運動会~目指せ!二人三脚の星

    作者:西東西


     新緑の5月。
     梅雨を目前にひかえた5月26日に、武蔵坂学園の『運動会』が開催される。
     『運動会』とは、『1A梅』『2B桃』『3C桜』『4D椿』『5E蓮』『6F菊』『7G蘭』『8H百合』『9I薔薇』の9つの組連合にわかれ、各種競技によって得点を競い合う一大イベントだ。
     開催される競技は、多種多様。
     一般の学校でも定番のものから、武蔵坂学園特有のものまで、幅広く行われる。
     クラスメイトや、同じ組連合の者たちと力を合わせ、たちはだかる好敵手としのぎを削る。
     ただひとつの『優勝』を目指して展開される熱き戦いが、今年もまた、繰りひろげられようとしていた。
     

    「――というわけで。この場で説明を行う競技は『二人三脚』。運動会の競技でも、定番中の定番種目だな」
     運動会の資料を片手に、黒板の前に立った一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)が基本的なルールを板書していく。
     『二人三脚』とは、『2人1組』で行うペア競技だ。
     走者2人の足首を紐で結び、歩調を合わせてゴールまでを走りきる。
     コースは直線50メートル。
     いくつかのペアが並んで走り、そのなかで一番最初にゴールしたペアが勝ちとなる。
    「説明だけ聞けば簡単そうに思えるが、実際やってみるとなかなか難しい……。いかにパートナーと歩調を合わせ、スピードをあげるか。事前練習や、パートナーとの作戦が勝負の分かれ目となるだろう」
     なお、競技に参加した者たちの中で、最も素晴らしい連携プレーを発揮したペアには『MVP』が贈られる。
     『MVP』が所属する組連合にはボーナス得点が加算されるため、優勝を目指す者は、ぜひとも狙っておきたい。

     基本事項を説明し終えた一夜が顔をあげると、説明を聞いていた七湖都・さかな(中学生エクソシスト・dn0116)が、ぽつりとつぶやいた。
    「わたしみたいな、『ぼっち』は、参加できない……の?」
     蚊の鳴くような声であった。
     一夜はおもわず目頭を押さえかけたが、
    「いや。諦めるのは早いぞ、七湖都! ペア競技だからといって、パートナーのあてのない者が、参加を見送る必要はない」
     特に相手が決まっていない場合は、単独エントリーするのも手だ。
     当日、同じ組連合から単身参加している者と、ペアを組むことができる。
     もしかしたら、競技を機会に新しい縁ができるかもしれない。
    「ルールも比較的わかりやすい。興味があるなら、ものおじせず参加してみると良いだろう」
     そう告げれば、教室内から次々に参加希望の声があがった。
     
    「優勝、狙うなら、MVP……」
     ぼっちなりに、組連合に貢献したいと意気ごんだ矢先、
    「ああ、七湖都は相手がいないんだったな。じゃあ、私と一緒に」
     カカカッとチョークを砕きながら、一夜がさかなの名を書き記したのは――、
     ――ゴールテープ係。
     一瞬の沈黙を置き。
     さかなは、こくりと頷いた。
    「……つまり。一夜も、ぼっち、おそろい」

     ともあれ、さかなにとっては学園に所属して初めての運動会。
     皆と一緒に、イベントに参加できるのが楽しみで。
    (「……ん。がんばる」)
     小走りに教室を回り、せっせと皆のエントリー用紙を集めて回った。


    ■リプレイ

    ●第1レース
    「ちょっぴり、きんちょうするよね」
     身を固くするさちこ(d09801)に、桃琴(d09437)は安心させるよう、笑顔を向ける。
    「大丈夫、れんしゅういっぱいしたもん!」
     緊張しているのはめいこ(d01110)も同じ。
     察したくるみ(d01697)が、すぐに声をかけた。
    「気負わなくても大丈夫よ。普通に走ってちょうだい」
    「うん、分かった。楽しく走るねっ」
     真琴(d11900)と潤子(d11987)も、お互いに声を掛けあう。
    「真琴ちゃん、がんばろうね!」
    「頑張りましょうー、潤子さん」

