●
――カミサマなんていない。
――トクベツにならなきゃ、なにも変えられない。
開いた窓から吹きこむ風で、カーテンがはためいていた。
薄暗い部屋のなかで、少女が寝台に横たわっている。
胸に抱くのは、新書本サイズの『謎の機械』。
おもちゃのゲーム機にも見えるそれは、赤や緑の光を、ちかちかと明滅させている。
『これを抱えて眠れば、強い力を得られる』
そんなふれこみで手に入れた、機械。
少女は迷うことなく機械を抱え、夢を視ていた。
夢のなかで、黒木・春子(くろき・はるこ)は黒いセーラー服に身を包み、雪に覆われた田舎道に立っていた。
手には日本刀を持ち、ずっしりと重さまで感じる。
道は一直線に、どこまでも伸びている。
歩きはじめた春子の前に、やがて、ゼリーのような生き物が現れた。
――日本刀を振るう。
簡単に、弾けて消えた。
虫、動物、人型の異形。
――日本刀を振るう。
ぎちぎちと不快な音をたてて、ばらばらになった。
蛮族風の盗賊、甲冑に身を包んだ兵士。
――日本刀を振るう。
数回斬りこむと、悲鳴をあげながら倒れた。
麗しい女騎士。
現代の服装をした兵士。
街で見かけた不良。
ナンパしてきた下品な男。
――日本刀を振るう。振るう。振るう。振るう。
足を落とし、腕を落とし、首を落とし。
みんな、みんな。
血と汚物と臓物をまき散らし、最期には『ひとではないモノ』になった。
「フフ、フフフ! ひとをコロスって、こんなに簡単なことだったのね……!」
春子の後ろには、春子の足跡と、倒した者たちの血。死骸。それらが、途切れることなく続いている。
「刀の使い方もわかってきた。これなら私、やれるわ」
幾度となく斬りすてたモノたちとの戦闘を経て、春子は着実に、日本刀での戦闘技術を体得していた。
クラスメイト。
居心地のいい、友だち。
哀しそうに微笑む、両親。
肩で息をつきながら、血濡れの刀を地面に突きたてる。
「ハル」
ふいに呼びかけられ、春子は思わず動きをとめた。
目の前に、兄が立っている。
数年前、見ず知らずの通り魔によって殺された兄。
殺した男は無期懲役になった。
男は今もまだ生きていて。
だから。
復讐のために、力が欲しかった。
『兄』は、バタフライナイフを手にゆっくりと歩みくる。
「もういいんだよ、ハル。さあ、こっちへおいで」
――チカラを手にできるなら。
――あたしは、修羅にだって堕ちてみせる。でも……!
目に見えて震える刀を押さえつけるように、春子は日本刀を両手で握りしめる。
「にいさん、やめて。邪魔、しないで! こないでよおおぉ!」
春子は泣き叫びながら、雪道を後ずさった。
●
「新たに『HKT六六六人衆』に関する予測が成った」
一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)の言葉に、集まった灼滅者たちがざわめく。
「今回の事件は、博多で『謎の機械』を受け取った人間が、『悪夢に囚われる』というものだ」
事件を起こしているのは、シャドウの協力を得た六六六人衆。
悪夢を視ている人間を、新たな六六六人衆として闇堕ちさせようともくろんでいる。
機械を手にしたのは黒木・春子(くろき・はるこ)という、HKT六六六人衆の研修生の少女だ。
春子は自ら望んで悪夢を視はじめ、夢のなかで殺人ゲームを行っている。
『兄の姿をした敵』を倒せば『最終決戦』へ進み、六六六人衆と戦うことになってしまう。
そうなれば、闇堕ちは必至だ。
「よってきみたちは黒木春子の悪夢のなかに入り、なんとしてでも、殺人ゲームを食い止めてくれ」
「黒木春子との接触推奨タイミングは、『最後の試練』の敵――『兄』と対面した時だ」
敵は春子に襲いかかるものの、それほど強くはない。
春子を守り、敵を撃破すれば、ひとまず殺人ゲームを食い止めることが、できる。
「ただし、簡単に敵を撃破してしまえば、春子はそのまま『最終決戦』の場へ向かおうとする」
