決戦巨大七不思議~城下町の七侍

    ●二本松市、城跡の公園にて
     戊辰の激戦の舞台のひとつである二本松市。
     城跡の公園は市中心部北側の小高い山にある。その高台にある公園の中でも、天守閣跡はひときわそそり立つような場所にあり、今でも城下や阿武隈川を一望の下に見渡すことができる。
     そこに、ひとりの侍がいた。
     侍は裁っ着け袴に筒袖、鉢金付きの鉢巻きに、革の簡素な銅鎧をつけているが、ただしその装束も、腰の刀も、背負う鉄砲も、そして彼の顔も、ひどく血に塗れている。どう見ても、激戦を経た落ち武者の姿……いやもはや屍体と言ってもいいくらいだ。
     侍は、二本松城下を見渡して呟いた。
    「我等と、そして灼滅者の攻撃で『バベルの鎖』は、これまでに無く弱体化している。あと少し……人間の恐怖が極限に高まった時、ラジオウェーブが『バベルの鎖』を引き千切り、人間は真の力を取り戻すだろう。その時こそが……」
     彼は決意したように目を閉じ、手を合わせて物語を語り始めた。
    『七侍』の話を。
     語るにつれ町中からエナジーが集まってきて、彼自身の体がみるみる巨大化していく。
     そして、分裂してーー七体となった。
     七人の、血に塗れた巨大な侍たち。
     彼は自分の分身たちを見回し、サッと手を挙げて命じた。
    「さあ、行け。この町を、恐怖の坩堝へと突き落とすのだ!」

    ●武蔵坂学園
    「民間活動の評決の結果『ソウルボードを利用した民間活動を試みる』事が決定し、その準備を始めたのですが、作戦に入る前に『ラジオウェーブ配下のタタリガミ』による大規模襲撃が発生してしまいました」
     集った灼滅者たちに、春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)が語りはじめた。
    「電波塔というソウルボード内の拠点を失ったラジオウェーブは、その失地を回復する為に、切り札の一つを切ってきたようです」
     その切り札とは、最高ランクの都市伝説を吸収して収集した、タタリガミの精鋭達。それらを投入して、再びソウルボードに拠点を生み出そうとしているのだ。
     その方法は『多数の人口を抱える地方都市』を、巨大化した7体の都市伝説で襲撃、住人全てに恐怖を与え、都市伝説を強勢的に認識させるという強烈なものだ。
    「このような強引で目立つ方法を取るという事は、それだけ、ラジオウェーブ側に余裕がなくなっている現れかもしれません。皆さんには、襲撃されている都市に向かい、タタリガミと都市伝説の撃破をお願いします」
     このチームに担当してもらうのは、福島県二本松市に現れる『七侍』である。
     本体であるタタリガミと、タタリガミが分離した6体の都市伝説が敵となり、いずれも7mサイズに巨大化している。
    「戊辰戦争の激戦地であった二本松には、元々『七侍』という都市伝説があったのです」
     二本松の戦いで非業の死を遂げた7人の侍が悪霊となり、町を彷徨い、自らの成仏のために人々をいたぶり殺す。
    「全国各地に伝わる『七人ミサキ』系の影響も受け、ご多分に漏れずこの七侍も7人殺して成り代わってもらわないと成仏できず、そしてまた殺された7人がまた悪霊となり……という話なんです」
     奇しくも今年は戊辰戦争から150年。この伝説が人の口に上ることも多く、そのパワーをタタリガミがすかさず取り込んだということなのだろう。
    「ただ、不幸中の幸いと言ったら不謹慎かもですが、むやみに人を斬りまくるような性質の都市伝説ではないんです。今回は特に、人々を恐怖に叩き込むことを目指しているわけですしね……それでも習性として、最終的に7人は殺そうとするでしょうが。ですから、迅速に対処していただければ、人的被害はさほど出さずに済むでしょう」
     もちろん被害は少ないにこしたことはないので、捕まってしまった人はできれば救出したいし、建造物破壊や、都市伝説の姿に怯え逃げ惑う人々をケガなく避難させる方法も考えておいた方がよいだろう。一般人対応のサポート隊も必要かもしれない。
     また、敵の目的が『多数の一般人に影響を与える事で、ソウルボードに拠点を作る』事である事から、今回の敵の作戦行動を観察する事で、『ソウルボードを利用した民間活動』を行うヒントを得る事もできるかもしれない。
     ちなみに、巨大都市伝説の戦闘能力は、通常の都市伝説程度なので、灼滅者3名でも対抗が可能であるが、巨大タタリガミは強敵なので、全員が揃って戦わなければ危険だ。
     都市伝説たちは、市内の別々の場所で事件を起こしている為、各個撃破が可能である。
     ボスのタタリガミを撃破すれば、6体の都市伝説も消滅する。しかし『民間活動』も行うのであれば、多くの都市伝説を撃破するのを一般人に見せてから、タタリガミを撃破する方がよいかもしれない。
     また、タタリガミ達の目的が『バベルの鎖』への攻撃であるのが理由なのか、或いは、ラジオウェーブの伝播が関係するのか、理由は不明だが、今回は電波障害が発生せず、携帯などで連絡を取り合う事ができる。
    「みなさんの探索と勝利により、ラジオウェーブは追い詰められています。敵の切り札である、精鋭のタタリガミを撃破し、更に追い込んでいきましょう……とはいえ」
     典は整った眉を僅かに曇らせて。
    「ラジオウェーブは、他のダークネス組織と明らかに違う性質をもっています。その違いは何なのか? それがわからなければ、ヤツを真の意味で止める事はできないのかもしれませんが……」


