鶴見岳の激突~霧氷の山へ

    ●霧氷の季節
     ロープウェイの窓越しに見える光景に、乗客達は感嘆の声を上げる。すっかり葉を落とした常緑樹の枝一本一本にガラスの細片のような氷の粒が付着し、日の光を受けてキラキラと輝いている。
     冬の鶴見岳名物、霧氷だ。
     乗客達は、ロープウェイが山上駅に着くのを、今か今かと待っている。山頂は寒い。しかし、白銀の幻想的な景色の中に早く立ちたい……!

     冬。
     鶴見岳が最も賑わう季節。
     人々の笑顔で満たされる季節。

     しかしその陰では、闇のモノどもが不穏な計画を着々と進めていた――。
     
    ●鶴見岳の力を狙うモノ
    「イフリート事件は、大変お疲れ様でした。皆さんの賢明な戦いのおかげで、ガイオウガの復活は当面阻止することができたようです」
     イフリートとの戦いは、殆どが灼滅者たちの勝利に終わった。こちらにも多くの負傷者を出したものの、まずは大成功と言えるだろう。しかし、園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)の表情は冴えない。
    「成功を受けて、鶴見岳の調査と原因解決を図るための準備を進めていました。しかしそこに、想定外の横槍が入ってしまって……」
     集った灼滅者たちはざわめいた。想定外の横槍とは何だろう?
    「我々との戦いを経て、イフリートは随分戦力を減らしました。その弱っているイフリート一派を一気に攻め滅ぼしてしまおうと、ソロモンの悪魔が率いる軍勢が鶴見岳に集結する準備を進めているのです」
     ソロモンの悪魔の軍勢! 
     そういえば大晦日から元旦にかけ、バベルの鎖で、ソロモンの悪魔の不穏な動きを、夢のように感知した者が何人もいたが、それはこの事件を予感していたのだろうか。
    「ソロモンの悪魔の目的は、イフリート達が集めた力を横取りし、自分達の邪悪な目的の為に使用する事だと思われます。今回の軍勢には、今までとは比較にならない程強化された『デモノイド』と呼ばれる、ダークネスにも匹敵する力を持った強化一般人が、大勢加わっているらしく」
     ダークネスにも匹敵するような強化一般人とは!
    「恐るべき軍勢です。しかしダークネス同士の争いだからと言って、傍観しているわけにはいかないのです。我々が介入しなかった場合、この戦いは、ソロモンの悪魔側の勝利に終わります。彼らは、鶴見岳の力を得て更に強大な勢力になってしまう」
    「負けたイフリートたちは?」
     灼滅者のひとりが訊く。
    「イフリート達は、鶴見岳から逃げ出します。ソロモンの悪魔は鶴見岳の力さえ奪えればいいので、逃走するイフリートは深追いしません。つまり」
     つまり……?
     槙奈は悲しげな溜息を吐く。
    「放置すれば、ソロモンの悪魔の一派が強大な力を得、しかもイフリート勢力もその戦力を殆ど失わずに逃走する……という最悪の結果になってしまうのです」
     それは……全くもって最悪だ。
    「悔しいですが現在の武蔵坂学園に、2つのダークネス組織と正面から戦うような力はありません。2つの組織の争いを利用して、私たちの力で出来うる限りの、最善の結果を引き出せるような介入を行う、それが今回の目的です」
    「このたびの事態に有効であろうと思われる介入作戦を、3つ立てました。たくさんのチームが鶴見岳に向かいますので、チーム毎に参加する作戦を選択してください」
     黒板に向き直った。
    「1つ目は、鶴見岳に攻め寄せるソロモンの悪魔の軍勢を、後背から攻撃する作戦です。鶴見岳を守ろうとするイフリートと挟撃するかたちになるので、戦いとしては有利です。ここでソロモン軍を壊滅させる事ができれば、鶴見岳の力を奪われることは阻止できます。しかし、別府温泉の件がありますから、イフリートにとっては我々も憎むべき敵。ですからイフリートと戦場で遭遇すると、三つ巴の戦いになってしまう恐れがあることを忘れないでください」
     槙奈は、黒板に要点を記していく。
    「2つ目の選択肢は、鶴見岳のふもとにある『ソロモンの悪魔の司令部』を急襲する作戦です。普段は表に出てこないソロモンの悪魔が数多くいますので、直接戦うチャンスでもあります――当然、戦力は相当高いと予想されますが。但し、鶴見岳の作戦を我々が成功させれば、司令部は撤退すると思われるので、無理に殲滅する必要はないです。もちろん、多くのソロモンの悪魔を討ち取ることができれば、彼らの組織自体を弱体化することができますので、それを狙って戦力を集中するという考え方も有りでしょう。しかし反対に司令部が壊滅しても、鶴見岳がソロモン軍に制圧されてしまえば、結局、力の一部は彼らに奪われてしまう可能性があります。そして」
     槙奈は灼滅者たちの方に向き直り。
    「3つ目の選択肢は、脱出しようとするイフリートの灼滅です。鶴見岳から敗走したイフリートは、各地で事件を起こすでしょう。それらの事件を未然に防ぐために、脱出阻止は重要な任務です。鶴見岳攻防で武蔵坂学園とソロモン軍のどっちが勝っても、イフリートは連戦を避けて鶴見岳から逃げ出します。彼らも戦いで疲弊しているので、灼滅には千載一遇のチャンスとなるかも――以上が今回の事件における3つの作戦です」
     灼滅者のひとりが手を挙げる。
    「その3つのうち、どの作戦に参加するか、私たちが選んでいいの?」
    「はい、皆さんで話し合って、最善と思われる作戦を選んでください」
     灼滅者たちはざわめいた。参加する作戦を自分たちで選べと言われたのは初めてである。それだけ今回の作戦が大規模、且つ困難なものであるということだろうか。
     語り終えた槙奈は、力尽きたように椅子にふらりと座り、
    「今回は、いつもにも増して危険な作戦です……イフリートに続き、こんなに危ない戦いに皆さんを送り出さなければならないなんて……」
     メガネの奥の瞳を潤ませ。
    「どうか、じっくり作戦を選んで、慎重に行動してください。そして、必ず無事に帰ってきてくださいね……!」


