タタリガミの最期~廃トンネル立てこもり

    ●とある廃トンネル
     グワッシャ!
     南側の入り口にうずたかく積み上げられたゴミや岩を突き崩すようにして、何か長いモノが飛び込んできた。
    「くそっ……ここまで追いかけてきやがったか!」
     それを見て男は、微弱な電波を何とか受け止めようと調整していた無線機を、急いで革ジャンのポケットに仕舞い込んだ。
     トンネルに飛び込んできたモノは、大きな鎖であった。7メートルほどの長さがある。
     その鎖はどこにもつながってはおらず、空中で大蛇のように自在に蠢き、革ジャンの男を狙う。
     ここはトンネルではあるが、背後の北側入り口は崩落しており、人ならぬ身ではあっても、そう簡単に通り抜けることはできそうにない。
     退路はない……ということは、戦うしかない。
    「簡単にやられはしないぞ、ここならば七不思議をフルに使うことができるんだからな!」
     男の回りに、トンネルにまつわる怪異が次々と現れる。
     傘を持った陰気な女に、17人の僧侶。足の速そうな老爺と老婆。赤ん坊を背負った女に、リアカーを引く老婆。そして女の手のカタチを取る白い煙。
     そういえば、男自身も不気味なライダー風の姿をしている。
    「それ行けっ、鎖を撃退しろ!!」
     七不思議が彼の命に従い、次々と鎖に襲いかかっていく。
     だが、鎖はそれらの怪異による攻撃を上回る強さを持っておりーー。
     ついに。
     バリバリバリ……ビシャーーーン!
     トンネル全体を揺るがすような凄まじい電撃が男を襲い。
    「ぐああああああぁぁぁっ!」
     男はトンネルの闇の中で消滅し……その直後に、鎖もどこへともなく消えていった。

    ●武蔵坂学園
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は、集った灼滅者たちに一礼した。
    「先日のソウルボードでの作戦、お疲れ様でした。おかげさまで概ね、都市伝説も鎖も撃退することに成功しました」
     ラジオウェーブの勢力は、ソウルボードの電波塔を失い、切り札だったであろう巨大七不思議を撃破され、最後の望みをかけたと思われる今回の作戦も阻止され、壊滅状態といって良いだろう。
    「ラジオウェーブの行方は掴めてませんが、勢力として大きな事件を起こす力は残っていない筈です。ラジオウェーブ配下のタタリガミ残党も、自分1人の拠点に引きこもって守りを固めている体たらくなのですが、そのタタリガミたちが襲撃されるという予知がありまして」
     落ち目のダークネス組織が他のダークネス組織に潰されるのは、良くあることだが、今回は少し様相が違っている。
    「なんと、タタリガミを襲う襲撃者は『突如現れた巨大な鎖』なのです」
     間違いなく、ソウルボードで都市伝説が攻撃していた『鎖』と同質のものだろう。
     鎖は、全長7m程度と少し短めな分、動きが早く、多彩なサイキックを使用して攻撃を行なってくる。ソウルボードを守っていた鎖よりも、戦闘力は間違いなく上だろう。
     それを証明するように、鎖はタタリガミを終始圧倒して撃破、その後、何処へともなく消失してしまうのだ。
    「この襲撃は、ソウルボードへの攻撃に対する報復と見るのが妥当でしょうが、あの鎖が『好きな場所に出現できる』としたら、かなりヤバいことです」
     また、多くの灼滅者が『鎖の破壊』を行っている為、タタリガミの次は灼滅者が標的にされる可能性もある。
    「そういうわけなので、急ぎ現場に向かい、脅威となる前に鎖の撃破を行なうか、或いは、なんらかの情報を持ち帰っていただきたいのです。ソウルボードでの事件の情報から考えると、鎖との会話などは行えないでしょうが、何かしら感じとれるものがあるかもしれません」
     典は地図を広げ、目的地を示した。
     このチームが向かうのは、北関東某所・旧道の廃トンネルである。
    「道路自体もこのあたり数㎞に渡って使われておらず、周囲は深い山です。当然立ち入り禁止で、廃墟マニアや心霊スポットマニアくらいしか訪れない場所ですから、タタリガミが隠れるには良い場所だったでしょう」
     だが、そのトンネルをも鎖は感知して襲撃してくるのだ。
    「このトンネルに籠もっているのは、現在『トンネルライダー』と名乗っているタタリガミです」
     トンネル始め、道路関係の都市伝説を多く生み出してきたタタリガミらしい。
    「急いで現地に向かえば、鎖がトンネルに突入する少し前に到着できます」
     鎖はトンネルの南側の入り口の手前に姿を現すようだ。
    「鎖は、ソウルボードで戦った時よりも攻撃に特化され、強くなっています」
     ソウルボードで使ってきた捕縛や電撃の他、打擲や金属片を発射してきたり、また回復の能力も持っていそうだという。
    「灼滅煮と鎖の戦闘が始まれば、タタリガミは逃走する可能性が高いです。それを阻止したい場合には、タタリガミが鎖に撃破されてから攻撃を始めるか、先に鎖と共にタタリガミを攻撃しなければならないでしょう」
