バベルの綻び~伝説の巨大爬虫類

    「皆さんのおかげで、多くの都市を襲った巨大七不思議を全て撃破できました。ありがとうございます」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は、集った灼滅者たちに頭を下げた。
     今回の全体作戦の勝利により、ラジオウェーブの電波塔再建を阻止した上、ヤツの切り札の一つと思われる『精鋭のタタリガミ』達も灼滅することができた。
     更に、ラジオウェーブの目的の一つであった『一般人に都市伝説を認識させ、ソウルボードを弱体化させる』という計画も、灼滅者の活躍を人々に知らしめる『民間活動』と転じることができ、まずは大成功といえよう。
    「ある程度予想されたことではありましたが、今回の大規模な『民間活動』の成果は、ソウルボードにも大きな影響を与えたようなんですね」
     ソウルボード内の力が集中する地点に小さな綻びが生じ、そこから力が漏れ出ようとしている事が、新沢・冬舞、文月・咲哉、御鏡・七ノ香、ラススヴィ・ビェールィらの調査によって確認されたのだ。
    「現在、この地点には、巨大な『鎖』のようなものが出現し、ソウルボード崩壊を防ごうと綻びを繋ぎ留めて、力の流出を何とか防いでいます。『鎖』の正体は今のところ不明ですが、もしかしたら、この鎖こそ『バベルの鎖』なのかも……」
     このまま何事も無ければ、ソウルボードの綻びは、この『鎖』の作用によって修復されると予測されている。
    「様々な調査結果から、闇堕ちはソウルボードからの力の影響で起きると考えられています。ソウルボードの力が溢れ出れば、その力を得たダークネス達が強化されたり、一般人の闇堕ちが誘発される可能性があるので、綻びが修復される事自体は悪くない……のですが」
     典はそこで難しい表情になり。
    「このソウルボードの綻びが『これまでの民間活動の成果』であるとすれば、これを修復されるままにする事は、これまでの活動を否定する事にもなり得るわけでして」
     このまま『鎖』によるソウルボードの修復を認めるべきか?
     或いは邪魔をするべきか?
     どちらが正しいか現時点で断定する事はできない。
    「ですので、実際に『鎖』と対峙し、歴戦の灼滅者の感性や意志を以て、どうするべきかを決めてもらいたいのです」
     但し『鎖』の扱いを決断する前に、やらなければならないことがある。
    「綻びの地点では、今回の失敗を少しでも取り戻そうと、都市伝説が『鎖』の動きを邪魔しつつ、ソウルボードの力を掠め取ろうと動き出しています」
     この姑息な都市伝説を撃破した上で、『鎖』への対応を選択して欲しいのだ。
    「このチームに担当してもらうのは、『捨てられて繁殖・巨大化した爬虫類』です」
     アメリカ発祥の都市伝説で『捨てられたペットのワニが、下水道で巨大化・大繁殖して棲み着いている』というのがある。
     典は少々眉を怒らせて。
    「アメリカ発祥なのでワニが有名ですが、日本にも似たような話がありますよね。池や川に危険なワニとかカメとかヘビが棲んでいて、人を襲うとか。都市伝説だけに終わらず、リアルでもそれ系の事件は後を絶ちませんし、全くケシカランことです」
     無責任な飼い主がいるのは、アメリカだけではない。
    「なので、今回の敵は、巨大ワニとカメとヘビ、それぞれ3体ずつです」
     しかもどれも現存する大型種よりも一回り大きく、且つ獰猛になっているという。
     ううぅ……と、灼滅者たちからうめき声が漏れた。
     ちなみに、都市伝説は灼滅者から攻撃を受けると、灼滅者の迎撃を優先する。
     また『鎖』は、攻撃されない限りは反撃してこないので、都市伝説と灼滅者の戦いには介入せず、ソウルボードの修復を続けると見られる。
    「気持ち悪いターゲットで誠に恐縮ですが、ま、都市伝説ですので戦力的に苦労されることはないでしょう……むしろ」
     典はもう一度、灼滅者たちの顔を見回して。
    「ソウルボードとバベルの鎖の扱いをどうするべきかの方が、難題かもしれません。ここは皆さんの経験と判断力を信じ、決断をお任せします。どうか熟考の上、よりよい行動を!」


    参加者
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    夜伽・夜音(トギカセ・d22134)
    饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)
    ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)
    驚堂院・どら子(コンビニ大学卒っ・d38620)

    ■リプレイ

    ●夢の下水道にて
    「あれれ……?」
