【民間活動】精神防衛戦~非モテ中坊の心は何処に

    「まずは、鎖とタタリガミ残党との戦い、お疲れ様でした」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は、集った灼滅者たちに深々と頭を下げてから、次の依頼について語り始めた。
    「この作戦でタタリガミ勢力は壊滅状態となった筈です……が、このせいかどうかはわかりませんが、またソウルボードに異変の兆候がありまして」
     ソウルボードの動きを注視していた、白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)や、槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)からの重大情報だという。
    「そのソウルボードの異変の兆候に呼応するように、民間活動によって武蔵坂学園を支持してくれるようになった一般人達が、次々と意識不明で倒れ、病院に搬送される事件が起こっているのです」
     彼らは、病院で検査しても原因不明のまま、意識が戻らない状態となっている。
     更に、本来ならば大ニュースになる筈の集団意識不明事件が、情報操作をするまでも無く、一般に広まらない不自然な状況なのだ。
    「これは……明らかにダークネス事件です。そしてその原因が、彼らのソウルボードの内部にあることも予測できますよね」
     しかし残念ながら、現時点ではここまで推理できるというだけで、これ以上の情報は得られていない。
    「このチームには、バレンタインに民間活動で知り合った男子中学生たちのソウルボードを調べてきて欲しいのです」
     突如意識不明に陥った彼らは、思春期にありがちな集団ヒステリーと考えられ、幾つかの病院に別れて入院している。だが、集団ヒステリーにしては男子ばかりだし、30人もが一斉にというのも奇妙であるし、なにしろ全く意識を取り戻す様子がなく、医師も教師も保護者も頭を抱えている状況だという。
    「その意識不明の男子生徒たちの中に、リッチに個室入院している子がいましてね」
     金持・秀(きんもち・すぐる)くんという生徒だ。お金持ちのお坊ちゃまなのだろう。
    「大部屋に入っている子たちよりはソウルアクセスし易いのではないかと思いますので、彼と接触してみるのはいかがでしょうか」
     秀が入っているのは総合病院の個室である。接触方法は、普通にお見舞いに行ってもいいだろうし、医師や看護師や職員のふりをするのもいいかもしれない。
     おそらく……と、典はこめかみに指を当て。
    「ソウルアクセスした先では、今回の異変の原因が待ち構えているでしょう。その敵を撃破する事ができれば、彼らはきっと目を覚ます事が出来るはずですが……」

     キィ。
    「おっ、ラッキー、丁度ご家族などはいないようです」
     そっとドアを開けたクレンド・シュヴァリエ (サクリファイスシールド・d32295)は、病室を見回しホッと息をついた。
     チームの8名の灼滅者と、協力者のシャドウハンターは、変装やESPなども駆使し、穏便に金持・秀の病室を訪問することができた。
     だが安堵している暇はない。8人は迅速に白いベッドを囲んだ。
     ベッドの上で幾本もの管や検査機器のコードに繋がれ、瞼を閉じているのは小柄な少年。坊ちゃん刈りとベビーフェイスが相まって子供っぽいが、顔立ちはまあまあ整っている。非モテゆえに灼滅者と知り合ったわけだが、あと数年して大人っぽくなれば、バレンタインに寂しい思いをするようなことはなさそうだ。
    「この子で間違いない?」
     泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)が訊くと、平・和守 (国防系メタルヒーロー・d31867) は痛々しげに頷いた。
    「ああ。顔も名前も覚えているよ」
     和守は先のバレンタインの民間活動で、秀と知り合っているのだ。
     じゃ、準備はいい? と、同行したシャドウハンターの問いに、8名は頷く。
     手を伸ばし、そっと秀に触れ……目を閉じて。
    「いくよ……ソウル・アクセス」
     目眩にも似た数秒の浮遊感の後、目を開けると、そこは秀のソウルボード。ぼんやりとした光に照らされた、体育館のようにがらんとした大きな部屋だ。
     ソウルボードとしてはよくある雰囲気の場である――しかし、そこで8名を待ち受けていたのは。

    「♪早くここをお通しなさい。無駄な抵抗はおやめなさい♪」

     おかしな節を付けてソウルボード……つまりは秀に呼びかけている、ひとりの悪魔であった。
     悪魔は美しい女性の上半身と馬の蹄を持ち、手には大きな角笛を持っている――。
    「「「アムドシアス!」」」
     灼滅者たちは思わず悪魔の名を呼んだ。
    「♪現れましたね灼滅者。どこまでも邪魔な存在よ♪」
     相変わらずイチイチ小馬鹿にしたような節をつけてしかしゃべれないらしい。
    「アムドシアス……どうして……いや、何故この子のソウルボードにいる?」
     蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)が尋ねた。
     ソロモンの72柱のひと柱でありながらブレイズゲートの分割存在となり果てていたアムドシアスだが、世界救済タワーが解放されたことによって統合された存在と成ったのだろうというあたりは推察できる。
     しかし、何故ソウルボードにソロモンの悪魔が?
