兇気礼讃 Unknown Vision

    作者:西東西


     博多湾近くの海浜公園にて。
     空に、黄昏と紺碧が入り混じる時刻。
     その日は、夜20時から行われる花火大会をひかえ、多くの人々が公園内の広場へ足を運んでいた。
     友達や恋人、家族連れ。
     夏休みを利用し、遠方から訪れた者も少なくない。
     花火大会にあわせ、あたりには数多くの出店がたちならんでいる。
     焼きトウモロコシや、わたあめ、りんご飴。
     射的に、金魚すくいと、行き交う人々の表情は楽しげだ。
     ――もう少しで、花火大会がはじまる。
     居合わせたひとびとが、今か、今かと夜空を仰ぎはじめた。
     その時だった。
    「今、この瞬間から! 俺は、生まれ変わるぞおおおおおおぉおおぉお!!!」
     ひとごみの中心で、浴衣姿の青年が、叫んだ。
     手にした日本刀を振りかざし、一閃。
    「ひ、人殺しだああぁ!!」
     紅をまき散らしながら地面に伏した少年の周囲から、一斉に人々が退く。
     時を同じくして、広場のあちこちで、凶器を手にした一般人が動きはじめた。
    「死ね! くたばれ! てめえら全員、オレ様の踏み台になれェ!」
    「あっ、すいませ……! すいません! まだ慣れてないんで、すっごく痛いと思うんですけど、死にきるまで我慢してくださあいッ!」
    「……さ。その命、私に捧げなさい」
     サバイバルナイフを手にした青年。
     包丁を振りかざす女性。
     拳銃を突きつける少女。
     悲鳴と、怒号。
     熱気をはらんだ空気は、狂気を帯びてより熱く満ちていき――。

     混乱から、やや離れた場所。
     広場の中心にある高い木の上に、狐面をかぶった浴衣姿の少女が座っていた。
     黒髪のおだんごツインテールを風になびかせ、りんご飴を頬張っている。
     周囲の枝には少女よりも巨大な体躯の蜘蛛が3体控え、ともに、公園を見おろす。
    「あ、はじまった! はじまったー!」
     食べかけのりんご飴を大蜘蛛の口に放りこみ、立ちあがる。
     恐怖と混乱が、波紋のように人々の間に広がっていく。
     花火大会の打ちあげ開始まで、あと少し。
    「まずは、おてなみ拝見、だね~」
     少女は楽しげに笑い、殺戮に酔う一般人たちを見やった。
     

     臨海学校の話題があちこちの教室から聞こえくるなか、一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)は教室で、ひとり眉根を寄せていた。
     やがて集まった灼滅者たちを見渡し、いつものように、事件についての説明を開始する。
    「臨海学校については、すでに聞き及んでいる者もいるだろう。行き先は九州。……だが、その地で。大規模な殺人事件が発生するという予測が成った」
     事件を起こすのは、ダークネスではない。
     一夜が予測したヴィジョンでは、計4人の一般人が、同じ場所で、同時多発的に無差別大量殺人を開始するという。
    「凶器を手にしているとはいえ、相手は一般人だ。きみたち灼滅者の能力をもってすれば、事件の阻止はそれほど難しくないだろう」
     殺人を起こす一般人は、全員『カードのような物』を所持し、操られるように事件を起こすことがわかっている。
     『カード』を取りあげさえすれば、直前までの記憶を失い、気絶する。
     あとは、事件を起こした一般人の身柄を、どこかへ運んでやれば良い。

     向かう場所は、博多湾近くの海浜公園。
     花火大会開始目前で出店も出ているため、公園内の広場には相当の人が集まっている。
     事件はその円形広場にて、それぞれ別の場所で発生する。
     凶器を手にした一般人との接触推奨タイミングは、彼らが声をあげた時だ。
     4人は同じタイミングに、別の場所で行動を起こすので、個々の対応をどう行うかがカギとなるだろう。
    「ただでさえ人が多く、歩くのもままならない状況だ。事件を起こす一般人はもちろん、周囲に居合わせた一般人への対応にも、どうか注意をはらって欲しい」

