阿佐ヶ谷地獄~ある家族の悲劇

    ●1
     早朝の阿佐ヶ谷。住宅街の、とある家。

    「ねえお父さん、今週末、部活の友達の家に泊まりに行きたいの、いいでしょ?」
     高校生の娘は父親のカップにコーヒーを注ぎながらねだった。
    「うーん、ちゃんと連絡とれるようにしておくことと、お友達の家にご迷惑をかけない約束ができるなら」
    「そんなの当然だよ! ありがとうっ」
     娘は自席に戻ると、元気にトーストを囓りはじめた。父親は娘の現金な様子に苦笑する。
     母親はそんなふたりの様子を、キッチンカウンターの向こうから楽しそうに見ている。
    「おはよ~」
     小学生の弟が2階からあくび混じりに降りてきた。
    「早くないよ! さっさと顔洗ってきな」
     姉は忙しい母の代わりに弟にハッパをかける……と。
     父の背後、狭い庭に面した大きな窓の向こうが、突然陰った。
     いや、陰ったのではなかった。突然数人の人間が現れたのだった。
     ……いや、人間なのか? 青黒い肌にまばらな髪。ボロボロの服に、融けたような……腐りかけているような四肢。茶色い乱杭歯に白く濁った眼球……まるでこれは。

    「(……死体?)」

    「どうした?」
     娘の表情に気づき、父親が新聞から目を上げて声をかける。
    「お父さん……あれ……」
     娘が窓を指さし、父親が振り返る。
     その瞬間。
     ガシャーン!
    「うわっ!」
     窓ガラスが大きく割られて--。
     
    ●2
     灼滅者たちが突然の招集に教室に駆け込むと、春祭・典(中学生エクスブレイン・dn0058)が、爪を噛みながらイライラと歩き回っていた。
    「鶴見岳や愛知で皆さんが戦ったデモノイドが、阿佐ヶ谷に大量に出現しました」
     阿佐ヶ谷!? 学園のすぐ近くではないか。いきなり阿佐ヶ谷にデモノイドが大量発生とはどういうことなのだろう?
    「デモノイドはそもそも、ソロモンの悪魔『アモン』により生み出されたはずですが、今回はなぜか『アンデッド』の襲撃で発生しています。今朝早くアンデッドが阿佐ヶ谷に大量に出現し、住宅街で一般人を片っ端から襲撃しました。アンデッドが装備している儀式用っぽい短剣で一般人がやられると、何%かの確率でデモノイドとなってしまうようなのです。その短剣は、少し前にソロモンの悪魔の配下達が儀式に使っていたものと同一の可能性もあると……とにかく、今は、これ以上の被害を生み出さないため、アンデッドと、そして生み出されてしまったデモノイドの灼滅をお願いします」
     
    ●3
     阿佐ヶ谷。

     アンデッド数人に連れられたデモノイドは、視界に入る全ての人と物を破壊する。右手で電柱を倒しながら、左手の刃で逃げようとする人の首を刎ねる。子供を踏みつぶし、車を体当たりで横転させる。車が火を噴き出し、切れた電線から火花が散り、噴き出した血がアスファルトを真紅に染める。車からやっと脱出した人間をも、容赦なく刃が刈り取っていく。
     その破壊と殺戮に意味はない。殺戮機械はただ、命じられるままに行動するのみ。

     しかし、その自我を失いつつある意識の奥底で、デモノイドは泣いていた。
     家族が好きだった。この阿佐ヶ谷という街も好きだった。就職か結婚で家を出るまで、あの家族と、この街で暮らしていくつもりだったのに……。
    「(なのに、どうして私は、この街を破壊しているの?」
     薄らいでいく最後の記憶は、血まみれになって横たわる家族の姿。
    「(どうして私だけ、蘇ってしまったの? こんな怪物になって……! いっそ私もみんなと一緒に死んでしまいたかった!!」)
     
