クラブ同窓会~このほしを かけめぐる

    作者:西東西

    ●2028年 南米ペルー
     見渡すかぎりひろがる、砂の海。
     ベージュと空色の境目をたしかめながら、砂漠の探検家――木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)は慣れた足取りで砂山を登っていた。
     まわりにはひと一人見あたらない。
     眼前に壁のように立ちはだかる砂山を、ただただ、淡々と登りきって。
     そこでようやく、これまで辿ってきた道を振りかえる。
     ――足跡の先に在るのは、オアシスをたたえた砂漠の街『ワカチナ』。
     砂山からは、そのすべてを一望することができた。
     沈みゆく夕陽を見やりながら、青年は山頂に腰をおろし、まぶしそうに眼を細める。

     完全に陽が落ち、オアシスに次々と明かりが灯るのを見守って。
    「あれからもう、10年か……」
     過ぎ去った時の長さに、かつて学園で同じ時を過ごした者たちへ、想いをはせる。
     たしか数少ない荷物のなかに、縁ある者たちの連絡先が残っていたはずだ。
     ひとけのない、静かな砂漠も好ましいけれど。
     だれかとともに過ごす時間は、それだけで贅沢なものだったと、あらためて感じて。
     キィンは宝石のように瞬く星空を見あげながら、砂の夜の静寂に、身をゆだねた。

     それから、しばらくして。
     縁ある者たちのもとに、キィンから砂まじりの招待状が届いた。
     オアシスの絵葉書一枚。
     メッセージは、たった一行。

     ――砂漠の真っただ中に、星を眺めに来ないか?


    ■リプレイ


     約束の日。
     招待状を受け取った縁ある者たちは、まずは成田で3人が合流。
     ニューヨークを経由し4人が合流した後、南米ペルーの首都、リマの国際空港に降り立った。
     世界遺産ツアーに向かう人々を横目に、機上でこわばった身体を大きく伸ばすのは、一夜崎・一夜(エクスブレイン・dn0023)。
    「『ワカチナ』は、地上絵のそばの土地だったのだな」
     学生時代からのおかっぱ頭は、研究者として学園に所属するいまも健在。
     ただし、学生時代のようにレディースファッションを取り入れた格好や化粧は、成人を機にやめている。
     シンプルなシャツに、スラックス。
     研究ざんまいで運動不足のくたびれた32歳には、長時間のフライトはこたえたらしい。
    「ちじょう、え?」
     隣にたたずむ、青白い髪にワンピース姿の小柄な女性――28歳になった七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が、小首をかしげる。
     いまだ言葉数はすくないものの、以前よりはスムーズに言葉を紡ぐようになり。
     わずかばかり、表情も豊かになっている。
     学生時代はロクに手入れをしていなかった髪は、今では丁寧にくしを通すようになった。
     さらりと流れる背中までの髪を見ながら、
    「二人とも、10年前の面影そのままに歳を重ねたようじゃの」
     かつての頃を想い出し、同じく28歳のルティカ・パーキャット(黒い羊・d23647)が、感心したようにつぶやく。
     なお、大学卒業後に日本国籍を取得したルティカは、姓を『架間(はさま)』と改めている。
     名は変われど、往年と変わらぬ鮮明な赤の髪に、雪のように白い肌。
     旅行内容にあわせてきたらしい、冒険家然とした格好が良く似あっている。
    「白い七湖都と、赤い架間が並ぶと、実にいい絵になる」
     とは、成田で再会した際の一夜の言だ。
    「おー。サカナは知らねぇのか、『ナスカの地上絵』」
     褐色の30歳男性、ケレイ・ザプトー(スタウロス・d03152)が投げかける。
     ケレイは牧師見習いをしながら教会を建てているそうだが、今回はサーファーのような若々しいいで立ちだ。
     ならぶ二人の身長差は、およそ30cm。
     さかなはケレイを見あげ、「ん」と頷いた。
     ニューヨークで出会ってからそれほど会話を交わしたわけではないが、互いに居心地は良いらしい。
    「今から行く『イカ』経由で行けるし。明日あたり寄ってってみるか?」
    「いきたい」
     即答したさかなの視線を受け、一夜がにんまりと笑う。
    「そんなこともあろうかと。あらかじめ、有休は多めに申請しておいた」
     「そりゃイイネ」と笑ったケレイがバギーカーをレンタルして、ここからは車で次の街へ。
     ただし、早くても4、5時間。
     道路事情などによっては、7時間かかることもあるらしい。
     とはいえ、心配ばかりしていても仕方ない。
     助手席の一夜にナビゲーションを任せ、ケレイはルティカとさかなをエスコートすべく、始終、陽気な想い出話を語り続けた。
    「ガクセーの頃は、キィンとアメリカ横断しようとかバカ言ってたなぁ」
    「やっておることは、今とたいして変わらんようじゃが」
    「横断、したの?」
    「やった、やった! これがナカナカの珍道中でよ!」
     聞いてくれよと後部座席の女性陣に顔を向けた瞬間、一夜が横からハンドルを押さえる。
    「おい、こらザプトー! ちゃんと前をみて運転しろ!」
     それから数時間。
     一夜は始終、ケレイの運転にヒヤヒヤし通しで。
     ルティカは、すっかり意気投合したさかなとケレイを微笑ましく見守っていた。
     ――元桜堤6組の賑やかさを思えば、大丈夫かの。
     目を細め、愉快で気楽なドライブを楽しむ。


