楔を喰らう炎獣~revival ritual~

    作者:西東西

    ●大分県別府市・鶴見岳
     何体ものイフリート達が、続々と鶴見岳に集結している。
     イフリート達の体毛によって、燃えるように煌々と輝く鶴見岳。
     頂上には、一体のイフリートが存在した。
     他のイフリートを圧するほどに大きく、威厳に溢れたその姿。
     イフリートの首魁は、配下の前でゆっくりと力を練り、人間の姿へと変貌する……。
     ……人の形へと転じたイフリートの首魁。
     少女のようなその姿は、居並ぶ配下の幻獣達に向かい、唸り声の如き少女の声で命じる。
    「ガイオウガノメザメハチカイ。ケダカキゲンジュウシュヨ、コノクニノクサビヲクライクダキチカラタクワエタノチ、ソノチトニクヲ、ガイオウガニササゲヨ! サスレバ、ガイオウガハゼンナルイチノゲンジュウトナリテ、ナンジラトトモニクンリンスルデアロウ!」
     
    ●東京都武蔵野市・武蔵坂学園
     マフラーで顔の半分以上をぐるぐる巻きにした姿で、一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)が教室に駆けこんできた。
     何度か咳きこんだ後、息を整える。
    「遅くなってすまない。では、説明を開始する」
     声がよく通るようマスクを外すと、集まった灼滅者たちに向かい、今回の予測内容を説明しはじめる。
    「小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)からすでに話を聞いた者も居るかもしれないが……。別府のイフリート事件で、新たな動きが確認された」
     先日から多発していた事件には何組もの灼滅者たちが手を尽くし、数多のイフリートを灼滅。
     その甲斐あって、別府に大きな異変はなく、今のところ平穏が守られている。
     だが、敵もこのままで終わるつもりはないらしい。
     さらに新たな手を打ってきたのだ。
    「別府に出現したイフリートが、今度は日本全国に散り、各地の眷属や都市伝説をその牙に掛けようとしているのだ」
    「……え? どういうこと?」
     説明を聞いていた灼滅者のひとりが、思わず声をあげた。
     ダークネスが眷属や都市伝説を狙うなど、これまでに聞いたことのない話だ。
    「目的は、おそらく、鶴見岳に封じられた強大な存在を呼び起こす事」
     予測に現れたイフリートたちは、これまでに出現したイフリートに比べて強力な力を持っている。
     つまり、敵もそれだけ、確実に手を打とうとしてきているのだ。
    「このまま見過ごせば、さらに危険な状況を招くのは火を見るよりも明らか。よって、きみたちに、このイフリートの灼滅を願いたい」
     
    「イフリートの出現予測地点は、北海道札幌市」
    「北海道札幌市? それって――」
    「そう。先日から、アンデッド事件が多発している地域だ」
     数日後の、夜。
     自然公園に降り積もった雪の中から、4体のアンデッドが出現する。
     アンデッドは拠点を確保すべく移動を開始するのだが――、
    「公園を出る前に、現れたイフリートによって、すべて、蹂躙される」
     イフリートの攻撃方法については、これまでに出現した個体とほぼ同様。
     ファイアブラッドと同様のサイキックや、爪や牙での攻撃を行ってくる。
     違うのは、その個体の戦闘力が、これまでのイフリートよりも格段に上ということだ。
     除雪がまめに行われていない場所のため積雪がかさんでおり、一般人が近づくことがないという点だけは、幸いだったろう。
     
     そこまでを説明して再び咳きこんだ後、一夜は喉を詰まらせながら、続ける。
    「今回の任務では、注意しなければならない点がある」
     ひと呼吸おき、集まった灼滅者たちの顔を見渡す。
    「イフリートとの戦闘は、『イフリートがアンデッドを倒した直後』から行って欲しい」
     それより前に、どちらの敵にも手を出してはいけない。
    「どうして?」
     問いかける言葉に、一夜は即答した。
    「バベルの鎖によりイフリートに察知され、襲撃自体が行われなくなる可能性がある」
     それはすなわち、己の目と鼻の先で、危険な敵をみすみす逃してしまうということだ。
    「敵はイフリート1体。だが、どうかくれぐれも、油断のないよう臨んでくれ」
     そのまま説明を終えようとしたが、ややあって、再び口を開く。
    「……新年の挨拶もままならないなか、せわしなく送り出さねばならず、すまない」
     眉根を寄せるエクスブレインの胸中にあるのは、自責と、責務の念。
     だが、その全てをここで告げる必要はない。
    「皆の無事の帰還を、待っている」
     一夜は灼滅者たちへの全幅の信頼を胸に、静かに、頭をさげた。


