学園祭~あさきゆめみし

    作者:西東西


     7月14日と、15日。
     2日間にわたって開催された学園祭では、さまざまな出来事があった。
     クラブ企画では多種多様、趣向を凝らした出しものが催された。
     水着コンテストでは、華やかな装いの数々に目を奪われた。

     楽しい時間はあっという間に過ぎ。
     いつの間にかあたりは暗く、空には星がまたたいている。
     学園祭は、終わりの時を迎えようとしていた。
     しかし、夜はこれから。
     生徒たちは最後の最後まで満喫するべく、思い思いの場所へと向かっていった。
     

     校舎の一角に、簡単に飾りつけをしただけの空き教室がいくつかあった。
     ぼさぼさショートカットの少女と、おかっぱ頭の少年が、そのうちのひとつの教室を覗きこむ。
    「…………だれも、いない」
    「ここなら、静かに過ごせそうか」
     教室へはいり、窓際に椅子を寄せる。
     グラウンドではキャンプファイヤーが燃え、特設ステージからは歓声が響く。
     校舎脇の屋台通りからは、良い匂いもただよってきた。 
     だが、この教室はそれらのどの喧騒からも遠く、静かだ。
    「プールも開かれているそうだから、今夜はしばらく騒がしいな」
     少年はまぶしいものを見るかのように目を細め、それらの喧騒を、ただ遠巻きに眺めていた。
     少女は少年の横に立ち、窓から身を乗りだす。
     遠い喧噪。
     熱をはらんだ空気。
     頭上には、たくさんの星。
    「夢みたいな、時間だった、よ」
     ぽつりとこぼした少女の言葉に、少年は微笑む。
    「楽しかったか?」
     少女はこくりと頷き、この2日間にあったできごとを、語りはじめた。


    ■リプレイ


     少年と少女が、空き教室へたどりついた後。
     しばらくすると、静かな場所を求め、ほかにも人が集まりはじめた。
     【Salamander House】のシェアメイト、慧樹(d04132)・ゆま(d09774)・百舌鳥(d10148)の3人は、この二日間を楽しく振りかえっていた。
    「己斐之原さんは、学園祭、楽しめました?」
    「もちろん」
     おいしい紅茶と、鳥がいる店に行き、今度差し入れに行くという。
    「そういえば。すみけいくん、雪片さんと食い倒れデート、できました? 義兄が気にしてましたよ?」
    「素敵なお義兄サンだったな! 俺本気で憧れちゃったよよろしく伝えといて!」
     はぐらかすように会話を切り替え、慧樹はジュースを一気飲み。
     語り尽くせぬ思い出。
     けれど、3人の胸には心残りもあって。
    「来年は、絶対『全員』で遊ぼうな!」
     慧樹の声に、ゆまと百舌鳥も頷く。
    「必ず、皆で」
    「そう。来年はもっと楽しいことを、『みんなで一緒に』、な」
     きっと来年は、皆で笑えると信じている。
    「それじゃ、帰ろっか。一緒に、俺達の家へ!」
     共通の想いを胸に、3人は帰途へついた。

     【*Verveine organ*】まり(d06161)・せらら(d07112)・リヒト(d07590)の3人は、苺や桃の砂糖煮とクラッカーを持ち寄り、教室に居合わせた生徒にふるまっていた。
    「ありがとう。疲れた時の菓子は、より美味いものだな」
    「……ん。あまあまで、おいしい」
     一夜(dn0023)とさかな(dn0116)も招かれ、ちょっとしたパーティー気分だ。
    「えと、良かったら、皆で記念写真……撮りませんか?」
     せららが提案すれば、
    「撮りましょうか。思い出が、消えてしまわないように」
     少し照れるけれど、忘れないように形に残しておきたいと、リヒトやまりも賛同する。
     それなら私が撮るよと、一夜がカメラを手にして。
     合図を送れば、心からの笑顔が咲き誇る。
    「写真、宝物にしますね」
     はにかむせららに、まりも2人へ礼を告げる。
    「一緒にいてくれて、有難う」
     それは皆の想いだと、リヒトは頷いた。
    「また来年も、みんなで学園祭に参加しましょうね!」