     彼らが指示通りにソウルアクセスし降り立った場所は、陰鬱で薄暗く不潔なトンネル……下水道であった。足下には汚水がちょろちょろと流れている。
     ここにあるはずの、ソウルボードの綻びと、それを留めようと縛る環の連なり、加えてそれに群がる有象無象の巨大爬虫類は見当たらない。
    「こんなこともできるなんて、びっくりだね!」
     饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)は眼前に忽然と現れた光景に、目をごしごしこすった。
    「白いワニとか、いるかなー」
     人間の物語エナジーがある限り、都市伝説は何でもありなのであろう。このいかにもな下水道とて、都市伝説がソウルボードのエナジーをかすめとり、場を形成したのであろうし。
     とはいえこの場には非常にリアリティがあり、悪臭すらも感じられる。
    「一体、ソウルボードでなにが起きようとしているのでしょうね」
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は熱心に辺りを観察している。
    「巨大な鎖……ですよね」
     呟くように応えたのは高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)。
    「もしそれがバベルの鎖だとしたら……いえ、今はやるべきことをやるだけです。鎖に接近するためにも、まずは都市伝説を灼滅しましょう」
    「ま、都市伝説の連中を排除するのは当然として」
     鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)愛用のナイフを油断なく構え、
    「鎖の方は、正直どんな結果になるか読めない部分もあるけど……いずれにせよ、現状のままじゃ事態が改善される可能性は少ないし。ここはひとつ、賭けてみましょうか。私達を縛っていた運命の鎖を、引き千切ってやるわ」
     今は、彼らの小声がトンネルに反響する音、汚水の流れる音しか聞こえない。だが、邪悪な気配はひしひしと迫ってくる。
     肝心の鎖の姿は今は見えない。おそらく都市伝説を撃破し、この下水道のカタチを取った場を崩壊させねば、接触できないのであろう――と。
    「――来る!」
     足下の汚水が突然増水した。そして黒く濁ったその水が盛り上がったかと思うと。
     ギシャアアア!
     怪獣めいた叫びを上げて、巨大な白いワニが飛び出してきた。
    「!!」
     ガチン!
     巨大な顎が閉じられた。現在世界最大のワニはオリノコワニの7mと言われているが、コイツは確実に8mくらいある。
    「わ……わぁ、おっきいさんだねえ……っ!」
     至近にいた夜伽・夜音(トギカセ・d22134)は咄嗟に跳び退って避けたが、まともに噛まれていたら、腕の一本くらい噛みちぎられていたかもしれない。
     そして気づけば、彼らは9匹の巨大爬虫類に囲まれていた。
     だが、ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)は、
    「所詮は滑稽な既知の都市伝説」
     嗤って『恋人』である影を引き寄せ、驚堂院・どら子(コンビニ大学卒っ・d38620)は、
    「捨てられた爬虫類なんて都市伝説四天王のなかでも最弱……こんな連中に負けたら恥さらしですよ」
     わざわざハードルを上げた。
    「数が多いの苦手なんだけどな」
     紅緋は眉を顰めつつも、鬼の拳をぐっと握りしめ。
    「まあ腰を据えて殲滅していきましょう!」
     バシャリと汚水の流れる床を蹴り、戦いが始まった。

    ●巨大爬虫類
    「その甲羅、鬼神変に耐えられますか!?」
     紅緋が真っ先に殴りかかったのは、甲羅だけで1m以上もありそうなカミツキガメであった。カメは3匹、うち1匹は甲羅の柔らかいスッポンなのでおそらくこれがメディックで、堅いカミツキガメとタイマイがディフェンダーであろうという判断だ。
    「てえーい!」
     半獣型に変じた樹斉も、同じカメに跳び蹴りを見舞ってひっくり返したが、
    「白い蛇もいるわね」
     狭霧は敢えてやっかいものの蛇を狙っていく。
    「貴方方の元となった状況に関しては人間の勝手な都合でと懺悔する他ありません……」
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)は人間の身勝手さから生まれた都市伝説に詫びながらも、
    「けれど、ここで思い通りにはさせません。わたくし達が来た以上、最早往く事も退く事も適わぬとお知りなさい!」
     カミツキガメに容赦なく聖剣を突き刺した。ニアラの掲げた蝋燭からは青い炎の小妖怪が次々と現れて敵前衛の足を止めた……が。
     ビシュルッ!