それを防ぐためには、『敵』を倒す前に、これ以上ゲームを行わないよう、説得しなければならない。
「幸い、黒木春子は『兄』の姿をした敵を前に、戦意を喪失しつつある。それを踏まえて説得を行えば、手を引いてくれるかもしれないのだが……」
春子は、闇堕ちを強く望んでいる。
可能であれば、二度とHKT六六六人衆の誘惑に乗らないよう、更生したい。
だが、人を殺し、闇に堕ちることをいとわぬ少女だ。
どうすればそれが叶うのか。
一夜には、まるでわからなかった。
「……それから。黒木春子を目覚めさせることができれば、察知した六六六人衆が、ソウルボード内に現れる可能性がある」
もっとも、必ず現れるわけではない。
また現れたとしても、灼滅者たちはその時点で、目的を達成している。
戦わずに悪夢から撤退しても、なんら問題はない。
「どう対応するかは、任せる」と、一夜は多くを告げなかった。
「きみたちが優先すべきは、『殺人ゲームの阻止』と『黒木春子を目覚めさせること』だ。……続ければ闇堕ちするとわかっているものを、往かせてなるものか」
拳を固め、いつになく険しい表情で、エクスブレインは奥歯を噛みしめた。
参加者 | |
---|---|
有沢・誠司(影狼・d00223) |
萩埜・澪(彩り彩られ黒人形・d00569) |
花城・依鈴(ブラストディーヴァ・d01123) |
月見里・都々(どんどん・d01729) |
桜之・京(花雅・d02355) |
小鳥遊・麗(エーヴィヒカイト・d02436) |
森田・依子(深緋の枝折・d02777) |
天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508) |
●白い雪
黒木・春子(くろき・はるこ)の部屋に侵入した灼滅者たちは、『謎の機械』を使い、ソウルダイブを実行。
揺らぐ感覚の後、目をひらけば、夕焼けに染まる雪景色の真中に立っていた。
まっすぐ伸びる、白い道。
そこに、点々と、血と屍が続く。
雪をえぐるようについた足跡を追っていくと、がむしゃらに日本刀を振るい続ける、春子の姿があった。
灼滅者たちは春子に気付かれぬよう距離をとり、そのちいさな後姿を見守る。
「常々思ってはいた事だが、負の連鎖は恐ろしいな」
敵を倒すごとに動きが研ぎ澄まされていく春子の姿に、小鳥遊・麗(エーヴィヒカイト・d02436)が感慨深げにつぶやいた。
「神様なんていない、……そうだね。祈ったところで、助けてくれない。だから、自分で打開しにいく。その考え自体を、間違ってるなんて思わないけど……」
「……復讐って、楽しいのかしら」
返り血に染まる少女を遠目に、花城・依鈴(ブラストディーヴァ・d01123)と桜之・京(花雅・d02355)の言葉が空しく響く。
「さて、どうだろうね」
『復讐者』たる有沢・誠司(影狼・d00223)は短くかえし、両の手の日本刀を握りしめた。
春子が『復讐』をどう思っているか。
それは、直接本人に聞いてみないことには、だれにもわからない。
(「赤く染まった夢。恨むなとは、言えない。――でも、いかせない」)
森田・依子(深緋の枝折・d02777)は胸中でつぶやき、唇を引き結ぶ。
依子も春子と同じような経験をし、『なぜ犯人が生きているのか』という感情を、抱き続けてきた。
いつしか感情は膿み、胸の奥深くに、重くのしかかっている。
それだけに、今回の事件を見過ごすことが、できなかった。
「私たちの言葉に、耳を傾けてくれると良いんですが……」
天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508)には、義理の兄妹がいる。
春子の悲劇を己が身に置き換え、その気持ち、悲しさを理解し、どうにかして救えないかと必死に想いめぐらせてきた。
静かに見守る萩埜・澪(彩り彩られ黒人形・d00569)も、表情には出さずとも、伝えたい想いが、ある。
「あ、そろそろだよ」
