民間活動~岡山獅子舞怪人は、かじり足りない

    ●岡山県、某ショッピングセンターにて
     岡山の某町では、獅子舞がとても盛んなのだそうである。
     どのくらい盛んかというと、各町内会が獅子頭を持っていたり、地域のマスコットキャラクターがお獅子だったりするくらい。
     とはいえ、このご時世、後継者難やライフスタイルの変化などで、ご多分に漏れず衰退傾向は否めないようで。
     というわけで、もう2月だというのに……。
    「かじり足りないぞううう!」
     町で最も人が集まっていると見られるショッピングセンターの広場に、ダミ声で吠える3人の獅子舞ヘッドの男が現れてしまった。もちろん背中には唐草模様の風呂敷マント。
    「今年の正月には、100人の頭もかじれなかったー! これっぽっちのかじかじじゃ世界征服にはほど遠いわー!!」
     こやつら正月の頭かじかじの量が足りなかったことが、いたくご不満らしい。
    「おいっ、そこの町民!」
    「オレっすか?」
     獅子男は通りすがりの一般男性を呼び止めた。
    「お前、今年の正月、お獅子に頭かじられたか!?」
    「あ、そーいえば囓られてないなあ。正月は旅行に行ってたんでー」
    「なんだとー! 町民にあるまじき行い!! そこへ直れ! わしらが今からかじってやる!」
    「あ、そっすか。時期遅れだけど縁起物だし、お願いしよっかな」
     かじかじ。かじかじ。かじかじ。
    「いてーっ、何すんですか、3人とも顎力強すぎっすよ! 獅子舞のかじかじは基本甘噛みでしょ!? うわっ、血出てるっ!」
    「うるさいわー! 正月にきちんとかじかじされないお前らが悪い!! 今から全員かじりまくってやるから、覚悟しろ!」
     3人の獅子男は男性を突き放すと、運悪く広場に居合わせてしまった町民たちを、鬼ごっこよろしく追いかけ始めた。

    ●武蔵坂学園
    「民間活動に相応しいご当地怪人を、珠音さんが見つけてきてくれまして、事件を予知することができました」
     と、春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は、傍らの鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)に、発言を促した。
     珠音は頷いて。
    「私が見つけたのは、岡山の獅子舞怪人トリオだよ」
     この怪人共、正月に人の頭をかじり足りなかった鬱憤を晴らすため、今頃になってショッピングセンターで暴れることが予知されたという。
    「今から急いで行けば、獅子舞怪人が一般人を追っかけ回してるところに到着できそうなんだよ」
     現場はちょっとしたパニック状態になっていると思われるが、
    「ヒーローっぽく啖呵切って格好良く登場すれば、怪人と一般人たちの注目を集めることができるんじゃないかと思うんだよ」
     注目を集め、場が鎮まった瞬間に、怪人に捕まっている、あるいはかじられている一般人をすかさず助けだそう。また、居合わせた人々も、直接被害の及ばない広場回りの店内などに入らせる等々指示を出し、戦いのギャラリーになってもらうこともできるかもしれない。
    「ヒーローっぽくっていうのは、現場のパニックを収めるためってのもあるんですが、もうひとつ」
     と、典が代わって。
    「獅子舞トリオは暴走中ですが、元々この町における獅子舞ってのは、大事な伝統芸能であり、愛されキャラなわけですよ。ですので町民に、怪人よりも皆さんが正義の味方に見えるよう工夫が必要なのです」
     怪人は、彼らにとって大事な存在である町民たちを傷つけるつもりはない。せいぜい力が入りすぎて、囓った頭にかすり傷をつけてしまったり、怖い顔で追いかけて転ばせてしまったりする程度だ。
     だがやはり一般人にケガはさせたくないし、獅子舞のイメージを無駄に悪くするのもいかがなものか。であるし。
    「怪人は灼滅……が基本ではありますが、目撃者となる町民の印象を大事にするならば、懲らしめつつ説教して、ちょっとでも改心させて撃退。ってのもいいかもしれませんね」
     獅子舞を目の前で灼滅されたら、胸を痛める町民もいるかもしれないし。
    「獅子舞トリオの攻撃は、かじかじの他、ご当地怪人らしいサイキックを使ってくると思われます」
     シャウトも使うようだ。
    「怪人各個体の力はさほどのものではありませんが、今回は民間活動も兼ねていますから、そちらもぜひ意識して頂きたいです」
