●
ある学園内に建てられた、ホールにて。
これより開かれるのは、『少女統治会(ソロリティ)』の定例集会。
ホール内にはいくつかの丸テーブルが据えられ、各テーブルごとに数名の少女たちが背筋を伸ばして座っていた。
それぞれ緊張した面持ちで、私語を交わすものなど一人としていない。
ステージ上には、淡いブルーの瞳の少女がたたずんでいる。
青白い肌に、プラチナブロンドの髪。
身にまとう衣装や所作、その凛とした存在感から、少女がこの場においてもっとも影響力のある人物なのだとうかがい知れた。
「本日はみなさんに、大変残念なお知らせをしなければなりません」
通りの良い声が、ホールの隅々まで響く。
「西園寺さん、龍ヶ崎さん、綾小路さん。……三人ともお立ちなさい。どうして名前を呼ばれたのか。心当たりはあって?」
「ノ、ノーニャ様、誤解です! 私は龍ヶ崎さんに誘われて!」
「ちょっと、言いがかりはよしてよ! ノーニャ様。門限を破ろうと言いだしたのは、この、西園寺さんなんです」
醜く言い争いをはじめた2人の少女に向かい、
「お黙りなさい」
ノーニャと呼ばれた少女は、ぴしゃりと言い放った。
そうして、集まったほかの少女たちへと言葉を続ける。
「この三名は昨晩、寮の門限を破り、夜の繁華街を遊び歩いていたそうです。ルールを尊守できないような方は、『少女統治会』にはふさわしくありません。よって本日をもって、『少女統治会』からの脱退を命じます」
ホール内がざわめき、あちこちから悲鳴のような声があがる。
「今後一切、この三名と関わりを持ってはなりません」
起立後、ひとりうつむいていた綾小路という名の少女が、わあっと泣き声をあげてホールを飛びだした。
『少女統治会』の絶対的排斥命令。
それは、この学園での『死』を意味していた。
●
「ヴァンパイアが動くという予測が成った。ついては、きみたちに対応願いたい」
一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)はそう告げ、資料を片手に説明をはじめる。
「ヴァンパイアの学園である朱雀門高校の生徒たちが、各地の高校に転校し、それら学園の支配に乗りだしはじめている」
転校の目的は、『各学校の風紀や秩序を乱すこと』。
いつものように企みを阻止し、ヴァンパイアを灼滅――と、いきたいところだが、
「ヴァンパイアは強大なダークネスだ。ひとりでも殺してしまえば、この勢力を敵に回しかねない。現時点で彼らを完全に敵に回すのは、自殺行為に等しい」
では、どうするか。
「今回の件を、学校で起こった『トラブル』のひとつとして処理させる。そうすれば、万が一にも戦争などという事態に発展することは……ない、はずだ」
よって、今回の依頼目的はヴァンパイアの撃退ではない。
『ヴァンパイアによる学園支配を防ぐこと』だ。
戦わずに学園支配の意志を砕くことができるならば、それに越したことはない。
灼滅者たちが潜入することになるのは、いわゆる『上流階級』と呼ばれる層の子息・子女たちが通う、全寮制の名門学園。
生徒はみな高校生なので、中学生以下で見た目が高校生に見えない者は『エイティーン』の用意をしておきたい。
「古い学園でね。『少女統治会(ソロリティ)』という、特殊な自治組織が存在している」
簡単に言えば、『学園でもっとも高貴な少女たちの集まり』だ。
入会には淑女としての品格を問われるため、一員となること自体がこの学園でのステータスとなっている。
「しかしヴァンパイア・ノヌーシャが転入し、この組織の会長として君臨しはじめたことで、恐怖政治にも似た事態が引き起こされている」
会にふさわしくないと判断した少女を『社会的に抹殺』し、絶望を与える。
そうすれば自ら手を下すまでもなく、少女たちは自動的に闇に転がり堕ちていくという寸法だ。
作戦開始は『綾小路という名の少女がホールを飛び出したタイミング』となる。
「もっともわかりやすい対処法は、集会に乱入し、ヴァンパイアたちと戦闘。撤退させる方法だろう」
戦闘は必ず発生してしまうが、作戦がわかりやすい分、各自指針を打ちだしやすい。
戦闘となれば、ノヌーシャは武器を手に襲い掛かってくる。