    「位置について」
     めいことくるみはお互いの腰に手を回し、体操服をつかんだ。
    (「くるみちゃんのペースに合わせるっ」)
    (「私とめーこちゃんが組んだら最強なのよ、絶対に負けなわ!」)
    「よーい、スタート!」
     銃声が高らかに響き、選手たちが一斉に飛びだす。
    「いくよ、ももちゃん!」
    「いち、にー、いち、にー!」
     声を出すごとに、勢いがついていき。
     スタートダッシュを成功させた藍蘭(d00645)と己言(d08024)は、軽快に走る。
    「スピードを上げますね。みこ、頑張れますか?」
    「藍蘭ちゃんと一緒に、頑張るの~♪」
     出だしの作戦を練ってきたのは、他ペアも同様。
     追うのは結月(d00535)&竜生(d03968)ペアだ。
    「いくよ、ゆき」
    「まかせて、竜生ちゃん!」
     手はお互いの腰に添え、密着。
     掛け声二拍に、呼吸ひとつ。
     仕事をぬって練習してきた成果もあり、二人の集中力は高い。
    「ひとつになれるみたいで、楽しいね」
    「そうさ、僕達二人で一人。以心伝心ペアって所かな」
    「MVP目指して頑張ろう!」
    「はい、頑張りましょう」
     気勢をあげ、登(d13258)は清美(d15451)を脇にかかえて走りはじめる。
     最初こそ順調に進んでいたが、
    「秋山さん首! 首が絞まって……ぐぇ!」
     清美が襟首を掴み、段々と首が締まっていって――。
     一方、コース中盤で転倒しかけた真琴と潤子は、
    「「せーの!」」
     立ちあがり、怒涛の追いあげをみせる。
    「ゴール見えた!」
     己言の声に前方を見据えるものの、後方からは他ペアの足音も迫っている。
    「最後まで、頑張りましょう!」
     藍蘭は己言とともに、残る力を振り絞った。

    「さちちゃん、がんばったねっ♪」
     ゴールラインを越え、さちこと桃琴は両手を繋いで喜びを分かちあう。
    「ありがとう潤子ちゃん。お疲れさまー」
     真琴と潤子も、向かいあってハイタッチ!
     一緒に走り抜いたことを、称えあった。
    「竹尾君。私、重かったですか?」
     答える声はなく。
     ゴール直後に気絶した登は、救護テントに運ばれていった。
     この勝負、清美の一本勝ち。

    ●第2レース
    「随分とカップルが多いな」
     つぶやく小誇愛に、夏樹が視線を向ける。
     小誇愛(d12720)と夏樹(d12910)の身長差は20cm。
     1・2のテンポで、歩幅を確認。
    「組連合が同じで良かったよね……」
     アシュ(d01681)は位置につき、今更ながら思う。
    「つき合わせてゴメンね! 後でナンか奢るからサ!」
     朱那(d03561)の誘いとはいえ、MVPは目指したい。
     律(d00737)と檀(d06897)は並びながら、言葉を交わす。
    「この際成績は気にしないっす。それより、楽しんだ方が良いじゃないっすか」
    「スタートダッシュ、頑張りましょう」
     檀が、頷いた。
     練習通り腰に手をまわした千尋(d02304)を、レオ(d06122)はくすぐり返した。
    「なんだよっ。練習どおりだろ!」
     緊張をほぐしたのだと笑い、千尋の肩を抱き寄せる。
    「一緒にがんばろうな」
     幼馴染の藤乃(d03430)と希沙(d03465)は、ダッシュを重点的に調整してきた。
     足を痛めないよう、サポーターも用意。
     入念に結びつけた足を示し、
    「足が1本になったみたい」
     と笑う。
     三つ子の花音(d02469)と真雪(d02913)は、いつも以上に共に過ごし、練習を重ねた。
    「真雪ちゃんが私で、私が真雪ちゃん」
    「私は花音ちゃん、花音ちゃんは私……」
     弟の協力もあり、フォームのチェックもばっちりだ。
    「生まれる前から一緒のコンビネーション、みんなにみせてあげようね♪」
     スターターの声に、夏樹は小誇愛に手を添えた。
    (「彼女を蔑ろにしての勝ちなんて、ありえない」)
     今、この瞬間、心を重ねて。
     ゴールの先で、ともに『なにか』を得るために――。
    「よーい、スタート!」
     銃声が響く。
     2人は、一斉に飛びだした。

