臨海学校~屋台作戦の後はコラーゲン補給!

    ●中州・屋台通り
     日本三大歓楽街のひとつとも言われる、博多・中州。そこにある「屋台通り」と呼ばれる一角には、とんこつラーメンやおでんはもちろん、様々な料理を供する屋台が集まっており、夏の暑さに負けない食欲をそそる匂いを漂わせている。
     大勢のサラリーマンやOL、観光客が本日の一杯に向かおうとしている夕暮れ時、屋台通りの片隅、路地の入り口にひとりの少年がたたずんでいた。
     彼は鈴木・神皇(すずき・かみみ)という、地元の中学2年生。校則ギリギリくさい髪色といい、未完成なストリートファッションといい、中途半端にイキがっているのが見え見えのタイプ……まあ、中学時代なんて誰しもそんなものだろうから、キラキラしい名前以外はフツーの少年と言っていいだろう。
     だが、今日の彼は明らかにおかしい。

     ――俺は、神だ。なんたって神皇って名前なんだからな。

     そんな台詞を口の中で呟き続けている。キラキラネームのせいで散々苦労してきたことは忘れているらしい。
     その手には、ずしりと重たいナイフ。本格的なサバイバルナイフだ。不用意に持ち歩いたら銃刀法違反でつかまりそうなヤツである。
     それから、ハーフパンツのポケットには黒いカード。HKT六六六と書いてあるそのカードは、ナイフと共に先ほど何者かに手渡されたものなのであるが、神皇はすでにそのことすら憶えていない。もちろん”神になる”という妄想も、その何者かに吹き込まれたのである。

     ――俺は……俺は、神になるんだ。大衆を怯えさせ、裏社会の者からは崇められる神に。

     尻ポケットのカードに触れると、全身に熱いものが巡るのがわかった。
     神皇はナイフを鞘から抜いた。

     ――俺は、殺戮の神となる!

    「……愚民共め、神の餌食となれーーーッ!!」

     そして屋台通りの人の流れに飛び込んだ。
     
    ●水炊きを食べるわよ!
    「臨海学校のお買い物と観光の時間に、鶏の水炊きを食べに行こうと思うの」
     黒鳥・湖太郎(高校生魔法使い・dn0097)の楽しげな台詞に、春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は顔をゆがめる。
    「ええっ、この暑いのにですか? 九州はもっと暑いんですよ?」
     武蔵坂学園の臨海学校は、8月15日より博多市と、博多湾周辺で行われる。
    「あら、暑いときこそ熱いもの食べなきゃなのよ。それに、日焼けで痛んだお肌にコラーゲンを補給したいじゃないの」
    「ああ、水炊きはコラーゲンたっぷりですもんね……」
     典もコラーゲンには惹かれたようだ……が、ハタと手を叩いて。
    「そうだ、湖太郎さん、水炊き食べに行くんなら、中州のお店にしてくれません?」
    「中州のお店?」
     典はノートパソコンを湖太郎の方に向けて、店のHPを見せる。
    「あらステキ、料亭風なのね。スープが濃厚でとっても美味しそうだわぁ。でも、お高いんじゃないの?」
    「依頼にひっかければ、水炊き代くらい学校から出ますよ」
    「……依頼?」
    「実は、臨海学校の期間中に、ダークネスの組織的な陰謀っぽい事件が博多で集中的に起こるみたいなんですよ。その一環で……」

     典は神皇が起こそうとしている屋台通りでの無差別殺人事件について説明した。
     
    「まあ……神皇ちゃんはそのHKT? とかいうカードのせいでダークネスになっちゃったの?」
    「いいえ、普通の一般人のままです。カードに操られ凶暴になってはいますが、強化一般人ですらありません。ですので、気絶させてカードを取り上げれば正気に戻ります」
    「あら、いつものに比べたら、ずいぶん簡単ね。一瞬で終わりそう。通りに他の一般人が居合わせても充分守れそうだわ」
     湖太郎はつけまつげをばさばささせた。
    「ええ、パパッと解決して、ゆっくり水炊きを食べにいってください。屋台通りから近いですから」
    「ぜひそうするわ……あ、でも神皇ちゃんのアフターケアはどうしたらいいのかしら?」
    「気絶させてカードを取り上げれば、直前の記憶は失われるようです。まあ、踏まれないような場所に寝かせておけばいいでしょう……で、作戦ですが」
     典はパソコンで博多の市街地図を開き、
    「神皇くんはこの路地から屋台通りに出てきますので、湖太郎さんたちはこの付近で待機しててください。お店とか屋台がいっぱいありますので、待ち伏せは難しくないと思います。時間は17時過ぎ頃で、人も多いですから」
     湖太郎は頷いて、
    「大きなナイフを持ってるならターゲットの判別も易しいし、サクッと解決できそうね」
    「そういうことです……あ、そうだ、水炊き食べに行く人数決まったら教えてくださいね、予約しときます」