    参加者
    神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)
    榎本・彗樹(野菜生活・d32627)
    オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)
    神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)

    ■リプレイ

    ●城下町にて
    「うーん、暴れてるねえ」
     神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)は敢えて事も無げな軽い口調でターゲットを評した。戦闘が一般人の目に触れることを意識した、美々しくも重厚な鎧姿だ。
     町中の坂のてっぺんに登り詰めたB班の灼滅者たちは、眼下の商店街で暴れる、巨大でおどろおどろしい姿の侍を見いだしていた。
     都市伝説『七侍』のうちの1体だ。
     高い建物の少ない古い城下町では、7メートルの巨体はより大きく見える。一般人から見れば尚更であろう。
     この坂は、二本松の夏を彩る提灯祭りのメインストリートである。城下町の風情を残すレトロな商店街を破壊される前に、まずはこの都市伝説を始末してしまいたい。
     最悪の悪夢を具現化したようなターゲットの姿を見下ろし、
    「ハッ、恐怖で支配? 笑わせる」
     聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)が強気に嗤い、
    「この街を……恐怖で埋め尽くさせるわけにはいかない」
     榎本・彗樹(野菜生活・d32627)が頷くと、
    「どう仕掛けますう? 坂を駆け下りたのでは、すぐに敵に見つかってしまいますねえ。できたら奇襲をかけたいところですう」
     船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)は人差し指を顎に当て、首を傾げた。都市伝説~タタリガミ戦という長丁場に備え、できるだけ消耗が少ない戦法をとっていきたいところだ。
     それなら……と市街地の地図を彗樹が広げ。
    「裏通りを……行くとか」
     4人は地図を覗きこみ、亜綾は霊犬を抱き寄せて。
    「烈光さんに偵察させながら行ってみましょーかあ」
     この際である、人家の庭等を通り過ぎることになっても、大目に見てもらえるだろう。また、道中一般人を見かけたら、避難を促すこともできる。
     張り切る霊犬を先頭に、4人は裏道へと駆け込んでいく。

