夕焼けが差し込むの部室棟の廊下を、ひとりの女生徒が歩いていた。
元来、勝ち気で明るい性格の彼女だが、今日はちょっとばかりおどおどキョロキョロしている様子……。
そんな彼女に。
「どこかの部室を探しているの?」
通りかかった上級生が声をかけた。長い髪が美しい女子高校生だ。
「いえっ、そういうわけではなくてっ」
女生徒は緊張し、まだ着慣れていない新品の中学制服のすそをもじもじといじりながら。
「わたし、最近編入してきたばっかりなんです。クラスメートに、この学園は部活動を奨励しているし、面白い団体がいっぱいあるよって聞いたので、見学させてもらえないかなって思って……」
「まあ、そうだったの」
上級生はニッコリと微笑む。
「そんなこと、おやすいご用よ。どの団体も快く見学させてくれると思うわ」
そして後輩に手をさしのべ。
「とりあえず、ウチの部を見学してみない?」
うつむきがちだった女生徒の顔が、パッと明るくなる。
「うわ、いいんですか、嬉しいですっ、ぜひお願いします!!」
「さて、どこから行こうかしら」
自らの部を紹介したのち、上級生は転入生を再び部室棟の廊下に連れ出した。
「よその部も紹介していただけるんですか?」
「ええ、こうして出会ったのも何かの縁でしょうから。さ、どんどん行きましょう」
上級生は笑って転入生を促した。
まず訪れたのは、道場である。
「ほう、部活見学か。こうして部を知ってもらうのは良い機会だ。ゆっくりしていってくれ」
出迎えてくれたのは【武刃蔵】部長の刀狩・刃兵衛であった。その背後からは、剣や木刀が激しくぶつかり合う音が聞こえてくる。
「我が部ではこのように道場で日々鍛錬を行なっている。ひとつ立ち会いを見てもらおう」
道場の真ん中に稽古用の装備を着け、模造刀を携えて向かい合い、礼をしたのは、大業物・断とジャック・アルバートンである。
立ち会いに入ると、断は肩に刀を担ぐ独特のポーズで動き回る。体格差を鑑みて、足や小手などを細かく狙うヒット&アウェイ戦法だ。一方のジャックは、派手な立ち回りを見せつつも、小手を狙ってきた断の刃をすかさず模擬刀で受け止める。
稽古とはいえ真剣な勝負に息を呑んで見入る転入生に、彩風・凪紗が。
「戦いの場では技術の練達だけでは十全な働きは出来ない。敵を怖れちゃお仕舞だぜ。だから皆で切磋琢磨し精神的にも支え合える場が必要なんだ」
灼滅者の心得に転入生は緊張の面持ちで頷く……と、凪紗はちょっとおどけたように笑い、
「ま、単に武術が面白いってのでも悪くないけどな」
次に案内されたのは【テーブルゲーム研究会】であった。部室には、本棚やラックに満載のTRPGのルールブックやボードゲームに囲まれて、紅羽・流希がいた。
「部活紹介ですか? 真面目に遊ぶことが目的ですねぇ。まだできてあまり時間がたっておりませんので、現在は私ひとりなもんですから、部員募集中です。近日中に大規模なボードゲームの会を行います。この部室冷暖房完備ですし、ぜひいかがですか?」
「きゃっ!?」
次に向かうべく上級生と連れだって廊下を歩いていた転入生を、
「ククク……お前、転入生だそうだな?」
エイリアン風衣装の何者かが、突然はがいじめにした。
「お前は刺身帝国部に入り、悪の刺身怪人になるのだ!」
「さ、刺身!?」
「待ちなさい!」
そこへまた唐突に4人の魔法少女が現れた。4人は色違いのキラキラヒラヒラの衣装を身につけている。
「【正義の味方部】見参!」
少女たちは決めポーズを取ると、
「悪事はここまでだよ!」
「この胸に宿る正義の心は炎となりて悪を打ち倒します!」
「おとなしく我らが下僕におなりなさいっ!」
「今よ、みんな!」
決め台詞と共に、エイリアンをポカポカ殴り、転入生をあっという間に救い出した。
「ば、馬鹿なぁぁぁあッ!?」
エイリアンスーツから煙が噴出しはじめ、エイリアンはよろめきながら廊下を逃げて行く。
「あ、ありがとうございます?」
成り行きに呆然としつつ転入生が礼を言うと、