    参加者
    九湖・鐘(祈花・d01224)
    江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)
    緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)
    メフィア・レインジア(ガールビハインドユー・d03433)
    大塚・雅也(ダイヤを探すシャドウハンター・d03747)
    彩城・月白(雪月白花・d04512)
    シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)
    アルシャドネ・イリーツァヤ(アーケンスカーミッシュ・d09149)

    ■リプレイ

    ● 冬枯れの山で
     灼滅者たちは、ハッと山頂の方向を見上げた。唐突に衝撃音や爆発音、叫び声や武器のぶつかり合う音が聞こえてきたのだ。いよいよ“鶴見岳攻防戦”の戦端が切られたらしい。
     江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)が目を細めて、山の上方をじっと見つめ。
    「始まったようですね。では、私たちも引っかき回しに行きましょうかね」
     メフィア・レインジア(ガールビハインドユー・d03433)が予めルートを調べてきた地図をたたみ。
    「作戦開始は3分後だっけ。山頂も近いし、より警戒しよう」
     ダークネスたちの戦闘開始から3分後を目安に、各チーム一斉にソロモンの悪魔の軍勢へ後背から急襲をかけるという手はずになっている。 

     冬枯れの鶴見岳。暮れかけた空が、葉を落とした寒々しい木々の枝を透かして見える。今は山頂方向を見上げても白くはないが、冷え込んできているので明朝には霧氷が見られるかもしれない。厚く積もった灰色の落ち葉を踏みしめながら、灼滅者たちは声を潜め、足音を殺しながら、それでも足早に斜面を登っていく。

    「この山、観光地だから、きっちり倒しておかなくっちゃね。でも、大変な相手であっても、みんなで帰るのが一番大事なのよ」
     ナノナノのブランを肩先にふわふわと浮かせた彩城・月白(雪月白花・d04512)が呟くと、傍らの緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)が頷いて。
    「元・神父としては悪魔は見逃せません。けれどもちろん、生きて帰ることがなにより大切です(そう、御凛の元に帰ることが……)」
     冬山だというのに好物のアイスを手放さないアルシャドネ・イリーツァヤ(アーケンスカーミッシュ・d09149)も頷いて。
    「イフリートは悪ものだったー。けど、ソロモンも悪もの。悪いのはこらしめないといけないと~。だから、倒すのー(アイスもぐもぐ)」
     足下には霊犬のハウンドがのそのそと付き従っている。
    「しっ」
     先頭を行っていた龍一郎とメフィアが、仲間を制してから、すっと木の幹の陰に腰を落とした。他のメンバーもそれに倣う。
     複数の人影が木々の間に見えた。若い男性10人だが、学園の生徒よりは年かさで、雰囲気も異なる。先程から目をつけて追跡してきた強化一般人の一群だ。
    「……リートとかいうヤツが、こっちに逃げ……」
    「……イドが討ちもらしたら……」
     会話がかすかに聞こえてくる。
    「停まりマシタネ」
     シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)が小声で。
    「前線を窺ってるようだな」
     大塚・雅也(ダイヤを探すシャドウハンター・d03747)が、じっと強化一般人たちを観察しながら。
    「アイツらきょろきょろしてる割には、後ろには全然注意を払ってない。イフリートで頭がいっぱいで、背後から敵が来るとは全く思っていないんだろう」
     迷彩柄のフードパーカーとズボンを着用した九湖・鐘(祈花・d01224)が悲しそうに呟く。
    「強化一般人がこんなにいるっていうことは……これだけの数の人生が犠牲になったということね。そして放っておくと更に多くの人生が犠牲になる」