    ●4
    「えっと……俺たちは、お前が感知した、その女子高生が変じたデモノイドと戦わなきゃいけないわけ?」
     灼滅者の気まずそうな質問に典は首を振り、
    「いえ、そうとも限りません。敵を選んでいる余裕は無いと思われます。現場に到着したら、最初に発見した1隊を倒すことになるでしょう」
     灼滅者たちは少しだけ安堵の表情を浮かべる。しかし切迫した、しかも悲惨な事態であることには変わりない。
     典は悔しそうに爪を噛む。
    「未確認情報ばかりで申し訳ないです。こんなわけのわからない状況で皆さんを送り出すのは大変不本意なのですが、どうかよろしくお願いします」
     と、典はイライラと歩き回っていた足を止め、灼滅者の方に険しい視線を向け。
    「何より気になるのは……阿佐ヶ谷は武蔵坂から近すぎるということです」


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    月宮・白兎(月兎・d02081)
    大場・縁(高校生神薙使い・d03350)
    鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(ヒーローだった何か・d07392)
    志島・樹梨花(祈り人・d09232)
    イヴマリー・フレイ(浄化の白・d11134)
    榊原・智(鷹駆る黒猫・d13025)

    ■リプレイ

    ●阿佐ヶ谷にて
     街は、まるで戦場のように破壊されていた――いや、戦場であることは間違いはない。遠く、また近く聞こえてくる無数の破壊音の中には、デモノイドが街を破壊している音だけではなく、先にターゲットと遭遇した他の灼滅者チームが戦っている音も含まれているはずだから。
     一般人を見かけたら避難を促す用意はしてきたが、幸い今のところ出会っていない。とはいえ、この破壊の惨さ、広さから言って、一般人が今から避難するのは至難の業であろうが。
    「急いだところで間に合わなかったとは分かっていても、助けられないのは悔しいですね」
     榊原・智(鷹駆る黒猫・d13025)が道路を塞ぐ瓦礫を足早に避けながら呟いた。
     大場・縁(高校生神薙使い・d03350)もうつむきがちに、けれど悔しげに同意する。
    「あの……その通りです。今まで幸せに暮らしていた人達の生活がこんな形で崩れてしまうなんて……これ以上悲しみが広がってしまう前に止めなくては……」
    「なにより、暖かい家族をこれほどたくさんむちゃくちゃにしたのが許せないのです」
     月宮・白兎(月兎・d02081)は、玄関がぶち破られている民家に目を走らせながら。
    「私自身も似たような惨劇に遭ったことがありますから……幸い、私の家族は無事ですが。これ以上の被害が出ないためにも全力で食い止めましょう!」
     アレクサンダー・ガーシュウィン(ヒーローだった何か・d07392)は無言で、しかし力強く頷く。彼はガイアチャージで土地のパワーを吸収中だ。理不尽に蹂躙されつつあるとはいえ、土地の持つ力までが消え失せたわけではない。
     イヴマリー・フレイ(浄化の白・d11134)は、破壊された住宅に、
    「――主よ、どうかこの魂をお導き下さい」
     小声で祈りを捧げる。
     ……と。
     先頭を行っていた志島・樹梨花(祈り人・d09232)が四つ辻で立ち止まり、手を挙げて仲間たちの歩みを止めた。
    「くひ、いたよ。派手にやってる」
     小声で言うと、左手の道を示した。灼滅者たちは、そっとその道を覗き込む。
     ――いた。
     50メートルほど先に、ふらふらと得物を探すように道の先へと歩んでいく、アンデッドのおぞましい後ろ姿が4体。
     そしてその前に、デモノイドが1体。露払いのようにアンデッドの前を行き、腕の届く範囲にある障害物……家屋や電柱などを片っ端からなぎ倒している。
     他の灼滅者チームがマークしていない一隊らしく――つまり、ターゲットが決まったということだ。
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が開き直ったような、明るい口調で。
    「考えようによっては、間に合わないと分かってる分、すっぱり割り切れるから気楽ですよ♪ さあ、お掃除を始めましょうか」
     皆が皆、割り切って考えるのはなかなか難しいだろうが、とりあえずアンデッドとデモノイドを灼滅しないことには、阿佐ヶ谷を救うことはできないのだからと、灼滅者たちは沈みがちな気分を立て直す。
     鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)が目を凝らし、
    「アンデッドは、それぞれハンマーと、鋸と……あれは斧でしょうかしら。まるで建築現場から盗ってきたような武器ですわね。それと、短剣を持っているのが1体」
     アンデッドの武器を見極める。
    「例の短剣だろうか?」
     アレクサンダーが訊く。
    「どうでしょう……でもその可能性はありますわね」
     例の一般人をデモノイドに変化させてしまう短剣だとしたら、ぜひ回収したいところだ。
    「さあ、早く行こうよ。ぐずぐずしてると、どんどん遠ざかっていくよ? あんな仮初の生の紛い物、死者を愚弄する忌々しい存在は、さっさと土に還すべきだよ」
     樹梨花が皆を促す。
     頷きつつも、夜鈴は想う。
    「(デモノイド……化外の身と成るとも、人の心は残るなど残酷ですわね。哀しく、どれほどに孤独かしら)」

