戦神の軍団~野生のアンブレイカブルと烏合の衆

    ●とある寒村にて
     霖雨を浴びる緑が、山々に映える季節。
     だが、とある寒村の廃墟に集まった有象無象共の目に、その美しさが入るわけもなく。
    「なんで俺様が、こんなド田舎で待ちぼうけ食らわなきゃならねえんだよ」
     これ見よがしな溜息と共に悪態を吐き出したのは、蒼い仮面を被ったような姿のデモノイドロードである。
    「五月蠅い。ここで待てということなのだから、静かに待っておればよいのだ」
     ぞんざいに返したのは侍風の六六六人衆。
    「退屈でたまんねえ……そうだ、集落で年寄り2、3人ぶっ殺してこよっかな」
     刀の手入れをしていた侍は、キッとデモノイドロードを睨み付けた。
    「勝手な行動は許さぬ。戦神アポリアから指示が届くまで、大人しくしておれ」
    「何でテメエに指図されなきゃなんねえんだよ!」
    「ここに集った者の中で、最も腕が立つのが俺だからだ」
    「そんなのやってみなきゃわかんねーだろーがよ! 大体、デモノイドを5体も連れてきたのは俺様だぜ? むしろ俺様がリーダーだろ!」
     ロードと侍は不毛な言い争いを始めたが、それを部屋の隅から面白そうに見物している男淫魔が2体。
    「イヤねえ、イライラしちゃって」
    「男のヒステリーって最低よねー」
     2体共顔立ちは美形であるが、爬虫類風なぬめぬめとした鱗に全身を包まれた不気味な姿だ。1体は蛇っぽく、もう1体は蜥蜴っぽい。
     と、更にそこへ。
     ァァア~~アア~~!
     グワッシャ!
     奇声を上げ雨戸をぶち抜いて飛び込んできたのは、筋骨隆々で腰ミノ姿の野性味溢れるアンブレイカブルであった。
    「ナニを言う! コノ場所のリーダーはオレだ!」
     アンブレイカブルは、デモノイドロードと六六六人衆に指を突きつけ言い放った。
    「何ぃっ!?」
     当然、言われた方はいきり立ち。
     おまけに、裏庭でうろうろしていたデモノイドたちも、何事かと家の中へと集まってきたりして……。

    ●武蔵坂学園
    「みなさんの尽力により、闇堕ちしていた仲間達の救出は、おおむね成功しました……しかし、六六六人衆のハンドレッドナンバー、戦神アポリアには逃走されてしまいました」
     春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)はしんみりと、
    「彼自身が救出を望んでいなかった以上、やむを得ない事だったかもしれません」
     しかし感傷を振り払うように、今回の依頼について説明を始めた。
    「さて、このアポリアが、早速動き出したようなのです」
     アポリアは、どのサイキックハーツの勢力にも属していない野良ダークネス達を集めて、自分の軍団を作ろうとしているらしい。
     彼の目的が、第三勢力の結成であるのか、或いは、戦争に介入して場をかき回そうとしているのか、それとも、既に何れかのサイキックハーツ勢力に協力している状態なのかはまだわからない。しかし何にしろ、アポリアの策通りに事を運ばせるわけにはいくまい。
    「調査の結果、アポリアが指定した集結場所が幾つか判明しています。皆さんは、そこに集まったダークネスを灼滅してください」
     このチームが向かうのは、北関東のとある寒村。
    「空き家に、ダークネスが5体と、デモノイド5体の、計10体が集まっています」
     内訳は、デモノイドロード1体に、手下のデモノイド5体、六六六人衆1体、淫魔2体、アンブレイカブル1体。
    「この中に、オリヴィアさんが目をつけていた、野生のアンブレイカブルも含まれています」
     紹介されたオリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)は、しとやかに一礼して。
    「そうなんです。このアンブレイカブル、頭は悪そうですが、野生の勘にはあなどれないものがあるようでして」
     典がまた話を受け取って、
    「ダークネスの各個体はそれなりに強く、数も多いですが、所詮烏合の衆、ロクに連携はとれないでしょう」
     デモノイドを肉壁にするであろうが、おそらく主であるロードしか庇わないであろうし、相互回復等も同種族間でしか行わないと思われる。
     現場は寒村の外れなので、エスパーを巻き込んでしまう心配は少ないが、
    「この集結場所については、武蔵坂の協力者が村に縁がありましてね、そのエスパーさんからも情報をもらったんですよ」
     ということは、村人はある程度事情を察しているだろうから、戦場には近寄らないよう、予め注意しておくと万全かもしれない。
    「ところで、集結したダークネスを、アポリアがどうやって自分の軍団に組み込むのかは、残念ながら今のところ不明です。集結場所で気長に待っていれば、アポリア自身が現れる可能性もなきにしもあらずですが……日本各地で同時発生している以上、まあ本人が直接やってくるとは思えませんよねえ……」


    参加者