「お騒がせしてごめんね、わたしたちは、正義の味方部だよ」
清浄院・謳歌が紹介をする。青い衣装の魔法少女が雨宮・恋、若干恥ずかしそうな黒が白金・ジュン、
「私、普段はダークヒーロー風なのよ」
と、悶えているのがエリザベス・バーロウ。
ちなみに、廊下の曲がり角に隠れてこちらを窺っているエイリアンが空星・あぎな。
謳歌がご機嫌で。
「困ったことがあったら、いつでも正義の味方部に相談してね!」
「今度は可愛らしい部を覗いてみましょう」
と、連れてこられたのは【うさうさくらぶ】。
「うさうさ?」
可愛いが意味を掴みにくい部名に首を傾げる転入生に、獅子堂・永遠は。
「まあっ、うさうさも知らず武蔵坂学園に来たとはいい度胸ですの!!」
『(そうなの?)』
戸惑う転入生に永遠はたたみかける。
「“うさうさによるうさうさのためのクラブ活動”ですの!」
「永遠ちゃん、部室も見せてあげてくれる?」
上級生が部室のドアに手をかけようとすると、永遠は慌てて立ちふさがり。
「ほ……ほっこりカオスなだけの、ふ……普通のくらぶですの!」
次に連れてこられたのは、学園敷地の端にある建物。
「ここが【戦略戦術研究部】自慢のキルハウスよ」
鹿島・狭霧がハウス内部にふたりを招き入れる。
「ウチは名前の通り、戦略・戦術の研究を目的としてるの」
そこへ小銃を構えた灯屋・フォルケが飛び出してきて、
「Guten Tag! 戦戦研へようこそ!」
と、叫び、ズキュンとペイント弾を発射した。弾は逸れたが、狭霧はザッと踏み込んで無造作に応戦し、
「戦略や戦術ってのは、戦闘にしか縁がないイメージあるけど、実際には意外と日常生活にも役立つコトが多いのよね。スポーツや経営なんかでも取り入れられてるでしょ」
何事もなかったように説明を続ける。
狭霧に倒されたフォルケは悶えつつも、
「うぐぅ……こ、このように日々常在戦場の心構えで演習を行える戦戦研はいかがでしょう?」
「……ほう、これが戦戦研のキルハウス」
突然一行の背後から呟きが聞こえた。振り向くと、そこにはカメラを構えた雁屋・蝸牛がいて、
「どうも【光画部】です。いい写真が撮れたよ、ありがと~」
ペコッと頭を下げると、すたこらと去ってしまった。
一行は唖然として呟く。
「い……いつの間に?」
校庭に出ると、
「あ、巨瀬くん!」
上級生が顔見知りらしいスポーツウェア姿の男子に声をかけた。
巨勢・冬崖は【武蔵坂学園ラグビー部】のキャプテンだという。正統派の部が存在すると知って、転入生は微妙にホッとする。
「当部は、楕円球を通じて部員が互いに切磋琢磨し、心身を練磨、健全な学生生活を送ることを目的としている。普段は練習をしながら、初心者向けにルールの解説や勉強会などを開いている」
冬崖は体育会系の長らしく、キビキビと説明してくれる。
「部室は、まあ運動部としては普通かな。女子が多いんで、比較的清潔で爽やかではあるがな」
そして胸を張ると。
「ラグビーは紳士のスポーツであり、そこから学ぶ精神を誇りに思っている。身体も鍛えられるし、誰でも活躍の場がある。それから、可愛いマネージャー陣が……自慢だ」
次に訪ねたのは【白鳩観光協会】。
「部室はわたしのお社。つまりこの部は、飴莉愛ファンクラブだよ」
と、巴津・飴莉愛はすまして言ってのけた。
「誰がファンだ」
ボソっとツッコんだのは、鳳・仙花。
「え、違うの? 仙花お兄ちゃんは部員第1号だからファンクラブ会長よ」
「誰が会長だ。おい野々上、貴様も突っ込め」
「んむ?」
呼ばれた野々上・アキラは、鳩型のお菓子を食べつつ製作途中のお地蔵様の絵から一瞬顔を上げたが、いえーい♪ とVサインを出しただけで、すぐまた目を落としてしまった。
ダメだこりゃ、と仙花は溜息を吐き、
「ま、ここは要するに社と呼ばれる本拠地で、一応御神体らしい鳩の置物もある。それから殲術道具を譲り合う場所でもある。あくまで募集、譲り合いであって交換ではない」
飴莉愛は頷いて。
「殲術道具は旅のお土産って考えてるの」