月見里・都々(どんどん・d01729)の声を受けて春子を見やれば、少女が両親と思しき2人を、斬り伏せたところだった。
偽りの親の幻影であろうと、春子はためらうことなく、切り捨てた。
その事実を目の当たりにし、灼滅者たちは気を引き締める。
「……皆、準備はいい?」
都々の言葉に、仲間たちが頷く。
『最後の試練』の敵――春子の兄の姿が見えると同時に、灼滅者たちは雪道を踏みしめ、一斉に駆けだした。
●紅い華
「もういいんだよ、ハル。さあ、こっちへおいで」
「にいさん、やめて。邪魔、しないで! こないでよおおぉ!」
後ずさる春子を追いぬき、飛びだしたのは一葉。
春子をかばうよう、『兄』の持つバタフライナイフの前に身を投げだし。
そのまま、切り裂かれた。
「……っ!」
鮮血がほとばしり、足元の白を赤く染める。
斬られた腕を押さえ春子を見やれば、少女は怪訝な顔をして、一葉を見ていた。
日本刀を構えなおし、問いかける。
「だれ」
(「――『兄』が人を傷つけることに、反応しない」)
わずかでも迷いが見えれば、説得に移るはずだった。
だが、春子は己が『兄』と対峙することに及び腰ではあっても、『兄』がひとを傷つける姿を見ても、特に反応を見せない。
「貴女に、お兄さんと貴女自身を、殺させないために来ました」
すぐに依子が答え、春子と対峙する。
説得をする間は、こちらから『兄』に攻撃はしないと決めている。
麗は『兄』の攻撃を受け流し、赤の名を冠する真紅の鞭剣『ヴェルメリオ』を張り巡らせ、盾を展開。
次いで依鈴が進みでて、言葉を重ねた。
「あなたが人を斬り伏せていくの、見てた……。荒くて、力任せで、理不尽で」
「……ゲームの登場人物? それにしては、なんだか人間みたいなことを言うのね」
右から左へ。
言葉を、聞き流しているかのような反応だった。
むしろ、『存在自体に関心をもっていない』というのが、正しいか。
「通してよ。にいさんを倒せば、先に進めるんだから!」
振りかざした春子の日本刀をかわし、依鈴は眉根を寄せる。
「復讐したいならすれば良い。けど、そのためなら、鈴の大切な人も、その刃で貫けるの?」
「できるわ。あんたの大切な人間なんか、私、知らないもの!」
悪夢に囚われた者に武器を向けられるなど、まったく想定していなかった。
慌てて後方へ飛び退る依鈴の代わりに、同じく日本刀を手にした誠司が迫り、刃を受け止める。
粗削りな春子の剣には、灼滅者を圧倒するほどの力量はない。
誠司は加減しながら、説得を試みる。
「僕は君の復讐を肯定しよう。だが、君のとろうとしている手段に関しては、否定させて頂くよ。……その方法では、必ず後悔する事になる。先達からの忠告だ」
「うるさいっ!」
春子は誠司の剣を振りはらい、『兄』のもとへ行こうとする。
だが京が進みでて、阻んだ。
「復讐のために修羅に落ちる覚悟、私も、賛同したい。だけれど、殺してお終いじゃぁ、復讐とは言えないわ」
鋼の糸で日本刀を絡めとり、続ける。
「だって、そうでしょう? 邪魔をする存在を殺すことは、通り魔の行いとなにが違うのかしら。せっかく大義を掲げているのに、そのために『畜生』に成りさがるなんて、もったいないわ」
説得の間も『兄』の攻撃は続いている。
灼滅者たちは入れ替わり立ち代わり、回避や防御で、正面からやりあうのを避け続けた。
しかし僅かずつとはいえ、傷は蓄積していく。
澪は霧を展開して仲間たちの傷を癒しながら、春子へ向けて言葉を紡いだ。
「春子……よく、聞いて……。このまま夢に捕われ続けると、春子は『闇堕ち』する……。『闇堕ち』すると、人格変わっちゃう、よ……。お兄さんへの想いも、歪むかもしれない……」
「ゼロからまたはじめよう? 枯れた木にだって、花が咲くことだってあるんだよ。春子ちゃんなら、きっと綺麗な花が――」
「やめて! やめなさいよ!」
都々の言葉を遮るように、春子が叫んだ。
「突然現れて、なんなのよあんたたち! 私のこと知ったかぶりしようっての!? この数年間の私の想いは、そんな……そんな簡単なものじゃないんだから!!」
