惨殺かくれんぼ

    作者:西東西


     ――夕暮れ以降に、かくれんぼをしてはいけないよ。
     ――夜かくれんぼをすると、『鬼』に連れていかれてしまうから。

     ある小学校の臨海学校。
     おとずれた宿は、築数百年という木造建ての古い旅館だった。
     歳月を経るごとに増改築をくりかえし、入り組んだ廊下や階段は、まるで迷路のよう。
     そして、深夜。
     消灯時刻をすぎ、好奇心旺盛な少年たちが集まった部屋では、ひそひそと囁きかわす声が聞こえる。
    「知ってるか。夜かくれんぼをすると、鬼がでるんだぜ」
    「まさか。この現代社会に、鬼なんているもんか」
    「あ、肝試し? やるやる!」
    「や、やめようよ~。先生に見つかったら、怒られちゃうよ~」
    「弱虫は布団かぶって泣いてろよ」
    「おれも行くぞ。面白そうだ!」
     勇んだ少年が5人、部屋を飛びだしていく。
     教師に見つかることを恐れた少年がひとり部屋に残り、蚊の鳴くような声で数を数えはじめた。
    「いーち。にーい。さーん……」

     闇に沈む旅館の其処此処を、えたいのしれぬ悪鬼が跳梁する。
     ひとりめのこどもは、長い渡り廊下の途中、背中を斬り裂かれ。
     ふたりめのこどもは、大階段のてっぺんから突き落とされた。
     さんにんめのこどもは、廊下の曲がり角に引きこまれ、手足を八つ裂きにされた。
     よにんめのこどもは、空き部屋で全身の血を抜かれ。
     ごにんめのこどもは、はらわたを引きずり出され、煮たった浴場に沈められた。
     ろくにんめのこどもは――。

    「もーいーかい」
     十を数えきり、少年は振りかえって隠れた少年たちの返事を待つ。
     だが、だれの声も聞こえてはこない。
    「もう~、みんなどこいったんだよ~」
     部屋を出て、長い廊下を見渡す。
     視線のさきに、ぼんやりと人影が見えた。
    「……だれ?」
     問いかけに答える声はなく。
     寸刻の後。
     廊下には、新たな死臭がたちこめていた。
     

    「ある旅館で、少年たちが次々に惨殺される」
     一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)が、険しい表情で説明をはじめる。
     事件が起こるのは、ある日の深夜。
     海近くに建つ、迷路のような旅館内。
     臨海学校でこの旅館に泊まっていた小学生6人が、肝試しついでに『かくれんぼ』をはじめたのがきっかけとなる。
    「ただの肝試しで終われば良かったが……。運の悪いことに、この旅館には、こどもを狙う『鬼』が出てしまう」
    「……鬼?」
     問いかける灼滅者の言葉に、一夜が改めて言いなおす。
    「ああ。まるで鬼のような姿の、眷属だ」
     
     『鬼』は殺した人間を亡者とし、従えている。
     特に強い敵ではないのですぐに駆逐できるが、数が多く、集団で現れるのがやっかいだ。
     こどもたちはまず亡者たちに捕まり、後からやってくる『鬼』に殺される。
    「『鬼』は1体。仁王像を思わせる姿に、恐ろしい形相。右手には大きな鉈。背には、血濡れの片車輪を背負い、遠近どちらの攻撃も仕掛けてくる」
     破壊力のある鉈の一撃は相手の体力を吸収し、車輪を用いての列攻撃は殺傷力が高い。
     さらには、あらゆる枷を払う呪いも扱うという。
     
    「また、かくれんぼを行う少年は全部で6人。ひとりは部屋にのこり、数を数えはじめる。そのうちに、5人のこどもたちが旅館内に散らばり、姿を隠していく」
     隠れたこどもたちは、ひとりになったところを、それぞれ亡者に襲われる。
     灼滅者が接触するタイミングは、ひとり部屋に残った少年が、数を数えはじめてから。
    「それ以前にこちらから仕掛けてしまえば『鬼』に気付かれ、最悪、出現の機会を逃してしまう」
     6人のこどもがかくれんぼを始めれば、『鬼』は必ず現れる。
    「迷路のような建物。その中を、散り散りに逃げるこどもたち……」
     少年たちを、どう救うか。
     亡者と鬼に対し、どう対策を練るか。
    「考えなければならないことは多いが……。すこしでも被害を留めることができるよう、力を貸してほしい」
     そう告げ、一夜は静かに頭をさげた。