     後方からアリゲーターの長いしっぽが延びてきて、
    「うぎゃっ」
     どら子をはり倒した。
     早速汚水にまみれてしまったどら子だが、すかさず妃那が天使の歌で癒し、夜音が御伽奇譚で出現させた黒目黒髪の少女が、アリゲーターに無邪気にまとわりついて遠ざけたので、大事はない。
     被るダメージ具合からみると、数は多いし不気味ではあっても所詮都市伝説、今の灼滅者たちにとっては容易い敵であるようだ。
     今は一刻も早く、この不快な場を抜けて、鎖の元へ――。

    ●汚濁を抜けて
     数分の後。
    「まったく、数ばかり集まって!」
     紅緋が短く愚痴る。
     ディフェンダーを倒してしまってから戦いはぐんと楽にはなったが、それでも数は多いので、ちまちま与えられるダメージが鬱陶しい。
    「もうちょっとですよ!」
     妃那がギターから癒しの音色を前衛に送り、
    「うん、がんばるよっ!」
     樹斉がぐいと踏み込んで、大刀をイリエワニの大口に深々と突き刺した。
     グアアアア……!
     断末魔も怪獣っぽい。
     これでクラッシャーも全て倒し、残るは後衛の2体のみとなった。
    「まとめてやっつけてやるわ!」
     狭霧がナイフから毒竜巻を放ち、セカイはやっと届くようになった聖剣で、アリゲーターの堅い背中を削いだ。夜音が十字架からの氷弾を撃ち込むと同時に、ニアラがワニの脳天に黒々とトラウマを宿した拳を……と、その手に。
     ガアッ!
     瀕死のワニが、最後の力を振り絞るようにしてかじり付いた。
    「……む」
    「大丈夫ですか!」
     だが、すぐにどら子が力任せに口から手を引っこ抜き、包帯を巻いて回復する。
    「あっ……させませんよ」
     その隙に、ワニの回復をしようとしたスッポンを、妃那が影を絡みつかせて妨げておき。
    「頂戴します!」
     すかさず紅緋の影・モンラッシェが勢いよくアリゲーターを切り刻み……巨大なワニも肉片となり、水没し消えた。
     残るはスッポンのみ。
     ここまで回復一辺倒だったスッポンも、首を伸ばして飛びかかってきたが、
    「えいっ!」
     樹斉が気合一発盾となり、半獣のもふもふの腕に噛みつかせた。
    「ありがとっ!」
     狭霧が盾となった仲間を飛び越え、細長い首にナイフを走らせる。セカイは子守歌で判断力を奪い、ニアラの『恋人』は甲羅を切り刻む。
     たまらず樹斉から口を離したスッポンを。
    「カメさんたちは好きだけど、だからこそこんな御噺はかなしいさん。夢の中でも、ちゃんと眠りについて欲しいよぉ」
     夜音が同情混じりのトラウナックルで殴り飛ばすと。
     バシャン!
