虹の橋を渡って

    ●ゲルマンシャークからの電波
    「――かしこまりました、ゲルマンシャーク様!」
     ご当地怪人・宮ヶ瀬レーゲンボーゲンは、謎の指令電波を受け止めながら、西の空を恍惚と見上げた。視界をででーんと阻んでいる丹沢山系の向こうには、ゲルマンシャークが消息を絶った富士山麓がある。
    「至急宮ヶ瀬湖の探索に入らせていただきます! ……さあ、手下共、行くぞ!」
     レーゲンボーゲンは手下を促し、湖に向かって駆けだした。
     
    ●貸しボート乗り場へ
    「どけどけどけー!」
     レーゲンボーゲンと手下たちがやってきたのは、宮ヶ瀬湖畔公園の、貸しボート乗り場であった。
    「そのボート、わしらによこせ!」
    「わあっ、何をするんだ!」
     レーゲンボーゲンは、今にもボートに乗り込もうとしていた2人連れの釣り客を押しのけた。
    「あんたたち! 貸しボートは予約制だよ!!」
     ボートの艫綱を解こうとしていたボート屋の主人が慌てて駆け寄る。
    「うるさいっ、任務の邪魔をするな!」
    「わあっ!」
     どぼーん。
     主人は湖に突き落とされてしまった。
     レーゲンボーゲンは手下のひとりと共に、早速ボートに乗り込む。
    「レーゲンボーゲン様、手こぎボートは出払ってしまっているようですが、我々はいかがいたしましょう」
     暴れる釣り客を押さえている残り2人の手下が訊く。
    「白鳥ボートでも何でもいいから、舟を確保次第貴様らも追いかけてくるのだ」
    「はっ、かしこまりました」
     レーゲンボーゲンは早速湖に漕ぎ出していき、残された手下はカップルが乗った足こぎ白鳥ボートに目をつける……。
     
    ●武蔵坂学園
    「神奈川県の丹沢山系の東側に、宮ヶ瀬湖っていうダム湖がありまして」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)が、手鏡を懐にしまいながら語り出した。
    「風光明媚で、釣りやハイキングができて、広い公園もあって、季節ごとに様々なイベントを開いたりもしていて、色々がんばってるんですが、富士五湖はもちろん、神奈川の他の湖に比べてもどうしてもマイナーで」
     確かに、芦ノ湖や相模湖、丹沢湖ほど名前を聞いたことはない。
    「その悲しさから生まれたご当地怪人がおりまして」
     その名を“宮ヶ瀬レーゲンボーゲン”という。ちなみに湖にかかる“虹の大橋”からとった名前である。
    「そのレーゲンボーゲンの情報を感知しました」
     典は事件の具体的な説明に入る。
    「ヤツは公園の貸しボート乗り場に現れ、釣り客や観光客のボートを奪います。その際にボート屋のご主人や客を湖に突き落としたりもするようです」
     湖の怪人のくせに、ボートを奪わないと湖に出られないとは、なかなか情けない。
    「湖上での戦いになるとやっかいですから、ヤツらがボートに乗る前に阻止したいところです。皆さんはボート乗り場の近くに隠れておいて、ヤツらがやってきて、お客さんにちょっかいを出そうとするタイミングで、ちょっと待ったー! みたいな感じで介入してください」
     典はそこで指を3本出した。
    「手下は3名、強化一般人です」
     怪人と手下はどんな姿をしているのか? と灼滅者のひとりが訊いた。
    「レーゲンボーゲンは湖色のキラキラした全身タイツに虹色のマント、手下は虹色の全身タイツです。ブーツとベルトは白」
     ――それは、なかなか恥ずかしい。
     ところで――と、典は手入れの行き届いた眉を曇らせ。
    「レーゲンボーゲンは、何のためにボートを奪うかというと、湖で捜し物をするためらしいんですよ。その捜し物というのがどうやら……」
     レーゲンボーゲンと手下たちは『ゲルマンシャーク様はいずこー!?』と叫びながら、湖で捜し物をするというのである。
    「しかも、同じように湖のご当地怪人が活動しだす事件が、全国各地で同時多発してるんです」
     ゲルマンシャークの石像は第二回ご当地怪人選手権で、飛行船から落ちたのではなかったか?
    「だから、ヤツらはその石像を捜してるんじゃないでしょうか?」
     すると、事件の起きる湖のいずこかにゲルマンシャークの石像が沈んでいるかもしれないのか!?
    「いえ、それはわかりませんが」
     典は首を振り。
    「とにかく宮ヶ瀬湖の平和を守るため、よろしくお願いします。あ、そうそう、綺麗な所ですから首尾よく任務を終えたら、ちょっと遊んでくるのもいいかもしれませんよ?」