     招待状にあった待ちあわせ場所。
     夕暮れ前に『イカ』の街に到着し、ひと息。
    「いいか。帰りはわたしが運転する。お前の運転は危なっかしくてかなわん」
    「無事に着けたんだから、イイじゃねぇか」
    「事故ってからでは遅いと言っているんだ!」
     出会ってから、まだ一日も経っていない二人だったが。
     遠慮なく言葉をなげあう様から、すっかりうち解けたらしい。
    「ふたりとも、なかよし」
     さかなとルティカが、くすくすと顔を見あわせて。
     そのまま待機していると、ふいに、4人の前に人影が立った。
     言いあいをしているケレイと一夜を見やり、
    「……あの悪ガキは、なんで元サバイバル学部の2人にくっついて来てんだ?」
     マントの下から無精髭を覗かせたのは、今回の引率役。
     33歳になった木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)だった。
     気づいたケレイが、大仰にハグで出迎える。
    「ダッハハ! モーセみてぇなツラんなってんぜ。すっかり探検家じゃねぇか、兄弟」
     よく通る声で笑い、ばしばしとキィンの肩を叩く様子に、ルティカがフォローする。
    「ケレイ殿は、ニューヨークでピックアップしてきての」
    「実に、おまえの友人らしい友人だとわかった」
     一夜は眉間に眉を寄せていたものの、
    「久しいな、木嶋。今回は世話になるぞ」
     久々の再会に、どちらともなく固い握手を交わす。
     10年ぶりとはいっても、挨拶は昨日からの続きを思わせる気軽さだ。
    「キィン。きた、よ」
     一夜経由で受け取った絵ハガキを見せ、微笑するさかなの様子を見やり、「ああ」と頷く。
     ――変わったもの。変わらないもの。
    「遠路はるばるようこそ」
     ワカチナまでの案内は任せろと、ルティカ、さかなの荷物を引き受ける。

     イカから『ワカチナ』までは、車で15分ほど。
     その間にも太陽は地平線に近づき、視界いっぱいの広大な空が、大地が、すべてが赤く染まっていく。
    「絶景だゼ!」
     ヒュウと口笛を鳴らしたケレイが助手席から身を乗りだし、行く先を見やる。
    「あれは、サボテン畑かのお」
    「道路と砂しかない風景というのも、面白いものだな」
     後部座席のルティカ、一夜も興味津々。
     さかなは先ほどから窓に張りつき、流れていく電信柱を見送っている。
     日本とおなじように、電柱が立っているのが不思議でたまらないらしい。
     もちろん世界的な観光地なのだから、どこからか電気を引いているであろうことは、頭では理解しているのだけれど。
    「オッ。見えてきたぜ!」
     ケレイの示した方角に、一同が視線を移して。
     現れたその光景に、目を見ひらく。
    「水。あと、木も」
    「まるで、絵に描いたようなオアシスじゃのお。街が夕暮れに浮かぶようなのも、不思議な光景じゃな」
    「砂中に急に現れたなら、夢と思うのも無理はないな」
     訪問者それぞれの反応を見守りながら、キィンは街中へ車を進める。
     確保していた宿へ案内すると、「すぐに出かけるぞ」と、準備を促した。

