龍脈封印儀式~初詣、温泉、蕎麦、そしてオコジョ

    「スサノオ勢力が滅びた事で、スサノオ大神の力が失われました。これは、とても良い事なのですが、少しばかり問題が発生してしまいました」
     集った灼滅者たちに、春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は語り始めた。
    「ガイオウガ及びスサノオ大神の力の源は、龍脈と呼ばれる大地の力だったのです」
     龍脈の力は『フォッサマグナ』とも呼ばれ、日本を真っ二つに引き裂く程の力を秘めている。この力を支配した『ガイオウガ』が、旧世代の勝者となり『サイキックハーツ』を引き起こしたのはある意味当然だったと、今となれば納得できる。
    「ところがですね、現在、この『龍脈』は、ナミダ姫が奪った、ブレイズゲートのエネルギーによって活性化されており、このまま制御も使用もせずに放置すれば、自然現象として暴発してしまう危険性が出てきたのです」
     関東大震災と南海トラフ巨大地震と富士山の大噴火が同時に発生するような暴発が予測されるという。
     しかし、この危機に際して、武蔵坂学園で保護していた『ガイオウガの尾』が、龍脈の鎮静化と封印を行いたいと申し出てくれた。
     スサノオは、龍脈たるスサノオ大神の一部である為、龍脈の鎮静化が行われれば、スサノオ残党の大半も同時に消滅させる事ができ、彼らにとっても一石二鳥なのだ。
    「ただ、彼らの力だけでは儀式は行えないのだそうで、灼滅者に儀式を手伝って欲しいとのことで……」
     儀式が行われるのは自然が豊かな地域にある神社で、このチームが担当するのは、長野市戸隠の古刹である。
    「戸隠は神話の舞台ですので、神社が多いんですが、今回の儀式はここがいいそうです」
     典は地図を広げ、山中の神社マークを指した。
    「儀式は『1月1日~1月11日』の間で、地脈の流れをみて行われます。適切なタイミングは、同行するイフリート化したガイオウガの尾が教えてくれるそうです」
     というわけで、スケジュールは、まず余裕をもって戸隠まで移動する(数日近所で宿泊する可能性あり)。
     龍脈の流れのタイミングを見計らって、神社に移動する。
     そしていよいよ神社で儀式を行う。
    「儀式の作法は初詣と一緒です。龍脈上にある神社は、もともと大地の力を鎮護するものでもあるので、神社の作法と儀式の内容はほぼ同じです。そして儀式が成功すると、ななななんと、神社近隣で天然温泉が湧出するんだそうですよ!」
     温泉は、大地の力と繋がる為の接続端子のようなものと考えられる。
    「首尾良く温泉が湧いたら、イフリートと共に温泉に入って、イフリートが大地の力と合一するように補助するところまでが、今回の仕事です」
     イフリートと温泉に浸かることで、灼滅者のサイキックエナジーを大地の力に送り届けることができるのだそうだ。
     また儀式や入浴遂行中は、一般人が迷い込まないように対処したり、大地の力を狙ったダークネスの襲撃に対して警戒する必要もあるだろう。
     その時、ガラリと教室の戸が開いて、黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が、
    「あら、グッドタイミングみたいね」
     顔を覗かせた。そして、
    「さ、マツオちゃん、入って」
     促したのは……体長5、6メートルもありそうな、大きなオコジョ型イフリートであった。ガイオウガの尾の一部がイフリート化したものだ。
     山の妖精と呼ばれるオコジョであるが、ここまでデカイと、やっぱり肉食獣、と思わせる威圧感。牙も結構鋭いし。
     オコジョイフリート・マツオは教室を壊さないように慎重に入室すると、灼滅者たちに頭を下げた。
    「スサノオ、滅ボス、アリガト」
     まずは先日の作戦への礼を述べた。
    「オレ、儀式、ガンバル」
    「ええと、マツオちゃんはね、今回の儀式、すごくやる気なんですって」
     湖太郎が補足をする。
    「自分達が助けられたのは、この儀式の為だったのだ……ってね。それで、二度と大地の力がダークネス組織に利用されないよう、末永く灼滅者達を見守っていきたいと思ってるそうよ」
     こくん、とマツオは頷いて。
    「力、貸シテクレ」
     灼滅者たちも力強く頷きかえした。
    「では面子も揃いましたし、早速準備に入りましょう」
     典は卓上に長野のガイドブックや地図、パンフレットなどを積み上げた。
    「件の神社は山中の雪深い場所にあります。時々地元の方が重機で雪かきしてくれているようですので、雪中行軍とまではいかないでしょうが、やはり雪に対応できるよう準備して行った方がいいでしょうね」
     儀式までの待機場所兼宿泊先は、地域にたくさんあるスキー宿のうちの1軒を貸し切りで手配済み。アットホームなペンションである。滞在が長引くようなら、近場のスキー場で遊ぶ暇もあるかも。
    「あと、せっかく戸隠ですからね、お蕎麦食べたいでしょう?」
     典は1冊の本を取り出し。
    「湖太郎さんに信州蕎麦のガイドブックも預けておきますね!」