     アシュと朱那は、オーソドックスに掛け声をかけて走る。
    「シューナ。慣れてきたから、2倍速に変えてもいいよ」
    「なぬ、2倍速とな!」
     次の一歩で、強く大地を踏みしめて。
     菜々(d12340)は恋人・式(d13169)とともに走る。
    (「よく考えてみたらかなり密着してて、いきなりレベル高くないっすか!?」)
     見あげれば、式も同じようなことを考えていたらしい。
    「うぅ~。やっぱり、恥ずかしいな」
     微笑みあって、ともに在る幸せを想った。
    「「ウノ、ドス、ウノ、ドゥーエ!」」
     千尋とレオは、特別な掛け声をテンポよく繰りかえす。
    「二人で、ずっと走っていたいよ」
     風をきって走る。
     それだけのことが、2人ならこんなにも楽しい。

     ゴールするなり、希沙は藤乃に抱きついた。
    「楽しかった! 勝っても負けても、きさにとってはふじが星!」
    「私にとっても、希沙ちゃんが一番」
     完走後、律は檀に向かい、手を差しだす。
    「一緒に参加してくれてありがとっす、ダン君」
    「こちらこそ。お誘い、嬉しかったです」
     人と何かをすることに苦手意識があった。
     だが今は、違う。
     檀はそっと、手を握りかえした。

    ●第3レース
     『僕と澪の(以下略)作戦』を実行しようとした虎鉄(d00703)は、
    「こてちゅ~! そないな事せーへんでも、競技中にウチらのらぶぱわーを出せばエエだけや♪」
     澪(d05738)になだめられ、うなだれる。
    「二人の呼吸を合わせ、同じ一歩を踏み出す……」
     幸せオーラを噛みしめ、蓮璽(d00687)と余市(d05135)も位置についた。
     隣で闘志を燃やすのは友梨(d00883)と静流(d03096)。
    「全力でいかせてもらいます」
    「尋常に勝負だ、赤青コンビ!」
     鋼(d03424)と鷹秋(d03794)の恋人たちも、
    「二人の愛の力なら、やれる」
    「おう、愛は偉大ってヤツだな」
     力強く微笑み交わし、MVPを狙う。

     競技開始の合図とともに、カップルたちは一斉に猛ダッシュ!
    「最初から全力全開でいくよー!」
    「わんこ夫婦と呼ばれた俺達の足の速さ、見せてやろう!」
     殊亜(d01358)と紫(d01774)は、小細工無しの全力疾走。
     日ごろから足を縛るという練習を積んできただけに、2人の自信は強固だ。
     智優利(d17615)と蘭丸(d17616)は、立位置や掛け声に対し、動かす足も決めてきた。
     智優利がゴールを見据え、蘭丸は2人の足元を確認しながら、慎重に駆ける。
    「「うーにゃー!」」
     続く澪と虎鉄の掛け声が重なる。
     一歩ごとに揺れる澪の胸に魅了され、男子生徒たちが次々と転倒!
     余市は蓮璽の手に指を重ね、蓮璽の横顔を盗み見た。
     気づいた蓮璽が余市の手をとり、ぴったりと身を寄せる。
     溶けあう体温が心地よく、思わず微笑みがこぼれた。
    「らー」「めん!」
    「らー」「めん!」
     こちらは、友梨と静流の掛け声。
     対蓮璽用に考案したが、当の2人はすっかりデートモード。
    「だめだ、まるで聞こえていない!」
     次の瞬間、転倒した選手と衝突。
     同じく巻きぞえで転びそうになった鋼は、間一髪、鷹秋が抱きとめた。
    「鷹秋、いこう」
    「ああ。追いあげるぜ」
     同じく、ピョンピョン跳ねて疾走していた紫も難を逃れた。
     殊亜が浮いた紫を抱き寄せ、軌道修正。
    「あぶなかったー!」
    (「猫っぽくて可愛いなぁ……」)
     他の選手の存在はどこへやら。
    「ゴールが近くなってきた……」
    「ちょっと名残惜しいけど。行きますよ、余市さん!」
     蓮璽と余市は最後まで『マイペースにラブラブ』を実行し、走りきった。
     智優利は胸をはり、わずかでも自分たちが優勢になるよう狙う。
    「やったー、ゴール!」
     智優利の下敷きになりながら、蘭丸は苦笑い。
     労わるように、声をかけた。
    「智優利、おつかれさま」