    参加者
    ポー・アリスランド(熊色の脳細胞・d00524)
    玖珂峰・煉夜(狂獅子・d00555)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    四季・紗紅(小学生ファイアブラッド・d03681)
    火室・梓(質実豪拳・d03700)
    皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)
    ファリス・メイティス(教母さまのお気に入り・d07880)

    ■リプレイ

    ●火 raison d'etre
     雪の舞う夜。
     予測に従い、灼滅者たちは北海道札幌市にある自然公園を訪れていた。
     あたりは一面の積雪と、闇。
     迷彩効果の高い装備を用意していた一同は周囲に紛れ、うまく姿を隠すことに成功していた。
     アンデッド――ゾンビ4体が出現したのは、遮蔽物のない広場。
     灼滅者たちは広場からすこし距離をおき、並木の下に積もった雪を隠れ蓑にしながらその動きを見守る。
    「まったく、また依頼で北海道に戻ってくるなんてな」
     別依頼の助っ人から帰省してすぐ、北の地へとんぼ帰りすることになった玖珂峰・煉夜(狂獅子・d00555)が嘆息する。
    「私も、先日ゾンビ退治に来たばかりなのです。……なにかと北の地に縁があるようで」
    「北海道は二度目だけど、イフリートと戦うのは初めてかな♪」
     そのとなりに身を隠す龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)、皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)も、先日別のアンデッド依頼から帰還したばかりだ。
     桜は「殺しがいのある敵だといいな」と、笑顔で物騒なことを言う。
    「殺しがいはともかく……。どれだけ強いのかは、楽しみですね」
     火室・梓(質実豪拳・d03700)は出発の直前まで、エクスブレインが油断のないようにと釘をさしていたのを思いだす。
     この寒いなか出向いたのだ。
     多少なりとも、骨のある相手であることを願わずにはいられない。
     一方、有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)は用意した懐中電灯を小さなかまくらに収め、手元を照らしながら雪だるまを作っていた。
     だが、それにも飽きてきた。
    「ねー、雪合戦しようよ。雪合戦♪」
    「さすがに、雪合戦はマズイんじゃないかな」
     ファリス・メイティス(教母さまのお気に入り・d07880)が呆れたように答え、へるが口をとがらせる。
    「しっ。みなさま、お静かに」
     ひとさし指を唇に当て、四季・紗紅(小学生ファイアブラッド・d03681)が注意をうながす。
     あらかじめESP『寒冷適応』を用意していた紗紅は、他の仲間よりいくぶん軽装だ。
     雪の壁に身を寄せ、じっと暗闇の先を見据える。
     彼方に鬼火が見えた。
     火はゆらゆらと位置を変え、接近してくる。
    「現れたようだね、君」
     ポー・アリスランド(熊色の脳細胞・d00524)は用意していた手鏡にその姿を映しこみ、敵の姿を確認する。
     獣は、巨大な狼の姿をしていた。
     夜闇を裂き、煌々と盛る炎の毛並みが、その個体の気性を体現するかのようだ。
     巨狼はゾンビの行く手をさえぎる。
     対するゾンビも、抗戦の姿勢を見せる。
     だが、そこからは一瞬。
     一方的だった。
     炎獣はためらうことなくゾンビに牙を剥いた。
     2体のゾンビが噛みちぎられ、ばらばらになった四肢が遠く投げ捨てられる。
     巨大な前脚に足を潰された1体は、あがく間もなく頭部を喰いちぎられた。
     最後の1体は遠吠えとともに叩きつけられた炎に呑まれ、消し炭さえも残らない。
     ダークネスによる、ダークネスの蹂躙。
     その異質な光景に、灼滅者たちは息をのむ。
    「本当に、ダークネスが他のダークネスを襲うとは……興味深いね、君」
     だが、魅入っている暇はない。
     彼らの戦いは、ここからが本番。
     スレイヤーカードを手に、桜が叫ぶ。
    「――死の境界、さあ、狩りの時間だ!」

