別府のライオン

    「別府には、ステキな水族館があるのですよー」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、ぺんぎんを思い浮かべているのか、一瞬うっとりと夢見心地に目を細めたが、ハッとすぐ表情を引き締め。
    「お隣の市になりますが、サファリパークもあります。温泉だけでなく、様々な観光が楽しめるようになっているのですね」
     唐突な別府の宣伝に、集った灼滅者たちは戸惑って顔を見合わせた。
    「そのサファリの動物が逃げ出したのではないかという噂が、別府周辺で囁かれています。しかも逃げ出した動物はライオンらしいと」
     ライオン! それは大変危険だ。しかし、動物園などからペンギンやフラミンゴのような危険性が少ない動物が逃げ出してもニュースになるのに、今回は全く報道されていないではないか?
    「ええ、実際は逃げてなどいないのです。サファリパークに問い合わせがあり、厳密に確認したそうですが、1頭たりともサファリの外には出ていません。しかし、山で大きな獣を見た、それがオスのライオンっぽかったという、そんな目撃情報が、サファリや自治体、警察に多数寄せられているのは事実です。ちなみに目撃場所は、別府の郊外に集中していて」
     ライオンと見間違えるほど大きな獣というと、ツキノワグマ……は、九州では絶滅したと言われている。ならば猪か? ライオンほどは大きくないだろうが。
    「しかも、もうひとつ目撃情報で共通しているのは」
     姫子は端正な眉を潜め。
    「そのライオンのたてがみは、炎のようだったと」
     炎のようなたてがみ! それは、つまり……。
     頷いた姫子は、重々しい口調で。
    「イフリートでしょう」
     やはりそうか。
     この騒ぎも、ダークネスの仕業か……。
    「どうやらイフリートは現在、山を巡って力を蓄えている段階のようです……しかし、困ったことに」
     姫子は腕組みをすると、教室をうろうろと歩き回り始めた。
    「イフリートの出現自体は、サイキックアブソーバーの予測と目撃情報から割り出せるのですが、今回はどうしたことか、具体的な出現場所と時間・戦闘方法までは、直前まで予知できそうもないのです」
     それは、出動の直前まで、いつものような情報が与えられないということか!?
     姫子は不安げに呟く。
    「大きな力が……どうやら鶴見岳のマグマエネルギーを吸収して、強大な力を持つ、親玉のようなイフリートが復活しようとしており、それが予知を妨害しているようなのです」
     灼滅者たちはざわめく。
     エクスブレインの予知を邪魔するほどのイフリートとは、一体?
    「いえ、余計なことを言ってごめんなさい。親玉については、まだ不明な点が多すぎるので、今思い悩んでも仕方のないことです」
     気を取り直したように、姫子は、
    「今回多数目撃されているイフリートは、その親玉復活の影響で出現したもののようです。とりあえず私たちは、今存在しているイフリート退治に専念しましょう」
     皆と、そして自分を落ち着かせるように、きっぱりと言った。 
     話を今回の件に戻し、
    「そういうわけで申し訳ないですが、皆さんはすぐに別府へ向かい、現地で警戒しつつ待機していてください。明確な予知ができ次第、携帯電話にお知らせしますので、情報を得たら、すぐに迎撃に出かけてください。イフリートが温泉街に入る前に撃破することが最重要です。相手にするのは単体ですし、それほど強くはなさそうなので、じっくり作戦を練る時間がなくとも、皆さんなら何とか倒せるでしょう」
     それは何日後くらいになりそうなの? とひとりが聞く。
    「さあ……明日になるか、1週間後になるか」
     姫子は難しい顔でこめかみに指を当てた。
    「なにせ、こんな不確定な事件を予知するのは私も初めてで……」
     どうやら、今までに無い事態にあるということだけは確かなようだ。
    「……とにかく」
     ずっと思い悩むような表情だった姫子は、決然と顔を上げ。
    「全力を尽くして予知を進め、できるだけ早くお知らせします」
     灼滅者たちは頷く。ここは姫子を信じて、早速別府へと向かおう。
     姫子はふっと表情を緩め、
    「その時までは、温泉で鋭気を養ったり、観光で気分転換されたらいかがですか? せっかくの有名観光地ですもの。私のお薦めは、水族館のマゼランペンギンに会いに行くことですが」
     確かに考えようによっては、公欠で温泉&観光旅行に行けるという、ラッキーな機会でもある。
    「但し、いつでも出動できる心構えをしておくことと、携帯の圏内にいることは守ってください。それから携帯の電源とバッテリーにはくれぐれも注意を……あ、長電話もさけてくださいね!」


