断末魔のセミ爆弾回収大作戦

    ●主婦の受難
    「きゃっ」
     ベランダで洗濯物を干している主婦の足下に、突然ボトッと落ちてきたものがある。ソレはジジブジブジと鳴きながら、ぐるぐると焼けたコンクリートの上でもがき回った。
    「ああびっくりした、セミかあ……」
     飛び込んできたのは、瀕死のセミであった。
    「そういえば、セミの声も少なくなったわね」
     主婦はベランダのすぐ前に広がるO城址公園の森に目をやった。つい先日まで、毎日うるさいくらいセミが鳴いていたが、気づけば秋の虫の声が優勢になっている。
    「夏も終わりね」
     そうしている間にも、最後の力を振り絞って暴れていたセミは、仰向けのまま静かになっていた。まだぴくぴくとかすかに脚は動いているが、命が尽きるのは時間の問題だろう。
    「かわいそう。セミって地上に出てる時間が短いのに、こんな死に方なんて。せめて土の上に戻してあげよう」
     地下で何年も幼虫として過ごした後、やっと地上に出たと思ったら、鳴くだけ鳴いてせいぜい1ヶ月ほどで逝ってしまう。そんなセミの生き様に哀れを感じる者は多いだろう。自宅のベランダで死なれたら寝覚めが悪いというのもあるが。
     主婦は、ベランダの隅から箒とちりとりを取った。そしてそっと、もう殆ど動かないセミに箒の先で触れた。
     --その途端。
     
     どっかあああん!

    ●武蔵坂学園
    「瀕死のセミが爆弾化するという事件が起こるらしいんだ」
     困った顔で、集った灼滅者たちに告げたのは、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)。
    「そうなんです。セミが都市伝説化しましてね」
     後を受けたのは、春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)。
     瀕死のセミが爆弾化するのは、神奈川県西部O市にある、O城址公園。春には桜、秋には紅葉の名所となる広い公園であるから、セミが棲むには申し分ない。
    「今回、皆さんにはセミの回収をお願いします」
     公園内で、木にしがみついていたり、地面に落ちたりしている瀕死のセミを集め、命が尽きるのを見届けたら、最終的には公園の隅に埋めて供養するのが今回の任務だ。
     一見簡単そうだが、触れた途端爆発するので、覚悟は必要だ。
    「セミの回収方法と、供養方法は皆さんに任せます。セミ全てが爆弾化しているわけではなく、およそ5割くらいの確率と思われます」
    「まだ元気なヤツや、もう死んでしまっているのは爆発しないしな……そうだな、瀕死のヤツだけ1人5匹も回収すればいいかな?」
    「ええ、そんなもんでしょう」
     蝶胡蘭の問いに典は頷く、
    「ちょっと待って」
     灼滅者のひとりが手を上げる。
    「O城って観光地でしょ。一般人が大勢いるんじゃないの? 危ないわ」
    「うん、その通りだ」
     蝶胡蘭が頷いて提案する。
    「それで考えたんだが、今回の作戦は早朝決行がいいんじゃないか」
     朝ならば人は少ないし、日が昇ればセミも活動し始めるので、捜索もし易いし、影響も最小限に抑えられるだろう。
    「今の季節ですと……そうですね、5時半スタートでどうですか?」
     ……5時半。
     軽く言った典を、灼滅者たちは睨み付ける。
     とはいえ、早朝トレーニングや散歩の人もいると思われるので、広い公園の要所要所で早めに殺界形成をかけておくとか、ESPを使って準備するのも手かもしれない。
    「あのさ……」
     他のひとりが遠慮がちに。
    「こういうのって、俺たちより、警察とか自衛隊の爆弾処理班のお仕事じゃないか?」
     典は肩をすくめて。
    「警察や自衛隊が、セミ爆弾なんて話を信じてくれると思います?」
     ……思わない。
    「セミ爆弾、そこそこ威力が強いんですよ。皆さんなら軽傷で済みますが、一般人だったら大ケガです。予知にあった主婦みたいなのも大変ですが、もし、公園で遊んでる子供が無防備に拾っちゃったりしたら……」
     それは恐ろしい。
    「というわけで、珍妙な依頼で申し訳ないが、よろしく頼む」
     蝶胡蘭は深々と頭を下げた。
    「僕からもよろしくお願いします」
     典も頭を下げて……上げて、にっこりと微笑んで。
    「任務完了したら、せっかくなのでO城観光してきたらいいんじゃないですか? 天守閣からは相模湾に伊豆半島に箱根の山々、天気が良ければ富士山も綺麗に見えるそうですよ」