     どちらにしろ、トンネル南側入り口を見張れるよう付近の山に潜み、鎖がトンネルに突入した後を追いかけるような形で介入するのがよいだろう。
     また鎖は、タタリガミとの戦闘中は撤退する事はできないが、灼滅者との積極的な戦闘は、現状では望んでいないようである。タタリガミが逃走するか灼滅された後に、灼滅者が撤退すれば、鎖も追撃をかけてくることはなく、戦闘は終了するだろう。
     そこまで説明した典は、ふと首を傾げた。
    「鎖の目的はいまひとつハッキリせず、単純な報復と言い切っていいのかどうかは難しいところです。或いは、何か別の理由があるんでしょうか。何か嫌な予感がしますね……」


    参加者
    風真・和弥(仇討刀・d03497)
    七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)
    深束・葵(ミスメイデン・d11424)
    戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)
    祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)
    今野・樹里(切り札・d20807)
    アリス・ドール(絶刀・d32721)
    篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)

    ■リプレイ

    ●トンネル突入
     新緑に包まれた、山中の廃トンネル。
     灼滅者たちは周囲の緑の中に身を隠し、件の鎖の出現を待っていた。
     そして予測された時刻が訪れて。
     ガレキや石、ゴミなどで半ばふさがったトンネルの入り口の傍に忽然と、音もなく――鎖は現れた。
    「……一体、この鎖はなんなんだろう?」
     空中でうねうねと大蛇のように蠢く鎖を、右目を隠す鬼の面に触れながら茂み越しに見上げ、篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)は思わず呟いた。
    「……タタリガミを襲うとか……いったい何がしたいんだろう、ね」
     アリス・ドール(絶刀・d32721)も眉を顰めて鎖を見つめている。とにかく今回の依頼には謎が多い。
     隣で、周辺の環境や、鎖の出現状況を一生懸命メモしていた、七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)が顔を上げてアリスに、
    「わからないことは、調べましょう。デートしながら、です」
     デートって何のことだ? と、戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)は首を傾げつつも、
    「鎖が何をしているかは気になるが、今は撃破を優先だな。油断せずにいくとしよう……っとぉ!」
     グワッシャ!
     突然の爆音にその首をすくめた。
     ウォーミングアップのようにトンネル入り口付近で全身をくねらせていた鎖が、とうとう障害物を突き破って、内部へと突入したのだ。
    「よし、入ったな。行こう」
     今野・樹里(切り札・d20807)が仲間たちを促す。
    「鎖の不可解な動きが気になるぜ。タタリガミも鎖も、両方この機会に倒しておきてえし、暫く鎖の動きを見てみるか」
     灼滅者たちはそっとトンネル入り口へと近づき、早速激しい戦闘音が聞こえてきた内部を覗き込む。
     目が慣れてくると、暗いトンネルの中で、黒ずくめの怪しいライダーが、トンネルの都市伝説を次々と出現させ、迫り来る鎖と戦っているのが見えてくる。
     鎖と戦っているのは、傘を持った陰気な女に、17人の僧侶。足の速そうな老爺と老婆。赤ん坊を背負った女に、リアカーを引く老婆。そして女の手のカタチを取る白い煙……どれもどこかで聞いたような気がするトンネルの怪異である。
     タタリガミ対鎖……その激しい戦いを観察しながら風真・和弥(仇討刀・d03497)は考えを巡らす。
    「ラジオウェーブ勢力が襲われる原因になったのは、やはり先日のソウルボードの攻撃なんだろうか……?」
     灼滅者も介入した『バベルの綻び』作戦におけるラジオウェーブ勢力の行動が、この事態を招いているのではないか、というのが現在の武蔵坂の見解である。
     鎖は、次々と繰り出される七不思議をモノともせず、確実にタタリガミにダメージを与えていく。
     鎖は先日の『バベルの綻び』作戦の時とは姿も能力も微妙に違うようだ。ソウルボードから離れて活動するためなのか、長さは短くなったが、その分身軽でスピードがある。修復の役割が無い分、攻撃に特化され、威力も随分上がっているようだ。攻撃の種類も増えており、前回確認された電撃や捕縛攻撃だけではなく、強烈な打擲や、金属片をマシンガンのように射出して、みるみるタタリガミを追い込んでゆく。
     つまり、鎖はその時々の任務に合わせ、長さや能力、そして行動を調整できるということ……? そして、それを命じているモノがいる……?