    参加者
    雲母・夢美(夢幻の錬金術師・d00062)
    謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)
    灰咲・かしこ(宵色フィロソフィア・d06735)
    上木・ミキ(ー・d08258)
    天木・桜太郎(吊花・d10960)
    一宮・光(闇を喰らう光・d11651)
    豊田・陽生(冷しゃぶがおいしい季節・d15187)
    丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)

    ■リプレイ

    ●屋台通りにて
    「校則ギリギリの髪の色、未完成なストリートファッション、イキがってる、ナイフ……わかりやすぅ! って、思ってたんっすけど」
     天木・桜太郎(吊花・d10960)が人波を見回す。闇纏いを発動した彼らは件の路地の真向かいのオフィスビルに張り付くように立ち、屋台通りを見張っている。
    「ソレ系の中高生多いっすね」
     夏休みの中州には、軽くハジケた中高生がたくさんいた。
    「夏休みですもんね」
     上木・ミキ(ー・d08258)も周囲を油断なく見回しながら応える。
    「手にナイフ持ってたら確定な感じですかね。それにしても、洗脳されて事件を起こしそうになるなんて、ヤな話ですよね。事前に気づけて幸いです」
    「しかし……」
     灰咲・かしこ(宵色フィロソフィア・d06735)が溜息を吐き。
    「臨海学校に来て迄事件に巻き込まれるとは、武蔵坂学園の行事ってつくづく物騒だよな」
     その意見には、桜太郎もミキも力一杯頷いた。

     同じく闇纏いを発動した謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)と、豊田・陽生(冷しゃぶがおいしい季節・d15187)は、屋台通りの角に立ち、件の路地の奥を覗き込んでいた。まだ何も現れてはいないが、星瞑は路地をくまなく見回す。予知にはなかったが、監視者や支援者がいないかも警戒しておかねば。
    「この路地だよね?」
    「うん、そのはずだよ」
     陽生は、はんなりと答える。
    「そろそろ予知の時間になるねぇ」

     一方、普通に姿を現しているメンバーは、屋台をひやかすふりをしつつ、人波を観察していた。
    「しかし、いいにおいですね」
     一宮・光(闇を喰らう光・d11651)の腹がのんきに鳴った。
    「ラーメンと迷ったんですが、水炊きの方がみんなで囲めていいと思ったんですよね」
    「水炊きはいいですよ! 神皇さんの厨二力、今後の創作の参考になりそうですけれど、夏場はコラーゲンの方が重要ですよ!」
     雲母・夢美(夢幻の錬金術師・d00062)は、はだけたシャツから覗いている内乳やへそ周りのお肌を気にしつつ力説する。
     丹羽・愛里(幸福を祈る紫の花・d15543)が頷いて、
    「私も福岡は初めてなので楽しみにしていたのですが、まさかこんな事件が起こるとは……とにかくさっさと終わらせましょうか」
     さくっと解決して、学友たちの待つ水炊き屋に向かいたい気持ちは全員共通である。
    「それにしてもすごい人ですね、探すの大変かもしれませんね」
     愛里は屋台に顔を向けつつも、辺りに油断なく目を向ける……と。
     路地を見張っているふたりが、手招きをした。向かいにいた闇纏い組も気づいたようで、人波を縫って足早に路地を目指す。
     姿を現している3人は遠巻きにして路地をさりげなく覗き込む。
     路地の奥からは、ひとりの少年がこちらへ向かってふらふらと歩いてくる。中途半端な茶髪、イマイチなストリートファッション、そして手には黒くて細長い物体……おそらく彼が神皇であろう。
     しかし、今回の依頼は一瞬で済ませたい性格のものであるから人違いは避けたい。闇纏い組は、無言のままするりと路地へと入り込んでいき、それ以外のメンバーは路地の出口を固めた。愛里がサウンドシャッターをかけ、逃げられた場合に備え光がパニックテレパスの用意をする。
     闇纏い組は、路地を形成しているビルの壁面にへばりつくようにして、神皇らしき少年の背後に回り込んだ。

