サイキックハーツ大戦に灼滅者が勝利した事で、世界の危機は去った。
だが一方、サイキックアブソーバーがとうとう限界を迎えてしまった。キリングリヴァイヴァー効果を、サイキックハーツの力によって強化され続けていたため、相当な負荷がかかっていたのだろう……。
「……というわけで」
春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は少々困った表情で。
「本来の性能を大きく超えた力を発揮していたサイキックアブソーバーは、校長の超機械創造では、もはや制御が不可能となっています」
このままでは遠からず、サイキックアブソーバーは完全破壊してしまう。
「サイキックアブソーバーの破壊を食い止める為に、アブソーバー内のエネルギーを消費して、暴走を発生しないようにする対策が必要となりました」
最も有効な対策は、灼滅者がサイキックアブソーバーの力を一時的に吸収し、その力を消費・発散してしまう事だ。
「灼滅者が消費すればするだけ、サイキックアブソーバーの総エネルギー量が低下し、暴走の危険が下がり、いずれ制御可能な状態に戻るんじゃないかと考えています。それには効率よく消費・発散する方法が必要だということで……つまり」
典は灼滅者たちを見回して。
「皆さんに、一時的に闇堕ち状態となり、チーム戦をして頂きます。制限時間は18分です」
『極限の状態で激戦を繰り広げる事』で、アブソーバーを満たしている力を消費・発散する事が可能となるのだ。
「しかも、手加減しながら戦った場合、消費・発散するエネルギーが少なくなってしまうので、本気の本気で戦ってもらわなければなりません」
戦場は、サイキックアブソーバー近隣の使われていない教室をライブハウス仕様に変更したので、周囲の被害などを考えず心おきなく戦える。
闇堕ち灼滅者同士で本気のバトル……!
ざわつく灼滅者たちを、典はまあまあ、と宥め。
「サイキックアブソーバーの役割は既に終わっているのかもしれません。しかし、未来には必要になる可能性もあり得ますから、維持する努力は必要だと思うのです……それに」
ちらっと舌を出し、笑って。
「闇堕ちで全力の戦いって、今だからこそできるわけじゃないですか。僕までちょっとワクワクしてきちゃいますよ!」
参加者 | |
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守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289) |
蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965) |
アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193) |
刃渡・刀(帝・d25866) |
押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336) |
七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540) |
シャオ・フィルナート(進撃のおとこのこ・d36107) |
ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(夢途・d36355) |
●
謎多き武蔵坂学園の最奥に鎮座する異形の機械……サイキックアブソーバー。
そのほど近くに設置された戦いの場を、8人はしげしげと眺め回していた。
ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(夢途・d36355)が思わず呟く。
「まさかこんなところでなぁ……ともあれ全力で、だ」
新たに造られたライブハウスは、一時とはいえ闇堕ちした灼滅者同士が戦うのであるから、とにかく頑丈そうである。
アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)は軽く苦笑して、
「んー……ま、アブソーバーをぶっ壊すわけにもいかんし……やれるだけやってみますか」
「だよね! アブソーバー暴走の歯止めの為にも、思いっきり暴れるよ!!」
守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が元気に拳を握った……その時。
『始めます』
スピーカーから無機質な声が聞こえた。
途端に、灼滅者たちの躰と精神の深い部分から、ざわりと黒い焔が立ち上がる。その焔はたちまち燃え上がって身内を焼き尽くし、彼らを闇の姿へと導いていく。
蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)は、
「総てを貫いて征け、『黒金剛女王蜂』」
合い言葉と唱えると同時に、殲術道具『濃州閃雷藤千代 覇上征下禽王』で、自らの喉を掻き切り、
「鬼神顕現」
結衣奈はするりとポニーテイルを結わえていたリボンをほどいた。背が伸び、額には黒曜石の角が生えはじめる。赤い妖気と、粒子状のオーラも彼女が取り巻き、妖艶な鬼が現れる。
変化はもちろん同時に仲間たちの身にも起こっている。
「やっぱり蒼生はいなくなっちゃうのか……終われば会えるけど、ちょっと寂しい」
残念そうにぼろぼろの縫いぐるみを抱きしめ、皆の様子を観察しているのは、七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)。とはいえそこにいるのは6、7歳児ほどの白毛の大狼少女。白髪の右下腹の刺し傷から血を流している。抱きしめている白い犬の縫いぐるみが、サーヴァントのなれの果てのようだ。
「皆がおっきく見えるの……でも……えと、よろしくおねがいします」
心細そうに黒猫の縫いぐるみをぎゅっと抱いているのはシャオ・フィルナート(進撃のおとこのこ・d36107)だ。こちらも5歳児ほどの体格に変化しており、囚われの姿だが、背中には大きな血色のコウモリの翼が生えている。
自分の後ろにもじもじと隠れるシャオを振り返り、
「あー……やっぱり、前と変わってるんだね。何か心境が変わったのかな?」
そう言ったアトシュの方は、見た目も穏やかな物腰も、普段と大して変わっている様子はない。ただ、一本に結ばれた長い髪はより艶やかに腰まで垂れているようだ。
だがやはり、その目に宿る殺気の光は鋭い。
一方、激しい血みどろの闇堕ち儀式を経て、
「チームBの者。余と轡を並べる事を許す。恐悦して武功を立てよ。チームAの者。余自ら剣を取る。平伏して奮起せよ」
衣装から口調までがらりと変わってしまったのは敬厳だ。大きなマントをはおり、王冠を戴いたその姿は、正に傲岸不遜で尊大な王。
「うーん、なんだか不思議な気分」
あっという間に闇の者へと変化した仲間たちの姿を目の当たりにして、廻し姿となった押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)は目をしばたいた。
「大戦は終わったのに、こうして闇は在って……でもみんな制御はできてるんっすもんね」
そういう彼も、全身の筋肉を積乱雲のように盛り上がらせ、四股を踏むたびに地響きを起こすほどの巨体と化している。傍らの霊犬・円も、いつもより2回りも大きくなり、焔のように艶やかな黒い毛を逆立たせている。
「でもまあ、今日は命のやり取りのない純粋な競い合い、なら全力で磨いた力をぶつけさせてもらうっすよ!」
「そうこなくては」
と、応じたのは刃渡・刀(帝・d25866)。赤い着物から伸びる刀は5本、顔を札で覆われた異形の姿だが、うっすらと微笑んでいるのは解る。
「私の限界がどの程度か試させて頂きます」
ロードゼンヘンドは相変わらずニヤニヤと。
「敵も味方もよろしく殺ろう」
彼もそれほど容貌に変化はないが、瞳と両耳のイヤリングは金色にぎらついている。
「そうね、手加減一切なしの、死なない殺し合いを始めましょうか。フフ……」
紅音も少女にしては艶っぽく含み笑いを漏らし。
「それじゃ戦いを楽しむとしようか」
アトシュも笑みで応え、
「ハイ、よろしくお願いするっす!」
この期に及んでも礼儀正しくハリマが頭を下げ。
そして。
スッ……と、音もなく、8人は2つのチームに分かれた。
Aチームが、ハリマ、シャオ、ロードゼンヘンド、アトシュ。
Bチームが、敬厳、紅音、結衣奈、刀。
ここにいる皆が、6年間、共に戦ってきた仲間だ。
それでも2チームの間には、濃い殺気がたちこめており――。
――いよいよ戦いが始まった。
●
「余と刃を交わせることを光栄に思うがよい!」
早速アトシュを狙って大上段から切りかかった敬厳の刃は。
ガキッ。
「ミーシャも……仲間も……俺が、護るの……」
小さなシャオの躰が止めた。
「……む」
その横を巨体がすり抜け、
「でえいっ!」
刀の細い首めがけ、ハリマの雷を宿した喉輪が炸裂し、同時に黒犬がくわえた刀できりつける。
シャオもまた、その小さな躰を利用して敬厳の足下をくぐりぬけると、すかさず刀に断罪の剣を深々と突き刺した。
一方紅音は、
「ひとりずつ、全員壊してあげる……!」
いさぎよく縫いぐるみを手放すと、身長の3分の2ほどもある大きな鋏、縁糸切を構えて踏み込み、
ジャキリ!
