guilt ~罪狩り遊戯~

    作者:西東西


     夕暮れ時。
     港近くにある倉庫内に、ひとりの少女の姿があった。
     黒い髪に桃色の瞳。
     まだあどけなさを残した面差しに微笑みを浮かべながら、こてんと、首をかしげる。
    「あたしね、ずうっと不思議に思ってたんだけど。ワルイコトするひとたちって、なんで港の倉庫にあつまるかなー?」
    「そ、そりゃ、こういうところの方が見つかりにくいから、です。……た、たぶん」
     こたえたのは、そばにいたひとりの男。
     人相の悪い男だった。
     その様相の通り、カタギの人間ではない。
     彼は、今夜この倉庫でたちの悪い薬の闇取引を行い、大金を手に高飛びするはずだった。
    (「――それが、なんでこんなことに」)
     男の周囲には、眼球をつぶされた男たちが20人ほど転がっている。
     男の仲間や、取引相手たちだ。
     数分前、とつぜんあらわれた少女によって、『逃げ出さないように』と『処置』されたのだ。
     床は紅く染まり、みな傷を負ってはいたが、まだ、息はある。
    「だよねー。おまわりさんに見つかったら、ヤバいもんね~」
     少女は間延びした声でかえしながら、うろうろと倉庫内を歩きまわる。
     そしてこれみよがしに、嘆息してみせた。
    「あーあ。じゃあやっぱり、ダメかなあ」
    「な、なにが……?」
     問われ、少女は朗らかに笑う。
    「ここ、見つかりにくいんでしょ? そしたら、『ナリソコナイ』、来ないかなあって」
    「ナリソコ……なに?」
    「ま。来なかったらいつも通り、『断罪』して帰ればいっかー」
     くいっと指を動かし、虚空に喚び出したギロチンをひとつ、落下させる。
     それまで会話していた男の首が、ゴトリと、落ちた。
     悲鳴ひとつ、あげる暇もなかった。
     足元に転がってきた首をひろいあげ、少女は楽しげに声をあげる。
    「んじゃあ、カウントダウン、はじめよっかー」
     

    「六六六人衆、序列第五八八位。八波木々・木波子(ははきぎ・きばこ)。かのダークネスが、ふたたび動くという予測が成った。ついては、きみたちに対応願いたい」
     一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)が、資料を手に説明をはじめる。
     八波木々木波子は、『罪を犯した者を殺すこと』を至上とする六六六人衆だ。
     かつての事件では罪を犯した少年少女4名の命を奪い、余力をみせつけ、逃亡している。
     因縁のある相手だけに、語る一夜のまなざしも厳しい。
    「今回は、どうやら己の『断罪』のついでに、六六六人衆たちの『遊び』に便乗しようとしているらしい」
     ダークネスは『カウントダウン』と称して数分ごとに一般人を殺していき、灼滅者が現れるのを待つ。
     だれもこなければ、そのまま皆殺しが済むまで『断罪』を続ける。
     灼滅者が現れれば、彼らと『遊ぶ』。
     ――という、段取りのようだ。
     
     八波木々・木波子の出現地点は、夕刻の港倉庫。
     うち捨てられた廃倉庫であるため、無関係な一般人が侵入してくる心配はない。
     なかは閑散としており、倉庫の隅に積荷などがいくつか置き去りにされている。
     体育館のようなだだっぴろい空間には必要最低限の明かりもあり、戦闘を行うには好都合。
     なお、入口は倉庫正面と裏口の、2か所だ。
     どちらも、鍵はかかっていない。
     扉を開いてすぐの位置に積荷が散乱しているため、隠密行動さえ徹底すれば、侵入は容易い。
     もっとも、そこからどうダークネスに近づくかが、問題となるだろう。
     
     木波子は倉庫の中心に立ち、段取りどおり『カウントダウン』を行う。
     周囲には、眼をつぶされた犯罪者――もとい、一般人20人が倒れている。
    「予測に基づき、接触する最適なタイミングは、最初のカウントがはじまる直前。ギロチンを落とそうとする瞬間だ」
     もちろん、エクスブレインの提示したタイミング以外で仕掛けることも可能だ。
     だがその場合は、あらかじめ聞いていた予測を超える事態となることを覚悟しなければならない。
     
