ソウルボードの異変~ブランコの妖怪たち

    ●ソウルボード調査隊
     民間活動の結果でソウルボードに影響が出ていないか、調査を行いたい。
     クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)の提言で行われた灼滅者有志によるソウルボード探索だったが、想定以上の成果を出す事となった。
    「かつてのソウルボードには無かった感覚を感じますね」
    「えぇ、灼滅者に対して好意的な意思というのでしょうか? それを感じます」
     この時期に灼滅者がソウルボードに入った場合の影響を図ろうとした、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)と、民間活動の成果がソウルボードに影響を及ぼすのではと予測していた、黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)の両名が、ソウルボードの微かな異変を感じ取ったのだ。
     これが民間活動の成果だとすると……と前置きして、異叢・流人(白烏・d13451)が、一つの仮説を提唱する。
    「ソウルボードは種の進化を促し、動物の魂に干渉する存在であるのは確かだな。そうであるならば、動物の……この場合は人間だな、その魂がソウルボードに影響を与えたとしても不思議ではない……」
     民間活動により、多くの一般人が灼滅者の存在を知り、そして、灼滅者に好意的な気持ちをもってくれた。
     それが、ソウルボードに影響を与えたと考えれば、確かに説明はつくかもしれない。
     外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)や、神原・燐(冥天・d18065)は、流人とは違う持論を持っていたが、しかし、この現象が民間活動の成果である事については、不思議と納得できていた。
    「うむ、こっちに何かあるのですか?」
     ソウルボードからの意思に耳を傾けていた皆無が、その意思が示す方向へと進む事を提案する。
     調査隊の面々にも異論は無く、導かれるままにソウルボードの奥に進み続ける事とする。
     ソウルボードを導かれるままに進む事数時間。突然、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)の所持していた携帯が音をたてる。
    「えっ、どうしたんですか??」
     ソウルボードで携帯が鳴るという、ありえない現象に驚く陽桜。
     しかし、驚くのはこれだけではなかった。携帯から流れてきた放送は……。
    「この放送は……、ラジオウェーブのラジオ放送です!」
     陽桜の言葉に、調査隊は大いに驚いたのだった。

    ●武蔵坂学園
    「ソウルボードの探索を行った羽柴・陽桜さんらの有志から、重大発見の報告がありました」
      春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は集った灼滅者たちに、深刻な表情で語り出した。
    「まず、ソウルボード内で『灼滅者に好意的な意思』のようなものを感じたこと。これは民間活動の成果と思われるのですが……その意思に導かれた先で、彼らは『ラジオウェーブの電波塔』を発見したのです!」
     調査隊が所持していた携帯電話が、ラジオウェーブのラジオ放送を受信した。つまり、この電波塔がラジオウェーブに関係するものであるのは確実である。
     バベルの鎖で伝播しない筈の都市伝説に関する情報が『ラジオウェーブのラジオ放送』のみ伝わってしまう理由が、ここにあるということなのだろう。
     或いは逆に、灼滅者の民間活動と同様、多くの一般人にラジオ放送を聞かせた事で、この電波施設を建設する事ができたのではとも考えられるが、現時点では断言することはできない。
    「そもそも何故電波塔がこんな場所に存在するのかすら不明ですが、なんにせよ、ラジオウェーブにとって重要な施設である事は間違いないです。破壊してしまうにこしたことはありません」
     電波塔は『奇怪で歪な形状』をした45m程の塔であり、左右に触腕のような突起、塔の上部に直径20m近くの頭部を持つ。
    「その頭部がアンテナのように電波を発しているようです。形状からすると、塔自体が戦闘力を持つ都市伝説のような存在と予想されますが、調査隊の報告では外見以上の情報を得る事はできていません。何故かというと……」
     塔に近づこうとすると、それのラジオ放送によって、周囲のソウルボードが都市伝説に変化して塔を防衛するため近づけないのである。
     しかも、ソウルボードが変化した都市伝説は、戦闘力は高くなく、戦闘により撃破する事は可能ではあるのだが、何と、撃破して数分もすると、ラジオ放送によって再構成されて再び襲ってくるのだ。
    「都市伝説は大量で、この防衛ラインを突破するには、相応の戦力が必要であるというのが、調査隊からの報告なのです。このチームでは3体の都市伝説を相手に戦って頂きます」
     更に、この都市伝説の防衛網を突破して『奇怪で歪な電波塔』に近づくには、全チームが同じタイミングで、一気に多数の都市伝説を撃破する必要がある。
     一気に多数の都市伝説を撃破すれば、数分間敵の圧力が減るので、全チームが一斉に距離を詰める事が出来るだろう。
    「しかし、都市伝説は数分後には再生して追いかけてきますので、電波塔に接触後は、電波塔を攻撃する者と、再生した都市伝説を迎撃する者に分かれて、対処する必要があります」
     電波塔を破壊すれば、都市伝説の再生もストップするので、そこまでが勝負だ。
     それを踏まえ、このチームが担当するのは学校七不思議の『ブランコの妖怪』である。
    「4時44分44秒にブランコに出現し、逃げても逃げても追ってきて、ついには刺し殺す……というヤツです。ヨダソ、とか呼ばれることもあるようです」
     ナイフを持つ不気味な子供の姿で現れるらしいが、
    「この妖怪、膾炙されている話でわかるように執拗な性質の様なんです。しかも3体ですから……」
     今回のような突破戦には、少々やっかいな相手であろう。
    「防衛戦を一斉突破した後すぐに、手分けしてアンテナ攻撃と、都市伝説の迎撃をしなければならないという大変な作戦となりますが」
     典は灼滅者たちに頭を下げて。
    「民間活動で灼滅者を応援してくれるようになった人々の魂が、この機会を与えてくれたのだと思うと……ぜひ、その期待には応えて頂きたいのです」