ふたりは学外に拠点を持つ部も訪ねることにした。
まず訪れたのは、竹並木の奥に佇む和洋2棟が並ぶ屋敷だった。
「ようこそ【Twilight Union】へ」
鎮杜・玖耀が屋敷内を案内してくれる。
「クラブの活動では、洋館の方を主に利用しています。ハロウィンにはみんなで飾り付けをしました。こちらの掘り炬燵の座敷は憩いの場で、おしゃべりしながら楽しい時間を過ごしています。黄昏のような光と闇の狭間で生きる私たち灼滅者が、共に支え合いながら進むべき道を見つられるような仲間と出会える。ここをそんな場所にしたいと思っているのです」
玖耀は柔らかく微笑み。
「今日は、訪ねてくださってありがとうございました」
新入生は、なぜか河川敷に連れて行かれた。
「ようこそ、【河川敷野外生活部】へ!」
そこでふたりを迎えてくれたのは、副部長のアンカー・バールフリットである。
「雄大な大自然! ここでは全てが自由! このクラブでは部員が各自目標を持って課題に挑戦しています。当部の魅力は、一見不可能なことでも挑戦できるというところだね。私はここの設立メンバーの一員だが、数々の奇跡を見てきた。例えばマグロの着ぐるみを着て河を泳げる様になった人とか。人間の想像の範疇にあることは、必ず実現できると信じている!」
演説に目を丸くしている転入生に、上級生は囁く。
「面白いけど、話半分に聞いといた方がいいわよ」
そうなのか、と転入生が小さく頷いた時。
カシャッ。
背後でシャッター音がした。
振り向くとそこには、なぜかまた蝸牛が。
「いいですね夕暮れの川。いい写真がとれました、ではまた~」
そしてまたすたこらと去っていった。
学園に戻ったふたりは【天剣絶刀】を訪ねた。ギィ・ラフィットが、壁に模造刀や殲術道具がいっぱいに掛かっている棟内を案内してくれる。
「これらの武器は、元の持ち主が新しい武器に巡り会って、もう使わなくなった武器たちっす。活動内容は、灼滅の合間の息抜き場、仲間を見つける場所って感じっすかね。皆自然体で過ごしてるでやしょう? あちこちの部屋にお茶の用意がしてあったりするっすよ。おふたりもひとついかがです?」
校庭にひとだかりができていた。覗き込むと中央では、いかにも魔法少女な女生徒と、ムキムキの男子生徒が腕四つの状態で組み合っていた。
「【クズノハ魔法少女研究所】の部員だわ。魔法少女が臼井・幸ちゃん、ムキムキが葛葉・大爆発くん」
と、上級生が教えてくれた。
力勝負であるから、見るからに幸の方が不利だが、
「とおっ! 魔法少女のパワーを見せつけてやるうっ」
魔法少女は腕を解くと、素早くパンチを繰り出す。
「おっと! 人工魔法少女も負けるわけにいかんっ」
大爆発はそのパンチを掌で受け止める。幸は受け止められた反動でよろけ、
「ちょ、ちょっとお、爆ちゃん、話が違うじゃん……って、何でこんなことしてるんだっけ?」
女の子っぽい部も覗いてみようということで、ふたりは【★ファッション研究会☆】を訪ねた。トルソーやミシンが並ぶ部室には、可愛らしくオシャレをした、ふたりの少女がいた。
「部長のゆきだよっ♪ はじめましてっ」
と名乗ったのは神崎・結月。
「おねえさん、また会ったね、えへへ♪」
と笑った飴莉愛は掛け持ちしているのだそうだ。ピンクのドレスに着替えている。
結月が楽しげに説明してくれる。
「ウチの会は、シーズンごとのファッションについて考えるってゆーのが主な活動目的。お洋服作ったり、イベントには友好さんも招いてパーティーもしてるんだっ☆ みんな仲良しでアットホームな雰囲気が一番の自慢! みんなでコーデしあったりとかするのもちょー楽しいよっ♪」
次に訪ねた【忘れられた一室】では、ちゃぶ台の上で鍋がぐつぐつと煮えていた。
部室は安アパートのような六畳一間。生活感が溢れる部屋であるが、なぜかあちこちに水晶が生えているのが謎。
「すんませんっす、せっかく来てくれたのに、部長の水晶・黒那が、先ほど暖を求めて飛び出していっちゃいまして」