    ●第4レース
    「カップル率、高過ぎだろう」
     ぼやく討真(d03253)の傍らで、御凛(d03917)は試合前のストレッチ。
    (「こ、こんなに近いのは恥ずかしい」)
     平静を装うのがやっとだ。
    「霧ちゃん、体操服くらいは女子用を着ようよ」
    「僕は、神流がそれを着てるほうが不思議だが」
     神流(d15240)と霧(d15406)は、お互いの体操着姿に眉根を寄せる。
     ともあれ、何を着るかは生徒の自由。
     神流は霧を抱き寄せ、彼女が女の子である事実を思う。
    「神流となら、1位を取るのも造作ないだろう」
     神流は頬が染まるのを気取られぬよう、頷いた。
     イタチ(d15553)の足元にしゃがみこみ、晴実(d15638)は赤い紐で二人の足を結ぶ。
    「愛も簡単にほどけなくてイイんだけどなー……」
    「えっ、晴実ちゃん今何て~?」
     小夜子(d01974)はスタート前に、しいな(d03029)に声をかける。
    「気合入れていこうぜー、しいなっ」
     狙うは1位。
     そのために、特訓も行ってきた。
    「……泊まりがけで遊んでみたかったのが本音なのは、秘密で!」
     練習後のパジャマパーティーも、良い記念だ。
    「小夜ちゃん、頼りにしているよ」
     前だけを見てるからと、しいなは呼吸を整えた。

    「力を出し尽くせば、必ず勝てる」
     討真の声。
     銃声と同時に、御凛の思考が切り替わる。
     ――本気で勝ちを狙いに行く!
     おそろいのリボン&ポニーテールを揺らして走るのは、蘭世(d02277)と紫信(d10845)。
     歩調が乱れそうになった時は、紫信が抱き寄せてフォロー。
    「大丈夫ですよ。僕と一緒ですから」
     蘭世はゴールを見据え、再び前を目指す。
     津比呂(d02278)と閾(d14530)は、一週間前から特訓を行ってきた。
     今日ばかりは『おいしいハプニング』を期待するわけにはいかない。
    「いっくぞ、閾!」
    「は、はひー! 津比呂さんの愛をぱぅわーに、いーち!」
     走りだした後も、晴実とイタチはお互いが気になって。
    (「男の子って、腕とか足とか大きいよねー」)
    (「密着したらドキドキしてまうね」)
     あっ、と思った時には遅い。
     晴実の下敷きになったイタチは、割と幸せそうに見えた。

     ゴール後、蘭世は紫信に向き直り、頭をさげる。
    「ご一緒、ありがとうなのです」
    「一緒に走ることができて、楽しかったですね♪」
     盛大に歓声をあげ、閾は津比呂に抱きついた。
     ――抱き合うなら、今でしょ!
    「よっしゃああ!」
     色々な感動を胸に、津比呂はガッツポーズ。
     御凛も喜びの勢いに任せ、討真に抱きついた。
     御凛が我に返るまで、あと数秒。

    ●第5レース
     泰河(d03676)と華琳(d03934)は、歌とダンスの練習を重ねてきた。
     相手の癖や動き、立ち方を知るためで、お互いの動きは研究済みだ。
    「他がどう動くかは、気にしなくていい」
    「わかった。息を合わるよう、心を重ねて、だな」
     思い描くのは、ゴールテープの先へ走り抜けるイメージ。
     るりか(d02990)と峻(d08229)は、放課後に練習を重ねてきた。
     特訓してはパンを買い。
     特訓してはコロッケを買い。
     すべて、るりかの胃袋に消えていった。
    「だが(俺の財布も)頑張ったからには、良い結果を出すぞ!」
     で、賭けの報酬は何が良いかと問えば、
    「高級おにくがいい」
     るりかの会心の一撃!
     その後も掛け声が「2、9、2、9」になるなど、攻撃は間断なく続いた。