    ●瞬殺!
    「俺は神に……神になる……」
     少年は灼滅者たちの気配にはまるで気づかず、ぶつぶつ呟きながらナイフを抜いた。彼で間違いないようだが……。
    「やあ、神皇くんかい?」
     念には念を入れ、陽生がいきなり声をかける。
    「んっ?」
     少年は驚いて振り向いたが、闇纏いのせいで見つけられない。
    「だっ、誰だ!? 誰が俺を呼んだ?」
     この反応、間違いない。
     入り口から中を窺っていた夢美が、たたっと路地に走り込み、
    「ふふふ……貴方もこの時代に転生していたんですね!」
     神皇の妄想に合わせた中二っぽい台詞を叫んで注意を引く。
    「むっ、な、なんだお前は」
     少年は夢美の方へ向き直りナイフを構えたが、そこに星瞑が、
    「自分たちは、水炊きを食べにきたヒーローだ!」
     足下にスライディングして転ばせる。
    「うわあっ!」
     ナイフを持つ手を、すかさずかしこが振り子のような鋼糸を絡めて捕縛し、桜太郎が蹴り上げてナイフを飛ばす。仕上げに気合い一発、ミキが後頭部に手加減攻撃の手刀を叩き込むと、
    「……きゅう」
     神皇は変な声を上げて、昏倒した。
    「一瞬でしたね」
     路地にESP担当の光と愛里も入ってくる。光が早速、神皇のハーフパンツのポケットを探ると、予知通りに黒いカードが入っていた。
    「これか……」
     皆でカードを回してまじまじと眺める。気味の悪いデザインではあるが、とりあえず特別な力があるようには見えない。
     桜太郎がくんくん、と匂いをかいで。
    「洗脳効果でもあんのかね? 吹き込まれたぐらいで行動に移すってのは凄いな。このカードがよっぽど強力なのか、それとも神皇にも思うとこありだったのか……」
    「なあ、早く鈴木氏をなんとかしなければ。放置しといたら熱中症になってしまうぞ」
     かしこが小さな体で神皇を動かそうとしているのを見て、慌てて年かさの者たちが手を出す。路地の奥、ビルの日陰に目を回している神皇を寄りかからせ、ミキが軽く清めの風をかけ、申し訳なさそうに後頭部に持参の湿布と氷枕を当て、タオルを被せてやる。これなら熱中症気味で休んでいるように見えないこともないだろう。
    「さてと、依頼は成功したし」
     陽生が立ち上がってパンパン、と手をはたき、
    「水炊き屋にいこうか。臨海学校らしくないメニューだけど、遠出したからには土地のグルメを存分に味合わないとねえ」