     ――かくれんぼするもの、このゆびとーまれ。


    参加者
    羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)
    赫絲・赫絲(隠戀慕・d02147)
    神楽・希(シンクオブソード・d02373)
    鳴神・千代(星月夜・d05646)
    樹・由乃(草思草愛・d12219)
    ミスト・レインハート(闇夜の疾風・d15170)
    氷咲・六花(中学生ファイアブラッド・d18091)

    ■リプレイ

    ●零
     事件当日の、昼日中。
     灼滅者たちは先んじて旅館に向かい、下調べをはじめていた。
    「鬼のでる旅館ねぇ……。怪談にはちょいと早いが、なかなかホラーじゃないの」
     カマル・アッシュフォード(陽炎・d00506)はそうつぶやき、玄関口で館内見取り図を手にしていた。
     旅館は増改築を重ねたとあって、棟と棟とを継ぐように建てられている。
     2階を歩いていても、棟をまたげば3階になるなど、従業員でさえさんざ迷うのだという。
     下調べなしで踏みこんだなら、灼滅者たちとて、この迷宮に囚われていただろう。
     地図を手に、8人は推理する。
     予測に現れた場面は6つ。
     1、長い渡り廊下。
     2、大階段。
     3、廊下の曲がり角。
     4、空き部屋。
     5、浴場。
     そして。6、長い廊下。
    「大階段って、この階段のことかな?」
     鳴神・千代(星月夜・d05646)が、人の行き交う広間を見あげる。
     玄関に入り、客の目に真っ先に飛びこんでくる大階段。
     見取り図をみても、これ以上の大きさの階段はないようだ。
    「浴場は、ここのことだろう」
     神楽・希(シンクオブソード・d02373)が示した通り、浴場は大階段と対となる位置に、ひとつあるのみだ。
    「はいはーい! 渡り廊下はっけーん!」
     カマルの地図を横から覗きこんでいた氷咲・六花(中学生ファイアブラッド・d18091)が、威勢よく手を挙げる。
     棟と棟とを繋ぐ廊下はいくつかあったが、一定以上の距離があるものは、ひとつしかない。
    「『廊下の曲がり角』は、数えきれないくらいありますね。ここから、『鬼』の出現予測地点を絞りこまねばなりませんが――」
    「此処じゃアねェですか、ね」
     樹・由乃(草思草愛・d12219)の言葉をさえぎり、赫絲・赫絲(隠戀慕・d02147)が地図の一点を指した。
    「なにか、根拠があるのかい?」
     ミスト・レインハート(闇夜の疾風・d15170)の問いに、赫絲はかぶりを振る。
    「ただ、『鬼』も足を使って移動するってンなら、こう動くんじゃねェかな、と」
     長い渡り廊下は、東。
     大階段は北に位置し、浴場は南にあった。
     赫絲が示したのは、西。
     つまり大階段から浴場へ向かうまでに、西棟のいずれかの階段を移動すると読んだのだ。
     そこへ、受付へ空き部屋を確認しにいっていた羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)が戻ってきた。
     仲間たちの推測を聞き、異論はないと頷く。
     だが、すぐに表情を曇らせ、告げた。
    「『空き部屋』だけど……。今日は臨海学校の生徒たちが泊まってるからどこも満室で、『空室』はないんだって」

    ●壱・弐・参
     夜。
     人々が寝静まったころを見計らい、灼滅者たちは再び旅館を訪れていた。
     閉ざされていた旅館の鍵は、門限前に闇纏いと蛇変身で侵入した赫絲と希が内から開錠。
     残る仲間たちを手引きした。
     深夜の館内は明かりを必要最低限に落とし、従業員たちはどこかの室内で待機しているか、眠っているようだ。
     其処此処の闇は深く、しんと、静まりかえっている。
     『空き部屋』の場所はわからないままだが、臨海学校の生徒たちがいるのは東棟だという情報は入手した。
     8人は、『東→北→西→南→東』の順で鬼が移動すると推測。
     となれば、『空き部屋』はその経路上、西棟か南棟のどこかにあるはずだ。
    「じゃ、始めようか」
     真っ先にスレイヤーカードの封印を解除したカマルの言葉に、一同はそろって頷いた。