    神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)
    氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638)
    天渡・凜(その手をつないで未来まで・d05491)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    壱越・双調(倭建命・d14063)
    蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)
    オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)

    ■リプレイ


     あの家ですよ、といかにも農家のおかみさん風の村人が示したのは、集落からぽつんと離れて建っている、朽ちかけた茅葺き屋根の民家であった。まだ100メートルほど先にあり、背後の裏山に今にも飲み込まれそうだ。
     この案内してくれた女性の甥が、先日遊びに来た際、村内にダークネスが巣くっていることに気付いたのだという。協力者でもある彼は霊感のような感じで、ダークネスが近くにいると、頭痛がしたり気分が悪くなったりする力を得たらしい。
     急ぎ寄せられたその報告と、オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)の持っていた情報が結びつき、この場所の確定に至ったというわけだ。
    「案内ありがとうございました」
     神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)は、女性に頭を下げ、
    「戦えない人を巻き添えにしたくないので、どうか避難、もしくは家から出ないようお願いしますね。村の人にもそのように伝えて下さい」
     女性は険しい顔で頷き、あなた達もどうか気をつけて、と言い残して集落の方へと足早に帰って行った。危険な状況であることは、しっかり理解してくれているようだ。
     その後ろ姿を見送ってから、灼滅者たちは問題の廃屋に接近しながら様子を窺う。
     じきに廃屋の中で、騒ぎが起きている気配が窺えた。寄声が聞こえてくるし、破れた雨戸や開いた窓から何者かの姿がちらちら見えたりもする。全く警戒していない様子。
    「野生のアンブレイカブル……自分で言うのもなんですが、トンチキな手合いを見つけたものです」
     しかもトンチキ×5であるようだ。
     蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)は溜息を吐く恋人の肩に、励ますように手をやり、
    「残党狩りというか、なんというか……とにかく削れる戦力は削っておかねばな」
     もちろんです、とオリヴィアも手を重ね。
    「彼の目論見は潰させていただきます」
     天渡・凜(その手をつないで未来まで・d05491)は、
    「アポリアの狙いはなんだろう。まだサイキックハーツにはなってないそうだけど、今後さらなる驚異になる可能性は高い……」
     髪を結うシュシュに触れて作戦成功を祈りつつ、視線を氷上・鈴音(夢幻廻廊を彷徨う蒼穹の刃・d04638)に心配そうに注いでいる。
    「とにかく戦争前に、先ずはコイツらを止めなくちゃ」
     その鈴音は胸元に忍ばせた方位磁石に触れ、瞠目している。祈り、思うのは、
    「必ずこのメンバーで帰還できますように……」
     そして、堕ちたまま戻らぬ仲間のこと。
     壱越・双調(倭建命・d14063)と黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)も、鈴音と凜を心配そうに見守っている。
    「戦力を集めて何をしようとしてるんですかね、アポリアは? 一大勢力を率いるようになると厄介な事は確かですが」
    「戦力を集めさせる訳にはいきませんね。ただでさえサイキックハーツの勢力への対応で大変なんですから」
    「どうやって集結させるのかも疑問っすよね。ワープ儀式的な何かとか?」
     押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)はウォーミングアップとばかりに四股を踏み、
    「まあ手段はわかんなくても、その前に倒しきっちゃえば問題ないっすけど!!」
    「そうよね!」
     思い詰めた様子だった鈴音がパッと顔を上げた。表情は明るいが、どこか無理がある。
     しかし、
    「さ、内輪もめしてるうちに行きましょう」
     スレイヤーカードにキスをし、キビキビと武装を整えた。
    「共鳴(Sympathize)!」
     凜が早速後に続き、仲間たちも次々と戦闘装備を整えていく。
     国臣が、
    「さて、“足を引っ張る”のは任せて貰おうか。諸君、火力は任せたぞ」
     真顔のまま仲間を鼓舞し、8人は威勢良く廃墟へ――敵の元へと駆けだした。


     ヴァキィ!