    参加者
    芹澤・朱祢(白狐・d01004)
    鉄・獅子(ガンメタリックライオンハート・d01244)
    御幸・大輔(イデアルクエント・d01452)
    赤威・緋世子(赤の拳・d03316)
    長門・睦月(正義執行者・d03928)
    高峰・紫姫(守り抜くための盾・d09272)
    琴葉・いろは(とかなくて・d11000)
    祁答院・蓮司(追悼にして追答の・d12812)

    ■リプレイ

    ●宮ヶ瀬湖
     湖畔のベンチに座った御幸・大輔(イデアルクエント・d01452)が呟く。
    「綺麗な湖だね。ここは初めてだ」
    「うん、綺麗だ」
     隣にいる祁答院・蓮司(追悼にして追答の・d12812)が、ギターをつま弾きながら頷く。
     長門・睦月(正義執行者・d03928)は、その背後に立ち、やはり湖を眺めて。
    「でも、ここに例のアレが沈んでるかもしれないんですよね?」
     3人は湖畔にのんびりしにやってきた友達同士という感じで、観光客に違和感なく溶け込んでいたのだが。
    「ぶっそうなブツが沈んでるとは思えないのどかさだよな……むっ?」
     ギターから顔を上げた蓮司の視線の方向に、ふたりも鋭い視線を向ける。

    「……来たようですね」
     貸しボート屋の陰に隠れている高峰・紫姫(守り抜くための盾・d09272)たちも、観光客ぶりっこの男子3人と同じものに気づいていた。
     赤威・緋世子(赤の拳・d03316)も建物の陰から顔を出して、こちらに向けて走ってくる一団を覗く。
    「うお、なんて派手な連中なんだ!……へへ、それじゃ今からショーを開演だな!」
    「わかりやすっ。全身タイツなんて、いかにも悪役って格好じゃん……虹色なのは、なんかこう、うん、さておき」
     芹澤・朱祢(白狐・d01004)が微妙な感じで呟く。
    「レーゲンボーゲンには、その名の通りに橋を渡っていただきましょう。三途の川に架かる橋ですけれど……!」
     ぶっそうな台詞をあくまで笑顔で言うと、琴葉・いろは(とかなくて・d11000)はESPを発動してショーに備える。
     件の一団はいよいよボート乗り場に迫っている。居合わせたボート屋の主人と客は、その唐突さと派手さに呆然と立ちすくんでいるようだ。
     4人は頷き交わすと、ボート屋の陰から一斉に飛び出した。

    ●湖畔の戦い
     他のメンバーもほぼ同時にボート乗り場に駆けつけていた。ヒーローショーの撮影ということにして、一般人を遠ざける作戦である。
    「待てっ、怪人ども!」
     ライドキャリバーのハナちゃんに騎乗して茂みから飛び出し、怪人と一般人の間にいち早く割り込んだのは鉄・獅子(ガンメタリックライオンハート・d01244)。早めに現地入りし、ガイアチャージをしたので元気いっぱいでノリノリだ。
    「なんだ貴様は!」
     突然の介入に、水色全身タイツと虹色マントの全体的にキラキラした大男が立ち止まる。これがご当地怪人・宮ヶ瀬レーゲンボーゲンであろう。彼の前に、虹色全身タイツの手下が3名、守るように出てくる。
    「お前たち、力なき一般人を巻き込むのかッ! その行い……許さんッ!」
    「我々はゲルマンシャーク様の指令を果たさねばならぬのだ! そこをどけ!!」
    「この先には行かせません。その企み潰させて貰う!『豪毅』瞬着!!」
     睦月も鎧を装着して怪人と対峙する。
     大輔も紅玉をくるくる回しながら、
    「ええと……乱暴は許さないぞ!」
     昔見たヒーローものの台詞を思い出しつつ啖呵を切る。
    「ぬぬう、貴様ら、我々の邪魔をする気か!?」

