鏖殺少年 Idola Tribus

    作者:西東西


     ある日、博多の繁華街にて。
     男子高校生たちがコンビニから出ると、すぐ横の脇道に、バニーガール姿の少女が立っていた。
     うさぎの耳に、ふわふわしっぽ。
     すらりと伸びた脚は、バックシームの網タイツに包まれている。
     豊満な胸がカップの浅いバニースーツに詰めこまれ、今にもこぼれそうだ。
    「うおおぉ!?」
    「ば、バニーガール!?」
    「こんにちは!」
     衣装とは裏腹に、元気で明るい挨拶に惹かれ、少年たちは思わず足を止める。
    「こ、こんにちは」
    「芸能人かなにか、なのかな?」
    「はい! アイドルになるために、活動をはじめたばかりなんです!」
    「へー、アイドルの卵なんだ」
    「すっげえ」
     改めて見れば、見目形の整った、けれどどこか愛嬌のある、愛らしい少女だ。
    「てことは、これから大物アイドルになっちゃったりする!?」
    「おれ、応援するよ」
    「あ。オレも、オレも!」
    「わあ、うれしい……!!」
     少女はぴょんと跳びあがり、少年たちに抱きついた。
    「ファンになってくれた、お礼に――」
     ささやき、胸の谷間に指をさしいれる。
    「――特別に、プレゼントしますね」
     引き抜いた指先には、複数の黒いカード。
    「さあ、みなさんの欲望を解放して。すべてを、血で染めあげて」
     「がんばってくださいね」とささやく声に、少年たちは迷わず、カードを手に取った。
     

    「先の臨海学校で暗躍していた『HKT六六六人衆』が、ふたたび博多で事件を起こすようだ」
     一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)の言葉に、灼滅者たちが「えーっ」と声をあげる。
     臨海学校から戻ったのは、つい先日。
     にも関わらず、次の事件だという。
    「今回事件を引き起こすのは、黒いカードを手にした8人の少年たちだ」
     それぞれが武器を持ち、サイキックでの攻撃を仕掛けてくる。
     つまり、『強化』されているのだ。
    「これが黒いカードの新しい能力なのか。それとも、別の力なのかはわからない。要因はどうあれ、少年たちの目的は『無差別殺人』。よってきみたちには事件の阻止と、黒いカードの回収を頼みたい」
     
     少年たちが姿を現すのは、人通りの多い日中の繁華街。
     十字路の大きなスクランブル交差点があり、その歩行者信号が青になった際に、歩道に躍りでて『無差別殺人』を開始する。
     信号が青になるまでは人ごみにまぎれて身を隠しているため、捜索は困難だ。
    「接触は信号が青になり、8人が歩道に現れてからとなる」
     なお、スクランブル交差点内での戦闘となるため、歩行者や車などが、混乱に陥ることが予想されている。
    「七湖都は、一般人の避難誘導を頼む」
    「…………ん。わかった」
     呼びかけられた七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が、こくりと頷いた。
     
     一夜は続けて、少年たちについて述べる。
    「板状鉄筋(無敵斬艦刀)、手斧(龍砕斧)、カッターナイフ(解体ナイフ)、有刺鉄線(ウロボロスブレイド)を持つ少年が、各2人ずつ存在する」
     『強化一般人』なので、戦闘力はそれほど脅威ではない。
     だが、隊列を組まず、思うままに交差点内を動き回る。
     それぞれが殺戮を行うとすれば、居合わせた一般人たちにとっては十分すぎる脅威だ。
    「交差点内には数多くの一般人が存在する。すべての避難が完了するまで、一般人へ被害が及ばないよう、対応してほしい」
     なお少年たちは、KOすれば正気を取りもどす。
     だれひとり灼滅する必要はないので、その点は安心だ。
     
    「……バニーのひとには、あえないの?」
     さかなの問いかけに、一夜は頷く。
    「事件の起きる場所に、それらしき人物は現れない。今回はひとまず、少年たちの対応にあたってくれ」
     「よろしく頼む」と告げ、一夜は深く、頭をさげた。