    「この怪物たちの目的は、皆さんの恐怖を煽ること、だからどうか恐怖に負けないでください!」
     A班のオリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)が、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)と共に、背に庇う数人の一般人たちに呼びかけている。
     彼女らの目の前には、獲物を横から奪い取られて、空疎な眼窩に怒りを燃え上がらせている都市伝説のうちの1体がいる。
     しかし敵よりも更に強い怒りを燃え上がらせ、神凪・朔夜(月読・d02935)が住宅の屋根から飛び上がり、その巨木の枝のような腕に鮮やかな跳び蹴りを見舞った。
     ガアッ!
     侍は苦痛の叫びを上げると、ひらりと着地した朔夜を見下ろし、蹴られた腕を抑えながらも巨大な刀を振り上げた。
     キャアと人々が悲鳴を上げる。ESPの効き目で発見時よりは落ち着いてくれていたのだが、それでも恐ろしいものは恐ろしい。
     だが、そこに。
     侍の背後に、建物の隙間から一頭の犬が駆け寄ったかと思うと、いきなり青年の姿に変身し。
    「こっちにも……いるぞ!」
     竜巻のような回し蹴りを膝裏に見舞った。神無日・隅也(鉄仮面の技巧派・d37654)だ。
     不意打ちに驚いた侍は、思わず一般人のいる方向から気を逸らす。
    「今だ、逃げろ! 自分達が絶対護るから、気をしっかり持て!!」
     朔夜が叫び、ハリマは怪力無双を発動した。生け贄として殺されかかり、足がすくんでいる不運な一般人を抱え上げ、自力で動ける人々を促し励まして、侍の目の届かない建物の裏手までつれてくる。そして自信たっぷりの笑顔で。
    「仲間が警察署で協力を求めてるっすから、そこまで逃げてください。わけわかんないでしょうけど、大丈夫っすよ、ボクら灼滅者が皆さんを護るっすから!」

     サポート隊は、都市伝説が公園から市街地へ降りてきて、人々の目に触れるやいなや、行動を開始していた。
    「仲間があのデカブツを鎮めに走っています、市民の皆さんを安全な場所に避難させるため、協力してください」
     神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)と黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)はラブフェロモンを、久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)はテレパスを発動し、木元・明莉(楽天日和・d14267)は、逃げる途中で足を痛めてしまったお年寄りを背負い、警察署にかけこんでいた。
    「あれは北からやってきますので、市街地より南の方の避難所へ市民の皆さんの誘導をお願いします」
     防災地図などで、避難所やルートは予習してきた。
     明莉は、
    「俺たちは武蔵坂学園の灼滅者で、あのような怪異や『闇』を祓う者です」
     名乗りながら、見せつけるようにケガ人をヒールサイキックで癒す。
     そして4人は、居合わせた一般人たち、そして集まってきた警察官たちに聞こえるように、真摯に語る。
    「あれは人々の噂のエネルギーにより、伝説の七侍が具現化したものです」
    「そもそも二本松の戦争での死者は、この地を護る為に命を落とした、いわば守り神のはず。悪気を祓い、大地に還して元の姿に戻すため仲間が行動している」
     警察官からすれば、いきなり現れた若者たちの現実離れした言い分を信じるのは難しいが、しかし彼らは至って真剣であるし、しかも目の前で不思議な能力を見せつけられている。
     それに何より、警察署からも街を破壊しながら進む巨大な侍が見えているし、通報の電話も先ほどから鳴りっぱなしであり――。

    「警察が快く協力してくれるそうだ」
     闇沙耶が厳しい表情のままサポート隊からの報告を、班員に告げた。
    「そりゃ助かるぜ」
     凛凛虎が兄貴分に応じながらクロスグレイブ・暴婦で2体目の都市伝説侍の足下をすくった。
     急襲が功を奏し、B班は迅速に1体目を倒し、すぐに2体目も発見することができ、早速攻撃を始めている。
     侍がバランスを崩したところに、すかさず亜綾が氷魔法を見舞い、彗樹は少し余裕が出来たのか、
    「『二』本松市に『七』不思議の『7』mの『七』侍……なんというか、惜しい気がする……」
     とぼけた風に呟きながら愛刀・風来迅刃で、敵が背中にくくりつけている鉄砲に斬りつけた。
    「まあ、それはさておき今は……やることやるか……平穏を壊す輩は……全員容赦はしない……!」