    ●炎 ominous flames
     アンデッドを殲滅したイフリートは、すぐにその場を立ち去ろうとした。
     公園の雪は炎獣の熱で溶け、周囲は一気にぬかるみと化している。
     柊夜はゆるむ地面を蹴り、日本刀『黒狼牙』を手にその背へ追いすがった。
    「次は、私たちが相手になりましょう……!」
     中段からの重い斬撃。
     続くポーがマテリアルロッド『隠し魔力杖』を掲げ、己に降ろしたカミに念じる。
    「お手並み拝見といこうかね、君」
     激しく渦巻く風の刃が、巨狼の体を包みこむ。
     攻撃は確かにイフリートの身を刻んだ。
     だが、動じた様子はない。
     巨狼はそこでようやく、現れた灼滅者たちにゆっくりと顔を向けた。
     金色の眼を細め、8人の灼滅者たちの姿を見定める。
     煉夜とへるは、ひるむことなく巨狼に相対し、それぞれ龍砕斧とバトルオーラを構える。
    「しばらく攻撃しか考えない……皆、頼んだぜ?」
    「それじゃ、ボクはまず『足止め』に徹しようかな」
     2名が同時に攻撃を見舞おうとした瞬間、
     ――おおおぉぉおん!
     巨狼は月を見あげ、高らかに咆えた。
     次の瞬間、逆巻く炎にあおられ、煉夜の逆十字が霧散し、へるの刃がはね飛ばされる。
     うねる炎はひとつの奔流となり、柊夜を飲みこんだ。
     回避を試みるも、バトルオーラ『冥闇の覇気』ごと業火に押し流された。
    「柊夜くん!」
     眼前で発現された技は、ファイアブラッドたちが扱うサイキックを幾重にも束ねたような怒涛の一撃だ。
     ファリスはすぐさまリングスラッシャーを飛ばし、柊夜の身を癒す。
     ナノナノの『シェリル』が主にならい、ふわふわハートで燃えうつった炎を鎮火。
     桜は右手に装備したリングスラッシャー『セカイヲ覆ウ円環』を。
     梓はWOKシールドを手に、同時に叫ぶ。
    「楽しませてごらん!」
    「ガンガンいきましょう!」
     分かたれた光輪が、エネルギー障壁が、体力の低いポーと紗紅の守りを固める。
     紗紅は眼前に君臨する巨狼を見あげた。
     ――神話の存在。
     ――業火をまといし、うつくしい生き物。
     だが、過ぎたる炎は恐ろしいもの。
    「炎には、炎でもって対抗いたしましょう」
     体内から噴出させた炎をサイキックソードに宿し、渾身の力で叩きつける。
     だが、炎獣は顔色ひとつ変えず、灼滅者たちの出方をうかがう。
    「余裕、ですか。さすがは、今までの個体よりも強いと言われるだけはありますね」
     イフリートの態度を見かね、柊夜はサングラスの位置を整えた。
     胸元に手を引き寄せ、己の内に眠るダークネスの力を呼び起こす。
    「ならば、この呪いはいかがです……!」
     契約の指輪『フリュスケータ』を掲げ、石化のまじないを発動。
     その術が効力を発揮したかどうかを見届ける間もなく、ポーの声が飛ぶ。
    「龍海! 避けたまえ!」
     柊夜は弾かれたようにその場を飛び退いた。
     巨狼の爪が、わき腹をかすめる。
    (「まともに食らっていたら、どうなっていたか――!」)
     体勢をたてなおした柊夜の視線の先で、ポーは静かに身構えた。
     着ぐるみ『Mr.ベア』の腕をいびつに巨大化させ、拳を握る。
    「これならどうだね! 君!」
     振りあげた腕が、ひときわ大きく膨らむ。
     次の瞬間にはぶんと風をきり、凄まじい膂力でイフリートの横っ面を殴り飛ばした。
     さしもの巨狼もたたらを踏む。
     だが、致命傷には至らない。
     ついに灼滅者たちを『敵』とみなした炎獣は、ぐるると唸り、その身をかがめる。
     ポーは内心、驚嘆していた。
     鬼神変は神薙使いのみならず、羅刹の最も得意とするサイキックと言われる。
     今放った一撃は、前衛で攻撃手として立つがゆえに2倍に底上げされていたものだ。
     この場にいる灼滅者たちの中でも、最も威力の高い一手。
     格下の眷属であれば、一撃で吹き飛んでいるはずの攻撃だ。
    「強いといっても、体力は有限だよ?」
     へるは未だひょうひょうとした様子で、仲間たちの勝利を信じて疑わない。
     バトルオーラをまとい、少しでも敵の動きを鈍らせるべく腱や急所へ攻撃を繰りだし、足止めを狙う。
     入れ替わるように煉夜が駆けた。
     死角に回りこみ、龍砕斧を一閃。
    「煉夜!」
     ファリスの声が飛ぶ。
     だが、間に合わない。
     煉夜の視界が一瞬にして緋色に染まった。
     続いて、全身を蝕む激痛。
     己が敵の炎になぎ倒されたのだと知ったのは、駆けつけたファリスに引きずられ、癒しを受けた後だった。
    「くそ! ……なんて一撃だ!」
     ナノナノ『シェリル』にふわふわハートを飛ばすよう指示し、ファリスはイフリートを睨みつけた。
     痛手を負ったのは煉夜だけではない。
     前・中衛に立つ者たちが、ことごとく炎に巻かれた。
     紗紅は地面に膝をつき、圧倒的な力の前に、無意識におののく身を必死で律していた。
     回避を試みたものの、その威力に押され、投げ出されたのだ。
    (「守備手として立っていなければ、今ごろは……」)
     桜と梓が初手で施した守りの効果も、少なからず効果を発揮した。
     だがそれも、今の一撃で打ち払われてしまっている。
    「守りに入るばかりでは、力で押しきられる!」
     唯一炎をかいくぐった桜は、再び『セカイヲ覆ウ円環』を構えた。
    「なら、足かせを増やすまで!」
     虹色の円環が七つに分裂。
     イフリートの周囲を飛来し、四方八方から切り刻む。
     その攻撃は、巨狼にかかった呪いを増殖させる。
     梓は再びエネルギー障壁を展開させ、紗紅に守りの盾を施した。
     癒しを得た紗紅が立ちあがる。
     ――眼前に君臨する炎獣にくらべ、己はなんと無力だろう。
     けれど、屈するわけにはいかない。
     悪しき野望を、遂げさせるわけにはいかない。
    「まいりましょう、イフリート……!」
     決意を胸に、唇を引きむすぶ。
     紗紅は光の剣を手に、神話の獣へ向かい、駆けた。