     表戸を蹴破り、灼滅者はディフェンダー陣を先頭に土間に飛び込んだ。いかにも内輪揉め中らしい様子のまま、闖入者に驚くダークネスたちをスルーして、まずは頭数だけは多いデモノイドへとターゲットを定める。
    「言い争っている所悪いが、戦いは始まっているぞ。先ずは露払いだ」
     間沙耶が手近の一体に斬艦刀・無【価値】を勢いよく振り下ろし、ハリマは同じ個体に雷を宿した掌で、
    「そりゃっ!」
     喉輪を見舞ってのけぞらせた。
     反撃させる隙を与えず、国臣がロケットハンマーを土間をひび割れさせる勢いで叩きつけて体勢を崩す。
     巻き添えを喰らってすっ転んだアンブレイカブルを、国臣はちらりと横目でみて。
    「あの野生のアンブレイカブル…もしや、ターさんでは」
     疑問はさておき、一気呵成に肉壁のデモノイドを崩してしまおうと、霊犬たち……ハリマの円、空凛の絆は六文銭をばらまき、国臣の愛機・鉄征は後方から射撃を行う。
     その援護の弾幕から飛び出してきたのは、クラッシャーとスナイパーの攻撃陣だ。
     双調がロケットハンマー・白獅子を打ち下ろして更に足止めを仕掛けたところに、忍び寄っていた鈴音が横手から鋭い刃で足下に切りつけ。
     ドゥ。
     早くもデモノイドの1体は板の間に倒れ込み。
    「てえい……っ!」
     オリヴィアが雷をまとった跳び膝蹴りでトドメを刺した。
    「何しやがんだ、俺の手下に!」
     あっと言う間に手下を奪われたデモノイドロードは、我に返っていきり立つ。4体はまだ立ってはいるが、それでも列攻撃のダメージと影響を受け、動きは鈍い。
     ガガガガッガガガッガ!
     デモノイドロードはやけくそ気味に、腕に埋め込んだ銃から、嵐のような銃弾を前衛に撃ち込んできた。
    「防ぐぞ!」
    「うっす!」
     闇沙耶とハリマは果敢に前へと出て、霊犬・円と共に盾となる。
     盾となった仲間へは、逃げ道を防ぐように入り口を固めていた空凛が、すかさずバイオレンスギター・八重桜から癒しの旋律を送り、凜も前衛の防護力を高めるために、ダイダロスベルトを伸ばした。
    「武蔵坂の灼滅者か」
     今更のように侍風六六六人衆が言い、刀をすらりと抜いた。
     だが、灼滅者たちは既に烏合の衆をがっちり囲んでいる。
     侍は鋭い眼差しで包囲をぐるりと見回すと、
    「何やら以前よりも……いや……」
     何かを言いかけて、止めた。
     ぐっと腰を落とし、土間に拳をついたハリマは。
    「(多分、強くなっているのでは、とか言いそうになったんだ)」
     実際彼ら自身も、自分たちの戦闘力の向上とエネルギーの活性化を、一連の先制攻撃だけでも実感している。
     今ここに集められているような野良ダークネス達は、情報弱者であるゆえに、状況を詳しくはわかっていないのであろう。
     ――だからこそ、今のうちに。
     大一番の戦争で、アポリアの元へと集結してしまう前に倒してしまわなければ!