    「……警察に、攻撃等、くれぐれも無茶な行動はしないよう伝えてくれ」
     サポート隊からの『警察との連携が成った』という連絡に、隅也が返信した時には、Aチームも1体目を倒し、2体目の侍との戦いに突入していた……が。
    「円ッ!」
     ハリマが愛犬を呼んだが間に合わず、
    「……つうッ」
     隅也の肩がざっくりと、侍の刀に斬られた。
    「こちらを……向きなさい!」
     だがすぐさまオリヴィアが雷を纏った裏拳で侍を殴って引きつけ、朔夜が穿槍ブリューナクを深々と突き刺す。
     その間に、ハリマが隅也の深手を聖剣の光で治療する。
    「大丈夫っすか、無理せずこのままタタリガミ戦に向かうって手もあるっすよ?」
    「いや」
     隅也は手当されながら首を振る。
    「まだいける……それに」
     民間活動としても貴重な機会であるし、市民や市街の被害をなるべく抑えるためには、都市伝説をできるだけ減らしておかねばならない。

    「……いたい」
     鉄砲の光線が彗樹をかすめた。だがぐっと堪えて影を放ち、敵の動きを縛ると、
    「よっしゃあ、これでノルマ達成だぜ!」
     凛凛虎が嬉々として、血に塗れた無敵斬艦刀・Tyrantをひっさげて横手から飛びだしてきて。
     ザンッ!
     力一杯振り下ろされた重たい刃が、3体目の都市伝説を滅した。
     これで一段落と、闇沙耶が手早く報告のメールを送る……すぐに返信があり、A班も3体目を発見したが、もう少しかかるという。
    「手伝うべき?」
    「現場に辿り着くまでに、倒しちゃいそーかなあ?」
    「先にお城で……タタリガミを……確認しといた方がいいかも」
     彗樹がまた市街地図を開いて道をなぞる。
    「そうだな、まだ避難できてない人もいるかもだし」
     都市伝説の出現に近かった市街地の北側にいた人の中には、まだ避難しそびれている人がいるかもしれない。
     その旨をA班に伝え、4人は強敵を探しに城趾公園を目指す……と、戦場からほど近いビルの裏口から、ランドセル姿の子供達が3人、おずおずと出てきた。下校中に都市伝説と出くわし、ビルに逃げ込んでいたのだろう。
    「あの大きくて怖いの……やっつけたの?」
     すっかり怯えている子供に彗樹がラブフェロモンを、闇沙耶はアルティメットモードを発動し、
    「この街を助けにきたんだよ」
     正義の味方風に言い聞かせて安心させる。
    「この子ら警察に送りながら移動しようぜ」
     凛凛虎は地図を指で辿り、
    「そーしましょ。烈光さん、また先導頼みますよお」
     亜綾は子供のひとりと手をつなぐと、早速愛犬の後を追う。

    「――これで、仕舞いだ!」
     朔夜が叩きつけたマテリアルロッド・玉兎から、目映い魔力の火花が散り、A班も3体目の侍を撃破した。
    「ふう、なんとかなったっすね」
     ほぼ回復役として務めたハリマが、大きく息を吐いた。何とか班員全てが体力半減に至らずに済んだし、一般人の被害も今のところ最小限に抑えることができたようだ。ただ、強くない敵とはいえ3連戦であるから、灼滅者たちもそれなりに体力は削られてしまっている――と。
     朔夜の携帯にメールが入った。B班からだ。
     一読した彼の眉が曇る。
    「城趾公園でタタリガミを確認したが、公園にはまだ数十人の一般人が残っているそうだ」
     都市伝説出現の瞬間に公園に居合わせてしまい、動くに動けなくなってしまったのかもしれない。
    「それは大変! 私たちも早く行きましょう」
     オリヴィアが言い、決戦の地向かって走り出す。
     移動中にも、現場の状況が断続的に入ってくる。見せしめのように斬り殺されている一般人の遺体を発見したこと。B班もタタリガミの目に触れないよう民間活動を行っているが、サポート隊も警察と共に現地に向かっていること……仲間たちの迅速な行動により、残る一般人の安全確保は何とかなると思われた。
     とにかく今は城址公園へと急がねば――!