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    巽・空(白き龍・d00219)
    秋庭・小夜子(いつもとなりに・d01974)
    綾峰・セイナ(元箱入りお嬢様・d04572)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    ジグバール・スィーラ(白光の環・d15196)
    篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)
    浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)

    ■リプレイ

    ●準備OK
    「これで準備はOKだな」
     広いO城址公園の要所要所に、殺界形成を巽・空(白き龍・d00219)と綾峰・セイナ(元箱入りお嬢様・d04572)が、サウンドシャッターを加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)と天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)がかけて回り、集合場所に戻ってきたところだ。
    「くっくっく、蒼刃の魔王である私がわざわざ虫ごときの相手をせねばならぬとはな。しかし、民草を守るのは王としての責務。仕方があるまい」
     スレイヤーカードを解除しながら中二病丸出しで呟くのは、篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)。しかし、ふわあとひとつ大きなあくびをし。
    「でも、眠いよぅ……」
     眠いのは無理もない。早朝5時半である。
    「あとは携帯番号の交換をしとこう。基本30分おきくらいに連絡し合いながら、ヘルプが必要な時には助け合おう」
     蝶胡蘭が言い、ジグバール・スィーラ(白光の環・d15196)が携帯電話をとり出す。
     次々と番号を交換しながら浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)が、
    「しかし、物凄く限定的なタイミングで爆弾になるなんて、よくこんな都市伝説が生まれたものね。ま、夏の最後の後片付けよ!」
    「そうよね、爆発するセミなんて、えらく物騒な都市伝説もあったものだわ」
     セイナが同意する。
    「でも、戦わなくていいんだから気楽なもんだよな。ちと暴れまわるかね! 目指せ城址公園セミ花火大会!」
     威勢良く言ったのは、秋庭・小夜子(いつもとなりに・d01974)。
    「いやしかし、セミの死を“セミファイナル”などと呼ぶこともあると聞くが……この場合、セミファイナルアタックとでも言うべきか……意外に厄介かもしれない」
     それに玲仁が真顔で応える。何か違うような、と仲間達は思ったが、最上級生の玲仁にはツッコミにくい。
    「ま、何はともあれお互い頑張りましょうね」
     空が全員分の番号を入力しおえた携帯電話を、しっかりとポケットにしまって。
    「いざ、参りましょう!」

    ●一花
     一花はくんくん、と鼻をうごめかせた。
    「んー、やっぱりセミは匂わないか」
     DSKノーズを使ってみたのだが、セミ爆弾を嗅ぎ分けることはできないようだった。
    「それならそれで」
     セミのいそうな桜の古木に、壁歩きを使ってとりつく。平らな壁のようなわけにはいかないが、それでも這うように幹を登っていく。
    「くっくっく、私のマナをもってすれば、大地の理さえも捻じ曲げ、意のままに操ることが可能だ……忍者みたいで面白~いっ!」
     と、ついつい年相応の反応を見せながら気分よく上っていくと早速、弱々しく羽を震わせているセミを見つけた。
    「発見! これはまさしく瀕死のセミ!」
     背負っていた捕虫網を取り、無造作に網を被せる……と。
     どっかあああん!
    「ちょっ!?」
     爆発の勢いで、一花は落ちてしまった。
    「いたぁぁぁ~いっ!」
     爆弾に直接触れたわけではないし、灼滅者であるから大したケガはしていないが、痛いものは痛い。腰をさすりながら起き上がると、
    「きゃあっ!?」
     爆発の振動でか、傍らに瀕死のセミが落ちているではないか。
     一花はおそるおそる腕を伸ばして、ただの棒と化した網の先っぽでそっとつついたが、セミは苦しげにもがくばかり。
     すると一花はバッと立ち上がり、
    「くっくっく、私の闇の波動は虫すらも畏怖させる。さぁ、怯えろ、竦め、爆発できぬまま捕まえられていけぇっ!」
     急に偉そうになり中二台詞を吐いた……が、直接触るのは怖いらしく、わざわざ腕をデモノイド化させてやっと袋に回収した。
    「ふうー」
     一花は息をつくと、
    「小夜子と空は組んで探すって言ってたな……電話してみようかな」

