ロシアからプリンシバルがやってきた

    ●北海道西部の某海岸
    「……ふう、何とかニホンにたどり着いたらしい」
     海から岩場をよじ登ってきたのは、金髪の美青年だった。彼が身に着けているのは、場にそぐわない華やかな衣装だ。フリルがひらひらのブラウスに、下半身はちょっと恥ずかしい感じの白タイツ。
    「私としたことが、ずいぶん南まで流されてしまったようだが、ここはホッカイドウのどのあたりだろう?」
     美青年は華奢なシューズで美しくつま先立ちになり、荒々しい海岸線を見回した……と。
    「待っていたぞ、ロシアン怪人、プリンシバル・ニンジンスキー!」
     ひときわ高い岩の上に現れたのは、鮮やかな藍の廻しを締めた見事なアンコ型の相撲レスラーであった。
     相撲レスラーの名は津世威海。アンブレイカブルである。
    「ここで会ったが百年目、いざ尋常に勝負せよ!」
    「ふっ」
     ロシアン怪人は気障に濡れた金髪をかきあげた。
    「私にはニホンでの使命があるのだが、まあ小手調べに相手をしてやらないこともない」
    「なんだとうっ、生意気なあっ。鍛え上げた相撲技、見せてくれるわ!」
     津世威海は四股を踏むと、
    「どりゃあああっ!」
     座布団のような手を前に出し、ロシアン怪人に迫った。が、美青年は強烈な張り手をスッと躱すと、
    「ヤッ!」
     軽く気合いを入れた。すると怪人の全身を包み込むように光の輪が現れた。
    「ぐわっ!」
     その輪は7つに分裂すると相撲レスラーを薙ぎ倒した。プリンシバルのオーラである。
    「……卑怯者め!」
     しかし相撲レスラーは体に似合わぬ俊敏さで立ち上がり、
    「怪しげな飛び道具など使わず、力で勝負しろ!」
     憎々しげに美青年を指さした。
    「ふっ、かまわないよ、さあ、来たまえ」
     ニンジンスキーは余裕の笑みを浮かべ、すっと第1ポジションを取った。
     体格的にはロシアン怪人は相撲レスラーの1/4くらいしかないのだが、この余裕はどこからくるのか。
    「だあああっ!」
     津世威海は奇声を上げながらロシアン怪人に組み付いた。先ほどの失敗を生かし、今度はがっぷり四つを狙う。
     しかし。
    「ああっ!?」
     ロシアン怪人は津世威海の廻しを素早く取ると、軽々と頭上に持ち上げた。
    「ははっ、私は常にプリマドンナたちをリフトしているのだよ。体格で判断してもらっては困るな。ウラーッ!」
    「うわあああああっ!!」
     津世威海の巨体が宙に舞った。
     
    ●いざ北の海へ
    「……というわけで、津世威海は海の藻屑と消えてしまうのですが」
     集った灼滅者を前に語っているのは春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)。
    「これは一連のアレだろうか、流氷に乗って北海道にやってきたロシアン怪人の?」
    「そうです」
     典は灼滅者の問いに頷く。
     季節感の無いことに、ロシアン怪人たちが大挙して流氷に乗り、北海道の海岸線にやってきた。理由はわからない。
     しかし、この漂着に対応して、アンブレイカブルが動き出した。恰好の腕試しとでも思ったのだろう、上陸したロシアン怪人を見つけては、ケンカを売っているらしい。
    「皆さんには、勝ったニンジンスキーの方の灼滅をお願いしたいのです。圧勝とはいえど、彼も多少は消耗していますので、ダークネスを2体倒せる、絶好の機会ですよ」
     今回の場合、2体を一遍に相手にするのは得策でない。津世威海が海に消えた直後にニンジンスキーに攻撃を仕掛けるのがいいだろう。
    「但し、このロシアン怪人、優男風の見かけの割にはなかなか強力です。足技を近距離と遠距離、両方持っています。リフトからの投げ技も強烈です。それから、プリンシバルのオーラらしいんですが、リングスラッシャーのようなサイキックも使います」
     バレエダンサーの脚力や腕力は侮れない。
     具体的にどこの海岸なんだ? と灼滅者が訊くと、典はパラパラと北海道の地図帳をめくり、
    「ここです」
     指したのは積丹半島の北側の海岸。
    「岩場ですので、ダークネス同士が戦っている間、隠れることは容易いと思います」
     隠れるには良さそうだが、岩場ということは、靴など装備を少し工夫する必要はあるかもしれない。