    参加者
    月歌・魅呼(アイドル候補生・d01195)
    羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    木通・心葉(パープルトリガー・d05961)
    風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)
    荏戸・セトラ(路地裏エトランゼ・d20000)
    ミシェル・ルィエ(もふりーと・d20407)

    ■リプレイ

    ●Idola
     予測を受け、灼滅者たちは事件現場となるスクランブル交差点で待機していた。
     横断歩行者と自動車が、一定時間ごとに、交互に行き過ぎていく。
    「事前調査とか、探偵みたいでカッコイイかも!」
     人通りや交通量を確認し、うきうきと周囲を見渡すのは月歌・魅呼(アイドル候補生・d01195)。
     都心の交通量には及ばないものの、街中とあって平日でもそれなりの人通りがある。
     魅呼の隣には、バニースーツを着用した殺雨・音音(Love Beat!・d02611)の姿。
     作戦の一環で着用している――というわけではなく、「バニーならネオンちゃんも得意だよ~♪」という理由で、家にあったものを引っ張り出してきたのだ。
    「六六六人衆の事件なのに、淫魔絡みなのかなぁ?」
    「バニーさんにユーワクされた、HKT六六六人衆のおにーちゃん達……。『すえぜんくわぬはおとこのはじ』ってゆーの?」
     羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)も、きょとりと首をかしげる。
    「……もしくは、淫魔と六六六人衆が手を組んだのかな?」
     どちらにしても許せないと、風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)はつぶやく。
    「ボクが強化一般人へ呼びかけるから、七湖都はすこし待ってから避難誘導をはじめてくれ」
     木通・心葉(パープルトリガー・d05961)の言葉に、七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が頷く。
    「……ん。呼びかけのあと、だね」
     避難や戦闘には、ハリー(d18314)や柚羽(d13017)、千代(d05646)が手を貸してくれる。
     万が一の一般人の治療には、優歌(d20897)があたる手はずだ。
     行き交う人の流れの、どこかに。
     無差別殺人を引き起こそうとする、8人の少年が潜んでいる。
     灼滅者たちは周囲に視線を走らせ警戒しながら、それぞれの担当位置へ向かう。
     東西南北。
     4班にわかれた灼滅者たちは、雑踏にまぎれ、その時がくるのを、待った。

    ●fori
     やがて、エクスブレインが予測した時刻。
     川のように流れていた自動車が止まると、歩行者用の信号が青に変わった。
     ざわめきとともに歩きはじめた人々に紛れ、心葉は即座に『闇纏い』を発動。
     兎の耳を装着すると、箒にまたがり空へ舞いあがる。
     一般人たちは、闇をまとった心葉を認識することはできない。
     だが強化一般人なら、心葉を『見る』ことができるはずだ。
    「君たちに、頼みたいことがあるんだ。ここへ、集まってくれない……か?」
     10秒ほど呼びかけを続けるも、それらしい人物は見当たらない。
     ハリーとともに、さかなが避難誘導を開始しようとした、その時だ。
    「きゃあああぁぁ!」
     心葉の浮遊していた位置とは、別の場所。
     北側の歩道から、悲鳴があがった。
     蜘蛛の子を散らすように一斉に駆けだす一般人たちに紛れ、視界に入ってきたのは板状の鉄筋を振り回す1人の少年。
    「死ね、死ね、死ねエェ!」
     数人の歩行者が、鉄筋に打たれ弾き飛ばされる。
     『殺界形成』を展開していた陽桜は、即座に身をひるがえし、走った。
    「ダメ、殺人!」
     魔導書に記された原罪の紋章を刻み、有無を言わさず少年の精神をかき乱す。
     同じく北側で待機していたミシェル・ルィエ(もふりーと・d20407)は、別の少年が手にしていた手斧の反射光に気づき、先手をうった。
    「おまえら もえろ」
     ほとばしる炎の奔流が、少年たちを押し流していく。
     一般人へ向けられた攻撃は、間一髪のところで阻止。
     優歌は傷を負った人の元へ走り、身柄を安全な場所へ移すと同時に、手当を開始した。