迷いなくアトシュの肉を畏れを宿した刃で切り裂いた。
序盤からの激しい殺りあいに、両チームのメディックも初手から回復と防御に務めるしかない。
「この力を破壊以外の力で使うなんてちょっと新鮮だけど、早々に倒させるわけにはいかないよ!」
結衣奈はシールドを赤黒く光らせながら展開して刀を、ロードゼンヘンドは、
「んー、堕ちても連携するなんてさすが灼滅者。回復は任せろ、だから動け」
アトシュを舞い散る癒しの黄色い花弁で覆う。
癒されたジャマー2人は、同時に鏖殺領域を発動した。刀のそれは黒々とAチーム前衛を包み込み、アトシュは剣の形をした殺気を、狙い違わず刀へと届かせる。
「……生意気な!」
カバーが間に合わなかった敬厳は悔しそうに吐き捨てると、アトシュに影を伸ばして絡め取り、そこに紅音が銀の爪を光らせて迫る……と。
「させないっす!」
今度はハリマが割り込んで鋭い爪を止めた。
続いて円の援護射撃を受けながら、シャオが。
「俺の歌で……魅せてあげるね……?」
幼女のような高音で奏でる歌を、刀向けて響かせる。
メディックの素早い回復を背中に受けつつ、両チームのジャマーの視線が刹那出会う。
――互いに、ジャマーから潰しにきている。
ライブハウスや模擬戦などの対灼滅者戦の経験から、やっかいなジャマーから倒していくのは常套。
互いに手の内を知り尽くした同士、両チームのジャマーは2人共初っぱなに狙われるのは覚悟の上でこの役目を引き受けた。
だから――。
「さあ、本気でかかっておいで! もっともっと楽しませてよ!」
「強さを求め続け、剣の頂きに至ることを至上命題とする私にとっては、全ての戦いはそのための糧」
倒れるその時まで、精一杯のバッドステータスを振りまかせてもらう!
アトシュは縛霊手を上げて結界を張り、刀は十字架を抱えて光線を振りまく。
●
「……魔剣―――無銘」
「ぐっ……まだ、動けたのか……ッ」
アトシュの妖冷弾が結衣奈を凍らせたのと同時に、その彼を、先に倒れたと思われていた刀の斬撃の嵐が襲った。
繰り出された刀の5本の刃のうち、2本は彼女自身の腕、2本は闘気が形作ったもの、そして残りの1本は影。
強力な一撃にアトシュは崩れ落ち、また力を限界まで振り絞った刀も、ハリマの突き押しに壁際まで吹き飛ばされ、さすがにもう動けない。
「次は……私が狙われる番かな」
結衣奈はパリパリと氷片を落としながら自己回復し、うそぶいた。確かに、定番の作戦からすれば、次にターゲットとされるのはメディックだろう。
その彼女を、
「いっしょに、頑張って……ミーシャ……」
早速シャオの縫いぐるみから伸びる鋼の糸が襲う……が。
「余に護られた事、末代までの誉れとせよ」
それを堂々と躰を張って遮ったのは敬厳。
もちろんその隙に紅音は攻撃にでており、ロードゼンヘンドには、影が形作った長い髪の女性が絡みついている。
「ううっ、一応美女に抱きつかれてるってことかな……いいから、回復は任せて、どんどん攻めて」
ロードゼンヘンドに癒しの視線を向けようとした円は言われて攻撃に転じ、無数の六文銭を結衣奈へと撃ち込み、ハリマは、
「とうっ!」
紅音を脇から突き飛ばしてよろめかせる。
そのハリマを、今度は敬厳が緋色のオーラで輝かせた刃で襲い……。
闇の力を利用している分、皆体力は上がっているが、当然その分攻撃力も大幅に上がっており、喰らうダメージも大きい。また、各自がバッドステータスを意識したサイキック構成にして、最終盤の消耗をも狙っている。
つまりメディックの存在はとても大切であるということで……。
●
「帰りたくても帰れそうもないし……最後まで、あがかせてもらうよ……!」
ロードゼンヘンドは息も絶え絶えの様子ながら、猛烈な勢いで赤い花弁を舞い散らせた。その勢いには、大事なイヤリングを血で汚された怒りも含まれているようだ。
「!?」
その花弁は竜巻のように、影の子狼の群をけしかけてきた紅音を覆い、混乱をもたらす。
「今回復するよ! 神という紅の鬼姫を降ろしたわたしの力を見せてあげる!」
すかさず結衣奈が盾を振り上げて回復しようとするが、
「俺の歌で……夢を見させてあげるよ……」
怪しく響くシャオの歌声に、結衣奈の腕は止まり……紅く燃えていた目がとろりと半眼になり……。