     ふっ、と深束・葵(ミスメイデン・d11424)が、苦い笑みを漏らした。
    「今頃になってようやく、ラスボス的な世界の防衛機能みたいなやつが登場してきたって気配がしないでもないね……ま、アタシらもダークネスも共に、ある意味バベルの鎖の落とし児と言えないこともないから、こういう展開は、全く予想出来なかったわけではないけどね」
     戦いを熱心に観察しているうちにタタリガミはどんどん攻められ、今や瀕死の状態である。必死に回復を試みているが、その間にも鎖が襲いかかってくる。あと一撃、強烈な攻撃を受けたら、消滅してしまうだろう――。
    「――おい!」
     それを見て、辛抱たまらんというように、和弥がガレキの隙間で立ち上がり、タタリガミに声をかけた。滅してしまう前に、謎の一端でもタタリガミから得ておきたいという思いのあまりに。
    「随分と妙な状況になっているけど、その鎖はなんだ? ……話によっては此方も鎖と戦う事になるのかもしれないしな……」
    『……灼滅者か』
     這いずるようにして鎖から遠ざかろうとしているタタリガミが血塗れの顔を上げた。
    『何しに……ぐあっ!』
     バリバリバリ……ビシャーーーン!
     しかし答える間も与えずに、強烈な電撃の光がトンネル中を満たし……その光が収まった時には、もうトンネルライダーの姿は無く。
     至極あっさりとタタリガミが鎖に滅されてしまったことを悟り、
    「あぁ」
     祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)が小さくため息を吐いた。
    「タタリガミとは、この場で敵対する理由もなかったけど、かといって普通に人間に危害を加えてそうで、見逃してやる理由も無かったからなぁ……」
     結果的に見殺しにしてしまったようなものだから。
    「まったく心が痛まない訳ではないけど、まぁロクでもない奴だった事を祈りましょう」
     鎖は、タタリガミの消滅を確かめるように、しばし空中にとどまっている。その様子を見て久遠が、鎖が消えてしまう前にと仲間に声をかけた。
    「今が好機だ。いくぞ」

    ●トンネルの戦い
    「おう!」
     そう応じて真っ先に、瓦礫の隙間から飛び出していったのは和弥。
     だが、武器をだらりと下げたまま鎖に近づいていき、攻撃する様子はない。
     一体何をするつもりだ? と不思議に思いつつも、仲間たちも彼の背を追っていく。
     すると、タタリガミが消えたことを見届けたからなのか、灼滅者たちが近づいていったからなのか、鎖が端の方から消え始めたではないか!
    「うわやべっ、マジでこっちから攻めないと逃げちまうんだな!」
     和弥は慌てて愛刀・風牙を抜いて斬りつけた。鎖の行動をギリギリまで観察するつもりだったようだ。
     ガチン!
     金属同士が当たった鈍い音がトンネル内に響き、薄れ始めていた鎖の姿が、ピントが合ったかのように再びハッキリと見えてくる。そして、どこが顔であるという区別があるわけではないが、鎖が灼滅者たちの方を向いた気配がした。
     その気配を感じ、鎖が自分たちと戦う意志を持ったと確信したアリスは、
    「……切り裂く……」
     ガッ、と、かつて道路だった石ころだらけの地面を猫のようにしなやかに蹴ると、トンネルの壁を伝うようにして横手に潜り込んで刃を振るい、鞠音は、
    「巨大化する鎖、なのに敵対は避ける……なぜ、負けるから? 理由を、聞かせてください!」
     十字架を鎖に絡みつけつつ、答えてくれないことはわかっていても、疑問を口に出さずにはおれない。
     そこに彦麻呂がクロスグレイブから氷弾を撃ち込み、
    「風雪、回復を頼むぞ」
     霊犬を後衛へと送りこんだ久遠は、
    「さて、腕試しだ」
     自らは拳を握って我流・要散木を見舞う。
    「我是丸、突撃じゃ!」
     葵は愛機に突撃を命じつつ、鋼の帯を射出し……と、そこまで灼滅者の出方を窺うように空中でうねっていた鎖が。
     バチバチバチ、バキッ。
     突然火花を散らし、電撃を放った。
    「!!」
     葵は強烈な電撃にふっとび、トンネル壁面に叩きつけられた。ディフェンダーが庇う暇もない。
     タタリガミとの戦いで、多少なりともダメージを受けているはずなのに、まだこれほどの力を持っているとは……!