    ●小夜子&空
    「……へえ、もう2匹。うちらはまだ見つけてない。うん、また何かあったら電話くれよ」
     樹上で箒にまたがった小夜子は、一花からの電話を切った。
    「一花はもう2匹だってさ。うちらもがんばろーぜ」
    「はい!」
     空は樹下で大きく手を振った。
    「よし、やったるぞお……っとお!?」
     気合いを入れ直した途端、小夜子は傍らの枝に今にも落ちてしまいそうなボロボロのセミを見つけた。
    「やったあ、見つけたぜー!」
     下にいる空に張り切って声をかけると、腰に差していた捕虫網を取り、
    「よしよし、今捕まえてやるからな……っとお!」
     どっかあああん。
    「爆発したあぁぁぁ!」
     箒から落ちてしまった。
    「大丈夫ですか!?」
     空が慌てて駆け寄ってくる。
    「ば、バベルの鎖があるから痛くないもん」
     強がりつつ小夜子がよろよろと起き上がったところで、突然空が。
    「ああっ!」
     小夜子の背後の木を指さした。
    「えっ何? セミっ!?」
     小夜子は振り返りつつ引くが、空はその木に駆け寄って。
    「み、見てください、これっ! カブトムシさん、見つけました!!」
     幹で食事中の立派なカブトムシに目をきらきらさせる。
     ……と。
     ポトリ。
     空の足下に落ちてきたのは、今度こそセミだ。
    「うわっ! セミ怖い……」
     小夜子は飛び退くが、空は覚悟を決めるように深呼吸すると、
    「今度はボクがいきますッ!」
     男らしくガバッと手づかみにした。
     どっかあああん。
    「うわあ、空っ!?」
    「けほっ、けほっ、へ、平気です……」
     あちこちコゲてはいるが、手づかみの割には大したダメージはうけなかったようだ。空はそんな気がしてたんだ~、みたいな悟り顔で集気法を発動し、
    「次、行きますか」
     と、言った。
    「そ、そだな……あ、うち、そういえば試したいことがあったんだ」
     小夜子はそう言うと旅人の外套を発動し。
    「これで爆発がどこまでカバーできるかなって」
     旅人の外套は、使用者や使用者の起こした現象が、一般人に認識も記録もされなくなるESPである。しかし空は考え込みながら、
    「なるほど……でも小夜子さん、試そうにも先にESPで人払いも音の遮断もされているので、すでに実験対象が公園内にいないのでは……?」
    「ああっ、そうかっ……ま、いいや、次行こう」
     小夜子はがっくりしながら再び樹上へと舞い上がった――すると。
    「げっ、また見つけちゃった!」
     すぐにあまり高くないところに羽を必死にばたつかせているセミを見つけてしまった。
    「今度はフリージングデスで落とすから、空、離れてろ」
    「はっ、はいっ」
     空は傍らの大木の陰に身を伏せた。
    「じゃ、いくぜ……えいっ!」
     ビシリ、とセミが凍り、地面に落ちた。2人はしばし落ちたセミを見つめていたが、何事も起こらない。
    「せ、せーふ」
     空が息を荒げながらセミを素早く拾って袋に入れた。
    「でもまだまだノルマが……心臓に悪いです」
     なんかすでに涙目である。
    「うん、先が思いやられるな」
     小夜子も箒の上で溜息を吐いた時。
    「あ……?」
     微かに爆発音と、続いて歌声が聞こえてきた。
    「あの声は玲仁さん?」
    「先輩もやらかしたみたいだな。連絡入れておくか」
     小夜子が電話を取りだした。

