guilt ~正義の柱~

    作者:西東西


     新年を迎えた、三が日の夕刻。
     ある廃ビルの一室で、大学生や高校生と思しき少年少女が10人ほど集っていた。
    「ンじゃあ、この中で一番稼いだやつが勝ちだ。取り分は勝ったやつが5。あとの5は残ったやつらで山分け。文句ねえな」
     赤のニット帽を目深に被った少年がそう告げると、自分の足元にボディバッグを投げ捨てる。
     それほど荷物が入っているようには見えなかったにも関わらず、バッグはどっと、音をたてて落ちた。
     ほかの少年少女たちも、それぞれにバッグや紙袋を、自分の足元に投げ捨てる。
    「小さい社は見張りもいないから、簡単だったぜ」
    「アタシのは酒飲んで酔いつぶれてたオッサンから。財布放りだして泥酔とか、ないわー」
     キャハハと笑いながら、奪ってきた財布を放りなげる。
     そう。少年少女たちの足元にある金は、すべて、なんらかの手段でひとから奪ってきたもの。
     彼らはここで『稼いだ』金額を競いあうという、遊びをしているのだ。
     ニット帽の少年が、勝者を決めようとした、その時。
    「いーけないんだ、いけないんだ。おまわりさんにぃー言ってやろー」
     場にそぐわない、能天気な声。
     見ると、いつのまに現れたのか、見知らぬ少女の姿がある。
    「……なんだテメェ」
     ニット帽の少年が凄みをきかせて睨むも、謎の少女はあっけらかんとしたもの。
    「ひとに名前を聞くときはさー、自分から名を名乗るって知らない? 知らないかー。てなわけで、見ず知らずのひとに名前を教えるのはチョット抵抗あるんだよね~。でもどうしてもっていうなら、『ギヨたん』とか、『ギヨティーヌ』って呼んだらいいと思うよ?」
    「ハア? ぎよてぃーぬ?」
     頭わいてんじゃね、こいつ、とひとしきり笑った後、少年少女たちは『ギヨティーヌ』を取り囲む。
     ちょっとした遊びとはいえ、目撃者は、目撃者。
     迷いこんだネズミは、きっちりと始末しなければならない。
    「あ。殺っちゃう? 口止めしちゃう?」
     囲まれたのを察し、少女の眼がらんらんと輝く。
    「いいよ! おいでよ! あんたたちの罪、あたしが全部『ナカッタコト』にしてあげるからさー!」
     両手を広げ、歓迎の意を示す少女。
     その手に握られた凶悪な武器を目の当たりにし、少年少女たちは、悲鳴をあげた。


    「お正月あけの、三が日に……六六六人衆が現れるって、わかったんだ」
     伸びすぎた前髪で目元を隠すようにうつむきながら、バスケットボールを手にした少年が、とつとつと語りはじめる。
     少年の名は十三屋・幸(影牢・d03265)。
     事後行動によって、今回の事件を探り当てた灼滅者だ。
    「『罪を犯したひと』を殺す……。そういうダークネスがいないか調べていて、予測をお願いしたんだ、そしたら――」
     言葉を切り、かたわらに立つ一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)を見やる。
     一夜は頷いた後、説明を引き継いだ。
    「正月早々、ダークネスが現れるという予測が成った。相手は六六六人衆、序列第五八八位。八波木々・木波子(ははきぎ・きばこ)という名の、十三歳の少女だ」
     一夜が見せた写真資料には、ごくごく普通の中学生の少女の姿が写っている。
     間延びしたしゃべり方が特徴で、己を『ギヨたん』『ギヨティーヌ』と自称する。
    「八波木々木波子は『罪を犯した者を殺すこと』を至上とする六六六人衆だ。罪を犯した人間に価値を見出していない。ゆえに、いとも簡単に居合わせた少年少女を切り捨ててしまうだろう」
    「でも、そんなの……。どんな理由であれ、絶対に、やっちゃいけないことだよ……」
     幸がぎゅっと、バスケットボールを握りしめる。
     先の依頼では似たような思想を掲げる者の手から、一般人を救うことができなかった。
     その悔しさが、蘇る。

     八波木々・木波子の出現地点は、街外れにうち捨てられた廃ビルの八階。
     廃墟と化したビルであるため、無関係な人間が侵入してくる心配はない。
     上へ昇る手段は、階段とエレベーターの2通り。
     ビル内はワンフロアが吹き抜けになっており、天井が高く、戦闘に足る広さがある。
     夕刻のため、さしこむ陽光で視界も十分だ。