     改めて宿前に集まった4人を見渡し、キィンが説明を開始する。
    「帰り時は」
     と、茜と紺が混ざりあう空を指さし、
    「――あの目立つ橙色の星が、あの辺りまで動いたら」
    「要するに、フィーリングということか」
     ツッコミを入れたのは一夜だけで、ほかの3人はそのまま受けとったらしい。
    「オアシスの位置を見失いさえしなければ、帰りはどうとでもなるかのお」
    「まあ、道程は心配するな」
     ルティカの声にキィンが請けあったところで、ケレイが言った。
    「せっかくだから、オレ滑ってくるわ」
     聞けば早々に準備を整え、先にサンドバギーとサンドボードのレンタルを済ませておいたらしい。
    「ケリー。歩け」
    「あ? 歩け? しゃーねーなぁ」
     話半分、わしわしと頭をかいて。
    「イチヤもどうだ?」
    「いいだろう。そのかわり、勝負しろ。私が勝ったなら、帰りの運転は私がする」
    「オッケー、オッケー」
     この数時間で、ケレイは一夜のあしらい方を覚えたようだ。
    「じゃあ、オレたちは滑りまくって満足したら、テキトーなところで合流するわ。サンドボードに乗りながらでも、星は見れるからな」
     パイプフレームの無骨なサンドバギーに、ボードと荷物を積みこんで。
     「ヒャッホー!」と声をあげたケレイが、勢いよくアクセルを踏みこむ。
     ――ザプトーぉぉおお!!!!
     砂の壁を勢いよく駆けあがるバギーから、一夜の悲鳴が尾を引いて響く。
     不思議そうに見やるさかなに、キィンが言った。
    「砂山は、道が整備されていないだろう。だから見た目以上にアップダウンがあってな。天然のジェットコースター体験ができるぞ」
    「ケレイ殿の運転なら、さぞ刺激的なドライブになるじゃろうて」
     そんなところだと、キィンが笑って。
    「オレたちも出発するか」
     砂に足をとられやすいから気をつけろよと促し、オアシスを背に、歩き出した。