     そこまで説明した後、一夜は一呼吸置いた後、言葉を続けた。
    「……今回はひとつ、気がかりがある」
     ――予測時のヴィジョンに、ダークネスの姿が視えた。
    「私の見立てに間違いがなければ、そのダークネスは、六六六人衆の八波木々木波子(ははきぎ・きばこ)だ」
     いつもとは違う浴衣姿で、狐面をかぶり、表情は見えなかったが。
     これまで何度も、予測に現れたダークネスだ。
     一夜が、その声を、姿を、見まごうはずがない。
    「ただ、ダークネスは文字通り『高みの見物』を決めこみ、事件を起こす一般人の動向を見届けた後は、おのずと姿を消す。こちらから接触を試みなければ、そのまま何事もなく、立ち去るだろう」
     現地で、どのように対応するかはきみたちに任せるが、と続け。
    「最優先すべきは、一般人の起こす事件だ。この事件の裏には、組織的な陰謀があるという予測も出ている」
     謎のカードと、謎の組織。
     そして、目的不明のダークネス。
    「なにかと情報不足ですまないが……。どうか、よろしく頼む」
     一礼した後、灼滅者たちに背を向ける。
    (「このまま、逃してなるものか……!」)
     唇を引き結んだまま、一夜は再びサイキックアブソーバーの元へ向かった。


    参加者
    藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)
    マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)
    佐津・仁貴(中学生殺刃鬼・d06044)
    八川・悟(人陰・d10373)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    ユキ・タティーラ(主の居ない騎士・d13771)
    霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)

    ■リプレイ


     ――茜色のそらを、紺碧が染めていく。
     そう思った時にはもう、あたりは薄闇に包まれはじめていた。
     花火の打ち上げ開始は、20時。
     事件は、そのすこし前に発生する。
     ひと足はやく海浜公園の広場に集まった灼滅者たちは、ひとごみをかき分け、周囲に目を配っていた。
     だが、灼滅者8人に対して、花火客は数千人規模で集っている。
     一人で歩いている者。
     事件を起こす一般人の年齢に該当しそうな者。
     凶器を持っていそうな者。
     可能性がありそうな人物を見かければ目星をつけようと思っていたものの、どれも決定打に欠け、時間だけが過ぎていく。
    「武器を隠してなければ簡単、とも思ったけど。これじゃあ、難しそうね……」
     箒に乗ったリンデンバウム・ツィトイェーガー(飛ぶ星・d01602)が、上空からあたりを見おろし、嘆息。
    「お祭りで事件を起こすなんて、面倒なやつだよね」
     霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)はそうぼやきながら、仲間と打ち合わせた定位置へ向かう。
     カードを持っている一般人の対応にあたる灼滅者は、4人。
    (「これは……。事が起きてからが、勝負か」)
     佐津・仁貴(中学生殺刃鬼・d06044)も人ごみにまぎれ捜索を行っていたが、捜索をきりあげ、担当位置へ向かう。
     最後のひとり、マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)も、ナノナノ『菜々花』とともに配置についた。

     20時、10分前。
     広場に居合わせたひとびとが、今か、今かと夜空を仰ぎはじめる傍で。
     狂気と凶器にかられた者たちの祭が、はじまろうとしていた。


    「ひ、人殺しだああぁ!!」
     声が引き金となり、周囲から一斉に悲鳴があがりはじめた。
     謎のカードを持った一般人たちが、行動を開始したのだ。
     声を聞きつけ、配置についていた灼滅者たちが一斉に『パニックテレパス』を展開。
     お互いのESP効果範囲からは外れるようにしていたおかげで、広場のほとんどを効果内に含むことができた。
     その上で、逃げ惑う一般人たちに向かい、叫ぶ。
    「はい! お伏せ!」
    「伏せて!」
    「伏せろ!」
     助かりたい一心の一般人たちは、驚くほどすなおに灼滅者たちの声に従い、その場に身を伏せる。
     リンデンバウムは、自分を拝むよう伏せる大量の一般人の頭上を一直線に飛びながら、ひとり、立ち尽くしたままの少女を見つけた。
    「見つけた。ダウナーっぽい子……!」
     流星のように空を駆るや、銃を持った少女の手を掴み、上空へ向けさせる。
     ――パン! パン!
     抗う間に銃声が鳴り響くも、リンデンバウムはマテリアルロッドを振りかぶり、慈悲をこめてぽかりと殴りつけた。
     凶行にかられたとはいえ、少女も一般人。
     とつじょあらわれた青い魔女に驚く間もなく、意識を失い、倒れた。