    「予測に基づき、接触できる最適なタイミングは、八波木々木波子が少年少女に囲まれた瞬間だ」
     部屋の中央に木波子が位置。
     周囲に、10人の少年少女が立つ状態となる。
     もちろん、これ以外のタイミングで仕掛けることも可能だ。
     だがその場合は、エクスブレインの予測を超えた事態となることを覚悟しなければならない。
    「きみたちがすべきことは、八波木々木波子を撤退に追いこみ、一般人への被害を極力減らすこと。……灼滅を狙うには相手が悪い。まずは、一般人の安全を最優先に考えて動いて欲しい」
     八波木々木波子が使用する武器は、咎人の大鎌、チェーンソー剣。
     そして、『殺人鬼』と同様のサイキック。
     確固たる信念のもとに『罪人殺し』を行う少女だ。
     万難を排すべく、あらゆる最悪のパターンを想定しておいた方が良いだろう。
    「難しい依頼だと、思う……。だけどどうしても、放っておけないって、思ったんだ」
     教室の床をじっと見つめ、眉根を寄せる幸。
     そんな少年を見やり、一夜は声をかけようとして――やめる。
    「きみたちには、年明け早々にすまないが……。頼む」
     エクスブレインはそう告げ、深く頭をさげた。


    参加者
    伊舟城・征士郎(群青ノスタルジア・d00458)
    戌井・遙(星降る夜・d00620)
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    上條・和麻(漆黒の狂刃・d03212)
    十三屋・幸(影牢・d03265)
    華鳴・香名(エンプティパペット・d03588)
    逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)

    ■リプレイ

    ●gylt 第五八八位『罪狩り』
     新たな年。
     三日目の空を朱が染める。
     エクスブレインの予測にしたがい、灼滅者たちは廃ビルの前に集まっていた。
     立ち入り禁止の金網をかいくぐって侵入し、ビル内へ。
     エレベーターと階段は、隣接して設置されていた。
    「電気は、今もきているみたいですね」
     エレベーターが動いていることを確認し、華鳴・香名(エンプティパペット・d03588)が仲間たちを振りかえる。
     彼女は現場の8階までエレベーターを移動させる為、そのまま乗りこむ手はずだ。
     残る7名は階段での移動となる。
     移動するとなればエレベーターの方が早い。
     接触タイミングを計るため、動かすのは仲間たちの姿を見送ってからと決める。
    「それじゃあ、わたしたちも急ぎましょうか」
     逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)が、仲間たちを促す。
    「まったく。新年早々出てくるなよな」
     戌井・遙(星降る夜・d00620)はそうぼやき、うす暗い階段をのぼりはじめる。
     伊舟城・征士郎(群青ノスタルジア・d00458)は足音をたてないようにと周囲に注意を促し、遙の背に続いた。
    「罪人殺しが至上……。なら私共の手で、閻魔のもとに送ってさしあげましょう」
    「freizugeben」
     解除コードをつぶやき、アンネスフィア・クロウフィル(黒狩り姫・d01079)はスレイヤーカードにそっと口付け、出現した咎人の大鎌『シュヴァルツイェーガー・オーバチュア』をしっかりと握りしめる。
    (「どこかで、一歩でも違っていたら。私も、奴と同じ存在になっていたかもしれません」)
     となりを歩く上條・和麻(漆黒の狂刃・d03212)も、同様の想いだ。
    (「俺も元は六六六人衆。八波木々と似たような考え方は、今も変わってはいない――」)
     だが『咎人』は学園に身を置き、己を探すために灼滅者として在り続ける道を選んだ。
    (「今度はぜってぇ助けてやっからな……」)
     眼前で失われた姉弟のことは忘れもしない。
     先の惨劇を思いかえし、水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)はぐっと拳を固め、階段を踏みしめる。
     十三屋・幸(影牢・d03265)は視線を落とし、黙々と足を運ぶ。
    (「助ける。今度こそ、必ず」)
     ひそやかな息遣いと、微かな足音。
     沈黙の階段に、想いが巡る。
    (「そうじゃなきゃ……なんのための、力だ」)
     階段の先に、相対すべき者が待つ。
     新たな年。
     灼滅者たちの戦いの日々が、再び、はじまろうとしていた。