     キィン、ルティカ、さかなの3人は、一歩一歩、しっかりと砂を踏みしめながら進んで行った。
    「我もさかな殿も、しっかり日焼け対策をせねば後が辛そうじゃが。遅い時間の出なれば、大丈夫であろうか」
     夜の風は冷たいと聞いていたので、上着を身につけてはいたのだが。
     日焼け対策となると、普段程度にしかしていない。
     「明日も歩くなら、気をつけた方が良いだろうな」と、キィンが応えて。
    「砂漠の生き物も日中なら見られるんだが、またそのうちな」
    「生き物。いるの?」
     食いついたさかなに、キィンが頷く。
    「いるとも。ここはオアシスもあるから、生きやすい」
     こんな砂漠でも、季節はめぐっていて。
     ひとも生き物も。
     土地土地の恵みを享受しながら、いのちの限りを生きている。
     砂山を登りきるころには、すっかり日も沈んでしまった。
     快晴の夜空には月が煌々と輝いており、振りかえれば、夜闇にワカチナが浮かびあがっているのが見える。
     砂丘の頂上から見る夜のオアシスには光があふれ、人々の営みを感じるようで。
    「あたたかい、ね」
     物心ついたころから、さかなは日本でくらした記憶しかない。
     北欧から日本へ渡ったルティカにしても、この光景はどの土地とも違って見えている事だろう。
     自分にとっての、「あたりまえ」の風景。
     それが、ここにはなにひとつ存在せず。
     ここでうまれた者たちにとっては、このすべてが、「あたりまえ」として映る。
     手元あかり用にとキィンがオイルランプに灯をともせば、ようやく互いの顔が見えるようになった。
    「キィンは。どうして、あちこち旅、してるの?」
     さかなが、そう問いかけた時だ。
     サーチライトを思わせるバギーのヘッドライトが、遠くからまっすぐに砂丘を照らすのが見えた。
     キィンがカンテラを振り、こちらの位置を示す。
    「Yeahー! ようやく見つけたゼ!」
     ケレイの声とともに、駆けつけたバギーが3人の前に滑りこんできた。
     助手席でうなだれている一夜を見るに、勝負はついたのだろう。
    「おい、木嶋……。こいつの体力は、底なしか?」
     車から降りた一夜は、ぐったりと砂の上に座りこんで。
    「否定はしない」
    「体力オバケになんぞ勝てるか!」
     叫ぶなり、大の字になって砂の上に転がった。
    「一夜崎、大丈夫かー」
     覗きこめば、どうやら一夜は一瞬のうちに眠りこんでしまったらしい。
     さかながそばに座りこみ、寝息を確認して、頷く。
    「一夜、このところ徹夜続きで。昨日も寝てなかったって」
     飛行機で仮眠をとりつつ、同窓会テンションでここまで来たが。
     全力で遊んだおかげで、体力が尽きたのだろう。
    「まるでスイッチの切れたこどものようじゃな。身体が冷えぬよう上着でもかけて、眠らせておくがよかろうて」
     ルティカの言葉に、ケレイが車に積んでいた荷物から一夜のジャケットを放り投げる。
    「ヤレヤレ。世話の焼けるオトナだな」
    「まったくだな、ケリー」
     キィンが深く頷き、血のつながらない兄弟を見やる。
     さかなは一夜のそばに座りこみながら、夜空を仰いだ。
     空に向かって、手を伸べるようにして。
     それから、ぱたり、背中から砂に身を委ねる。
    「どれ。我も横になってみるかの」
     ルティカがさかなのとなりに腰をおろし、友を真似てぱたりと倒れた。
     キィン、ケレイも、一同に倣って。
     5人、頭で円を描くようにして、砂に身体を預ける。
     視界いっぱいにひろがった空には、月光にも負けぬ輝きをもつ星々が瞬いている。
    「北欧の星空は木々に遮られるで、此処は圧巻であるな」
    「ん。ここの星は、村から見るどこの空ともちがう」
     ルティカの言葉に、さかなが頷く。
    「じゃが、抱えられそうなほど在っても、一つも手に届かぬのは此処も同じか」
     さかなが先ほどそうしたように。
     ルティカも、天に手を伸べたことがある。
    「届かぬ方が、いつまでも追いかけられるのやもしれぬが――」
    「嬢ちゃんたちが普段見てる空も、オレが見てる空も。今見てるモンと同じなんだけどよ。キレーじゃねえか、なぁ」
     踏みしめる大地があって、空がある。
     五体満足の身体があって、友がいる。
     それで良いのだと、ケレイは笑って。
    「綺麗なものに、どうして目がいくんだろうな。あるいは、心が動いたものが美しく見えるのか」
     旅をしていると、あらゆる『きれいなもの』に触れる機会がある。
     夜空に浮かぶ月や星。
     沈む夕陽。
     霧がかった、朝の砂漠の空気。
     力強く根づく草木。
     羽根ひろげた鳥のシルエット。
    「長く居るとな、わかってくるんだ。砂丘の個性とか風の兆しとか、星の動きだとか」
     見えなかったものが、視えてくる。
     その感動が、キィンの心を震わせる。
     ――いまをいきていると、感じる。
     語るキィンの言葉に、さかなは、先ほどへの問いかけの答えを見つけたような気がして。
     そっと、自分の胸に手を当てる。
    「カンパイでもしようや。いつもは摩天楼に隠れて見えない、お星サンを肴によ」
     起きあがり、ケレイが街で調達しておいたという、酒瓶を並べはじめる。
    「しんみりするよりは、騒いでおる方が我ららしいか。――ケレイ殿、其れを我にも」
     そうとなれば、ルティカに続いて、キィンとさかなも起きあがって。
    「「「「乾杯」」」」
     眠りこんだ一夜が目を覚ましたのは。
     4人の酒瓶が、空になるころだった。