    「大丈夫か!?」
     だが、そこにすかさず樹里が影をのばして敵の動きを妨げ、同時にビハインド・影裂きも霊障波で毒を与えている。
     その間を逃さず鬼の面ですっかり顔を隠した伊織が、
    「今回復する!」
     ダイダロスベルトを延ばした。
    「……すまぬの」
     素早い回復によって傷の癒えた葵はぶるりと頭を振って起き上がった。
     仲間の回復を見届けた和弥は、
    「なかなか手強いな」
     今度は一閃を緋色に輝かせながら斬りかかる。
     アリスと鞠音は素早く視線を交わすと、
    「――雪嵐」
    「影縫い――」
     まずはアリスが絶刀「Alice the Ripper」を絡みつけて鎖の動きを止め、そこに鞠音が狙い澄ました黙示録砲で凍り付かせた。
     そこに彦麻呂は十字架を叩きつけながら、
    「私たちが知るバベルの鎖と、どう違うんだろうな……?」
     少しでも情報を得ようと手応えを測り、久遠は我流・鬼哭晦冥を放つべく、影を足下に引き寄せた――その時。
     バリバリッ!
     また鎖が全身から火花を迸らせた。電撃が狙うのは、久遠に続いて影を放とうとしていた樹里……!
     それを悟った久遠は、
    「ここは俺が抑える、攻撃を頼んだぞ!」
     激しい電撃を引き受け、
    「ありがとうっ!」
     樹里はビハインドに顔を晒させながら、影を延ばして敵の長い全身をすっぽりくるみこみ、更にそこに葵がキャリバーと共に、激しい銃撃を見舞う。
     盾となった久遠は、もちろん伊織がそつなく回復を施している。
     攻撃が上手くつながるようになってきて、灼滅者たちは「やれる」という確信を持つ。
     いや、何としてもやらねばならない。こんな恐ろしい、しかもソウルボードから自在に現れる敵を、人の世に放つわけにはいかない……!

    ●鎖
     ズガガガガ!
     まるでマシンガンのように、後衛へと金属片が撃ち込まれた。
    「守るよおッ!」
     咄嗟に飛び込んで、金属の雨から大事なメディックを守ったのは彦麻呂。
    「助かる!」
     伊織はすかさず風雪と共に、傷を受けてしまった後衛に回復を施す。
     その間にも前中衛はもちろん鎖に攻撃を加えている。
     戦闘に突入してから数分が経ち、灼滅者たちはかなりのダメージを鎖に与えることができている。タタリガミと戦った後遺症もあるのだろう、鎖は、序盤に比べれば動きも鈍り、輪のあちらこちらにヒビが入り、色つやもくすんできている。
     もちろん灼滅者たちもそれなりのダメージは受けているが、手数と回復力、そしてチームワークではこちらが断然上だ。
     彦麻呂は自らに蛇剣を巻き付けて回復を図りながら、鎖がまき散らした金属片に手を延ばした。持ち帰れれば何らかの手がかりになるかもと思ってのことだが、触れる前に金属片は消えてしまった。ダークネスの撃つ銃弾の類いが物質として残らない事例が多いのと同じような現象なのかもしれない。
     鎖の正体を明らかにしたいという欲求は皆強く持っているが、今はとにかくこの敵を退けなければならない。
     前中衛に続き、回復成った後衛も、ダメージに怯むことなく次の手に出る。
     葵は突撃する愛機の頭越しに爆炎を秘めた弾丸を雨霰とばかりに撃ち込み、鞠音はここまでの戦いで得た鎖の印象について考えている。
    「(鎖は、ソウルボードへの、干渉を行うものへの、攻撃を優先しているのでは……であれば、シャドウハンターに興味を、持ったりしない、でしょうか?)」
     とはいえ今のところ自分が他のメンバーよりも突出して狙われている感じはない。
    「(ソウルアクセスでもして、反応を窺って、みたいところ、ですが……)
     戦闘中にできることではないので、鞠音は考え事を一旦頭から振り落とし、影業・宵闇を刃として切りつけた。
     続いて、仲間が伸ばす影をかいくぐるように、和弥が赤い刃を突き出す……と。