    ●戦闘
     早足でデモノイドとアンデッドに近づきながら、灼滅者たちはカードを解除し、戦闘態勢を整えた。
    「ほな、行こか」
     関西弁でコードを唱えたのは白兎。アレクサンダーはスキップジャックに騎乗し、智の富士鷹、イヴマリーのブランシュも出現する。イヴマリーは、聖水で自分の手と霊犬の武器を清め、紅緋は、
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」 
     気合いを入れるように囁いた。
     灼滅者たちは密やかに接近していったが、気配に気づいたのか、10メートルほどに接近した時にアンデッドが振り向いた。すかさず白兎がサウンドシャッターを、智が殺界形成を発動し人払いをする。
    「まずは短剣を持ってるヤツを狙え!」
     アレクサンダーが叫び、
    「えっと……はいっ!」
     元は人の身であるモノたちへの割り切れない想いを抱えつつも、真っ先に飛び込んだ縁がロッド・矢車菊で殴りかかる。その一撃は強烈で、KOまではいかなかったが、短剣を持ったアンデッドは道路に倒れ込んだ。
     続いて夜鈴が鏖殺領域を放ち、イヴマリーと智がシールドリングを前衛にかける。
    「1体ずつ集中して倒していきますよ!」
     白兎が拳に雷を宿し、短剣アンデッド目がけて跳んだ……が。
    「!?」
     彼女が殴りとばしたのは、ハンマーを持ったアンデッドだった。
    「庇った……!?」
     ハンマーアンデッドが、短剣アンデッドと白兎の間に割り込んだのだった。
    「(アンデッド同士が庇い合うことがあるのか……?)」
     仲間が殴り飛ばされている隙に、短剣アンデッドはぎくしゃくと起きあがり逃げだそうとする。
    「――逃がすか!」
     驚きから素早く立ち直ったアレクサンダーが、ご当地ビームを短剣アンデッドの背中に命中させ、
    「逃がさないで、ブランシュ!」
     イヴマリーの声に、霊犬のブランシュがアンデッドの前に回り込み、六文銭射撃を放つ。
    「さあ。懺悔の時間だよ! 導いてあげるよ!! 女神さまの道標で!」
     足止めされたアンデッドを、飛び出した樹梨花が縛霊撃で殴ると、砕け散り塵となる。
    「1体クリア! 短剣は拾っとくぜ!」
     アレクサンダーがスキップジャックのアクセルを噴かし、地面に落ちた短剣目がけ走りだそうとすると。
    「!?」
     今度は、鋸を持ったアンデッドと、斧を持ったアンデッドが立ちふさがった。樹梨花も、ハンマーアンデッドに押し戻される。
    「(それほどまでに短剣を守ろうとする……ということは)」
     その時、立ちつくしていたデモノイドが動き出した。灼滅者たちを討つべき敵として認識したのだろうか、大きな足をこちらに踏み出す――と、
    「あっ、短剣が!」
     短剣はデモノイドの足に踏まれ見えなくなってしまった。
     グワアァァァ……。
     デモノイドは鋭い歯の並ぶ口を大きく開けて吠え、アレクサンダーを救おうとしている縁と白兎に、左手の刃を振り下ろした。
     と、そこへ。
    「デモノイドの影あるところ、わたしありっ! ……ぐっ!!」
     紅緋が割り込んだ。刃になぎ倒されたが、すぐにイヴマリーと智がシールドリングで回復と更なる防御を与える。イヴマリーのシールドリングは光の花冠だ。紅緋を花びらが包み込む。
     回復を受けた紅緋は素早く起きあがると、
    「鶴見岳で、愛知で、そしてここ阿佐ヶ谷で。何度でも灼滅してあげます。覚悟!」
     デモノイドの注意を自分に引きつけるべく、神薙刃を撃ち込む。その衝撃にわずかながらよろめいたデモノイドに、すかさず夜鈴が封縛糸を放つ。
    「……この糸は“括”る。此処は私の領域なのですわ」
     続いて智の富士鷹がキャリバー突撃で突っ込んでいく。
     デモノイドが足止めされているのを見て、
    「こっ……こちらを早く倒してしまいましょう!」
     縁が鋸アンデッドにロッドを叩きつける。白兎が間髪入れずにブレイジングバーストを、ポジションに戻ったアレクサンダーがご当地ビームを撃ち込む。
     鋸アンデッドの胴体に大きな穴が開いた。しかしゾンビだけにそれでも倒れない。
    「いったい、何が楽しくてこんなことをするのか……?」
     その無惨な姿に顔を歪めつつも、地獄投げでとどめを刺そうとした白兎に、背後からハンマーアンデッドが襲いかかる。
    「わあっ!」
     大きな木槌で殴り倒された。
    「だ、大丈夫ですか? ……あっ!」
     思わず駆け寄った縁に、斧が振り下ろされる。
    「やりやがったな!」
    「今回復を!」
     中後衛がフォローと回復に入ろうとしたその時。