     バベルの鎖によって、都市伝説やダークネス事件は『過剰に伝播しない』という特性がある。
     しかし、直接目にした人間は話が別である。直接事件を目にすると、それを事実として認識してくれるのだ。
     今回は幸いにして、賑わうショッピングセンターが現場である。多くのギャラリーに恵まれるだろう。
     多くの一般人に事件を直接目撃してもらう事で、その認識を変えていくのが『民間活動』の主軸となるので、可能な範囲で目撃者を増やしていこう。
    「相手はご当地怪人ですから、灼滅者が一般人の味方に見えるよう、民間活動は一工夫必要となります。しかも獅子舞が相手ということですし、正義の味方風演出もぜひ頑張ってくださいね!」


    参加者
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    夏木・兎衣(うさぎのおもちゃ・d02853)
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    四軒家・綴(二十四時間ヘルメット系一般人・d37571)
    秋麻音・軽(虚想・d37824)
    榎・未知(浅紅色の詩・d37844)

    ■リプレイ

    ●恐怖の獅子舞
    「こらまてー、かじらせろー! かじかじ」
    「きゃあ、勘弁してくださいー!」
    「町民ならおとなしくかじられろー! かじかじ」
    「お願いです、この子だけは勘弁してくださいー!」
    「無く子はいねがー。かじかじ」
    「いい子にしますからあ~、ぎゃあ、ママ、痛いよおお」
     獅子舞トリオの暴走により、ショッピングセンターの広場は阿鼻叫喚の様相を呈している。その騒ぎたるや、何か他地域の伝統行事も混じってんでないのというくらいである。
     警備員などはまだ駆けつけていないが、一般の人々では獅子舞の暴走を止めることは叶わないであろう……と、そこに。
    「「待てィッ!」」
     突然高いところから凛と声が響いた。
     逃げ回る町民も、それを追いかける獅子舞トリオも、思わず声の方を見上げると、広場を囲むアーケードの上に、2人の若者の姿が。
    「一般市民に迷惑をかける獅子舞など言語道断。今からでも落ち着いて優しく齧る気は無いか?」
     キリッとお獅子に向けて問いただすその姿、逆光に照らされ妙にカッコイイカンジ。
    「な、なんじゃお前らは」
    「余所者につべこべ言われる筋合いはないわ!」
     お獅子は鼻の穴を膨らませて、若者達……平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)と、地元岡山でチャージして元気一杯の四軒家・綴(二十四時間ヘルメット系一般人・d37571)に向けて言い返す。
    「止めぬか……ならば仕方ない」
     2人は、スッとカードを太陽に掲げ、
    「晴天ッ! 機装ッ!」
    「宣誓ッ!」
     叫びと共に閃光に包まれたかと思ったら、2人共がいかにもな戦闘スーツに変身した。わあっ、と居合わせた男児たちから歓声が上がる。
    「ここは日本原初の英雄誕、桃太郎発祥の地……人に仇なす者あらばッ! 演じて見せようッ! 獅子退治ッ!!」
    「日本国民の平和と安全を守る戦士、キャプテンOD! 参上ッ!」
    「我ら灼滅者が貴様達を止めるッ!」
    「さあ、迷惑怪人には拳でお説教タイムだ! 行くぞォ!」
     2人は同時に屋根を蹴ると、高々と飛び上がり、
    「ていやーーッ!」
     ポカンと上を見上げていたお獅子の頭を蹴りつけた……のは和守。
    「グェーッ!」
     あと1名は着地失敗してコケているのはお約束である。
     それはともかく、いきなり蹴られた獅子舞トリオは当然いきりたつ。
    「いてえじゃねえか、何すんだいきなり!」
    「やる気かお前ら!」
    「突然現れて正義の味方面しやがって、ムカツクんだよ!」
     ところで獅子舞トリオ、頭の造りや衣装はオソロイだがそれぞれ顔色が、赤、黒、金である。
     ……と、そこに。
    「ふっ、正義か……」
     豪奢なマントを冬風にエレガントに翻して現れたのは。
    「オレは正義など信じちゃいねえが、お前らのやり口は許せねえ」
     蒼いアーマーを身に纏い、ダークヒーロー風に薄暗さを漂わせた七瀬・麗治(悪魔騎士・d19825)。