     スッポンは重い水音をたててひっくり返り……もう姿を現すことはなかった。
    「全部始末できたようですね」
     妃那が天使の歌声で、樹斉の噛み傷の治療をする。
     メディック陣のこまめなヒールにより、敵の多さにも関わらず、今のところダメージの蓄積は最小限にとどめられているようだ。
     ――しかしその治療も終わらぬうちに。
    「わわ、何事でしょうか?」
    「眩しいっ」
     スクリーンが上がったかのように、下水道が消滅した。

    ●出現
     暗いトンネルに慣れた目に、その光景はあまりに眩しかった。
     綻びを見せるソウルボードと、それを留めようとする巨大な鎖が、ついに目の前に現れたのだ。
     その光景に見とれながら、
    「……これが鎖。何とも重々しい。ソウルボードの自己修復機能といったところでしょうか」
     紅緋が呟き、
    「どこから伸びてるんだろうねー?」
     樹斉はしげしげと縦横に絡み合っている鎖を見つめる。
     全体像が掴めるわけではないので印象ではあるが、鎖はソウルボードをソウルボードたらしめるために、整えている風に見えた。そして根本はどうやらソウルボードにつながっている模様。
     しかしニアラは相も変わらぬ無機質な声で。
    「破壊すべき。人類の築いた『不滅』など崩壊して終え」
    「そうですね、壊しましょう」
     紅緋もあっさり頷き、また武器を構えたが。
    「待って。少しだけ調べさせて」
     狭霧が慌てて押し止め、他の何人かも用心して鎖へと近づいていく。
     垂れ下がっている鎖に指先で触れ、
    「例え上手く読み取れる可能性が僅かでも……お願い『鎖』よ、わたくし達に明日への道標を!」
     祈るような気持ちでESPを使ってみたセカイとどら子は、
    「残念です。意識のようなものはもっていないようですね」
    「だねえ、コイツコミュ手段、持ってないわ」
     どら子は舐めたりもしてみたが、意志疎通はできそうもない。
    「ソウルボードの綻びを見ておきたいです」
     妃那は思い切って鎖をたぐってよじ登り、綻びを覗こうとすると。
     バチッ!
    「きゃっ!」
     突然火花が散り、弾かれてしまった。
     鎖が、灼滅者たちを邪魔者と判断したらしい。
     ザリザリザリ……ゾゾゾゾゾ……。
     鎖が不穏に蠢き始めた。
     修復作業を中断し、邪魔者を排除することにした殺気が伝わってくる。
     鎖がソウルボードを守っている……?
     状況としてはそう見える。だが灼滅者たちには、鎖から逃れようとしているソウルボードを、鎖が捕らえ直そうとしているようにも感じられた。
    「もういいですね? 攻撃しますよ」
     紅緋が問い、観察していた仲間たちも頷いた。
    「これまでの『民間活動』で現実世界とソウルボードが地続きになろうとしているなら、その道を推し進めるまで!」
     放った風の刃は、金属質で堅そうに見える鎖に確実に傷をつけた。鎖もそれほど強いというわけではなさそうだ。
     樹斉が獣の跳躍力で結び目を蹴りつけ、狭霧は蠢きを鈍らせようとナイフを環にぐいと差し込む。
     その隙に、弾き飛ばされた妃那は素早く自己回復を図る。セカイも覚悟を決めて、
    「鎖を破壊する事が本当に正しい事なのかはわかりません。災厄の箱を開けてしまう事になるのかも……でも、その不安も責任も背負ったまま、先に進むと決めたんです!」
     聖剣を環に深々と差し入れ、ニアラは敵の防御を低めようと『恋人』に刃を振るわせる。夜音は十字架の激しい打撃で端の環を叩き壊し、どら子は、
    「バベルの鎖……壊すことで世界の真の姿を一般人にも示しましょう。隠蔽も陰謀ももう終わり。革命の始まりですっ」
     気合い満点で影の刃を放った。
     ジャリッ。
    「うっ」
     しかし思いの外、速いスピードで鎖が動き、
    「しまった!」
     セカイが絡め取られて高く持ち上げられてしまった。
     だが、
    「離せー!」
     樹斉が根本を狙ってキックで炎を叩きつけ、狭霧が毒竜巻で全体を包み込み、セカイ本人も苦しみつつも剣でぐりぐりと鎖をえぐり、鎖は彼女を解放した。
     すぐさま妃那が回復に走り、紅緋は影の刃を伸ばして牽制する。
     どうやら敵は、単体攻撃しか持っていないようである。
    「こんな狂った世界でこんな鎖を造ったラスボスは、きっと邪な神に違いないよ……おーい、でてこーい!」
     どら子が縛霊手を揚げて結界を張り、ニアラがトラウナックルで修復箇所に近い部分を殴ると。
     ボロ……。
     氷山が砕けるかのように、ソウルボードのひとかけらが落ち、そして、ドライアイスの気化のようにすぐに消滅した。
     その様子を見て、夜音は思う。
    「鎖が壊れると、ソウルボードも壊れちゃうのかな……壊れたら、世界は、どうなっちゃうんだろう」
     だが、今は。
     夜音はぶるんとひとつ頭を振って想いを振り払い、十字架を構えた。

    ●破壊、そして崩落
     そしてまた数分の後。
     バチッ!