    「きみたちがまず念頭に置くのは、『一般人の殺戮を止めること』」
     犯罪者であろうと、一般人である以上、被害を出すわけにはいかない。
    「そのうえで、八波木々木波子を撤退に追いこむよう、戦ってほしい」
     そうして、最後に念を押すよう、続ける。
    「ダークネスは、どうやらきみたちを闇堕ちさせたいらしい」
     闇堕ち者が出れば、ダークネスは目的を達成したとみて、必ず撤退する。
    「――だが、きみたちが。そんな遊びにつきあってやる必要は、断じて、ない」
     憤りを含むエクスブレインの強い声に、教室がしんと静まりかえる。
    「相手は六六六人衆。容易い相手ではないだろう。だがそんな思惑に乗らずとも、きみたちならば必ず、活路を切りひらける」
     「皆で、そろって戻るように」そう告げ、エクスブレインは静かに、頭をさげた。


    参加者
    三兎・柚來(小動物系ストリートダンサー・d00716)
    瑞希・夢衣(純粋危険思考少女・d01798)
    十三屋・幸(孤影の罪枷・d03265)
    イブ・コンスタンティーヌ(楽園インフェクティド・d08460)
    皇・千李(静かなる復讐者・d09847)
    逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)
    ルコ・アルカーク(ギルティグリード・d11729)
    三条院・榛(円周外形・d14583)

    ■リプレイ

    ●罪荷負う者
     夕暮れ時。
     ひとけの失せた港倉庫の裏口に、灼滅者6人の姿。
    「六六六人衆の『遊び』、か。くだらないな……」
     皇・千李(静かなる復讐者・d09847)は日本刀『緋桜』を手につぶやき、口をつぐむ。
    「機械的に殺す、『Bois de Justice(正義の柱)』……でしたっけ? そんなもの、己の欲求を満たすための免罪符なんじゃないですかねえ」
     ルコ・アルカーク(ギルティグリード・d11729)は中折れ帽を押さえ、上目づかいに眼前の裏口を見やった。
     三兎・柚來(小動物系ストリートダンサー・d00716)は傍に立つ友達の横顔を見やり、小声で声をかける。
    「幸、大丈夫か?」
    「……ん。大丈夫だよ、柚來君」
     声はかえるものの、その表情には余裕がなく、どこか思いつめた様子だ。
     逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)と十三屋・幸(孤影の罪枷・d03265)は、以前、八波木々・木波子と戦ったことがある。
     幸は帰投後、犠牲者が出たことを激しく悔やんでいた。
     その時の憔悴ぶりを知っているだけに、気がかりだ。
    「ダークネスゆうても女の子なんやろ? 可愛い子やとええなぁ」
     三条院・榛(円周外形・d14583)が軽口を叩き、「ほな、いきましょか」と仲間たちを促す。
     6人は頷き交わし、倉庫内へと足を踏みいれた。