     チームの計画ではデモノイドを優先的に倒すつもりだった。が、デモノイドは最前衛に配されており、後背から攻め上がる灼滅者たちは、まずは後方に配されている通常レベルの強化一般人を倒さなければデモノイドには近づけない。
     それならと、まずは強化一般人の一角を崩して前線へと至る方針に修正し、手薄そうなエリアを探して山を登ってきた。
     彼らが発見した10人は、全員が特徴的なファッションで装っていた。ソフトスーツに光り物系のシャツやネクタイ、アクセサリーを合わせ、髪型は金髪やモヒカンや妙なそり込みが入った短髪。おまけにピアスにタトゥー、サングラス。つまり、一様にガラが悪い。しかし得物は鉄パイプやナイフといった暴走族じみたものばかりで、拳銃や日本刀は無いので、ヤクザというわけでもなさそうだ。いわゆる“半グレ”と呼ばれる不良連中らしい。グループまとめてソロモンにスカウト……というか、配下に引きずり込まれたのだろう。

    「そろそろ3分経ちます。始めましょう」
     そう言って龍一郎がスレイヤーカードを解除した。仲間達も頷き、戦闘態勢を整える。
     シャルロッテは解除コードを小声で、しかし力強く呟く。
    「『Music Start!』戦いの音は平和にはいらないんデス!」
     鐘はロッドを手にし、林の向こうに目をやり、兄を思う。
    「この戦場の何処かにお兄ちゃんもいる……(頑張って、カナちゃん。私も頑張るから)」

    「さあ、行きますか」
     討真が槍を手に、弓を背に立ち上がる。
     鶴見岳でのこの作戦には多くのチームが参加している。林に遮られ他チームの動向は確認できないが、同じ戦場に仲間がいるのは心強い。強気で攻めていけそうだ。
    「――Go!」
     灼滅者たちは落ち葉を蹴散らして、一斉にターゲットへと襲いかかった。

    ● 半グレ強化一般人
     強化一般人たちはひとかたまりになっているので、まずはメフィアが五星結界符で足止めを図る。
     他のメンバーは、手近の敵にそれぞれ襲いかかる。
    「この山のエナジー、取られるわけにはいきマセンっ! 防がせてもらいマス」
     シャルロッテは鬼神変でサングラスを粉々に吹き飛ばし、討真は螺穿槍を気障なネクタイを締めた胸板にねじ込む。雅也は早速最大威力のスパイラルジェイドで突っ込み、龍一郎は黒死斬で更なる足止めを狙い、鐘はオーラを宿した小さな拳で閃光百裂拳を叩き込む。
     月白は神薙刃を放ちながら、
    「ブラン、ちからを貸してね!」
     ナノナノのブランはしゃぼん玉をふわふわと送り込む。
     アルシャはマジックミサイルを撃ち込みつつ、
    「魔弾よ、いっけー」
     顔を微妙に歪めた。サイキックを使うたびに左半身の刻印が淡く輝き全身に痛みが走るのだ。
    「……アイス、もぐもぐ」
     痛みを紛らわそうと、片手のアイスを口に運ぶ。
     急襲は大きな効果をもたらし、すぐに半グレ強化一般人のうち3人が戦闘不能となった。
    「なんじゃ、貴様らぁああ!」
    「任務の邪魔をしよって、ぶっ殺したる!」
    「獣の前に、貴様らを血祭りに上げてくれるわ!」
     しかし、動ける半グレたちは倒れる仲間を一顧もせず、ナイフや鉄パイプを振り上げて灼滅者たちに襲いかかってくる。
    「血の気の多いことだ……つっ!」
     討真は肩にナイフを受け、血しぶきをとばしつつも、螺穿槍で受ける。
    「当たるか!」
     雅也が鉄パイプをかいくぐり、踊るような軽やかさでナイフを使う。
    「あっ、待ちナサイ!」
     シャルロッテは山頂に向けて逃げようとしていた半グレに、素早く斬影刃を放つ。背中に影の刃が突き刺さり、逃亡しようとしていた敵は斜面を転がり落ちた。
    「逃がさないよ!」
     メフィアが導眠符を放つと、動ける強化一般人は、3人だけとなった。
    「う……うわあ……!」
     それでも残った強化一般人は、対イフリート戦がたけなわであろう山頂へ向かってよたよたと逃げようとする。彼らには戦場を離脱するという考えは無いらしい。
    「待て! ……いや」
     龍一郎は一瞬飛び出しそうになったが、今回の作戦で突出するのは危険であることを思い出し、堪える。
    「任せて!」
    「いっけー!」
     鐘のオーラキャノンと、アルシャドネのマジックミサイルがそれぞれ命中し、2人を吹き飛ばす。
    「残りは止めるわ!」
     月白がハンマーで地面を思いっきり叩くと、最後までしぶとく斜面をよじ上ろうとしていた1人が転がり落ちてきた。
    「とどめだ!」
     そこにすかさず龍一郎が、すらりと抜刀しつつ躍りかかる。