     残りわずかの酒を恵んでもらい、一夜も夜空と酒を満喫したころ。
     件の『橙色の星』が、ようやく予定していた位置に至った。
     軽くなった酒瓶をバギーに積み直し、オアシスへ帰る準備に入る。
     話題は、自然と次の同窓会の話に移った。
    「次の招待状は、何処から届くのやら」
     我も北欧へ赴く時があるやもしれぬから、連絡先はしっかり把握しておかねばの、とルティカが笑えば、
    「オレはここに暫く滞在して、次はタクラマカン砂漠、その後はサハラ」
    「気ままな旅暮らしか。うらやましいことだ」
     つぶやいた一夜に、キィンが続ける。
    「今からでも、一緒に行くか?」
     問われ、一夜は即答した。
    「いいや。私は、あそこで。ヒトとダークネスに関わり続けていくのだと、決めたからな」
     それは、一夜が学生時代から抱えてきた、ある誓いへの答えでもあって。
     予想通りの言葉に、「そんなところだろうと思った」と、キィンが肩をすくめる。
    「七湖都は、あの村に移住したんだったか」
     問われ、さかなは「ん」と頷く。
    「あの村のゆくさきを、見届けたいって。そう、おもえたから」
     学園へ来た当初。
     帰る家も、故郷も喪ったさかなにとっての居場所は、保護者代わりである一夜のそばしかなかった。
     そんな少女が「村に行く」と決断できるまでに成長できたのは、ひとえに、学園で暮らし、仲間と過ごした時間があったからだ。
    「今もこうしていつでも会えるし、懐かしがるほどフケてもねぇ」
     新しいダチも増えたことだし、また楽しみが増えたなと、ケレイが白い歯を見せる。
    「ああ。脚が続く限りひた走って駆けぬいたら、いつかは還るよ」
    「気長に待つとしようかの」
     笑いあう3人を見やって。
     一夜とさかなも、顔を見あわせて、笑った。

     ケレイがレンタルしたバギーは、あいにく4人乗りで。
     だれかひとりを置いていくわけにもいかず、3人が乗車し、2人が歩いて帰ることになった。
     行きにケレイの天然ジェットコースターを体験した一夜は、サンドバギーはもうこりごりと、乗車を辞退。
    「おー、イチヤ。それならサンドボードで競争しながら、イッショに帰るか?」
    「それこそお断りだ!」
     そんなわけで。
     バギーの運転はケレイに任せ、女性陣2人が、ひとあし早くオアシスへ帰ることに。
     なにしろ彼女たちには、『一日の砂を落とす』という、やっかいで重大な作業が待っているのだ。
    「すまぬが、先に戻らせてもらうでな」
    「キィン。一夜のこと、よろしくね」
    「任された」
     和やかに挨拶をかわす3人のとなりでは、
    「いいか、ザプトー。くれぐれも安全運転だからな。行きの10分の1のスピードで走れよ」
    「わかった、わかった。イチヤは途中で寝オチしねぇようにな」

     かくして。
     バギーを見送った夜の砂漠に、男二人。
     オアシスまで歩くには、まだいくらか距離があって。
    「行くか」
     先行くキィンの足跡を、一夜が踏みしめるように歩く。
     サンドボードを置いていってもらえば良かったかとぼやくも、後の祭りで。
     キィンはそんな一夜を見て、再会時から気づいていたことを、言った。
    「くだけたな」
     その言葉に、一夜はニッと、口の端をもたげた。
    「こっちの方が、ニンゲンらしいだろ」
     それは、ようやく。
     ヒトであることを受け入れられたのだと、告げるようで。
    「ちがいない」
     キィンは静かに肯定し。
     かつての戦友とならび、星の下を、歩きつづけた。


    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年11月23日
    難度:簡単
    参加:3人
    結果:成功!
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