    「積丹半島は今、ウニの旬ですね」
     典は少しうらやましそうな顔になり。
    「サクッと解決したら、ウニ丼とか食べてきたらいいんじゃないでしょうか……いいなあ」


    参加者
    柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)
    葉月・葵(中学生ストリートファイター・d00923)
    沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)
    各務・樹(カプリシューズ・d02313)
    八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)
    村雨・嘉市(村時雨・d03146)
    ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)
    双葉・幸喜(魔法力士セキトリマジカル・d18781)

    ■リプレイ

    ●積丹半島にて
     透明な海と澄んだ空。それらとコントラストを成す、猛々しく黒い岩肌。
     しかし、絶景まっただ中にいるのに、大岩の陰に隠れた灼滅者たちが観察しているのは、世にも珍しい、というか、珍妙な光景である。なにしろ岩場でアンコ形の相撲取りと、白タイツのバレエダンサーが戦っているのだから。
     背後は断崖絶壁でスリル満点だが、大岩はダークネスの戦場を見下ろせる位置にあり、観察には最適だ。
     八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)が呟く。
    「何でじゃろ。真面目な戦いなのにふざけてる様に見えんのは。マワシとタイツをただただ眺めるだけのお仕事とか……つかバレエダンサーの格好って、間近で見ると結構すげぇな。やっぱステージで見るもんじゃなあ」
     沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)の岩を掴んだ手がふるふると震えている。
    「……こんなふざけた恰好した輩に、私の宿敵はやられてしまうわけですかッ」
     彼女は本来ならば宿敵であるアンブレイカブルと戦いたいのだが、作戦上そうもいかない。
     村雨・嘉市(村時雨・d03146)が宥めるように。
    「ご当地怪人の強さは見た目だけじゃ判断できねえから油断できねえぜ」
     嘉市はダークネスたちの方に顎をしゃくって、
    「実際強ぇみたいだしな。ふざけた名前と格好の奴だが、とりあえずこのニンジンとやらはきっちり退治しねえと」
     しかし各務・樹(カプリシューズ・d02313)は微妙に顔を歪めて。
    「でもね、あの衣裳を近くで見るのはやっぱりつらいわ。油断もあせりも禁物だけど、ね……」
     プリンシバルの衣装は、灼滅者たちに大変不評である。
    「そういえば」
     ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)が首を傾げ。
    「頭がご当地名物に変形していないご当地怪人って珍しい気がするわ」
    「ご当地怪人って、ロシアともなると国土の広さからして相当な数がいるんでしょうから、色々なんでしょうね」
     生真面目に答えたのは葉月・葵(中学生ストリートファイター・d00923)。葵は心配そうに。
    「流氷に乗って、どれだけやってきたんでしょうか」
     ルナエルが頷いて。
    「気になるわよね……しかし、流氷に乗って、って密入国にしてはずさんな計画よねえ……あら、幸喜の足につけてるの、いいわね」
     と、双葉・幸喜(魔法力士セキトリマジカル・d18781)が靴に装着している滑り止めのアタッチメントをしげしげと見た。ルナエルはドレスに岩場対応の安全靴が合わないことを気にしているのだ。
     その幸喜は岩陰から、熱心にダークネスの戦いを観察しつつ、
    「それにしても、プリンとかニンジンとか美味しそうな名前ですね」
     地声の大きいのを抑えながら、ぶつぶつと呟いている……と。
    「ぼちぼち決着が付きそうですよ」
     囁き声で皆に告げたのは、柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)。彼女は岩の上に登ってダークネスたちを観察していた。「私は一般人ですから」が口癖の彼女だが、岩場への登りっぷりや隠れっぷりは正に忍者で、決して一般人の身のこなしではない。