召喚した眷属の銀狼も敵となり、灼滅者たちを阻む。
『このまま戦えば倒されてしまう』と思い知らせることができれば、ヴァンパイアを撤退に追いこむことができるだろう。
「次に、戦闘を回避する場合。これは戦闘以外の手段で、『敵(灼滅者)を倒しても学園支配は失敗に終わる』と納得させる方法だ」
計画が思い通りにならないと判断すれば、これ以上の画策は無駄と悟り、学園の支配を諦める。
「最終的に、『少女統治会』が機能しない状態をつくりあげることができれば、戦闘を回避し、『最善の手』でヴァンパイアの目論見を打破できるはずだが……」
具体的にどうすれば良いのかとなると、一夜にはさっぱり案が浮かばない。
「戦闘を経て撤退させるにしろ、戦闘を回避して撤退を狙うにしろ、やっかいな任務であることに変わりはない。最後まで気を抜かず、対応にあたってほしい」
「よろしく頼む」と、一夜は沈鬱な表情で頭をさげた。
参加者 | |
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白瀬・修(白き祈り・d01157) |
リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323) |
リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794) |
村山・一途(硝子色の明日・d04649) |
神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756) |
咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814) |
彩橙・眞沙希(天衣無縫の白にゃんこ・d11577) |
九十九坂・枢(ある晴れた日の・d12597) |
●choix
予測を聞いた8名の灼滅者が選んだのは、ヴァンパイアとの戦闘を避け、撤退するよう仕向けるという『最善の手』を目指す道。
敵の出方も、灼滅者の対応もイレギュラー続きとなる今回の事件。
作戦を成功させるためにあらゆる手をつくすべく、灼滅者たちは事件発生前から学園に潜入し、それぞれ活動をはじめていた。
『エイティーン』を使用したリーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)は、咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)とともに深夜の学園を駆けていた。
2人の目的は情報収集。
隠密行動を徹底するため、『闇纏い』を使用した千尋が先導。
手はじめに理事長室へ向かうも、有用な情報は見つからなかった。
ならば職員室へと向かい、リーリャはデスクの上に置き去りにされていたノートパソコンを見つけた。
パソコンの中には、運よく学園の生徒情報を集めた資料が入っていた。
だが、『ノヌーシャ』『ノーニャ』という名の生徒は見つからない。
そこで、住所や連絡先、家族構成など、詳細がすべて空欄になっている生徒が1人、いることに気づく。
氏名欄に入力された文字は『nonus』。
「……最初から、偽の情報を使っているということですか」
あわよくば情報を改竄しようと画策していたリーリャだが、元のデータがこれでは、実行したとしても効果は見こめそうにない。
「データじゃないけど、クラス名簿があったよ」
ヴァンパイアの転入経緯や、ソロリティの会長に就任できた秘密を探れればと思っていた千尋だったが、こちらも関連する情報を見つけるには至らなかった。
2人は入手した資料やデータを手に、ひとまずその場を後にした。
●tentation
「ヴァンパイアも面倒なことをするものね」
リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)はそうぼやき、『プラチナチケット』を駆使して、あえてソロリティメンバーとの接触を避け、一般の生徒に声をかけた。
「ソロリティについて知りたいの。メンバーのこと、会長のこと、なんでも良いわ。教えてちょうだい?」
ESPの併用もあり、たいていの生徒は素直に質問に応じてくれた。
