直売所を守れ!

    ● 直売所の朝
     愛知県東部のとある農産物直売所では、週末の朝市が人気を集めている。地元の朝取れ野菜が格安の値段で販売されるので、観光客ばかりではなく、近隣の市町村からも大勢の客がやってくる。
    「おはようございます」
     商品搬入口の鍵を開けていた店長は、待ちかねていたかのように駐車場に入ってきた軽トラックの運転手に挨拶をした。搬入口の傍にトラックが停まり、作業服を着た男性が降りてきた。結構な高齢のようだが、動作ははつらつとしている。
    「今日も大勢お客さんが来てくれるやろうから、ようけ持ってきましたで」
     荷台には、白菜や大根など新鮮な冬野菜。
    「おお、立派な白菜ですね」
     店長は荷台を覗き込み、老人と笑顔を交わす。
     その間にも、野菜を搬入する車と、直売所のスタッフが次々とやってきて、山里の早朝はどんどん賑やかになる。朝市は地元の農家にとっても大事な稼ぎ時である。8時の開店まであと30分、しっかりと商品を並べておかなければ。
     農家とスタッフは搬入した商品を直売所に陳列し、店長はレジの準備をしていた、その時。
    「ぎゃあああ!」
     搬入口の外から、ただごとでない悲鳴が聞こえた。
     店長はじめ、直売所にいた人々は咄嗟に搬入口から業者用駐車場へ飛び出した。
     まず目に入ったのは、ひしゃげて倒れた軽トラックと、それの下敷きになってもがく人。
     それから……。
    「――な、なんだ、この化け物は!?」
     
    ● タイムリミット
    「皆さんの中には、鶴見岳でデモノイドと相対された方もいると思います」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は物憂げな表情で語り始めた。
    「どういうわけか、そのデモノイドが愛知県東部の山間部に何体も出現しているようなのです」
     なぜ愛知県? 鶴見岳から逃げおおせたものではないだろうが……。
     槙奈は灼滅者たちの疑問に首を振り。
    「今のところ、どこから来たのかははっきり分かっていません。どうやら山奥の廃村に何かがあるようだということだけ……私が予測できたのはそのうちの1体が、山里の直売所を襲う事件です」
     槙奈が地図で示したのは、国道沿いにある直売所だ。
    「朝市のために、地元の農家の方々が野菜を搬入している最中に現れて暴れ周り、開店時間まで居座って、農家の方やスタッフ、早めに来たお客さんまで惨殺します」
     槙奈は灼滅者たちを切なそうに見渡し、
    「お願いします。農家の方とスタッフの安全を守りつつ、デモノイドを灼滅してください――お客さんが来てしまう前に」
     客が来るまでに……ということは、タイムリミットがある!?
    「デモノイドは裏手の山から現れるようです。搬入口のあたりで待機していれば、一般人に被害が及ぶ前に接触できるでしょう。一般人は、直売所の建物が立派ですので、中にいてもらえば大丈夫です」
     現れてから開店までどのくらいあるの? とひとりが訊く。
    「搬入が始まるのが7時半、デモノイドが現れるのが7時40分頃、開店は8時。開店早々にお客さんはやってきます」
     20分間であの異形を倒せるだろうか? 間に合わなかったら、お客さんへの対応も考えなければならない。
     灼滅者のひとりが手を上げて。
    「店長さんが出勤してくる直前に殺界形成をかけて、そもそも直売所に一般人が足を踏み入れないようにするって手はダメなの?」
     槙奈は残念そうに首を振る。
    「その方法だと、デモノイドが予測地点に現れない可能性があります。他の地点に出現してしまったら対処できません」
     そうか……と灼滅者たちは溜息を吐く。事前に人払いすることはできないようだ。
     槙奈はメガネの奥の大きな瞳を潤ませる。
    「難しい依頼になってしまって申し訳ありません……ですが、皆さんならきっとやり遂げられると信じています!」


    参加者
    御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)
    ミゼ・レーレ(救憐の渇望者・d02314)
    狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)
    病葉・眠兎(年中夢休・d03104)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    辰峯・飛鳥(変身ヒーローはじめました・d04715)
    雛本・裕介(早熟の雛・d12706)