言葉をかけられれば、かけられるほど、いらだちは募っていった。
すでに『力』を手にした者たちの姿に、春子は『兄』と対峙した時の惑いを凌駕するほどの、怒りを抱きはじめている。
「にいさんから離れて!」
一葉はマテリアルロッドで春子の刃を受け止め、声を掛けつづける。
「こんな風に貴女を試し、ここに居るお兄様を貴女自身に殺させ……。そうして手に入れる力を、信用すると言うんですか?」
「そうよ! 私は『力』が欲しいもの!!」
依子は春子に負けじと、声を強めた。
自分たちは『能力』について詳しいのだと告げ、『力』のデメリットを強調する。
「堕ちれば貴女の意識は保てず、目標に辿りつけない可能性が、高い。無差別に人の命を奪う、自分も失う。憎い相手と同じになる手段をとるの?」
「ダークネスになっても、特別なことなんか無い……。このまま進めば、なにも果たせず残せず終わってしまうだけって、解ってる……?」
「力が欲しいならば、僕が鍛えよう。その力で復讐するのも、誰か護るのも君の自由だ」
「姿はお兄さんだけど、実際は違う。死者を冒涜してるんだ。もう眠らせてあげよう?」
依鈴の、誠司の、都々の。
続く言葉にも、春子はなんの反応も見せない。
京は一歩踏みだし、春子へ凛とした眼差しを向ける。
「私は、人殺し自体に嫌悪も躊躇も抱かない、既にただの『畜生』よ。春子さんには、そんな風にはなってほしくない」
――己が身に『桜』を持つがゆえに、『春』の子に親近感を抱いた。
(「できれば、仲良くなりたい」)
だがその望みは、続く春子自身の言葉をもって、断たれた。
●黒い夢
「ウフ。フフフフフ……」
日本刀を持った手をだらりとさげ、灼滅者たちを見つめる。
その瞳はどことなく、よどんでいるようにも見え。
「私、わかったわ。これも『試練』なのね? ゲームとわかっていながら、にいさんを殺せない。この程度の弱い心じゃ、『力』は手にはいらないと思い知らせるための。そうでしょ?」
言葉を重ねれば、重ねるほど。
春子と灼滅者の距離はひらいていった。
過去を、現在を、未来を。
示し、さとすたびに、少女の心は遠ざかっていった。
――『兄』と自分を阻む者たち。
――『兄』と自分を凌駕する『力』を持つ者たち。
その力量の差を見せつけられるたび、春子は奥歯を噛みしめた。
己の無力を、思い知った。
「にいさんは、私に『力』を与えるために、現れたんだわ」
「……違、う。そうじゃ、ない……」
否定する澪の言葉も、もはや春子の耳には届かない。
遠くから見ていた少女の背中は、あんなにもちいさくて。
言葉を交わせば、その心にさえ、手が届く気がしていたのに。
――目の前に居るのに。今はもう、こんなに遠い。
薄く微笑む春子の声に、
「……そう。修羅道を往くというのね、春子さん」
京は困ったように眉根をさげ。
それでもしたたかに、口の端に笑みを浮かべてみせた。
先に『畜生』として堕ちた身なれば。
どんな場面であろうと、与えられた任を全うするのが己の務め。
それまで一度も説得に参加せず、ひたすらに『兄』の攻撃を阻み続けていた麗が、口を開く。
「これ以上は、無理だ」
言い捨て、WOKシールドで『兄』――『最後の試練』の敵を、殴りとばした。
――説得失敗。
そう判じたならば、灼滅者たちのなすべきことは、ひとつしかない。
(「『これ』を消せば、春子さんは二度、彼を失うことになる」)
(「復讐したいという心を、咎めはしません。けれど、彼女の本当のお兄様が、それを望んでいないであろうことは、間違いないはずです……!」)
想像以上に深い、春子の心の闇。
重ねた言葉がまるで届かなかったことを悔やみながらも、依子は炎の奔流を、一葉はロケットハンマーを、春子の『兄』に叩きつけた。
「鈴は、過去に負けたくないよ。生きている今は過去じゃないから、忘れないまま、前に行く……!」
