「みんな、寒い中、よく来てくれたな」
煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)が武蔵坂学園の仲間達を迎えたのは、青森県弘前市・某城の公園である。もちろん周囲は、一面の雪景色。
「ここでは明夜から雪灯籠祭が催される。今日は、その準備たけなわってところだ」
見回せば、雪が降り積もった広い公園のそこかしこで、大小様々な雪灯籠をはじめ、ミニかまくらや歴史的建造物を模した雪像などを、大勢の人々が制作中である。明日より開催ということで、殆どが仕上げの段階に入っている。
これら多くの灯籠などに灯りの入った夜の光景は、さぞかし美しいことだろう。その幽玄な光景と北国の冬を味わうために、毎年多くの観光客が訪れる。
「この祭では、ここ数年、面白い都市伝説が囁かれててな。人気の切れた真夜中、雪灯籠が合体した巨大ロボットが現れる、ってんだけど」
ほぼ笑い話のようにして、地元の人々に膾炙されてきた……のだが。
「……まさか」
仲間のひとりが思わずというように呟くと、燈は真顔で頷いて。
「ああ、今年はマジで出ちまったんだ」
彼は昨夜公園に張り込んで、合体ロボットを目撃したという。
張り込みはさぞかし寒かったであろう。
「合体ロボが現れたのは、あのあたり」
燈が指さしたのは奥まった広場。桜の時期には屋台などが並ぶ場所であるが、今は雪灯籠が円に並べられている。燈が灯されれば、正にインスタ映えする絶好の撮影場所になりそうだ。
「あの灯籠のうち数台が雪面から飛びだして、灯籠ロボットへと合体したんだ」
合体灯籠ロボットはぎくしゃくと動きだし、ストレッチやランニングなど、本格的に動き出す前のウォーミングアップのようなことをひとしきりした後、何事もなかったように分解して元の位置に戻ったという。
「広場の灯籠が幾つか壊れているだろ、あれはロボットが動き回ったせいだぜ」
言われて見れば、数台の倒れたり欠けたりしている灯籠を、祭のスタッフが慌てた様子で修理している。
「昨夜の被害はこんなもんで済んだが、どうも今夜はもっと大暴れしやがりそうな気がするんだ」
準備運動もしていたことだし。
「合体したロボットは全長7メートルほど。小さめの灯籠を、武器っぽく振り回したりもしてやがったし、雪とか氷系のサイキックを使ってきそうな感じもした」
燈は真剣な顔で仲間たちを見つめ。
「雪灯籠祭を明日無事に開催するために、今夜、俺たちでロボットをやっつけちまわないか」
そしてぐっと拳を握りしめて。
「そして明日の夜には、自分たちの手で守った祭を、思う存分楽しもうぜ!」
参加者 | |
---|---|
影道・惡人(シャドウアクト・d00898) |
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389) |
エミーリア・ソイニンヴァーラ(おひさま笑顔・d02818) |
エミリオ・カリベ(星空と本の魔法使い・d04722) |
コルト・トルターニャ(魔女・d09182) |
仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159) |
煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378) |
●雪の夜に
雪がしんしんと降り積もる、夜更けの某城公園。
気温もしんしんと下がり続けている。しかし津軽名物視界0メートルの猛烈な地吹雪に見舞われていないだけラッキーといえよう。
灼滅者たちは、噂の灯籠が立つ広場が見える桜並木に隠れ、ターゲットの出現を待ちわびている。それぞれがしっかり雪や寒さ対策をしてきたので、凍えるほどではないが、やはりじっとっしているとどんどん体が冷えてくる。
雪灯籠は1台がそれぞれ1.5メートルほどの高さで、20台ほどが整然と円形に並べられている。灯は入っていないが、街灯の光にぼんやりと照らされ、雪が静かに降り積もっていくその姿も美しい。
雪が音を吸収するのか、とても静かだ。
「雪像と言っても、色々あるものね。美しい芸術的なの、アニメだったりコミカルなの、堅実な建造物に……」