    ■リプレイ

    ●避難誘導
     灼滅者たちは、直売所の建物にくっつくように建つ小さな物置小屋の陰に隠れ、駐車場の様子を窺っている。店長が搬入口を開けるのと同時に、農家とスタッフが次々とやってきた。彼らは手慣れた様子で、商品を店内へと運んでいく。
    「そろそろ始めましょうか」
     駐車場に人が少なくなったタイミングを見計らい、御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)が腕時計を確認しながら。
    「うむ、早さが命の分け目だ……よし、かかるぞ!」
     笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)が立ち上がり、五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)と病葉・眠兎(年中夢休・d03104)も続く。この3人は避難誘導班として、一般人を店内に避難させる役目を負っている。
     鐐はまず、ワゴン車から大きなカゴを出している、いかにも農家の奥さんという感じの頑丈そうな中年女性に声をかけた。
    「失礼します! この近辺で猛獣の目撃情報が相次いでおり、緊急避難を要請しております。周辺の確認をせねばなりません、念のため屋内に退避して下さい!」
    「えっ、猛獣?」
     プラチナチケットと、スーツと偽警察手帳という小道具の効き目で、女性は鐐の言葉を信じ、素直についてきてくれた。鐐は野菜を運ぶのを手伝いつつ、搬入口付近で待機していた香に女性を引き継ぎ、次の一般人へ声をかけにいく。
    「猛獣ってなんですか、熊?」
     青ざめた女性の問いに、香は警察設定に適当に合わせつつ、
    「私では詳しくはわからない。我々も急にこの直売所の警備を申しつけられたので、さ、中へ」
     女性を店内に押し込んだ。その際、カゴの中のホウレンソウをチラ見して。
    「(……新鮮で美味そうだな。無事に事が済んだら、ぜひ買って帰りたいところだ)」

     一方、眠兎は直売所の表口に回り、
    「おはようございまーす……今日も良い天気ですねー」
     いかにも朝の散歩中の眠たげな観光客といった風情で、玄関前の掃除を始めていたスタッフの女性に声をかけた。
     眠そうなのは彼女の場合、演技でなくて地かもしれないが。
    「あらお嬢さん、早いよ、開店は8時だよ?」
    「はーい知ってまーす、わあ、でももう美味しそうな野菜が並んでますね。ちょっと見ていっていいですか?」
    「搬入の邪魔にならなければいいよ」
    「おばさん、ありがとう」
     眠兎は、首尾良く直売所に入り込んだ。

    「あとひとりなんじゃがな……」
     雛本・裕介(早熟の雛・d12706)が物置の陰から首を出して、じれったげに駐車場を見回す。
     鐐は、軽トラックからカボチャを下ろしている高齢の男性の説得に苦労しているようだ。この忙しい時に、警察は全く勝手だ、という少々激昂した声が聞こえてくる。元々警察嫌いなのかもしれない。
    「揉めているようですね」
     狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)も心配そうに囁いた。
     辰峯・飛鳥(変身ヒーローはじめました・d04715)が、裕也の腕時計を覗き込んで。
    「……まずい、来てしまうよ」

     直売所内も少々揉めていた。
    「出ない方がいい」
     香が、搬入口から駐車場に出ようとしている一般人の前に立ちふさがっている。
    「猛獣って何なんだよ?」
    「我々も詳しくは知らん」
     眠兎は王者の風をかけるタイミングを見計らっているが、まだ守るべき一般人が全員揃っていない。
    「そんな不確定な情報で、開店を遅らせるわけにはいかないんだ」
     ひとりが香の横を強引にすり抜けようとし、それを香が押し戻した、その時。
    「うわああっ! なんだアイツは!?」
     搬入口の外から、そんな叫びと、バキバキッ、と木がなぎ倒される音がした。