    ●天守閣跡にて
     蹂躙された城下を一望する天守閣跡で。
     一層大きく、一層邪悪に、侍――タタリガミは、灼滅者たちと対峙していた。
    「よくぞ来た、灼滅者よ」
     言葉らしい言葉を発さなかった都市伝説と違い、タタリガミは意味ある言葉を灼滅者たちに投げかけてきた。眼窩にも知性の光を感じる。
     これならば……と、隅也は期待する。もちろんタタリガミを倒すことが主目標である。しかし、敵の真意を知りたいと思う気持ちは抑えられない。
    「お前たちの、今回の行動の目的は何なのだ」
     溜まり溜まっていた疑問が吹き出す。
    「あなたが言っていた、灼滅者の攻撃とは、この間の電波塔への作戦のことですか?」
     オリヴィアも畳みかけるように質問を投げかける。
    「人間の『真の力』とも言っていたな。それは一体なんだ?」
    「バベルの鎖を弱体化させて何をするつもりですか? そもそも、バベルの鎖とは何なのです?」
    「ラジオウェーブの思想とは……とりわけ『真理』とはいかなるものなのか……おまえたちも、目的も信念も知られぬまま滅ぶことは望むまい?」
     仲間たちも、質問を投げかける2人と、それにじっと聞き入っている様子のタタリガミを、固唾をのんで見守っている。亜綾はこの隙に、もぐもぐと栄養補給をしているが。
     タタリガミが、ふっ、と笑ったような気がした。
    「随分と欲張って問うものだな。我らが答えるとも限らぬに」
     そして胸の前で腕を組み。
    「まあよい。答えてやらぬでもない……但し、3つまで」
     語り始めた。
    「ひとつ、人間の『真の力』とは、ダークネスの力といえば、お前たちは納得するか?」
     つまりそれは闇堕ちということだろうか。それとも……。
    「ふたつ。バベルの鎖とはそもそも……その働きは、お前達も知っている通りだが、問題はそこでは無い。真の問題は、それを何者がどのような目的で創造したかだ」
     何者が? どのような目的で……?
    「そしてみっつ。ラジオウェーブの思想や『真理』について知りたければ……」
     侍の目が、凶悪に細められ、
    「バベルの鎖を引き千切るのだな、鎖に呪縛されたままでは、真理に手が届く事は無い。つまり我らの目的を果たし、真理に到達するには」
     陣を敷く灼滅者たちを睨めつける。
    「七侍を六まで滅したお前たちを、我がここで倒し、この街の人間共の恐怖をより煽らねばならぬのだ!」
     ジャキッ。
    「……ヤバい」
     闇沙耶は身構えたが、侍はその巨大な図体に似合わぬ早撃ちで、前衛を光線でなぎはらった。ディフェンダーが庇いに入る暇もない。
    「やっぱタタリガミ本体は速いっすね……そして、強いっす」
     ハリマは衝撃と痛みを堪えながら聖剣を抜き、前衛に癒しの風を吹き渡らせた。ここまでの戦いでのダメージが大きい隅也には、円に命じて更に回復を施させる。
     タタリガミは、やはり都市伝説とは比べものにならないくらい強力な敵であるらしい。
     だが、倒さねばならない。いや、倒せるはずだ。
    「たあーーッ!」
     朔夜が復元された石垣の段差を利用し、気合いの入った槍の一撃を捻り込み、間沙耶は、
    「お伽噺は此れまで。地獄の炎魔が相手してやる!」
     刃に載せた炎を叩き込む。
    「雑魚がソウルボードで一旗揚げようてか? させるかよ。恐怖は俺が喰い潰す。てか、俺以外の恐怖は必要無い!」
     凛凛虎は雷を宿した拳で殴りかかり、亜綾は瞳を光らせて敵の行動を先読みしようとしている。オリヴィアは、タタリガミとの問答から生じた新たな疑問を気合いで振り払うと、連戦で蓄積した疲労にも挫けることなく雷を纏った裏拳で引きつけにいく。彗樹はディフェンダー陣に防護符を投げ、強敵との戦いに備え守りを固める。
     そして隅也も、タタリガミはこれ以上答える気はなさそうだと判断し、回し蹴りを喰らわせようとタイミングを計る。
     市街地の都市伝説は始末した。市民の避難も、サポート隊が警察と協力し着実に遂行してくれているはず。
     今はただ、目の前敵を倒すことのみに集中して――。