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)
    宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ

    ●夢の校庭
    「……ここか?」
     8人がソウルアクセスで送り込まれた場所は、もの寂しげな夕暮れの校庭であった。日の光は灰色がかったくすんだオレンジ色で、時折強く吹く風にも春の暖かさは感じられない。
     そこにあるのは、錆びた2連のブランコと、止まった時計をてっぺんに乗せている金属の柱だけ。
     目をこらすと校庭の情景の向こうに遠く、背の高い建造物を見てとることができた。
     おそらく、あれがラジオウェーブの電波塔。
     しかしそれは、濃い霧の向こうにあるかのように、ぼんやりと遠い。
     この校庭の情景を……要はブランコの妖怪による防御壁を破らなければ、塔に近づくことができないのだろう。
     その時。
     ……キィ、キィ。
     冷たい風に揺れて、ブランコが耳障りな音を立てた。
     思わずぶるりと宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)が身震いをした。今回の戦いのために巷説されているブランコの妖怪について調べてきたのだが、それらの内容をヘンに思い出してしまったのだった。
     逆に今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)は傲然と顔を上げ、おぼろげに見えるだけの電波塔をにらみつけ、シャドウハンターとしての怒りを漲らせる。
    「ラジオウェーブめ、私たちの家を荒らすなんて許せない……っ! あの醜い鉄塊をぶっ壊して、そしてお前の首を絞めてやるわ!」
    「ソウルボード、か……」
     木元・明莉(楽天日和・d14267)は感慨深げに。
    「ここで感じられる友好な意志が一般人のものであるなら……もし、この意志がガイオウガに繋がっているなら、この機会を決して無駄にはしない」
    「ソウルボードもラジオウェーブも本当に不思議なのです」
     調査段階からこの精神世界を訪れている羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、難しげに首を傾げた。
    「視えようが視えまいが同じ……なら、全ての真理はやはりここにあるのかもしれません。あの電波塔も設置されたか自然発生かはわかりませんけど、ソウルボードの性質をうまく利用してるなって思います」
     そっすよねえ、いろいろ謎っす、と押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)は頷き。
    「どうやってラジオ塔みたいなの作ったのか含め、謎多いっすね。ある意味噂とか怪談は人の心から生ずるものだからおかしくはない、のかもっすけど」
    「それでもこうして、邪魔が入っちゃってるわけですから……」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)は寂寥感あふれる風景を見回し。
    「ままならない、ものですねえ……」
     ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(夢途・d36355)は飄々とした様子で軽く笑み、
    「これ以上都市伝説が多いと困るだけだからなー、さっさと潰してしまおう。やったもん勝ちだ。にしても何がしたいんだろうねぇ……」
    「ま、きっと塔を破壊すれば、謎もたくさん解けるでしょうし!」
     ハリマは自分と仲間を鼓舞するように、勇ましく四股を踏んだ。
    「好き勝手させるわけにもいかないし、ここで頑張るっす!」
     と、その時。
    「……ねえ、時計が、ヘン」
     ビハインドのジェードゥシカを傍らに寄り添わせた白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)が、柱上の時計の異変に気づき、指した。
     見上げれば、止まっていた時計がぐるぐると回り出しているではないか。
     まるで何者かが時刻合わせをしているかのような動きである。
     そして。
     キィ、キィーコ……。
     風に自然に揺れているだけだったブランコの動きも変化してきた。まるで誰かが乗って揺らしているかのように、大きく動いている。
    「……来るぞ」
     キーコ、キーコ……。
     灼滅者たちは緊張した視線をブランコに注ぎながら、配置へとついた、その時。
     時計が、4時44分44秒を指して、ピタリと止まった。
     同時に、
     ウフフ、キャハッ、アハハ。
     微かな笑い声と共に、3人の子供の姿がブランコに現れた。
     ひとりは立ち乗りをしている、体格のいいガキ大将風少年。
     今ひとりは、もう1台に座っている赤いスカートの女の子。
     もうひとりの少年はメガネをかけていて、その女の子の背中を押してやっている。
     3人とも小学校中学年くらいと見えるが、彼らに全く愛らしさはない。
     むしろ、感じるのは嫌悪。
     その要因は、彼らの影をまとったような全体的に黒っぽい姿のせいなのか、それとも耳まで裂けるほど大きく笑む毒々しく赤い口のせいか、それともギラギラと物欲しげに輝く瞳のせいなのか……。
     キィ。
     ブランコの動きが止まり。
     3人の子供たちがブランコを降りた。
     そして灼滅者たちに不気味に笑いかけ。
     アソボ……アソボ。
     口を全く動かさず、まるで腹話術のように語りかけてくる。
     ニガサナイヨ……ゼッタイ、ニガサナイヨ。
     いつしか、その手には夕日に鈍く光る、子供には全く似つかわしくない大きなナイフが握られていた。