白い息を吐きながら、もこもこ魔女装束のコルト・トルターニャ(魔女・d09182)は仲間たちに囁いた。
「ロボットだっていてもおかしくないわね? 無論、静止してる方が最高よ! 立派で素敵な灯籠城オブジェにしてあげるわ! うふふふ……」
ぬくぬくお洋服に身を包んだエミーリア・ソイニンヴァーラ(おひさま笑顔・d02818)は、今回の都市伝説の発見者である煌燥・燈(ハローアンドグッバイ・d33378)を見上げ。
「わふっ、ロボットさん、準備運動してたんですよね?」
燈が頷くと、
「ロボさん、なにがしたいのでしょうか……アスリートさん、なのかなあ?」
首を傾げる。
エミリオ・カリベ(星空と本の魔法使い・d04722)は、ふふ、とちょっと嬉しそうな笑いを漏らし。
「全長7メートルの巨大合体ロボット……何ていうか好きな人が見たら大喜びしそうな都市伝説だよね?」
しかし華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)はきっぱりと。
「どこの誰が口の端に載せた戯言かは知りませんが、そんなものから生まれた存在は、北風に吹かれて消えるべきです」
彼女にべったりくっついている仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)は、厳しい表情の恋人をなだめるように。
「いやでも、何かカッコよさそうですよ? 全長7メートルは、イメージ沸きにくいですが」
と、その時。
ギシッ、ゴゴゴゴ……。
突如広場の方から、きしむような地鳴りが鳴り響いた。
地震!? それとも来たか!? と灼滅者たちがそちらを注視する暇もなく。
バシュッ、ズボッ、ドガッ!
10台ほどの灯籠が、まるでミサイルかロケットのような勢いで地面から発射された。
「!?」
そして広場の真ん中に集まったと思ったら。
ガシュン、チュイン、ウィィィン……。
雪で出来てるくせに妙に機械的な音を立てながら、みるみる合体していき……。
「ろ、ロボットになっちゃったーーー!」
ロボットは、ギシギシときしみつつも、全身を確認するように手足を動かし始めた。昨夜は無かったことだが、各部位を形成している灯籠にそれぞれ灯が入っている。
「おい」
そこに唐突に姿を現したのは影道・惡人(シャドウアクト・d00898)。闇纏いを使って、周辺警戒をしていたのだ。
惡人は、準備運動めいた動きをしている合体雪灯籠ロボットを顎で指し。
「もう良いだろ……殺っちまおうぜ」
●合体雪灯籠ロボット
雪の中へ飛び出して行くので、全く気づかれずに不意打ちとはいかなかったが、それでも灼滅者たちは先手を取ることができた。
足下もしっかり雪対応の準備をしてきたので、パウダースノーに足を取られることもない。
「感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
が、モットーの惡人は躊躇なく鋼の帯を射出し、
「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
紅緋はWOKシールド『コート・ドール』を掲げて前衛に盾を展開すると、
「さあ、コルトさん。思いっきり氷攻撃をお願いしますよ」
やる気満々の仲間に呼びかける。
「何がしたいか分からないですがこれ以上周囲に被害を出させるわけにはいかないのです! 一気にいくですよーっ」
聖也は勢い良く敵の前に踊り出たが、その巨大さに思わず怯み、
「し、しかしこれは結構骨が折れそうなのです……! 最初は影喰らいで様子見の一撃を!」
まずは影の海豚を襲いかからせた。
エミーリアは胸元にスートを浮かび上がらせて、自らの力を高めている。彼女はなにやら胸に期すものがあるようで、今夜はロボットに真っ向から素手で立ち向かうと心に決めているようなのだ。
コルトは瞳を光らせて命中率を高め、燈のガンナイフから発射された弾丸は、確実にロボットの胸をとらえた。
そして雪煙が上がる中、
「ん、んー……ライトアップされた巨大ロボットとか何だかSFX映画みたいな……あ、はは」
