世界視察旅行~草原を駆る風 悠久の翼

    作者:西東西


    「サイキックハーツ大戦の完全勝利。見事だった」
     白衣姿の一夜崎・一夜(エクスブレイン・dn0023)が灼滅者たちを迎え、まずは、先の戦争の戦果をねぎらう。
     問題はまだいくつか残っているが、ダークネスの脅威は完全に払拭されたとみて間違いないと告げ、ここからが今日の本題だと続ける。
    「現在、世界中で人類のエスパー化による影響が出始めているが、社会的にはまだ平穏を保っている状態だ。この先、『全人類がエスパーとなった世界をどうしていくか』を考えるために、各国の視察を行うことが決まった」
     学園のエクスブレイン達はもちろん、灼滅者が一緒に世界をみてまわれば、より多くの情報を得られるだろうと言い添えて。
     一夜は黒板に世界地図をひろげ、中央アジアを示した。
    「私の担当は、モンゴル。組連合からの要望もあったため、修学旅行を兼ねての同行も歓迎する。ただし」
     ひと呼吸おいて、悪戯っぽく眼を細める。
    「なにしろ、草原を往く旅だ。都会の観光とはわけが違う。日焼けもすれば、泥にまみれる可能性もある。水道は満足に整っていない。風呂もあるかどうかわからん。屋根のある場所で眠れるだけ御の字。――それでも。ついて来る者はいるか?」


     旅行のスケジュールは、以下の通り。

     1日目は、モンゴル旅行の人気スポットである『テレルジ国立公園』を訪れる。
     広大な自然が広がる地域で、大草原でのトレッキングがおすすめだ。
     ここでは、スタッフが手綱を引いての乗馬体験を楽しむことができる。
     ゆっくりと馬に揺られながら、辺りを散策するのも良いだろう。
     当日は、公園内にあるゲルに宿泊。
     夜には天の川が見える星空も堪能できるため、天体観測にももってこいだ。

     2日目は、モンゴル最西端にあるウルギーへと移動。
     鷹(たか)匠の民に教わりながら、鷹狩り体験を楽しむことができる。
     扱うのは、翼を広げれば2m以上。体重6キロにもなる大型のイヌワシだ。
     狩りがうまくいくかはさておき、迫力ある体験を楽しむことができるだろう。
     また、ここでは馬の貸し出しも行っている。
     スタッフが付かないため、ひとりで馬に乗れることが条件になるが、あたりの草原を自由に駆けまわりたいなら、ここでの乗馬体験もおすすめだ。
     夜は、旅人たちを歓迎しての民族音楽コンサートがひらかれる。
     一緒に馬頭琴を演奏しても良いし、お礼に日本の演奏を披露するのも喜ばれるかもしれない。

     3日目は、ウランバートルに戻って市内散策。
     観光地に行くも良し、お土産を買いに行くも良しの、自由行動だ。
     その日の午後、日本へ向けて帰国となる。

    「視察とはいっても、難しいことをする必要はない。観光のように現地を見てまわれば、それで十分だ」
     興味をもった者たちに行き先をまとめたパンフレットを手渡し、一夜は「それにしても、海外旅行とはね」と、感慨深げに呟いた。
    「エクスブレインとして協力を決めた時から、承知の上だったが。この六年、ほとんど学園を離れられなかったからな……」
     行けても国内の日帰り旅行のみだったことを思えば、視察とはいえ海外へ行くことができるのだ。
    「この旅は、6年間戦い続けたきみたち皆の慰安旅行でもあるだろう。ぜひ、羽を伸ばしてほしい」
     エクスブレインは、「穏やかな時間が、きみたちとともに在るように」と、祈って。
     これまで何度もそうしてきたように、深々と、頭をさげた。