    ●焔 revival ritual
     踊りくるう炎。
     飛びかう光。
     とどろく振動。
     身をそぐ衝撃。
     鼻をつく異臭。
     幾度の攻撃を受けたのか。
     幾度の攻撃を繰りだしたのか。
     いつしか時間の経過もおぼろになり、天上に星が輝くことも、雪が舞うことも、すっかり頭のなかから抜け落ちていた。
     実際には、戦端がひらかれてから、いくばくも経ってはいない。
     だが灼滅者たちには、この戦いがまるで永遠のようにも感じられていた。
     目の前には、未だ、巨狼が君臨する。
     現れた当初に比べ、足取りはやや不確かになった。
     付与した炎や呪い、足止めの効力は、時おり灼滅者たちの攻撃を後押しした。
     しかし、炎獣の圧倒的な一撃は、なおも少年少女に脅威をもたらす。
     満身創痍の仲間たちを見やり、常に冷静沈着を崩さないポーが、喉の奥でうめいた。
    「く……、他種族に仕掛けるだけの個体だ……強い……ッ!」
     ――押し切られれば、負ける。
     ――だが、押し切れば勝てるかもしれない。
    「まだまだ! あきらめませんよ!」
     雷を拳に宿し、梓がアッパーカットを捻りこむ。
    「闇に切り刻んであげる……!」
     桜が追随し、影業『虚空ノ双刃』を繰りだし、三つ又の剣が舞う。
     ――おおおぉぉおん!
     巨狼が咆える。
     炎がうねる。
     再三の応酬で、それが列攻撃の前触れであることは明白だった。
     桜・梓・紗紅のディフェンダー3名が、傷をおし、走る。
    「アリス様……!」
     耳をつんざく轟音。
     喉が焼けつく熱風。
     へるが眼を開けた時、眼前には紗紅の体が横たわっていた。
     ぬかるんだ地面が赤黒く染まっている。
     傷が深い。
     これ以上は無理だ。
    「……っ!」
     へるはまだ、希望を捨ててはいない。
     だが、仲間の窮地を前に、奥歯を噛みしめずにはいられない。
     バスターライフル『レッドクイーン』を手に、立ちあがる。
    「私を怒らせるな、劣等種……!」
     叫びとともに放った一撃が、イフリートの脚を貫く。
     同様に、ポーのもとへ駆けた桜の体力は限界に達していた。
    「下がるんだ、皇樹!」
     ポーが鬼神変を繰りだす間に後衛位置へ退くも、駆けつけたファリスの癒しを拒んだ。
     率先して攻撃を受け続けていた桜は、すでに多くの殺傷ダメージを抱えていた。
     意識はあれど、もはや武器を手にする力はない。
    「私より、みんなを」
     煉夜の攻撃を受けた梓は、傷を受け、なおも、戦い抜こうとしている。
     彼女であれば、そして、まだ立っている仲間たちであれば戦える。
    「わかった」
     ファリスは倒れた紗紅の身を確保し、シェリル、柊夜とともに、手分けをして仲間たちの傷を癒した。
     出発時、最後まで眉根を寄せていたクラスメイト――一夜の顔を思いだす。
     彼は少なからず、こうなることを予測していたのだろう。
     それでも、エクスブレインは送り出さねばならない。
     それでも、灼滅者たちは往かねばならない。
    (「何とかしないと……。だけど、今回ばかりは――」)