    「♪答える義理などありませぬ。私は人間のソウルボード確保に忙しい♪」
    「えっ、何ですって?」
     聞き捨てならない返答に、鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)が更に聞き返すが、悪魔は、
    「♪グラシャ・ラボラスに従うは業腹なれど、魔術師ソロモンの偉業を無駄にはできぬ♪」
     何やら愚痴るように一節唸ると、
    「♪邪魔をするなら排除するまで。今の私は強いですよ♪」
     酷薄な笑みを浮かべて。
     プオォォ~~♪
     角笛を吹き鳴らした。
    「!!」
     音波がすさまじい圧力となって、灼滅者に襲いかかってきた。
    「つよ……っ」
     饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)が、互いに回復しあいながら思わず呻く。
    「分割存在とは全然違うよー」
    「これが本来のアムドシアスというわけか」
     黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)は思わぬところで宿敵と出会った興奮で瞳を輝かせている。
     アムドシアスは語る気はなさそうだが、どうやらヤツは一般人のソウルボードを奪取せんと、何らかの方法でソウルボードにやってきたようだ。
     だが、民間活動で灼滅者と知り合い、世界の有り様やダークネスについてある程度知っていた秀たちは、ソロモンの悪魔の暴虐を察知し、必死に立ちふさがり続けている……というのが、この状況ではなかろうか。
     この場でアムドシアスを撃退しておかないと、おそらく多くの一般人のソウルボードを奪われてしまうだろう。しかもアムドシアスの言い様からすると、ソロモンの悪魔は組織的にソウルボード奪取に動いている……?
    「でも、この人数で倒せる敵なんですの……?」
     黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)がぶるりと身震いし、それでもここはやるしかない。武器を抜き、仲間と共に布陣する。
     本来の姿となったアムドシアスが強いのはもちろんだろうが、更に幾ばくかのソウルボードのパワーを得てしまっているのかもしれない。
    「♪ほらほらどうした灼滅者。怖じ気づいたか灼滅者♪」
     悪魔は自信満々で不敵な笑みを浮かべ、斬り込むタイミングを窺う灼滅者を見下ろしている……と、その時。

    『灼滅者の皆さん!』

     天から少年の声が降ってきた。
    『僕たちが応援しています。がんばって、負けないで!』
    「……秀の声か」
     和守が天を仰いだ。
     ――秀が、灼滅者たちに呼びかけている!