    ●デモノイド
     強化一般人の一角を崩したチームは、敵が逃げて行こうとした方向――すなわち山頂へと、再び進んでいた。前線には、真のターゲットであるデモノイドがいるはずだ。
     負ったケガは皆大したことはなかったが、それぞれ回復を施し体勢を整え、周辺を観察しながら用心深く斜面を登っていく。できたらデモノイドにも急襲を仕掛けたいし、イフリートとの三つ巴は避けたい。
     ――と。
    「伏せろ!」
     先頭を行っていたメフィアが鋭い声で叫び、皆咄嗟に地面に伏せる。落ち葉の上でそっと顔だけを上げて、頂上方向を覗くと。
     木々の間に……。
    「(あれがデモノイド……!?)」
     今まで見聞きしてきたダークネスや眷属とは全く違うモノがいた。成人より一回り大きなそれは、体の表面は筋肉が露出したような青白い不気味な皮膚に覆われ、片手は大きな槍か鎌のような刃物に変形している。目鼻は存在するのかもしれないが、垂れ下がる皮膚に隠されて見えず、狼のような鋭い歯が覗く大きな口が顔の大部分を占めている。腕と首、胴体に金属製の輪を2本ずつ着けており、首の後ろには小さな機械……それが何なのかはわからない……を装着している。
     二本足で歩いてはいるが、元が人間だったとは思えない異形の怪物。
     メフィアが小声で呟く。
    「あれがデモノイドか。古い同胞たちは、ボクが寝てる間に興味深いものを作ったもんだね」
     すぐ後ろにいた討真が、珍しくシニカルな口調で答える。
    「悪魔共がこの山の力を手に入れたら、きっとあんなのも大量生産するつもりなんだろう。そんなことになったら、この世界にどれだけの災厄が振り撒かれるか分かったもんじゃない。そんなふざけた幻想はぶち殺してやる」
     ――と、その会話が耳に入ったわけでもないだろうが、デモノイドが灼滅者の方を振り向いた。
    「(気づかれた、来るか!?)」
     灼滅者たちは伏せたまま武器を引き寄せ身構える。
     が、デモノイドはこちらを見ているだけで、動こうとしない。
     鐘が不思議そうに。
    「どうして襲ってこないの?」
    「多分――」
     雅也が考えこみながら。
    「俺たちと強化一般人の区別がつかないんじゃないか? それに、強化一般人共も自分からは攻めてこなかったろ。あくまで、任務の邪魔をされたから反撃ってカンジだった。コイツら、命じられた任務以外の事態には、上手く対応できないのかも。俺たちが考えていたほど賢くないんじゃ」
    「そういうことなら……」
     討真がゆっくりと身を起こした。
    「また先手必勝で行かせてもらいましょう」
     頷いて灼滅者たちは立ち上がり、武器を構える。
    「行きマスヨ!」
     シャルロッテの斬影刃を皮切りに、灼滅者たちはデモノイドに襲いかかった。中後衛が遠距離攻撃を放った直後に、クラッシャーたちがあらん限りの力を叩き込む。
    『キシャァァァアア!』
     デモノイドはやっと灼滅者たちが敵であると認識したのか、人間離れした叫びを上げると、左手の刃を接近していたクラッシャーたちに向けて振り回した。
    「うわあっ!」
     普通の強化一般人とは段違いの威力に、クラッシャーたちは落ち葉の上に倒れ伏す。
    「今、なおしてあげるの! ハウンドもなおしてあげてっ、なおしてあげてっ」
     アルシャドネが癒しの矢を放ち、霊犬のハウンドにも回復を命じる。
    「ブラン、回復お願い!」
     月白の声に、ブランもふわふわと漂ってくる。
    「楽させてはくれないか。面白いが……やれやれだな」
     回復を受けた龍一郎が、ぺっ、と口の中の血を吐いて起きあがった。
    「このデモノイド、私たちの前にも、戦っているみたいね」
     鐘がロッドを構え、デモノイドを睨みつけながら言った。
    「そうだな、やたら傷が多い」
     メフィアも頷く。良く見るとあちこちから血を流してもいるようだ。チームと遭遇したのは、一戦終えて移動する途中だったらしい。
    「ということは、それなりに体力を削られているってことですね」
     討真が傷を押さえながら立ち上がり、龍一郎が、
    「弱ってんなら、一気にやっちまおうぜ!」
     血に汚れた顔に気合いを漲らせ、デモノイド目がけ低い姿勢で突っ込み、一閃。
     バシュッ!
     黒死斬が見事に決まり、デモノイドはよろめいたが、駆け抜けようとした龍一郎に刃の鋭い先端を突き出した。
    「……うっ」
     深く踏み込んでいただけに、避け切れそうもない……。
    「――させまセンヨ!」
     シャルロッテが割り込み、その刃を自分の体で止めた。
    「ぐふっ……」
     腹に刃が深々と食い込み、そして乱暴に抜かれ、傷と口から血が噴き出す。シャルロッテは腹を押さえ、がくりと膝を折った。
    「シャルロッテさんっ、だいじょうぶ? なおしてあげるっ、なおしてあげるっ」
     すぐにアルシャドネが癒しの矢を撃つ。
    「よくも……」
     回復の間にも、灼滅者たちは怒りを漲らせてデモノイドに殺到する。
    「くらえ!」
     メフィアが導眠符を投げる。顔面にぴったりと貼り付いた護符を振り払おうと、デモノイドは吠えながら両手をめちゃくちゃに振り回したが、刃は誰にも当たらない。
    「――いける!」
     討真が彗星撃ちを放ち、デモノイドはその威力に押されるように仰向けに倒れたが、
    「しぶとい……!」
     胸から弓を抜きながら、よろめきつつ立ち上がった。