     そして、
    「ええ、他人をカジカジしちゃうような子は少しお仕置きが必要ですね?」
     ダイナマイトモードを使い、やんちゃが過ぎる子に雷をおっことそうとしている鬼母の迫力バリバリの神凪・燐(伊邪那美・d06868)も登場。
     更に。
     カツ、カツ、カツ。
     後方から現れ、ハイヒールを打ち鳴らし町民達を庇うように立ちはだかった、これみよがしな美脚のミニスカナースは、秋麻音・軽(虚想・d37824)。
    「安心しろ、私は癒しを与える為にここにいる……後ろへ下がれ。これからあの荒ぶった獅子舞の心も癒やさねばならんからな」
     ギターを手に堂々と仁王立ちし、台詞も格好良いしプリンセスモードまで使ってるのに、微妙に恥ずかしそう。近年、岡山が地域医療の充実を推進していることから、白衣のナース姿を選んだということらしいのだが。
     とりあえず、次々現れる個性的なヒーローに、広場は『ぽかーん』的な変な静寂に包まれている。それを幸いとばかりに、避難誘導係がサポート隊と共に動き出していた。
     榎・未知(浅紅色の詩・d37844)は割り込みヴォイスを使って、町民を広場周りのガラス張りの店に入るよう誘導し、
    「こっちなら安全だよ、ついてきてー」
    「お店に入って。なるべくものかげ。出てきちゃダメ」
     夏木・兎衣(うさぎのおもちゃ・d02853)と鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)は仲良くラブフェロモンを利用して、
    「私らは味方だよ。信じて?」
     無垢な子供ぶりっこし、町民のアイドルであったはずの(?)獅子舞の暴虐と事態の急変に困惑し怯える町民の手を引く。
     サポート隊のメンバーたちも積極的に町民と関わり、避難誘導している。
    「この場はあの方々に任せて! 私も仲間です」
     古海・真琴(占術魔少女・d00740)は明るい笑顔で町民たちを励まし、ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は、
    「此の力の事、彼らの事、全て後程説明します。今は、彼らを応援してやって下さい」
     と、不安そうな人を宥めている。
     志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)や紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)は、護衛しつつケガをしてしまった人に手当を施し、
    「ほら、もう大丈夫。俺たちは灼滅者。皆の安全を護る為に来たヒーローだ。彼らの暴走は必ず止めてみせるから、俺達のことを信じてこの戦いを見守って欲しい」
    「近づきすぎないように見ていてくれ」
     と優しく話しかけている。雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)は、
    「イヤやねえ、あの獅子舞たち、厄落としでなく噛むことが目的になってるよぉ」
     危険ラインにどんどんコーンを並べてテープを張っていき、その前では比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)が流れ弾など飛んでこないよう、目を光らせている。
     町民はもちろん危険の少ないところに避難させなければならないが、今回は同時に本隊の戦いも見てもらわなければならない。それに相応しい店は場所柄幾つもあり、ちゃんと事前に見繕ってある。
     実際軽傷とは言えケガ人も出ているし、これは撮影やヒーローショーのような作りものではない超常現象だと町民も漠然と理解できるのだろう。未知と珠音、兎衣を中心に、サポート隊の手助けもあり、避難誘導はサクサク進む……一方で。

    ●獅子舞トリオ
    「かじかじ」
    「かじかじ」
    「かじかじ」
    「やめんかー、痛いわー!」
     和守が3匹のお獅子に群がられて、早速かじられまくっていた。登場っぷりがカッコヨカッタのを妬まれたようだ。
    「おいたはいけません!」
    「加減せぇバカ! むしろええかげんににせぇ!」
     燐と綴、麗治が一生懸命引きはがそうとし、軽が癒しの曲『こちゃえ』を奏で、光の輪と包帯をキラキラヒラヒラ乱舞して仲間を応援しているが、3対4では、幾らマイナーご当地怪人とはいえ簡単には動かせない。
     手こずっている間に、和守はどんどんかじられて……と、そこに。