    ■リプレイ

    ●戸隠蕎麦
     待機を始めてから数日が経ち、灼滅者たちは緊張感を保ちつつも、それぞれ戸隠での滞在を楽しんでいた。
     そんな日々の、某蕎麦の名店にて。
    「改めて、明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
    「おめでとうございます。年越しはお疲れだったようですし、後で肩でもおもみしましょうか?」
    「いいんですよ、女性にそんな事させるわけにはいきません」
     両手を合わせ、宇介(d03452)と詠子(d01902)は、ゆっくり語り合いながら蕎麦をすする。
     寒い夜は温かい蕎麦が美味しい。自分で作っていないから尚更。
    「そういえば、年越し蕎麦って子供の頃は大晦日からおせちや御馳走を食べているので、お腹いっぱいで、食べていませんでしたわ」
     詠子がしみじみ言うと、宇介はにっこりと。
    「年越しそばって長寿を願う縁起担ぎがよく知られてるんですけど、もう一つ意味があるそうですよ。傍にいたい、ってことなんですけども」

     同じ店で、ポンパドール(d00268)とりね(d14861)も、蕎麦を楽しんでいた。
    「わ、注文までしといてくれたの!? なにからなにまでありがとう!!」
    「こういうお蕎麦の美味しいところでは、冬でも盛り蕎麦だよね。1枚は各自でいただいて、もう1枚は半分こしようよ」
     シャッキリした冷たいお蕎麦を、温かい部屋で食べるしあわせ。

     更に同じ店に、悟(d00662)と想希(d01722)もいたりして。
    「いただきます……まずはざるをそのまま一本食べて。ん、そばのいい香り……」
     想希が幸せそうにほっこり微笑むと、悟も嬉しそうに。
    「そやな。しゅってなるで」
    「そばがきもおいしい。食べてみます?」
    「そばがきってなんや?」
     悟は差出された小丼に興味津々で箸をつける。
    「ぷるんぷるんやな! こっちの蕎麦いなりもぷちっぷちでうまいで! この歯ごたえ斬新! 想希も食うか? あーん!」
     ぱく。
    「ん、出汁が効いてジューシー」
    「やっぱ本場の蕎麦ってちゃうな!」
     仲良く完食して、そば湯とそば茶を味わう2人……と、その時。
     2人のスマホが、同時に着信を知らせた。見れば湖太郎(dn0097)からの、戸隠班メンバーへの同送メッセージである。内容はもちろんマツオからの呼び出し。
     いよいよか、と2人は急いでそば湯を飲み干し、席を立つ。
     奥の席では宇介と詠子も席を離れようとしている。
     会計をしようとした想希を悟が呼び止めた。
    「お土産包んで貰てマツオに美味いもん食わしたろ。あいつも腹が減っては……やろ」
     悟の優しい思いつきに、
    「ええ、喜ぶと思いますよ」
     想希は足を急がせつつも目を細めた。

    「お会計はまかせといてネ!」
    「ありがとう! またゆっくり遊びに来れるといいなぁ」
     ポンパドールとりねも、素早く会計を済ませ、温かい店から雪の夜へと飛びだして……。

    ●儀式
     続々と灼滅者たちが集合しつつある神社の参道に、ポンパドールとりねも到着した。
    「お、おれ神社でちゃんとしたお参りとかしたコトないんだ……! うん、お作法とか聞くとものっそ緊張する。ちょう死にそう」
     緊張と走ってきた動悸で、ポンパドールは引きつった顔をしているが、りねはゆったりと微笑み返し。
    「参拝の作法って聞くと緊張しちゃうよね。ポンちゃん、慌てないでゆっくり私に続いたら大丈夫。任せてね」
     雪を被った階段を上りつつ作法を教わり、ポンパドールは。
    「(お祈りごとは、りねとずっといっしょにいられますように、かなあ)」