    ●ブランコの妖怪
    「――あまおと!」
     陽桜の声に白っぽい大柄な柴犬が飛び出して、早速ナイフを振りかざして飛びかかってきたメガネ少年を遮った。
     霊犬の背から血が飛んだが、その隙を逃さず、流希が両手を突き出して精神壁のエナジーをメガネ向けて打ち込んだ……だが。
    「んっ!?」
     そのオーラキャノンを受けたのは、割り込んできたガキ大将風だった。
    「なるほど、この子がディフェンダーのようだな」
    「ですね」
     陽桜は陽坐をラビリンスアーマーで防御強化し、あまおとの方は、黒い大型犬……ハリマの愛犬・円が癒している。
    「それなら……メガネと女の子、どっちがジャマーだ?」
     明莉は敵のポジションを見極めようと蒼布槍をたわめて慎重にターゲットを絞る。
     すると、女の子がスッと下がり、ガキ大将風を包み込むようにナイフから灰色の霧を立ちこめさせた。
    「ん、女の子はメディックのようだな……!」
     ファーストターゲットを見極めて、明莉は鋼の帯をメガネ少年に撃ち込んだ。
     その間にも、紅葉が蝋燭を掲げて前衛の防御力を高め、夜奈も、
    「早くたおせばいいってわけじゃ、ないのが、めんどう、ね。ジャマは、させないわ。2人を行かせるためにも、がんばらないと」
     体力を残すことを重視し、交通標識を揚げて黄光を仲間たちに浴びせかけている。
    「あっ、ボクらの時計も狂っちゃってるっすよ!」
     他班と突破タイミングを合わせるために、時計を確認していたハリマが叫んだ。見ればそれぞれが持参の時計やスマートフォンも、やはり4時44分44秒で止まってしまっていた。この場所は、そういう空間なのであろう。
    「ストップウォッチを頼りにいかないと……うおっと!」
     時間に気を取られていた隙を狙って突っ込んできたガキ大将風の腕を、ハリマはガッチリ捕らえて押さえ込んだ。ナイフの刃が太い二の腕をかすったが、片手でシールドを振り上げ、かすり傷を癒しつつ前衛の防御力を高める。
     ロードゼンヘンドは、もみあうハリマたちの足下をすり抜けると、
    「倒してもまた再構築される敵なんて、テンションがあがるねえ」
     押さえきれない笑みを浮かべながら、メガネの足下を鋭い刃で抉り、陽坐は、
    「こっちだよ……っ!」
     メディックの女の子の真っ正面から目をのぞきこみ、ご当地ビームを撃ち込んだ。まばゆいビームに怒りを覚えたらしく、女の子の目がギラリと光り、
    「うひー」
     わざと背中を向けて、引きつけるように逃げてみせる。
    「(これで少しでも回復から気を逸らせれば……!)」
     ブランコ妖怪たちは、巷で語られている怪談からすると、しつこく食い下がってくるような戦いかたをしてくると予想される。
     他チームと打ち合わせた突破タイミングは10ターン。一回り戦ってみた感触では、充分可能だろうと思われた。しかし、加減しすぎて狩り残してしまうと拙いし、逆に早く倒しすぎてしまうと、復活してしまう可能性もある。
     それにもちろん、電波塔との決戦に向けて、できるだけ自分たちも体力を温存しておきたい。
     ここは焦らず、たゆまず、確実に――。