    ■リプレイ


     早朝。
     東京から、飛行機で約5時間。
     ウランバートルで車に乗りかえ道路を飛ばせば、車窓は街並みから雄大な山々へ。
     休憩がてらの途中下車では、木と石を積みあげて造った『オボー』という道標を、時計回りに3周。
     遊牧民に混ざって、道中の安全を祈願する。
     テレルジについたのは昼食時。
     腹ごなしを終えた灼滅者たちは、早速、各々の目的地へ。

     おっかなびっくり、馬の背に乗るのは狐狗狸子(d28066)。
    「なんだコクリコ。変わった乗り方してんな。乗馬のコツってやつ教えてやろうか?」
     見れば、旅で馬慣れしている幽(d27969)は、現地の遊牧民が驚くほど見事に乗りこなしている。
     ケラケラとからかう幽を睨みつけ、
    「くっ、ここぞとばかり…。いいわ、教わってやろうじゃない。教え方が下手だったらただじゃおかないからね!」
     基本姿勢、手綱の握り方、目線の向け方。
     コツを掴んだ狐狗狸子はすぐに常歩で歩き回れるようになるものの、気が緩んだ瞬間、
    「!」
     盛大に落馬し、尻もちをつくハメに。
    「なんだよ、てめー下手くそだな」
    「なぁんですって! こんの、アンタ、いい加減に――」
     追いかけようと拳を振りあげたところで、思わず「ぷっ」と吹きだす。
    「あはは、なーにやってんのかしらね」
     頭上には、遠く見晴るかす空。
     地平まで続く、緑の草地。
     のんびりを草をはむ牛たち。
     そんな中、地面に転がっている自分の姿に、平和を感じて。
    「ま、こういうのも、悪くないか」
    「確かに。こういうのも、悪くはねぇな」
     「ほらよ」と幽の伸べる手を取り、狐狗狸子は勢いよく立ちあがる。
     視線の先には、同じく乗馬初心者の優雨(d05156)と千代(d05646)。
    「どうやったら動いてくれるのでしょうか?」
    「注意点とか教えてくださいー」
    「まずは、馬に慣れることだ」
     指導を頼まれた一夜(dn0023)が、大人しい馬と2人を引きあわせて。
    「よろしくお願いしますね」
     優雨は、ひと撫で。
     そのまま、ひらりと馬上に身を乗せる。
    「さすが優雨先輩。…天才!?」
     感心し、「よーし頑張るぞー!」と意気込む千代を前に。
     優雨は浮かんだ想いをぐっと飲みこみ、奮闘する千代を見守る。
     モンゴルの馬は背が低く、比較的乗りやすい。
     2人の姿勢が安定したところで、一夜が馬を引いての散策に出発!
    「うわああゲルが沢山あるね! それに、風がとっても気持ちいいー」
    「本当に。日本では感じられない空気です」
     風になびく髪を押さえながら、優雨も頷く。
     ひとも、動物も、時間も。
     流れゆく雲のように、ゆったりと、過ぎていて。
    「馬に乗ってさくさくお散歩できたら、とっても気持ちがいいだろうね!」
    「それは、方向指示の練習が終わってからな」
     気のはやる二人につられて。
     一夜も、遠く空の彼方を見やった。