エミリオがロッドを振り上げて召還した稲妻が、雪起こしの雷よろしく目映くロボットを貫く。
確かに、ロボットに灯る燈に加え、灼滅者たちが用意したライトも煌々と照らされ、雪の反射も相まって、まるでライトアップのようにキラキラである。
ギシィ。
ロボットは頭部に点った灯を怒りの現れのように強く光らせながら、灼滅者達の方を向いたが、
「勝ちゃ何でもいいんだよ」
やらせるかとばかりに、惡人が素早くガトリングガンの砲身を上げて炎を放射した。そのめらめらと燃えさかる炎をものともせず飛び込んでいったのは紅緋。自分にロボットの注意を向けようと、シールドを思いっきり振り上げる……が、それより一瞬早く、
「この一撃でえーっ!」
勇み立つ聖也がロッドでの強烈な一撃を見舞っていた。自慢の一撃は強烈で、二の腕が一部ボロッと欠けたが、ロボットは思いの外速い動きをみせ――合体直後に比べると、徐々に動きがよくなってきているようで――聖也の方を向き。
「こちらを向くのです!」
紅緋の盾での一発も意に介せず、
「ぎゃー!」
太い腕で聖也を殴り転がした。
聖也はごろごろ転がり、雪だるま状態。勢い余ってミニかまくらを幾つか壊してしまったが、今は構っている暇はない。
雪塗れの聖也には、
「援護するよ……trueno!」
エミリオが即座に癒しの光を浴びせる。
「え、援護助かるです……」
そこに、
「エミリオくんどいて! そいつころせない!」
回復中のメディックを押しのける勢いで飛び出してきたのはエミーリア。
「いつもいつもわたしを雪像にする、コルトお姉ちゃんのばかー!」
拳に八つ当たりっぽい万感の思いを込めて殴りかかっていく。雪灯籠ロボを見ていると、事ある毎に雪像や石像にされる自分を『ほーふつ』とさせられるらしい。
「エミーリア先輩、無茶しちゃ……ぇ? ぇ?」
おろおろするエミリオだが、名指しされたコルトは、回復成った聖也を見下ろし。
「中々見事な雪だるまね……ずっとこのままでもよくてよ」
どこまで雪像好きなのか。
なのでもちろんロボットにも。
「ガチガチに凍らせてあげる!」
挨拶代わりとばかりに氷魔法を放った。
ピキン、と一瞬凍り付いたロボットに、今度は燈が掌から炎の奔流を見舞い。
ジュワー……。
ロボットの全身が、雪と氷が溶ける湯気にもうもうと包まれる。
●氷と炎と
灼滅者たちの温度差攻撃に見舞われて、数分後にはロボットの全身は、あちこち欠けたり崩れたり、角角も溶けてエッジが丸くなってきていた。
だが、そんな情けない姿でもロボットの戦意は衰えておらず。
ゴオオオッ!
「うわあ!」
雪灯籠(小)から放たれた猛烈な地吹雪が後衛を襲った。
かろうじて紅緋に庇われたエミリオは、
「あ、ありがとう、今傷を治すね紅緋先輩」
癒しの光を向けようとしたが、
「私より、彼を」
紅緋は自己回復しながら、雪まみれのまま次の攻撃に出ようとしている惡人を指した。
「あっ、惡人先輩、先に回復しなくちゃ!」
「うるせー、なもん知るか」
それでもエミリオによる回復の光を浴びながら、惡人は鋭くレイザースラストを放つ。
「お返しです!」
続いて聖也がロッドを掲げて稲妻を呼び出し、エミーリアは拳に黒々とトラウマを宿らせて殴りかかる。コルトは崩れかけているロボットの膝関節をナイフで容赦なくえぐり、燈がガンナイフから撃ち込んだ弾丸は、頭部の灯籠の屋根部分を吹き飛ばす……と。
「うおっ」
ロボットは腕を闇雲に振り回し、灯籠(小)で燈を薙ぎ払った。
しかしすかさず背後に回り込んでいた惡人のガトリングガンの炎が、形の崩れかけている尻をめらめらと炙り、目一杯魔力を込めた聖也の杖の一撃は、武器を持つ手首を爆破した。
畳みかけるように、
「七不思議奇譚、髑髏迷宮……」
癒しの光を浴びながら、燈が七不思議を唱えると。
ガタガタ……プスッ。
惑ったようにロボットの動きが止まり。
……ボスッ。
片腕が肩から外れ、膝が折れたかのように巨体が跪いた。
「――今ですっ」
ここぞ勝負処と判断した紅緋が、すかさず鬼の拳を握りしめて飛びかかっていくと、それに呼応してエミーリアも、
「わふっ、どかーんっていくですよ!」
同じく拳に鬼の力を宿らせて、雪を蹴ってジャンプした。
ボグッ!!