     しかし。
     グズ……。
     デモノイドの体が斜めに傾ぎ。
     傾いた体を支えようと咄嗟に出した腕も、支えきれずに崩れ。
     グズグズグズ……。
     一気に全身が溶け崩れていき、異形の怪物は、みるみるうちに不気味な粘液の塊と化したのだった。

    「……デモノイド、元は人間だったと思うと、なんて……悲しい名前で、悲しい存在」
     醜悪な最期を見て、鐘が悲しげな溜息を吐いた。

    ● 戦況はいかに
     気づけば、あれほど戦いの音で充満していた鶴見岳が、しんと静まりかえっていた。
    「おわったみたい?」
     アルシャドネがアイスをもぐもぐしながら訊いた。
    「少なくとも、山頂の攻防は終わったみたいですね」
     討真が聞き耳を立てながら答える。
     血まみれのシャルロッテが、それでも自力で立ち上がって。
    「戦況はどうなったんデショウネ?」
     メフィアがまだ戦い足りないというように。
    「イフリート迎撃を手伝いに行こうか。ぼくには箒もあるし」
    「いや、一旦山を降りよう。深追いは良くない」
     雅也が首を振る。
    「そうね、ケガ人も多いし、これ以上戦うのはつらいと思うのよ」
     月白が心配そうにシャルロッテを見る。
     龍一郎も頷いて。
    「だな……シャルロッテ先輩、麓まで担いでってあげましょうか?」
    「そこまでヒドクないですヨ!」
     シャルロッテが元気に言い返し――灼滅者たちは何時間かぶりに笑ったのだった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月5日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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