     ――あーあ。じゃあやっぱり、ダメかなあ。
     高い天井に吸いこまれるように、能天気な声が響く。
     6人は入口から一定の位置までは進めたものの、敵の周辺には遮蔽物が一切なかった。
     木波子までの距離は、まだだいぶある。
     千李はかぶりを振り、仲間たちに遠距離サイキックを準備するよう伝える。
     同時に、己の唇を噛みしめた。
     用意したと思っていた遠距離サイキックが見当たらない。
     準備中、念頭にはあった。
     だが、今この場で持ち合わせがなければ、すべてがあとの祭りだ。
     ――そしたら、『ナリソコナイ』、来ないかなあって。
     柚來は幸の様子をうかがい、バトルオーラ『A-Trucks』をその身に、拳を握り締めた。
    (「一般人の救出もだけど……。幸が無茶しないように、頑張るぜっ」)
     ――ま。来なかったらいつも通り、『断罪』して帰ればいっかー。
     木波子がギロチンを喚びだした、その瞬間、
    「させるかっ!」
     柚來が真っ先に動き、虚ろな『ココロ』をも揺さぶる歌声を響かせた。
     木波子は衝撃に頭を振るも、無理やり意識を呼び戻す。
    「来たー! 『ナリソコナイ』、ほんとに来たー!」
     奇襲を受けたことなどものともせず、少女は満面の笑みを浮かべ歓声をあげる。
     その足で、傍らにいた一般人を邪魔だとばかりに一蹴。
    「人間から見たら、あんたたちは『デキソコナイ』よ!」
     続く莉子が、妖の槍『グラキエス』の切っ先を振り払う。
    「あ。見たことある、おねーさん!」
     木波子は瞬時に漆黒の大鎌を具現化させると、向かいくるつららを粉微塵にうち砕いた。
     莉子の死角から迫った千李が、『緋桜』を一閃!
     振りおろした斬撃が大鎌ごと少女を叩き伏せる。
     即座にその場を飛び退いた木波子と入れ替わるように、ルコと榛の声が飛んだ。
    「すぐに盾を施しますので、少々お待ちを」
    「援護はまかしとき!」
     ルコが光輪で、榛がWOKシールドで前衛陣に盾を施し、仲間の守りをより強固なものとする。
     手の内の大鎌を己の身長を超える大刀に変化させ、少女は静かに微笑んだ。
     視線の先には、眼球をつぶされた一般人たち。
    「まずいわ!」
    「死刑、執行」
     意を察した前衛陣が一斉に攻撃を仕掛けるも、木波子は構わず刃を振りおろした。
     灼滅者との邂逅に心躍らせる少女の一撃はことさらに重く、妨害に入ろうとした莉子・柚來・千李・ルコもろともはね飛ばす。
     だが、4人の捨て身の攻撃が、一般人へ届くはずだった攻撃の大部分を逸らすことに成功。
     一方で、木波子にほど近い位置に倒れていた一般人2人の胴体が、真っ二つに引き裂かれた。
     唯一、五体満足でなりゆきを見守っていた男も、常軌を逸した状況の中で命運の終わりを覚悟する。
     だが――。
    「……相変わらずの外道だね。八波木々木波子」
     目をひらけば、眼前に小さな背中。
     足元には、ぼたぼたと紅い染みが広がっていく。
     身体をはって一般人への攻撃を止めた幸が、あの時と同じように、少女を睨めつける。
     木波子は幸の顔をみるや、ぽんと手をうって破顔した。
    「来てくれたんだ! あたしをコロシたい、『泣きむし』くん!」
     おそらく適当に付けたであろう呼称を聞き流し、幸は奥歯を噛みしめる。
     爆発しそうになる感情。
     幸の内心を知ってか知らずか、少女は無邪気に言い放った。
    「ね。あの後すごい声で泣いてたけど、カナシイの、もうどっかいった?」
    「幸……!」
     榛の癒しを受けながら、柚來が鋭く呼びかける。
     だが、『孤影の罪枷』に囚われた少年の耳に、友の声は届かない。
    「首を、斬られるべきは――」
     怒りと、痛みに震える指で、解体ナイフを握り締める。
     降り積もった痛みと悲しみ。
     そしてどす黒い憎しみが、喉の奥からほとばしる。
    「――君の方だよ、『人殺し』!!」

     一方、そのころ。
    「アーッハッハッハッハ!!」
     裏口方面から響く高笑いを耳にするなり、
    「わたくし、カミサマ気取りも――キライです」
     イブ・コンスタンティーヌ(楽園インフェクティド・d08460)は冷たく吐き捨てた。
     傍らで身を潜めていた瑞希・夢衣(純粋危険思考少女・d01798)も、こくりと頷く。
     2人は一般人の避難誘導役として、倉庫の表口からの侵入を図っていた。
     木波子はまだ、身近に2人の灼滅者が身を隠していることに気づいていない。
     先刻の攻撃で死者が出てしまったようだが、以降、その他の一般人は捨て置かれたままだ。
     夢衣は積荷の影からダークネスの様子を確認し、今が機とばかりに身を乗りだした。
    「イブちゃん。……今なら、大丈夫そうだよ」
    「まいりましょう、夢衣さん」
     頷きかえし、あらかじめ準備してきたロープを手に、イブがESP『ラブフェロモン』を展開。
     そのまま、連れ立って一般人の元へ走る。
     20人に及ぶ一般人は倉庫内に広く倒れており、その全員が眼球をつぶされている。
     自発的に避難できないうえ、木波子のそばに残された者もあり、全員を一気に移動させるのは無理だ。
     夢衣は積荷を移動させて壁とするつもりだったが、倉庫内は視界が通る。
     荷が動けば確実に木波子に気づかれると踏んで、まずはできる限り、ロープで一般人を退避させることにした。
    「皆さんを助けたいのです。どうか言う事を聞いてくださいまし」
    「大丈夫。必ず助けるから、今だけは信頼してね」
     イブと夢衣は声かけとESPを併用し、混乱する一般人をなだめ、ひとりひとりにロープを握らせていった。
     途中、命拾いをした五体満足の男が逃げてきたのを、夢衣が呼び止める。
     ラブフェロモンをまとったイブがよくよく言い含め、7人の一般人を連れて表口から逃げるよう指示。
     2人の確かな連携により、続く7人もすぐに避難させることができた。
    「ひとまず、うまくいったね」
     扉の向こうに消えた15人の姿を見送り、夢衣が安堵の息をつく。
     念のためイブのビハインド『ヴァレリウス』も警戒にあたらせていたが、囮役の6人が派手に戦っているために、木波子がこちらへ向かってくる気配はない。
     あるいは、気づいていて放置しているのかもしれないが――。
     どちらにせよ、一般人の避難を第一としたい今、この状況は願ってもない。
     21人のうち、2人は死亡。15人は避難完了。
     残るは4人だ。
     だがその4人を助けるためには、木波子へ接近する必要がある。
    「救出がはやく終われば終わるほど、みんなの負担が減るよね」
    「はい。1人でも多く救って、カミサマ気取りの方には早々にお帰り願いましょう」
     2人は頷きあい、仲間たちの元へと走った。