     貫(d01100)は柚羽(d02349)と並んで、初めてその体格差を意識する。
     が、気遣うのは逆に失礼。
    「全力で走るぞ。ついて来い狸森!」
    「応とも任せろ! 飛ばせトール!」
     結弦(d01731)の誘いに応じたのは、ギルドール(d10454)。
    「これも一期一会だね。どうぞ宜しく結弦」
     作戦は、逃げ切り勝負。
     ギルドールが結弦をリードし、結弦は常に3m先を見据える。
     レニー(d01856)とシャルロッテ(d05090)の出足は快調。
     しかしゴール目前でシャルロッテが転倒。
     とっさにレニーが倒れこみ、かばった。
    「だ、大丈夫デスカ!?」
    「君こそ、怪我はないかい?」
     アクシデントは続くもの。
     転びかけた柚羽を、貫が抱きかかえる。
    「即復帰だ!」
    「ああ。転倒ぐらいで俺達が止まりますかって」
    (「……ありがとう」)
     柚羽は胸中で小さく、つぶやいた。
     身長差60cmをものともせず、亮(d01847)&悠祈(d13883)ペアも走る。
     亮の目標は、『きちんとゴールすること』。
    「いっちにーで、動くよー」
    「りょーちゃんとゆーきはらぶらぶだから、息ぴったりなのー♪」
     MVPも、一等賞も望まない。
     悠祈は大きく足を踏みだし、亮を見あげる。
    (「並んでちょうどいい大きさに、早く育ちたいの……」)

     完走後、シャルロッテはレニーが傷を負っていることに気づいた。
    「ごめんなさい、怪我しちゃってマスネ」
    「平気だよ。すぐに治るさ」
     それでも手当をど道具を取りに走る背に向かい、レニーは「ありがとう」とつぶやく。
    「先輩、どうもありがとうございました」
    「こちらこそ、楽しかったよ」
     お互いの健闘を称えあい、結弦とギルドールは拳をコツンと打ちつけた。

    ●第6レース
     惡人(d00898)と撫子(d01168)は、競技前に練習を行う。
    「私が左足、惡人君は右足からスタートです。後、セクハラは禁止です」
    「ぁ? 芸人的なフリ?」
     冗談を言い交しながら、タイミングを確かめる。
     シェリー(d02452)と七狼(d06019)の作戦は、七狼がシェリーに合わせて走るというもの。
    「走りにくくない?」
    「気にしないで、シェリー。俺が君に合わせたいンだ」
    「……ありがとう」
     気遣って貰えるのが嬉しく、シェリーはそっと目を伏せた。
    「連合違うなら、出る意味ないよねぇ?」
     首を傾げ位置につくのは、理一(d00213)。
    「普段運動しねえんだ。たまには男らしいとこ見せてみろ」
     と、嘉市(d03146)は、にべもない。
     翡桜(d15645)はアリアーン(d12111)を意識し、緊張しまくっていた。
    「よ、よろしくお願いします、アリアさん」
    「そんなに緊張されると、僕も緊張してくるんだけれど……」
     楽しんで行こうと、静かに励ます。
     レンリ(d14778)と紅楼(d15404)は、スタート直前にアイコンタクトを交わす。
    (「行きますよ……紅楼」)
    (「おー、俺たちの音の絆を見せつけてやろう」)
     頷き、歌唱開始!
     この日の為に作った曲は、リズムもテンポも、二人の感覚に調整済みだ。

     香澄(d00028)とミハイル(d00534)は、不安を胸に位置についた。
    「悪い。どうしても緊張するんだ……」
    「私も緊張しちゃってたのかも」
     励ますように笑う香澄だが、彼女自身も緊張しつつある。
    「よーい、スタート!」
     銃声に驚き、足を出すタイミングがわずかにズレた。
    「きゃあっ!」
    「うわっ!」
     ミハイルはなんとか香澄を抱き留め、一安心。
    「おい! いきなり合ってねえじゃねえか!」
     一歩目から出す足を間違えた理一に、嘉市の叱責が飛ぶ。
     なんとか踏みとどまり、スピードをあげはじめた。
    「ちょっ、待っ、早っ!?」
    「おら、全力で走れ!」
     惡人と撫子は肩を組み、ぴったりと密着。
    「おめーは気にせず行きゃいーぜ。俺が完璧に合わせるからよ」
    「では。せ~の!」
     2人の歩調に合わせ、結った撫子の髪がトントンと跳ねる。