    「待たせたな! ヒーローは遅れてやってくる! ……待ってねぇって?」
    「どわっ!」
     未知が背後からいきなり金獅子の足を十字架ですくってすっ転ばせた。
    「なっ……!」
    「後ろから不意打ちとは卑怯なり!」
     黒赤も思わず未知を振り返った隙に、
    「助かった!」
     幾分ボロボロになりつつも和守は獅子舞包囲から抜け出した。
     和守の脱出にギャラリーから、わっ、と歓声が沸く。どうやら獅子舞の町民に対する暴走をスタイリッシュな登場により見事に逸らした灼滅者、更にヒーロー1人に3匹で群がって集中かじかじという、お獅子トリオの見苦しい攻撃を見て、ギャラリーの気持ちは一気に灼滅者の方に向いたようである。
    「さあ、今度はこちらの番です!」
     愛刀・玉響を携えた燐が、一番熱心にかじかじしていた黒にマジックミサイルを撃ち込み、綴が白蒸装布ユノゴーベールを射出する……と。
    「させぬわっ!」
     ビシッ。
     赤が割り込んで、白布を跳ね返した。
    「むっ、赤がディフェンダーかッ?」
     更に、
    「おわっ?」
     斬りこんでいった麗治の蒼い刃は黒獅子に届かず……つまり、黒は後衛か。
     獅子舞トリオのポジションがこれで明らかになった。
     で、クラッシャーと思われる金獅子は……と見ると。
    「つかまえ……た」
    「みんな大好き触手攻めー。だが男だ!」
     珠音&兎衣が影をぬらぬらっと伸ばして縛り上げ、町民の目の届かぬ建物の陰に連れ込んでいた。
    「な、何をするのじゃ!」
     暴れるお獅子の手が、ぽよん、と兎衣の胸に柔らかく当たり。
    「ぁ、ん。……おませさん……いけないきもち、ぬいてあげる」
    「悪い心は私たちが払うよー。かぷかぷ」
     今度はねちねち甘噛みしまくって、微妙にやらしいカンジで攻め立てている。
     一般人からお獅子の気を逸らそうという狙いも、もしかしたらあるのかもしれないけど、誰得なんだが。
    「え、えーと……おほん。ま、金獅子は少しの間2人に任せておくか」
     麗治は美少女2人のアヤシイ戦いっぷりにひとつ咳払いし。
    「こちらはまず赤獅子からいくぞ!」
     仕切り直しとばかりに、マントをなびかせて颯爽とシールドを振りかざした。

    ●愛の手加減攻撃
     避難誘導を要領良くこなし、本体の戦いぶりも安定したのが確認できると、サポート隊のうち何名かは、更に目撃者を集めようと周辺で声をかけはじめた。
     中でも山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)は熱心に、広場が見えない通路まで出ばり、
    「獅子舞さんの衣装があっちに落ちてたんですけど、何かあったのかもしれませんので、一緒にきてくれませんか」
     などと、町民の伝統芸能愛を巧くくすぐって誘ったりもしている。

     そんなサポート隊の働きもあり、灼滅者vs獅子舞トリオのバトルはかなりの目撃者を得ることができた。段々警備係も忙しくなってきて……。
    「ぐぼっ!」
     数分経つ頃には、ファーストターゲットの赤獅子がのされた。
     なお、今回はお仕置きが目的であるし、町民の印象も大事にしたいので、灼滅はしない。
    「ぬおっ、赤獅子、大丈夫か!?」
     あわてて金獅子が珠音&兎衣の執拗な攻めから逃れ戻ってきたが、その金も結構ヨロヨロである。
    「ヨシッ、次は金だなッ!」
     すかさず綴が愛機・マシンコスリーに援護射撃させながら、御当地符銃G・Cシューターを五芒星の形に投げ上げて結界を張った。そこを麗治が畏れを宿した刃で押し込むと、
    「行くぜ大和! 合体攻撃だー!」
     未知はビハインドの大和とダブルヒーローのようにポーズを決めてから、霊撃とタイミングを合わせてLiacのパワーを撃ち込む……すると。
    「金獅子までやられてたまるか!」
     黒が飛び出してきて、踏み込んでいた燐にかじりつこうとする。
    「させるかよ……オレの鎧は、お前らのかじかじじゃ砕けないぜ!」
     それを機敏なガードで防いだのは麗治。噛み傷には、即座に軽の包帯が伸びてくる。
    「ありがとうございます!」
     庇われた燐は、いたずらっ子を捕まえるように、ぐいっと金獅子の腕を引き寄せて、
    「母の愛の拳を受けなさい!」
     ボガッ!