     ヒーロー×悪役っぽい場面が展開されている間に、他のメンバーはESPを使って一般人の避難誘導にあたっていた。
    「おっと、ボート屋のご主人さん、今からヒーローショーの撮影をやるんだが、少し派手なアクションあって危ないからあまり近づかないように言っておくぜー」
     緋世子は、ボート屋の主人担当、プラチナチケットで撮影スタッフのふりである。
    「え、ヒーローショー? そんなの聞いてないよ?」
    「あれえ、連絡不行き届きかなあ? まあまあ、すぐ終わるからさ」
     少々強引に手を引いて、ボート小屋から引き離す。
     いろはもプラチナチケットを使って、司会のお姉さんぽく大げさな動作でレーゲンボーゲンを指さし、
    「予約の列に割り込む悪辣なあなたは一体……!?」 
     何事かと集まってきた一般人たちの方に振り返り、
    「ヒーローは怪人には負けちゃダメよね! 危ないから、良い子のみんなは離れたところからヒーローの応援してねー!」
     笑顔でさりげなく遠ざける。
     紫姫は割り込みヴォイスを使い、誘導係よろしく呼びかける。アルバイト制服がそれっぽい。
    「撮影中は、物が飛び交ったりして危ないので離れてください。あー、そこのキミも早く離れてくださいね、終わってからならヒーローが握手してくれますから」
     蓮司は、野次馬丸出しで近づいてきたハイキング中らしき中年女性のグループに、
    「撮影中ですので、すみません」
     と、特撮物の撮影スタッフのような顔をし肩に手を上げ、カメラを担ぐ仕草をしてみせる。
    「あらそうなの、撮影じゃ邪魔しちゃ悪いわね、おほほほ」
     おばさんたちは日本人らしく空気を読んで下がってくれた。
     朱祢は怪人たちにボートを乗っ取られるはずだった釣り客のおじさんたちを説得している。
    「お願いだから、ちょっとだけ避難しててくれよ」
    「僕らはちゃんと予約してたんだ!」
    「ボートを出してくれよ!」
    「ううむ仕方ない……どうせなら女性に使いたかったぜっ」
     朱祢は不本意ながらラブフェロモンを使い、ごねる釣り人たちをめろめろにして待避させた。