「拙い、催眠か!?」
敬厳がとっさにシャオを斬りつけ歌を止めさせたが、結衣奈のヒールサイキックに癒されたのは、そのシャオであった。
そして後方から激しく撃ち込まれた六文銭が、彼女の最後に残った力をも奪い……。
「ああ……紅鬼姫……貴方は認めないだろうけれど、貴方との絆も確かにあるんだよ。だから今わたしはここでこうしていられるんだよ……」
こうして両チームのメディックも、戦線から退いた。
残った前衛が睨み合う。
どちらもここまでは集中攻撃のターゲットとはなってこなかったが、それでもダメージは少なくない。
しかし残り時間も少なそうであるし、ここまできたら思いっきりやりあうだけだ。
「肉を切らせて骨を断つ、ってヤツっすかね!」
ハリマが掌から雷撃をバチバチと放電しながら低い姿勢でつっこんでいき、最後の攻防が始まった。
拳がめりこみ、刃が食い込む。影がすさまじいスピードで絡み合い、オーラがぶつかり合って、小爆発を起こす。血飛沫が、戦場を染め上げていく。
先にリタイアした仲間たちが、回復をはかりながら固唾をのんで戦いを見守る。
「……たく、あいつらもう少し加減してやれよ……大人げねぇ」
「そうおっしゃらず、今回はエネルギーをできるだけたくさん使うことが肝要なのですから」
だが、その凄まじい戦いも終わりが近い――。
「喰らいなさい!」
「そっちこそっす!」
紅音の大鋏がハリマの太い腹を遠慮会釈なく切り裂き、同時にハリマの鋼鉄の張り手が凄まじい勢いで紅音の顔めがけて繰り出される。
相打ちか……と、思われたが、
「……うっ?」
ハリマの足下が何かをひっかけたかのように、わずかにつまづいた。メディックが退場して以後、解除しきれていないバッドステータスの影響が、ここで出てしまったようだ。
わずかな障りであったが、紅音が攻撃をかわすには充分で。
筋肉質の巨体が空振りの勢いのまま、血に染まった床に地を震わせる勢いで倒れた。
だが。
「……円っ!」
悲鳴のような主の声に、弾丸のように飛び込んできたのは黒い獣。
ザクリ。
「……しまっ……た」
深々と、霊犬の刀が紅音の古傷をえぐり。
「隙あり……だよ」
シャオの剣も後を追い。
これで大狼少女も戦う力を失った。
残るはAチームはシャオに円。Bチームは敬厳のみ。
ギリッと歯ぎしりをして、敬厳は愛剣を握りなおした……が。
「――お疲れ様! もう少し戦いたいとこだろうけど、ボチボチ時間みたいだよ!」
疲労と傷の痛みを堪えながらも、それでも明朗なアトシュの声が響き。
いわれてみれば……と、フィールドに残る者も、先にリングを降りていた者も、壁の時計を見上げた、その瞬間。
全身に漲っていた力がしゅるしゅると失せてゆき……。
「ぬ……」
「……うわ」
シャオと敬厳は、戦場にへたへたと座り込んだ。
●
戦い済んで。
「あの……あ、ありがとう……ございました……楽しかった……」
シャオが皆に頭を下げ、
「こちらこそっす!」
ハリマもぺこりと頭を下げ返す。
戦い終わっていつもの姿に戻れば、元通りの気心のしれた戦友同士、互いに癒し合いながら健闘をたたえ合う。
「フフ、皆お疲れ様、とても楽しかったわ……あー、それにしても蒼生、また会えてよかったー!」
紅音は戻ってきた愛犬・蒼生を思いっきりもふっている。
「ちょっとやりすぎたかねえ?」
アトシュが傷だらけの顔で苦笑いすると、
「そんなことないよ、本気でやることが大事なんだからさ。何回だってやりたいし、殺られたいね。なかなか面白い時間だったな」
ロードゼンヘンドがニヤリと応じる。
仲間たちと笑い合いながらも、結衣奈はふと、壁の向こうにあるはずの超機械に思いを馳せた。
「アブソーバー、お疲れ様だけど、もう少しだけ、わたし達を見守っていてね……」
そして、結び直したポニーテールのリボンを……日常に戻った自分を確かめる。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年7月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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