    参加者
    羽坂・智恵美(幻想ノ彩雲・d00097)
    領史・洵哉(一陽来復・d02690)
    九重・透(目蓋のうら・d03764)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)
    久遠寺・せらら(雨音の子守唄・d07112)
    壬薙・亜耶(臥龍天星・d07157)
    天木・桜太郎(嵐山・d10960)

    ■リプレイ

    ● 水族館と売店巡り
     別府に到着した灼滅者一行は、さっそく観光へと繰り出した。まず向かったのは、姫子に薦められた水族館だ。
    「あれだ、あれが黄門様! ネーミング渋いよなあ。首筋の二本線が洋服着てるみたい」
     九重・透(目蓋のうら・d03764)が、腹に黒い星のある大きなマゼランペンギンを指した。
    「わあ、かわいいですねえ。ペンギン、楽しみにしてたんですよう」
    「水族館楽しいねー!」
     と、きゃっきゃうふふでペンギンのブースに貼り付いているのは、羽坂・智恵美(幻想ノ彩雲・d00097)、十津金・旭(桜火転身トツカナー零五・d06921)の女子たち……と、
    「そーだよなっ、やっぱ水族館、テンション上がる!」
     天木・桜太郎(嵐山・d10960)。
     そんな彼らの隙間から、持参のカメラでペンギンを熱心に撮影しているのは壬薙・亜耶(臥龍天星・d07157)。
     先程回った海獣コーナーをもう1度見てきたくて少々そわそわしているのは、領史・洵哉(一陽来復・d02690)。ゴマフアザラシが好きなのだ。
     そんな一行を、少し下がったところから、このメンバーの中では年少の方なのだが、落ち着いた視線で見守っているのは武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)。
     その勇也の傍らには久遠寺・せらら(雨音の子守唄・d07112)がいる。人見知りしがちな彼女は、遠い土地での今回の任務が、同じクラブの後輩である勇也と一緒であることを心強く思っているのだ。

     水族館を堪能した一行は、別府の中心街に戻り売店巡りを楽しむ。
    「あっ、温泉蒸しのプリン発見! これ人気あるんだぜー。自分土産にしよっと」
     桜太郎がはしゃげば、
    「おまんじゅう、クラブのお土産に買うんだ!」
     旭が張り切り、
    「えっと、わ、私もお土産に、なにか可愛いものを……」
     せららが迷う。
    「団子汁、鳥天、温泉まんじゅう、どれも美味い!」
     透は名物の食べ歩きに邁進している。
     そこへ。
    「……あ、良かった、みんないる」
     土産選びに熱中して皆とはぐれそうになった亜耶が、息を切らして追いついてきた。方向音痴の彼女は、知らない土地で仲間とはぐれたらオシマイである。
     そんなメンバーを、勇也はまた一歩下がったところから、お土産に買った木刀を手に見守っている。

     別府を堪能している灼滅者たちであったが、もちろん任務のことは忘れていない。無心に観光を楽しんでいるようでも、皆ひんぱんに携帯を確認している。
     イフリートはいつ、どこに現れるのか。
     どんな敵なのか。
     なぜ別府なのか……?