     灼滅者たちは改めて装備やカードを確認し、ダークネスの戦いを注視する……と。
    「ぐわああっ!」
     相撲アンブレイカブルが、高々と秋めいた空を舞った。
    「土俵があればあぁ~っ!!」
     アンブレイカブルは負け惜しみな台詞を残しながら、岩場を越えて海へと落下していった。
     ざっばああああん。
     その水しぶきは、灼滅者たちからも見えるほど大きなものだった。

    ●プリンシバル・ニンジンスキー
    「ふっ、口ほどにもない」
     ロシアバレエ怪人、プリンシバル・ニンジンスキーは、相撲アンブレイカブルが消えていった美しい海を見下ろし、気障に嗤った。
    「さて、と、ロシアンタイガー様はいずこに……ん?」
     ピルエットで振り返った怪人の前に、灼滅者たちが一斉に飛び出してきた。
    「Bienvenu au parti d'un magicien!」
    「柳真夜、いざ参ります!」
     樹と真夜が解除コードを唱え、仲間たちも次々と武器を現していく。
    「これで相撲に勝ったと思ってもらっては困ります。相撲魔法少女が相手になります!」
     幸喜がつっぱりを繰り出し、早速前衛に盾を与え始める。
    「おや、日本にもこんなに私のファンがいたとはね」
     ニンジンスキーは取り囲む灼滅者たちを見回すと、すっと腰を引いて優雅にお辞儀をした。
    「違うわよ」
     ルナエルがロッドを構えながら、きっぱりと。
    「連戦で申し訳ないけれど、ダークネスを見逃すわけには行かないの。お相手願えるかしら?」
     真夜もじりじりと敵に接近しながら。
    「北海道にはゲルマンシャークがいますから、合流されると面倒です。到着したばかりで申し訳ないのですが、いざ尋常にお相手願います」
    「なんだかよくわからないが」
     ニンジンスキーは場違いに明るく笑う。
    「君たちも私と手合わせしたいということかな?」
     樹が左腕の縛霊手を構えながら聞き返す。
    「まあそういうことね……ねえ、一体何しに日本に来たの?」
    「観光、って訳じゃねぇだろ。何処行く心算じゃ?」
     続けて篠介が問うが、ニンジンスキーは笑って、
    「そんなこと、君たちに言えるわけないだろう? ああ、どうせすぐに倒すんだからいいのかな」
    「それはどうでしょうね。あなたもアンブレイカブルとの戦いでさすがにお疲れでしょうし?」
     葵の無銘の小太刀には、炎が宿り始めている。
    「おやおや見てたんだろ? 無粋なアンブレイカブルを、私が簡単にやっつけちゃったのを?」
    「それにしても、どうして流氷なんです?」
     真夜も訊く。
    「あなたの容姿だったら、普通に飛行機や船で来れそうですけど」
    「だよなあ、すげえ季節外れだし」
     嘉市も首を傾げる。
    「そんなのわかりきってるじゃないか!」
     バレエ怪人は両手を高く上げるとくるくると2,3回トゥでスピンし、
    「偉大なるロシアンタイガー様と行動を共にするためさ!」
     跪いてポーズを決めると恍惚とした表情で大仰に空を仰いだ……が、すぐに我に返って立ち上がり。
    「とにかく、私の行動を妨げる者は、何者であろうとも排除するよ」
     すっ、と、ニンジンスキーは胸の前で腕を組んだ。
    「……来るぞっ!」
     プリンシバルのオーラが分裂した光輪となり、前衛を襲った。
    「たあっ!」
     しかし、星子はダメージをうけつつも敵の懐に飛び込み、雷を宿した拳を力一杯ぶちこんだ。仲間がニンジンスキーに質問をぶつけている間、彼女はふつふつと怒りのエネルギーを溜めて待っていたのであった。宿敵を目の前で簡単に倒された恨みは深い。小柄な体から殺気が立ち上っているのが見えるようだ。
     渾身の一撃にも敵はよろめいただけだったが、樹がすかさず異形化した拳を叩き込み、葵が炎を宿した太刀で続く……が、
    「おっと」
     その一刀はぎりぎりで躱され、ふわっとした袖を焦がしただけ。
    「ああ、焦げちゃったじゃないか」
     焦げた袖をニンジンスキーが残念そうに見て。
    「そろそろ本気を出そうか」
     バレエ怪人は両手を肩の高さに、左足を直角に上げると、右足で回転しながら、体勢を立て直しつつあった前衛に猛烈なスピードで突っ込んできた。