     ――東棟。
     ある一室から、5人のこどもが駆けていく。
     やがて部屋から数をかぞえる声が聞こえ。
     闇間に潜んでいた陽桜、カマル、赫絲が、担当する方角へ向かうこどもの背をひそやかに追う。
     一方、ひとりめのこどもの殺害現場となる渡り廊下付近では、六花とライドキャリバーが先回りし、サウンドシャッターを展開して待機していた。
    「夜中にかくれんぼって、楽しそうだよね。こんな状況でなけりゃあたしもやりたいし! ってか、混ぜろ!」
     こらえきれず地団太を踏んだ、その時だ。
    「う、うわぁあああ!」
     廊下の先で、悲鳴があがった。
     気付けば、目視できる位置にこどもの姿。
     ぼろぼろの衣をまとった痩身の亡者たちが床から次々と姿を現し、少年の足を掴もうとしている。
     すぐに六花がバイオレンスギターを唸らせ、ライドキャリバーとともに、一掃。
     取りこぼした敵をカマルが順に仕留める中、陽桜がこどもに駆け寄り、抱きしめた。
    「怖かった、ね。でももうちょっとだけ、一緒に頑張ろう」
     急がなければ、他のこどもたちの元にも、亡者が現れはじめているはずだ。

     ――北棟。
    「ぎゃああああ!!」
     大階段の天辺で待機していた千代と霊犬『千代菊』、希、ミストの元にも、こどもと、亡者が現れていた。
    「こどもを見捨てるなど、あってはならん」
     護符揃え『5 of Swords』を手にした希が、階段を埋めつくすようにうごめく亡者を列攻撃で一気に蹴散らす。
    「大丈夫。お姉さんたちが、絶対守ってあげるから」
     千代はすぐに千代菊を走らせ、恐怖に泣くこどもを励ました。
     自身はウロボロスブレイドを高速回転させ、近づく敵群を斬り刻む。
     ミストが無敵斬艦刀『孤狼斬月』を振りおろし、残る亡者を一気に制圧。
    「鬼が現れる様子は、ないみたいだね」
     3人はこどもを連れ、次の場所へと向かう。

     ――西棟。
     『廊下の曲がり角』を担当するのは、由乃と赫絲。
     こどもを尾行する赫絲がスマートフォンに送るメッセージを頼りに、由乃は事件現場を絞りこんだ。
     該当地点に到着するころには、現場は亡者で埋めつくされていた。
    「なんとまあ。鬼の多いかくれんぼでしょう」
     ガンナイフを手に斉射を行い、亡者たちを一掃。
     同行していた赫絲のビハインド『雪白雪』が顔を晒し、残る亡者を殲滅する。
     やがて駆けこんできたこどもを赫絲とともに保護し、ひと段落だ。
    「実は私は、隠れるより見つける方が好みでありましてね」
     「赫絲さんも、隠す方が得意でしょうか」と問えば、
    「……あァ、隠れるのは性に合いませンで」
     もっとも、得意でも先輩にゃア挑みたくねェとこぼすのへ、
    「なるほど。お互い向かない」
     難しいですね、かくれんぼ。
     由乃はそう続け、こどもを伴い、集合場所となるこどもたちの部屋へと向かった。