――ソロリティは学園設立と同時に設立された、歴史ある自治組織であること。
――ソロリティへ入るため、毎年多くの少女たちが醜い争いを行うこと。
しかし、バベルの鎖の効果だろう。
ヴァンパイアが会長になった前後の話については、だれも記憶がないという。
「排斥命令なんて……。そのような酷いこと、許せません」
九十九坂・枢(ある晴れた日の・d12597)は、理不尽な在りように怒りを覚えずにはいられない。
神代・煉(紅と黒の境界を揺蕩うモノ・d04756)は潜入時の身なりに迷ったものの、結局、いつもの様相で乗りこんだ。
もっとも、男前系女子という格好が逆に生徒たちを惹きつけた。
手持ちの『プラチナチケット』や枢の『ラブフェロモン』とあいまって、一般生徒たちは2人を『ソロリティにたちむかう勇気あるお姉さま方』と思いこんだのだ。
かつて少女たちの間で語られたソロリティは、もっと気高く、もっと華やかで、美しい場所ではなかったか。
毅然とした枢の言葉に、生徒たちは顔を見あわせ、視線を落とした。
その背を押すのは、リリシスと煉。
「あなたたちが望むなら、私たちもいろいろと手伝うわ」
「オレ達と一緒に、会長から元のソロリティを取り戻さないか?」
誰もが思いながら、口にできなかったこと。
『革命』の実行を高らかに唱える3人の女生徒の存在は、ひそやかに、そして確実に生徒たちの間に広まっていった。
一方、白瀬・修(白き祈り・d01157)はひとり別行動をとり、男子生徒に声をかけてまわっていた。
聞いてみれば予想通り、ソロリティの女生徒たちは学園の男子生徒にとって高嶺の花であるという。
「脱退させられた子は傷ついているだろうから、優しく接すればチャンスなんじゃないかな」
そう口にすると、男子生徒たちは一斉に修を止めた。
なぜ、と問えば、
「ソロリティを追いだされた女生徒は、学園をやめたり、家出したり」
「実質、みんな行方不明なんですよ」
一家そろって引っ越したか、自殺したのではというのが一般生徒たちの見解だという。
男子生徒たちと別れた後、修はリーリャと千尋が入手した情報をもとに、予測に現れたソロリティメンバー、綾小路・真央(あやのこうじ・まお)との接触を図った。
「お誘い、ありがとうございます。……でも、すみません。今日はこれから、ソロリティの勉強会があるんです」
肩までの黒髪を内巻きにそろえた少女は、そういって申し訳なさそうに頭をさげる。
「そう。それじゃあ――」
修は胸中で詫びを告げ、『ラブフェロモン』を展開。
(「本当は、男子生徒の説得材料にするためのデートだったんだけど」)
それでも、わずかでも真央の信頼が得られるならと、修は最寄りの動物園を目指した。
残る村山・一途(硝子色の明日・d04649)、彩橙・眞沙希(天衣無縫の白にゃんこ・d11577)の2名も、修と同様、仲間たちの情報をもとにソロリティメンバーとの接触を図る。
一途は従順な後輩を装い、最大級の愛想をふりまいて高学年のメンバーを誘う。
「初めまして。私、入学したばかりでまだこの辺りのことがよくわからないんです。ねえ、お姉さま方、すこし案内してもらえませんか?」
眞沙希はというと高慢な女生徒を演じ、低学年のメンバーを誘惑する。
「お姉さまのお誘いは嬉しいのですが……、今日はソロリティの集まりがあるんです」
「勉強会なんてやめて、もっともっと楽しいことを一緒にしようよ?」
どちらの場合も、適当にあしらおうとしていたメンバーたちは『ラブフェロモン』によってすぐに態度を変えた。
そのまま学園から連れだしてしまえば、ESPの効果とはいえ、既成事実を仕立てあげることは成功だ。
修・一途・眞沙希はころあいをみてESPを解き、ソロリティへ逆らってしまった事実を前に打ちひしがれる少女たちを前に、手を伸べた。
すでに仲間たちが動きだしている。
ともにこないか。
――一緒に、ソロリティに『革命』を起こそう。
●revolution
定例集会当日。
学園内に建てられたホールに、ソロリティメンバーが一堂に会していた。
エクスブレインの予測通り、過日の過ちを指摘され、西園寺・龍ヶ崎・綾小路の3名の少女が起立させられる。