     手加減攻撃とはいえ相当な威力の拳骨で殴り飛ばすと、そこには和守が待ち受けていて、
    「お仕置きパンチ!」
     ゴチン!
     脳天に一発、強烈なパンチを見舞い。
    「きゅう~~☆」
     金獅子も赤獅子に重なるようにして、目を回して倒れた。
    「……くッ」
     残るは黒獅子1匹。
     だが、1匹きりとなっても黒の戦意は衰えていないようで、
    「神楽囃子キーック!」
     怪しいコンビ攻撃から隊列へと戻ってきた兎衣に、キックを見舞おうとする……が。
    「兎衣に何をする~う!」
     当然のように珠音が庇う。
     珠音には、軽が冷静にオコノミスラッシャーから癒しの光輪を送り、
    「まだ反省していないようですね……!」
     燐が曼珠沙華から制約の弾丸を撃ち込み、和守がお返しとばかりにご当地キックで蹴り倒す。麗治はシールドで殴りつけて引きつけ、回復なった珠音は兎衣と共に、また怪しげな影を伸ばして縛り上げる。
    「うぬぬぬ、うぬぬぬ」
     身動きが取れず唸るばかりの黒獅子に、岡山出身の未知と綴が近づいていき。
    「大好きな町民が自分達から離れていくのが寂しかったのか?」
     未知がちょっと気の毒そうに。
    「さ、寂しいとかではないッ。大事な年中行事をすっぽかすけしからん輩が多いので、こちらから行動を起こしただけだッ」
     減らず口で言い返す怪人を、未知はキッと睨んで。
    「違うだろっ。お前らが望むのは、今年も安心して過ごせるって、笑顔を浮かべる皆の姿じゃないのかー!? 見ろよ!」
     両腕を広げ、広場を遠巻きにして戦いを見つめる町民たちの姿を示す。
    「みんな怖がってるぞ!」
     軽も後方から援護の声を上げる。
    「獅子舞よ、お前は本来は悪気を祓う存在。なのに人々に恐怖を与えてどうする!」
    「これじゃあ来年の正月はだーれもかじらせてくれないよ」
    「……ぐっ」
     黒獅子はさすがに言葉に詰まり、ギョロ目を泳がせた。
    「わ、わしらが間違っていたというのか……」
    「そうだッ! 重々反省せいッ! オレたちが目を覚ましてやるッ。ユノゴ……ッ!」
     ちょっと冷静に考えればわかるだろレベルの指摘を受け呆然とする黒獅子を、綴のダイダロスベルトが絡みつき引き寄せて。
    「キイイックッ!」
    「パーーーンチ!」
     綴のキックと、未知のパンチが炸裂した。
     とはいえ両者とも地元愛がたっぷりこもった手加減攻撃である。
    「うう……わしらはなんということを」
     地面に倒れ伏して恥辱と後悔にくれている黒獅子を、和守が腕を組んで見下ろした。
    「おい、お獅子よ、町民の皆さんにきちんと謝ることができたなら、この場で突発獅子舞イベントを開催してやらんこともないぞ」
    「え」
     黒獅子がボロボロのカシラを上げた。
    「今後は人に迷惑をかけないよう、反省してくれればそれでいいのです」
     燐が鬼母一転、慈母の包容力で微笑みかける。
     悪を憎んで伝統芸能を憎まず、である。
    「お、お前たち……」
     獅子の目にも涙。

    ●獅子舞と灼滅者と
     というわけで、目覚めた金と赤も含め、獅子舞トリオは大勢の町民の前で「ごめんなさい」をし、突発獅子舞イベントを行えることに相成った。
     今、3匹は張り切って広場の真ん中で踊っている。
     それを見て嬉しくなった未知は、
    「獅子舞にかじられると厄除け効果があるんだよな。俺もお願いしようかな」
     自分がかじられて見せれば町民も安心するかもしれないと、率先してお獅子の元へ赴いていき、
    「もう大丈夫ですよー、安心してかじられてください」
     それを見て町民たちもおずおずとそれに続き、イベントは徐々に盛り上がってきて……さあ、民間活動のチャンスだ!