    『僕だけじゃないよ、灼滅者に助けられた多くの仲間が、勝利を願っています。その願いの気持ちを送ります!』
     素朴な応援の声とそれに込められた真摯な気持ちは、灼滅者達の心へと染み渡った。
    「みんな、今の声が聞こえたか?」
    「すごいわ、力が漲ってくる」
    「これも、サイキックハーツの力なのでしょうか」
    「なんでもいい、この応援があれば……戦える」
    「ああ……いくぞ!」
     灼滅者たちは応援の声に押されるように雄々しく武器を取り、強敵へと一斉に飛びかかるのであった。


    参加者
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)
    蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)

    ■リプレイ

    ●大悪魔との邂逅
    「アムドシアス! 例え本来の力であろうとも、ブレイズゲートの時と同じように、何度でもやっつけてやるよ!!!」
     協力者の応援に力を得、勢いよく跳んだ黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)の刃は、悪魔の蹄にガリリと傷をつけた。強敵ゆえ、簡単に深手を負わせることは難しそうだが、応援パワーのおかげで確実に攻撃を届かせることはできる。
    「よし、どうやらまともに戦えそうだね」
     クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)がWOKシールド『不死贄』を振り上げて前衛にシールドを張る。
    「一方的な戦いは……虐殺は大嫌いだ」
     その傍らではビハインド・プリューヌが霊撃を放ち、恐ろしい角笛の力を少しでも封じようとしている。
    「さぁ、断罪の時間ですの!」
     黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は白と黒の炎翼をはためかせ、一度は敵に突きつけた鏃を柘榴に向け、クラブの仲間の攻撃の精度を高めた。
    「宣誓ッ!」
     勇ましく誓ってヒーロー『キャプテンOD』に変身した平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)は、
    「わー、まさかこんな強敵出てくるとはねー」
     少し弱気に呟いた饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)と、
    「自信ないのか?」
    「ううんッ、そんなことないっ。負ける気はしないよ、だって応援してもらってるんだから!」
     2人は揃って巨大な十字架を構え。
    「弱気なんて見せてらんない、全力で頑張って、ソウルボードを、秀さんの未来を守るんだ!」
    「その意気だ……いくぞ!」
     タイミングを合わせ左右から馬の脚を掬いにいく。
    「ブレイズゲートじゃいい加減見飽きたツラだけど、今回は一味違う様ね」
     更に鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)も、
    「ソウルボード内で何を企んでるか知らないけど、折角民間活動で増えつつある協力者が意識不明になるのを、ただ指くわえてみてるワケにもいかないわ」
     愛用のナイフで脚を狙いにいく。
     強敵ゆえに、そして応援によるパワーアップも時間が限られていると予想されるゆえに、敵の動きを鈍らせつつ、積極的に攻めていく作戦である。
     一方、また強敵であるがゆえに。
    「守るさ……今度こそ」
     蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)はライドキャリバー・鉄征に機銃掃射させつつも、自らはいつでもヒールサイキックを発動できるように身構えている。
     殲術病院出身で、例の防衛戦を経験した彼としては、今回のシチュエーションはトラウマを刺激して少し重たい。だが、だからこそ仲間と秀の心を守りきるという決意も強い……と。
    「♪おやおやなんということでしょう、あなた方も少しばかり、強くなっているようですね♪」
     カツッ。
     アムドシアスが狭霧のナイフを蹄で振り払った。
     蹄の破片が飛び散ったが、狭霧も蹴り飛ばされてしまい、アムドシアスはまた角笛を構える。
    「来るか……!?」
     灼滅者たちは身構える。
     だがそこに。
     ダムッ!