     日没後の寒さに、柚羽(d13017)は嘆息ひとつ。
     ゲルから離れるように、歩き始める。
     ひやり、澄み渡った世界はすべてが闇色。
     耳障りな喧噪もなく、遮るもののない星空が、頭上いっぱいに広がっている。
     ――いつもは見えているはずの星座すら、星の大海にあっては、探さねばならない。
     ちかちかと瞬く輝き。
     伸べた指先は、決して届くことはなくて。
    「…こうして広い星空を眺めていると。自分が本当にちいさいものだと、実感させられますね」
     今はただこの情景を記憶に刻もうと、柚羽はいつまでも群青の空を仰ぎ続けた。
     同じ頃。
     星の下で身を寄せあうのは、依子(d02777)と昭子(d17176)。
     草原は広く、空も広く。
     こぼれる星は、たくさんで。
     昭子は空に手を伸べ、指先ですいと、本で見た星座を辿っていく。
    「ほんとうに見ることができるなんて、思ってもいなかったのです。世界も、未来も」
    「私も…明日の先など、考えてもみなかった」
     それらはかつて、望むものではなかった。
     けれど、今。
    「…ね、依子ちゃん。繋がる流れの中にいられるのは、きっと、とてもさいわいなことです」
     やわく笑う昭子に、「うん」と、素直に頷ける自分がいる。
    「これからの世界も。見たことのなかった、こんな風に続く輝きも。越えたいのち達が、何かを繋いでいくのも。楽しみだね」
    「ここなら、流れ星も見られるでしょうか」
     一番の願い事は、きっともう叶っているのですけどと言うのへ、
    「それなら、願うよりも感謝をしようか。たいせつな人達が生きていてくれる、日々に」
    「はい、ありがとうを言いましょう。星に乗って届いたら、すてきです」
     ふふと微笑み交わし、流星を探す。
     他愛いのない、魔法の言葉。
    「また明日」
     ――明日も、良い日でありますように。


     2日目は、飛行機に乗ってウルギーへ。
     現地に住まう鷹匠の民は、学生たちを大歓迎。
     鷹匠には子どもの姿も多く、一同はすぐにうちとけた。
    「世界は、本当にダークネスの脅威から解放されたんだな…」
     朗らかな出迎えに、戒(d15576)が改めて口にして。
     現地の言葉やジェスチャーをまじえ、モンゴルの鷹狩を熱心に教わる。
    「おぉ! この、確かな重量感っ! 腕にくるっ!」
     千巻(d00396)は想像より大きな鳥に、おっかなびっくり。
     試しに放し、舞い戻ったのを大喜びで迎える。
    「えへへ、かわい…あいたっ!」
     啄まれるのもご愛敬。
     陽桜(d01490)は鷹匠青年の腕にとまっている鳥を、興味深そうに眺めている。
    「…触れても、大丈夫なのですか?」
     手の甲で、羽根の流れにそって撫でるよう教わり、そぉっと手を伸べて。
     意外にふわふわとした感触に、心も躍る。
    「腕にのせてもらったりもできます?」
     厚手の手袋を手渡され、準備万端。
     ひょいと飛び乗ったイヌワシは、体重6キロ。
    「あわわ!」
     バランスを崩した陽桜を見て、青年がわははと笑った。
    「むむ、やっぱり簡単じゃないですね…っ」
    「大丈夫か」
     呼びかけた戒は、日本の鷹匠の家系だという。
     誰よりも慣れた様子で鳥を扱っていたが、それでも戸惑いは隠せない。
    「日本ではワシを鷹狩に使うことはないからな。こんな大きな子に触れるのは、私も初めてだ」
     手を掲げれば、羽ばたきと共に飛び立って。
     空を覆うほどの翼で悠然と舞う姿に、サングラス越しの眼を細める。
    「立派で、雄大で…。こんなふうになれたらいいのだけれど」
    「おっきな羽広げて青空を飛ぶの、すっごいカッコ良いよねぇ」
     千巻も頷き、「いいこいいこ、ありがとう」と己の腕の鳥を労う。
     陽桜は気を取り直して、青年に狩りを見せてもらうよう頼んだ。
    「最後は、現地の方とみなさんと一緒に、写真、撮りたいです!」
     カメラをとり出せば、鷹匠の子どもたちが大集合!
     我も我もと、しばらく賑やかな撮影会が続いた。

     供助(d03292)は一人離れ、鷹匠の好々爺に教わる。
     動きと言葉に耳を傾け、素直に、熱心に。
     己の腕にイヌワシを乗せれば、ずしり、命の重さと迫力を感じて。
    「鋭いまなざしと翼が…、すごく綺麗だ」
     ――彼らの呼吸を知り。
     ――己の力でなく、どれだけ向こうにも利用してもらえるか。
     呼吸を溶かし見つめる空は、不思議で。
     兎には逃げられたが、鳥はまっすぐ自分の腕に帰ってきた。
    「ありがとう」
     礼を告げ、深くしわの刻まれた爺の手に感じたのは、そこに在る確かな営み。
     世界が変わっても。
     自然の営みは、続いていく――。