と、座布団を薦めてくれたのは倉田・鉄生。
「この部室寒いから……あ、部員の雁音・夕眞ですぅ。鍋おいしいわね。お刺身もどうぞ。あ、黒那ちゃんだわ」
夕眞は窓を開けるとメガホンで、黒那ちゃんファイッ、と声をかけた。外を小さな少女が駆けていくのが見えたが、彼女が部長であろう。
「黒那さん、温まるために、パジャマと布団かぶって湯たんぽを抱え、かけそばを器用に片手で食べつつ、ポメラニアン達と火事現場を探して歩く……とか言ってましたけど、大丈夫ッすかね。あ、おひとつどうぞ」
訳がわからないままに、鍋のお相伴に預かったふたりであった。
次の部室には、またしても飴莉愛と、そしてアキラがいた。またしても掛け持ちらしい。
「我がクラブ【ご当地の友】は、ご当地ヒーローによる、ご当地ヒーローためのクラブだ! 同じルーツを持つもので助け合おうぜって集まりさ。ご当地ヒーローじゃなくても好きに見学していってくれ!」
と、部長の小清水・三珠が歓待してくれる。
「部室はちっと乱雑だがな、ご当地怪人の情報はきっちり整理してる。最近は北海道にやたら多いんだ。部員はいろんな都道府県出身者がいて、いつでもご当地の名産品や旬の果物がたくさんあるぞ」
アキラが三珠の背後で月餅を食べつつ、いえーい♪ とVサインを出した。
三珠がふたりにみかんを渡してくれながら。
「おなか空いたらいつでも遊びに来なさい。今の季節ならみかんとか甘栗とか常備してるから」
「部員専用のメダリオンなんだよ」
【探求部】部長の守安・結衣奈が、赤い石のついたメダリオンで部室の扉を開けてくれながら。
「探求部(たんきゅーぶ)はダークネスから明日の晩御飯まで自分の興味・関心を持った事柄を探求し、情報交換するのが活動内容と目的。灼滅関連はもちろん、日常イベントも探求してるよ。そうそう、部室は最近ぐっと充実してね! その辺りは皆に紹介してもらうよ!」
「まずはこれを見てよ、じゃーん! こんなこともあろうかと作っておいたんだ!!」
部室に入るなり、1/24スケールの部室模型を見せてくれたのは中島九十三式・銀都。なるほど家電や家具、調査機材がずいぶん充実している。
「部室のものは、みんなでお買い物に行ったんだよ! これは結衣奈ちゃんやみんなの手作りお菓子。ハロウィンパーティや、焼き芋パーティもしたんだよ」
コタツとお菓子を薦めてくれたのは神泉・希紗。
「でもね、マジメに考える時は考えるんだよ。戦いや依頼のアドバイスをもらったり」
「誰でも不思議に思うこと、知りたいと思うことがあるでしょう。捜し物は1人では見つけられなくても、皆で探せばきっと見つけられます」
と言い添えたのは、六車・焔迅。
神楽・三成がいい笑顔で手製の部活紹介パンフレットを渡してくれながら。
「“案ずるより生むが易し” 興味が湧いたら短期体験入部するのをオススメします」
部室棟から出ると、冬の日はとっぷりと暮れていた。
「ふう、今日はこのくらいにしておきましょうか」
「はい先輩、今日は本当にありがとうございました」
転入生は深々と頭を下げる。
「いえいえ、私も改めて他の部活について知ることができて、楽しかったわ。また機会があれば……」
「――俺も楽しかったですよ。いい写真もいっぱい撮れたし」
突然口を挟まれ驚いて振り返ると、三たび蝸牛が。結局彼は、ふたりの後をついて回っていたらしい。
「ハイ、じゃ最後におふたりの記念撮影を。はーい、今日一番の笑顔くださーい」
とカメラを向けられ、ついニッコリVサインを出してしまうふたりであった。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年12月5日
難度:簡単
参加:33人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 7
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