     戦闘が始まったのは、北側だけではない。
    「なんだ、アイツ。うさ耳なら、しおんちゃんの方がよっぽど似合ってるっての」
     南側では、カッターナイフを手にした少年が遠く心葉の姿を見あげ、笑っていた。
    (「一瞬あれば、十分」)
     気付いた荏戸・セトラ(路地裏エトランゼ・d20000)は少年が強化一般人であると見当をつけ、飛びだした。
     だぼだぼの袖に隠したナイフがひゅんと空を裂き、
    「うおッ!?」
     のけぞった少年に、原罪の紋章を刻みこむ。
    「てめえ! なにしやがる!」
     精神を暴走させた少年は、怒りを含んだ表情でセトラを睨みつけた。
     対するセトラには、聞きたいことが山ほどある。
    「まずは、その『しおん』さんについて。セトに教えてほしいです」

     氷香は、セトラとともに南の配置についていた。
    「……さあ、唄を紡ぎましょう」
     スレイヤーカードの封印を解き、セトラに加勢しようとした時だ。
     逃げ惑うひとの流れに逆らい、身の丈ほどの鉄塊――板状鉄筋を振りかぶる少年の姿を見つけた。
     氷香は駆けだすなり、妖の槍を盾に一般人へ向けられた攻撃を受け止める。
     鉄塊は巨大であるがゆえに、攻撃後の少年の動きには大きな隙が生じた。
    「……被害なんか、出させないんだから……!」
     手の内で穂先を反転させ、攻撃に転じる。
     回転させた槍を操りだせば、怒りに我を忘れた少年が力任せに鉄筋を振り回した。

     西位置は、といえば。
     音音のバニースーツが、思いがけず少年たちを呼び寄せていた。
     「バニーは得意」と豪語するだけあって、音音のバニー姿にはそれだけの存在感と、華がある。
    「見ろよ、『兎』だ!」
    「同じバニーでも、しおんちゃんの方が万倍可愛いぜー!」
    「殺してやろうよ。そうすれば、きっと星倉も喜ぶ」
     手斧を持った少年1人と、有刺鉄線を持った少年が2人。
     灼滅者たちが仕掛けるまでもなく、嬉々として向かってくる。
    「やっぱり、バニーさんの効果は絶大なの!?」
     『サウンドシャッター』の使用を断念し、魅呼はマテリアルロッドを手に防戦にまわった。
     一般人への注意が逸れたのはありがたいものの、3対2で猛攻をくらうばかりでは、分が悪い。
    「ネオンはか弱いから、戦うのも怖いし~、乗り気じゃないの~」
     当の音音は、うさ耳を揺らしながら攻撃を回避。
    「それでも、もっとか弱い一般人の皆を守るために、ガンバるよっ」
     そのまま少年たちの気を引きつけるべく、龍砕斧を手に斬りかかった。

    「やはり無理があったか……!」
     四方位で勃発した戦闘に気づき、心葉はうさ耳を地面に叩きつけた。
     もとより、強化一般人たちが呼びかけに応じるかは賭けだった。
     淫魔の誘惑に堕ちた者たちなのだ。
     姿を真似、呼びかけた程度では、その支配が揺らぐことはないのだろう。
     作戦にしたがい交差点の東側に舞い降りれば、音鳴・昴(ダウンビート・d03592)はすでにカッターナイフを手にした少年と戦闘をはじめている。
     一般人へ向けられた攻撃には昴の霊犬『ましろ』が駆けまわりつけ、なんとか被害を出さずにすんでいた。
    「……そのへんに、しとけ」
     嘆息とも、つぶやきともとれる声に乗せ、昴は魔導書にあった原罪の紋章を刻む。
     湧きあがる怒りを抱きながら、少年は心葉と昴を睨めつけた。
    「おまえら、そんなに死にたいのか……!」
    「まさか。これは、挨拶だ」
     心葉はマテリアルロッドを手に、目を細める。
    「ボクと『遊んで』くれるのは、君なのだろう?」
    「なッ、めんなぁあああ!」
     激昂し、向かいくる少年を前に。
     心葉は小さく、口の端をもたげた。