    ●罪憎む者
     ダークネスと灼滅者6人の戦場はわずかに裏口側へ移動したとはいえ、ほとんど動いていなかった。
     莉子は何度か木波子を誘導しようとしたが、ダークネスはそのたびに動き回り、また倉庫の中心を位置どる。
    「目的は俺たちなんだし、俺らと遊ぼうぜ♪」
    「この人たちの罪は貴方が裁くべきではありませんよ? アンタみたいな、力の割に精神年齢が足りてないガキは特にね」
     攻撃の合間に柚來やルコも挑発を試みたが、木波子は笑みを深めるばかりで乗ってこようとはしない。
     常に一般人の傍を陣取るよう立ち回る。
     そのうえ今回は、積極的に己の回復を図っているようだ。
    「じゃあ、もっと楽しくなるように! じゃーん!」
     まるで緊張感のないしゃべり方ではあるが。
    「ああ、またや……!」
     千李や幸が施した枷が、そのひと声によって解除されていく。
     榛とルコの2人が全力で仲間の回復と援護にあたっていたが、一向に衰えない木波子の火力に戦闘は長引き、徐々に押されつつあった。
    (「さすがに、人を殺すばかりの考えなしじゃないようね」)
     再び放った莉子の氷の刃が、少女の身を穿つ。
    「弱くなった? それとも成長してないの?」
     木波子は腹部に空いた穴を撫で、冗談か本気か、こくりと首をひねる。
    「成長? しないよー? だってあたし、永遠の十三歳だもーん」
     傷は蓄積しつつある。
     だが相変わらず、その表情には余裕が垣間見える。
     そしてその余裕ゆえに、いささか退屈も感じ始めているようだった。
    「ねー、ユキ。あたしと一緒においでよ」
     早く『遊び』を終わらせて帰ろうと、友達を誘うかのような声。
     ――守れなかった。
     ――ひとりの犠牲者も、出したくはなかったのに……!
    「お前は、咎人である俺を見逃すというのか!」
     かつて、大切な人を手にかけた。
     ゆえに己は罪人であると叫び、千李が舞うように『緋桜』を打ちおろす。
     木波子は刃をあえて腕に受け、静かなる復讐者の耳元に顔を寄せる。
    「そんなに、自分を『ナカッタコト』にしたいの?」
     突き放すような言葉。
     その声に紫の瞳が揺れ――。
     次の瞬間、地響きとともに千李の細い体躯が鉄塊の刀に沈んだ。
     床の亀裂に沿い、鮮やかな紅が広がっていく。
    「千李さん!」
     傷を負ったまま突出しようとしたルコを制し、榛が木波子の眼前に飛びだす。
    「物騒な評判の割りに可愛い子やないの。アドレス交換とか受け付けとる?」
     軽口を叩くものの、内心は冷や汗ものだ。
     本来は幸と入れ替わるための行動だが、千李を捨て置くわけにもいかない。
     桃色の瞳に狂気を宿し、少女は笑う。
    「だめだよ? このコは、あたしに『断罪』を願ったんだから」
     「ちゃんとコロシてあげなくちゃ――」続くセリフが終わる前に、木波子の全身が一斉に裂けた。
     仕掛けたのは、幸。
     死角から繰りだした解体ナイフで、少女を切り裂いたのだ。
    「断頭台は目を抉りもしないし、好き勝手歩いて人を殺しに行かない」
     渦巻く嫌悪感を胸に、叫ぶ。
    「君は、慈悲深い聖女なんかじゃ、ない!」
     その隙に、榛とルカが千李の身柄を確保し、後退。
     最低限の回復を施すも、先刻より己を顧みずに切りこんでいた千李の傷は深く、戦線復帰は見こめそうにない。
     木波子は血に濡れた己を見おろし、不敵に微笑む。
    「ね。『コッチ』に、おいで」
     伸べた手は幸の方へ。
     けれど、断罪の刃はダークネスの傍に倒れていた罪人4人。
     一般人の上に、降った。
    「ヴァリーさま!」
     駆けつけたイブのビハインドが瞬時にはしり、間一髪、一般人の身を守りきる。
     夢衣・イブの2人も一般人の前に身を投げるも、最後の一人には間に合わなかった。
