イフリート源泉防衛戦~熱海・走り湯

    ●クロキバ
    「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
     語っているのは、サングラスに黒い上着を着たワイルドなイケメンである。
     そのイケメンを、武蔵坂学園のエクスブレインたちは興奮と興味と恐怖の入り交じった眼差しで注視している。
    「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
     語っているのは、イフリートの一派を率いるクロキバである。これまでは手紙で温泉襲撃事件の解決を灼滅者たちに依頼してきた彼であったが、今回の事態を受け、自ら人型をとり武蔵坂学園にやってきたのだ。
    「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
     クロキバは長く黒い爪の生えた掌を、自らの膝に置き。
    「ヨロシク頼ム」
     深々と頭を下げた。
     
    ●熱海が危ない!
    「ええっ、クロキバが学園に来てたの!?」
     灼滅者たちは春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)の話に目を剥いた。
    「なかなかのイケメンでしたよ……で、それを受けて皆さんに行っていただきたいのは、おなじみ熱海の源泉のひとつ、伊豆山温泉の”走り湯”です」
     走り湯は熱海温泉街より少し国道を南下した海側の岩場にある古い源泉である。1300年程前に発見されたと言われ、古くは源頼朝も入浴したと伝えられている。今も15mほどの浅い洞窟の奥から、こんこんと60℃以上もある塩化物泉が沸き続けている。付近には足湯も作られ、源泉であると共に観光スポットでもある。
    「そこに、ノーライフキングの眷属が現れるんだそうです」
     眷属・アンデッドは、海からと国道側から2手に分かれて走り湯を襲撃してくる。それぞれ10体ずつ、合計20体。
     それをできるだけ源泉に近づけないように撃退しなければならないので、海岸と、国道から走り湯に降りる階段の2組に分かれて迎撃するのが基本作戦になる。
    「いい情報としては、出現が夜なので観光客はいません……が、悪い情報としては、すぐ傍に大きなホテルがあります」
     走り湯自体に観光客がいないのは幸いだが、ホテルへの対処は考えなければなるまい。
    「あ、そういえば、イフリートもいるのよね。一緒に戦えるのかしら?」
     灼滅者のひとりが顔を上げて訊いた。
    「そうなんですけどね」
     典は渋い顔で頷いて。
    「それが、ありがたいような、ありがたくないような……」
     走り湯を守るのはイノガシラという猪に似たイフリートである。
    「ご存じのように、イフリートはあんまり頭が良くないので複雑な指示には従ってくれないんですよ」
     ああ~そうか~、と灼滅者たちは、これまでのイフリートとの戦いや触れ合いを思い出す。
    「例えば、あの通り好戦的ですから、敵が目の前にいるのに、戦わずに我慢しろ……とか、他の灼滅者が戦っているのに待機していろ……という指示については、我慢しきれないかもしれません」
     イフリートは上手く使えば大きな戦力になるだろうが、下手をすると……ぶっちゃけ邪魔になるかもしれない。
     うーむ、とイフリートの扱いについて悩み出した灼滅者たちを、典は励ますように。
    「まあまあ、その近所にあるホテルでは、走り湯に入ることができますから、無事に解決したら日帰り入浴で疲れを取られたらいいんじゃないでしょうか。展望露天風呂とか岩盤浴とかもあって、なかなかラグジュアリーらしいですよ?」


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    九条・茜(夢幻泡影・d01834)
    迅・正流(斬影騎士・d02428)
    呉羽・律希(凱歌継承者・d03629)
    川西・楽多(ダンデレ・d03773)
    逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)
    天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)
    霜月・真冬(は怖いお兄さんに守られてる・d15418)