    ●玲仁
    「大事ない。ファイナルアタックが来ると分かっていれば、驚くには値せん……ああ、そちらも気をつけて」
     クールに応えると、小夜子からの電話を玲仁は切った。焦げた前髪をかきあげながら、爆発で壊れた捕虫網を見やる。残念そうに溜息を吐くと再び樹上に目を凝らしながら歩き出す……が。
    「……うっ」
     すぐに立ち止まり、跳び退る。アリにたかられたセミの死骸が落ちていた。玲仁はそもそも虫が得意ではなく、中でもこの手の光景がことのほか苦手なのである。1mくらいも遠巻きにしてそこを通り過ぎる。
    「……うっ」
     一難去ってまた一難、傍らの桜の枝に今にも落ちそうなよろよろのセミを発見してしまった。しかも長身の彼でも微妙に届かない高さ。
    「仕方あるまい」
     玲仁はより深い溜息を吐くと、一番下の太い枝によっこらしょとよじ登った。木登りもあまり得意ではない。それでも何とか枝にしがみつき懐から菜箸を出すと、そっと瀕死のセミに触れ……。
    「……うむ」
     爆発しない。ホッとして、
    「すまないが、回収させてもらうぞ……最期の時は仲間と共に、か。俺は勘弁だけどな」
     呟き、箸でつまんで袋に入れる。
     その時、天守の方から銃の音が聞こえてきた。
    「あれは……加藤か。1度連絡を入れておくか」
     玲仁は桜から飛び降りると携帯を出した。

    ●蝶胡蘭……と、ジグバール
    「……ええ、緊張しましたけど1匹目は大丈夫でした。はい、天地先輩も気をつけて」
     蝶胡蘭は電話を切ると、バスターライフルを背負い直し、
    「さてと、とりあえず人がよく使いそうなところを重点的に」
     彼女は遊歩道やベンチ回りなどを中心に探し回っている。
    「セミって、子供の頃は触れなかったけど、こうして見るとちょっと可愛いかもな」
     なにしろ彼女はこの夏2回もセミ絡みの依頼を受けている。愛着も沸こうというものだ。
     頭上で夏の名残のように鳴いているセミを見上げてから、道の少し先にあるベンチの下を覗き込む。
    「いたいた」
     仰向けでぴくぴくと足を震わせる、正に瀕死のセミが落ちていた。
    「よし、またバスターライフル作戦でいこう」
     ジャキリ、とロックハートバスターの安全装置を外す。先ほどは、セミを高く投げ上げ、空中で狙い撃ちして爆発を回避したのであった。結局不発ではあったのだが。
    「これも上手くいくといいな……せえのっ」
     ベンチの下に思い切りよく手を突っ込んでセミを掴み、投げようとした瞬間。
    「え、ちょっとあれ待っ」 
     どっかあああん。
    「げほっ……そうか、爆発するヤツは、一瞬触れただけでもするんだな」
     髪がアフロになってしまった。
    「げほげほ……」
    「蝶胡蘭、大丈夫か?」
    「あ、スィーラ先輩」
     爆発音を聞きつけたのか、ジグバールがやってきた。
    「平気です、集気法もあるし……って、先輩も焦げてますね」
     ふたりは顔を見合わせて苦笑しあう……と。
    「!?」
     ふたりは同時に資料館の方を見やった。派手な爆発音が聞こえたのだ。
    「あっちはセイナの担当か?」
    「ですね……連絡入れてみますか」

    ●セイナ
    「……華麗にバスタービームで撃ち落としたの。近距離なら危ないところだったわ。やっぱり慎重にいかないとダメね」
     箒に乗ったセイナは幾分得意げに電話の向こうの蝶胡蘭に告げる。
    「ええ、気をつけるわ。蝶胡蘭たちもがんばって」
     電話を切ると、セイナは気分良く箒で木々の間をすり抜けながら、次のターゲットを探す。
    「あ、この木」
     セミが太い幹にたくさんついている大きなケヤキを見つけ、一巡りしながら観察する。
    「この中から瀕死なのだけを探して撃ち落とすのは面倒だわね」
     セイナはケヤキの根元に降り立った。セミ入れの袋の口の袋を傍らに置くと、マテリアルロッドを取り出す。杖で木を殴って、落ちてきたのを袋で受け止めようという無精な魂胆だ。
    「せえのっ!」
     ゴーン。
     ケヤキの木はロッドに殴られ、ゆっさゆっさと盛大に揺れた。セミが驚いて一斉にオシッコを撒きながら飛び立つ。多くは飛び立ったが、
    「あ、落ちてくるっ」
     セイナは高いところから落ちてくるセミを目敏く見つけ、オシッコを避けつつ袋の口を広げて落下地点へと駆け込む……と。
    「あっ!?」
     どっかあああん。
     袋に入る直前で爆発してしまった。
    「ゴホッ……ゴホッ……や、やっぱり楽しようと思ったらダメね……」
     咳が治まるとセイナは気を取り直して携帯を出し、
    「嫉美、どうしてるかしら。そろそろ電話してみましょう」

