●とあるセレブなパーティーで
そこかしこから聞こえてくる上品なざわめきと抑えた笑い。シャンデリアにきらめく上質なジュエリーと、シャンペンの泡。料理が並ぶテーブルの上にはクリスマスカラーの花々がおかれ、広間の中央にはアンティークのオーナメントが下がる大きなツリー。
そこに集うのは200名ほどの紳士淑女。いわゆる「セレブ」たちのクリスマスパーティー兼忘年会だ。
会場は都心の5つ星ホテルの、最も広く格式が高い大広間。パーティー慣れし、美味しい物を食べ慣れているセレブ達の集いであるから……少なくとも参加者はそういうそぶりをしているから……立食形式であってもがっつくものなど誰もいない。夜半近いというのに、悪酔いしている者も皆無である。しかしさりげなく商売っ気と下心はふんだんに込められた、多くの名刺と赤外線通信と視線が交わされてはいるが。
そのパーティーの会場に、いつの間にかウェイターがひとり増えていたことに、誰も気づかない。
そのウェイターは、広間の奥、窓側後方にあるワインのテーブルに近づくと、ポケットからソムリエナイフを出し、手際よく赤ワインの封を開けた。スポン、と小気味のいいコルクが抜ける音を聞きつけたのか、近くにいた黒いドレスの女性が、連れの男性を伴いやってくる。
「どういったワインかしら」
「ブルゴーニュの1999年ものでございます」
ウェイターはうやうやしく答える。
ブルゴーニュの当たり年だよ、そろそろ飲み頃だね、と男性は通ぶって語り、女性は微笑んで頷くと、
「いただくわ」
と、ワインを指した。
「かしこまりました」
ウェイターは大きく膨らんだブルゴーニュ型のワイングラスにそっと深紅の液体を注ぎ、テーブルの上で滑らせて女性に差し出した。
「ありがとう」
女性は黒のレースの手袋をした指でグラスの脚をつまみあげ、シャンデリアの灯りにかざし、
「綺麗な赤だわ……」
「そうだね」
連れの男性と共に、深い赤をうっとりと眺める。
と、突然。
「……もっと美しい赤がございますよ」
ウェイターが、ポツリと言った。
ウェイターなどパーティーの備品と思っていた女性は、その突然の発言に一瞬戸惑った。一流ホテルのウェイターが求められてもいないのに、私語を発するなどあり得ないことだ。
しかしすぐにセレブとしての余裕を取り戻し、
「あら、どんな赤なの? 今夜、これ以上に素晴らしいワインが出てくるということかしら」
「ご覧に入れましょう」
と、言うなりウェイターは開いたままになっていたソムリエナイフを取り、目にも止まらぬ速さで、
「Holly night!」
という聖夜を言祝ぐ鋭い叫びと共に、女性の頸動脈を切り裂いた。
1秒ほどの空白の後。
ぶしゅるるるるるう。
高い天井まで届きそうな勢いで、のけぞった白い喉から大量の血が噴出した。
シャンデリアにきらめくそれは、確かにこのうえなく美しい赤であった。
その血は、真っ正面に立っていたはずのウェイターには一滴もかかっていない。何故なら、その時にはすでに彼は、連れの男性の喉を掻き切っていたからだ。
「Bloody night!」
パーティー会場に悲鳴が巻き起こったのは、それから2,3秒してからのこと。その時にはすでに、ウェイターは次の犠牲者を血祭りに上げていた。
「助けて!」
「殺される!!」
「殺人鬼だ!」
セレブたちは会場に3つある出口に殺到する。スタッフの誘導など耳に入りはしない。というか、スタッフたちも客を押しのけて、我先にと逃げだそうとしている。
命を脅かす恐怖には、何者も勝てはしない。
テーブルは蹴倒され、料理も酒も、食器も飛び散り、踏みつけられる。
踏みつけられているのは、物ばかりではない。人もだった。酔った足下とドレスアップが災いし、転ぶものが続出、それをパニック状態の者たちがどんどん踏みつけていく。
「ぎゃあ、踏むな!」
「ぐぇっ」
「げぼっ」
阿鼻叫喚の中、当のウェイターは軽やかにナイフを振るっている。
「Holly night……Bloody night!」
さくさくと、すいすいと、まるでバレエのように。
大量の血がカーペットにぬるぬるとした血だまりを作っているのに、彼は一滴も血を浴びていない。ナイフも、何人の喉を切り裂いても、切れ味を失うことはない。
……真紅に染まったパーティー会場で立っている者が、ウェイター1人になった時。
そこには30人もの人間が横たわっていた。その中には、ナイフの餌食になった者だけではなく、群衆に踏みつけられ圧死……もしくは瀕死の者も含まれていた。