     ゴールへ駆けこむなり、紅楼はレンリに抱きついた。
     こどものように喜ぶパートナーの姿に、レンリも表情をゆるめ、微笑む。
     同着のシェリーも七狼に飛びついた。
    「やったね、七狼!」
     七狼は銀の髪を撫でる。
    「君とともに走れて……良かった」
    「おつかれさまです」
     声をかける翡桜の耳元に、アリアーンはそっと唇を寄せる。
     ただひとり、翡桜だけに聞こえるように、ささやいた。
     ――君が、特別に好きだ。

    ●第7レース
     単身参加の紅鳥(d14388)は、この日初めて出会った同じ組連合の男子生徒と握手を交わしていた。
    「練習はマネキンと十キロ走りこんだから大丈夫! ……なはず」
     事前練習をする時間はない。
     歩幅を合わせ、掛け声を出し合おうと、手順を確認するだけの一発勝負。
     それが逆に、少年たちの勝負魂を燃やした。
    「衛さんが一緒なら心強いわ。今日は頑張りましょうね」
     夢乃(d06943)に声をかけられ、衛(d02693)は頷く。
    (「ルーの初めての運動会だし、楽しめるよう頑張るわ」)
     草灯(d00483)はアスル(d14841)を想い、胸中で決意を新たにする。
    「そび、一番。がんばろ、ね」
    「そうね、一番とれるといいわね」
     そっとアスルの手を握り、微笑む。
    「運動会だ? めんどくせぇ」
     ぼやいた矢先、レン(d17708)はアイラ(d17683)を見つけ、声をかけた。
     聞けば、二人三脚の相手が見つからないという。
    「一緒に出てやるから、そんな顔すんじゃねぇよ」
    (「レン先輩が誘ってくれた……め、迷惑かけないように頑張らないと」)
     とはいえ、今からでは大した練習はできない。
     レンは、とにかくしがみついているよう伝え、位置についた。
     龍也(d01065)と嵐(d12445)は手順を確認し、勝利を胸に意気ごむ。
    「やるからには全力で勝ちにいくぜ!」
    「目指せMVP! だけど、とりあえず完走を目指そう」
     とはいえ、実はぶっつけ本番。
     2人の歩幅が違うことが気になる。
    (「焦らなければ大丈夫だろう。平常心、平常心。……で、いられるかなぁ?」)
     なるようになれと、龍也はスタート位置に立つ。
     快調に進んでいた夢乃と衛だったが、ふいに歩調を乱し、転倒。
     すかさず衛が葵璃をかばった。
    「アブねぇ夢乃! ……っと、怪我、なかったか?」
    「わ、私は大丈夫よ!?」
     触れる身体や近づく顔に、夢乃は真っ赤になって無事を告げた。
    「そび! ゴール!」
    「ルーすごいわ! やったわねー!」
     完走し、足を結んだまま飛び跳ねようとするアスルを、草灯は転びそうになる前に抱き留める。

     慧樹(d04132)はやっと姿を現した羽衣(d03814)の顔を見て、心底ほっとした。
    「サボらなかったな!」
    「ん、がんばって来たよ!」
    「優秀、優秀!」
     ぎこちない、けれど一生懸命な微笑み。
     慧樹はいくつもの言葉をのみこみ、告げる。
    「MVP、絶対取るぞ」
    「うん」
     羽衣の表情が引き締まる。
    「がんばる」
     そのために、エントリーしたのだ。
    「羽衣、いいな。ドン!で、真ん中の繋がってる足から、前へ」
     慧樹は手短に、それだけを告げる。
     羽衣ももう、なにも言わない。
    (「いつものペースは、スミケイが守ってくれる。だから、大丈夫」)
     走り出した後は、掛け声さえなく。
     それでも、2人の歩調は完璧だった。

     完走後。
     羽衣は今にも泣きそうな顔で、それでも笑顔を浮かべ、告げる。
     ――慧樹は、いちばん最初に友達になってくれた。
     ――当然のことのように、笑って友達になってくれた。
    「ういは、それがすごくうれしかったの」
     慧樹は笑って、頷いた。
     言葉にするまでもない。
     部活が一緒で。
     席も隣同士。
     お互いが、お互いにとって。
     この学校で、一番、大事な――。

     全員の完走を確認し、ゴールラインに立つ一夜が終了を告げる銃声を響かせる。
     灼滅者たちの『日常』。
     その姿をまぶたに焼きつけ、さかなはまぶしそうに目を細めた。

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年5月26日
    難度:簡単
    参加:86人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 8
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