    「……あなたは……何がしたいの……アリスたちは臆病だから……攻撃的で未確認なものは……迎撃してしまうの……もし……戦わないで済むなら……どんな形でもいい……返事を聞かせて……」
     答えはないと知りつつも問いかけつつ踏み込んでいたアリスを。
     シュッ。
     縛り付けようと鎖が伸びてきた。
    「我是丸、防ぐのじゃ!」
     しかしそれは、主の命に車体を滑り込ませたライドキャリバーが引きつけ、
    「……ありがと……切り裂く……」
     アリスはその車体を軽々と飛び越え、煌刀「Fang of conviction」を、鎖の輪にガキリと差し込む。鞠音がすかさず十字架を絡みつけて動きを妨げると、久遠が紺青の闘気のパワーを両拳に輝かせて飛びかかり我流・紫電光風を炸裂させた。
     回復なった彦麻呂が、瓦礫を踏み台に高々と跳び蹴りを決め、葵は風雪に回復を受けている愛機を横目で見ながらも、激しい銃撃を敵に浴びせ続けている。
    「父さん、もうひとふんばりだ!」
     樹里はビハインドと息を合わせて、苦しげにうごめく鎖をすり抜けるようにして愛刀・五道転輪王できりつけ、根気よくバッドステータスを積み重ねている。
     すると、鎖の動きがピタリと止まり、その全身がボウと輝き始めた。
     すわ電撃!? と灼滅者たちは身構えたが、電撃とは光り方が違う……?
    「あっ、回復しようとしているな!? させるか!!」
     気づいた伊織が、ここは勝負処とみて、咄嗟に縛霊手で躍り掛かって抑え込んだ。
    「いい判断だ、一気にいこう!」
     だが、二刀流で果敢に踏み込んでいく和弥に、キリキリときしみながらもしぶとく鎖が伸びていき――。
    「この期に及んで、攻撃は通さん!」
     そこに割り込んだのは久遠。彼は苦し紛れのような打擲を、ぐっと腰を落として踏ん張り、耐えた。
    「サンキュ!」
     盾となってくれた仲間をすり抜け、風を表した紋章が、疾風のように斬りかかる。後方から樹里が放った影も伸びてきて、2つの刃が縦横に斬りつけると。
     ピキ……ピキ……ピキ。
     鎖の輪の幾つかに深い亀裂が入った。
     それを見たアリスと鞠音は。
    「……儚き光と願いを胸に……闇に裁きの鉄槌を……」
    「雪風が、敵だと言っている」
     決め台詞でタイミングを合わせると、日本刀を抜きトンネルの壁面を駆け上がって勢いをつけ、左右から同時に斬りかかった。
    「妖刀――」
    「――鞠娃」
     挟み撃ちの刃が、とうとう鎖を粉砕した。
     ガシャ……ガシャ、ガシャ……ガシャン!
     切れ切れの金属片となった鎖はトンネルの地面に次々と落下し――そして、落ちると同時に、いずこともなく消えていったのであった。

    ●謎を残して
    「……ふう、なんとか無事に終わったな。皆、大丈夫か?」
     久遠が仲間たちに声をかける。
     皆疲れた様子で頷いたが、全員無事なのは間違い無く幸いなことである。
     強敵を無事に退けられたことと、鎖をじっくり観察できたことは重畳……しかし、鎖についてわからないことはまだ多い。
    「今回の結果でどういう影響が出るかは分からんが、一つずつ対処していくしかないだろうな……」
     呟く久遠も、仲間たちも、先ほどまで戦っていた敵について様々に考えをめぐらしているが、鞠音はちょっと違うことで首を傾げている。
    「アリス……トンネルでデート、と思っていましたが。これは、みなさんが居ますから、デートではない、のではありませんか?」
     問われてアリスは肩をすくめ。
    「……鞠音……これから何か食べて帰ろう……それなら……たぶん……デート? ……になるかも……?」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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