ウェイターは満足げにその情景を眺めると、もう一度、
「Holly night!」
と挨拶のように言い残し、風のように走り去った。
●六五六番
「六六六人衆の六五六番の仕業だ。ヤツは美しく着飾った人間たちを、美しく殺すことにこだわっている」
予知した情景を語り終えた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、苦々しげに。
「このクリスマスパーティーに潜入し、どうにか六五六番の殺戮を、最小限の被害にとどめて、客を避難させてほしい」
集った灼滅者たちは真剣な顔で頷く。
「死者を6人までに留めてもらえば、今回の作戦は成功とする」
死者をゼロに、と言い切らないところに、今回の任務の厳しさをひしひしと感じる。
「死者を出さないためには、六五六番を抑えておくだけではダメだ。パニック状態の客を安全に避難させなければならない」
灼滅者のひとりが手を挙げた。
「食中毒が出ましたとか言って、六五六番が現れる前に、客を帰らせればいいんじゃ?」
ヤマトは首を振る。
「客がいなくなってしまえば、六五六番はこのパーティー会場に来ない。それで諦めてくれりゃいいけど、他の会場やホテルに殺戮の場所を変更するかもしれない。そうしたら対処の仕様がないだろ」
確かに……と、灼滅者たちは溜息を吐く。
この会場で待ち受けて、迎え討つしかないようだ。
「パーティーに潜入する方法としては、まずは男女それぞれ1人ずつ、ウェイターとウェイトレスの臨時バイトに入れるよう手配しといた。それなりに見えるヤツが入るようにしてくれ。他のヤツは、プラチナカードで客のふりをしてパーティーに潜り込めばいい」
はい、と他の者が手を挙げる。
「バイトにも入れなくて、プラチナカードも用意できなかった人は?」
ヤマトは肩をすくめ。
「会場近くのトイレとか、廊下やロビーのベンチの陰とかに隠れてるしかないんじゃね? 連絡は会場にいるヤツと携帯でとればいいし。客を避難させるためには、廊下側から誘導する人員も必要だろうから、ちょうどいいだろ」
ええ~、と不満の声が上がるが、致し方のないところか。
「とにかく」
ヤマトはパン、と手を叩き。
「番号は大きいが、それでも六六六人衆だからな、手強い敵には違いない。無理に灼滅はしなくていい。客と、自分たちの命を守ることを最優先にしてくれ」
灼滅者たちは神妙に頷く……と、ヤマトはうっすらと笑い。
「あのホテルのメシは旨いらしいぞ。パーティーのご馳走はもちろん、賄いもなかなからしい。戦いの前に、しっかり食っておくといい」
参加者 | |
---|---|
椎木・なつみ(女子学生・d00285) |
ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464) |
羽嶋・草灯(グラナダ・d00483) |
九宝院・黒継(如臨深淵・d00694) |
卯道・楼沙(脱兎之勢・d01194) |
アシュ・ウィズダムボール(潜撃の魔弾・d01681) |
レイン・ウォーカー(隻眼の復讐者・d03000) |
越前・千尋(高校生ダンピール・d10175) |
● スタッフ控え室にて
神戸牛のサイコロステーキ丼、オマール海老のサラダという、仕事前の豪華賄いを前に、越前・千尋(高校生ダンピール・d10175)は、サービス係チーフに非常時の避難についてしつこく聞きただしていた。
しつこくしているのは、仕事前に全スタッフの顔を覚えておくためでもある。
「すみませんが、誘導手順をもう一度!」
「越前、お前、心配性だなァ」
「新人ウェイターとしては心配になってしまうんですよ。何かあったらどうしようって」
「いい心がけには違いないから、何度でも言ってやるけどな……えっと」
チーフは誘導手順をそらで復唱し、千尋はそれを真剣に聞いてから、更に。
「ありがとうございます……それと窓側の非常口、ミーティングでは話だけで、実際開けてみなかったけど、大丈夫なんですか?」
「あ」
隣に座っていたベテランアルバイトが箸を持った手を挙げて。
「俺、避難訓練で担当したことあるから開けられるよ。万一の時には、任せてくれ」
一方、テーブルの向こうでも、ウェイトレス姿のミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)がステーキ丼をかっこみながら、女性スタッフたちに同じような質問をしている。