    「見せてあげよう、私のグラン・ピルエットを!」
    「うわあっ……このっ!」
     嘉市が蹴り倒されつつソードを繰り出すが、ロシアン怪人のやたらキラキラした金髪の一房を切り取っただけ。恥ずかしい衣装のウザいヤツでもダークネスはダークネス。灼滅は簡単ではない。
     しかし、灼滅者は果敢に飛びかかっていく。真夜は片割月を振り上げ、篠介は槍を捻りながら突っ込んでいく。ルナエルは魔力を込めた杖を、葵は雷を宿した拳を叩き込む。
    「嘉市さん、大丈夫ですか!?」
     その間に、幸喜がつっぱりでオーラを飛ばして回復する……と、それを見たニンジンスキーは。
    「ふうん……君が回復役か」
     唇に滲んだ血をぺろりと舐めると、
    「見たまえ、これが本場のグラン・ジュテだよ!」
     ぽーんと岩場を軽く蹴ると、両脚を前後に広げ、幸喜に鳥のように躍りかかった。
     星子がそれを遮ろうと岩を蹴って跳び上がるが、敵の高さには届かない。
    「きゃあっ!」
     トゥシューズが鋭く幸喜を蹴り倒した。
    「はははは」
     ニンジンスキーは岩場に倒れ込んだ幸喜を見下ろして高笑いする。
    「どうだい、高いだけじゃなく、美しかったろう?」
    「……くっ」
     幸喜が敵をにらみつけながら起き上がり、四股を踏む。
    「よくも……」
    「はっ、いけない」
     怒りに任せダメージを受けたまま突っ込もうとしている幸喜に、樹が異形化した左腕をかざす。
    「幸喜ちゃん、落ち着いて!」
     浄化の光に包み込まれ、幸喜は我に返る。
    「僕が!」
     回復を受ける幸喜の前に葵が立ちはだかり、前衛が再び一斉攻撃をかける。真夜と嘉市は左右から拳の連打を繰り出し、ルナエルが杖で殴りかかろうとしたところを。
    「ちょっとあなた、許可無く女子を抱き上げるなんてマナー違反よ!」
     ニンジンスキーは杖を躱すとルナエルを捕まえ、軽々と持ち上げた。当然ルナエルは手足をじたばたさせて反抗するが、あまり効いていない。ルナエルは高々と頭上に持ち上げられ、仲間たちは武器を構えながらそれを見上げ、焦る。
    「(拙い、あれはアンブレイカブルがとどめを刺された技!)」
     大ダメージを受ける恐れがある。
    「ルナエル、受け身をとるんじゃぞ……だあっ!」
     篠介がニンジンスキーの利き腕らしき右腕に渾身の力で槍を突き出した。槍はブラウスを裂き、ダークネスの皮膚と筋肉を突き破り、貫通する。すかさず葵が同じ腕に刀を振り下ろす。
     たまらずニンジンスキーはルナエルを取り落とし、彼女はひらりと岩場に降り立つ。
    「踊りたいなら、ひとりでやりなさい!」
    「くっ……私の美しい腕が……」
     ロシアン怪人は流血する腕を押さえて灼滅者たちを睨み付ける。端正な顔が、悪鬼のように醜く変化していく。
    「くそっ」
     ロシアン怪人はひらりと跳んで灼滅者の囲みを抜けた。
    「逃げるか!?」
     灼滅者たちは慌てて追う。
     ダークネスは先ほど灼滅者たちが隠れていた大岩の向こうに逃げ込んだ。
     先頭にいた嘉市が立ち止まる。
    「おい、どうするつもりなんだ? この岩の向こうは行き場がねえのに」
     この岩陰に隠れていたのだから良く知っている。裏側は数人が潜んでいられる程度のスペースしかなく、その向こうは海に切れ込む断崖絶壁だ。
    「おそらく……」
     葵がサイキックでも簡単には壊せそうもない大岩を見上げる。
    「岩陰で回復するつもりじゃないでしょうか?」
    「そうか!」
     嘉市も岩を見上げると、葵の推察を裏付けるように裏側から光が立ち上った。
    「ちっ、せっかく深手を負わせたのに、回復されちゃもったいねえな」
    「わたしが」
     樹が素早く空飛ぶ箒を出現させてまたがると、小声になって。
    「海側から攻撃して追い出すわ。出てきたところを総攻撃して頂戴」
    「それはいいアイディアです」
     真夜が同意し、仲間たちも頷いた。
     樹は岩場を蹴ると、海上へと高く舞い上がった。葵の予想通り、ニンジンスキーは岩陰に座り込んで腕に回復を施している。
     樹はLa pierre qui copie un souhaitを両手で持ち狙いを定めると、マジックミサイルを敵めがけて撃ち込んだ。
     どおん!