    ●まずは乾杯
    「お疲れ様!」
    「お疲れ~!」
     メンバーが宴会場に入ると、すでに3つの金属製の大きな平鍋からは美味しそうな湯気が上がり、学友たちがそれを笑顔で囲んでいた。広い座敷はきっちりとクーラーが効いており、ホッと息をついて席に着く。
    「そろそろ来る頃だろうと思って、お鍋先に持ってきてもらっちゃったわ。まずは乾杯しましょ!」
     一応幹事の黒鳥・湖太郎(高校生魔法使い・dn0097)の仕切りで、水炊きに集った武蔵坂学園の生徒たちは、ソフトドリンクを互いのグラスに注ぎ合う。
    「みんな注いだか? よっしゃ、任務成功祝いといこうぜ!」
     万事・錠(ハートロッカー・d01615)が、宴会部長さながら立ち上がる。
    「乾杯!」
    「かんぱーい!」
     グラスを賑やかに打ち合わせ、ぷはー、と一同は冷たいドリンクを飲み干す。
    「あっ、ちょっと待って!」
     さっそく鍋に野菜を投入しようとした者を、枝折・真昼(リヴァーブハウラー・d18616)が止める。
    「一応作法があるんですよ。最初はスープだけ味わうん……っすよね?」
     うろ覚えなのか不安げに周囲を見回したが、仲間たちはへえ~、と素直に感心する。
     最初にスープを、次にぶつ切肉を単体で味わってから、野菜等の具を入れるのが作法らしい。
     真昼は蘊蓄を語りながら小さなおちょこにスープを注ぎ分け、それを受け取った物たちは、いただきまーす、と神妙にスープに口をつけ、あるいはふうふうと吹き冷ます。
    「ああ……五臓六腑に染み渡る鶏! 鶏の旨味を煎じて飲んでいるようです!」
     光がうっとりと叫ぶ。
    「白い鶏ガラスープなんだねえ。僕の地元では昆布ダシで煮てポン酢で食べるものだったよ。水炊きと言っても全く別物だけど、これもとても美味しいよ!」
     京男の陽生はグルメっぽく比較する。
     夢美は小さな試験管にスープを採取している。錬金術師には鶏スープも研究対象らしく、真剣である。
     続いてぶつ切肉を取り分ける。
    「きゃあっ、とり肉っあたし好きよっ♪」
     久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)がはしゃぐ。
    「さっぱりして美味しいのう。美湯尾のためにはコラーゲンが良いらしいしのう」
     望月・心桜(桜舞・d02434)も満足げである。
     味はもちろん、適度にプリッとした歯ごたえとジューシーさがたまらない。
    「正直暑いの苦手なのよ……ほら、わたし東北だし……でもコラーゲンでしょ! でもお鍋ってやっぱり暑いわね……」
     ほかほかと湯気を立てる皿を前に葛藤しているのは城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)。
     猫舌のかしこは、ふうふうと一生懸命皿を吹き冷ましている。
     真昼がスープだけになった鍋を覗き込んで。
    「ここまで味わってから、他の具を煮ていくわけっすね。さあ、入れましょ」
     と、言った瞬間。