     概ね一般人を遠ざけたところで、誘導係たちは、怪人とにらみ合っている3人に合流した。皆が揃ったのを確認し、獅子は殺界形成を発動する。これで更に一般人たちは、戦闘場所からじわじわと離れていってくれるだろう。
    「むむっ!?」
     勢揃いした灼滅者の人数に、怪人はひるむ。
    「へへへ、多勢に無勢。ヒーローショーらしいよなー」
     朱祢が悪そうな笑みを浮かべて挑発する。
    「宮ヶ瀬湖を荒らす悪者は、大人しく俺らに倒されろよ、ってな?」
    「何を生意気な!」
     レーゲンボーゲンは右手を突き上げる。顔までタイツで覆われているので表情はわかりにくいが、全身のキラキラが幾分増したようで、多分怒っている。
    「お前らごとき、何人いても撃ち破ってくれるわ! 手下共、行け、ゲルマンシャーク様の名の下に!!」
    「Ja Herr!」
     手下たちはドイツ語で応えて一斉にニジマスをどこからともなく取り出し、灼滅者たちも本格的な戦闘態勢に入る。
     獅子がハナちゃんに指示を飛ばし、
    「ハナちゃん、展開! 射撃体勢を取り、制圧射撃! 掛かって来いッ、怪人どもッ!」
     自身はレーゲンボーゲンにブレイジングバーストを撃ち込む。
    「ゲルマンシャークは見つけさせない。お前たちの好きにはさせない!」
     大輔は槍を構えて、50センチもありそうな大きなニジマスを投げようとしている手下のひとりに突っ込んでいく。
    「ぎゃああ!」
     3人の手下のうちのひとりは大輔の勢いにニジマスを取り落としたが、2尾はくるくるきらきら回りながら飛んでいき、朱祢と紫姫の顔をぴしゃっと直撃した。ダメージはさほどでもないが、
    「地味に生ぐせぇ……! 焼き魚にしてやろーか!」
    「……食べ物を粗末にしてはいけません」
     ふたりは青筋を立てた怖い笑顔で、手下に向けてレーヴァティンと旋風輪を放つ。
    「派手に吹き飛べー!」
     緋世子が抗雷撃で続き、いろはは神薙刃を放ち、睦月はご当地キックを蹴り込んで。
    「それにしても、低予算の特撮物に出て来そうですね、アレ。すごい残念感」
    「うん……目が痛くなるね。話には聞いていたけど」
     大輔も残念なものを見るようなまなざしを敵に向ける。
     後方では、いかにも悪者出現シーン風な低音のリフでBGMをつけていた蓮司がすかさずリバイブメロディに切り替えて、朱祢と紫姫を回復する。
     灼滅者たちによる手下たちへの集中攻撃で、たちまち立っているのはレーゲンボーゲンだけになった。
    「うぬぬぬ……」
     レーゲンボーゲンは、倒れ伏してピクピク痙攣し、あるいは湖に放り込まれた手下たちを見回すと、顔は見えないが雰囲気的に青筋を立てて、
    「許さん! これをくらえ、バレンタインイルミネーションビーム!」
     と、長い名前のご当地ビームを撃った。ちなみに、宮ヶ瀬湖ではバレンタインの時期に大規模なイルミネーションをやっているのだ。
    「うっ!?」
     ビームはBGM係……もとい回復役の蓮司を狙ったが、
    「やらせるか!……うぐっ」
     朱祢が体を入れて遮った。
    「おい、宮ヶ瀬湖のマイナーさゆえの悲しみから生まれた怪人め……だが、それを元にした負のエネルギーなど、間違っている!」
     倒れた朱祢の前に、回復の時間を稼ごうと獅子が進み出て語り出す。
    「悲しいのなら這い上がれ。カーナビの画面で落花生しか映らない千葉県のように!」
     獅子の台詞を聞いて、ふっ、とレーゲンボーゲンは鼻で笑った。顔面までタイツでもそのくらいはわかるのである。
    「なんだ、千葉か」
    「くうっ、千葉で悪いか! 宮ヶ瀬湖なんか歴史も浅くて、パソコンで一発変換も出来ないじゃないかっ。少なくとも私のはできなかった……お返しだ、宮ヶ瀬ダムスプラッシュカノンッ!」
     コンプレックスを刺激された獅子から、ダムの放水を思わせる大瀑布が流れ出て、ビームとなって敵を襲った。
     ちなみに、宮ヶ瀬ダムでは観光放水が人気である。
    「があっ!」
     大瀑布はレーゲンボーゲンを押し倒す。
    「今だ! 燃え上がれ!」
     体勢の崩れたレーゲンボーゲンに、緋世子がすかさず飛びかかってレーヴァティンを見舞う。続いて大輔が槍を地面に刺し、その反動を利用して大きく跳び、持ち替えた蒼玉でフォースブレイクを叩き込む。
    「悪いけど、お前がいるといろいろ困るんだ」
    「ぬぬぬ……負けぬぞ!」
    「うわあああっ!」
     攻撃を受けつつも、レーゲンボーゲンは踏み込んできていた睦月をむんずと掴み、
    「ジャンボクリスマスツリーダイナミック!」
     ざっばーん。
     高々と持ち上げた後、湖に投げ込んだ。
     ちなみに宮ヶ瀬湖には大きなもみの木があり、毎年クリスマスには美しく彩られ、ジャンボクリスマスツリーとして親しまれている。
    「今助ける!」
     蓮司がきゅいーん、といかにもヒーローの危機っぽいグリッサンドを響かせ、桟橋から睦月に手をさしのべる。
     紫姫がレーゲンボーゲンに槍を突きつけながら、
    「あなた、観光客に乱暴するなんて、ご当地よりゲルマンシャークが大切なのですか? それとも自分のご当地に落ちていて欲しいわけですか?」
    「ふふふ、ゲルマンシャーク様が復活された暁には、この宮ヶ瀬湖もぐっとメジャーになるのだから、少しくらいのダメージなど構いはしない。それこそ相模湖や芦ノ湖、富士五湖も及ばないくらいに栄えるのだからな!」
     うっとりと湖を振り返ったレーゲンボーゲンに、
    「あら、宮ケ瀬湖の水深が何mかご存知? いくら湖とは言え、飛行船から落ちたのなら、今頃は粉々なのでは?」
     いろはが少々意地悪く言い放ちながらオーラキャノンを撃ち込み、紫姫が螺旋槍で続く。
    「ぐわあっ……お、おのれ……つつじまつりキーック!」
     レーゲンボーゲンの跳び蹴りが緋世子を襲う。
    「わああっ!」
     緋世子の小さな体が吹き飛んで、スカートがめくれ上がった。しかしスパッツを履いているから大丈夫。
     ちなみに、宮ヶ瀬湖畔の公園では毎春つつじまつりが(略)。
    「大丈夫か!?」
     睦月に回復を施していた蓮司が振り返るが、緋世子はパッと起き上がり、
    「俺は大丈夫だ! おい、みんな、コイツ大分弱ってるぜ!!」
     レーゲンボーゲンを指さした。確かに肩で息をしているし、戦い始めほどキラキラしていない。
    「よし、一気に行くか――逃がしてやんねぇよ?」
     朱祢は悪い笑みを見せると、素早く敵の背後に回って黒死斬を放った。
    「ハナちゃん、突撃!」
     獅子はハナちゃんにキャリバー突撃を命じつつ、自らはガトリング連射を撃ち込む。
     紫姫は蓮司のギターに合わせディーヴァズメロディを響かせ、大輔は蒼玉にあらん限りのサイキックを込めて叩き込む。
    「散るがいい、覚悟!」
     回復なった睦月は地獄投げを見舞い、いろはは神薙刃で敵の全身を切り裂く。
    「く……おのれ……」
     ぼろぼろになった(しかしタイツの中身は見えない)レーゲンボーゲンはよろよろと立ち上がった、が、
    「いくぞっ!」
     回復を受けた緋世子が懐に飛び込んでいき、強烈な閃光百裂拳を叩き込んだ。
    「たあーっ!」
    「ぐわあっ……」
     後ろによろけたレーゲンボーゲンはそのままよろよろと後ずさりし。
    「げっ、げげげげ……げ、ゲルマンシャーク様ぁあっ」
     ざっばあああん。
     派手な水しぶきを上げて湖に落ちた。
     慌てて灼滅者たちが駆け寄って水面を覗くと、レーゲンボーゲンはゆっくりゆらゆらと湖に溶けこんでいくところであった。
     ご当地怪人・宮ヶ瀬レーゲンボーゲンの消滅を見届けた獅子が、立ち上がって呟いた。
    「宮ヶ瀬レーゲンボーゲン、虹の大橋……その果てのヴァルハラで安らかに眠れ……」
     最後までヒーローショー風でまとめたいらしい。