     リンデンバウム同様、伏せる人々のなかに立ち尽くす青年を見つけ、マリーゴールドはナノナノに命じる。
    「菜々花!」
     ふわふわと舞うしゃぼん玉の先には、サバイバルナイフを手にした青年の姿。
    「うおッ!?」
     しゃぼん玉を消し去ろうとした瞬間、衝撃を受けてナイフを取り落とした。
     マリーゴールドはすかさず間合いに飛びこみ、手加減攻撃でケリをつける。
    「あった……! これが、噂の『カード』ね」
     気絶した青年の服のポケットから『カード』を回収し、マリーゴールドは仲間のもとへ走った。

    「凶器を捨てろ!」
     伏せた一般人のなかに立つ浴衣姿の少年を前に、仁貴は叫びながら一瞬で間合いを詰める。
    「くそ! なんだおまえ!」
     速度に反応できない少年は、ワンテンポ遅れて日本刀を振りかぶった。
     刀先が周囲の一般人に及ばぬよう気を配りながら、仁貴は少年の腹に慈悲の一撃を見舞う。
     周囲を見渡し、すぐに少年の身をひとけのない場所へ運び、横たえた。

     一方、海璃は包丁を手にした女性が周囲にいた人間に切りかかろうとしたところに駆けつけ、『改心の光』を展開。
    「す、すいません! すいません! 私なんかが調子に乗って、ほんとにすいません!」
     包丁を投げ捨て、海璃の前で土下座をはじめる。
    「キミが持ってる『カード』を、渡してくれる?」
    「は、はい! こんな粗末なものでよければ……!!」
     女性はそう言って財布の中からカードを取りだし、手を離した瞬間、電池がきれたように気絶。
     ダークネス対応班と合流するべく、海璃はすぐに女性を運びにかかった。