    ●鍋も美肌もバトルである
     どどどどどどっ。
     肉食系男子数名が鍋に飛びかかるようにして、野菜や鶏肉を鍋にぶちこんだ。
    「鍋とは戦い……攻めなければ勝てない」
     光は目にもとまらぬ早業でつくねを鍋に投入している。
    「ちょ、ちょっと! そんなに焦らないでよ!!」
     湖太郎が慌てて叫ぶ。
    「肉はこれしかないのか!?」
    「今追加するわよっ。もう、ちゃんと小さい子や女子にもお肉あげてよ?」
    「いいんですよ、私の本命は葉っぱきのこネギその他野菜ですから……あ、ポン酢とってもらってもいいですか」
     ミキはまだ肉をじっくりゆっくり味わっている。
     湖太郎がポン酢と内線電話に手を伸ばすと、
    「注文は私がやりましょう」
     光がメニュー片手に立ち上がる。
    「あらそう? お願いしていいかしら」
     光は任せてください、と不穏に笑うと、
    「学園の奢りだと思うと、いくらでも入りますね。というか入れますね」
     受話器を取り、
    「追加お願いします。お鍋の肉とつくね10人前と、野菜は5人前くらい。それから唐揚げと焼きつくねと……」
     ちゃっかりサイドメニューもオーダーしている。
     と、星瞑が。
    「あっ、光さん、ついでに料理の写真撮っていいか訊いて!」
     OKということなので、星瞑は早速愛用のポラロイドカメラを出す。
    「記念写真撮るよ!」
     星瞑が宴会場を回って鍋と仲間たちの写真を撮りまくっているうちに野菜が煮え、灼滅者たちはいよいよ本格的に鍋に取り組み始める。うまい、おいし~い、とそこかしこから声があがる。
    「桜太郎ちゃん、お疲れ様だったわね~」
     湖太郎が桜太郎にお酌をする。もちろんソフトドリンクだが。
    「あっ、どもっす!」
     桜太郎は何故か幾分恐縮して酌を受ける……と。
    「む、おーたろー隙あり!」
     横から箸が伸びてきて、桜太郎の皿から肉が奪われた。従妹の原・三千歳(深緑へ望む光・d16966)の仕業である。
    「まだあるだろ! 何で俺の皿から取るんだよ!!」
    「むふー、お肉美味いよー、スープの効いた野菜もこれまた美味しい! 人の皿から奪うとまた格別に」
    「仲良しですねー」
     野菜を堪能しているミキが微笑ましげに言い、炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)も持ち前のスピードを生かして鍋バトルに参入しつつ、
    「揃って鍋食えることなんて滅多にないからな、人数多いと楽しいし、美味いよな」
    「そうですね、野菜にスープの味が合っていて、とても美味しいです」
     愛里はこの大騒ぎの中でも、落ち着いて箸を進めている。
    「ねえねえ、湖太郎ちゃん」
     杏子が首を傾げて尋ねる。
    「こらーげんって何の役に立つのかなあ?」
    「ああ、美肌効果があるって言われてるけど」
     湖太郎も困ったように首を傾げ、
    「改めて調べてみたら、実は直接お肌に効くわけじゃないんですって」
    「ええええーっ!」
     女子が驚きの声を上げて集まってくる。
     コラーゲンは肌に大切な成分であることは間違いないが、経口摂取した場合、一旦体内で3種類のアミノ酸に分解されてしまう。アミノ酸は、当然肌だけでなく血液や筋肉などの生成にも使用されてしまうので……。
    「そ、そうだったの。徹底調査して、今後の研究に生かすつもりでしたのに」
     夢美が手に持った試験管と取り皿を見つめながら呆然と。
    「でもねホラ、結局バランスのとれた食生活ってのがお肌には一番いいわけだからぁ」
     湖太郎が気をとりなおすように。
    「水炊きはその点ではバッチリでしょ」
    「そうだな」
     猫舌のかしこが充分冷ました野菜を頬を緩めて味わって。
    「こんなに美味しい物を食べて綺麗になれるのだから、博多には美人が多いというのがわかる気がするな」
    「そういえば湖太郎さん、心なしかお肌が綺麗になったような……」
     愛里が湖太郎の頬にそっと触れた。
    「あらっありがとう。でもそれは湯気のせいかも。愛里ちゃんもつやつやしてきたわよ~」
    「そうね、この湯気はお肌にいい気がします、先生!(誰)」
     千波耶が暑がりなのに、わざわざ鍋の上に顔を出した。
     倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)が、汗をふきふき、
    「濃厚だからカロリーもそれなりにありそうだけど、これだけ汗かいてれば大丈夫よね……っと、そうだっ、皆さん、紫外線対策ってどうしてる? なんかもう暑くて汗もすごいし、日焼け止め以外思いつかないんだけどっ」
    「ねえ、こっこ先輩」
     美肌談義を片耳で聞きつつ、杏子が小声で尋ねる。
    「水炊きは、お胸おっきくなったりする?」
     心桜はスープを噴き出しそうになりつつも。
    「胸は違うのじゃ! 胸は牛乳じゃ、キョン殿!」
     実は心桜は毎朝牛乳を飲んでいるのだが、それは口が裂けても言えない。
     女子(&オネエ)が美肌談義に爆走している横で、鍋バトルに一段落した男子たちは、今回の依頼について話していた。
    「これが噂のHKTカードか……」
     北条・葉月(ツッコミ属性パンクロッカー・d19495)が指先に黒いカードを挟んで。
    「その神皇ってのもある意味では被害者なんだろうけど。他の場所でも似た事件が多発してるって話だし、この手の事件は続きそうな気がするな……」
     わいわいと鍋&美肌バトルを繰り広げているうちに、大方の具が食べ尽くされ、灼滅者たちのお腹も満たされてきた。しかしまだ雑炊という、大切な使命が残されている。
     運ばれてきたご飯を鍋に投入し、再び火を点ける。
    「やっぱりシメはおじやだよね。デザートも食べたいなっ」
     お行儀良く座った星瞑が、冷たいお茶で口と体を冷ましながら嬉しそうに鍋を覗き込む。
    「卵とネギ入れるタイミングは、俺が指示するから触るんじゃねえぞ」
     淼は腕組みをし真剣な顔で鍋を見下ろしている。雑炊には一家言あるようだ。
     再びぐつぐつ言い出した鍋を前に、錠がふと仲間たちを見回して。
    「なあ、まだ俺たち酒飲めねえけどよ、その年になったらまたお前らと水炊きしてえな」
    「まあな、あと数年の辛抱だな」
     葉月が鼻歌交じりに同意し、
    「私はあと3年かー」
     紫苑が指折り数え、千波耶が楽しげに。
    「大学ができるって話だし、普通にやってそうじゃない? 楽しみね」
    「そうだね」
     陽生が細い目をますます細くして微笑み、
    「今日は暑い中ありがとう、みんな来てくれて……」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 4
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