     ブオオッ!
    「くっ!!」
     つむじ風のような音と共に無数の刃がかまいたちのように前衛を襲った。血が飛び散る。デモノイドが鋭く振るった刃が、空気を凶器に化したのだ。
     列攻撃で前衛は一瞬怯んだが、盾効果のおかげで大きなダメージは受けずに済んだ。更にイヴマリーがシールドリングを、智がリバイブメロディを、特にダメージの大きかった白兎に樹梨花が
    「女神の加護を!」
     ジャッジメントレイをかける。
    「もうっ、あなたの相手はわたしだって言ってるでしょう!」
     紅緋は敢えてデモノイドの懐に飛び込んでいく。振り下ろされた腕をかいくぐり、異形化した拳で思いっきり殴る。
    「たあっ!」
     そしてその反動を利用し、捕まえられる前に敵から離れる。
     鋸アンデッドには、白兎が八つ当たり気味の地獄投げを決めてとどめを刺していた。縁は次の獲物、ハンマーアンデッドにレーヴァテインを叩きつけ、アレクサンダーがご当地ビームで続き、
    「女神さまの思し召しは絶対だ!!!!!」
     樹梨花が縛霊撃でとどめを刺す。
    「アンデッドはあと1体です!」
     智がデモノイド抑え組に声をかけた。
    「了解ですわ!」
     夜鈴が斬弦糸でジグザグを狙いつつ、
    「あなたはほんの数時間前まで人間だったのですよ! 覚えていますか!?」
     デモノイドに必死で声をかける。
     智も斬影刃を放ちながら。
    「自分を見失わないで、意志を強く持って!」
     しかしデモノイドは獣じみた声を上げ、至近にいる紅緋に刃を振り下ろす。
    「きゃあっ!」
     小さなからだにざっくりと刃が食い込む。
    「紅緋さんっ、大丈夫ですか!?」
    「うう……やっぱりすごい膂力……っていうか、このヒト、全然聞こえてないみたいじゃないですか?」
     紅緋はイヴマリーの回復を受けながら、血まみれの姿で無邪気に言った。
     見上げれば、そこには異形としか言いようのない姿のデモノイド。体の表面は筋肉が露出したような青白い不気味な皮膚に覆われ、片手は大きな刃。狼のような鋭い歯が覗く大きな口……。
    「――それでも、やっぱり諦めきれないのですよ」
     白兎が悲しげに言った。
     いつの間にか、灼滅者全員がデモノイドを囲んでいた。アンデッドを掃討し終えたのだ。
    「えっと……せめて心だけでも救えるのでしたら、と、思うのです」
     縁も言う。
     アレクサンダーも頷いて、デモノイドを仰ぎ見ると。
    「人は二度死ぬ。一つは命を失った時、もう一つは誰からも忘れられた時だ。このまま闇に飲まれ全てを忘却すればお前を愛した人のいた証は消えてしまうぞ!」
     しかし。
     ギィアァァァア!
     デモノイドはひときわ高く吠えると、刃を振り回した。
    「!!」
     空気の刃が、今度は中衛を襲った。
    「(ダメか……!)」
     中衛が回復を受けている間に、紅緋は再び敵の懐に飛び込み鬼神変で連打する。悔しそうな表情を浮かべながら、縁と白兎も続く。
     集中攻撃に怒りの声を上げたデモノイドの刃が、縁を狙う。
    「!」
     縁の肩口がザックリと斬られた……ように見えたが。
    「縁さん!?」
    「……あの、かすめただけです。かすり傷です。大丈夫」
     流血はしているが、縁は傷を押さえながらも武器を持ち、立ち続けている。
    「えっと……弱ってきているようなのです」
     見れば、デモノイドは全身に無数の傷を負い、その中には骨まで達しようかという深いものも幾つもある。
    「もう少しです。がんばりましょう!」
     紅緋が仲間を鼓舞するように叫び、また敵の懐に突っ込んでいく。
     夜鈴が唇をきりと噛み、鋼糸を放つ。
    「私たちは“人”である貴方を殺しますのよ。今一時、この身を恨みぬくと良いですわ。未練を何も残さぬように。後は私が引き受けますゆえ……」
     アレクサンダーはスキップジャック共々前に出ると、キャリバー突撃に続き、渾身のご当地キックを叩き込む。
    「まだわずかでも可能性があるなら諦めるわけにはいかない。救えるかもしれない命を見捨てる事はできない……!」
     先程吸収した阿佐ヶ谷のパワーを、悔しさと共に全て注ぎ込んだ。
     灼滅が近いと見て、樹梨花も再び前に出て縛霊撃を放ちながら、
    「ああァああもおおお早く逝けよおおお!!!」
     智も素早く敵の背後に回り込み、ティアーズリッパーで斬りつける。
     イヴマリーの回復を受けた縁と、白兎のクラッシャーふたりが、気合いを込めてサイキックを放つ。緑がロッドをたたき込み、白兎の地獄投げが決まり……。