     駐車場では、
    「……少しの間ですから、とにかく避難してください」
     鐐が少しばかり強引に男性の肩を押しやっていた。
    「ったく、仕方ねえなあ……」
     男性はしぶしぶ店の方へと足を進める……と。
    「笹銀殿! 来ていますぞ!!」
     ミゼ・レーレ(救憐の渇望者・d02314)の、珍しく慌てた声が聞こえた。
     鐐の視界の隅を、巨大な青白い物体が山を駆け下りてくる姿がよぎった。
    「(来たか! 急がねば!!)」
    「うわああっ! なんやアイツは!?」
     押しやっている男性が、山を下りてくるモノを見てしまったらしく声を上げて足をもつれさせた。
    「さ、早く! 店の中に入れば安全ですから!!」
     殆ど抱えるようにして、搬入口に男性を放り込む。
    「香!」
     搬入口で必死に一般人を押し戻していた香が、男性を受け止める。
    「ご老体、大丈夫か? こっちだ、早く中へ……鐐、これで全部か?」
    「そのはずだ、もう一度確認はする!」
     鐐はもう一度外に飛び出し、駐車場を見回す。山際で敵を待ち受ける仲間の他に人影はない。
    「OKだ、中でも確認してくれ!」
    「了解!」
     香は搬入口の頑丈そうな金属の扉を閉めた。
    「何がおきてるんだ? 外を見せてくれ!」
     店長がひきつった顔で香に詰め寄る。
    「見ない方がいい」
     香は首を振り、眠兎に目配せをした。
     眠兎は頷いて。
    「すみません、営業妨害みたいですけれど、ちょっと失礼しますねー」
     王者の風を発動した。一般人たちの目の焦点が一瞬合わなくなり、急におどおどと叱られたようにおとなしくなった。
     眠兎は今までの眠そうな様子とはうって変わり、強い口調で。
    「すぐ終わらせますので。ご協力をお願いしますね……?」
     一般人たちは何度も頷くと、商品が並べかけの店内に羊の群れのように集まった。

    ●デモノイド出現~戦闘
     山を駆け下りてくるデモノイドの気配には、抑え役全員がほぼ同時に気づいた。
    「(来る……!)」
     彼らは一斉に物置の陰から飛び出すと、山に向かって身構えスレイヤーカードを解除した。
    「今度はちゃんと守ってよね……着装!」
     飛鳥は紅い強化装甲服を纏う
    「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
     翡翠がコードを唱えると、槍と、身の丈よりも大きな無敵斬艦刀が現れた。
     ボキボキと太い枝が無造作に折られる音がして、斜面を覆う冬枯れの木々が大きく揺れてたわむ。その隙間に見えたのは……青白い不気味な皮膚に覆われた熊のように大きな体、片手の先は大きな刃物に変形し、狼のような鋭い歯が覗く大きな口が目立つ顔……デモノイドだ!
    「笹銀殿! 来ていますぞ!!」
     ミゼが最後の1人を誘導している鐐に声をかける。
    「今だ、皆、攻撃するよ!」 
     飛鳥のかけ声で、抑え役たちは一斉に遠距離攻撃を放った。ミゼは鏖殺領域、翡翠は妖冷弾、飛鳥はバニシングフレア、裕介はセイクリッドクロス、裕也はギルティクロスを。
    「お前の相手は僕たちですよ!」
     デモノイドの注意を、直売所ではなく自分たちに引きつけるためだ。
     集中攻撃を受けたデモノイドはガアッと吠えると、斜面を転がり落ちてきた。バキバキッと木がへし折れる音が響く。灼滅者たちは落下地点に走ると、デモノイドを遠巻きに囲んだ。
     飛鳥は、仲間が首尾良くデモノイドを包囲したのを確認すると、怪力無双を発動し、戦闘場所近くに停められている車に駆け寄った。
    「よいっ……せ」
     搬入口の方へと押し、戦場を広げる。バリケードも兼ね、しかし車と荷台の野菜は痛めないように、極力丁寧に、しかし素早く……と、搬入口から鐐が飛び出してきて、
    「私も戦闘に入るぞ!」
     飛鳥に一声かけ、カードを解除しながら戦闘へと加わっていった。