    ■リプレイ

    ●説得
    「そう言われましてもねえ、花火や、街に飲みに出る方も」
     ホテルの支配人は、不満そうに言った。
    「緊急事態なんです、猛獣が徘徊しているのですよ? 宿泊客も貴方達も絶対にホテルから決して出ないように……!」
     プラチナチケットで警察関係者を装った川西・楽多(ダンデレ・d03773)が訴えるが、
    「まあ一応お願いはしますけど……難しいですねえ」
    「勝手に出て行っちゃったお客様のことまで責任持てないなあ」
     支配人も従業員たちも、イマイチ煮え切らない。
     楽多はちらと背後に控える霜月・真冬(は怖いお兄さんに守られてる・d15418)を振り返る。真冬は頷くと、王者の風を発動する……途端に、支配人はおどおどと挙動不審にうつむいた。
    「理由は説明の通りです。少なくとも今晩中は誰も外に出ないように、館内放送などで伝えて下さい……良いですね?」
     真冬は目を細めて支配人たちを睨み付ける。王者の風の効き目だけでなく、その目つきもSJにしてはなかなかのもの。
    「は、はい、はいっ、かしこまりましたっ」
     支配人たちは先ほどまでののらりくらりした態度はどこへやら、やたらぺこぺこと頭を下げた。
    「こっちは大丈夫そうね」
     念のため王者の風の重ねがけをスタンバイしていた天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)が囁く。
    「ええ、次は海岸側のホテルへ」
     楽多が囁き返し、3人は足早に建物を出た。

    ●イノガシラ
     海岸に残った灼滅者たちは、もりもりと果物を食べる猪に見入っていた。果物は麒麟のプレゼント、食べている猪はもちろん、走り湯の守護猪・イノガシラである。
     戦闘前に親睦を深めたいところだが、灼滅者たちは微妙に及び腰である。食べっぷりは普通の猪と変わらないが、大きさはポニーほどもあるし、茶色の背には風紋のような金赤色の模様が蠢き、半透明の大きな牙の中には金色の炎が揺らめいている。
    「……あのー」
     呉羽・律希(凱歌継承者・d03629)が勇気を出して背中に触れる。毛が存外柔らかい。
    「イノガシラさんって、雄雌どっちですか?」
     イノガシラはブヒッと短く鳴いて片方の後ろ足をぴょこんと上げた。見せたのは、立派な……。
    「きゃあ」
     女子たちは思わず悲鳴を上げて目を覆う。
    「お、雄ですね」
     迅・正流(斬影騎士・d02428)が割り込んで、慌てて立派な何とかを隠す。
     とりあえず、日本語をある程度理解していることはわかった。
     正流は自分の左腕を傍らの岩で軽く傷つけ、
    「俺たち、仲間。一緒に戦おう。宜しく」
     クリエイトファイアの炎を見せると、猪はブヒブヒと鼻を鳴らした。
    「イノっちって呼んでいいでしょうか?」
     ブヒ。
     前足で握手。何か通じ合ってる。
    「では、イノっちさん」
     椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が、パンと手と拳を打ち合わせながら。
    「親睦の印に、一発体当たりなどいかがですか?」
     猪は金色の目をきらーん☆ と光らせた。
    「そうこなくちゃ……さあ、きなさい!」
     なつみも張り切って構えるが、
    「くっ……すごい力……えっ……わあ―――」
     当たったイノガシラがぶんと首を振ると、なつみはぽーんと投げられてしまった。
    「なつみちゃん、大丈夫―!?」
     ざぶーん、と海に投げ込まれたなつみだったが
    「大丈夫です。てへ」
     すぐに平然と上がってきた。ウォーミングアップ的な手加減攻撃だったようだ。
     と、そこにホテル担当者たちが戻ってきた。
    「両館ともきっちり言い聞かせてきたよ……わあ、イノガシラさん、もう食べちゃったの? まだあるよ、桃?梨と葡萄だったらどっちがいい?」
     と、きりんが更に果物を振る舞い、真冬と楽多がイノガシラに挨拶をする。
    「それではよろしくお願いします」
     ぺこりと頭を下げたのは真冬。
    「宿敵と共同戦線っていうのも複雑ですが、温泉が荒らされるのも問題ですからね。よろしく頼みますよ」
     楽多は、猪の顔をとんとん叩く。
    「全員揃ったね。作戦開始かな」
     逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)が言うと、イノガシラは注意を促すようにブヒッと鳴いて、足下の平たい石を前足でころんとひっくり返した。
     ブヒブヒ。
     これを見ろ、と言っているようだ。
    「何?」
     灼滅者たちはヘッドランプの光で石を見る……と、そこには。
    『ドゾ ヨロシク』
     例の金釘文字が彫り込んであった。クロキバに書いてもらったのだろうか。
     これには、イフリートとの共闘に、
    「(まあ、目的が同じならそういうこともあるかな……)」
     という感触を持っている九条・茜(夢幻泡影・d01834)をはじめとするイマイチ懐疑的な者たちも、ちょっとばかりキュンときた……かもしれない。