    ●guilt 死刑執行
     廃ビルの8階では、八波木々・木波子が罪を犯した少年少女たちの前で、笑みを浮かべていた。
     一方、階段で移動していた灼滅者たちは、すでに階段の入り口で戦闘準備を終え、隊列を整えて待機している。
     しかし、香名のエレベーターがまだだ。
     莉子は階段の入り口から、エレベーターの移動を示すランプを見守る。
    「いーけないんだ、いけないんだ。おまわりさんにぃー言ってやろー」
     響く、能天気な声。
     ――六階。
     エレベーターは、予測のタイミングに合わせる機微など持ち合わせてはいない。
     エクスブレインの提示した接触タイミングまでもう間もない。
    「……なんだテメェ」
     とつぜん現れた少女の姿に、少年少女たちが色めきたつ。
     ――七階。
    「瑠音ちゃん」
     莉子の視線を受け、瑠音がその意を汲んで頷く。
     接触タイミングが予測と違うものとなった場合、ダークネスにこちらの存在を気取られる可能性が高い。
     いつでも飛び出せるよう、無敵斬艦刀『EXUSIA』を手元に引きよせる。
     ――八階。
     もぬけのカラとなったフロアに、無機質な機械音が響き、エレベーターの扉が開く。
    (「少し、早い……!」)
     莉子は妖の槍『グラキエス』を手に、意を決して階段から身を躍らせる。
     続いて瑠音、遙が駆けた。
    「頭わいてんじゃね、こいつ」
     どっと笑いが巻きおこる。
     少年少女に囲まれた中心で、木波子の目は笑っていなかった。
     視線の先には、武器を手に走る灼滅者たちの姿。
     右手を高く掲げる。
     漆黒の大鎌が現れ、その頭上に10のギロチンが出現する。
     少年少女たちが悲鳴をあげるのと、エレベーターから降りた香名がパニックテレパスを発動するのは同時だった。
    「階段から、逃げてください……!」
     声を受け、弾かれたように動きだす少年少女たち。
     だが――、
    「死刑、執行」
     瑠音が、遙が、木波子に斬りかかる。
     莉子が、もっとも遠くにいた一般人2人を突き飛ばす。
     征士郎のビハインドが、和麻が、手の届いた一般人をそれぞれ引き寄せる。
     征士郎がWOKシールドを掲げ、仲間の守りを固め。
     断罪の刃が、落ちた。
    「急いで! 階段へ……!」
     悲鳴をあげ、泣きじゃくりながら逃げてきた一般人2人を、アンネスフィアが誘導する。
     その足取りはおぼつかない。
     だが、己の足で歩ける彼らに構っているだけの余裕はない。
     アンネスフィアが誘導した2名の一般人はすでに階段へ。
     灼滅者の手が届いた4名の一般人は無傷だ。和麻やほかの灼滅者たちの声を受け、階段をめざし走っている。
     しかし、手の届かなかった4名のうち、2名が腕や足を切断されていた。
     残る2名は首を落とされ、絶命。
     一般人を守った灼滅者たちも、その身に傷を負っている。
    「走って! 早く!」
     幸は湧きあがる怒りを胸に、声を張りあげた。
     混乱し、別方向へ逃げようとした少女の手を引き、背中を押しだすように誘導する。
    「アーッハッハッハッハ!!!」
     高笑いをあげる木波子へ化物じみた二対の巨腕――影業で攻撃を繰りだし、一般人の退路を確保する。
    「罪人殺しってわりには、随分楽しそうじゃねぇか」
     瑠音が木波子の眼前に回りこむ。
    「正月早々遊び足りねぇっていうなら、私が遊んでやらぁ!」
     床を踏みしめ、逆手に持った妖の槍を繰りだす。
     捻りを加えた一撃を、しかし木波子は大鎌で受け流した。
     そのまま、逃げる一般人たちへ向かって黒き波動を撃ち放つ。
    「……ッ!」
     莉子がその身を呈し、腕を失った少女への一撃を受ける。
     少女の周囲にはすでに血だまりができ、その顔は血の気が失われつつあった。
    「アンネちゃん!」
     傷ついた一般人をアンネスフィアに引き渡し、立ちあがる。
     白い床に血痕が落ちた。
     莉子の身体にも、すでにいくつもの傷が刻まれている。
    「今、回復を」
     アンネスフィアが見かねて癒しの光輪を浮かべるも、完全に回復するには至らない。
    「わたしは大丈夫。さ、行って!」
     一方、足を失った少年の元には、征士郎が守りに入っていた。
    「八波木々様、なぜこのように罪人を殺そうとするのですか……!」
     悲痛な感情をこめ、語りはじめる。
     一般人から注意を逸らすための演技だ。
     すぐに香名が駆け寄り、傷ついた少年の身柄をエレベーターまで引きずっていく。
     ほかに逃げ遅れた一般人がいないことを確認し、香名とアンネスフィアが傷を負った少年少女をエレベーターに乗せ、1階へ送りだす。
     移動ランプが動きだしたのを確認し、香名は傷ついた仲間の元へ走った。
     先ほど運んだ少年の血が、線を描いている。
    「あんのクソッタレ」
     その跡をたどるように、駆ける。
    「血祭りにあげてやる……!」
     香名は、フロアの中央で踊るように立ち回る六六六人衆を睨めつけた。