     直売所内では、全員の避難が確認されると即、香が戦闘へと飛び出していった。
     後を託された眠兎はぐるりと避難者を見回した。
    「さて、皆さん」
     人々は怯えて身を寄せ合い、
    「少しの辛抱だから、建物から絶対に出ないようにしてくださいね?」
     眠兎の念押しに何度も頷く。逆らう気は全くなさそうだ。
    「(大丈夫そうね……開店時間が迫ってきたら、鐐さんに見張りに来てもらいましょう)」
     眠兎は玄関の鍵を閉めると、搬入口から外へと出た。

    「45分……充分だな」
     香が時間を確かめつつ戦場に駆けつけた時、
    「ミゼ!」
     最前線にいたミゼに、デモノイドの刃が振り下ろされた。重たそうな一撃に、ミゼの肩から血がしぶく。
    「やりやがったな!」
     香は戦闘に加わるなり、閃光百裂拳を放った。
    「くそう、此処から先は通行止め、儂らが先へは行かせん!」
     裕介が敵に叫びながら、ミゼに裁きの光を施す。
    「大丈夫かの?」
     心配げに助け起こす裕介に、ミゼは傷を抑えながら立ち上がって頷き。
    「大丈夫です……それにしても信じられん膂力だ……ソロモンの悪魔の恐ろしさが身に滲みる」
     回復の最中にも、香に続き、翡翠が斬艦刀でデモノイドにも負けないような重たい一撃を振り下ろす。
    「貴方たちがなぜここに居るのかはわかりませんが……必ず止めます」
     裕也は、翡翠の一刀によろめいたデモノイドの背後に回り込み、
    「切り裂いて、あげますよ……」
     ティアーズリッパーを見舞った。
     ……と、
    「遅くなり、申し訳ありませんっ!」
     眠兎がチェーンソー剣を携え、戦闘に飛び込んできた。
    「店内は大丈夫なのか!?」
     鐐が振り向く。
    「はい、皆さんおとなしくしてくれてます」
    「わかった……裕也、今何分だ?」
    「まだ50分にもなってません」
    「そうか、さすがにまだ客は……あっ、裕也!」
     デモノイドが時間を確かめる裕也に手を伸ばし、鐐は咄嗟に身を投げ出した。巨大な手が軽々と、割り込んだ鐐を持ち上げる。
    「鐐さん!」
     裕也がギルティクロスを出現させたが、鐐は高い位置から放り投げられてしまった。
    「うわあっ!」
    「鐐さあーん!」
    「私が!」
     車の移動を終えた飛鳥が走り込み、怪力無双で鐐を受け止めた。勢いで尻餅はついてしまったが、ふたりともダメージは受けずに済んだ。
    「ありがとう、飛鳥」
    「いえいえ、さあ、行こう!」
     飛鳥はにっこり笑って鐐を下ろし、これで全員が揃った。俄然、灼滅者たちの士気は上がる。更に士気を高めようと、
    「回復は儂に任せ、全力でぶつかって来い!」
     裕介が叫ぶ。
    「おう、回復は任せた!」
     香は光り輝くLB-66を出現させ、
    「笑顔と美味しさを届ける場所を血みどろになんてさせないよ!」
     飛鳥はJS-01で果敢に斬り込んでいく。
    「誰一人傷つけさせはしない! ここで終わらせるんだ!」
     翡翠も巨大な刀を振り回す。
    「貴方の歩みも……この一刀で断ち切ります!」
     ミゼは無言で敵の背後に回り込み、紫翼婪鴉の紅嘴を振るい……切り裂かれた敵の皮膚や筋肉組織を見、ふと想う。
    「(素体は一般人、か……デモノイドと言う魔道に窶されしお前達に、一片の憐憫を抱いてやるのが私達の背負う業だろうか?)」
     次々と攻撃を繰り出しつつも、灼滅者たちはデモノイドの出現にそれぞれの思いを抱く。
     鐐は仲間をガードする位置に戻りながら。
    「(こいつらの発生源はどこだ……『東部近辺で霊地とされる場所』……茶臼山などどうだ。調べてみるか……?)」
     飛鳥も出現場所に頭を捻る。
    「(大体鶴見岳でなく、何でこんな所にデモノイドがいるんだろう……?)」
     一方裕介は、
    「(デモノイドは憐れじゃ、闇に歪められし犠牲者なのじゃからな)」
     敵に一抹の憐憫の気持ちを持つ。
    「(じゃが、災禍を起こすならば容赦はせん!)」
     連続攻撃にデモノイドの全身には無数の傷がつき、そこから得体の知れない液体が流れ出している。片足を引きずってもいて、大分弱ってきているようだ。
    「あっ……!」
     しかし殺人機械は動きを停めようとせず、巨大な拳が翡翠を狙う。
    「やらせない! ……ぐっ」
     眠兎が体を入れ、殴り飛ばされる。
    「眠兎さん!」
    「私は大丈夫……はやく攻撃を」
     倒れた眠兎が苦しげに言う。翡翠は唇を噛みしめると、きっとデモノイドを睨みつけ。
    「たあ――っ!」
     斬艦刀を力の限り敵の肩口に叩きつけた。骨を断つ確かな手応えがあり、刃物のある左腕の付け根から腕が落ちた。
     ぐあぁああああ、とデモノイドが吠え、傷口を残った手で押さえた。
    「7時52分……いける!」
     ちらりと時計を一瞥してから、裕也が、耳をつんざくようなモーター音を立てるチェーンソー剣を携えて跳び、
    「くらえ!」
     デモノイドの首を目がけて振り下ろした。深々と刃が食い込んでいく。
     裕也は刃を引き抜いて着地し、仲間たちは、半ば首が切断された状態のデモノイドを見つめる……と。
     最初に崩れ始めたのは、切り落とされた左腕だった。それから半ば断たれた首から頭がぼとりと地に落ち、そして痛めていた方の膝が折れ……。
     見る間にデモノイドは、青白い、不定形の液体と化した。
     進み出たミゼが、その不気味な液体溜まりの前に膝をつく。
    「悪辣な因襲に捲かれるのはいつの世も、無辜の衆人……せめて、その魂が安らかに眠れる事を祈ろう」
     裕介も並んで十字を切る。
    「汝が肉体に終焉を、魂に救済を」
     灼滅者たちは、頭を垂れた。