     ハリマ(d31336)と樹斉(d28385)は、揃ってばしっと和服で決めて、境内へと足を進めていた。
    「予習してきたから、なんとかなるよね」
    「うん、気負いすぎないようにリラックス大事だよ」
     緊張の面持ちの樹斉に、ハリマは蕎麦で満腹の立派なお腹を撫でながら応える。
    「ミスしても神様への敬意とかあればきっと大丈夫。やり直しだって効くよ」
    「だよねっ。祈りを込めて、神様への敬意を忘れないようにしていけば、大失敗するようなことはないよね!」
     2人は頷き交わして、まずは手水舎へと足を進める。

     明莉(d14267)は、黒の羽織に灰色の袴で正装し鳥居を潜った。クラブへのお土産用の蕎麦の包みを下げている。
    「流石戸隠、雪が深いな」
     積雪に思わず笑みを浮かべ、今まで歩んだ己の道を思い出す。
    「紆余曲折だらけだったけど、それでも、俺は今、ここにいる」
     手水舎で作法通りに身を清め、本殿へと進む。
     賽銭を静かに入れ、二礼二拍手一礼。
     祈るのは、
    「全てのものの平穏な日々を……」
     しんしんと降る雪の音が心を鎮め、きっと全ての想いを受け入れてくれるのだろうと思わせる。

    「わあ、振り袖お似合いです!」
     陽桜(d01490)が、本殿の脇でマツオと共に控えている湖太郎に駆け寄った。
    「お参りの衣装も大事ですよね! 背があるからモデルさんぽくて似合うだろうなぁって思ってたのです!」
    「うふふ、ありがとー、陽桜ちゃんのお着物も可愛いわよう」
    「まずはお参り行ってきます! 二拝二拍手一拝、ですよね。緊張なんてしませんよ?」
     振り袖姿の陽桜は、意気揚々とお参りの列に並ぶ。
     続いて沙月(d12891)も、予習してきた通りに粛々と儀式を進めていた。ダウンジャケットに滑り止めつきの靴と、寒さ対策も万全だ。
     ちらりと本殿脇の深い森に警戒の目を走らせてから、目を閉じ、祈る。
    「(……みんな何事もなく無事に過ごせるように)」

     【桜館】の紅音(d34540)はヒトハ(d37846)と手を繋いで、鳥居の前に立った。
    「神社のお参りは確か、二礼・二拍手・一礼だったかしら? 手を合わせるだけなのはお寺だった筈……」
     と、葉月(d34472)を見ると。
    「日の本の新春の通過儀礼、土地への感謝としてもきっちりと、な」
     葉月は姿勢を正して礼をし、正中は避けて鳥居を潜った。
     ヒトハは、葉月の楚々とした振る舞いに目を見開き。
    「紫縁様の礼儀正しさに驚きましたです。やっぱり姫様らしい方なのです……?」
     美夜古(d34887)も少し驚いた様子で。
    「お前が本当はそういうやつだってのは知ってるけどさ、普段とのギャップが」
    「この地の神を敬う意味でも大事だ。ちゃんとしろよ」
    「はいはい、この場にはこの場の神様いるからな、郷に入ってはなんとやら」
    「あ、ちょっと待って」
     優(d36383)が、鳥居を潜る前にと、殺界形成を発動した。他のメンバーもかけているだろうが、用心するにこしたことはない。
    「神聖な土地で殺気ってのもあれだけど、邪魔者が来るといけないからね」
     一般人だけでなく、ダークネス等からの襲撃も警戒している。儀式が何事もなく終わる様に務めたい。
     桜館のメンバーたちは皆境内に入り、手水舎~本殿へと、葉月に教わりながらそつなく儀式を進めていく。
    「合ってますですかね……?」
     不安そうなヒトハに、大丈夫よ、と微笑みかけてから、紅音は頭を下げ、
    「力が無事にイフリート達に封じられますよう……そして」
     祈る。
    「今年も小さな倖せを積み重ねられますよう」