     魔法の矢が、アムドシアスの足下で炸裂した。
    「……アンタが何かしようとすれば、僕が容赦なく撃ち込む……」
     遠巻きに敵の動きを観察し、機を窺っていた泉・星流(魔術師に星界の狂気を贈ろう・d03734)が撃ち込んだのだ。
     だがそれでも。
     プオオォォ~♪
     ビリビリと痺れるような音波が前衛を襲った。
     それでも好機を突いた一撃のおかげでタイミングがわずかに遅れ、ディフェンダー陣がクラッシャーの前に滑り込むことができた。そして国臣が間髪入れず愛剣『ASCALON-Crimson Claw』を抜き、癒しの風を吹き渡らせる。
     そして。
    『負けないで! 僕たちがいるよ!』
     天からは秀の声が聞こえてくる。
    「どうやら、応援パワーのおかげで防御力も上がっているようだね」
     盾となってダメージは受けたが、即座に回復を受けることができたクレンドが、妹であるビハインドと共に立ち上がった。そして、1秒でも長く、意地でも耐えて味方が攻撃に専念出来るようにしなければ……という気合いを漲らせる後ろでは。
    「とにかくこいつを、このソウルボードから撃退すればいいのですわよねッ!」
     白雛が二の矢を狭霧に撃ち込み、その狭霧は、
    「ここは何としても、アムドシアスを倒して企みを阻止すると同時に、協力者を救ってやりましょう!」
     狙いの高まったナイフに炎を宿し、敵の眼前へと飛びだしていく。

    ●戦う力
     五たびほど刃を交えた頃。
     パパパパーン♪
     角笛から発された晴れがましいほどのファンファーレが、刃のようにビハインドを貫いた。目隠しをした表情は微笑のまま変わらないが、その姿がゆらりと不安定に揺らいだ。
     ここまで身を挺して仲間を庇いまくってきている彼女の限界は近い。プリューヌだけではない。与えられる一撃の威力が大きいので、メディックによるヒールに加え、自己回復でしのいでいるクレンドと鉄征も、決して余裕があるわけではない。
     その分アムドシアスにもダメージをかなり与えているつもりだが……。
    「♪少しはマシになったかと思いましたが、所詮半端者、そんなものですか♪」
     悪魔は額の角を誇らしげに振り上げてせせら笑う。
    「ダークネスだって、人に危害を与える行動をしなければ、灼滅しなくたって良いんだが……その性質を抑えることは無理なんだろ?」
     その笑みに向かってクレンドは、大悪魔と相見えたこの機会を逃すまいと、またビハインドがヒールをしてもらう時間を稼ぐために語りかけてみた。
    「♪人間なんて所詮ダークネスのための存在♪」
     だが相変わらず悪魔の返答は高飛車で曖昧である。そもそも、まともに答える気がないのだろうが。
    「舐めるな」
     国臣が縛霊手から光を発しながら吐き捨てる。
    「サイキックハーツに手を伸ばせるものが、ダークネスだけだと思うなよ。我々も届く位置にいることを忘れるな」
     ホホホホホ♪ とアムドシアスは音楽的な高笑いを響かせ、
    「♪魔術師ソロモンの偉業が、我々に力をもたらした♪」
     ソロモンの悪魔一派がサイキックハーツに近づいていることを否定せず、自慢げに歌う。
    「♪灼滅者ごときに何ができよう♪」
     ……やはりそうなのか? 弱体化していると見られていたソロモンの悪魔が、ここのところ力を取り戻した様子なのは、サイキックハーツに至ったせい……?
    「♪今は力を蓄える時。諦めてこのソウルボードを明け渡しなさい♪」
     またアムドシアスが角笛を口に当てようとする……が。
    「させるもんかー!!」
     柘榴が思い切って懐に飛び込み、オーラを宿した拳で連打を見舞った。
     敵はまだ余裕の表情を見せてはいるが、戦闘序盤は命中しにくかった力技も、今は当たるようになってきている。
     ――大丈夫、まだ行ける。人々の応援がある限り……!
     気合いの入った打撃に思わず一歩引いた敵の背後からは、白雛がチェンソー剣で燕尾服を切り裂き、和守が十字架から氷弾を撃ち込んだ。
     樹斉は、音楽の悪魔と堂々と対峙し、
    「あなたの歌は、ちっとも心を震わせないよ! もっと綺麗な、そして人の心を希望で満たすような歌を!」
     サウンドソルジャーの誇りを持って、子守歌を夢の世界に響かせる。
     狭霧がもう蹴られまいと、得意のヒット&アウェイ戦法で素早く燕尾服のひらひらしたテイルごと細腰に切りつけ、
    「今回は僕等を見守っている人達がいる……無様な戦い方はできないね……」
     星流のクロスサイキックライフルから発射された氷弾は、確実に敵を捕らえた……が。
     その氷も溶けぬうちに。
     トゥルットゥットゥ~~♪
     角笛の音が……。
    「後ろだ……拙い!」
     この陰鬱な音色は毒……!