    「でかい。重い。すげぇ」
     とキィン(d04461)が振り返れば、馬に乗った一夜が悪い顔。
    「まあ見ていろ。オレの役目は、立派な止まり木と飛翔の補佐だ」
     結局。
     動物たちも必至で、獲物は手に入らなかったが。
    「自然は先生みたいなもんでさ」
     鷹匠に返した鳥が飛翔するのを見やり呟けば、騎乗した一夜が手を伸べて。
    「乗れ」
     有無を言わさず馬上に引きあげられ、そのまましばし、二人で草原を駆けた。
     サラッと馬を乗りこなす様子に、キィンがぼやく。
    「お前ほんと王子だな…カエルの」
     それを聞いた一夜は、自嘲するように口を曲げて。
     馬を休ませるついでに、最寄りの道標をぐるり3周。
    「無事かえる、無事かえる、無事かえる」
     唱え、地平の果てを見やる背中は、どこか遠い。
    「…あまりに頼もしいんで。お前がいるなら、七湖都が守られると思っていた」
     でも、それはエゴだと。
    「『人魚姫』を『人間』にしたのは、倫道とお前だ」
     「私にはできなかった」と、修羅が振り返って。
    「手の届かないものをそばに置いておけるほど、心を砕けないが」
     射貫くような緑の眼を見据え、キィンは言った。
    「オレは、お前と共に生きたい」
     何度か口をひらきかけて。
     選んだのは、遠まわしな肯定の言葉だった。
    「知っているか。カエルの王子は、壁に叩きつけられて元の姿に戻るんだ」
     いぶかるキィンに、一夜は笑った。
    「お前と生きれば。いつか、『呪い』も解けるだろうか――」

    「モフモフの羽毛…痛い!?」
     イヌワシにつつかれ悲鳴をあげた狼煙(d30469)の隣り。
     紅音(d34540)の腕には、華麗に鳥が舞い降りる。
     のしかかる重さと衝撃に驚きつつも、威風堂々としたその勇姿に釘付けで。
    「やっぱり、かっこいいよね。空を悠々と飛んでる姿とか、止まってる時の佇まいとか」
     そうして鷹匠に習う様子を、狼煙は色んな角度からカメラに収めたりもして。
     一息ついた紅音が振り向けば、
    「ちょ、待って! それは食べても美味しくないから! 返してー!?」
     キラリ輝く眼鏡が、イヌワシに連れられ青空へ飛翔していくところだった。
     一瞬で状況を察するも、ただただ見送るしかなく。
     一方、狼煙にとって、眼鏡のない世界はすべての輪郭がとけ、ぼんやりとしていて。
    「え、狼煙、鷹はこっちじゃな――わぎゃっ!?」
     ふらふら近寄った狼煙が紅音にぶつかり、押し倒す格好に。
    「狼煙、ちょっと大丈夫…?」
    「いちお…アダッ!?」
     気遣われたところへ、後頭部に眼鏡が落下。
     気を取り直し眼鏡を掛ければ、どちらともなく、笑い声がこぼれる。
     そのまま並んで草原に寝転ぶと、視界いっぱいの青に、鳥の翼を追いかけた。