    ●突破
     ニガサナイ、ヨ……!
    「うわあっ!?」
     明莉が思わず悲鳴を上げた。
     灼滅者たちに与えられた炎にまみれ、おまけに血塗れになったメガネ少年が、それでもニカニカと不気味な笑みを浮かべて、ナイフを高々と振り上げて飛びかかってきたのだ。
     実は明莉、追ってくる系のお化けは苦手で、内心かなり怖じ気付いていた。ここまでぐっと堪えていたのだが、血塗れ炎まみれの姿で接近されるとさすがに悲鳴を上げずにいられない。
    「ぎゃあ、俺も無理! ごめんなさい!」
     庇おうとしていた陽坐も、思わずすくんでしまうほどの物凄さだ。餃子について語る余裕もない。
     敵の姿が子供というのも、メンタル的にくるものがある。
    「来るなああ!」
     明莉はとっさに銀烈火を突き出し、それが深々とメガネの胸を抉った。
     パッと一瞬、炎が勢いを増し……。
     メガネ少年は、燃え尽きるようにして消えた。
    「あ、倒しちまった! ヤバいかな?」
    「大丈夫です!」
     陽桜がストップウォッチを確認しながら。
    「もう7分経過してますから、復活前に突破できるでしょう」
     理想は10ターン目で一気に3体倒すことだろうが、ジャマーはファーストターゲットでもあったので、致し方ないであろう。要は10ターン目に3体とも灼滅した状態になればいいわけだから。
    「すると……次はメディックの女の子ね」
     紅葉が指輪に口づけし裁きの光を放つと、夜奈も続いてгиацинтから石化の呪いを見舞う。
     遠距離攻撃を妨げようとしたガキ大将風は、ハリマがシールドでの突き押しでふっとばし引きつける。
     ロードゼンヘンドが魔導書から迸らせた炎を浴びると、女の子はナイフから夜霧を立ちこめさせ、自らを回復しようとした。
     だが、集中攻撃を受けている今、それは焼け石に水の行為でしかない。
     陽坐が蝋燭から炎花を飛ばし、陽桜はダイダロスベルト・縁珠を勢いよく射出する。流希のガンナイフからの弾丸と、恐怖体験から立ち直った明莉の制約の弾丸が狙い違わず女の子の胸に吸い込まれた。
     連続攻撃を受けて、やはり炎にまみれよろめきながらも女の子は、
     アソボ……アソボ……。
     まだ呟き、ナイフを構えようとする。
     その不気味さとしぶとさに灼滅者たちは一瞬怖じけたが、
    「もう倒していいタイミングだよね?」
     ロードゼンヘンドがニヤリと笑んで、魔導書の違うページを開いた。
     ドウゥン!
     魔力の光線が発射され、女の子の胴体を貫き……その姿は光と共に消えた。
     ――これで残るはガキ大将風の1体。
    「あと2ターンです!」
     陽桜が確認の声を上げた。
     ガキ大将風はここまで特にターゲットとはしてこなかったのだが、ディフェンダーなのでじわじわとダメージが蓄積しているはず。全員でかかれば、2ターンあれば充分だろう。
     されど、ガキ大将風も灼滅者たちを簡単に通す気はないようで。
     アソボ……アソボ……。
     ナイフを掲げ、毒の竜巻を放出した。竜巻はゴウゥと音を立て、後衛へと襲いかかろうとする。
    「うおっ、ここまで来たら、絶対護るっすよ!」
    「おうっ!」
     ディフェンダーのハリマと陽坐が2頭の霊犬を引き連れ、竜巻へと飛び込んだ。後衛には大事なメディックが、そして電波塔の決戦へと向かうメンバーがいる。なんとしても最小限のダメージで決戦へ臨みたい……!
    「ありがとう!」
     毒竜巻が通り過ぎると、決戦に向かう予定の紅葉が凛とした声を上げ、庇ってくれたディフェンダーたちに、蝋燭から癒しの煙を向けた。陽桜も念のため後衛に癒しの風を吹かせたが、もうひとりの決戦メンバー流希も無事だったようだ。
     回復の間にも、夜奈が素速く影をのばしてガキ大将を縛り上げ、傍らではジェードゥシカが霊撃でナイフを封じようとしている。そこに明莉が炎のキックを見舞い、流希が光の刃を浴びせかける。更にロードゼンヘンドが足下に杭を撃ち込んで、足止めを計る……すると。
     ――ギィィ。
     今やボロボロで、影も薄くなってきた様子のガキ大将の背後で、ブランコが妙な軋み音を上げ、シュールレアリスムの絵画のように歪み傾いた。
     この場自体が揺らいできているのか――?
    「いまだ!」
     回復なった陽坐とハリマは、最後まで自分たちに引きつけ続けようと、果敢にご当地ビームとシールドバッシュをくらわせ、霊犬たちは両側からくわえた刀で斬りこんでいく。
     夕焼けは血のように赤く、敵の姿は雨の日の影のように黒くたよりない。
    「ここは、通らせて、もらう、ね」
     夜奈が、よろりと突き出されたナイフをかわし、殺人鬼の敏捷さで背後に回り込むと、深々とうなじに刃を突き立てた。
     その刃には、仲間を守るという思いが精一杯込められていて――。