    ● 地獄巡り
     別府に来て2日目の朝を迎えた。この日灼滅者一行は、地獄巡りの観光バスに乗り込んだ。
     別府駅を出発したバスは、海地獄、山地獄などを順番に回っていき、後半の血の池地獄へと客を案内する。
    「わあ、真っ赤だよ。さっきは青いとこがあったし、すっごいね」
     旭が、噴き上がる赤い噴煙に目を丸くする。
    「名前だけ聞くと、どんな場所なのか怖かったのですが、温泉だったんですね。一言で温泉と言っても、水の色も違うし、景色も綺麗で……あの、面白いです」
    「話には聞いた事がありましたけど、実物を見ると凄いですね。地獄という名付けにも納得です」
     せららと洵哉も、感心して見入っている。
    「すごすぎて、浸かってないのに、のぼせそうですう(きゅう)」
     智恵美は噴煙に軽くのぼせてしまったようだ。

     ……と、その時。
     亜耶の携帯が大きな音で鳴り、彼女がそれを開いたと同時に、メンバーはそちらを振り返った。
    「はい!」
     ディスプレイは姫子のナンバーを表示していた。
    『亜耶さん、姫子です。みなさんご一緒ですか?』
    「ああ一緒だよ、はぐれても迷ってもいないさ!」
    『……は?』
    「あ、いやそれはこっちの話……いよいよ出動か?」
    『はい、ぎりぎりですが、出現を予知することができました。これからすぐに現場に向かって下さい』
     出現場所は、鶴見岳の山麓だという。
    『皆さんは、いまどこに?』
    「地獄巡りの最中だ」
     電話の向こうからガサガサと地図を開くらしい音が聞こえてくる。
    『少し離れてますね……ではタクシーを使って、鶴見岳のロープウェイ下駅に向かって下さい。詳細は一斉メールで全員にお送りします。移動中に読めるように』
    「わかった。メールを受け取ったら折り返し電話するよ……ところで、タクシー代は経費で出るんだよな?」
    『もちろんです、領収書をお忘れなく』
    「了解」
     亜耶が携帯を閉じると、先程までとはうってかわった緊張した顔の仲間が彼女を見つめていた。姫子からの連絡の内容を手早く伝える。メンバーは頷くと、半分はタクシーをつかまえに、半分は急用でツアーをここで抜ける旨をバスガイドに伝えに駆けだした。

     鶴見岳へ向かう車中で姫子から送られてきたメールは、以下のようなものであった。

    『ターゲットは予想通りイフリート1頭です。ファイアブラッドに準ずるサイキックを持っています。シャウトも使えます。
     ターゲットは、鶴見岳北麓の林道沿いにロープウェイ下駅に向かっています。ロープウェイ駅にターゲットがたどり着く前に、撃破してください。ロープウェイ下駅でタクシーを降りたら、北側の林道を、ターゲットを探しながら山の方へと進んでください。それほど遠くない地点で遭遇できるでしょう。
     鶴見岳の主要な登山道は南側にあり、北側の林道は主要な登山道ではないので、遭遇地点に人は少ないでしょうが、もし山で作業などをしている一般人がいたら、巻き込まないよう注意してください。
     成功の知らせをお待ちしています!』

    ●鶴見岳
     鶴見岳の麓にあるロープウェイ下駅は賑わっていた。九州では珍しい霧氷が見られる山なので、冬でも人気のハイキングコースなのだ。この駅までイフリートがたどり着いてしまったら、大変なことになる。
     ロープウェイを使わずに山頂を目指す登山者たちは南側の登山道へと向かっていくが、灼滅者たちは反対の北側の林道へと足早に踏み込んだ。林道とはいえ作業車が通るためか、舗装もされているし、それなりの広さもある道であった。
     灼滅者たちは半ば走るようにして山中を進んでいく。敵に早く相まみえたいのはもちろんであるが、できるだけ人里から離れた地点で戦いたい。
     小一時間ほども林道を進んだだろうか。先頭を進んでいた勇也が足を止めた。
    「……いる」
     灼滅者たちは息を殺し、そっと辺りを見回した。確かに何者かの圧倒的な気配が……。