    ●海側戦線
     ぐあぁぁぁ……ぐおぉぉぉ……。
     不気味な叫び声が波間に響く。真っ黒な海から、アンデッドが次々と迫ってくる……というか、ひたすら走り湯を目指しているのだろう。彼らは使命を果たすこと以外の思考は持たない。
     崩れかけた体に、うつろな目。ボロボロの衣服。水滴を垂らしながら、敵はひたすら接近してくる。嫌な臭いも漂い始めた。
     イノガシラ係の莉子が言い聞かせる。
    「イノっち、わたしと同じ敵を狙って一匹ずつ確実に仕留めていこう」
     ブヒッ、と気合いの入った返事が返ってくる。
    「行こうか」
     正流が戦神降臨を発動する。
    「ええ。始めるわよ……たあっ!」
     莉子が岩場を蹴って跳び上がり、先頭の敵に炎を宿したロケットハンマーの一撃を見舞った。ばきり、と手応えがあり、左腕が根元からふっとんだ。しかしそこはアンデッド、腕をまるで顧みることなく前進するのみ。
     莉子は一跳びでイノガシラの傍らに戻ると、
    「わかる? まずはあの先頭のヤツを」
     ブヒッ。
     イノガシラは鼻息も荒く岩場を蹴ると。
     ゴオッ。
     牙から炎を迸らせた。炎は敵数体を巻き込んで火だるまにする。
    「(すごい威力!)」
     思わず一歩下がってしまった灼滅者たちだったが、アンデッドは黒焦げになりつつも前進を止めない。
    「よし、イノっちの実力はわかった。我らも続こう!」
    「はいっ、いくわよー」
     正流の指示に、麒麟がギターをかき鳴らす。音波が空気の塊となり、黒焦げの敵を打ち砕く。アンデッドは岩の上で黒い塵となって消えた。
     続いて莉子がその後ろの一体にロッドで魔力を流し込むと腹部が破裂し、内蔵がぬるりとあふれ出てきた。炭化した体からピンク色の内蔵をはみ出させつつも歩み続けるかつて人間だったモノ。思わず目を背けたくなる光景だが、
    「無双迅流口伝秘奥義! 冥王破断剣!」
     正流が破断の刃でトドメを刺す。
     その間に、イノガシラはもう1体を炎を宿した牙で突き刺すと、海へと放り投げていた。
     あっという間に3体を灼滅。しかし、まだダメージを受けていない後方の敵数体が大きく口を開けると大量の黄色い煙を吐いた。
    「うっ、臭いよっ」
     莉子が思わず後退る。腐臭と硫黄の混じったような強烈な臭いが、踏み込んでいた前衛を襲う。
    「こりゃたまらん……」
     正流も思わずじりっと退いてしまったが、
     ブヒイィィィッ!
     イノガシラはひときわ大きく鳴くと、炎の奔流を見舞った。
    「イノっち、臭くないの?」
     莉子が鼻と口を押さえながら呟くが、臭くないというより、縄張りを荒らされた怒りが勝っているのだろう。
    「……あっ!」
     正流が臭さを堪えてイノガシラの方に駆け出す。黒焦げになった敵数体が、一斉に猪の巨体に噛みついたのだった。
     イノガシラはぶんと体を振って敵を振り飛ばしたが、かなり肉をもっていかれている。体中に噛み取られた傷が深々と残り、血の炎が流れ出す。
    「イノっち、一旦下がれ! 俺、護る。下がって回復!!」
     正流はイノガシラに言う。が、怒りで興奮した猪は、更に突っ込んで行こうとする。
    「クロキバの命令、忘れたか!?」
     正流が叫ぶと、大猪の足が止まり。
     ブフゥゥゥ……。
     不満そうに唸りながらも下がっていく。
    「イノっちが戻ってくるまで少しでも減らしておかなきゃね」
     莉子も鼻と口をタオルで覆いつつ、正流と背中合わせになり、取り囲むアンデッドに対峙しハンマーを構えた。
     後方では、
    「今回復するからね」
     麒麟が癒やしの歌声を響かせる。しゅうしゅうと煙を上げて傷口に肉が盛り上がっていく。
    「さあ、頑張って。イノっちさんならあんなのガツンっていっぱつだよね!」
     ブヒッ!
     イノガシラは元気に返事をすると、灼滅者2人が武器を振るう前線へと戻っていく。