     ディフェンダー陣は自らの身を省みず、後衛の仲間の前に立ちはだかった。
     ドロリ。
     まるで纏わりつかれるような苦痛の後……。
    「プリューヌ!」
     微笑のままビハインドは消えた。
    「すまんな……」
     守られた国臣が仲間を気遣いながら癒しの風を吹かせると、
    「先に帰っただけさ。きっと秀君と一緒に待っていてくれるよ」
     クレンドは冷静に、けれど凄惨な眼差しで応じ。
    「……いくよ!」
     また大胆にシールドで殴りにいく。柘榴が即座に後に続き、魔力の火花を散らすロッドを叩きつけて大ダメージを狙い、白雛は凶悪に回転するチェンソーで傷口を広げにいく。和守は鋼鉄の拳で悪魔の術を打ち砕き、樹斉は十字架で痛めつけられた脚を掬う……と。
    「……!」
     また角笛を構えようとしたアムドシアスが、ぽろりとそれを取り落とした。
     もちろんすぐに慌てた様子で拾ったが、
    「効いてきたようね!」
     根気良い攻撃が生んだわずかな隙を逃すまいと、狭霧がナイフを構えてつっこんでいき、星流が同時にダイダロスベルトを延ばして捕縛を図り、吹奏に至らせない。
     ――今だ。
     今こそ、強力者達の応援パワーを最大限生かすべき瞬間!
     全員が同時にそう確信し、そして眠り続けてソウルボードを護っている秀のことを、ここまでに民間活動で出会った大勢の人々のことを強く想い。
    「――我々は、あいつを倒したい。君を、君たちを守りたい。力を貸してくれ、勝てと、そう願ってくれ、それが我々の力になる」
     天を仰いで国臣が訴え。
    「コイツが最後の一撃、全力の大盤振る舞いだ。ここで決めなきゃ、後は無い。だから、どうか……秀の……皆の力、俺達に貸してくれッ!!!『全員』の力、奴にぶつけてやるんだッ!!!」
     ご当地パワーを漲らせて叫ぶのは和守。
    「死ぬことは怖くない。覚悟も必要ない……だが俺がいなくなることで、その分誰かが傷付くというのなら、それ以上に怖いことは無い」
     クレンドは傷だらけの顔を上げて切々と。
    「だから今だけで良い。俺がいくらでも傷を受け持つ。この世界が『こんな力』を必要としない。その時まで、護るべき力を貸してくれ!」
    「悪魔になんて負けられないよ! ソウルボードならキミたちも守られているだけじゃない。心を強く持って、一緒に勝利を掴むんだ!」
     衰えない闘志を見せるのは柘榴。
    「守るべき人々が繋いでくれたこのチャンス。無駄にしてしまったとあればヒーローなど名乗れませんの! 貴方たちの想い、決して無駄には致しませんの。この刃と炎が貴方たちを守りますの!!」
     白雛の背にはモノトーンの炎の翼が一段と鮮やかに燃えさかる。
    「人は一人じゃ生きられないし、大きなこともできない。だけれどもその一人が集まれば大抵の事はできる」
     樹斉は秀を、そして自分を励ますように。
    「一人ではか弱くとも、仲間が集まれば強大な闇に勝てる、そして、応援の声があればもっともっと頑張って、戦える! 絶対に守るから、僕らをしっかり見ていて!」
     星流は微笑んでおぼろな光に包まれている天を見上げ。
    「大丈夫だよ……見守ってて……」
     灼滅者たちは、口々に秀に呼びかけながらも感じていた。
     遠くなりつつあった応援の力がまた近づいてきたことに……そしてより高まりつつあることに。
     声が聞こえる。
     秀の声……そして、大勢の協力者たちの声が、ソウルボードを爽快に満たしていく。
    『信じてるよ、灼滅者の皆さん。勝つのはあなたたちだってこと、そして僕らを救ってくれるのも、あなたたちだってこと――応援の心、受け取って!』
     声は光になり、エネルギーになる。
     体が熱くなり、心が光を帯びる。大悪魔の攻撃によってダメージをうけた体に、また力が漲ってくる。