    ●燃えるたてがみ
     ……と。
    『ガアァァァァアアッ!』
     鼓膜を揺るがせる咆哮と共に、少し先の斜面を大きな金色の獣が駆け下りてきた。
    「きたな……念のため、殺界を形成する……油断せずに行くぞ」
     亜耶が殺界形成を発動し、メンバーは配置につき、カードを解除する。
     智恵美はスレイヤーカードを口元にあて、
    「Zefiro!!」
     武器を解除した。更に髪をポニーテールに束ね、黒いグローブと、護符の入ったポーチを腰に着ける。
    「転身!」
     と、元気に唱えたのは旭。びしっとポーズを決め、
    「今回はトツカナーラビィスタイル! さぁ、うさうさっと行くよ!」
    「あれがイフリートか……マジで燃えてら」
     宿敵イフリートに初めてまみえた桜太郎が呟く。
     目撃者がライオンと見間違えたのも無理のないこと、そのイフリートには立派なたてがみが生えている。しかしそのたてがみは、めらめらと燃えさかる金の炎だ。そしてその体躯は雄のライオンよりも二回りほど大きい。山のエネルギーを得て、更に大きくなったのかもしれない。
     対峙したイフリートと灼滅者たちは、山道をじりじりと近づいていく。
    『ガアァァァアアウッ!』
     イフリートは更に高らかに咆哮すると、そのたてがみがザアッと灼滅者たちめがけて伸びた。
    「あっ!」
    「熱うっ!」
    「わあっ!」
     その炎は身構えていた前衛を舐める。
    「いきなりそうくるかー!」
     その炎をかいくぐるように旭がバスタービームを放ち、せららが果敢に踏み込んでいき螺穿槍を見舞う。
    「皆さん、大丈夫ですか!?」
     メディックの智恵美が護符の入ったポーチに手をかけるが、
    「……大したことはありません、攻撃してください!」
     前髪を焦がしながら洵哉が答え、自らにドラゴンヒールをかける。
     智恵美は頷き、導眠符で催眠を狙う。
     他の前衛たちも炎を振り払い、桜太郎もドラゴンパワーで、透はブラックフォームで、それぞれ体勢を立て直す。
     勇也が斬艦刀を振りかぶりつつ前に出、
    「この武器が俺の人間としての矜持だ!」
     ざっくりと戦艦斬りを見舞い、すぐさま飛び退く。かつてイフリートとして闇堕ちしていた彼にとって、敢えて武器サイキックで戦うというのは大切なことなのだろう。
     続いて亜耶が縛霊撃を使い、捕縛を狙っていく。
     吠え猛るイフリートの傷口から見えるのは、血ではなく、赤い炎だ。
    『グウアァァァアアァァッ!』
     怒りに燃えるイフリートは、今度は大きく開いた口から炎を吐いた。
    「あああっ!」
     その炎は桜太郎の全身を包み、彼は咄嗟に火を消そうと地面に伏して転がる。
    「桜太郎さん!」
     智恵美が駆け寄り、炎を恐れることもなく桜太郎に護符を貼り付けると、炎は瞬時に消えた。
    「大丈夫ですか!?」
    「ふう……ありがと、平気だ。熱かったけどな……」
     服や髪はぶすぶすと焦げているが、火傷は護符のおかげで随分癒えている。
    「桜太郎センパイのお返しだー!」
     旭がブレイジングバーストの炎を噴射し、せららが影縛りを見舞う。続いて勇也がレーヴァティンを命中させるとイフリートは左の前足を引きずり始めた。
    「くらえ!」
     その足の付け根を狙い、噛みつこうとするイフリートの顎の下をかいくぐって、透が閃光百裂拳を繰り出す。
     イフリートはがくりと膝を折った。たてがみの炎も心なしか勢いを弱めてきた。
     すかさず洵哉と桜太郎が竜骨斬りを、亜耶が閃光百裂拳を見舞う。
     集中攻撃に耐えかねたのか、イフリートはもう一方の前足をも折った……が。
    『ゥワオォォォーーーン』
     イフリートは頭を高く上げ、山頂に向かって遠吠えのように長く鳴いた。山のエネルギーを取り込もうかとするように――すると、立ち上がれないほど痛めつけられていたはずの前足を、イフリートはゆっくりと起こした。
    「しぶとい……ですね」
     せららが呟きつつ、足下に影を引きつける。
    「意外に長くなりそうです」
     智恵美が長期戦に備え、前衛に清めの風を施す。
    「それでも大分弱ってるはずだよっ、がんばろーっ!」
     ガンの音に負けない大きな声を挙げながらガトリング連射を見舞った旭の周りに、バラバラと薬莢が散らばる。
    「がんばりますっ……ええいっ」
     力一杯蹴り出したせららの足下から黒い影がしゅるりと伸び、イフリートの頭から、ふたたび燃えさかり始めたたてがみまで、すっぽりと喰らいついた。
    「貰った!」
     視界を遮られた敵に勇也が黒死斬で斬りかかるが、イフリートは首を振って影を振り払うと、
    『ガアッ!』
     癒えた前足を振るって勇也を払いのけた。勇也の刃はたてがみをかすめ、炎がパッと散った。
    「ぐっ!」
    「首が丸出しだぞ!」
     敵が地面に倒された勇也に引きつけられている隙に、透が燃えさかるたてがみをものともせずにガンナイフの刃を首筋に突き立てる。今度は透の方へと首を向けた敵の背中に、洵哉と桜太郎が斬りかかり、間髪入れず亜耶が閃光百裂拳を。
    『グワアァッ!』
     イフリートは再び炎を吐いて、至近距離に群がる灼滅者たちを焼き尽くそうとした。しかし、その炎にはすでに勢いが無く、しかも足下がおぼつかないために、容易く避けることができた。
    「今だよ、一気に行っちゃお!」
     旭のバスタービームがイフリートの眉間を直撃する。もんどり打って倒れた敵に、灼滅者たちは続けざまに攻撃を加える。イフリートは最期のあがきとばかりに、鋭い爪を立て、刃物のような牙で噛みつこうとする……が、勝負は既に決まっていた。
    『……ガッ!』
     血を吐くような声をひとつ上げたイフリートは、
    「わっ」
    「うわっ」
    「な、なんだっ?」
     突然全身を激しく燃え上がらせ、灼滅者たちは飛び退いた。
     強烈な熱と光にじりじりと下がった灼熱者の輪の中で、イフリートは時々びくびくっと痙攣しながら燃え続ける。
     赤々と……煌々と。
     まるでマグマに灼かれているかのように……。