     【ゆじけん】が特別に用意した、特別な空き教室にて。
     学園祭を頑張った京哉(d11691)は、空き教室の机に突っ伏しお疲れモード。
     そこへ、ミニスカチアガール姿の朔耶(d00470)と、ミニスカチャイナ服の優姫(d03572)が登場。
     京哉はすぐさま飛び起きた。
     何かしてほしいことはないかと問われれば、優姫の膝枕と、朔耶にお菓子をあーんしてもらう甘甘タイムをご所望。
    「お疲れ様でした、京哉さん」
     優姫が膝枕をして撫で撫でしてあげれば、
    「ふふー。ごろごろ……♪」
    「き、今日は特別ですからね!」
     スカートをめくり恥じらうしぐさや、柔らかな肌の感触を堪能し、ご満悦。
    「カップケーキと、クッキー。それに、アイスティーもあるぞ」
     うつ伏せになった京哉へ団扇で風を送り、朔耶が焼き菓子を口に運ぶ。
    「あー、ん。ふふー、おいし~!」
     京哉の至福のひと時は、その後しばらく、続いたという。


     一方、別の空き教室では、友達や特別な存在とともに、静かな時間を過ごす生徒も多く見られた。
    「来てくれたか」
     昴(d09361)は黒斗(d10986)に声をかけ、苗字で呼んだ事を詫びる。
    「もう、済んだことだし」
    「学園祭、少しは楽しめたか?」
     問えば、クラブ巡りした時は楽しかったよと、小さく笑う。
    「お前との勝負もしたしな……。って、どうしたんだ? じっと見て」
    「そうやって笑ってくれると、何か安心するぜ」
     虚をつかれ、目を見開いた黒斗に、昴は続ける。
    「できれば、いろんなものを楽しんで、生きて欲しいと思ってな」
    「……ずっと前。似たような事を言われた」
     答えた後、
     ――やっぱり、理解できない。
     ぽつり、声がこぼれた。

     喧騒から離れ、直人(d11574)と稲葉(d14271)が立ち寄ったのは静かな教室。
     語りだした稲葉の言葉も、表情も、すべてが真剣で。
     直人はただ、稲葉の言葉を静かに聞いていた。
    「もしものことがあったら……。その時は、お前に頼みたい」
    「そう、か」
     短く零し、直人は稲葉のチョーカーに祝福を落とす。
     ――もし彼が闇に呑まれたとしても。方舟を照らした柘榴石の光が、導くように。
     思考の海に沈んだ、紅玉の瞳が揺れる。
    「心強い導を貰った……。さんきゅーな」
     覚悟を決めた友を前に。
     無茶はして欲しくないとは、言えなかった。

     緋頼(d01617)と白焔(d03806)は緑茶を手に、学園祭を振りかえる。
     何か発見はあったのかと白焔が問えば、
    「大切な人と一緒にいると、楽しいらしいです」
     しかし、『大切な人』がわからない。
    「なくしたら我慢できない。そう思う何かがあるなら、多分ソレが、大事なモノなんだろう」
    「全てかもしれません」
     欲張りは駄目だ。
     けれど、全てを護りたいのだと、緋頼。
    「良いじゃないか」
     白焔は即座に頷いた。
    「捨ててばかりじゃ生まれた甲斐が無い。望むだけならタダなんだ」
     ――欲張ろうぜ。
     力強い言葉が、緋頼の背を押した。

     華月(d00586)と雷歌(d04073)は互いをねぎらい、二日間の想い出を語り合う。
     微かに届く喧騒は、どこか遠い出来事のようで。
     胸に残る想い出が、同じ場所だと教えてくれる。
     万華鏡作りの話になれば、雷歌はばつが悪そうに頭をかき、
    「あれでも頑張った方だぞ?」
    「うん、ちゃんとできてたもの。すっごく頑張ってたと思うの」
     同じ時を過ごした証。
     華には、雷歌の望む蒼が宿って。
     大事な想い出が、たくさんになったと、華月は微笑む。
    「これからも、貴方が望んでくれる色であれたら、嬉しいな」
     ――俺は、彼女の望む色になれるだろうか。

     千代(d05646)と喜一郎(d06078)も、想い出語りに花を咲かせる。
     もっとも、語るは千代ばかり。
     イカ焼きにポテチ、アイス。
    「んん? なんか私食べてばっかりだね」
    「それにしてもこれは、……前衛的なお味ですね」
     手渡された『プリン風味のイカ焼き』は、男の意地でごちそうさま。
    「それでそれで。学園祭は他に何が?」
     もっとお話聞かせて下さいな。
     振りかえれば、当の千代はすっかり夢の中。
     今ごろどんな夢を視ているのやら。
     気にはなれども、起こしはすまい。
    「おやすみなさい、千代サン」
     もたれかかる千代をそのままに、喜一郎はそっと、手持ちの本を開いた。