     この地で扱うイヌワシは、主にメス。
     一定期間ひとと共に過ごした後は、自然に返すのが習わしだ。
    「自然と共に生きてはるんやね…」
     呟く伊織(d13509)は現地の子に教わり、すぐに鷹狩りの要領を掴んだ。
     一方、同行していた氷霧(d02308)はというと、
    「大きくて割と重い…って、暴れないで下さいって!」
     腕の上で暴れる鳥と、真面目に大喧嘩をしていた。
     これには、現地の者たちも大笑いで。
    「今、絶対、俺のこと馬鹿にしましたよね! ああもうお転婆な!」
    「氷霧、なんで喧嘩してはるん」
    「結構頭が良いんですよ、彼女達!」
     むうと頬を膨らませる様子が余計おかしく、思わず噴き出す。
     鳥と氷霧が落ち着いてからは、辺りの草原を散歩に。
     一面の、緑。
     次から次へと吹く風が、波のように流れていく。
    「…まるで、別の世界に来たみたいです」
    「ほんま。こんな体験、あんたとする日が来るとは思わんかったわ。人生、何があるかわからんもんやねぇ」
     それから。
     感謝をこめて、言葉を贈る。
    「いつも、ありがとな」
    「どんな世界でも。大切な人がいれば、怖くないですから」
     微笑んだ氷霧の黒髪が、ふわり、揺れた。


    「アタシは一度も馬乗った事ないよ!」
     と、千巻が胸を張るので、一夜はこれまでの礼にと、相乗りでの乗馬体験をプレゼント。
     軽く草原を走り戻れば、
    「お前ってマジ意外性の塊…」
     随分上手いなと驚く供助の声に、
    「旧家だからな」
     幼少時に習ったのだと、遠い昔を思い返し、苦笑い。

     遠く馬を駆る一夜を見やり、花色(d03099)はほうと嘆息。
    「一夜崎先輩は今日もお麗しいっ。美しかっこいい…草原が似合う」
    「椎葉先輩、よそ見しすぎると馬に蹴られますよ」
     同行する祝(d23681)のツッコミも、どこ吹く風。
     一足早く騎乗し、駆け回る翌檜(d18573)を見て、ようやく我に返った。
    「えっ、白石先輩乗れるんですか!? 是非ご教授ください、優しく!」
    「まぁ、チラッと経験あったくらいで」
     バランス感覚があれば何とかなると、後は丸投げ。
    「あああフィーリングでしか教えてくれないやつだこれ…!」
     祝は頭を抱えつつ、相性の良さそうな馬を探すことに。
    「わたしは運動神経のいい女ですからね。慣れれば余裕ですよ、余――」
     花色は、騎乗途中でさっそく馬に振り落とされた。
     言わんこっちゃないと翌檜は呆れつつ、2人が乗りこなせるまでしっかりサポート。
     草原を歩きだせば、辺りはまるで海のよう。
    「凄いな、風が渡るのって見えるんだ」
     祝の視線の先には、民族衣装姿の人々が歩いてゆくのが見えた。
     その先には、いくつものゲルが並んで。
     ――ここで、暮らしている人達がいる。
    「…広いですね、世界って。知らないこと、まだまだあるんだろうな」
    「夜はゲル泊に、コンサートつったか。ゆっくり異国情緒に浸るのも悪くないな」
     翌檜も馬の足を止め、吹きすぎる風に身を任せて。
     ふいに、花色が2人を振り返る。
    「ね、ね、のんびりもいいですけど! 折角ですし、ちょっと競争しましょうよ!」
    「競争?」
    「負けたひとが、明日の朝ご飯、おーごり!」
    「ごはんがかかってるなら、負けないからな!」
     フライングで駆け始めた2人を、やれやれと見送り、
    「祝、椎葉。調子こいて落馬しても知らねえぞ」
     そう呼びかけ。
     翌檜も急ぎ、後を追う。