     モット……アソビタカッタ……ノニ。

     呟きが弱々しく消えると同時に、子供の姿も消え。
     そして、ブランコも、校庭の情景も消え去った。

    ●電波塔へ
     防御壁を排除して現れたのは、荒涼とした空間と、そして思いの外近くに立つ電波塔だった。
     まだそれでも少し距離があるので正確な大きさはわからないが、調査隊の報告にあった通りの、大きな頭を載せた奇怪で歪な姿であった。
    「じゃ、いくわね」
     紅葉が瞳に決意を宿らせて巨大な建造物を見上げた。
     一方。
    「あの……私も行ってよいのでしょうか?」
     遠慮がちな表情の流希に、仲間たちは力強く頷き返す。
     夜奈がちょっとだけ笑みを見せ、
    「モミジ、リューキ、ここはまかせて、いってらっしゃい。また、あとで、ね」
     陽坐は、
    「安心して行ってください。ヤツらの戦い方もわかったし、俺、色々調べてきたから、いざというときの切り札ワードも知ってるんですよ!」
     恐怖の対象を倒せたからか、元気に答えた。
    「さ、都市伝説が復活する前にたどり着かなきゃですよ。急いで」
     陽桜に促され、2人は、
    「じゃ、後はよろしくお願いします」
     吹っ切ったように塔に向かって走り出した。紅葉が先に立ち、流希が後ろを守りながらという態勢だ。
     残ったメンバーも、先ほどまでブランコ妖怪が沸いていた地点を観察しながら塔へと距離を詰めていく。
     都市伝説の再構築は倒したものから順番なのか、それともまた3体揃って蘇るのかはまだわからないが、絶対に電波塔へ向かった仲間たちを追わせることだけは、絶対させてはいけない。
     なんとしてももう1戦、戦いきって、電波塔とラジオウェーブ、そしてソウルボードの謎に肉薄してみせる――!

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:紅羽・流希(挑戦者・d10975) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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