    ●哀しき伝説の末
     タタリガミは、なるほど強敵であった。それでも数に勝る灼滅者たちのチームプレイに押され、10分近く経つ頃には目に見えて弱ってきていた。
     だが、弱ってきているのは、長い戦いを経てきた灼滅者たちも同様で……。
     ザシュッ!
     突き出された巨大な刀が、踏み込みかけていた隅也の腹をモロに貫いた。
    「うっ……」
     隅也は何とか刀から身をもぎ離したが、よろよろと後退り、倒れた。意識はあるようだが、すぐには動けそうもない。
    「円、隅也センパイを防御しながら回復するっす!」
     ハリマが霊犬に指示を与えたが、その彼と霊犬とてここまで何度も盾になってきており、決して体力に余裕があるわけではない。
     だが、ここで守りに入ってはいけないのだ。
    「やるしか……ないんだ」
     彗樹が素早く影を伸ばして縛り上げ、オリヴィアは残り少ない体力を振り絞り、
    「たあああーーーッ!」
     巨大な敵の鳩尾に連続蹴りを見舞う。仲間を守りきれなかった悔しさを抱き、間沙耶は、
    「貴様に人を脅かす権利など無い! 神が赦そうと、俺が許さん、塵すら残さず逝け!」
     無敵斬艦刀・無【価値】を叩きつけるように振り下ろし、ハリマは、稲妻が迸るほどに掌に雷を宿し、
    「どすこーーーいッ!」
     全力で突き押した。
     真っ向からの連続力技攻撃に、ぐらりと敵の巨体がゆらぐ。
     その一瞬に亜綾は心を決め、
    「行きますよぉ、烈光さんっ」
     傍らの愛犬……かなりボロボロの……をむんずと掴み、
    「てえーいっ!」
     大きなモーションで、敵の視界を塞ぐように狙ってぶん投げた。
     敵は顔面めがけて飛んできた犬を邪魔くさそうに、しかし鋭い刀のひと振りで打ち払った。
    『キャイン!』
     その一撃で烈光さんは消滅してしまったが、
    「必殺ぅ、烈光さんミサイル、グラヴィティインパクトっ!」
     頭上から箒で加速度をつけた亜綾が突撃しながら、バベルインパクトを撃った。
     箒に乗っている分威力は失われたが、意表をついた方向から飛んできた杭を、敵は避けきれずグサリと喉元に受けた。
     ……ドゥ。
     地響きを立てて、巨体が膝をついた。
    「上出来だ!」
     朔夜は仲間が愛犬を犠牲にして作ってくれた好機を逃さず、
    「人々を闇へと引きずり込もうとする今回の所行……許さねえ!」
     石垣を蹴って飛び上がり、渾身の魔力を込めた杖を頭部に叩きつけた。
     そして。
    「物語なんざ、いらない。俺を殺しきる乙女。それだけが欲しい」
     満を持して凛凛虎がバトルオーラ【The Next World】のエナジーを拳に輝かせながら、巨大な敵の懐に潜り込み、
    「この世界は俺が力で支配するんだ。お前達の好き勝手なんざ許すかァ!」
     高速で叩き込まれた拳の連打が放った光は、敵と灼滅者たちを目映く包み込み――。
     ……人が在るかぎり、物語も在り続ける……。
     煙のように揺らぎ消えゆくタタリガミの姿から、そんな言葉が微かに聞こえた気がしたが。
     光が消えたあとには、哀しみの城跡が、数限りない物語を内包したまま静かに佇んでいた。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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