     むい(d01612)を馬上に引っ張りあげ、京(d02355)は草原を疾走していた。
    「ふぉおお、凄い高い! ひゃー」
     京の背中にしがみつき、通りすぎていく風に歓声をあげるむいへ、
    「ほらほら、ちゃんと背筋を伸ばして」
     手綱をさばきながら、背中に呼びかける。
     ひとしきり駆け抜けた休憩中、ふいに、京が言った。
    「ねぇむいさん、これから、世界はどう変わっていくかしら」
    「僕はねー、よく分かんない。自分のこれからも分かってないのに、世界のことまで考えなきゃ、って言われてもピンとこなくない?」
     背中から降る声を聴きながら、振り返る。
    「私はね、何も変わらないと思うの」
     ――ずっとずっと、変わらずにどこまでも広くて、素敵なまま。
     ――そう、在れたら良いと思う。
    「護るのとは違う。そうね、見守りたいのかしら」
     地平を見やる横顔に、自分にはない前向きさを感じる。
     陽の透ける髪に、むいは目を細めて。
    「ふふ、次は何処の国を見に行こうかしら」
    「隠居した僕を振り回せるのは、みやちゃんくらいだよ」
    「視察っていうお仕事だもの。付きあって頂戴」
    「はいはい、どこまでもお付きあいするよ。なんたって僕は、君の幼馴染だもんね」

     ――学祭展示で『モンゴルの暮らし体験』を見るたび、気になっていた。
     と、勢い込んで乗馬体験に申しこんだのは娑婆蔵(d10859)。
    「組にゃモンゴルよりお越しのカンナのお嬢もおいでと来たモンで。あれは全て、この旅行の為の伏線…!」
     当のカンナ(d24729)は、
    「日本の草原を走るのも悪くはないが、此の雄大さには敵わぬからのう」
     娑婆蔵とファム(d26999)の楽しい想い出となるよう、草原や馬についての注意点を丁寧にレクチャー。
    「言う事キカナイと…サクラニク? なんてプレッシャー、え? かけちゃダメなの?」
     ファムに対しては、特に念入りにアドバイスを伝える。
     元々、体幹やバランス感覚に自信のある2人だ。
     すぐに、カンナについて併走できるまでに上達。
    「キリキリ乗りこなして見せやすぜ!」
    「風突っ切る、きもちいーねー!」
     手綱を操りながら、カンナも馬上でビシグール(笛)を奏でて。
     ファムも持参したほら貝を掲げ、高らかに吹き鳴らす。
    「やあやあワレコソワー!」
     武将気分で乗りこなす様は、さすが自然の民。
    「仮にも年長、みっともねえ所は見せられやせんぜ!」
     娑婆蔵も負けじと馬を駆り、追いつけ追い越せの競争がスタート。
     そうして、数時間。
     沈みはじめた夕陽を前に、3人は並んで地平を臨む。
    「スゴイね! とーっっても、キレイ!」
    「夕陽が沈みきる所も見物できやしょうか」
    「黄金色の草原を走るのも、中々乙な物じゃぞ?」
     戻りがてら競争だと、カンナが提案。
     ファムが真っ先に賛成し、走りだす。
    「アメリカ帰ったら、またお馬さん乗る!」
    「猛牛を駆る方が、似合いそうな気がしないでもありやせんが」
     娑婆蔵が真顔で呟き、後を追って。
    「のんびりと故郷で過ごすのも、久しぶりじゃな」
     微笑んだカンナも、二人に続いた。

     誰も居ない草原を、民族衣装を身にまとったみさき(d29518)が、ひとり駆ける。
     馬の蹄が、リズミカルに地を蹴る。
     景色がぐんぐん流れていく。
     ――かつて、この草原を駆け抜けた精強なる戦士たちも。
     ――こんなふうに、広い大地を駆け回る喜びに浸ったのだろうか。
     思いはせながら無心に馬を駆り続ければ、いつしか、世界は黄金色に包まれていて。
     せめて集合場所まで駆け抜けようと、時の流れを哀しく思う。
    (「大地に吹く風は、私の心を洗ってくれる。このまま、この大地の風になれればいいのに――」)

     その晩。
     学生たちは鷹匠の民と夜通し賑やかに過ごして。
     翌朝、清かな草原を後にした。
     今日も、明日も、明後日も。
     同じ暮らしが、ここに在ることを願って。

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年7月27日
    難度:簡単
    参加:25人
    結果:成功!
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