     血しぶきが爆ぜる。
    「アーッハッハッハ!」
     ――3人目の犠牲者。
    「たとえ罪人でも、人の命は重いもの。遊戯に使う道具ではございません……!」
     傷を負いながらも、イブは一般人を背に言い放つ。
     眼前に転がってきた首に、夢衣は視線を落とした。
     『断罪』は、罪人たちの生き方の結果かもしれない。
     だが『遊び』は、灼滅者たち自身の結果ではない。
    「だから、歪めさせるのはダメなの……。絶対に……!」
     飛びこんできた木波子の刃を、夢衣は『アイアンロッド』で受け止める。
     後方には一般人。
    「遊び相手はこっちだぜ……!」
    「夢衣ちゃんは一般人の避難を!」
     身動きの取れない夢衣を救うべく、柚來と莉子が同時に武器を振りかぶる。
     両サイドからのフォースブレイク。
    「……っ!」
     叩きつけられた魔力の奔流に、たまらず木波子の身体が吹き飛ばされた。
     だがすぐに跳ね起き、今度はイブの背に向かい、駆ける。
     イブの元には一般人2人がいる。
    「諦めて、お引き取りくださいまし!」
     『ヴァレリウス』の霊撃がダークネスの身を穿つも、勢いを殺すには至らない。
     イブはピンクゴールドの指輪を掲げる。
     魔法陣が展開した瞬間、木波子が跳ねた。
     ――人が死ぬ。死んでしまう。
     どんなにあがいても、ひとが生きている限り、同じことを繰りかえす。
     命はこぼれ落ち。
     カルマは、何度でも輪転する。
     イブの眼前に、刃が迫る寸前――、
    「もう嫌だ……。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
     体当たりするように繰りだされた幸の解体ナイフを受け止め、木波子は笑う。
    「おいで! おいでよ! ユキはもう、あたしと同じところに立ってる!」
     幸の『闇』が、その言葉に呼応しようとした、刹那、
    「やめろーーー!!!」
     それまで冷静さを失わなかった柚來が、初めて、声を荒げた。
     木波子に殴り掛かり、友達から少しでも遠ざけるよう突き飛ばす。
    「しっかりしろ、幸! 敵の言葉に惑わされるなよっ!」
     その言葉に、仲間たちも奮い立った。
     そうだ。
     こんな『遊び』で、仲間を闇堕ちさせるわけにはいかない。
    「罪人同士楽しく殺り合いましょ、ね? ギヨティーヌさん」
    「悪いけど、可愛い後輩に貧乏くじ引かせるわけにはいかんねや!」
     ルコと榛が幸へ向けられた一撃をかばい受け、はね飛ばされる。
     莉子は『クラングファルベ』を練りあげ、
    「どうしたの? もう終わり?」
     怒涛の連撃の末に、床に叩きつけた。
     ごろごろと床を転がり顔をあげれば、3人の一般人を連れ、夢衣とイブが表口を抜けるところだ。
     『遊び道具』がなくなったことに気づき、木波子が口をとがらせる。
    「もおおお! あとちょっとだったのにー!」
     そうとわかれば長居は無用。
     木波子は再三ギロチンを召喚すると、灼滅者たちが回避や防御に転じた隙に裏口へ向かって跳躍。
     大きく手を振り、背を向けた。
    「今回は、よくできたで賞、かな? んじゃ、まったねー!」
     能天気な声が遠ざかっていく。
     入れ替わるように、夢衣とイブの足音。
    「また、殺せなかった……」
     つぶやいた幸の手から、血濡れのナイフがすべり落ちる。
    「幸……!」
     くずおれる友へ、柚來はすかさず手を伸ばした。
     
     

    作者:西東西 重傷:皇・千李(復讐の静月・d09847) ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 15
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