    ●対話篇
     そのころ、藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)は広場の中心に立つ木の下に移動していた。
     一般人を装い、捜索を手伝っていた八川・悟(人陰・d10373)も、木を囲む位置についている。
     ユキ・タティーラ(主の居ない騎士・d13771)も配置につき、小さくつぶやく。
    「今回の事、不思議なんですよね。今までソロで活動していた六六六人衆の、計画的な行動。持っただけでおかしくなる紙……いや、呪物?」
     同じく木の下に集った神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)も、唇を引き結んだ。
    「情報を、得ないと」
     決意をこめた声でつぶやき、木の上を見あげる。
     周囲の混乱は、早々に鎮まりつつある。
     ダークネスから、こちらの姿は見えているだろうか。
     木上の様子をうかがいながら、ユキが呼びかけた。
    「戦闘をするつもりはありません、少し、話をしませんか?」
     しばしの沈黙。
     そして、
    「おもしろそうだから、いいよー」
     ふいに頭上から声がし、『それ』は音もなく降ってきた。
     浴衣を着崩すことなく木の下に降り立ったのは、狐面をかぶったダークネスの少女。
     面を外せば、外見年齢相応のあどけない表情がのぞく。
     むさぼり蜘蛛たちが降りてくる気配はない。
     徹也は戦闘をしないという意思表示をこめて、自ら名乗りでた。
    「初めまして、八波木々木波子。もしくは『ギヨティーヌ』。俺は藤谷徹也と言う」
    「うん。はじめまして、テツヤ。でも、せっかくだから、『ギヨたん』って呼び方もおぼえてねー」
     「むしろ、『ギヨたん』って呼んだらいいとおもうよ?」と笑う。
     無邪気なそぶりに一瞬勢いを削がれるも、警戒をとかずに、続ける。
    「この騒ぎは、お前――」
    「ギヨたん」
    「――ギヨ……ティーヌの好みとは、少々趣向が異なるようだが」
     途中にはいったツッコミには屈さず、「なぜここに居るんだ?」と単刀直入に問いかけた。
     もとより、ダークネスが簡単に口を割るはずがない。
     誘導尋問のように情報を引き出していこうと考えていたのだが、当のダークネスはそんな思惑そっちのけで、ぶんぶんと威勢よく手を振った。
    「そう、そうなの! それがね! 博多に来たら見ず知らずのオジサンに声をかけられて!」
    「……は? ナンパ?」
     悟の言葉に、「それ!」と歓声をあげる。
    「ナンパは困るっていったんだけど、すっごい花火大会をするから、ついでに見においでよって言うんだもん」
     「せっかくだし、花火もいいなーって。それで、来たの」と、ひと息に答えた。
    「そうか。それは、災難だった……と、言うべきなのだろうか」
     まるで夏休みを満喫している女子中学生(自称永遠の十三歳)にインタビューでもしたかのような回答に、徹也は思わず口をつぐむ。
    「花火大会を楽しみにされているところ申し訳ないのですが、いくつか木波子さん――」
    「ギヨたん」
    「……ギヨティーヌさんに、お聞きしたいことがあります」
     やはり途中にはいったツッコミには屈さず、柚羽は続ける。
     先の発言を聞く限りでは、木波子自身、この場へ誘われたのだという。
     だが、相手はダークネス。
     口にした言葉だけが、真実とは限らない。
     柚羽は当初の予定通り、『木波子が黒幕と思いこんだ振り』をし、質問を投げかけることにする。
    「木の上にいたのなら、さきほど一般人が事件を起こしたのは、ご存じですね?」
    「うん。ずっと見てたから、知ってるよ。止めに入ってたの、あんたたちの仲間だよね?」
     そう問われ、実際に一般人の対処から戻ったマリーゴールドが進みでる。
     回収した黒いカードを見せつけ、
    「残念でした! あなたが何をしたかったのか知らないけど、被害がでる前に止めたからね!」
     鬼の首をとったように告げるマリーゴールドを見るや、けらけらと木波子が笑った。
    「そっちこそ、残念でしたー! あんたたちが何を考えてたのか知らないけど、それ、あたしのじゃないよ」
     灼滅者たちが、顔を見合わせる。
     柚羽は矢継ぎ早に、尋ねた。
    「では、このカードが何かは、知っていますか?」
    「それ、面白いよねー。なんのオモチャなんだろうね?」
     木波子はカードに興味があるようだっが、それ以上は語らなかった。
     本当に、何も知らないのか。
     知っていて、語らないのか。
     どちらなのかは、灼滅者たちには判断できなかったが。
     ――どうすれば、有用な情報にたどりつけるのか。
     柚羽は用意していた質問の形をその場で変え、続ける。
    「では、これは参考までに聞きたいのですが……。あなたなら、カードを持たせた一般人に殺戮をくりかえさせて、闇堕ちを促進させようとしますか?」
    「あんなモンじゃ、そうそう闇堕ちなんてしないよ」
    「あら。そういうものなの?」
     リンデンバウムの声に、木波子は「うん」と、軽くかえす。
    「まあでも、なにもしないのに比べたら、ちょっとくらいは、役にたつんじゃないかなー」
     と、まるで他人事だ。
    「では、なにかのために『殺人者』を量産し、試用実験しているとか」
    「『殺人者』を増やす、ねえ……。人間同士のコロシあいなら、そう珍しいことじゃないよ?」
     木波子は首をかしげ、心底不思議そうに告げる。
    「ダークネスからしたらそうかもしれないが、『殺人者』の量産なんて、こんなカードでもバラまかない限り、起こるものじゃない」