     鳥居の真ん中は神様の通り道っていうけど、龍脈も鳥居潜ったりするのかしら――などと考えながら【武蔵坂軽音部】の千波耶(d07563)は手水舎で手と口を浄めた。流石にこの時期の水は痛いくらい冷たい。
     続いて、鳥居を前に一礼し敷居を踏まないように注意しつつ、端から境内に入ってきた葉(d02409)も、引き締まった表情で手と口を浄めた。
    「龍脈封印に初詣、どすか……神さまにお祈りという点では、初詣に近いもんがあるんかなぁ」
     可愛らしい手拭いで清めた手を拭いながら呟いたのはまり花(d33326)。
     イチ(d08927)は、作法通りに境内に入れたことにホッとしつつも、もしもに備えて殺界形成を発動し、
    「戸隠、由緒あるところだね……でも、うう、寒いの苦手……」
     ダウンに耳当てマフラーぐるぐるにくろ丸を抱っこしても寒いようで、
    「マツオ君あったかそう……近く居ていい?」
     本殿の脇に神妙に控えているイフリートにすりよっていく……が、
    「儀式が先だ。ここばかりは、敬虔な気持ちで厳かに、だぜ」
     葉月(d19495)に腕を引かれお参りの列に戻される。
     拝殿前に出たところで、部長の錠(d01615)が、同行の部員数分の五円玉を賽銭箱に入れ、自前でもってきた者も続いて投入し。
     息を合わせて、二拝二拍手一拝。
     時生(d10592)は、
    「一番大切なのは気持ちよ、気持ち」
     心をこめて祈る。
    「(今年も皆と笑い合える日々でありますように……その為の努力は惜しまないから、どうか)」
     並んで手を合わせる仲間達も。
    「(龍脈が静まって平穏な日々が訪れますように)」
    「(無事新しい年を迎えられ、ここに皆と来られたことにただ感謝を)」
    「(神頼みはしねェ主義だが、恵まれた縁に感謝してるってことは伝えときてェ……)」
    「(今年も、けいおんの皆はんと仲良う過ごせはりますように……)」
     皆、想うのは互いのこと――。

     【猫帝国】の仁恵(d10512)はお参りの列の殿に息を切らして駆けつけた。
    「道中すげー雪でしたね」
     雪まみれなのは道中のせいだけでなく、待ち時間をスキー三昧で過ごしていたからでもある。
    「さ、いきますよ」
     蔵乃祐(d06549)の先導で、境内前でまずは一礼。
    「入口は右足で跨ぐ。神様の通り路を避けて鳥居は右端から」
     びしっと指導が入る。
     もちろん手水舎でもぬかりない。
    「超丁寧にご挨拶するんですね……」
     仁恵はおっかなびっくりであるが、光(d01710)は、
    「イフリートって、なんかダークネスなのか大地の精霊なのかなんなのか良く分かんない人たちだなあ……ちめたっ」
     境内の雰囲気のせいか思索にふけり始めた。
     いよいよ順番がきて、五円玉をお賽銭箱に入れて鈴を鳴らし二回おじぎ。両手で大きく二回拍手。祈り終えたら礼。
     光は、
    「まずは、今年一年の五穀豊穣をお祈りしよう。なんだかんだで平穏に立ち位置が決められたのならば、彼らは勝ち組であるのかもしれないなあ……」
     お参りしつつも思索が止まらない。
     こうしてしっかりと灼滅者たちは儀式を終え、いよいよマツオが本殿の裏側へと移動していく。儀式により、充分な力が得られたということなのであろう。
     裏手の雪をかぶった岩場を少し登ると、注連縄が張られた大きな一枚岩があった。この神社の元々のご神体は戸隠山そのものであるが、この岩を象徴として祀っているようだ。
     マツオは燃える金色の瞳と、つるりとした質感の頭を下げ、ぴたりと額を岩に着け――。
    『――出デヨ、龍』
     岩が一瞬燃え上がり、そして。
     ……シュワワァァァァ。
     岩の根元から大量の温泉が噴き出した。
    「わあ。出た!」
    「おぉ……ありがたや、ありがたや……」
     まり花は噴き出すお湯を拝み、
    「さあ、体冷える前に入ろうぜ!」
     葉月(d19495)は、そういや軽音部員と混浴って始めてだな、と思いつつ、皆を促した。