    ●specus
     灼滅者たちが戦闘をはじめると同時に、避難を担当する灼滅者たちも行動を開始する。
    「あわてないで。できるだけ、遠くへにげて」
     さかなは『割り込みヴォイス』を使用し、交差点内の一般人へ声をかけ続けた。
    「ここは危ないから、早く離れて!」
     野次馬根性で近づこうとする者があれば、千代が『王者の風』をまとい、霊犬『千代菊』が吠えたてて強制的に排除していく。
    「こちらはただいま通行止めにござるよー! あちらの道から迂回するでござる」
     傍では『プラチナチケット』で警察官を装ったハリーが、誘導棒を手にカラーコーンを設置。
    「Uターンすれば、大通りから脇道に入れます」
     事前に周辺道路を確認していた柚羽は、惑う車に対して的確に指示を出していく。
     KEEP OUTと書かれたテープでわかりやすく避難経路を示したおかげで、交差点内の一般人たちは確実にその数を減らしていった。
    「傷を負った方たちの避難も、完了しました」
     数名、負傷者を出してしまったが、命に別状はないと優歌が告げる。
     強化一般人相手とはいえ、守りに徹していた仲間たちの傷はかさみつつある。
     さかなは仲間たちを癒すべく、避難にあたった灼滅者たちとともに、加勢に走った。

    ●tribus
     北方にて。
     振りかぶった鉄塊が空を裂き、交差点の地面に突き刺さる。
     一般人に当たれば即死であろう少年たちの攻撃も、灼滅者にとっては恐るるに足らない。
    「ヨクボーのままに人殺ししちゃうおにーちゃん達は、はなうたさんとひおがお仕置きなの!」
     跳ねるように攻撃を回避した陽桜が、縛霊手『はなうた』の拳を固める。
    「でっこぴーん!」
     明るい声とはうらはらに、異形の指で弾かれた少年は、もんどりうってアスファルトに叩きつけられた。
     白目をむいたまま気絶したところで、隠し持っていた黒いカードを回収する。
    「返せ! それは、しおんちゃんが俺たちにくれたカードだ!!」
     手斧持ちの少年が陽桜に斬りかかろうとするも、
    「なぎ はらう」
     ミシェルの手繰る連結剣が魔獣の尾のようにうねり、少年の身体を弾き飛ばす。
     倒れた少年に向け、ミシェルは問う。
    「おまえたち このあと どうする? おれたち ころしたら どこいく?」
    「うるせえ! 黙って死ね!」
     なおも反撃に出ようとする少年に向かい、ミシェルは拳に闘気を集約させる。
     眼にもとまらぬ速さで繰りだされる連撃に、少年は受け身をとる間もなかった。
     百の拳すべてをその身に受けた少年は、ぼろぼろになって地面に倒れた。
     その懐からカードを回収し、北側の少年たちは制圧完了。
     ミシェルは先ほど耳にした名を、ぽつりとつぶやいた。
    「バニー しおん?」

     南方では。
     セトラには確認したい事がいくつかあった。
     少年たちにカードを渡したのは、どのような人物なのか。
     少年たち――HKT六六六人衆が灼滅者の殲術道具を使用した場合、サイキックを扱うことができるのか。
     しかし、強化一般人とはいえ、心を闇に傾けた者たちだ。
     そう簡単に、工作するだけの余裕を与えてはくれない。
    「おまえら、しおんちゃんの事を探ってどうしようってんだ!」
     不可解な質問や行動をとろうとする灼滅者に不信感を抱き、板状鉄筋を手にした少年が腕を振りあげる。
    「……セトラちゃん!」
     氷香はセトラに向けられた一撃をかばい受け、その場に膝をついた。
     強化一般人の攻撃とはいえ、隙を見せれば致命傷につながる傷を受けないとも限らない。
    「先に無力化するしか、ありませんね」
     さすがのセトラも状況を見かね、積極攻勢にうってでる。
     死角から斬りかかろうとした少年のカッターナイフを、手にしたナイフで上空に弾きとばす。
     吹っ飛んだ得物を追うように空を仰いだのが、少年の命取りとなった。
    「……これで、おしまいだよ!」
     蒼と碧の殲術道具に身を包んだ氷香が、即座に詠唱圧縮した魔法の矢を放つ。
     追撃を受けてアスファルトに転がった少年は、そのまま、気を失った。
     残る鉄塊持ちの少年は、再び敵陣を斬り裂こうと腕を振りあげる。
     だが、先ほどと同じ攻撃。
     セトラは少年の動きを見切り、地面を蹴った。
     空中で身を反転させ、歪に変形したナイフを構える。
    「ゲームセット、です」
     落下の勢いに乗せ、少年の身を幾重にも引き裂く。
     セトラの着地と同時に、少年は声もなく、その場に倒れ伏した。