     魔法の矢は敵ばかりでなく、岩をも穿った。
    「くそっ」
     ニンジンスキーは毒づくと、光の輪を苦し紛れに飛ばしながら岩陰から脱出していく。
    「出てきたぞ!」
     追い出されたダークネスを、待ち受けていた灼滅者たちが一斉に攻撃する。
    「一般人キーック!」
     岩の上から真夜がキックを見舞い、倒れたところに嘉市と篠介が思いっきりロッドを叩きつけ、ルナエルは拳の連打を見舞う。
    「さっさと倒れろ、このニンジン!」
     葵は炎で追い打ちをかけ、幸喜も、
    「大相撲ビーム!」
     幸喜も巨大な力士型のビームを撃ち込む。
    「ぐ……」
     さしものダークネスも集中攻撃に起き上がることすら難しくなった。
     すかさず星子が顔面を掴んで持ち上げ、思いっきり岩場に後頭部を叩きつけた。地獄投げだ。
    「ぐわあっ!」
     ニンジンスキーの頭が割れ、黒い岩場に赤い血が飛び散る。
     しかしダークネスはしぶとく這いずりながら岩陰へと隠れようとする。
    「むっ、まだ動けるんですか」
     追いかけようとする星子を葵が引き留める。
    「待って、手負いの敵を無防備に追いかけるのは危険です。海側には樹さんがいますし」
     陸側にいる灼滅者たちは岩の陰から、あるいは上から、そっと敵の様子を覗き込む。
     箒上の樹は、逃げ込んできた敵に向けて再びロッドを構えた……が。
    「えっ?」
     這いずり逃げ込んできたニンジンスキーは立ち上がろうとしたがよろめいて、崖を踏み外した。
    「ロシアンタイガーさまあああ~っ!」
     どっかああん。
     ロシアバレエ怪人、プリンシバル・ニンジンスキーは海へとその身を帰すことなく、落下途中で主の名を叫び爆散して消えた。

    ●ウニ丼
    「これが楽しみでしょうがなかったんですよ」
     葵は、漁師料理店のおばちゃんがたった今運んできてくれた、鮮やかなオレンジ色のウニがてんこ盛りの丼を前にしてにっこにこだ。
    「スーパーで売ってるようなのはそんなに好きじゃないんですけど、これは新鮮で美味しそうです」
     幸喜もこぼれおちそうなウニの山を上下左右から眺め回して嬉しそう。
    「やっぱ北海道のウニはたまんねえなあ」
     嘉市は今にもよだれを垂らしそう。
    「こういうのってとれたてが何より美味しいのよね……お土産も買っていけそうかしら?」
    「私も買って帰りたいわ。食べたがっている人がいるのよ」
     樹とルナエルの問いに、ドンと胸を叩いたのは真夜である。
    「大丈夫です」
     予め店に電話してバフンウニの在庫と値段を尋ね、予約しておいたのだった。漁期最終盤なので、賢明な行動である。
    「ちゃんといっぱい用意してもらってます……それにしても、篠介さんと星子さん遅いですねえ?」
     ふたりは海に残ったので、一足遅れてやってくるはず……と言っている間に店の戸があいて、篠介が入ってきた。
    「悪い、遅くなったのう。お、ウニ丼来てる。美味そうじゃ」
    「あら、星子は?」
    「彼女は土産にするから、ウニ丼はパスだそうじゃ。これじゃ勝ち逃げです、とか呟きながら、悲しげに海を眺めておった」
    「篠介は、怪人が乗ってきた流氷探してみたんだろ、どうだった?」
     嘉市が尋ねると、篠介は首を振り、
    「見つけられなかった。溶けてしまったのかもしれん」
     あるいは更に流されてしまったか。
    「結局、奴らの目的はサッパリ分からなかったわね」
    「ニンジン自身もあんまり分かってない感じじゃありませんでした?」
    「でも依頼は成功したわけですし、遠慮なくウニ丼頂きましょうよ」
    「そうよ、新鮮なうちに食べましょ」
    「じゃ、いくぞ、せーのっ」
    「「「いっただっきまーすっ♪」」」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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