2人分の強烈なパンチは、ロボットの首を粉砕し。
同時に、
「コルト先輩、一気に凍らせちゃおう! ……muerte por congelacio`n!」
「貴方の雄々しきその姿、美しき氷像に留めてあげるわ! フリージング! デス!」
雪の地面に箒で描かれた大きな魔法陣から、エミリオとコルトの2人分の氷魔法が、まるで巨大な霜柱のように立ち上がり……。
ビシリとロボットを凍結させた……と思ったら。
ゴオオオオッ……!
「!?」
一段と猛烈な地吹雪が辺りを覆い尽くし。
その一陣の風雪が去った後には――整然と並ぶ美しい雪灯籠と、冬の雪国の静かな夜が戻ってきたのであった。
●雪灯籠祭
そして立派に任務を果たした次の日の夜は、いよいよ雪灯籠祭りの開幕である。
たくさんの雪灯籠や雪像、ミニかまくらに灯が入れられ、公園の外から見てもすでにムード満点で、灼滅者たちの期待は高まる。集まった大勢の一般人たちも、今夜も小雪がちらついているが、寒さなど意に介していないように上気した表情をしている。
祭りの入場口までくると、マイペースでシャイな惡人は、
「んじゃ、俺は別行動で。後はよろしく」
チームメイトたちからひとり離れて、さっさと公園内へと入っていった。ひとりのんびり祭を楽しむつもりなようで、
「どれ、祭りだ……どっから行くかな。先ずは屋台でなんか温けぇもん腹入れるか」
早速屋台を物色しはじめる。
あとのメンバーは連れだって祭会場へと入り、雪の芸術品を充実した気分で見て回る。
「冷たい世界の真っ白な灯り、可愛いわ! 詫び寂びだわ!」
コルトは感激のあまりなのか、何故か昨夜倒したロボットのミニチュアを雪で作り始めた。
「寒いので、熱々のたこ焼きなんか食べたいですね」
紅緋は美味しそうなたこ焼き屋台を見つけて、焼きたてを盛りつけてもらった。しっかり大ぶりなタコが入っており、外カリ中ふわである。
「はい、あーん」
まずはデート気分でぺったりくっついている聖也に1つ。それから、雪景色に大喜びで『犬さん喜び庭駆け回る』状態ではしゃぎまわっているエミーリアに。それから、先に物産館に寄って恋人へのおみやげを買ったらしく、大きな荷物をぶら下げているエミリオにも1つ。
燈は、そんな仲間たちを、そして自分たちが守り抜いた祭を、温かい甘酒をすすりながら笑顔で見守っている。
……と、元気に走り回っていたエミーリアが、ふと浮かない表情になって立ち止まり。
「むしゃくしゃして、昨夜のロボットさんに八つ当たりしてしまったことだけは、反省なのです」
冬囲いの菰が巻いてある大きな桜の木に、反省するお猿さんのポーズでもたれかかった。
で、そのタイミングで現れたのは、やはりコルト。
「あっ、エミーリア良いわね。そうしてもたれかかってる姿、魔法で凍った雪の像にしてあげる!」
すかさずフリージングデスを発動され、
「わ、わふっ!?」
カチーン。
エミーリアは、逃げる間もなく今回も雪像にされてしまった。
そこに、
「記念写真を撮ろうよー!」
件の雪灯籠の広場の、お城がバックに写り込む場所で、エミリオが皆を呼んだ。
仲間たちが嬉しそうに集まったところに、
「うふふ、エミーも運んできたわよ」
コルトがエミーリアの雪像を軽々と運んできて。
「あれー? エミーリアさんそっくりの雪像だぁ。リアルですねー!」
聖也は目を丸くしているが、
「違うよ聖也、コルト先輩がまた……」
エミリオがため息をついて雪像にキュアをかけた。
じゅわ~~。
「わふ~、た、助かったです……」
溶けかけのエミーリアに、エミリオは。
「えと? エミーリア先輩寒くない? お汁粉食べる?」
そっと暖かい紙コップを手渡すのであった。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年1月20日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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