    ● 別府の謎
     強烈な炎を上げて燃えたイフリートは、火が治まってみれば、跡形もなく燃え尽きていた。
    「……ふう、急な出動でも何とかなったな」
     亜耶がカードに武器を収納しながら息を吐いた。
     しかし智恵美は山を仰ぎ見て、緊張した表情のまま何事か考え込んでいる。
    「どうした、智恵美?」
    「えっ? いえ、なんでも……」
    「何か気になっているんだろ。言ってみな」
     促され、智恵美はためらいつつも。
    「姫子先輩は、この山のマグマエネルギーで、強大なイフリートが蘇りつつあるって言ってましたよね。それって、今倒したヤツのことじゃないんだろうなって……」
    「えっ?」
     傍にいた桜太郎は、無事に初依頼が済んだことに一安心していたのだが、智恵美の言葉に一瞬びくりとし、動揺を隠しつつ応えた。
    「そ、そうだな、うん、そうだろうな。これで済んだわけじゃないだろ。俺らの他にも何チームもイフリート退治に来てるわけだしな」
     透が腕組みをして。
    「マグマエネルギーってことは、温泉とか、今日見てきた地獄とかも関係してるってことだろう。東京に帰る前に、少し調べてみるか?」
    「……いや、ここは」
     山に向かって黙祷していた勇也が。
    「この後にも何かありそうな気配はあるけれど、改めて指示が出るまでは下手に動かない方がいいんじゃないだろうか」
    「そう……ですよね」
     せららが心細そうに。
    「えっと、これ以上強い敵だったら……私たちだけでは……」
     洵哉が、あちこち炎で黒くなった顔で皆に微笑みかけ。
    「警戒は解かない方がいいでしょうけれど、とりあえず温泉に入って傷と疲れを癒しながら、この事件のことをじっくり考えませんか? 私たちせっかく別府まで来たのに、まだゆっくり温泉に入ってませんよ」
    「そうだよ!」
     旭がぴょこんと跳ねて。
    「温泉入ろうよ温泉! ボク、1週間分もパジャマとか下着、持ってきてるんだ。まだまだ泊まれるよ!」
     灼滅者たちは旭の元気な台詞に相好を崩すと、林道をゆっくりと戻り始めた――彼らが守ったロープウェイの駅へ向けて。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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