     仲間の盾を飛び越えて、双調が鬼の拳で殴りかかり、次の1体をよろめかせる。
    「やだわー、こんな田舎まで追いかけてくるなんて」
    「灼滅者ってしつこくて嫌いよ!」
     ビュッ、ビュッ。
     淫魔が息の合ったタイミングで蛇剣を振るってきたが、それは国臣がガンナイフからの援護射撃で牽制し、
    「当たらないよ!」
     蛇剣をかいくぐった鈴音が蒼い筋肉を深々と切り裂く。
     そこへオリヴィアの稲妻を纏った大剣が、重たい一撃を見舞い。
     また1体のデモノイドが動かなくなった。
    「よし、次!」
     灼滅者たちは、得た力を存分に生かし、作戦通りの戦いを繰り広げつつある。
     しかしデモノイドロードの、
    「お前ら、やられっぱなしでいるんじゃねえ!」
     一喝に、残るデモノイドたちが一斉に酸性弾を中衛にとばしてきた。
     装備がジュッと嫌な匂いを立てて溶ける。
     もちろん空凛はすぐに回復を施したが、
    「とうっ」
     そこに侍の刀がひらめき、
    「む」
     防御した闇沙耶の背から、鮮血がほとばしった。
     凜がすかさず癒しの帯を伸ばしたが、結構な深手である。
     更に。
    「キエエエエエェェ!」
     ドゥウン!
     列攻撃の巻き添えをくって尻餅をついていたアンブレイカブルが、やっと立ち上がると奇声を上げて棍棒を床にたたきつけた。
     家全体が崩れそうなほど揺れ、前衛は足を取られて倒れ込んでしまう。
    「おおっと……ここはボクが!」
     それでも鍛え上げた足腰で素早く体勢を立て直したハリマは、聖剣を抜いて癒しの風を吹き渡らせた。
     回復を受けながら、闇沙耶はダークネスたちを睨みつけ。
    「生き残っているだけ実力はあるか。運だけの輩ではないな……だが、俺達は過酷な戦いを生きてきた。負けるわけがない!!」
     何せ敵の数が多いので油断は禁物……だが、負けはしないという決意を込めて啖呵を切った。


    「せいっ!」
     赤い焔の紋様が刻まれた、鈴音の黒いロッドが、蜥蜴淫魔の胸をえぐる。次の瞬間、ロッドの先端は目映く炸裂し、淫魔の姿はかききえた。
    「相棒にナニしてくれるのよ!」
     蛇淫魔が金切り声を上げ、その声はそのまま眠気を誘い、体力を削る子守歌となったが、それを振り払うように凜が腕を揚げ、氷魔法を放った。
     ビシリ、と蛇淫魔の躰と子守歌が凍り付く。
    「グッジョブです」
     待ちうけていたように、双調がその懐に飛び込んで、ぬめる鱗に包まれた胸に藍の細氷のオーラを宿した拳で連打を見舞う。
     薄い胸を、光る拳がうちのめし――蛇淫魔も滅んだ。
     肉壁であったデモノイド5体を……ほぼ主人であるロードしか庇わなかったが……早々に殲滅して後は、ダークネスにも確実に攻撃が届くようになっていた。
     これで残るは、侍六六六人衆に、青仮面のデモノイドロード、そして野生のアンブレイカブルの3体のみ。
    「くっそおおお!」
     相変わらず怒りに任せてデモノイドロードが銃をぶっ放してくる。
     前衛に向けられた弾の嵐を堪えながら、
    「のんびりしている暇は無いな。次は貴様だ!」
     闇沙耶が影業・無【視】を放ってロードを喰らい混むと、国臣がすかさずハンマーを叩きつけて足を掬った。そしてオリヴィアが掌から氷の砲弾を放とうとした、その時。
    「こやつが滅するは構わぬが――灼滅者に倒されるのは業腹」
     光の速さで抜かれた刀が、シスター服の腕をざっくりと切り裂いた。
     侍六六六人衆もロードの巻き添えで足をとられていたはずなのだが、立ち直りが早い。野良とはいえ、さすが六六六人衆というところか。
     しかも続けて。
     ドォウゥウウン!