吹き飛んだ身体へ向け、依鈴はバイオレンスギターを力強く弦をかき鳴らす。
都々は魔導書を開き、ぼろぼろになった『兄』を見やった。
「今は無理でも。春子ちゃんなら、厳しい冬を乗り越えて、きっと綺麗な花を咲かせるもん。満開の花を、見せてくれるもん!」
願いとともに、『兄』の身に原罪の紋章を刻みこむ。
先ほどまで『兄』と呼んでいたものが、ぐちゃぐちゃに、破壊されていく。
雪道のあちこちに、ばらばらに、飛び散っていく。
「アハッ……。アハ、アハハハハ……!」
灼滅者と己の実力差をいやと言うほど思い知った春子は、滂沱の涙を流しながら、『兄』が殺されていくのを、笑って見ていた。
(「せめて春子さんからお兄さんへ、攻撃はさせないわ。大切な人を自らの手で傷つけるなんて、絶対に、本意ではないでしょう……?」)
京は鋼糸を手繰り、残った『兄』の身体を引き裂いて。
麗は血色に染まった逆十字を召喚。
緋色のオーラで追い撃ちをかける。
全身を、雪道を赤く染め。
人としての原型をとどめない『兄』を見据え、誠司は左手に鞘を持ち、構えた。
「この一太刀で、終わらせる――」
声とともに、一閃。
『最後の試練』は胴を両断され、どっと音をたてて倒れ、動かなくなった。
――黄昏の道は、いつまでも朱色。
――黄昏の道は、どこまでも血の色。
冗談のようにまき散らされた『兄』の体液を前に。
春子はしばらくの間、涙を流しながら笑い続けた。
●ハルと修羅
「あんたたちが強いのはわかったわ。今の私じゃ、とうてい敵わないってこともね。だから今回は、ゲームから手を引いてあげる」
「君の代わりに、僕が復讐を代行してやろう。……と、言ったら?」
「あんたにやらせて何になるの? 『復讐とは自らの手でやり遂げてこそ意味がある』。あんたはそう、言ったわね?」
説得の最中、誠司から受けた言葉をそのまま返し、春子が笑う。
澪はそんな春子を静かに見守り、最後に、念を押した。
「闇堕ちすれば、春子が、春子じゃ……なくなるの……。兄の思い出すら、全部失くして……ただ人を斬る存在になるだろう、ね……」
「『力』が手にはいるなら、そんなのささいなことだわ」
出会った時の粗削りな雰囲気が消え、春子はかえって、落ち着いた態度をとるようになっていた。
「力に頼っても。特別になんか、誰もなれないんだよ」
続く依鈴の言葉にも、春子は薄く笑むばかり。
「……今からでも。別の手段を、探しませんか。もしまだ迷っているのなら、何処まででも止めに行くし、付き合うから」
述べられた依子の手を、春子はするどく振り払う。
「あんたたちには、感謝してるわ。私がどれだけ弱くて。どんなに『力』を求めていたかってことを、こんなにも強く、おもいださせてくれたんだもの」
満面の笑みを浮かべ、少女はセーラー服をひるがえし、去っていく。
悪夢が終わる。
やがて現実世界の春子も、目を覚ますだろう。
殺人ゲームを阻止することはできた。
だがそれは、灼滅者たちが望む結果とは、大きくかけ離れたものとなってしまった。
「……こんなのって、ないです」
うつむき、一葉が唇を噛みしめる。
「でもこれが、春子さんの選んだ答えよ」
「復讐は連鎖する。その事実を、奴はどう受け止めるんだろうな」
京と麗の言葉に、一同は大きく息をついた。
「こんな悪趣味な事ばかりして。何度だって阻むから。いつか絶対、倒してやる……!」
いきどおる都々の言葉に、答える声はない。
結局、灼滅者たちが六六六人衆と出合うことは、なかった
現実の世界。
カーテンのひるがえる部屋に、春子の姿はなく。
動かなくなった機械だけが、ぽつんと、残されていた。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年10月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 9
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