     挑発によって難なくカッターナイフ持ちの少年を下した東班の心葉、昴、『ましろ』の2人と1匹は、すぐに西班と合流。
     一般人避難の流れから防戦一方となっていた音音、魅呼の2人とともに、3人の少年と対峙する。
     心葉は異形巨大化させた腕を振りかぶり、力の限り手斧持ちの少年を殴りつけた。
    「……とどめ」
     吹き飛んだ少年へ追い撃ちをかけるべく、昴は神秘的な歌声を手向ける。
     幻想的な声音に心を奪われたまま、手斧持ちの少年は力尽き、意識を手放した。
     やがて駆けつけた避難誘導班の回復を受け、魅呼と音音も戦列に加わる。
    「実はわたくしもアイドルを目指しているの! 悪いことはやめて、わたくしの歌をきいていってね☆」
     決めポーズとともに魅呼がウィンク。
     軽やかなステップに手拍子を交えながら、即興で歌と踊りを披露しはじめる。
     思わず歌声にききいった少年は手元を狂わせ、有刺鉄線はもう1人の少年の身を裂いた。
    「……ッ! バカ野郎、目を覚ませ!」
     片方の少年が催眠にかかった少年を叱責するも、
    「きみの相手は、ネオンちゃんだよ~」
     音音は巨大化させた腕を、胸の前で構えた。
     しぐさだけを見れば愛らしいバニーガールそのものではあったが、
    「はい、どうぞ。召しあがれ~♪」
     ――ゴッ!
     怒涛の一撃は、少年がとっさに張った有刺鉄線の盾をも打ち破る。
     至近距離からまともに打撃を喰らった少年は、地面に叩きつけられたまま、意識を失った。
     残された最後の少年は、もうろうとする意識の中、心葉の声を聞いた。
    「『火遊び』が過ぎたな」
     次いで、頭蓋が砕けるかと思うほどの衝撃。
     巨腕になぎ倒された少年の意識は、そうして、暗闇に沈んだ。

    ●theatri
     戦闘後。
     気絶した少年たちの身柄を安全な場所へ移動し、灼滅者たちは交差点の封鎖を解除した。
     音音に介抱され、気がついた少年たちは、ばつが悪そうに顔を見合わせる。
     正気には戻ったものの、誰ひとり、カードを渡された人物の詳細を覚えていなかったのだ。
    「……『星倉』『しおん』、とか言ってたけど」
     戦闘中に聞いた名を持ちだして昴が問いかけるも、「そんな名前だったっけ」と、あやふやな回答しか返ってこない。
     セトラが確認したかった殲術道具の試みも、ただの一般人に戻った少年たちには、なんの効果もなさなかった。

    「もうやんちゃしないようにね~♪」
     音音の笑顔に見送られ、少年たちはもとの生活へと帰っていった。
     ミシェルは回収した8枚のカードを手に、仲間たちを見やる。
    「カード しらべる」
    「なにか、あたらしいことわかるかな?」
     陽桜の声に答えられる者は、だれも居ない。
    「……わからないことだらけ、だけど。ひとまず、ご飯にでも行かない?」
     時刻的にも、小腹が空くころだ。
     すぐに、皆が氷香の提案に賛同する。
     不可解な事件についての見解を語りあいながら、9人は避難誘導を務めた灼滅者たちとともに、近くのファミレスへと向かった。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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