「逃げる時にパニックになったりしたら、どうすればいいのかしら?」
「まず、私たちスタッフが落ち着いた行動を取ることよ」
先輩ウェイトレスが胸を張って。
「するとお客様も、慌てなくても逃げられるんだってわかって下さるもんよ!」
● 庭にて
パーティー会場の外は暗い庭。その庭を、忍装束の椎木・なつみ(女子学生・d00285)が、足音を忍ばせてやってきた。
「この窓ですね」
なつみは眩しい窓を見上げる。横長の大きな窓の一番前側に非常梯子のボックスを視認し、その下にうずくまった。
なつみはぶるっと身震いし、
「寒っ……それにお腹も空いてきました」
もう一度、暖かそうな窓を見上げる。
「みんな今頃、美味しいもの食べてるんでしょうかねえ……」
● パーティー会場にて
「りんごジュースはいかがですか?」
「ありがとう」
トレイに乗せたグラス2個が、タキシードで男装したレイン・ウォーカー(隻眼の復讐者・d03000)に差し出された。そのうちの1個の下には小さなメモが挟んであり、レインはそのメモごとグラスをとり、もうひとつは傍らに立つ九宝院・黒継(如臨深淵・d00694)へと渡す。
すましてトレイを差し出したウェイトレスはミレーヌで、レインはメモを手の中でさっと一瞥すると、素早く黒継の上着のポケットに突っ込んだ。
黒継は鷹揚にジュースをひと口飲んでから、ポケットの中のメモをやはり手の中で広げる。メモには、まだ六五六号らしきウェイターは現れていないという内容が書いてあった。読み終えると顔を上げ、目に届く範囲にいる仲間たちに向けて、わずかに首を振る。ゆったりと宴を楽しんでいるように見える黒継だが、メガネの奥の視線は鋭い。
高級スーツでおしゃれしたアシュ・ウィズダムボール(潜撃の魔弾・d01681)は、黒継のサインを受け取った後、件のワインコーナーをさりげなく振り返った。ウェイターがワインを数脚のグラスに注ぎ分け、トレイに乗せてフロアへと出て行った。彼は本物だろう。
(「ダークネスが出るとわかってて、料理を楽しむ気にはなれないなあ」)
そう思いつつも、アシュはなんとなくパンをつまみ。
(「あっ、でも美味い。何このパン、美味い」)
白黒のパーティードレスを着た卯道・楼沙(脱兎之勢・d01194)は、何種類もあるサラダを片っ端から平らげていた。ただし視線だけははしっこく動かしながら。
(「六五六番はまだのようだな……それにしても、帽子を脱げと言われなくて良かったのだ!」)
(「多分、彼女だわ……!」)
タキシードに合わせ伊達眼鏡を外している羽嶋・草灯(グラナダ・d00483)は、ヤマトの予知にあった黒ドレスの女性を見つけていた。草灯は窓辺で葡萄ジュースを飲みつつも、さりげなく、しかし油断無く女性を目で追い続ける。
――と。
後ろの出入り口の扉が静かに開き、そこからウェイターが1人するりと滑り込んできた。中肉中背、ありふれた顔立ち、後日特徴を述べよと問われても思い出せないような目立たない男性だ。そのウェイターはいたって自然に空いていたワインコーナーのテーブルの内に入り、ポケットからソムリエナイフを出す。その動作は、妙になめらかでよどみなく……そのあまりにスムーズすぎる動作が、灼滅者たちのアンテナに引っかかった。
ゲスト役のメンバーたちは、バイト役の2人に目をやった。2人は表情を引き締めて僅かに頷いた。
楼沙はサラダボールを置き、レインと黒継は避難路となる出入り口を背にしながらワインコーナーへの距離を詰め、アシュは近くのティーテーブルにさりげなく立った。そして草灯は、ワインに引き寄せられていく黒ドレスの背後に、ほどよい間を空けてついていく。
栓の抜かれる音。
上品な会話。
静かに注がれる赤い液体。
それをシャンデリアにかざす女性。
優雅なパーティーの、ありふれた一場面。
しかしその一連の流れは、ヤマトが予知した情景とことごとく一致する。
つまり……。
(「こいつが六五六番!」)
振り上げられたナイフと黒ドレスの間にレインが割り込む。タキシードの胸をナイフが切り裂き、その下の皮膚も破れて血が跳んだ。しかし人間用の物理攻撃なので、灼滅者であるレインにとっては大したダメージではない。
同時に、素早くカードを解除した黒継がシールドバッシュを、アシュがデッドブラスターをダークネスにぶち込む。さしもの六六六人衆も予想外の急襲を受けて、机の後ろに倒れ込んだ。