     清十郎(d04169)と雪緒(d06823)は、椅子を並べてのんびりお喋り。
    「二日間いっぱい、お疲れ様で、ありがとうなのですよ」
    「俺も、雪緒と一緒に色々回れて楽しかったぜ!」
     想い出もたくさん作れたしと告げれば、雪緒も微笑む。
    「ふふー、清十郎の時間を、たくさん貰ってしまったのです」
     伝えたいことはたくさんあるのに、うまく言葉にならなくて。
     雪緒は繋いだ指先から想いが伝わればと、手を握り締める。
    「また来年も、一緒に過そうぜ!」
    「……ん、約束です。清十郎」
     それでも、来年の約束をできたことが嬉しくて。
     2人、微笑みを交わした。

     藤恵(d11308)と銀嶺(d14175)は、イチゴジュースを手に夜風にあたる。
    「昨日は一緒に回ってくださって、ありがとうございました」
    「こちらこそ誘ってくれてありがとう」
     やはり誰かと回った方が学園祭は楽しいものだと、食べたご飯や、仮装など、お互いに気に入った企画を語りあう。
     涼やかな風と、静けさが、優しい眠りを運んできて。
     気がつけば、藤恵は銀嶺に寄りかかり、夢の中。
    「後夜祭ももう少し続きそうだし、少し休むといい」
     寝入った藤恵の髪を撫で、銀嶺はそっと、その寝顔を見守った。

     誰もいない教室で、光(d11205)と菊乃(d12039)は寄り添って語り合っていた。
     少しバテてはいたものの、大切な人と一緒にいられる幸せは、何物にも代えがたい。
    「光さん。よろしければ、その……。『菊乃』と、名前で呼んで頂けませんか?」
     それじゃあと、間を置き。
    「昨日今日とお疲れさん、菊乃」
    「はいっ!」
     花のほころぶような満開の笑みに、光は気恥ずかしいなと頬を染める。
    「来年は、もっと多くの場所を、2人でゆっくり、回りたいもんだな」
    「ええ……。必ず」
     小指を絡め、約束を、交わした。

     瑠璃羽(d01204)と暁(d15059)の前には、多彩なロールケーキを重ねたタワーケーキがそびえたつ。
     寄り添うルリに促され、暁は笑顔で頬張って。
    「今度は僕から。ルリ、あ~ん」
     瑠璃羽が素直に口をひらけば、暁はすかさずケーキを口に含み、そのまま口移し。
    「美味しい?」
     真っ赤になって頷くものの、せっかくの味はどこへやら。
     続けて、プレゼントがあると囁き。
     暁が瑠璃羽の左手の薬指へ、ペアリングをはめる。
    「好きだよ、ルリ」
    「うん。ずっと、一緒だよ」
     互いの身体を抱き寄せて。
     重ねた唇に、永遠を願った。

    「……お疲れさま、トゥ」
    「モイラちゃんも、お疲れ様」
     灯十郎(d03793)は膝の上にモイラ(d18408)を座らせ、抱きしめる。
     昼間とは違い、静かな時が流れる教室。
     ふたり、共に過ごす時間が何よりも愛おしい。
    「ほら、流れ星♪」
     楽しげに夜空を見あげるモイラの横顔は、どこか大人びて見え。
     灯十郎はそっと、抱きしめる手を固く繋いだ。
     振りむいたモイラが、灯十郎の額にそっと、口づけて。
    「少し位なら、背伸びも良いでしょ……?」
     歳の差よりも、想いは近くに。
     2人はいつまでも、語り合った。

     クラブを抜けだし、玲士(d08759)と零蒔(d00851)が訪れたのは人のいない空き教室。
     軽口を叩く零蒔を促し並んで座れば、まずはお疲れ様と飲み物で乾杯。
     玲士は零蒔の肩を抱き、引き寄せる。
    「ほら。静かにしないといけないからな?」
     大胆な玲士の悪戯に、零蒔の鼓動は高鳴った。
    「時枝、おまえ――!」
     繋いだ手のぬくもり。
     髪を撫でる指のやさしさ。
     耳元で響く声音に、零蒔はいつしかまどろんで。
    「好きだよ」
    「ああ……。俺も、好きだよ」
     慣れない距離感。
     初めての想い。
     夢見心地の中、想いを紡ぐ、小さな音が響きあった。