ヴァンパイア・ノヌーシャは集まった少女たちを見渡し、言い放つ。
「今後一切、この三名と関わりを持ってはなりません」
ひとりうつむいていた綾小路真央は、悲しみと恐怖に震えながら、唇を噛みしめた。
真央はもともと、ソロリティに憧れていたわけではなかった。
ノヌーシャによって選出され、辞退することもできず、流されるまま集まりに参加していただけだ。
西園寺、龍ヶ崎とともに行動したのも、断りきれなかっただけのこと。
「綾小路さん、聞こえませんでしたか。あなたはもうソロリティメンバーではないのです。どうぞ、退席なさって」
しんと静まりかえるホールの視線が、真央に集中する。
先日会った、『革命』を語る8人の顔が脳裏をよぎった。
泣いて走り去りたい想いをおさえる。
震える手指を握りしめ、少女は絞るように声を紡いだ。
「…………ノーニャさま。……わたし、ソロリティを、やめます」
――貴女の命令ではなく、己の意志で。
そう言いたいのだと悟り、ノヌーシャが唇の端を持ちあげた時だ。
「集会中、失礼します」
煉を筆頭に、別所で作戦を遂行しているリーリャを除く6名の灼滅者がホール内に姿を現した。
その中に修の姿を見つけ、真央の顔が輝く。
一途、眞沙希に誘惑された者たちも、そろって顔を見あわせた。
「『革命の君』よ!」
「本当に、『革命の君』がきてくださったわ……!」
噂を聞いていただけのメンバーも、7人が何者かを悟り、一斉に騒ぎはじめる。
煉は、場をあおるように声を張りあげた。
「ソロリティは昔から恐怖で支配し、切り捨て、排斥する。そんな集まりだったのかい」
「ささいなあやまちも許さず排斥し、まるでいない者のように扱う……。このようななさりようが、本当の淑女のふるまいなのでしょうか」
続けて迫る枢の言葉にも、ノヌーシャはうすく笑みを浮かべるのみ。
「お招きしていない方々がなにかと思えば……。存じておりましてよ。勉強会の日に、綾小路さんをはじめ、メンバーのみなさんをたぶらかした方たちですわね」
灼滅者たちは極力目立たぬよう隠密行動をしていたが、生徒たちにとって『革命』ほど刺激的な話題はない。
噂はすでに学園内の隅々まで広まり、ノヌーシャの耳にも入っているようだった。
「私たちのことを知っているなら、話がはやいわ。では、単刀直入にお伝えします。私たち、貴女に抗議しに来たんです」
「一般生徒やメンバーのお姉さま方にお話を聞きましたが、あまり信用がおありでないようですね、ノーニャ様?」
「下級生の子たちも、みんな、貴女を恐れているようだった」
リリシスに続き、一途が皮肉をこめて微笑み、眞沙希が言葉を重ねる。
「男性生徒からも、いろいろな話を聞きました。ソロリティに排斥された女生徒のなかには、行方不明になった子がいるとか」
問い詰めるように修が睨めつければ、ノヌーシャは艶然と微笑んだ。
「上流階級の子息子女が通う学園ですもの。ご両親の都合で転校する方はたくさんいます」
そんなものは根も葉もない噂だとノヌーシャは断じる。
だが、灼滅者たちもここで食いさがるわけにはいかない。
「じゃあ聞くけど、あんたどうやって会長になった?」
「前会長や、その取り巻きは今どうなっている?」
「不思議なことに、排斥された女子生徒たちのこと、誰も覚えていないみたいなのよね。ノヌーシャ様なら、ご存知ですよね。教えてくださいますか?」
千尋・煉、そしてリリシスが畳みかけるように問い詰める。
(「語れるわけがない。……僕の予想が正しければ、排斥された女子生徒たちは、闇堕ちするか、ヴァンパイアの手によって殺されているはずだ」)
本当に行方不明になった生徒がいたとして、これだけ多くの者がその存在を忘れるとは考えにくい。
ならば灼滅者である彼らの知る限り、可能性はひとつ。
――バベルの鎖が、排斥した女生徒たちの情報の伝播を阻んでいる。
「……困りましたね。あなた方は、どうあってもわたくしを『悪者』に仕立てあげたいご様子」
ノヌーシャはそっと目を閉じ、悲しげに告げる。
「残念です。とても――」
つぶやきとともに、6体の銀狼が召喚される。
とつじょあわられた獣の姿に、居合わせた生徒たちが一声に悲鳴をあげた。
「お、狼……!?」
「綾小路さん、急いで出口へ!」