    「奴らはダークネス。人間の力が及ばない相手だ。怪異を目にしたなら、オレ達灼滅者を呼べ」
     変身を解いてエージェント風に黒スーツにサングラス姿になった麗治と共に、念のため『こちゃえ』で町民に癒しの旋律を行き渡らせた軽は、礼を言ってきた町民に幾分恥ずかしそうに応えている。
    「……ヒーローという役柄は私は苦手だ。だが、このような能力を持ったからにはすべき事をせねば、と思う」」
     軽は力を持つ者故の本音を漏らしつつも。
    「こんな私で良ければ、今後も頼ってくれ」
     連絡先を渡している。
     戦闘アーマー姿の2名は、町民に囲まれ、子供を肩車したり、写真を撮られたりしながら事情説明を行っていた。
    「『バベルの鎖』というものがあって、情報の伝播を妨げる能力、簡単に言えば俺達や、奴等についての写真、動画、音声、文章……そういったものは『目につかない』のだッ。つまり俺達の画像がバズる事は永遠に無いわけだ……」
     2人はヒーローショーよろしくポーズを取りながら。
    「ただ直接認識出来ればバベルの鎖はほぼ無効になる、とはいえ何分危険な奴が多い、何より逃げることを優先してくれッ!」
     囲みの後ろの方では、燐が個別に優しく丁寧に補足をしている。
     サポート隊のメンバーも、熱心に民間活動を行っている。木元・明莉(楽天日和・d14267)は、
    「ダークネスという闇にご当地を思う気持ちを歪められたら凶暴化してしまう。俺達はそれを鎮める活動をしてるんだ。もし出会ってしまった時には、直ぐに連絡を」
     こちらも連絡先を渡している。
     他のメンバーも、ダークネス形態を見せて、
    「あぁいう力を好き勝手に振り回すんと戦ってますー」
     驚かせてみたり。また、
    「仲間への応援ありがとう。おかげで獅子舞を改心させられたよ」
     本隊への声援の礼を述べたり、
    「助けられる者を助けるのも、大切な活動なのだよ」
    「世の中には良き力を持った者も居れば、悪しき力を振るう者も居る。今回はお説教で済んだが、笑い事では済まない事態に発展する事もある。若しまた同じような事件に遭遇したら、どうか俺達灼滅者に連絡をして欲しい」
     それぞれの言葉と心を尽くして、目撃者の理解を深めようと頑張っている。
     一方、珠音&兎衣は、仲間の熱心な活動を後目に、相変わらずいちゃいちゃしていた。
    「勝ったー。んふー、どう? かっこよかった?」
    「すりすりもふもふ。すりすりもふもふ」
     と、ぺったり抱き合いつつも……兎衣はふと目を上げて、嬉しげに人々をかじる獅子舞と、交流する仲間たちと町民たちとの平和な情景を見回して呟いた。
    「――好きな人と生きる明日は、きっといい日」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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