    「うっ」
     電撃攻撃が、肉薄していた狭霧を襲った。
     だが弾き飛ばされた彼女と入れ替わるように、樹斉がセカイの美しい歌声をバックに跳び蹴りを見舞う。ニアラは、
    「人類の鎖を冒涜すべき。人類の成した壁を腐らせ屠れ。其処には真理も何も無く、在るのは既知の愚かな貌よ。されど我は哀れな人類を抱擁する。何故か。人類=灼滅者=闇こそが最も愛おしい輪郭故に」
     ここまでの攻撃でゆるんだ鎖の結び目を狙って、幾度目かのトラウマを宿した拳を叩き込み、妃那はここは攻め処であろうと、狭霧の回復をどら子に任せ、膨れ上がった影の兎と蛇に、鎖をずるずると呑み込ませる。
     鎖はあちこちの環に亀裂を生じ、ショートしているかのようにバチバチと小さな火花を飛ばしている。なんとか綻びだけはつなぎ止めている状態だが、崩壊は間近であろう。
    「……もし先生が世界のどこかにいるのなら」
     綻びたソウルボードと今にもちぎれそうな鎖を前に、夜音の想いは、どうしても恩人へと向いてしまう。
    「僕は先生の居場所をころしちゃうことになるのかな」
     それでも彼女は両掌を前に突き出し、暗黒を心の底から引きずり出して、狙い澄まして結び目へと撃ち込む。
     すると、明らかに鎖の動きが鈍った。そして一層結び目が緩む。
    「今ですっ!」
     紅緋がのたうつ鎖を引きつけようと、オーラを宿した拳で連打を見舞う。
     じゃり……。
     激しい打撃をうけつつも、鎖は最後の力を振り絞るかのように、紅緋を絡め取ろうと蠢いた……が。
     狭霧が身軽に鎖本体に跳びつくと、綻びを縛る結び目に迫り。
    「これでお終いよ!」
     ナイフを柄まで潜り込みそうなほど、深々と突き刺した。
     ……ガシャ。
     そのひと突きに鎖は動きを止め。
     ……ガシャガシャ……ガシャン!
     とぐろを巻きながら崩れ落ちて、消えた。
    「やった、壊したよ!」
     ……そして。
    「――ソウルボードは?」
     灼滅者たちは綻びを見上げた。
    「あ……崩れますよ!」
     セカイが指したその先で、ソウルボードは、氷山が崩れるかのように、大きくその一角を砕けさせた。
     妃那が急いで駆け寄るが、その手に触れるまえに欠片は気化したかのように消えてしまう。
     崩落に音は伴っていないが、ニアラはその無音に耳を澄ます。
    「我が脳髄に染み込む破壊音。真に愉快が晒される筈よ」
     だが、欠片はソウルボードに還ったのではなく、現実世界に消えていったようにも感じられた。
     狭霧は難しい表情で崩れ消える欠片を見つめて。
    「さて、今回の結果が吉と出るか凶と出るか……いずれにせよ、状況が動き出すコトには変わらないわね」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年4月13日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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