     誰もいない教室に居るのは、刃兵衛(d04445)と光明(d07159)。
     光明は刃兵衛を背中から抱きしめ、そのまま壁に寄り掛かるように座った。
    「……思えばこうして、二人でゆっくり過ごす時間が無かったな」
    「学園祭の時は、2人でゆっくり回れなかったから……」
     久しぶりに感じる光明の温もりが、刃兵衛に安らぎを与えて。
     ただ、いつまでもこうしていたいと願う。
     目を伏せ、そっと頬を寄せる刃兵衛を受け入れ、光明は唇を重ねた。
    「……好きだぞ、光明」
    「刃……。俺も、好きだよ」
     ――これからも、ずっと前と共に居よう。
     2人、温もりに誓いを交わした。

     翡桜(d15645)はアリアーン(d12111)とともに、キャンプファイヤーの見える席に座っていた。
     語られるのは、アリアーンの過去。
     そして、内に巣食う矛盾のこと。
    「こんな矛盾を孕んだ存在、許してくれる?」
    「許すも何も……。私は、どんなアリアさんでも受け入れたいんです」
     語るだけでも辛いだろう話を、聞かせてくれたことが嬉しい。
     アリアーンは翡桜を抱きしめ、額に口づけを落とす。
     これまで、ずっと言えなかった言葉。
    「……翡桜。付き合って、ください」
    「私でよければ……、アリア」
     ありがとう。
     その言葉の確かさに、アリアーンは尽きせぬ幸福を感じていた。


     そしてまた別の一角では、ひとり、想いにふける生徒たちの姿もみられた。
    「おす、今日はあんがとね」
     炭酸水を差しだす民子(d03829)に礼を告げ、一夜は黄の瓶を受けとった。
    「……どうしてかなぁ、あんなにはしゃいだのに、今はそういう気持ちになれねぇんだ」
     自分の中に迷いがある。
     見あげた空は藍と炎のオレンジ。
     この空気ごと一枚の布にできたならと、民子は零す。
    「空も心も、うつろうものだ」
     また、共になにか作れたら良いなと、一夜は静かに返した。
     ふと見やると、視線の先に見知った姿。
     千巻(d00396)は教室の片隅から、外を眺める。
     遠く篝火に想うのは、二日間のめくるめく想い出たち。
    「ちょっと……はしゃぎすぎたかも」
     机の上にうつぶせになり、木の冷たさに頬を寄せる。
     心地よい夜風が吹きぬけ、少女にまどろみをもたらしていった。

     柚羽(d13017)もひとり、片隅で祭りの余韻に浸る。
     クラブの留守を守った猫は、二日間の出会いを瞳に映し、想い出を雄弁に語った。
     艶やかな毛を撫でれば、ふいにまどろみが訪れ。
    「少しだけ、眠っても大丈夫……ですよね……」
     1人と1匹は揃って身を丸めると、小さく寝息をたてはじめる。

     依子(d02777)は無人の教室に佇む。
     星明かりに小瓶を透かせば、浮かぶのは大事な者達の笑顔。
     祭りは、いつか終わる。
     どれほど願っても、留まりはしない。
     それでも、
    「終わらなければ、いいのに」
     そう、願わずにはいられない。
     ――おまつりよ、おやすみなさい。
     続く日々に繋がるようにと、そっと、胸元の指輪に触れた。


     昭子(d17176)は窓際の席につき、便箋を前に眼を伏せる。
     遠くに明かり。
     にぎやかな声。
     手を伸ばせば届くものたち。
     けれど、それはやがて、夢幻のごとく消えるもの。
    「忘れるな」
    「わすれない」
     自問自答し、眼を開く。

     眼にした色があせぬ間に。
     宿した想いが、消えぬうちに。
     白い紙に、一文字目。
     大騒ぎだった、今日のこと。
     賑やかだった、昨日のこと。
     楽しみだった、一昨日のこと。

     明日のわたしへ、わたしたちへ。
     さあ、何から伝えようか?
     
     
     熱気をはらんだ夜が更け。
     そしてまた、明日が、やってくる――。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年7月30日
    難度:簡単
    参加:40人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 0
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