あたしも一緒に殺させてもらえませんかぁ?」
    「殺しの気持ちよさを、もっと味わいたいんです」
    「ま、参加させてあげてもいいわよ」
    「はい注目ぅー。本日のスペシャルターイム!」
     ジンザが、真ホストが席から離れたのをごまかすように、大げさに手を広げて。
    「やーすげェ。マジパネェ! どうやって始めンすか?」
     そして手近にあった、空のロックグラスをなにげに手に取った。
    「そうねえ、どうやったら楽しめるかしらねえ……」
     怯きって動けない生け贄達をレディースはギラギラと見つめた……その時。
     ガシャン!
     回るミラーボールに、ロックグラスが投げつけられた。

    ●戦
     店内を規則的に彩っていた光が乱れ、ガラスの破片が降り注ぐ。
    「きゃあっ!」
    「何事っ」
     揺れるミラーボールの下、さしものDIYレディースたちも悲鳴を上げる。
     その一瞬を突き、真ホストたちは迅速に店から脱出し。
     ――そして。
     ガガガガッ!
     陽桜と夜奈の射出した鋼の帯が、出口に近い席にいた女子大生風六六六人衆に突き刺さった。千波耶は真ホストの避難状況をみながら殺界形成を発動する。リディアが、
    「私の殺気からは、逃れられないわよ」
     全身から黒々とした殺気を放って女たちの目を眩ませると、
    「ぎゃ」
    「痛っ、なにすんのよッ」
    「私を殴ったのは誰っ」
     混乱の中、女達は誰に攻撃されているのかもわからないようで、隣近所の仲間に掴みかかったりしている。
    「この回し蹴りはサービスだぜ!」
     葉月は混乱をいいことに、数体まとめて竜巻のような蹴りを見舞い、素早く眼鏡をかけたジンザは、
    「この支払いは高くつきますよ、お客さん」
     同列に氷魔法を放った。叶流は前衛の2人と同じ女子大生風にレイザースラストを撃ち込み、啖呵をきる。
    「これがわたしたちの本当の姿なんだよね。あなた達を倒す灼滅者」
     と名乗っても、
    「しゃくめつしゃ?」
     灼滅者や他ダークネス種族の存在どころか、世界の在り方さえ知らない女たちの混乱は治まらない。
    「あたしらのこと殺す殺すって言ってたけどぉ」
     瑞穂はいつものけだるげな調子で。
    「一体どーゆーユカイな方法で殺してくれるのかしらぁ?」
     ターゲットになっている女子大生風に狙い澄ましたバスタービームを撃ち込んだ。
    「ぐあっ」
     女子大生風は肩を打ち抜かれ、ソファの陰にうずくまる。致命傷とはいかないが、かなりの深手ではあるようだ。
    「あんたらグルなの!?」
     仲間が深手を負ったというのに、助けに赴く者はいない。やはりこの女たち、ただ連んでいるだけで、チームワークもへったくれもないようだ。
    「やってやろうじゃないの、何だかわかんないけど、敵ってことよね!?」
     中年主婦風が掃除用ワイパーを出現させた。
    「私らの方が、力も、人数も上よ!」
     だが。
    「そんなこと今頃言ってるようじゃ、遅いんですよ」
     レディースがやっと戦闘準備に入ろうとしている間に、灼滅者たちは迅速に次の攻撃へと移っており。
     バシュッ。
     陽桜の黙示録砲が、愛犬あまおとの斬魔刀と共に、女子大生風に早々と引導を渡した。
    「まずは1体」
     ジンザが小さくカウントする。

    ●滅
     戦闘開始から10分も経つ頃には、レディースの人数は半減していた。
     とはいえ、戦闘力は多少なりとも彼女らの方が上、灼滅者たちもダメージがたまりはじめてはいるのだが……。
    「大丈夫、いけるわよ、敵はロクなヒールを持ってないわ」
     けだるげながら献身的に回復に務める瑞穂の清めの風に、攻撃陣は背中を押され。
    「ジェードゥシカ、顔を、さらして」
     夜奈に命じられたビハインドが顔をさらすと、いずれも闇を抱えた女共、自らのトラウマに一瞬すくんだ隙に、
    「それにチームワークもとれてないわよね」
     千波耶が瑞穂の言葉に同意しながら、着物姿の老婆にComet tailを捻り込み、
    「女が女の敵なんでしょ? じゃあ貴女達敵ばっかね――そんなのは、チームって言わないのよ」
     更にその背後から葉月が飛び出すと。
    「おぉぅのぅれぇ!」
     ホラー映画に出て来そうな老婆は花卉鋏をつきだしたが、それは葉月の腕をかすっただけで。
    「残念。ばあちゃん、のろいよ」
     Cassiopeiaで目映い魔力を叩き込んでトドメを刺した。腕の傷には、即座にあまおとが瞳を光らせる。