    ●死・伍
     一方、『空き部屋』は未だ場所を特定できずにいた。
     陽桜、カマル、六花の3人は助けたこどもを連れ、西棟と南棟の境界を彷徨う。
    「亡者も出ないってことは、ここ、ハズレかな?」
    「なにしろ『かくれんぼ』だ。こどもも亡者も、隠れるのは得意そうだしな」
     カマルとライドキャリバーが周囲を警戒し、六花がスマートフォンに入る仲間たちの情報を、陽桜に伝える。
     陽桜はこれまでの情報を精査しながら、必死に思考を巡らせていた。
    (「なにがあっても、今できることをするの。最後まで絶対、諦めないよ」)
     渡り廊下、大階段、浴場。
     これまでの経路と次の地点を結び、推理を続ける。
     そこで、気づいた。
    「……! カマルおにーちゃん、六花おねーちゃん! こっち!」
     駆けだした陽桜の向かう先は、南棟。
     南棟の地図には、一か所だけ、不可解な部屋が描かれていた。
     客室ではない。
     増改築を重ねた結果できた空間を利用して作った、『名前のない部屋』だ。
     眼前に見えはじめた亡者を、陽桜が除霊結界で振り払う。
     六花がこどもを守りながら、サウンドシャッターを展開した直後、
     ――ギャアアアアア!!!!
     すぐそばで、怖気たつほどの悲鳴があがった。
     声のした方向には、不自然に小さな扉。
     キャリバー、陽桜、カマルが、迷うことなく扉の中へ飛びこむ。
     一同は眼にした光景に、思わず息をのんだ。
     亡者の群れに圧し潰された少年の傍らに、『鬼』が立っている。
     こどもの首に鉈をあてがい、今しも刃を引こうとした瞬間、
    「キャリバー!!」
     部屋の外で、こどもを守りながら援護に徹していた六花が、叫んだ。
     主の意を汲んだキャリバーが、鬼へ向けて渾身の突撃!
     陽桜がすぐさま縛霊手『はなうた』で鉈の刃をはね退け、カマルが少年を抱え、亡者たちを薙ぎ払った。
     鬼は六花が守っていたこどもに気づき、車輪の狙いを定めるも、
    「さっせるかあ!」
     吠えた六花が、身を挺して攻撃を受けとめ、はね飛ばされた。
     廊下の壁へ叩きつけられた全身が痛む。
     だが、六花は裂けた傷口を押さえながら、決してこどもの傍を離れなかった。
     殺戮失敗とみた鬼は六花を飛び越え、そのまま廊下を駆け抜ける。
    「鬼が逃げるぞ……!」
     カマルが走りだしたのと同時に、陽桜はスマートフォンへの打ちこみを完了していた。

     ――『空き部屋』より、鬼逃走。
    「鬼が、出たって!」
     スマートフォンを手にしていた千代の言葉に、すでに『浴場』で5人目のこどもを保護していた希、ミストの3人は、緊張に武器を握りしめた。
     灼滅者3人と霊犬、そして救出した2人のこどもは、そろって元の客室へ向かう途中だった。
     あと少しで部屋につくというところで、霊犬『千代菊』が唸り声をあげはじめる。
     舞台は奇しくも、ろくにんめのこどもの殺戮現場となる予定の『長い廊下』。
     薄明かりに鬼が浮かび、血濡れの車輪を手にしたところで、千代菊が駆けた。
     滑走する車輪を受けとめた千代菊が、軽々とはね飛ばされるも、
    「護るため、お前を壊す」
     続く希が死角から迫り、影業『-Lilith-』を5本の黒剣として襲いかかる。
    「希くん……!」
     千代がシールドリングで支援し、2人のこどもの守りに徹する一方、
    「間違えるな、キミの相手は俺たちだろう!」
     『孤狼斬月』を手にしたミストが鬼を斬り伏せる!
     幾重にも重ねて繰りだされる灼滅者の攻撃を鉈で受け流し、鬼は再び、こどもを狙い車輪を投げつけた。
     だが、
    「――見ィ付けた」
     車輪の進路上へ、割りこんだのは2つの人影。
     赫絲と『雪白雪』だ。
    「こどもの遊びに、デカブツが混ざるたァ野暮ですぜ」
     裂けた褐色の皮膚から、血がしたたる。
     だが攻撃は、わずかたりとも、こどもの元へは届かせなかった。
    「かくれんぼはお終いです。これだけ遊べば、満足でしょう」
     月明かりに浮かぶ鬼を見据え、駆けつけた由乃が立つ。
     集まった灼滅者たちの攻撃で、周囲の亡者たちは一掃されている。
     居るのは、眼前の『鬼』のみ。
    「此からは、鬼ごッこに趣旨替えだ。いいな」
     有無を言わさぬ調子で、赫絲はニィと、口の端をもたげた。