     ギシャアァァァァ……。

     地面に叩きつけられたデモノイドは末期の叫びを上げると、起きあがろうとしばしもがいていたが、程なくぐずぐずと形なく崩れ落ちていった。

     ――人として蘇ることは無く。

    「――おやすみ」
     樹梨花がそっと囁いた。

    ●祈りと決意
     一同が複雑な思いでデモノイドだった液体の塊を見つめていると、
    「灼滅! 戦場、オールクリア! 他のチームの手伝いに行きましょう」
     紅緋がいきなり元気良く言った。
    「それは無理じゃないでしょうか。みんな結構ダメージ受けてますし、ここは一旦帰りましょう」
     智が苦笑して。
    「そういう紅緋さんが一番血まみれですよ」
    「それに、これも急いで持ち帰った方がいいだろう」
     アレクサンダーが、デモノイドの遺骸……というより残骸に躊躇なく手を突っ込むと、アンデッドの短剣を拾い上げた。怪しく黒光りし、華やかな装飾がついた大ぶりの短剣――これが例の短剣であるかどうかは不明だが、回収しておくにこしたことはない。
    「私もそう思います。あれだけアンデッドが守ろうとしてた物です。別隊が取り返しに来ないとも限りませんも。早く学園に持ち帰った方が」
     白兎の言葉にハッとして、一同は思わず周囲を見回す。
    「――この場所を離れる前に、少しだけ祈らせて下さいね」
     イヴマリーが聖水を播き、涙をこらえ静かに響く声で。
    「主よ、われらみまかりし者の霊魂のために祈り奉る。願わくは、そのすべての罪を赦し、終りなき命の港にいたらしめ給え。アーメン」
     一同も頭を垂れ、人間だったものたちの鎮魂を願う。
     イヴマリーは祈りの後、悲しそうに。
    「断末魔の瞳を使ってみたのですけれど、残念ながらどんな方だったのかは、見えませんでしたわ」
     黙祷から頭を上げた夜鈴が唇を噛みしめ。
    「……この無道、許して成るものか。あの方達を裂いたこの糸で、必ず事の首魁を括り刻んでやりますの」
    「ああ……」
     アレクサンダーが厳しい顔で頷いて。
    「今回の黒幕には何れ落とし前をつけてやる」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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