     悟の声に、木波子は目を細める。
    「ふうん。じゃあ聞くけど。この日本では、毎年何千人も、車に乗った人間がそこらの人間に体当たりしてまわってる。もう、何十年も前からね。それは? 『殺人者』の量産じゃないの?」
    「それは、『殺人』ではない。『事故』だ」
     即座に答えた徹也の声に、
    「アーッハッハッハッハ!」
     木波子はひとしきり笑った後、灼滅者たちを見据えた。
    「同じだよ。理由をつけて分けてるのは、あんたたち人間だけ。だから、もしあたしたちが『殺人者』を量産するなら、戦争を起こすのがいいかな」
     「それが一番簡単で、てっとり早い」と、微笑む。
    「じゃあ、キミは今回の件の『黒幕』じゃないのか」
    「しかし、何か大きな『バック』が動いている気がしているんですよね~」
    「もし『黒幕』を知ってたら、『私たちが全部邪魔をするから』って、伝えてよ」
     海璃とユキ、マリーゴールドの言葉に、木波子はまばたきする。
    「……クロマク? あんたたち、そのカードの持ち主のことを『クロマク』って呼んでるの?」
     「それなら、はやく言えばいいのにー」とぼやき、
    「あたしに声をかけてきたのは、こぉんな耳をしたオジサンだったよ。えーと確か……、『ぷろでゅーさー』って、言ってたかなあ」
     木波子は自分の耳たぶをみょーんと引っ張ってみせるが、灼滅者たちの注意は、別のところに向いていた。
     すなわち、
    「『声をかけてきた』というのは、さっき言っていた、ナンパのことか?」
    「ナンパしてきたオジサンが、カードの持ち主なのか……?」
     重ねて問いかける仁貴と悟の声に、
    「うん、そうだよ」
     と、こくこく頷く。
     「あんたたちも、会ったらビックリするよ! ほんとに、こぉんな耳だったんだから!!」と熱弁しながらみょんみょん耳を引っ張る木波子はさておき。
     木波子を誘った男が『プロデューサー』と名乗ったのは、間違いなさそうだ。
     と、その時だ。
     ――どん! どおん!
     空気を震わせ、夜空に大輪の華が咲いた。
    「あー! 花火!!」
     長話をしすぎたと、木波子は灼滅者たちに背を向ける。
    「ね、メアドか、携帯番号を教えてくれない?」
    「ヤだ」
     機を見て申しでたリンデンバウムに、木波子は即答。
    「あのね、同じことを、前にも聞かれたことあるんだけど。あたしがあんたたちとなれ合って、なにかいいこと、あるの?」
    「それは……お互い、情報のやりとりができるじゃない?」
    「えー、でもー。もし他の六六六人衆に知られたら、それを理由に狙われそうだし。そうなったら、ちょー面倒だから、おしえなーい」
     木波子とて六六六人衆の一員である以上、他の六六六人衆と序列争いを行うことがある。
     ただでさえ理由もなく襲い掛かってくる者たちなのだ。
     妙な行動を起こそうものなら、それを理由に因縁を吹っかけられるのだろう。
    「待て、もうひとつだけ。お前一人だけが今回の事件のことを知っているわけじゃないだろう? 他の六六六人衆も、お前のように、どこかで見物しているんじゃないのか?」
     悟の言葉に、木波子が振りかえる。
     にいっと眼を細め、告げた。
    「もしあたしが、その『別の六六六人衆』だったとして。こんなところで悠長におしゃべりしてるようなのは、真っ先に首を落としにいってるよ」
     ――どん! どん! どどん!
     腹の底にひびく音が続き、周囲ではまばらに残った一般人たちが、そろって天を仰いでいる。
     木波子は再び狐面をかぶりなおし、木の根元にむさぼり蜘蛛を呼び寄せた。
    「祭りは、まだ始まったばかりなのか?」
     追いすがるようにかけられた徹也の問いに、
    「そうだねえ」
     駆けおりてきた3体の蜘蛛を撫でながら、ダークネスは口の端をもたげる。
    「ちょうど、タイクツしてたし。あのオジサンが面白いことやるっていうなら、一緒にあそんであげてもいっかなー」
     「それじゃあねー!」と声がするなり、3体の蜘蛛とともに盛大に跳躍。
     あっと言う間に、木波子は灼滅者たちの前から遠ざかっていく。
     空を見上げる一般人は、だれひとり、直前までそばにいた、深い闇の存在に気付いていなかった。
     ――どどん! どん!
     続く花火はなおも、続いている。
    「『プロデューサー』という男が何者なのか。調べる必要がありそうだな」
    「それに、回収したカードのことも」
     ダークネスとの会話で入手できた情報は、いくつかある。
     ひとまず手ぶらで帰らずに済みそうだと安堵しつつ、8人は眼前に打ち上がる花火をみあげた。


     ひゅんひゅんと風をきり、花火に背を向けながら、木波子は博多の街を駆ける。
    「ダークネスでもない人間が、どれほどのものかと思ってたけど。予想してたよりかは、面白かったかなー」
     それに、また、武蔵坂学園のこどもたちにも、会うことができた。
    「まー、あのコたちにアッサリやられちゃうようじゃ、まだまだだけど。『こんなこともできる』ってわかったし、ひとまず『可能性』としては、アリかもね」
     そんなことを、ひとりごち。
     おだんごツインテールをなびかせ、ダークネスの少女は、夜の闇に姿を消した。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年8月23日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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