●避難
血しぶきと突然起こった乱闘に、周囲の客が悲鳴を上げ、会場がざわつき出す。千尋がすかさず割り込みヴォイスを使って、
「お客様方、会場に不審者が侵入致しました。スタッフの指示に従い、どうぞ落ち着いて避難なさってください!」
「え、越前っ、どういうことだっ!?」
人混みをかき分けてチーフがやってくる。
「チーフ、あのウェイターに見覚えがありますか?」
机の後ろで素早く起きあがった六五六を指さす。
「え……? いや、無い。あっ、もしかしてウェイターに化けて不審者が侵入したということか? 警備員は何を」
「そんなこと言っている場合じゃないです。刃物を持ってるんですよ。とにかく避難指示を。非常口も開けさせてください!」
「そ、そうだな、おい、みんな、訓練の通りにお客様を!」
その間に、ミレーヌはレインに庇われ腰を抜かした黒ドレスを助け起こし、連れの男性と共に後方の出口へと連れていく。
それを見て、すかさず千尋が叫ぶ。
「扉を開けますので、慌てずにゆっくり避難してください! 廊下に出れば安全です!!」
ミレーヌの先導に、立ちすくんでいた他の客たちも最寄りの出口へと動き出す。
後方の扉を開けているのは、仕事前に話をした先輩ウェイトレスだった。手が震え、顔が青ざめひきつっている。
ミレーヌが、
「まずはスタッフが落ちつくこと、でしょう!?」
叱りつけるように言うと、ウェイトレスはこくん、と頷き、ふうーっとひとつ大きく深呼吸した。
「廊下の誘導を頼むわね、あたしは中に戻るわ」
「ミ、ミレーヌさん、あなたは大丈夫なの?」
「大丈夫よ!」
この人は当てにできそう、と、ミレーヌは心強く思いながら、黒ドレスを連れの男性に任せると、人の流れに逆行して会場内へと戻った。
会場の右側から後方にかけて、避難経路を求めて右往左往する客が溜まっていた。騒いではいない。むしろ息を潜めてできるだけ静かに退散しようとしている感じだ。千尋は、ダークネスとそれを包囲する仲間たちに注意を払いつつ、右側2つの出口に客を振り分ける。ミレーヌも敵から目を離さぬようにしながら、後方出口へと客を並ばせる。
庭で待機するなつみの真上では、ひとりの男性スタッフが非常扉を開き、梯子を下ろそうとしていた。しかし寒さのせいか、それとも恐怖のあまりか、思うように手が動かないらしく、もたもたしている。
なつみは声をかけた。
「下で補助しますから、落ちついて!」
そしてこんな場合だが、ニッコリと笑ってみせた。少しでも落ちついて欲しかったのだ。
「き、君も越前の仲間なのかい?」
「そうですよー! 私の仲間は強いから、大丈夫ですよ」
彼は落ち着きを取りもどしたのか、じきにスチールの非常用梯子がパタパタと降りてきた。なつみはそれをがっちりと支える。
そしてすぐに、割り込みヴォイスを使った千尋の声が聞こえてきた。
「足元のしっかりした方は、窓側の避難梯子を使ってください!」
数人の客が窓の方に駆け寄ってきたのが見えた。
● 六五六号
避難が粛々と進む中、抑え役たちは敵と対峙していた。
急襲に倒れた六五六号であったが、すぐに起きあがると包囲する灼滅者を見回してニヤリと笑った。その不気味な笑みは、やはり人間のものではない。
黒継がその笑みに向かって、
「さ、懺悔のお時間ですよ? 六六六人衆さん」
「ほう、私の正体を知っているとは、お前達ただの人間ではないな? なるほど良かろう、まずはお前達の血で聖夜を飾るとしよう」
「口を閉じろ。お前の口の中の薄汚い赤が見るに耐えないよ!」
アシュの罵りに挑発されたかのように、六五六は高く跳び、軽々と机を越えた。そして、
「クリスマスの贈り物だ……Holly night!」
両腕を開くとそこから不吉な黒い殺気が広がり、灼滅者たちを覆う。
「鏖殺領域なのだっ……Open card!」
楼沙がスレイヤーカードを解除し、リバイブメロディをかきならす。草灯もヴァンパイヤミストでフォローする。
ダークネスの瘴気を振り払い、灼滅者たちは本格的な攻撃に入る。レインがシールドバッシュ、続いて黒継がジグザグスラッシュでバッドステータスを積み重ねていく。アシュは預言者の瞳で狙いを高める。
六五六番は連続攻撃にも全く弱る様子はない。聞きしにまさる手強さだ。しかし避難の方は順調に進んでいる。誘導役も戦闘参加できるようになるまで抑え込めれば……。
「はっ、そんなもんか」