     倒れた紗紅の視界には星空。
     意識は浮ついて、判然としない。
     だが、仲間たちの戦う声が、かすかに、届く。
     震える指先を握りしめ、祈る。
    (「全員で、学園に帰る。必ず――」)
     粉雪が舞う。
     閉ざしたまぶたに触れ、とけた。

    ●煉獄 purgatorium
     残る6名の灼滅者たちは、己の役割をまっとうすべく手を尽くした。
     回復を最小限にとどめ、極力攻め続ける。
     退くには早い。
     いざとなれば、闇堕ちとて辞さない。
     ――だが、この身を闇に堕とすのは、全ての力を出し尽くしてからだ。
     次の一手こそは。
     次の一手こそは……!
     念じるように放つ攻撃が、着実にイフリートの体力を奪っていく。
     そして――。

     最後の力を振りしぼり、梓が渾身の一撃を放った。
     しかし超硬度の拳はイフリートには届かず、はね飛ばされた体が大地に打ちつけられる。
    「この程度で、やられる訳にはいかないのですよ……!」
     『冥闇の覇気』をまとい、柊夜の拳が幾重にも巨狼を穿った。
     その時だ。
     ――おおおぉぉおん!
     遠吠えをあげるイフリート。
     だが、火柱はおろか、風ひとつ吹かない。
     行動に失敗したのだ。
     長期戦となればなるだけ、イフリートの身は灼滅者たちの足かせでがんじがらめになっていた。
     初手から粘り強く妨害工作を施してきたへるが、歓声をあげる。
    「これまでだな、劣等種!」
     柊夜に続き、『歪みの国のアリス』はバトルオーラを拳に収束させ、連撃を重ねる。
    「これは、紗紅の分だ!」
     ポーは幾度の攻撃で、血と、煤にまみれた拳を握りしめる。
     膨張した片腕がうなる。
    「もう眠りたまえ。これで終りなのだよ、……君!」
     拳は炎獣のあごを捉え、ポーは抗おうとするイフリートの力を押しきり、その腕を振りきった。
     ――ぐおおおぉぉ!
     雄たけびをあげ、地に叩き伏せられた巨狼。
     無言・無表情に徹していた煉夜の龍砕斧が、閃く。
     刃が炎獣の喉を裂き、どおっと炎が噴きだした。
     苦悶にうめき、牙を剥き、立ちあがろうともがく。
     だが、やがて己を包む炎が自身を焦がしはじめたことに気づき、空を仰いだ。
     ――おおおぉぉおおおおおおおおん!
     長い、長い、遠吠え。
     やがて巨狼の首は糸が切れたように地に落ち。
     最期は己の炎に包まれ、灰と化して消えた。

     すべてを見届けた灼滅者たちは、次々にその場に膝をついた。
     煤と、灰。
     乾いた血にまみれ、白い装備はもはや赤黒く変色している。
    (「でも、勝った。勝ったんだ」)
     ――死者はいない。
     ――闇に堕ちた者も。
     熱風にさらされ、乾いた大地を踏みしめる。
     ファリスは仲間たちを癒すため、再び、光輪を掲げた。
     
     

    作者:西東西 重傷:四季・紗紅(高校生ファイアブラッド・d03681) 火室・梓(質実豪拳・d03700) 皇樹・桜(桜光の剣聖・d06215) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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