    ●guilty 正義の柱
     フロアから一般人が居なくなったのを察し、八波木々・木波子はそこで初めて灼滅者たちに語りかけた。
    「あんたたちのせいで、めいっぱい断罪し損ねちゃったじゃないかー!」
    「知るか! 死ぬのはお前のほうだ!」
     頬を膨らませる少女に向かい、遙が緋色のオーラをまとった日本刀を一閃。
     木波子は大鎌で攻撃を跳ねかえそうとするも、失敗。
     傷口から流れた血で身にまとっていたダウンが汚れ、羽毛が飛び散るのを口をとがらせて見送る。
    「あんな弱腰な奴らより、私らの方が張り合いあんだろ?」
     瑠音がすかさず赤いオーラの逆十字を出現させ、木波子を捉える。
     さらにその身を引き裂かれつつも、少女はひょうひょうと立ち回るばかりだ。
     確実にダメージを与えてはいるものの、その動きが鈍ることはない。
     妖の槍『グラキエス』を手に、莉子が。
     日本刀を手に、和麻が、挟みこむように連携攻撃で迫る。
    「殺しも罪だ。ならばお前は、自分自身を『ナカッタコト』にしないのはおかしのではないのか!」
     2つの攻撃が届く寸前、木波子が後方に跳ねた。
     たんっと高らかに足音をたて、着地。
     追い討ちをかけるように、香名が挑発する。
    「そうだ。罪を犯した奴が価値ねぇなら、なんでテメェがのうのうと生きてんだよ、『ギヨたん』?」
     ダークネスが自称した名を、嘲るように言葉に乗せる。
    「テメェはまず、自分で自分をブチ殺した方がいいんじゃないんですかねェ~?」
     しかし『エンプティパペット』の言葉に、木波子はうんうん、と素直に頷いた。
    「よく言われる。でもねー、あたしのは『罪』じゃないんだよね~」
     目をらんらんと輝かせ、灼滅者たちを見やる。
    「あたしは『ギヨティーヌ』。機械的に殺す、『Bois de Justice』、だから」
     「ね」と唇をもたげ、ダークネスが高らかに笑う。
     その瞬間、少女の全身からどす黒い殺気が放たれた。
     圧倒的な悪意。
     そして、執念ともいうべき正義への執着。
     灼滅者たちはその領域に触れ、思わず身を震わせた。
     かつてはこの少女も、崇高な高みを抱いた『だれか』であったのかもしれない。
     だが闇に堕ちた今、八波木々・木波子を突き動かすのは『機械的に罪人を殺す』という意識。
     ただ、それだけなのだ。
     莉子への攻撃をその身に受け、征士郎のビハインドが霧散する。
     膝をついた瑠音へ、アンネスフィアが光輪を放った。
     傷ついた仲間を見守りながら、アンネスフィアは叫ばすにはいられない。
    「奇遇ですね。私も、貴方のように罪を犯した者を殺して生きてきたんですよ……!」
     だが、アンネスフィアは道を違えなかった。
     木波子と己を分け隔てたのは、一体なんであったろう。
     だが、いかな理由であれ、幸は少女を否定する。
     指の間からこぼれていった命。
     眼前で喪われた命。
     それを、これ以上増やさないためにも――。
    「君は、間違ってる……!」
     喉の奥から、叫ぶ。
     解体ナイフが閃く。
     同時に、瑠音の妖の槍がダークネスを貫くべく繰りだされた。
     幸のナイフが木波子の身を深くえぐる。
     木波子は瞬時に、瑠音の一撃にチェーンソー剣を噛ませた。
     高速で回転する刃に槍が触れ、火花とともに弾かれる。
    「いいよ! いいよ! おいでよ!」
     大鎌とチェーンソー剣をその手に掲げ、少女は己の血に染まりながら笑う。
    「あんたたちの罪、あたしが全部『ナカッタコト』にしてあげるからさー!」
     大鎌とチェーンソーを構え、六六六人衆 序列第五八八位、八波木々・木波子はその身を躍らせた。