    ●捜索or観光?
    「……戦闘中にはとうとう現れませんでしたが、沈んでいるんですかね?」
     睦月が湖上を眺め回しながら心配そうに訊き、
    「どうかしら、富士山麓からは少々距離があるような気がしますけれど……」
     いろはが考えこみながら答える。
    「じゃあ、俺たちもボートを借りて、捜索という名の観光をしようか」
     蓮司が武器や装備をしまいながら皆を誘った。主に女子を、のつもりである。
    「乗る乗る!」
     緋世子がすぐにノッた。
    「こういうボートとか一度は乗ってみたいなーって憧れてたんだ! アヒルボートもはじめて見た……楽しそうっ」
     アヒルではなく、一応白鳥なのだが。
    「ふぅ……せっかくだし俺もボートにでも乗っていこうかな。ね、幸」
     大輔も安堵の息をつくと、肩の相棒のフェレットに話しかける。
    「一通り捜索したら、何かお土産でも買って帰りますかね、彼の供養の為にも……」
     獅子は、ご当地ヒーローとしてレーゲンボーゲンへの同情を禁じ得ないようだ。
    「じゃあまず、ボート屋のご主人を探さないとな」
     朱祢がきょろきょろと周囲を見回す。
    「ESPが切れたはずですから、ぼちぼち戻って来られるとは思いますけれど……」
     紫姫の言葉に、いろはがにっこりと微笑んで。
    「では、湖を眺めながら待っていましょう。ほら、こんなに綺麗ですよ」
     灼滅者たちは、平和を取り戻した宮ヶ瀬湖に柔らかな視線を向けた。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