    ●国道側戦線
     石段側でも、戦闘が始まっていた。こちらは国道を渡った山側からアンデッドが沸いて出た。
    「ハアッ!」
     なつみが気合い一発、迫りくるアンデッドをシールドで殴り飛ばす。そこに楽多が挟み撃ちの盾で炎を叩きつけトドメを刺す。
    「これで3体。微妙にやっかいだな」
     仲間の消滅を意にも介せず進んでくるアンデッドに、律希が五星結界符を発動する。
     階段の入り口を封鎖し戦っているのだが、下りの階段を守るのは難しいし、決して強い敵ではないが、数は多いし深手を負わせても倒れるまでひたすら進み続けるのがやっかいだ。
    「根気よく止めるしかないよね……ペトロカース!」
     茜が前衛に襲いかかろうとしていた敵に、指輪から魔弾を撃ち込みよろめかせる。
    「皆さん、捕まえてください」
     真冬は、影から2名のガチムチ黒服エージェントを出現させると、よろめいた敵を捕まえる。
    「ハチャァァァァァ!」
     動けない敵に、なつみが雷を宿した拳を叩き込み顔を半分吹き飛ばしたが、敵はまだ倒れない。
    「温泉をお前たちに滅茶苦茶になんてさせませんよ!」
     楽多がシールドで顎を突き上げ、頭蓋骨と脳みそが見えている頭を思い切りよく掴むと石畳に叩きつけた。
     ぐじゃり。
     嫌な音がしたが、4体目も塵となって消滅した。
     しかし、文字通り仲間の屍を乗り越えて、残りのアンデッドたちはひたすら前進を続ける。
    「これ以上は一歩も進ませないよ、虚空ギロチン!」
     茜は大鎌を振るって刃を召喚し、なつみが盾で殴り飛ばす。真冬は魔導書を開いて原罪の紋章を刻み込む。
    「さぁ、戦劇を始めようか!」
     律希は華麗なステップを踏み、楽多は盾に炎を乗せる。
     すると、3体ほどのアンデッドが一斉に口を開いた。
     ハアアァァ……。
     その口から黄色い煙が立ち上る。
    「うわ、臭っ」
     前衛は鼻を押さえて思わず後退る。その隙を突いて一体のアンデッドがすうっと前に出てくると、
    「!」
     なつみの腕をひっかいた。飛び退いたが間に合わず、防具が裂け、腕には深々と爪の跡。嫌な感じにじくじくと血が滲んでくる。
    「なつみちゃん、大丈夫!? ……あ?」
     気づくと、茜の携帯電話が鳴っていた。麒麟からだ。
    「はい、どうしたの……え、もう終わったの!?」
     臭さに涙ぐみつつ、仲間たちも電話に耳を澄ます。
    「え、こっち? 大丈夫だとは思うけど、敵多いし、臭いし……ありがとう、待ってるね!」
     茜は電話を切り、
    「海岸側、もう終わったから手伝いにくるって……あっ、清めの風!」
     向こうがやたら早いのはイノガシラ効果だろうか、と思いつつも、仲間が駆けつけてくるということと茜の回復により、まだ臭いは残ってはいるものの意気は上がる……と。
     ドドドド……。
     地響きが背後から近づいてくる。石段を何者かがすごい勢いで駆け上ってくる。後衛が咄嗟に道を空けると、巨大な火の玉が猛スピードで通り過ぎていった。
    「――イノっち!?」
     火の玉は階段から飛び出すと敵の群れに突っ込み、牙から炎を迸らせた。塊になっていたアンデッドは、一気に燃え上がる。
    「うわあ……」
     その勢いに灼滅者たちは一瞬唖然とし、そして納得する。
    「(なるほど、海岸側が早々と片付いたわけだ)」
     機と見たなつみが、すかさずくすぶる敵の群れに飛び込んでいく。
    「拳技と気術の応用技、見せてあげましょう……ホチョォォォ!」
     トンファー型のロッドをぶん回し、アンデッドを横殴りにする。
    「と言っても、内側に直接ダメージを与えるだけですけどね!」
     殴られた首が吹き飛ぶ。
    「皆さん、お願いします」
     真冬は脚を伸ばし、影のエージェントは長ドスを出してアンデッドの腕を切り落とす。
    「私の炎も負けてませんよ!」
     続けて楽多が炎を宿した盾で殴りつけると、燃え尽きるようにして消えた。
     律希は黒焦げの敵に光の輪を飛ばし、イノガシラは体当たりで国道の向こうの山までぶっとばす。
     敵は残り3体。それらも大分ダメージが蓄積しているようで、体のどこかしらが欠け、瀕死といった状態だ。
    「一気にいこう!」
     律希が足止めの符を、楽多が盾アッパーから地獄投げの得意技を放ち、イノガシラが牙で貫く。
    「はい、そこまで、残念でした!」
     茜が魔法の弾丸を撃ち込み、なつみが盾で押し返したところを真冬のエージェントが長ドスで貫いて――。
    「……あれえ?」
     階段からはあはあという息づかいと、驚きの声が上がった。
    「もう終わっちゃった?」
     海岸組の仲間が上がってきたのだ。
     ちょうど最後の敵が、黒い塵となって海風に散っていくところ。
    「なんだ、それなら急いで上ることなかった……」
     海岸組の3人は疲れた様子で石段に腰を掛けた。戦闘直後に階段ランニングでは、灼滅者といえど疲れる。
    「お疲れ様です……何とか無事に終わりましたね。皆さん、団子はいかがです?」
     楽多が階段脇に大事に隠しておいた団子を取り出し、仲間たちに配る。
    「(不本意ではありますが……)」
     傷だらけの猪にも1本進呈すると、イノガシラは串ごとバリバリと美味しそうに団子を食べた。