一途の声に頷き、慌てて駆けだす真央を見送る。
銀狼は灼滅者たちを威嚇するように牙をむいた。
一同がスレイヤーカードを手に、戦闘体勢をとろうとした、その時だ。
「この場にいる人間を殺すつもりなら、無駄だよ」
ふいに千尋が仲間たちの前に進みでると、携帯電話の音声をスピーカーから聞こえるように切り替える。
聞こえてきたのは、別の場所で作戦を進めていた、リーリャの声だ。
『これまでのホールの会話は、すべて放送室から学園内に放送させていただきました。ホールに居合わせた人間を殺し、口封じをして計画の続行を――と考えているのなら、無駄なことです』
千尋に飛びかかろうとする銀狼たちを、ノヌーシャは微笑み、制する。
『既存の体制を利用し、恐怖により迅速に学園を掌握する。……60点といったところでしょうか。私に頭をさげれば、もっと上手く実行するノウハウをお教えしますよ?』
リーリャの言葉を聞き終えるなり、ノヌーシャは高らかに笑った。
「『排斥した女生徒たち』のように、みんなの記憶からは今日のことも忘れ去られていくのかもしれません。でも、わたしたちが投げかけた波紋は、きっと消えません」
「ソロリティは終わりだ。貴女の居場所は、もうない」
一途の、眞沙希の言葉に、ノヌーシャが目を細める。
「それで。こうまでしてわたくしを止めたい、あなた方の目的は?」
「単に、『革命ごっこ』をしたいわけではないのでしょう?」といたずらっぽく視線を向けるノヌーシャに、枢は即答する。
「学園から、手を引いてください」
これ以上踏みいった会話を交わせば、なんらかの情報を相手に引き渡すことになりかねない。
一同はノヌーシャの追究を覚悟したが、当のヴァンパイアはあっさりと引きさがった。
「わかりました。では、そういたしましょう」
驚いたように見つめる灼滅者たちに、ノヌーシャは微笑む。
「ここでの成果は十分に果たしました。……では、ごきげんよう。『わたくしの銀狼を見ても退こうとしなかった』、勇敢なる革命者のみなさま」
ここまで対峙していれば、相手がただの人間でないことはノヌーシャにもわかった。
妨害が入ったという情報を持ち帰るだけで十分と、そう判断したのだ。
異形の翼を広げ、銀狼とともに姿を消したヴァンパイアの高笑いが、灼滅者たちの耳に虚ろに響いた。
●soi
ホールを出ると、放送室から戻ったリーリャと、綾小路真央が灼滅者たちを出迎えた。
「あの、ノーニャさまは……?」
「騒ぎを起こしてしまったから、学園を出るって」
煉がでまかせを告げると、真央は「そうですか」とつぶやき、それ以上は聞かなかった。
「あの、みなさんにはいろいろと……。ありがとうございました。結局、排斥かどうかはうやむやになってしまいましたから、明日からどうなるか、わかりませんが……」
ノヌーシャがいなくなったからといって、ソロリティがすぐに解体するわけではないだろう。
灼滅者たちの起こした『革命』に賛同したのも、一部のメンバーにすぎない。
根深い慣習が、また少女たちを苦しめるのかもしれない。
――苦しむくらいなら、記憶をあいまいにしてやった方が良いのでは。
仲間たちは『吸血捕食』を使うべきかと迷ったが、眞沙希が目線でそれを止めた。
おそらくこの少女は、ヴァンパイアが好む闇堕ちの素体だった。
だが真央は、あのダークネスを前に、立ち向かった。
――この子なら、きっと、己の闇に負けない。
灼滅者は世にはびこる闇をうちはらう力はあれども、世の理不尽から人々を救いあげる手はもっていない。
それでも、声をかけることはできる。
「きみなら、大丈夫」
修の言葉に、双眸に涙をためた真央が頷く。
枢は手にしていたキャラメルを、そっと真央の手に握らせた。
口にふくんだキャラメルは、とても甘くて。
不安は尽きない。
けれど、大丈夫。
「明日はきっと、良い日です」
真央は涙をぬぐい、灼滅者たちに向かって精一杯に微笑んだ。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 14/キャラが大事にされていた 3
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