     リディアは縛霊手を掲げ、
    「結界形成、敵の動きを封じる力を与えなさい」
     さらなる混乱を女たちにふりまき、
    「この仕打ちは高くつくわよっ!」
     逃げ腰になりながらも悪態を吐く、コンビニの制服姿でメジャーを振り回す女には、
    「請求は武蔵坂学園でつけといてくださいな」
     ジンザがテーブルを踏み台にして、鋭い跳び蹴りを見舞った。
    「経費で落ちるか知りませんけど」
    「ぐわっ」
     ソファの後ろに転げ落ちたコンビニ店員は、メジャーに絡まれながらも叶流が、
    「さぁ、閉店だよ」
     ロケットハンマーの容赦ない一撃で粉砕した。
     すかさず瑞穂の発した清らかな風が、今度は後衛を癒していく。
     灼滅者たちも相当疲れてはいるが、残るレディース達も、前半の混乱で出遅れた上に、バッドステータスが蓄積し、灼滅者以上に追いつめられている様子。
     そして何より。
    「あと3体ぽっちです!」
    「私の背負う十字架よ、敵を焼き払い、その身の動きを封じなさい」
     陽桜とリディアがラストスパートの気合いをこめて、十字架の光線を振りまき、千波耶は、次のターゲットと見定めたプロレスラーのようなチェーン使いの女へと漆黒の毒弾を撃ち込む。そこに夜奈が、チェーンを振り払いながら炎のキックを見舞い、
    「本っ当、お前らみたいなくず相手だと遠慮もいらないし良心が痛まなくていいわ」
     同時に葉月が鋼の帯をぶちこんで、チェーン使いも倒れた。
    「このおおおっ!」
     脇から自棄くそで殴りかかってきた、血塗れの恐ろしい形相の主婦のバールを、ジンザは脚を振り上げて受け、ザクリとその腹をエプロンごと切り裂いた。そこに叶流の影が延び、黒々と敵の全身を喰らって――影の中でまた1体が消えた。
    「これで8体」
     カウントするジンザの脚の傷は、瑞穂のヒーリングライトが素早く癒す。
    「一気に行きましょう!」
     陽桜は威勢良くドリル型のバベルブレイカーを、ソファの陰に隠れている箒使いの家政婦に向けて撃ち込み、千波耶はソファを身軽に飛び越えロッドで殴りつけた。夜奈はジェードゥシカと共に思い切りよくソファを倒して敵の姿を露わにすると、十字架で足をすくって転ばせる。リディアは根気よく混乱のバッドステータスをかけ続け、葉月が、
    「いただきー!」
     黒脊柱に紅いオーラを宿して飛びかかると。
    「くっそお!」
     家政婦は最後の力をふりしぼって箒を振り上げた……が。
    「あまおと!」
     柴犬が機敏に割り込み、盾となった。
    「サンキュッ!」
     葉月はタンッと軽く床に片足をついて体勢を立て直し、箒にかじりついている霊犬の陰から蛇剣を家政婦に叩きつけ、そのエナジーの全てを破壊し、吸収した。
     ――いよいよ、あと1体。
     どこに隠れたか、出入り口には常に注意を払っていたから、逃げ出したわけではあるまいが……と、瑞穂がだるそうな口調で、挑発をかます。
    「ここまでの戦いぶりったら、全くアマチュアだったわね。六六六人衆もすっかり質が落ちたもんだわ」
     すると。
    「うっ!」
     テーブルの下から邪悪な殺気が吹き上がってきて、前衛を包み込んだ。
    「そこか!」
     瑞穂が清めの風で殺気を祓っている間に、ジンザがテーブルを蹴り飛ばす。
     現れたのは、ドライバーを手にした幼稚園ママだった。
    「あたくしたち女が、日頃どんなにストレスを溜めているか、世間は知らなすぎます!」
     ママは立ち上がると、上品な顔を歪めヒステリックに叫んだ。
    「そう、だね。女って、たいへん」
     夜奈が静かに頷き。
    「だからって、殺す、のは、いけない」
     ズバズバと、容赦なく鋼の帯を射出した。陽桜もレイザースラストで続き、リディアは負けじと濃厚な殺気を発する。葉月はロッドで殴りつけ、ジンザは両手をつきだして魔法弾を撃ち込んだ。叶流は金槌を力一杯振り下ろし、ここは勝負どころと、瑞穂も壊れかけのミラーボールが回り続ける天井に、目映い十字架を出現させた。
     そして。
     苦し紛れに、よろりと突き出されたドライバーを、千波耶は悲しげに躱し。
    「……堕ちるのを防げなくて、ごめんなさいね」
      ――最期は、槍の一突き。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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