     アンブレイカブルの棍棒の重たい一撃が、また廃屋を揺るがせた。
    「く……っ」
     チームプレイというわけではなく、少しでも有利に戦おうという本能的行動であろうが、立て続けの攻撃に前衛は揃ってひっくり返ってしまった。
     しかしすぐにサーヴァントたちが一斉に弾幕を張って敵後衛を牽制し、鈴音がロッドを掲げて呼び出した雷は狙い違わずロードを貫く。
     この隙を逃さず、空凛はギターをかき鳴らして回復をはかり、傷の深いオリヴィアには、凜が癒しの帯を伸ばす。
    「どうもっす!」
     癒しの旋律に背を押され、ハリマは素早く起きあがるとぐっと踏み込み、
    「どすこーーい!」
     アンブレイカブルの分厚い胸めがけて鋼鉄の掌を突き出し、闇沙耶も炎を宿した大刀で押し込んでいく。
     2人がかりでアンブレイカブルを封じた隙を逃さず、双調は風の刃をロードに吹かせた。
    「げっ……!?」
     刃は激しい竜巻となって、驚愕に蒼い仮面を歪めるターゲットの全身を切り刻み……手下と同じく蒼い肉塊となって消えた。
    「ぬう……」
     侍六六六人衆の目が素早く動く。
     逃げ道を探している、と察した国臣は素早く動き、
    「逃がすか!」
     破れた雨戸の前に立ちふさがると、厳しい弾幕を張った。
     表情にはでていないが、先ほど恋人に深手を負わされたことを、激しく怒っているようである。
    「む……」
     逃げ道を封じられた六六六人衆はたたらをふみ、そこに後ろから、
    「でやーっ!」
     オリヴィアが稲妻を纏った大剣で、気合いのこもった一撃を見舞う。
    「うがっ!」
     ざくりと背を切られて伏した六六六人衆は、
    「かくなる上は……」
     全身からなけなしの殺気を放出し、目眩ましを仕掛けてこようとしたが、
    「させません!」
     双調のハンマーが地を揺るがし、凜はどす黒い殺気にまかれながらも目を凝らして彗星のような矢を放った。殺気の霧が矢に切り開かれたかのように晴れ、鈴音の神威焔舞の光弾が容赦なく突き刺さり――六六六人衆の躰は四散して消えた。
     いよいよ残るは野生のアンブレイカブルのみ。
     序盤からデモノイドの巻き添えを食っており、すでにかなりダメージが蓄積している様子なのだが、それでも闘気は衰えていない。
    「どりゃあああああ!」
     雄叫びを上げ、棍棒を振り回してつっこんでくる。逃げる気も全くないようだ。
    「来いっ!」
     それをハリマが、今なら力勝負でも負けないとしっかり腰を落として受けとめ、更に跳ね返したところを、
    「悪は全て、全て焼く。お前達は悪なのだ……そして俺も悪だ。戦いの果てに何が起こるか、分かっている」
     呟く闇沙耶のナイフがざっくりと傷口を広げる。国臣がハンマーを床に叩きつけてよろめかせ、鈴音の刃が腰ミノを裂いた。
     凜と空凛も勝負処とみて、フォローをサーヴァントたちに任せ、氷魔法を放ち、ギターを激しくかき鳴らす。
    「ぐ……」
     倒れ込んだアンブレイカブルは、もう動けそうにないが、それでも棍棒を離さない。
    「見上げた闘志ですが――引導を」
    「ええ」
     双調とオリヴィアが強く床を蹴り、杖と膝蹴りが同時に火花を散らして――。
     こうして、山里の廃屋に静けさが戻った。


     戦いすんで……。
     オリヴィアと国臣は集落の方にダークネスを撃退したことを知らせに行った。またアポリアが現れるという万が一の事態のために、その対処も伝えておかなければならない。彼の容姿を伝え、何かあったらすぐに連絡をくれるようにも頼んでおく。
     残ったメンバーは、戦場となった家を片づけていた。廃屋ではあるが、少しでも整えておくにこしたことはない。
     しかし手を動かしながらも頭によぎるのは……。
    「アポリアに囚われたままのあきらさんはどうなるのだろう」
     凜は再びシュシュに触れて。
    「彼にみんなの声が届かないときは……わたしも覚悟しなきゃならないのかな」
     戦闘中は明るく振る舞っていた鈴音も、また思い詰めた表情で。
    「戦神は何を企んでいるのか……そしてあきら君の最期の願い事は……?」
    『あきら』だった頃の彼を思いだしながらも、
    「どちらにしても次に会う時は必ずこの手で終わらせる……『そのエンディングに慟哭の二文字しかないとしても』」
     空凛と双調は、
    「貴女がひとりで背負う必要はないのに……」
     責任を感じる余り、自分を追い込んでいる彼女を、痛々しげに見つめていた。
     闇沙耶は、外れた雨戸を何とかはめ込んで、ふと里を囲む山々に目を留めた。
     夏の遅い夕暮れが、空と山肌を染めている。
    「あきら……」
     その色に、血の色を見る。
    「いや、戦神。お前の企みは――必ず潰す」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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