ダークネスは小馬鹿にしたように笑うと、ナイフを振り上げ、レインへと襲いかかった。
「そうはいかないわよ……ぐうっ!」
かわそうとしたレインの背後に回った六五六番は、その背中をザックリと裂いた。
「Bloody night!」
血が迸り、また客の間から悲鳴が上がる。
「レインっ……うわっ」
思わず駆け寄ったアシュが、飛び退いた六五六号に突き飛ばされる。
「やったわね!」
草灯がお返しとばかりにティアーズリッパーを見舞い、黒継がジグザクスラッシュで続く。
そして。
「アチョオォォォ!」
壁歩きで壁を駆け上ってきたなつみが抗雷撃を放った。
「なつみ!」
「お客さんたちが後を引き受けてくれました!」
窓の非常口は避難の目処が立ったらしい。援軍の到着に灼滅者たちの意気は上がる。
「全員揃ったら、こんなもんじゃないわよ!」
楼沙の癒しの矢で回復したレインがギルティクロスを出現させた。
と、そこへ。
「待たせたわね!」
ミレーヌが、ナイフを掲げて突っ込んできた。
「ミレーヌ!」
見ると、ミレーヌが担当していた後ろ側の扉にはもう人影はなく、戦場より最も遠い右前の出口に10数名が残っているだけだ。その人々はしっかり千尋がガードし、チーフが誘導している。スタッフの大部分も会場から出たようだ。廊下やロビーの誘導に移ったのだろう。
もう少し、もう少しだけ時間を稼げば……。
「ふん、お前達、大して強くはないが、数だけは多いのだな」
六五六番は血まみれの顔で、それでもニヤリと笑う。光彩の無い闇のような瞳と、三日月型に裂けた口は、戦闘開始時よりも更に人間離れしている。
「Holly night!」
ダークネスはまるで怪鳥のような叫びを上げて、黒継に襲いかかる。
「くっ……そんなにっ……血が見たいならっ」
血を流しつつ、黒継はナイフを振るう。
「自分の血も流させてあげましょう!」
その時。
「――避難終わったぞ!」
千尋の声が響いた。
気づけば広い会場には、灼滅者と敵しかいなくなっていた。
犠牲者を出さずに済んだ……!
その安堵感で一瞬力が抜けそうになったメンバーだったが、まだターゲットはそこに立っている。できたらこの機会に灼滅してしまいたい。
千尋が高速演算モードを発動しながら戦列に加わる。これで全員揃った。戦闘不能者も出ていない。
――やれる。
灼滅者たちは六五六番への距離をじりっと詰め、
「いくぞ!」
一斉にダークネスに襲いかかった。
「グギィッ!」
六五六号は集中攻撃を受け動物じみた声を上げたが、再び全身から黒々とした殺気を放出した。
「うっ」
その殺気のあまりの禍々しさに、灼滅者たちは思わず引く。
足下をふらつかせたダークネスは顔を醜くゆがめると、ペッ、と床に血を吐いた。
どす黒い血を。
そして、殺伐としたパーティー会場と、血で汚れた自らと灼滅者たちを見回して。
「……美しくない殺戮には意味はない」
そうボソリと呟くと、灼滅者の包囲を跳び越え、
「Bloody nightが台無しだ!」
そう言い残すと、開けっ放しだった非常口から庭へとぽーんと飛び降りてしまった。
「ああっ!」
灼滅者たちは慌てて窓へと駆け寄り、庭を見下ろす。がさがさと茂みが動くのが見えた。
「追おう!」
アシュが身を乗り出す。
「いいえ、今夜のところは止めておきましょうよ。目的は達成したんだから」
草灯が厳しい目をしつつもアシュを引き留める。黒継も傷を押さえながら。
「そうですね、敵にもそれなりのダメージを与えることはできましたから、しばらくは悪さはできないでしょう」
楼沙が血まみれの仲間を心配そうに見回す。
「その方がいいと我も思うのである。みんな傷だらけだし、疲れたであろう?」
なつみも頷いて。
「お客さんにも、転んだりしてた方がいたみたいですよ。手当てと搬送のお手伝いをした方が」
――そうか、我々にはまだやるべきことがある。せっかく殺戮を止めたのだから、次は人々を無事に帰宅させなければ。
灼滅者たちは頷き交わすと、カードに武器を収め、血にまみれるはずだったクリスマスパーティー会場を後にした。
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年12月27日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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