    ● 開店
     戦闘後、鐐はいち早く直売所内の一般人の元へと馳せ参じ、
    「別働隊が仕留めました。皆様ご安心下さい」
     という内容の説明をして人々を安心させた。
     その間に他のメンバーは、物置にあったシャベルや掃除道具などを拝借して、デモノイドの残骸である液体を山へと運んだ。隠すつもりであったが、液体は作業中にもみるみる体積を減らし、山の土に染み込んで消えていった。
     建物はもちろん、車や商品への大きな被害はなかったので、灼滅者たちも手伝い、少し遅れてしまったが、無事開店にこぎつけた。
     香は、
    「あんな化け物が続けて山から降りてきたらたまらんな」
     と、念のため箒に乗って山を見回りに行ったが、他のメンバーは早速朝市の客になることにした。香も、戻ったら自分も買い物をすると言い残していった。
     混み合ってきた店を回りながら、飛鳥は目を輝かせ、
    「わぁ、立派な白菜! こっちの大根も……! おじさん、これいくらですか?」
     鐐は、
    「これこれこれ、葉の付いた大根がスーパーではね。刻んで胡麻油で炒めて鰹と……うん。あ、白菜もいいな」
     眠兎は、
    「白菜と大根……みぞれ鍋にでもしますかね……? あ、こっちの傷物でいいです。え、安くしてくれるんですか?」
     戦いで傷んだ野菜を優先購入している。
     翡翠は農家の人と話し込み、お勧めの野菜や料理の話と……それから。
    「山奥の廃村について、何かご存じありませんか?」
    「ああ、有名な廃村があるね。でも私はあんまり知れへん。大分前に住んでた人を知ってたけど、もう亡くなってしまってねえ」
    「そうですか……」
     翡翠は窓越しに、深い山を見上げた。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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