    ●戮
     南棟から鬼を追っていた陽桜、カマル、六花の3人もすぐに駆けつけ、8人全員が合流を果たす。
     六花は即座に6人のこどもを集め、ライドキャリバー、霊犬とともに旅館の外を目指した。
    「六花ちゃん、お願いね……!」
     光輪の守りを授けた千代の声に手を振り、六花が仲間たちから離れる。
     そのとたん、再び亡者がわきはじめたが、
    「じゃますんな、っての!」
     掌から激しい炎の奔流を放ち、群れを焼き払う。
     意気揚々と去る六花の姿を見送り、残る7人は『鬼』との間合いを詰めた。
    「さて。怪談でも、おとぎ話でもないが」
     カマルはこの時を待っていたとばかりに、拳を固め。
    「……鬼退治と、いきますか!」
     バトルオーラ『薄葉』を集束させ、怒涛の連撃を叩きこんだ。
     続けて陽桜が間合いに飛びこみ、カマルとは反対側から百裂拳を撃ち放つ。
     たまらず鬼がたたらを踏んだところへ、
    「赫絲おにーちゃん!」
    「鬼さん此方、手の鳴る方へ」
     巧みに鋼糸を手繰り、赫絲が糸の結界を展開。
     糸に翻弄される鬼へ『雪白雪』が霊撃を放てば、
    「さあ鬼さん。亡者たちはひと足さきに帰ったようです。良い子は、お家に帰りなさい」
    「こいつが、『良い子』だとでも?」
     鬼の攻撃をかいくぐり、希は『5 of Swords』を叩きつけながら疑問の声をあげる。
     問われた由乃は、苦悶の声をあげる鬼を見あげ「そうですね」と思案。
    「悪い子は――」
     予言者の瞳を見開き、引き金を引いた。
    「――黄泉に、帰りなさい」
     弾丸はつららとなって鬼を貫き、その身を凍りつかせる。
     動きが鈍ったところへ、
    「こどもたちの命も、俺たちの命も、なにひとつ、渡しはしない……!」
     ミストの振りおろした無敵斬艦刀『孤狼斬月』が唸り、鬼の腕ごと、血濡れの車輪をも粉砕。
     傷を負った鬼はなりふり構わず鉈を振り回したが、灼滅者たちの体力を奪うよりも早く、灼滅者たちは攻撃を重ねていった。
     本来、エクスブレインの予測では、こどもの犠牲者は避けられないと出ていた。
     だが、8人の行った推理や行動。
     あらゆる選択が、今、この好機を引き寄せていた。
     ――もし、ひとりでも犠牲者が出ていれば、『鬼』の強さは、この比ではなかった。
     獲物を手にできずじまいの肝取鬼は、すでに体力のほとんどを失っていた。
     一方、畳みかけるように続く灼滅者たちの攻撃は、より強く、より鋭く、悪鬼を追い詰めていく。
    「ここまでだ!」
     ミストが再び糸の結界を張り巡らせ、鬼の身を絡めとる。
     赫絲はチェーンソー剣『鳥戯ビ』を振りかざし、すでにある傷をさらに深く、抉っていく。
     残る腕から鉈をも取り落とした『鬼』は、もはや反撃する気力さえなく、くぐもった唸り声をあげるばかり。
    「悪ガキを懲らしめるのはいいが、殺そうとするのは、ちょいとやりすぎだな」
     カマルは日本刀『薄葉』を納刀し。
     瞬時に、一閃。
     鬼の胴体を、真っ二つに斬り捨てた。
    「残酷なおとぎ話は、これで終わりだ」
     倒れ伏した『鬼』は、煙のように姿を消した。

    ●了
    「ええええ! もう終わっちゃったの!?」
     キャリバーをかっ飛ばし、六花が戻った時には全てが終わっていた。
     あと数分早ければとどめをさす頃には戻れたが、6人のこどもを守りながら旅館を出るのは、思っていた以上に大仕事だったのだ。
     しかし、六花の頑張りのおかげもあって、こどもたちは全員、無事だ。
    「ともあれ、みんなが無事で良かった!」
    「キミたちも、よく頑張ったね」
     陽桜が破顔し、千代がこどもたちに優しく微笑みかけるも、
    「今回は運が良かったものの、下手すりゃ死んでたぜ」
    「親に言われなかったか? 『言うこと聞かないと鬼が来る』、ってな」
    「悪ィ事すると鬼がでる。其れだけ覚えて、後は寝て忘れちまえ」
     カマル、希、赫絲の言葉に、少年たちはそろって「ごめんなさい」と頭をさげる。
    「さあ。良い子たちは、今度こそおやすみなさい」
    「俺たちも、行こうか」
     由乃とミストの声に、仲間たちが背を向けた時だ。
     数をかぞえていた少年が駆け寄り、霊犬の頭を撫で、ぱたぱたと部屋へ戻っていく。
     先ほどまでの怖い思いはどこへやら。
     笑顔で手を振る6人の『怖いものしらず』たちと別れ、8人は訪れた時と同じように、ひそやかに、その場を後にした。
     
     青白い光が、降りそそぐ。
     月のうつくしい、夜だった。 

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年6月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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