    ●guillotine 断頭台のこども
     灼滅者たちは互いの攻撃を庇いあい、癒しあいながらも、ダークネスの身に確実に攻撃を刻んでいった。
     だが、なりふり構わず攻撃に終始する木波子の一撃は重たく、しだいに回復を行う回数が増えていく。
     ――手数を増やすか。
     ――回復を優先させるか。
     各々が判断に迫られるなか、最も殺傷ダメージのかさんでいた莉子が倒れた。
    「莉子さん……!」
     アンネスフィアが駆け寄り、その身を戦場から遠ざける。
     訪れた時は真っ白だったフロアの床は、今や一般人の骸や、灼滅者たちの傷から流れでる血で赤く染まっている。
     すぐにほかの前衛がフォローにまわるも、傷の深い者を優先的に狙うようになった木波子の攻撃によって、じわじわと体力を削られていった。
    「くっそ! ちょこまかと動き回りやがって!」
     わが身の傷も回復しきってはいない。
     だが、意を決した和麻がWOKシールドを手に殴りかかる。
     木波子はその攻撃を軽くいなし、断罪の刃を振りおろした。
     至近距離からの一撃。
     とっさにかわすこともできず、莉子に続き、ついに和麻も床に伏した。
    「ろくに決め手を持たずにあたしと相対しようなんて、良い度胸だよー」
     「まあ、がんばったで賞、ってとこかなあ」とぼやき、木波子は大鎌の柄でとんとんと己の肩を叩いた。
     和麻に限らず、香名、征士郎も。
     戦場に立ってから、己の準備に不備があったことに気づいた。
     攻撃手段の不足や、立ち位置の確認不足を含め、わずかなミスが幾重にも重なり、灼滅者たちの動きは戦闘が長引けば長引くほど、不利な方向へと働いていった。
     だが、それを今ここで嘆いても仕方のないこと。
     残る6人の灼滅者たちは、その状況をおしてでも、この場を乗り切らねばならない。
    「……いいぜ。熱くなってきた」
     劣勢にありながらも、瑠音は不敵な笑みを浮かべる。
    「まだ遊び足りねぇぜ、かかってきな!」
     闘志を受け、傷口から吹きだす炎がひときわ強くほとばしる。
     『EXUSIA』に炎が宿る。
     燃え盛る無敵斬艦刀を振りあげ、瑠音は叫んだ。
    「テメェも燃えちまいな!」
     怒涛の一撃が木波子の身を薙ぐ。
     一瞬、表情が歪んだ。
     その隙を逃す灼滅者たちではない。
     もはや後はない。
     残った灼滅者たちは、残る力の全てで攻勢にうってでた。
    「とっておきの一撃を、くらいやがれ!」
     香名は暗き想念を集め、漆黒の弾丸を撃ちはなつ。
    「征士郎! アンネスフィア!」
     日本刀を振り払い、叫ぶ遙の炎が唸る。
    「お互いが『罪人殺し』。さあ、やり合いましょうか!」
    「往きましょう……!」
     声に応え、それぞれの武器を手にアンネスフィアと征士郎が走る。
     弾ける弾丸。
     叩きつけられる炎。
     閃く断罪の刃。
     そして緋色のオーラを宿した攻撃が、ダークネスの体力を削ぎ落とす。
     幸は解体ナイフを手に、仲間たちの死角から木波子に迫った。
     床に触れた刃が跳ねる。
     ひゅんと、風を斬る音。
    「……くっ!」
     目にも留まらぬ速さで迫る刃を、木波子はたまらず腕で受けとめた。
     血が吹きだす。
     思わず後ずさる。
     ――逃げるなら、逃げれば良い。
     幸は血に濡れた刃を手に、ダークネスを見据え、告げた。
    「……いつか、殺す」
     その言葉を聞き届け、木波子は笑みを深めた。
     そうして身をひるがえすと、割れた窓から軽々と身を躍らせる。
    「あっ……!」
     逃走を警戒していた香名だったが、もはや仲間たちに追う術はない。
    「アーッハッハッハッハ!」
     遠ざかる高笑いを前に、灼滅者たちは唇をかみ締め、見送るよりほかになかった。

     エレベーターの底で、2名の少年少女は出血多量で命を落としていた。
     首の落ちた2名の遺体も損傷が激しく、『走馬灯使い』を施すこともできない。
     あがいても、あがいても。
     己の目の前で命がこぼれていく。
     幸は床に身を投げだして泣いた。
     夜に沈む廃ビルに、慟哭はいつまでも、いつまでも響いた。
     
     

    作者:西東西 重傷:上條・和麻(闇を刈る殺人鬼・d03212) 逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月14日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 15
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