    ●炎獣
     マツオと灼滅者のパワーで岩場を切り開き、全員が入れる大きさの野天風呂はすぐに出来た。湯量も豊富で、温度も適当、正にサイコーの源泉掛け流しである。
    「寒中水泳とかそういうのでなくのんびりして心を穏やかに纏めるのもいいっすよねー」
     根っから体育会系のハリマも、お湯に溶けている。
    「警戒は外さないけど、リラックスりらーっくす」
     樹斉も、一応周囲に目を配ってはいるがでろでろである。
    「僕も含めて大勢ESP持ってきてるし……だいじょぶだよね?」
     ……と。
     バッシャーン!
     もうもうたる湯気の向こうで派手な飛沫が上がった。
    「いっくーん!?」
    「ヒトハぁぁ?」
     ヒトハが足を滑らせて転んだらしく、桜館のメンバーが慌てている。
     一方。
    「めちゃめちゃ上機嫌じゃねーですか。湧いたばかりでルールの無い温泉なんて」
     仁恵は、ジュースをお盆に浮かべて飲む夢を叶えまくっていた。
     蔵乃祐は何も言わないが、懐メロの鼻歌が聞こえてくる。
     光ももう思索にふけることもなく。
    「ぬくいのすき……」
    「でもこれ出る時地獄ですよ」
     確かに。
    「……あ、マツオくん、めっちゃ細長くなってる」
     その浅瀬に細長―く横たわっているマツオはというと。
    「もふもふ気持ちいいです……」
    「うわあ……大きくて綺麗な毛並みですね」
     水着姿の陽桜と沙月に首のあたりをうっとりとなで回されている。
     サービスなのか、マツオ的にも灼滅者と触れ合いたいのか、体表の炎の勢いは弱く、その表情は穏やかだ。
     背中の方では軽音の面々が。
    「マツオはん、お背中お流ししまひょか?」
    「踏み台使って全身キレイにね……ちょっともふもふもさせてもらっていい?」
    「身体洗うなら、みんなでやった方がいいね」
    「マツオくん、流すのに背中登ってもいい?」
    「ふふ、男性陣たら、水着なんだから照れること無いのに。もっと肉体美を誇っても良いのよ?」
    「皆からだがしっかりしてて、見ててどきどきするねん……」
    「別に、己の体に恥じらいは無ェよ! ……マツオ、痒いトコロとかねェの? 俺のゴッドフィンガーでヘヴンを体感させてやっぜ」
     葉は、よってたかって賑やかに洗われたりもふられてたりするマツオをしみじみともふり。
    「これがオコジョ……これが雪の妖精……でも名前がマツオ……。なんかいろいろ裏切られた気すっけど、もふもふだから許す許すよ……龍脈と合一する尾のヤツらは、まるで神様にでもなるみたいだな。しっかり磨いてやっから。ちゃんと見守っててくれよ」
     雪は白く降り積もり、空気はキンと冷たい。
     けれどお湯は温かく、地球の温もりに直接包まれている心地になる。
     ――今、自分たちは確かに、地球とつながっているという実感。
     千波耶がうっとりと目を閉じているイフリートに。
    「マツオちゃん、お風呂上がりのコーヒー牛乳って飲んだことある? 絶対外せないアイテムよ……え、どうしたの?」
     瓶を片手に話しかけた、その時。
     突然マツオが身を起こし、背中に上っていた灼滅者たちをふるい落とした。
    『……イカネバ』
     ――いよいよ、時と力が満ちたようだ。
     イフリートは、瞬時に緊張した灼滅者たちを優しい眼差しで見回した。
    『龍ト共ニ、オレハイク』
     温泉の水流が変わった。激しく噴き出していた湯が、今度は地面に吸い込まれ始めている。
    『チカラヲ、真心ヲ、アリガトウ……ズット、見守ッテイルカラナ。オマエタチノコト』
     ザブリ。
    「マツオ!」
    「マツオちゃん!」
     笑顔とも見える表情で、イフリートは渦を巻いて吸い込まれていく湯に身を投じた。
     灼滅者たちは流れに巻き込まれないようにするのが精一杯だ。
    「マツオー!」
     みるみるうちに湯は地中へと還っていき……。
     最後の炎の揺らめきを残し、炎の獣も龍と共に還ったのであった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年1月11日
    難度:簡単
    参加:26人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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