    「ああ……ありがとう」
     狭霧が手を高く上げた。
    「さぁ、あのふざけたヤツをぶっ潰してやりましょう。あなたも私達の戦友なんだから――!」
     上げた手には愛用のナイフ『Chris Reeve “Shadow MKⅥ”』が握られており……彼女は地を勢い良く蹴った。
    「折角だからここまで来たんだからね。お互い、ハデに踊るとしましょうか!」
     礫のように敵の足下に転がり込んだ狭霧の刃は、膝の裏の腱をスッパリと切り裂いた。
    「……う」
     ガクリと片膝を折ったアムドシアスの美しい顔が、初めて苦痛に歪んだ。
    「鉄征、突撃だ!」
     国臣は勝負処とみて、ボロボロの愛機に最後の突撃を命じ、自らも剣を取って突っ込んでいく。
     プオオォォ~♪
     跪きながらも大悪魔はしぶとく角笛を吹く。
    「く……」
     その圧力は相変わらず凄まじい……しかしそこに。
    「みんなの力……僕の魔力と共にこの一撃に乗せる……一発必中……一撃必殺!」
     星流が音波のダメージを受けつつも、歯を食いしばって両手を突き出し、狙い違わず魔法弾を撃ち込んだ。
     ビシッ。
     鋭い音を立て、弾丸は悪魔に命中し。
     ……ォ♪
     角笛の音を途切れさせた。
    「グッジョブっ、今だよー!」
     樹斉が素早く弓に矢をつがえ、彗星のように射た一撃は悪魔の術を貫き、和守は自らに引き付けようと、
    「ヒーローに悪が敗北する……コイツは不滅のお約束だ。ヒーローの……俺たちの介入を許した時点で、貴様の敗北は決まっていたのさ……ッ!」
     派手な決め台詞を叫びながら、目映いビームを放った。白雛はここまでのお返しとばかりに、黒々とトラウマを宿した影でずっぽりと喰らいこみ、クレンドは片足に傷を負って不安定な敵を、シールドでガツンと押し倒した。
    「♪ぶ……無礼者。思い知りなさい大悪魔の力♪」
     それでもアムドシアスは憎々しげに灼滅者たちを睨み付け、また角笛を吹こうとぎこちなく腕を上げる――。
    「もう吹かせないんだからーッ!」
     両腕を頭上に高く振りかぶり、敵に飛びかかった柘榴の手に握られているのは、渾身の魔力を込めた魔法の杖。
     バキバキバキッ!
     それはまるで落雷のような音と目映さで、悪魔の頭部に凄まじい量の魔力――人々の応援パワーに増幅された――を叩き込んだ。
     ビシリ。
     まるで陶器のように額の角にヒビが入った。
    「♪お……おのれ♪」
     それでも空気が漏れるような声で、悪魔は歌い。
    「♪このままでは……すまぬぞ……♪」
     捨て台詞のような一節を残して……溶けるように夢の世界から消えていった。
    「……勝ったんだよね?」
    「勝ったよ!」
    「やりましたわね!」
     灼滅者たちは喜びの声を上げた……が、同時に全身からどっと力が抜けていくのも感じていた。応援パワーが切れようとしているのだろう。
     そして戦場だったソウルボードも、徐々に暗くなってきていた。秀の意識がこの場から離れようとしているのだろうか。それならばもうじき目も覚ますであろうし、喜ばしいことだ。
     現実世界に引き戻される感触を覚えながら、和守は暮れなずむ空のような色を帯びてきた夢の天を改めて仰いで。
    「……助力、ありがとう。助かったよ、秀」
     心からの礼を述べたのだった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年5月28日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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