    ●女湯
    「熱海には一度来てみたいと思っていたので、丁度良かったです」
     内湯の窓際に浸かる真冬が、露天風呂にいるなつみに声をかける。
    「ええ、熱海はいいですね。星も綺麗です」
     海辺のホテルの展望風呂。夜中である。外来入浴はとっくに終わっている時間だが、王者の風の効き目が残っていたので……。風呂自体は24時間入ることができるので、そんなに迷惑ではないだろう。
     おかげで女湯は貸し切り状態、なつみも露天でゆったり体を伸ばして夜空を見上げる。
    「そういえば、イノっちさんは温泉入ってるかなあ」
     洗い場で、茜の背中を流していた麒麟がふと呟く。
    「人の姿になれれば、一緒に入れたのにね」
    「なれたとしても雄だよ」
     茜が笑い、隣でシャンプーをしていた莉子も笑って。
    「今頃きっと、走り湯を独り占めしてるんじゃないの?」

    ●足湯
     同じホテルの足湯では、正流と律希がふたりきりの時間を楽しんでいた。
    「楽多さん、男湯ひとりぼっちになっちゃいましたね。寂しくないかしら」
    「彼もきっと、広い風呂独り占めを楽しんでると思いますよ……それにしても、お疲れ様でしたね」
     正流が眼鏡を外し、律希の手を握る。
    「今度はふたりきりで来たいですね」
     律希は返事代わりに、正流の肩にそっと寄りそった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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