    ●嫉美
    「不発ばっかりよ! これじゃあリア充爆破も出来ないわ!」
     嫉美も箒の上で電話を受けたが、彼女は今のところ不発ばかりなのがご不満のようである。
    「あらっ、セイナはもう2つも爆発したの? ええい、嫉ましい!」
     嫉ましそうに電話を切る。
    「できることならセミ爆弾を持ち帰って、リア充対策の武器に使いたいものだわ……それにはまず爆弾を見つけなくちゃ!」
     すでに作業の目的がずれているような気がしないでもない。
    「……はっ、あれは!」
     樹間を飛んでいた嫉美だったが、目敏く地面に落ちてもがいているターゲットを見つけ、急降下する。ワンピースの裾が翼のように広がり猛禽類のようだ。
     降下しつつ素早くドラゴンパワーを発動して防御を固め、
    「RB団に栄光あれ!」
     嫉妬パワーの勢いのまま豪快にセミを手づかみ!
     どっかあああん。
    「……ケホッ……これは爆発のRB神による試練よ!」
     草地に降り立った……というか墜落した嫉美は、ドラゴンパワーをもう一度かけなおして自己回復すると、キッと嫉妬に燃える視線を木々の梢に向け。
    「さあ、まだまだ行くわよ! リア充を爆発させるために!!」

    ●供養と勝敗
     そろそろ一般人たちが、公園を行き交い始めた時刻であるが、灼滅者たちが再集合した薄暗い隅っこにはまだ人影はなかった。
    「んー、都市伝説って色々なの出てくるけど、こんなのまでいるってビックリだったね」
     一花がセミを埋めた地面を、パンパンと掌で押し固め、
    「まったくです。何とか無事に済んでよかったですよ」
     そこに空が昆虫ゼリーをぷるんと供える。
    「また土に逆戻りもかわいそうな気がするがな……」
     玲仁がいたましそうにセミが埋まっている地面を見た。
    「さあ、祈ろう」
     ジグバールが祈りの言葉を唱え、灼滅者たちは手を合わせたり黙祷したりして、夏と共に逝ったセミたちの冥福を祈る。
     何とかノルマをこなした灼滅者たちは、大きな傷を負っているものはいないが、皆大なり小なりあちこち焦がしたり、服に穴を空けたりしている。それでも妙な依頼を無事にこなした安堵感が漂う。
     ちなみに、各自の爆発勝敗数は以下の通りである。一花:2勝3敗、小夜子&空:6勝4敗、玲仁:2勝3敗、蝶胡蘭:2勝3敗、ジグバール:2勝3敗、セイナ:3勝2敗、嫉美:2勝3敗。

    ●天守閣より
    「おおー、富士山見えるぜ!」
     天守の手すりから小夜子が身を乗り出す。
     青空の下、西には箱根の山々、その向こうに富士山、南には相模湾と伊豆半島に伊豆大島、東には江ノ島と三浦半島、更にうっすらと房総半島までが見える。北に目を転じれば、ぐるりと丹沢山系が。
    「やっぱり日本のお城って素敵よね。海外のお城も綺麗だけど、私はやっぱり日本のお城が一番好きだわ」
     セイナはうっとりと景色を眺め、
    「そうね、とっても綺麗だわ! でもリア充が大勢いるわ! 嫉ましい!」
     嫉美は天守から公園を見下ろしてキリキリと歯噛みしている。
     灼滅者たちはセミの供養を終えると、まずは揃ってO城の天守閣に上った。とは言っても、玲仁だけは、
    「色々な意味で疲れた……観光はまたの機会にする」
     と、言い残して帰ってしまったのだが。
    「空も綺麗だなあ。ほら、もう秋の雲が」
     蝶胡蘭に言われて見上げれば、青く高い空に鰯雲。
     夏の終わりをしみじみと実感する灼滅者たちであった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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